2015/09/27 のログ
ご案内:「食堂」に谷蜂 檻葉さんが現れました。
■谷蜂 檻葉 > 夜もいい時間となり、女子寮の食堂が賑わいだしている中。
檻葉はやや隅の席を借りてカレーにスプーンを突っ込んだまま、ぼんやりと携帯を弄っていた。
「……見物、ねぇ。」
携帯の画面には、委員の仲間のSNS―――本来は業務連絡の為のものだが、いつしか使われなくなっていった後、雑談用にだけ一部の者に利用されている―――に書き込まれた
『落第街への見学』についてが、過剰な絵文字に彩られて浮き上がっていた。
■谷蜂 檻葉 > 本当の本当に好奇心だけで行くにはとても危険な場所であり、
だからこそ、『行きたい』と変な憧れのまま他の子を巻き込む形でこうして書き込まれていた。
「うーん……。」
カチカチと既読だけ付けて他のサイトを見まわって時間を潰しながら、
まだ温かいカレーを口に運ぶ。 じんわりと体に染み入るスパイスに手が進んだ。
■谷蜂 檻葉 > 興味があるかないかで言えば、間違いなくある。
なにせ、行ったことがない。 繁華街に何度か足を運ぶ中で噂話のように話を聞いても、大体が警句と共に内容を差し出されて、キャーキャー言うだけのものだったのだから。
それに人数が居たとしても、それは安全に繋がるわけではない。
全員が全員異能や魔術を扱える人間ではあるけれど、"それ以上の相手"が、犯罪者がいてもおかしくないのが落第街という場所なんだから。
ただ、そこまで理性的に考えていても。
(気になる、よね。)
行くにせよ、行かないにせよ。
少し頭に入れておこうと思う……。
■谷蜂 檻葉 > 困ったような唸り声を上げながら、再び止まった手を動かしてカレーを食べ進める。
どうやら、眺めている間に『落第街行き』自体は話が纏まったみたいだ。
色々と自衛の準備で少し時間は置くが、
当日また改めて書き込みをすると発端の子の書き込みがされて、またそこから取るに足らない雑談が始まった。
「ごちそうさまでした。」
小さく呟いて、空になった皿を少し離してのんびりと携帯をいじる。
暇があれば何かしらの本を読んでいるのが常だけれど、
ここ数日は教えてもらった「携帯小説」のページをこうした食事の休憩に眺めていた。
■谷蜂 檻葉 > 適当なタイトルを見つけて、開いて
1.
とナンバリングされたものをタッチして、まずは最初の1段落。
―――だいたい此処でまず読むかどうかを決める。決まる。
本日6作目はといえば、大丈夫だった。
自然と引き込むように情報量を落としながら、イメージしやすい描写でリズムを取って、
どこかで見たような……何かを多分、参考にした文体で違和感なく読み込める。
さらさらとパネルで黒く光る文字達を上へと流していき、やがて末尾までたどり着けば
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をタッチして2話目に移動する。
1話1話は短いようだけれど、右上には 【2/67】 と結構な量が既に書かれていると表示が出ていて、少しだけ明るい気持ちになる。 さて、どんなお話が読めるのだろうか。
食堂の片隅で携帯画面をニコニコと眺めながら、ゆっくりとした時間を過ごす。
ご案内:「食堂」に茨森 譲莉さんが現れました。
■茨森 譲莉 > いつもの時間より少し遅れて来た女子寮の食堂は、信じられないほど混雑していた。
女が三人で姦しいとも言うが、これだけの女子生徒が集まれば当然信じられないくらいに姦しい。
アタシは内心で失敗したわ、と頭を抱えながら、座れそうな席を探す。
しかしながら、大体の女子生徒は仲良しグループで席についていて
アタシが後から「はいはーい、ちょっとごめんなさいねー」とか言って入れる空気ではない。
そもそもアタシはそんなキャラでもないし、むしろ冷やかな空気をその食卓に運ぶことになるだろう。
折角楽しそうな所をそそくさと逃げられるのは御免だ。
だから外食が増えるのだ、と、額を押さえた。
そこでふと、見覚えのある顔が楽しげな雰囲気で携帯電話を眺めているのをみつけたアタシは、
これ幸いとその女子生徒の向かいの席に先ほど食堂で買ってきたパンを2つ置いた。
ニコニコと笑っている顔をしばらく眺めてから、小さく咳払いする。
………なんだかんだで、自分から相席をお願いするのは初めてな気がする。
「………ここ、座ってもいい?」
カンカン、と机を指の先で叩きながら、アタシは小さく首を傾げる。
■谷蜂 檻葉 > 読む、流して、クリック。
これらの動作を繰り返す間に集中力は段々と増していき、割り切れば1/2に余りが少しまで届いた時には周囲の喧騒からは切り離され、物語の世界にまで檻葉の意識は飛んでいた。
