2016/07/31 のログ
ご案内:「部屋」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 > 「よいしょっと…ごめんねー急に押しかけちゃって」

いそいそと持ち込んだ荷物を整理する凛霞

ここは友人、高峰司の部屋である
以前も泊まりこんでいたのである程度の勝手は知っているのか、
部屋の主である司を尻目に、てきぱきと整頓をはじめていた

ご案内:「部屋」に高峰 司さんが現れました。
高峰 司 > 「いいよ、アタシも来てほしかったし。気分が落ち着くまでは好きに使っていいからな」

軽く笑いつつ簡単に了承する。
……実際は、伊都波悠薇のおかげで嘔吐する羽目になった気持ち悪さが未だ尾を引いているのだが、それを見せる事はない。
これ以上、親友に負担はかけたくなかった。

伊都波 凛霞 > 「…うん、ありがとう」

とりあえずの整理を終えて、一息
腰を落ち着けた

「住む場所のあてができるまではよろしくお願いします、かな…」

苦笑しながらぺこりと部屋の主に頭を下げた
暗に、家を出たということは隠す気はないようだった

高峰 司 > 「……もういっそ、ここに住めばオマエ?」

溜息交じりにそんな事を言う。割と本気だが。
彼女と一緒に居られるのは自分としても嬉しいし、今から新しく探すと言っても結局女子寮に落ち着くだろう。
なら、大差ないはずだ。

「まあ……何でわざわざ家を出たか、っつーのは、わかるけどな」

もう一度溜息。
あの狂気に触れたら……ではない。
単純に、あの異能の残酷さに耐えきれなくなったのだろう。
情の薄い司でも、流石にあの異能の残酷さ、無情さはよくわかる。当事者ならなおさらだろう。
……それに気づいてないのは、あの狂人だけだ。

伊都波 凛霞 > 「それはダメじゃないかな。ほら、寮って基本学園の生徒じゃないと」

苦笑してそう返す
それは、学園を辞めるという意思も孕んだ言葉である

「…まぁ、司ちゃんならもう色々知ってるだろうなって思ってた」

特にその言葉に驚きはしない
自分が妹に背を向け逃げ出した時も、真っ先に駆けつけてきてくれたのは、司だったのだから

高峰 司 > 「そこまでかよ、オマエ」

はぁ、と溜息。
そこまで、思い詰めていたのか。自分が手にしている物、全て投げ捨てるつもりなのか。

「まあ、な。正直、アタシにもあの異能の残酷さはよくわかる。
だがな、敢えて言うぞ凛霞。『それは別にオマエのせいじゃない』。」

無意味だと分かっていても、一縷の望みに賭けてもう一つの解決方法……『伊都波凛霞が伊都波悠薇の異能を受け入れる』を模索する。
無駄、だろうけれど。

伊都波 凛霞 > 「………」

苦々しい笑みは湛えたまま、司の言葉を真っ直ぐに受け止める
高峰司なら、そう言ってくれるだろうと思っていた
素直に受け入れてあげたり親友の言葉でもある

けれど

「…じゃあ、誰のせいなのかな……」

高峰 司 > 「……落ち着いて聞けよ。こりゃアタシの考えに過ぎねぇんだから」

前置きをする。そうしないと……この論法は、この話は、彼女を傷つけかねないからだ。

「その責任はな……全て『伊都波悠薇のせい』だ。
まずあの『平等』は伊都波悠薇の異能だ。異能はその使用者の責任だろうが。その影響を受けた凛霞の責任になるわけがねぇ。
そして……アイツはな。『あの異能を喜んで受け入れてる』ぞ。オマエの為と信じて、な」

