2015/09/11 のログ
■朝宮 小春 > 「あら、来たことなかった?」
少しだけ不思議そうに首を傾げて。アクティブそうな生徒だと思ったのだけれど、なんて。
ここが職員がよくいる場所であることを忘れて尋ねつつ。
「………ええ、まあ、階段多いものね。 足も疲れてしまうわよね………」
呟く。遠い目で呟く。
このままいくと次は肉離れでもしてしまいそうだ。 本当にちゃんと運動の一つをしないと、まずいかもしれない。
「ん、なるほどね。 じゃあ準備をしちゃうけれど、………お茶の一つでもいれましょうか。
流石にこの格好では難しいでしょう?
あと、今日はお時間の方はどのくらい大丈夫かしら。」
なんて、少しだけ首を傾げる。
仕事用のブラウスとタイトスカート。……流石に、こんなのではできないだろう、と踏んで、そうやって声をかける。
しばらく歩けば、13号室と書かれた扉の前で立ち止まって。
何桁かのコードを入力すれば、がちゃり、っと鍵を開いて。
「はい、どうぞ?」
あっさりと、中に招き入れる。狭い廊下ではあるが、特に汚れているわけもなく。
■東雲七生 > 「んまあ、こっちの方は、あんまり。
ほら、ダチの家に行くよりは公園とかで遊ぶ方だから。」
誤魔化す様に笑いながら、先生の問いに答える。
別に敬遠してる事を正直に伝える必要もないだろう。
「まだ妥協出来る程度だと思うんすけど……
やっぱ先生って俺らよりも校内での移動範囲って広かったりするんすか?」
授業毎に別の教室へと動いたりするのは、生徒よりも教師の方が多いのだろうか、と小首を傾げる。
ともあれ、真っ当に運動していれば苦にはならない筈だけど、とも。
「あ、まあそうっすね……最初はラフな格好のが良いかもしんないっすね!
お茶は……気持ちだけで充分っすよ!
時間は……まあ、夜遅すぎないくらいまでなら。一応、ダチにも遅くなるって連絡はしたんで!」
ぱっ、と笑顔を咲かせて答える。
服装に関してはそのままでも大丈夫じゃないかとは思ったが、何が起こるか分からない。着替えを勧めておこう。
「はいっす、おじゃましまーす!」
緊張をやや大きめのあいさつで振り払う。
そうでなくても現在、異性の家に居候中だというのに何を緊張する事があろうか。
■朝宮 小春 > 「なーるほど。」
ぽん、と手を打って微笑み、靴箱に靴をしまう。靴は数は少なくて、片付けられているというよりも、殺風景な玄関。
「そうねえ………ほら、授業中にずっと立っているから、それが一番大きいかな?」
移動の総量はそこまででもないし、運動の量としても少ないだろう。
それでも、ずっと立ちっぱなしであることが原因として大きいかな、と告げながら、リビングまで通して。
彼女の部屋は………、一言で言えば、殺風景なものだった。
然程可愛らしい物が多くあるわけでもなく。一人暮らしらしい小さな薄型テレビと、小さなテーブル。ソファもせいぜいが二人座ることができるくらいの小さなもので。
戸棚には本が僅かに入って……それだけ。
カーテンもまっさらな無地のもので、彼女が住んでいなければ、味気ない部屋、として片付けられてしまいそうな。
「それじゃあ、ちょっと着替えてくるから………ううん、汗はかいていないとは思うんだけど。
ええと、ストレッチって、やっぱり暑くて汗がでたりするものかしら?」
一応聴いておく。それなりに気にはなるのだ。
場合によっては、シャワーを浴びてからということにもなるかもしれない。
遠慮はされたものの、ぱたぱたと冷蔵庫に走って何か飲み物でも、と準備を始めつつ。
■東雲七生 > 納得して貰えたようなので笑顔のまま頷く。
そして足を踏み入れた玄関。その殺風景さに少し居候先を思い出した。
(──女性の部屋に来るの三度目だけど、三回中二回は殺風景ってどういうこと……。)
「あー、なるほどー。
やっぱ立ちっぱなしはツラいっすよね。まあ、座りっぱなしもツラいんすけど。」
あはは、と笑いながら頷いて。
靴を脱いで端に寄せ、廊下を通ってリビングへ。促されるまま歩いて行く。
そうして通された部屋は、玄関からずーっと味気も色気も飾り気もあったもんじゃない有様で。
本当に妙齢の女性の住居なのだろうかと、心配になるほどだった。
「えっと……まあ、汗はそんなかかないと思うんすけど。」
普段から適度に運動して代謝の好い七生基準。
それが朝宮先生にも通じるかといわれると、少し自信が無いけども。
飲み物を取りに向かう背を見ながら、少し思案する。
やはり血行を良くするなら、予め体を温めておいた方が良いかも知れない。
■朝宮 小春 > 「そう? 私は長い時間座っているのはそんなに苦じゃ無いんだけれどもね。」
まあ、当然のように、元は優等生である。
天才というほどではないが、そこそこに点数を取り、そこそこに過ごす。そんな生徒。
「まあ、散らかってはいないとは思うんだけれど。
実際、学校にいる時間の方が長いからだけどね。」
苦笑を一つ。殺風景な理由は、どうやらこれだろう。結構早い時間から学校についてはいろいろとやって、
結局遅い時間まで残っているから、多分「寝る場所」くらいになってしまっているのかもしれない。
「汗はかかないなら、このままでもいい、かな?