騒がしさに関しては慣れ、ともいう。
なにせ、この騒がしさの中で本を読んでいたこともあった。
コップが倒れてきて読んでいた本が濡れそうになって以降、ここで読むのはやめたけれど。
文字が光るソレは眼に悪いけれど、体の影になって読みづらくなったりすることもなく、一度集中し始めるとあっという間に時間が飛んでしまいそうになって―――
「ほわっ」
カンカン。と肘にピリリと揺れた感覚に驚いて、取り落としそうに成るほどに没頭していた。
「―――あ、うん。空いてるよ。」
なんとか手元から滑り落ちかけた携帯をキャッチすると、前に立つ少女に朗らかな笑みで相席を快諾する。
そしてそのまま、また携帯小説を読み出そうとして
「…………。」
そこで、相席予定の少女が見かけない顔であることに気付いて、不躾にならない程度に視線を向けた。
■茨森 譲莉 > とんとん、と机を叩いたのと同時に可愛らしい声を上げて、携帯電話を取り落とす。
あ、あぶない、と思ったものの、運動神経がよろしいとは言えないアタシは助け舟を出せるわけもなく。
憐れそのまま机に叩きつけられてしまうかと思った所で、
携帯電話は机に叩きつけられる前に救出され、その少女の手に再び納まった。
「ほわっ」なんて現実で言う人居るんだ。などと若干失礼な事を考えながら、席につく。
「……びっくりさせて悪かったわね。」
没頭してる様子ではあったが、そこまで没頭しているとは思わなかった。
一体何を熱心に、ゲームだろうか。はたまた、その他SNSだろうか。
……ちなみにアタシはSNSは苦手だ。というより、嫌いだ。
折角一人きりで過ごせる貴重な時間を、態々気を使って過ごさなければならないのか。
お蔭さまで、ただでさえ友達の少ないアタシの携帯電話はすっかりゲーム機と化している。
「えっと、前にもあったわよね、覚えてる?」
彼女に『怪訝な』と形容詞をつけざるを得ない視線を向けられたアタシは、
若干不安になりながら、一つ目のパンに口をつけた。
■谷蜂 檻葉 > 哀れ今年度初めに買い換えた携帯に罅でも付けたら、
なんて。一瞬で頭に数度よぎったアラートに少し心臓がバクバクいっていたけれど、
顔に出さずに笑顔を作っていたのはちょっとした意地とおおよそ空元気の亜種。
「あ、いやいや……私がボーッとしすぎてただけだから……あはは……。」
ジッと、視線を受けながらの謝罪に頬が染まる。
そうして、彼女が一体何者か―――なんて考えていた所に不意に【二度目まして】と言われて
頭が一瞬フラッシュするように白紙化していく。
―――あ、えっと。
「……ええと……あー…… と、図書館で……あった、よね?」
視線が彼女から降りて、動揺のままに消した黒い画面に泳いだ視線が逃げる。
会ったような、会ってなかったような。
■茨森 譲莉 > やっぱり、覚えられてなかったらしい。
アタシの「前に会ったよね、おひさー。」的な態度は見事空振り三振。
これじゃああの時こんな感じだったけど実際のトコどうなのよ。
と聞くわけにもいかない。いや、図書館じゃなくて屋上で、と訂正の言を入れてもいいが、
それはそれとして相手に随分と気まずい思いをさせてしまう可能性が―――。
「そ、そう、図書館で、ちょっと。本とか借りた時に。」
アタシは逃げた。それはもう一目散に。
「こういう感じで会ったでしょ」みたいな話をされると困るのだ。
記憶力がいいというわけではないアタシも、彼女のように瞳を泳がせながら
わりと頻繁に久しぶりという言に「あはは。」と苦笑いを浮かべている。
「……何かに夢中になってたみたいだけど、邪魔したかしら。」
ちらりと彼女の手にした携帯電話を見て問いかけながら、もごもごと大急ぎで食を進める。
時折喉に引っかかった時には、ご自由にどうぞと書かれた水で流し込む。
別にパンくらい自室に戻ってから食べればいいという事は分かっていても、
なんとなく数か月過ごすだけの借り物の部屋を汚すのが嫌なアタシは、
執拗に室内で何かを食べるのを嫌ってこうして外で食事を済ませるようにしている。
おかげ様で、寝に帰るだけの部屋は生活感の欠片もない。
保護用のビニールとかもついたまま、ほぼ、アタシが来た日のままになっている。
■谷蜂 檻葉 > 「そ、そっかー! あは、あははは……!」
必死に記憶を手繰る。
が、一向に出てくる顔は「なんか似てるんだけど違うよね」とか「それそこに居る」やらで。赤くなった後は少し血の気の引いた色でグルグルと脳みそに血を回そうと頑張るけれど殆ど空回り。
(ああもう、もう少し情報ちょうだいよー……!)