そう、そこが最大の狂気。
『伊都波凛霞を何より苦しめる異能を、伊都波凛霞を幸福にし得るものだと考え喜んで受け入れている』。
その感覚の隔絶が、最大の悲劇だ。

伊都波 凛霞 > 「………悠薇がああなったのは、きっと私のせいなんだよ」

ひとしきり言葉を聞いて凛霞の口から出たのは、そんな言葉だった

「私はあの子に普通の、何の変哲もない幸せをずっと望んできた。
 その幸せに必要になるものをあの子から、全部奪いながら……。
 だからあの子は、こんな形の幸せを見つけちゃったんだと思う。
 ……もちろん私はそれを納得はできないし、受け入れられない」

僅かに視線を落として、言葉を続ける

「異能の責任はなくても、あの子をああいう子にしたのは間違いなく私なんだよ。
 誰もが手にする権利のある、平凡だけど大事な、普通の幸せへの道をずっと閉ざしてきたんだから。
 それは異能のせいじゃない…私のエゴのせいなんだって、突きつけられたような気がする…」

高峰 司 > 「違う」

断ち切る。
悲観的で自虐的なその理論を、断ち切りに行く。

「オマエが奪ったんじゃない。『アイツがオマエに流し続けた』んだ。アイツと話して得た印象は、そうだった。
アイツがああまで狂ったのは、確かにオマエの為かもしれない。だが、アレは勝手に狂ったんだよ。
オマエの為と言って、転がり落ちて行った。
そのことに関して、オマエに責任はねぇ。確かに悲劇だが、オマエが引き起こした事じゃないんだ」

それで割り切れたら、どれほど楽な話だという事になるのだが。
それほど単純に理で情を切り捨てれる性格をしていないのは、重々承知だが。

「少なくとも、歪み切った形でも、アイツはオマエの幸せを願ってる。
アタシにはまるで理解出来ねぇが、アイツはあの異能でオマエを幸福に出来るし、それで自分が幸福だと思い切ってやがる。
……悲観してるだけだと、全員が不幸になるぞ。アイツは進んで、自分の不幸を追い求める事で幸福を得ようとするだろうからな」

それでも。切り替えて、契機を見出さなくてはならない。
このままズルズルいけば……全滅だ。

伊都波 凛霞 > 「やめて!!」

きっと、親友にも初めて見せる、表情
大きな声で、叫ぶように

「……妹の、悠薇のせいに、しないで…」

全ての根源は、そこ
物心ついた頃から可愛がっていた妹のせいにしたくなかったのだ

「悲観してるわけじゃないよ。
 ……辛い役は引き受けないと。私、お姉ちゃんなんだしね。
 あの子の異能が天秤のようなものだとしたら…二人共不幸には、ならないはずだから」

そう言って、少しだけ涙ぐんだままに、笑った

高峰 司 > 「…………」

そうくるとは、思っていた。
だって、彼女は妹を愛する、優しい姉だから。
だけれど。
その後の言葉に。


―――プツッ。


司の中で、何かが切れた。

「こっの……馬鹿姉妹が!寝言言ってんじゃねぇぞ!!」

手を伸ばして胸倉に掴みかかる。
こちらも、親友に向ける事が無かった表情。
明確な、怒りだった。

「ああクソ、オマエらは確かに姉妹だよ!馬鹿さ加減も瓜二つだ!
なんでテメェを勘定から外す!なんでテメェの幸福を相手が願ってる事を、テメェが幸福を投げ捨てる事で押し付けた幸福に意味がねぇ事を忘れやがるんだ!
賭けていい、このままだと『幸福と言う名の不幸の押し付け合い』だ!オマエらは二人そろって、テメェに割り振られた『幸福』と言う重しを相手に押し付けようとして、それによって自己満足の『幸福』を抱きかかえるだけだ!
前提条件を忘れるな、相手の事を忘れるな!妹を愛するのがオマエの芯じゃねぇのかよ!妹の抱えてる前提条件を忘れてんじゃねぇよ大馬鹿野郎!」