ほら、ただでさえ連れて来ているから、シャワー浴びてからだと更に待たせちゃうかな、って。
着替えてくるから、少し待っていてね?」
苦笑を浮かべながら、グラスに麦茶を入れて、テーブルにことん、と置いて。
ラフな格好、ラフな格好、と小さく呟きながら、手提げ鞄を壁にひっかけ、肩をぐるりと回して。
■東雲七生 > 「そもそもあんまりじっとしてるのが得意な方じゃないんすよ、俺。」
きっと学生時代の貴女と比べたらきっと対照的なのだろう。
座学と実技ならもちろん後者の成績がずば抜けて良い。
むしろ座学が壊滅的に悪かったため夏休みの大半は補習で過ごしたほどである。
「そんなに遅くまで仕事してんすか?
それはそれで、ちょっと心配っつか……そんなに仕事してたらそりゃ肩凝りも慢性化しますって。」
半ば呆れた様に肩を竦める。
幾ら寝るだけの空間とはいえ、もうちょっと彩りとか飾り気があった方が良いだろう。
……と、同じことをつい先月も思ったばかりなのを思い出した。
「むしろかいてから浴びた方が良いと思うんすよ。
ああ、でも前以て体あっためた方が血の巡りも良くなるんかな……?
まあ、俺の事は気にせず、先生なりに万全の準備を整えて来てください。」
せっかく麦茶も入れて貰った事だし、と。
グラスを手に取って、その姿を見送ろう。
■朝宮 小春 > 「そうみたいね? わからなくても、落書きとかしちゃダメよ?」
ふふ、と笑いながら片目を閉じて。 国語の筆者の写真におひげとか書いちゃう子なのかしら。
どっちにしろ、興味のない授業に無理やり引っ張り出せば眠ってしまうタイプかもしれない。
「ふふ、このくらいはよくあることだし、先生じゃなくてもそういうことってあるのよ?
まあ、肩こりの原因、と言われてしまうと、そうかもしれないと思うけれどね。」
ぽん、ぽんと肩を叩いてため息一つ。 とはいえ、そんなに待たせるわけにもいかない。
ちょっと待っていてね、と言いながら慌てて寝室へと引っ込んで、ぴしゃりと扉を閉めておく。
さてはて。ラフな格好、ラフな格好。
結局この島に来てから、そういう格好でうろついたこと、あんまりないな、と想い出す。
タイトスカートを落としてブラウスを脱ぎ、んん……っ、と声を出しながら背伸びを一つ。
ああ、背中がぱきぱきと鳴る……。
安っぽいロゴがプリントされた半袖のTシャツと、動きやすいハーフパンツを引っ張り出せば、それを身につけることにしよう。
流石に体操服、などは持っていないし、部屋で着るのもなにか違う。
「……ちょっとキツくなったかしら。」
いやいや、うん、大丈夫。 きっと大丈夫。 自分に念じて。 ごそごそ、ごそごそ。
■東雲七生 > 「あははー、流石に、そんな事は……」
めっちゃしてた。
とは言えそれを正直告白する事なんて出来る筈も無く。
笑顔で誤魔化す頬を汗が伝い落ちる。
「それは、そうかもしんないっすけど……。
こう、何て言うか、少しはリラックスする時間も要ると思うんすけど。」
寝室に引っ込んだのを確認するすると、ふぅ、と息を吐く。
まだ緊張が抜けたわけじゃないが、部屋の殺風景具合に少し救われた気がした。
麦茶で少し口を潤して、はたと思い至って背負っていたナップザックを漁る。
取り出したのは、いわゆるゆるキャラと呼ばれるキャラクターの小型ぬいぐるみ。
大体掌に乗るサイズのそれ、通称『あかわんこ』と呼ばれる赤毛の犬を手にざっと部屋を見回して。
「……この辺で良いか。」
と、本棚の空いたスペースにちょこんと鎮座させた。
果たして着替え中の先生が、自分が帰るまでに気付くかどうか。
一つ微笑みを浮かべると、扉越しに何やら悩ましい独白が聞こえてくる。
(……そういえば、着替え中なんだよな。)
たとえ苦手意識があるとはいえ七生も男子の端くれ。
心の隅っこの方が、むずむずした。
■朝宮 小春 > 「リラックス、リラックスね………。まあ、そうかもしれないんだけれど、そういうのって難しいのよね。
自分が大丈夫だと思っていても疲れてしまうこともあるでしょうし。
逆に、自分がもうダメだと思っていても、全然そうじゃない時もあるじゃない?」
そんなことを言いながら、ぱたぱたと寝室に消えて、何やらごそごそと。
そんなわけで。そんな苦手意識があるなんて思ってもみない生物教師。
がらり、っと扉を開けば、何やら大きなものを抱えている。
「はい、どいてどいてー、っと………」
何やら抱えたそれを、どさり、っとリビングに置けば。テーブルやソファをずりずりと部屋の端に寄せ始める。
元々、一人用の小さなものだ。あっさりと部屋の済にまで押しやられれば。
「これでいいかしら? これくらいのスペースならいいのよね。
こうしておけば、ちょっとくらい立ったり座ったり…まあ、転んだりしても迷惑がかからないしね。」
なんて、片目を閉じて笑う。
布団をしっかりとリビングに敷いて、満足気。
「……あら。 ………ふふ、可愛い。
これ、置いてくれたの? こういうの、もっと置きたいと思うんだけど、置いても触ってあげられないのよね。」