なんて。人任せで理不尽な憤りを見せながら、少し力の入った手がまた携帯の脇、電源ボタンを押し込んで休止を終えさせたのと同時、別の話題を振ってもらい、忙しく食べる相手に視線を向けながら画面を見せた。
「ううん、お風呂に行くまでの時間つぶしみたいなものだから。 携帯小説、いつもは紙面だけど友だちに教えてもらってからちょくちょく読んでるの。 ……面白いよ?」
ともあれ、気まずいままにならずにホッとした所で
「―――えと、ごめんなさい。 名前、伺ってたかしら?
あっ……そ、その最近委員で別の部署の人と話すことが多くて、
えっと、ちょーっとだけ、頭のなかちょっとこんがらがってきちゃっててね……!?」
”完全に記憶に無かったわけじゃないんだけどちょっと記憶が怪しいんです別に忘れてたわけじゃないんですオーラ”を出しながら、恐る恐る名前を尋ねた。
■茨森 譲莉 > 「……あ、あははは!!」
なんとなく、アタシの口からも似たような笑い声が漏れた。
―――まずい、いや、パンがじゃなく、この空気が死ぬほど気まずい。
「ああ、それ読んだ事あるわ。
……後半分くらいね、続きを読むなら覚悟して読むといいわよ。」
まさかあの人があんな事になるなんてアタシも思わなかったというのも勿論、
風呂敷をたためなかったっぽい作者が若干投げっぱなしに話を終わらせてて、
最初の頃は良かったのに……という携帯小説ではよくある
残念な気持ちで読み終わった記憶があるその小説の画面を見ながら、アタシの顔には苦笑いが浮かんだ。
「―――あー、茨森譲莉、シノモリユズリ。
……貴方は檻葉さん、よね?もしかして人違いだったり、しない?」
何だか段々と不安になってきた。記憶というのはスポンジに吸われた水のようなもので、
気が付くと太陽の眩しさとかにじわじわと蒸発してやがて空っぽになるものだ。
ちゃんと覚えてるんだけどなんか念のため確認したいんです、みたいなオーラを出しながら、
アタシはその怖い顔を精一杯にふんわりと笑わせて首を傾げる。
■谷蜂 檻葉 > 「……え、な、何、ちょっと怖いんだけど……!でも読むけど……!」
苦笑気味に「覚悟してね」と脅されると、その覚悟が
『急にシリアスになる』のか『この後悲しいことが起きる』のか、
引き込まれる間に大分豊かになった想像力でドキドキする。
―――この日の夜、最後まで読み、やるせない顔でブラウザを閉じてふて寝した。
「シノモリ……篠森…… あっ!」
ピンと、ようやく記憶が手繰れた事に喜んで声を上げて
「!!」
明らかに化けの皮が綺麗に剥がれたことに、口を開けたまま顔を真っ赤にして固まった。
「……人違いじゃないです……屋上で会ってたよね。ごめんなさいぃ……」
そのまま、消え入りそうな声で呟いて顔を覆う。
■茨森 譲莉 > 「あっ」って言った。この人、「あっ」って。
やっぱり今まで忘れてたんだなというのを確信すると共に、
真っ赤になって固まる彼女の顔を見て若干の罪悪感と共に嗜虐心が湧き上がる。
この野郎、その開いた口をこの手元のパンでふさいでやろうか。
「……あの、アタシもよくあるから、あんまり気にしないで。」
そんな事を実行に移すわけにも行かず、
やんわりとそうフォローしながら、二つ目のパンの袋を開けた。
忘れたわけじゃないんだけど記憶がちょっと怪しくて、
みたいな応対をする事は実際、物凄くよくある。
大体お互いに気まずい雰囲気で会話を進めて、なんとなくその場は丸く収まる事が多いが、
実はあれ、大体の場合は相手も似たような状況なんじゃなかろうか。
―――アタシも、正直少し怪しかったし。人違いじゃなくて良かった。
「そうそう、屋上で会って、いきなり飛んで行ったから。
それで吃驚して、変に印象に残っちゃってて。悪かったわね。」
彼女にしてみれば、屋上から空を飛ぶ程度、
それほど大きな事件ではないのかもしれないけれど、