分かってしまった。あの妹の抱えている狂気が。
そして、あの妹にしてこの姉ありと言う事が。
この二人の愛は、相手を想っているようで……

「そう言う愛をなんていうか、教えてやろうか!?
『独善』だ!テメェらは二人そろって、テメェのエゴのために相手に幸福を押し付けるだけだ!相手の感じる幸不幸を計算に入れず、テメェの視野だけで幸不幸を量ってやがる!
そんなんで釣り合いが取れるわけねぇだろ!双方が納得するわけがねぇだろ!」

伊都波 凛霞 > 司に気圧されるように、戸惑った表情のまま、硬直していた

独善

独善から逃げた先が、また独善?

「……だって、じゃあどうすればいいの…?
 異能をを呪って、このまま過ごせばいいの?
 二人ともが幸せになれないなら、どうすればいいの…」

妹が幸せであってくれるなら自分は不幸でもいい
でもそれは、妥協案だ
二人共幸せであることが理想的なのは誰だってわかる
でもそれは夢物語だ
そう、現実が突きつけてくる

「………ごめん、少し、頭冷やすね」

そう言って立ち上がり、背を向ける

高峰 司 > 「……いや、アタシも熱くなりすぎた。
だけどな、『妹のために自分から不幸になろう』なんつぅ真似は止めろ。無意味だ」

このままだと、彼女は自分から不幸に転がり込んでいく。
それを見過ごす事は出来ない。

「アタシに考えられるのは、異能自体をどうにかする事だ。
この学園には、異能を抑制する事が出来るヤツだっているかもしれねぇ。
もしくは、二人で何とか話し合ってバランスを取り合えよ、せめて。
『自分だけが不幸になればそれでいい』なんて安直な思考に逃げてんじゃねぇぞ」

この言葉が、親友を傷つけるのは分かっている。
嫌だ、言いたくない。自分がすべきなのはメンタルケアじゃなかったのか。
だが……言わないと、この二人は共倒れするのは明らかだ。

「思考を止めるな、絶望に甘えるな。アタシなら出来る限り手伝う。
オマエがアタシを助けてくれるように、アタシは全霊でオマエを助ける。
だから……」

「『不幸に逃げるのは、やめてくれ』」

ウイルスによって漏れる心の声と、最後の言葉が重なる。ハッキリとした心の声と、泣きそうな肉声が。

伊都波 凛霞 > 「………自分が不幸になることであの子を幸せにしよう、なんてことはしないよ大丈夫。
 ただ……」

ふぅ、っと少し大きく息を吐いて

「あの子から離れよう、そう思っただけ」

あれは、あくまでも伊都波悠薇にとっての異能
その対象が自分に向いているのはあくまでも、自分があの子にとっての特別であるからに他ならない
家族でなくなって、姉でなくなって───他人になれば
そうしたら、あの異能の効果は消えてゆくかもしれない
辛くはあるけど不幸じゃない、前に進むための辛苦なのだから

「…ありがとう、司ちゃん。他の何を手放しても、司ちゃんだけはもう手放せないなー…」

苦笑し、夕飯までには帰るね、と言付けて、静かに部屋のドアから出て行くのだった

ご案内:「部屋」から伊都波 凛霞さんが去りました。
高峰 司 > 「…………それじゃあダメだ、凛霞」

沈痛な面持ちで彼女を見送り、そしてぽつりと零す。
だって、あの狂った妹は。

「アイツは、オマエを捨てねぇぞ。絶対に……」

伊都波凛霞を『他人』に出来ない。
ずっと依存し続けるだろう。
だから……逃避による時間稼ぎに、意味はないんだ。
そこまで考えて、力なくへたり込む。
自分の事でもいっぱいいっぱいなのに……。

「どうすりゃいいんだよ、こんなの……!」

世の中は夏休み。
だが、司と凛霞の周辺事情は、その休みを満喫する事を、一切許してはくれなかった。

ご案内:「部屋」から高峰 司さんが去りました。