なんて、苦笑をしながら赤い犬のぬいぐるみを撫でて。
■東雲七生 > せめてこの殺風景な室内をどうにかした方が良いだろうなあ、と。
観葉植物とか置いておけば少しはリラクゼーション効果もあるのでは。後は何かもうちょっとカラフルな家具とか。
そんな事をついつい考えてしまっては、軽く首を振る。
ここは自分の部屋でも、居候先でも無いんだから、と。
「あ、おかえりなさ──何持って来たんすか、布団……?」
テーブルやソファがどかされ、リビングに敷かれた布団を見てまばたきをひとつ、ふたつ。
布団の上で行うつもりなのだろうか、と。意図を汲み取ろうとする。
どんだけ激しいストレッチを想定しているんだろう、と少しだけ不安になる。期待に添えられるかどうか。
「……え、あ。意外と早く気づかれたっすね。
ホントならうちに置くつもりだったんすけど、先生んち、あんまりにもあんまりだから。」
あはは、と苦笑しながら首肯する。
それくらいので良ければ、幾らでも持ってきますよ、と付け加えて。
■朝宮 小春 > 「そういうこと。 まあ、下の部屋の人にも悪いし、私、そういうことやると良く転んだりするからね……」
少しだけ視線を逸らす。まあ、何をするにも知識がまるでないわけだから、全力で準備をしている、ということだろう。
「あんまりにもあんまり、とはひどいわねぇ。
私、あんまり荷物は持ち込まない方なのよね。
それに、今はまだ………こう、ここに適応するのに精一杯で。
環境の変化についていけてない、っていうか………。
ま、そんなことは良いわね。
ふふ、大丈夫。 ちゃんとリラックスできるものは寝室の方にちょっとだけあるからね。
それじゃあ、始めましょうか。 何からすればいいのかしら。」
んっ、っともう一度伸びをして。………さー、やるぞー、とばかりに気合を入れる。
張り切っているはいいものの、何一つわかっていないのだろう。
布団の上にぽふん、と座って指示待ちになってしまう。
■東雲七生 > 「まあ、周りに気を使って損する事はあんまり無いっすよね……。」
ヨガって言うほどの事はするつもりは無かったのだが。
ここまでしっかり準備されると、少し予定を変えるべきなのかも、と思えて来るのでずるい。
「あはは……すいません。
そっか、適応するので精一杯……ん?
先生って、ここに赴任してきて何年目なんです?」
寝室にはちゃんとある、と言われ、すい、とそちらへと目を向けるが。
あんまり女性の寝室に興味を示すのは失礼だろうと、すぐに視線を戻して。代わりに、というわけでもないけど尋ねてみる。
「そっすね、始めま、しょっか……。」
布団の上に座った、Tシャツにハーフパンツ姿の女性。
……以前、同級生が集まって見てた雑誌でそんなグラビアがあったのを思い出す。
(──三次元ってすげえ。)
思わず喉が鳴ってしまうのも、男子ゆえ致し方なしか。
■朝宮 小春 > 多分、何も考えていないのだろう。
もしくは、何か立ってやることをした時に、バランスを崩すという己の運動音痴を信じている、といった方が正しいだろうか。
「赴任から数えて……三ヶ月?…と、半分?」
指折り数える。教師としての歴はともかく、この島では新任の類。
故に、基本的にどの先生からも後輩に当たる。
「赴任する前から、ちょこちょこ来ていたから、そういう意味で分からないかもしれないわね。
正式にこっちに来たのは、って意味ね。」
小さく微笑みながら、軽く説明。
つまるところ、他の学校では教えていたということ。
こんな島に飛ばされる辺り、よっぽどのことをしたのか、本人の強い希望か。 それは口にせぬまま。
「………?」
首を傾げる。シャツはちょっとキツくなっていたらしい………膨らみをぎゅっと詰め込んだようで。
ハーフパンツからは、健康的……とはちょっと言えない太腿が覗く。
改めて服装を変えれば、ストロベリーの香りが僅かにすることに気がつくか。何かしらの香水…か何か。
■東雲七生 > よほど自分の運動神経の無さに自信があるんだろうな、と失笑する。
まあそれなら無理のない、転ぶ心配の無い物を幾つか選べば良いだけで。そういえば横になって行える物もあった筈だ、と思い出す。
「へえ、今年からだったんすか。
じゃあ大体俺と同じっすね、俺も4月から入学したから。」
俺の方がちょっと先輩かな、でも赴任前から来ていたならそうでもないか、と笑いながら携帯端末を取り出す。
予め待機させておいたブラウザを呼び出すと、軽く目を通して。
「……あ、いや。何でもないっす。始めましょう。」
すん、と仄かに漂う香りを捉える。
今更ながら何か凄い状況なんじゃないかと思わなくもないが、邪な考えと直結しそうになるのでさっさと追い払った。
「んじゃまず、せっかく布団も敷いて貰ったんで。
家でやれるのから行きますか。肩こり改善ストレッチ講座、始めますよー。」
はいまず四つ這いになってー、とブラウザの記載通りに指示を出す。
■朝宮 小春 > 「そうなの? ……ああ、いやまあ、ちゃーんと前々から先生もしていたから、後輩まではいかないかな?