アタシにとっては人が空を飛んだのを初めて見た記念すべき一瞬だったわけで、
どうしても次に会った時に聞きたい質問を抱えて悶々と日々を過ごす事になったわけで。
「ねぇ、アナタ、あの時空飛んでたわよね。………空を飛ぶって、どんな気持ち?」
空をあんな風に飛べたら、アタシももう少し性格が明るくなるとか、顔の印象が良くなるとか、
背が縮むとか、胸が大きくなるとか、そういう幸運の壺のような効能があったりするんじゃなかろうか。
なんて、わけのわからない希望を抱いて鳥だとか雲を眺めている事の多いアタシからすれば、
実際に空を飛んでいる人間に、実際どうなの?と聞いてみたいと思うのは当然の事で―――。
「変な事を聞いてごめんなさい、答えたくなければ答えなくていいわ。」
とはいえ変な質問である事は間違いないので、
残り少ないもう一つのパンを食べながら、そう付け足した。
■谷蜂 檻葉 > 「あ、有難う……ほんっとごめんね……。」
コップに残っていた水を口に含んで少しでも顔を冷やす。
酷い罪悪感と、それ以上に酷い羞恥心で顔の熱が全然取れる気がしなかった。
せめて、声さえ上げなければ言い訳も効いたのに。
ともあれ、これでお互いにはっきりしたから結果オーライ―――そういうことにしておきたい。
そうして、きっと彼女にとっての本題に目をパチクリと瞬かせる。
「どんな気持ち、って……。」
そういえば、聞かれたことがなかったな。
”ずっと前から飛んでいたはずなんだけれど、誰も気にしていなかったのように”。
なんだか新鮮だな、なんて少しだけ顔を綻ばせて、言葉を探す。
「初めて空を飛んだ時、っていうのは覚えてないし、今だともうなんだか『当たり前』になってたけど、そうだなぁ……… 爽快、かな。 思いっきり風を切って走ったり、飛び込み台からプールに飛び込む感じ。 アレに近いけど、もう少し体は楽だし……うん、「爽快っ!」って感じ。」
ぐっ、と両手を握って答えを返す。
その後、少しだけ間を置いて
「―――飛んでみる?」
そう軽い調子で、篠森に尋ねた。
■茨森 譲莉 > 水を飲んで目をぱちくりとさせる彼女の顔は、まだ少しばかり赤い。
まぁ、アタシも檻葉の立場になったらほっぺたで目玉焼きが焼けるだろうけど。
「爽快、かぁ。」
思いっきり走ったら疲れそうだな、なんて事も考えつつも
……いや、その直後に「もう少し体は楽」という言葉で否定されたが。
彼女が「爽快」という短い言葉に込めた気持ちは、
彼女の表情や喋り方、そして、握りしめた両手でなんとなくだが分かる気がした。
やっぱり、アタシが思っていた通り、空を飛ぶのは気持ちがいいのだ。
勿論、飛行機やらヘリコプターやらロケットやら、
人類が空に挑む発明なんていうのはいくらでもあるけれど。
他でもない自分の力で飛ぶのは、多少気分が違うのだろう。
「爽快」という一言に尽きるような。
羨ましさやら妬ましさやらで若干心がチクチクとしてきた矢先、彼女から妙な提案が飛んできて、
アタシの顔面に当たった結果「ハトが豆鉄砲を喰らったような」を体験する事になる。
「え、飛べるの?」
むしろそっちのほうが疑問だ、手を掴んで持ち上げるとかだろうか。
ファンタジーモノでよく見るような、鳥の足に捕まって飛ぶ様子を想像する。
いや、アタシ結構重いぞ。大丈夫か。
―――思わずアタシは、彼女の腕を見た。
■谷蜂 檻葉 > 篠森が、「爽快」という言葉に含まれた情景に思いを馳せている間、
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
記憶の中、『空』の記憶がぱちぱちとフラッシュしては消えていく。
―――見知らぬ空
空
空。
空は何処だって青く、蒼く、赤く、紅く。
”きっとそれは私の遠い記憶が忘れた記憶”で、それは”私じゃない私の記憶”ではなくて。
あれ、私 は い つか ら 飛 べて――――――?
