2015/09/28 のログ
茨森 譲莉 > 「島の外から来たばっかりで、まだそういう妖精とかそういうモノに対して耐性がないのよ。」

勿論、そういった「存在しない」と言われていたものが「存在する」モノになった事は知っているし、
当然、存在するという事も学校では教わって来た。

―――でも、実際にそういったものを見たのはこの学園に来てからで、
それまでの間は「外には居る」という精々「異世界には居ますよ」とかそんなレベルの知識でしか無く、
現実感を得られるわけもなくそんなものが当たり前に存在する「常世学園」という場所に来たアタシは、
どうしてもこういった不思議現象を見ると頭を抱えてしまう、というのが現状である。

そんな風に考えていると、いきなり椅子がふわりと浮かぶ。

「うわッ!!!!」

思わず口からそんな無様な女子力もかけらもない声が漏れて、急に体を包んだ浮遊感に足をバタバタさせる。
こう、水に浮いたから咄嗟に溺れないように浮こうとしたとか、そんな感じ。
ともあれ、そういう事をする時は事前に声をかけて欲しい。心臓に悪いから。

次に何か妙な事があったら「キャッ」って言えるようにしたい。

「本当だ、浮いてる………。」

冷静になったアタシは、ほんの数センチながらも浮いている椅子の足元を覗き込む。
周囲から見れば、落としたケータイを探しているように見えるだろう。

「ありがと、これなら空も飛べそうね。

 確かに、異能みたいなものかもしれないわ。」

納得した、だから早く降ろしてください。
という意味をジェスチャーに込めて手を上下に上下に動かしながら、アタシは納得したように頷く。

「でも、今日はもう遅いから。天気のいい日に外でお願いするわ。」

そういって、食堂にある時計を確認する。
パラパラと食事を終えて食堂から出て行く生徒も出て来る時間帯だ。
あまり遅くなると、今度は大浴場が死ぬほど混みあう事になる。

谷蜂 檻葉 > 「あ、あぁー……。 じゃあ、これから宜しく、かな?」

ポン。と手を打って納得の表情を浮かべる。
別に、彼女が妖精と縁もゆかりも無くとも、それを当たり前に思おうとも

それでも少しだけでも「本当に居るんだ」と思って、
近くにいるものだと思ってもらえるのであるのなら、それに越したことはない。

何処にでも居て、何時だってすれ違う相手が、意識だけでもしてくれるなら嬉しいことだから。


なんて、ニコニコしたまま彼女の座る椅子を浮かせて見れば
「驚いた」なんて表現は生易しい「度肝のを抜かれた」ようなリアクションが相手側から飛び出て
少しだけ妖精が散ってしまい、慌てて自分の魔力で改めて押し留めたのは此処だけの裏話だ。

「ん、解ってもらえたかしら?
 それなら――――」

すぐさま、"降ろして"とジェスチャーするのには少し笑ってしまったが、
ご要望の通り、ゆっくりとまた椅子が着地する。

そのまま、玄関口にまで行こうかと続けようとして

「あ、本当だ。もうこんな時間……。

 それじゃあ、声掛けてくれればいつでもいいから。

 大体の時間はここか、図書館にいるかな……?
 そんな時間も取る事でもないから、暇な時、声かけてね。」

そう言って、空になったカレーの器が乗ったトレイを持ち上げる。

茨森 譲莉 > 「うん、どうせなら、明るいうちに飛んでみたいから。」

夜景もきっと綺麗なんだろうけど、
どうせ飛ぶなら、昼間の内に、ゆっくりとこの常世学園を見ながら飛んでみたい。

「わかったわ、その時は宜しく。」

この常世学園には、妖精も居て。
そして、それにお願いして魔法のような事をする人間も居る。
………いや、彼女は、檻葉さんは人間なんだろうか。

ふわりと着地して、トレイを持ち上げる檻葉さんをしげしげと眺める。
先ほどまで生えていたあの翼、いつかの少年のように、異能で生えたものではないのなら、
檻葉さんは獣人のような「異邦人」という事になるのではないだろうか。

悩めど、アタシには想像を巡らせることしかできず。
トレイを持ち上げる檻葉さんを追いかけるように、アタシも立ち上がる。

「相席ありがとう、少しびっくりしたけど、楽しかったわ。」

他人の力で空を飛ばされるのはジェットコースターに似た怖さがある。

椅子に乗ったまま少しだけ浮いただけでも正直アタシには怖かったのだ。
何の頼りもない空中に浮くというのは、どうしても慣れるものではない。

生身のまま空を飛んだ時の恐怖は、きっとそんなものじゃない気がする。
なんていうか、紐無しバンジージャンプ。………だとただの飛び降り自殺か。
なんにせよ、何の頼りもなしに檻葉さんと妖精さんとやらを信用するのは怖すぎる。

………パラシュートっていくらくらいで買えるんだろうと考えながら、アタシは食堂を出た。

ご案内:「食堂」から茨森 譲莉さんが去りました。
谷蜂 檻葉 > 「そっか……ふふ、楽しみにしててね。

 うん。私もこうしてお話出来て楽しかったな。
 じゃあまたね、篠森さん。」

両手はトレイでふさがっているので、会釈で見送る。


(―――外の人間、かぁ。)


不思議なものを見る視線、理解し難いものを見る視線、
『自分とは違うもの』を見るような視線。

嗚呼、確かに。

あれはこの島の外で感じたものと、確かによく似ていた。


心の片隅を、焦がすような感覚が襲う。
私をそういった目で見ていた人たちの視線を受けながら、私はどう過ごして―――

ギシリ、と。
また妄/現/想/実が脳裏をよぎる。

私は何を考えているんだろうか。 そんな、どうでもいい。 意味のない事を。



「ごちそうさまでしたー」

また、振り払うように返却口にトレイをおきながら声を出す。
見えない返却口の奥から、お返しの声を聞いてあたりで、日常の流れの中に意味のない思考は流れ沈んでいき、ちょっとだけ晴れやかな気分で食堂を後にする……。

ご案内:「食堂」から谷蜂 檻葉さんが去りました。