先生が足りない、とは聞いていたからね。」
相手の言葉を待ちながら、はじめましょう、という言葉にはうん、と頷いて。
身体はとかくひたすら固い。絶望的に固い。
運動神経が良い一家ではあったのだが、何故かここだけは完全に遺伝しなかったのだ。悲しい。
まあ、ボディバターのストロベリーをちょっとだけ手で溶かして、首筋に軽く塗っただけ。
いつも使っているものだけれど、まあ、………もし万が一汗の匂いでもしたら、ということだ。
ふわんと、さっきまではしなかった甘い匂いがするけれど、本人にとってはいつもの香りだ。
「……はぁい、ええと、こうすればいいかしら?」
よいしょ、っと布団の上で四つん這い。重い物をぶらさげてはいるが、特に気にせず横向きに。
どうすればいいの?と視線で聞いてくる。
■東雲七生 > 「んでも、先生職って確か……ひぃふぅ……24歳くらいからなんすよね?
養護教諭とかならともかく、先生普通の先生っすもんね?」
そんな事を指折り数え、首を傾げながら。
少しぎこちない動きの先生を見て、よっぽど運動神経ないんだな、と。
まだ汗のにおいがした方が遥かにマシだった気もする。
漂うイチゴの甘い香りに、窓を開けたくなる衝動を辛うじて抑えて。
これが大人の女性の戦闘力か等と、阿呆な事でも考えないとまともな意識が保てなさそうだった。
「あ、はい。おっけーっす。
んで、次は……そのまま、片手を体の反対側に伸ばしてください。
腰からこう、捻って、肩を床につけるみたいに。」
ちょうど此方を見ているのであれば、こちらに手を伸ばしてください、と具体的に指示を出して。
■朝宮 小春 > 「……あー、まあ、………………口利きというか。
そういう凄く偉い人が近くにいたのよね。 ……秘密ね?」
ちょっとだけ言いづらそうに。まあ、ちゃんと勉強をして始めたのは事実だけれど。
匂いはそこまで濃いものではないけれど。
確かに、近寄って匂いをかげば、濃い香りにくらくらするかもしれない。
今はなんとなく、ふんわり。
「ん……こ、こう……?」
肩を床につける、だけは忠実だった。 ぐてん、っと上体が突っ伏すようにしながら、手だけを反対側に伸ばしている。
なんか、潰れちゃったまま助けを求めているみたいになってしまった。
「…こ、こうでいいのかしら。 確かに背中、すごく伸びてる実感だけはあるけど。」
土下座しながら腕だけが横に伸びる面白ポーズだった。いたい。
まあ、そりゃあ胸だけは布団と身体の間で思い切り潰されてクッションになっているけれど。
■東雲七生 > 「先生と話してると秘密ばっかり増える気がするんすけど。」
今のは聞かなかった事にしますね、と苦笑い。
でも、そんな事をちゃんと答えてくれるのには素直に好感が抱ける。
近寄るなんて恐れ多い事は出来ないが、割と鼻が利く方だから。
少し離れてても常人よりは濃く嗅ぎ取ってしまう。
やっぱり窓開けるべきか、と少し迷って。結局止めて。
「そうっすよ。あ、腰は落とさないで。
そしたら今度、その肩を支店にして、付いてる方の手を上に伸ばしてみて下さい。
こう、腕を広げる感じで。」
軽く自分でレクチャーしながら、指示を出す。
床に直接なら痛そうだが、布団があるから大丈夫だろうと。
ついついクッションにも目が行きがちになるが、いかんいかん、とその都度目を瞑る。
■朝宮 小春 > 「ついつい喋っちゃうのよねぇ、口を固くしないといけないんだけど。」
とほほ、と困ったように呟いて。
固いのか、固くないのかイマイチあやふやである。 言わないことはテコでも言わないが、そうでもないことはふらりと口がすべる。
「………え、えーっと、……こ……こう?