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
――――決まってる、”最初から”私は飛べていた。
こちらの提案に篠森が先ほどの私のように目を瞬かせるまでの短い時間の妄/現/想/実を振り払って、篠森の疑問を肯定する。
「私の、この羽根だけで飛んでるわけじゃないからね。」
言いながら席を立つ檻葉の背に、
虫の薄羽根を想起するような、3対の緑色に柔らかく輝く翅が顕現する。
「妖精魔術、って言ってね。 私がお願いして、風の妖精達に”浮かばせて”貰ってるの。
―――こんな風に、ね。 他の人を飛ばすようにお願いしたことはないけど、飛んでみたいなら、飛ばせてあげられる。」
軽く、トンと床を蹴れば、まるで糸に釣られているかの用に数十センチ程の高さにホバリングする。
■茨森 譲莉 > 妖精か、これまたなにやらファンタジーな言葉が出て来たな。と思う。
とはいえ、昨日も聞いた通りこの学園には何が居てもおかしくは無い。
今更妖精が居ると聞いても驚きはしない、イギリスのほうには居るって話だし、
子供の頃には結構見える人も居るって………。
「妖精。」
そう簡単に、常識という数十年で培ってきた要石は揺らがない。
アタシは受け入れがたい現実を言葉にして、若干頭痛がしてきた頭を押さえる。
妖精魔術という事は、魔術の一種なんだろうか。
お願いすればいいだけなら、魔術はからっきしなアタシにも使えたりしないだろうか。
妖精さん妖精さん、アタシを空に浮かせてくれませんか?………妖精に要請するから妖精魔術、なんて。
―――なんだか知らないけど無理な気がする。
何かのトリックで浮いているわけではない事を、
檻葉が浮いている足元にこっそりと足を刺し入れて確認しているような奴に、
多分、妖精さんは力を貸してはくれないだろう。
「妖精魔術って事は魔術の一種なのよね?
誰かに習ったの?……少なくとも、一般的な魔術教本では見なかったけど。」
あまり熱心に勉強しているわけではないし、
基礎すら出来ないのにマイナーな魔術に手を伸ばすわけにも行かないアタシは、
基礎的な魔術教本しか読んでいないけれど、
少なくともそこにはそんな魔術は書いて居なかった。ような気がする。
記憶というのはスポンジに吸い込まれた水のようなもので以下略。
目の前の人間が本当に知り合いかどうかを確認するハメになった人間の記憶力なんて、そんなもんである。
とはいえ、得体の知れない力で空を飛べるよ、と言われても
「素敵、是非飛びたいわ!!」なんて言えない臆病なアタシは、
その魔術がどういったものなのかを聞くべく、足を左右に動かしながら首を傾げた。
■谷蜂 檻葉 > 目に見えて 『解らないです』と言いたげな雰囲気を全身で醸し出して頭を押さえる篠森に、
不思議そうな、そして少しだけ困った様な表情で首を傾げて
「……あれ? その、妖精とか嫌いだった……かな?」
確かに、妖精を好き好んで使役・活用する様な人は学園でも滅多に見ることはないけれど、
同じようにファンタジックな力を使う人物自体は、島で日々過ごしている間に目にすることが多いとは思うのだけど……。 以前、委員の子と話してる時は『お伽話見たーい!』と割りとキャイキャイ騒がれたから、そのぐらいの反応だと思っていた分、何やら不安になる。
「うん、魔術の1つではあるけどね。
”一応魔術扱いにしよう”ってだけで、私にとっては特技―――異能みたいなものかな。
なにせ、教えてどうにか出来るものじゃないし。」
くすくす笑って、疑問に応える。
魔術教本に乗せてあるのは「やれば大抵の人間は出来る」から載っている。
当然、金を取って魔術を”教える”のだから使えなくては面白く無いからだ。
―――つまり、妖精に好かれるか否か。
という事に全てがかかっている妖精魔術は、まさに”載せる価値のない”魔術である。
載っているとすれば、魔術を絡めた歴史学の教科書のコラムとかが関の山だ。
「『術』なんかじゃなくて、お願いするだけだもの。 ほら」
そう言って スイ、と指を振れば、篠森の座る椅子が緩やかに檻葉と同じ程度にまで浮き上がる。
周りからの視線を集めすぎないように、十数センチだけ。
けれど、見えない薄布に包まれたような感覚と共に視界が少しだけ上がる。