あぁー………、これは、確かに……………何かいろいろ伸びてるような………っ」
横向きになるように腕を広げれば、んんん、っと伸びをするような声が漏れて、目をぎゅっと閉じてその腕がぷるぷると震える。
「………これ、でいいのかしら?」
彼女にしては上出来である。まあ、ハードワークでもないから当然できるのであるけれど。
ぽきり、っと身体の何処かで関節が鳴る音がして、大変気分が良いのである。
■東雲七生 > 「気を付けた方が良いっすよー、何処で誰が聞いてるか分かんないし。」
うら若き乙女の情報なんて、誰が握りたがっているが分かったものじゃない。
ましてや異能超常が蔓延る学園の教師である、流石にそういう所はしっかりしてると、七生も信じたいところだが。
「そ、…………そっす。」
確かに色々伸びている気がする。その、服とかも。
指示を出したのは自分で、当然結果は想像して然るべきだったのだが。
こちらを向いて腕を広げている様は、何と言うか、とてつもない引力を秘めていた。
抵抗力の低い思春期男子は慌てて顔ごと視線を逸らす。
「おっけーっす、そのまま深呼吸して……30秒くらいっすかね。
そしたら今度は反対方向に、同じように捻ってー。」
麦茶の入ったグラスを取るフリをして赤くなった顔が冷めるのを待つ。
どのみち向こうを向かれれば気付かれないし、再び赤くなる羽目には、ならないだろうけど。
■朝宮 小春 > 「大丈夫、大丈夫。言いたくないことはきっと言わないもの。
……あんまり重要じゃないと、ちょっと口が滑っちゃうけどね。」
つまりは、重要なことは口にしない、らしい。
彼女の言うことだからどこまで当てになるかは分からないけれども。
苦笑を漏らしながら、んんんー、っと声が漏れる。ああ、背中ってこんなに伸びると気持ちがよかったのか。
「………深呼吸してー、三十秒ー…………」
すー……はーっ………
目の前で少年が大変なことになっていることに気がつくはずもない。
白地にプリントされた黒いロゴがなんか違う字になっていることなんぞ、自分で気がつくわけもない。
「逆ー、逆ねー?」
視線をそらしている間に、ごろん、っと身体が動く音がして。
うん、本当に気がついていないらしい。んんん、っとまた背中が伸びる音がして、声が漏れる。
思い切り伸びた背中からは、まあ、ちょっとだけブラの後ろの部分が透けてしまうくらい。
んーっ……っという、間延びした声だけが響く。
■東雲七生 > 「それなら良いんすけどー……。
重要か重要じゃないかの線引きが、結構ズレてそうで怖いんすよねえ。」
特に先生自身の事とか、と胸中で呟く。
本当に抜けてるのか、それとも演技なのか。そこはまだ掴めなかったが。
「……また同じように30秒深呼吸してくださいね。
そしたら体勢戻して、次のやりましょ。」
麦茶を飲み干して、ふっ、と息を吐く。
少し気持ちが落ち着いたし、先生も向こう向いてるから懸案事項は──
(──って背中透けてるじゃねーの)
やっぱり目のやり場に困って、おもむろに先程自分が置いた『あかわんこ』に救いを求める。
今日学校で『東雲に似てねえ?』と渡された赤毛のわんこのぬいぐるみは綺麗な黒い目でこちらを見返していた。
■朝宮 小春 > 「はっきりしてるから、大丈夫。」
そこだけははっきりとした声で呟いた。
何が、とは口にしなかったし、視線は反対方向だから何もわからなかったけれども。
下着はどうやら青系のようだった。会話が台無しになっていることを、本人は未だ知らない。
「………あー、……でも、本当、こんなに身体が伸びてるーって感じたの、いつ以来かしら………。
きっとあれね、体育に無理やり参加させられて、前屈の時に背中に乗られた時以来かしらね。
………保健室に担ぎ込まれたけど。」
怪我していた。うう、体育嫌い。
「……ふー……、オシマイ、かしらね?」
むくり、っと身体を起こせば、ぁー、……っと小さく声を漏らして、はふりと吐息。
これだけの動作で、少しだけ運動をした感が漂う。
してやったぜ感が漂う。
■東雲七生 > 「いや、はっきりしてても同じとは限んないっしょ?」
ぬいぐるみとにらめっこしながら、ぽつりと呟く。
意識の、認識のズレ。それは時として、取り返しのつかない齟齬だって生みかねない。
この特殊な環境の島なら、その取り返しのつかなさは本土の比じゃない事だろう。
「だから先生もうちょっと強い意志を持とう!?
出来ない事は出来ないって、無理は無理って言うのも大事!
……先生に怪我させちゃった、てそのつもりも無く凹む生徒だって居るんすよ?」
多分、だけど。
流石にそんなに嗜虐的な生徒が多いと思いたくない。
単純に怪我を負う事に対して非難するよりは、
この先生にはこっちの言い方の方が何となく効果がありそうな気がした。
「まあまあ、上々っすね。
正直、最初に思ってたよりは想像以上っしたよ?」
破壊力とか。
それは良いとして、今のは家で出来るもの。
まさか職場に布団持ち込んで、なんて出来る筈も無いので、今度は座ったまま出来るものを、と端末の画面を七生の指が滑る。
■朝宮 小春 > 「あー、………まあ、そうかもしれないわね。
でもまあ、知られて困るものはそんなに無いわよ。」
苦笑交じりにそう呟く。まだ、その重さについては分かっていない様子で。
前のめりな性格も相まって、どうにも危なっかしい評価が拭えないのは、そういうところもあるような気がした。
「そ、そりゃまあ、そうなんだけど。
できないんじゃなくて、やらないだけ、っていうこともあるし………」
そこを突かれると、うう、っと思わず声が漏れる。痛いところを突かれたのか、渋い表情になって。
「ふざけたらダメだと、ちゃんとお説教をしたら真面目に聴いてくれていたから、同じことをすることはないと思うんだけど………
ううん、難しいわね…………」
どうにも、………「自分の限界がわかんない」という新たな欠点も露呈したところで、はー、っとため息を一つ。
「………本当? ああ、よかった。
教えるレベルに無い、なんて言われたら落ち込んでしまうところだったわ。」
苦笑交じりに、ぽん、と掌を合わせてほっとした様子を見せて。
■東雲七生 > 「……。」
危なっかしい。
七生自身前のめりタイプである自覚はあるのだが、それに輪をかけてこの先生は危なっかしい。
……だからこそ、惹かれる者も居るんだろうけれど。
小さく息を吐くと、視線をぬいぐるみから先生へと向ける。
「世の中には一発でアウトな事だって山のよーにあるんすから。
せめて出来る事出来ない事は自分ではっきりさせといた方が良いっすよ。」
やれやれ、と肩を竦める。
その為にもまず、運動不足の解消だよな、と。
運動パフォーマンスが落ちてる状態で、限界もクソもあったもんじゃない。
「んじゃ、次のは座ったまま出来る奴です。
その前に姿勢を意識する事から始めますか。」
上半身のこりは普段の姿勢も影響するらしい。
とりあえず普通に、楽に座ってみて下さいと端末をしまいながら指示を出す。
■朝宮 小春 > 「一応………本当に危ない目に遭ったらオシマイだってことくらいは分かっているから。
そういう場所には行かない、ってことは決めているけど………。」
本当に一発アウトだけは理解していた。かなり危うい一発アウトだったけれども。
ううぅ、ん、と小さく唸りながら頷いて。
彼女にとっては、なかなか自分の中であっさりと「無理」とするのが許せないのだろう。
「……ぁ、そうね。 仕事中でも出来るなら意味があるものね。
……じゃあ、椅子がいるかしら?」
寝室の方にちょっとだけ足を運べば、キャスター付きのオフィスチェアを運びだしてくる。
どうやら、PCは寝室にあるようで。
「……ええと、こう?」
姿勢はそこまで悪くはない。背筋はまあ伸びているが………ちょっと、肩に力が入っているか。
■東雲七生 > 「分かってるなら良いんすけど。
……あんまり先生に物申すのも気が引けるんすけどね。ここ、学校じゃないんで言わせて貰います。
出来ない事、無理な事があるってのは別段負い目でも何でもねーと思うんすよ。俺。
だって、出来ないとか、無理なら、別の方法を模索すりゃあ良いだけの話っすから。
自分の出来ない事や無理な事を分からないまま放っておくってのが、一番危険だと思いますよ。」
もっとも、それを知るためには多少の無茶をしなければならないこともあるだろうけれど。
ふぅ、と息を吐いて。
「無理かどうか分かんないってんなら、俺も付き合いますから。」
ぶっつけ本番精神は止めて下さい、と少し強めの口調で告げる。
「ああ、そっすね。椅子──用意良いっすね。」
気が利くというか、本当に実行が早いな、と思う。
とりあえず椅子に座って姿勢を問う先生を見て、思ったよりも姿勢は良いんだな、と。
「……んーと。そのまま動かないでくださいね。 ふっ。」
肩の力はどうするべきか。
ちょっと考えて、おもむろに耳に息を吹きかけてみる。
■朝宮 小春 > 「………………それは、分かるわ。
私ね、一つ考えていることがあるの。
自分に出来るのか、出来ないのか。………それを確かめたいと思っていることがあるのよ。」
不意に、言葉が溢れる。椅子に腰掛けたまま、目を閉じて。
「ただ、手伝ってもらうかどうかは、また後でね?
この島だと、ちゃんと予習して理解してから、ってやっている暇が無いのは、本当のところなのよ。」
なんて、少しだけ頬を緩めて苦笑する。
短い時間で、出来るかどうかギリギリの判断をして、それがちょっとだけ自分に甘いだけ。
少し気を引き締めないとね、なんて、小さく呟いて。
「そりゃあ、ね。……折角教えてもらうなら、ちゃんと聞いておきたいじゃない。
ほら、何も無い部屋っていうのも、物が取り出しやすくて便利でしょう?」
きっと、こういう機能的なものにも美を感じるタイプなのかもしれない。
ふふふ、っと笑いながら座っていて………。
「んひゃんっ!?」
びくん、っと腰が跳ねた。
悲鳴を挙げて、耳を押さえてガバッと振り向いて。
………ぐるる、と唸るかのように赤い顔で睨まれた。
■東雲七生 > 「………、……そっすか。」
それは言い訳でしょう、と言いかけたのを飲み込む。
確かに時間が無いかも知れない。けどそれは、少しでも自分の作業効率を見直せば多少の改善はされるもの。
不変不動のものではない。判断の甘さを、時間の無さを言い訳にしているだけだと、七生は思っていた。
──だが、それをぶつけられるほど、ぶつけても良いのかどうか、まだ付き合いの浅さ故に決めあぐねて。
静かに、相槌を打つのみに留めた。
「手伝いが要る時は言ってくださいね。
いつも分かりやすい授業をしてくれてるお礼、みたいなもんっすから。」
ふんわりと、自分より年少の子供に言い聞かせるように。
しかし、どこか怯えてるのを隠す様に言った。
「それはそうかもしれないっすけどね?
……はあ、こんなんじゃ彼氏呼んでもドン引きされるだけっすよ。」
呆れた、と溜息混じりに呟いて。
そして振り向いた先生の額を、指でとん、とつついて前を向かせようと。
「ほら、肩に力入り過ぎっすよ。ちゃんと抜いて。
背筋はそのままで大丈夫っすね。それと──」
胸、重くないんすか。
流れのままに口にしようとして、慌てて踏み止まった。
■朝宮 小春 > 「そういうこと。」
自分への判断は、普段よりも随分と大雑把で乱暴で。
医者の不養生どころか、それよりももっと別の…………。
彼女は、そういう時だけ嘘をつく。
困ったような笑顔の裏で何を考えているのかは、あまり読み取ることができない。
……本当に何も考えていないだけ、かもしれないが。
「そうねぇ、………でも、先生が二度続けて生徒を頼るというのも、威厳のある先生としてはちょっと違うと思うのよね……」
顎を押さえて、うんうん、と頷いておどける。
でも、次の言葉でぐぬぬ、っと返す言葉に詰まる。
「呼ぶ相手はいないわよ。
ここでちゃんと過ごせるようになるまでは、そんなことをしてる暇は無いでしょう?
下手したら、本当に焼かれちゃう島だってことはわかってるのよ。」
あ、ここでも嘘をついた。 嘘をつきました。
本当は島とか関係なくいません。
「………全く、もう。 耳とか関係ないじゃない………………。
それと?」
不満気に唇をとがらせるも、相手の言葉にきょとん、と視線を向ける。
■東雲七生 > 「なら、いいんす。」
東雲七生は嘘が吐けない。
多少の誤魔化しや冗談は言えるが、本気で騙そうとすることが出来ない。
──しかしその分、誰かの嘘にも酷く敏感だ。
嗅ぎ取って、嗅ぎ分けて、相手の気付かないうちに突き止める。
それはほぼ第六感と呼べるものだし、“嘘をついている”という事のみが分かるだけだったが。
今回も、何か嗅ぎ取った。
少しだけ、溜息を溢す。
ホントに、生き難い先生だな、と。
「先生が泣き付いたんじゃなくて、俺が自ら手伝うって言ってんすから。
生徒にしたわれる、良い先生じゃないっすか。威厳は関係ないっすよ。」
そもそもあくまで威厳なんてのは気構えの問題だろうと思う。
誰かの助けを借りるとしても、それで威厳を損ねるというのは違うだろう、と。
「……そっすか。
あ、じゃあじゃあ、俺が先生の家に来た男、第一号って事っすか?」
わぁい、とかちょっと自慢げに喜びつつ。
先生の肩に手を載せ、ぽんぽん、と叩く。
「それと、ええと、少し顎退いて。
正しい姿勢を保てれば少しは血行も良くなりますから。
あと、適度に目も休めなきゃ駄目っすよ、眼精疲労も肩こりの原因って。」
あくまで胸の話には触れず。
──嘘にならない範囲で、誤魔化す。
■朝宮 小春 > 「冗談で言ってるのよぅ。
でも、慕ってくれてるのなら嬉しいかな? ありがとうね。」
穏やかに微笑みながら、ぽん、っとその頭をよしよしと撫でてくる。
流石に、本気で威厳云々を言っているわけではなく。
彼に相談するかどうかは、まだ迷っているだけ。
「あ、そういうことになるかもしれないわ。
っていうか男女問わずかしらね?」
首を傾げる。 古い友だちとは連絡を取り合ってはいるが、流石に島に訪れるほどではない。
ここの先生方とお酒を飲む機会もあったが、それも全てお店だったし。
首をちょこん、っと傾げながら、第一号を告げることになる。
「……ん、……こういう、姿勢?
ああ………目は確かにそうかもね。最近、パソコンの画面をずっと見ていることが多いのよね。」
肩は鉄板のように硬かった。
その上で、眼鏡を外して自分の目を抑えながら、ふぅう、っと吐息を漏らす。
話はあっさりとごまかされた。
視線が刺さってもぽんやりと気がつかない辺り、その辺りはド天然の様子だった。
■東雲七生 > 「知ってるっすよ。
どーいたしまして。
ふふ、心配召されるな、朝宮先生はちゃんと生徒たちからの人気のある先生っすから。」
半分は邪な人気だけど。言わなければ、嘘じゃない。
しかしもう半分は確かに素直な好意なので、いつか相談されれば嬉しくもなるだろうか。
「へへ、何かおう、一番って良いっすよねえ。
徒競走なら割とよく取るんすけど、その他の事で一番って中々なくって。」
強いてあるとすれば背の順で先頭くらい。そんな不名誉な一番は願い下げである。
素直に感情を、喜びを露わにしながらもその手に伝わる肩の硬さに眉根が寄る。
「とりあえず、目の方は適度な休憩を。蒸しタオルとか乗せると良いっすよ。
あとは座ったままこう、手を後ろで伸ばして交叉させて、肩をぐるぐるーって。」
いわゆる肩甲骨周りのストレッチ。
それを伝えてから、はたと気づく。
強調、されるなこれ、って。何処がとは言わないけど。
■朝宮 小春 > 「ふふ、本当? じゃあ、張り切っちゃおうかしらね。」
これ以上に張り切るらしい。褒められれば素直に喜びながら、うん、っと頷く。
「そう? ………まあ、喜んでくれるならよかった。
何にも無い部屋だから、申し訳ないかなって思ってたのよね。
こう………ゲーム的な物とかあったほうがいいのかなって思ったんだけど。」
疎いのよねぇ、とちょっとだけ苦笑をする。
機械にはそれなりに強いのだけれど。
「………蒸しタオルね。じゃあ、しばらくそれもやってみようかしらね………。
帰ってきた後に目を休ませたら、うん、………気分良さそうだしね。
ええっと、後ろに伸ばして………交叉させて、ぐる、ぐる………」
確かに、思い切り前に突き出されて。
英語のロゴが何やら悲鳴を上げているように見える。完全に字ではなく、別の何かだ。
ぶつっ。
なにか音がして、………さ、っと後ろに伸ばしていた腕を前に戻す。
あー、あー、……っと、何かに焦った様子を見せつつ、視線を少し左右に揺らし。
「ちょ、ちょっと待っててくれない?」
ホックが壊れたとか、どう伝えればいいのか。
自分で胸を抑えながら立ち上がって、寝室に駆け込む。
■東雲七生 > 「ほどほどに、ね。」
一応釘を刺しておく。
飴と鞭は使い分けが肝心だ、と昔の人も言っていた。
「別に、俺あんまりゲームとかもする方じゃないし。
先生と話が出来ればそれで良いかなって、思うっすよ。
そもそも先生の家に来てゲームって、それはそれで何かすっげえ勇気要る事じゃないっすか?」
あはは、と笑いながらもその表情はどこか硬い。
以前同級生が『一緒にツイスターゲームがしたい校内ランキング』なるバカげた企画を立ち上げていたのを思い出したからだ。
……別にしたくないわけじゃないけど。
「血管を緩めるには温めた方が良いっすからね。
蒸しタオルならレンチンで作れるし、場所も取らないしで丁度良いと思います。
ドライアイ対策にもなりそうかも……っすね。
そうそう、そんな感じそんなかん──」
引き伸ばされる英語ロゴ。お前は今この島で一番幸せな言語だ。そんな事を思いながら頷いていたら。
何か聞こえた。
その瞬間、七生は確かに目撃した。
ロゴの下で、圧倒的質量を誇る何かが解放されたであろう瞬間を。
焦る先生にこくこく、と首肯で了承の意を示して、そのまま寝室へ向かう姿を見送る。
「──三次元ってすげえ。」
今度は声に出して呟いていた。
■朝宮 小春 > 「~♪」
鼻歌交じりに、鞭を華麗にスルーする生物教師。ああきっとこれは天然也。
まあ、上機嫌だから今はいいのかもしれないけれど。
「そう? ちゃんとまじめに授業を受けているのであれば、それが先生の家だろうと、堂々としてればいいじゃない。
それとも、ちょっとそうじゃない時もあったりするのかしら?」
なんて、意地悪な顔で追求してくる。ふっふっふー、なんて笑って。
ツイスターゲーム、きっと知らないだろうなあ。知らないだろう。
「なるほどね、確かに、ちょっと疲れ目だなあって時もあったから、明日からでもやってみようかしら。」
言いながら、目を閉じてゆったりと休ませていた。 さっきまでは。
「……今のはお風呂とかでやるのがいいのかもね……」
力無くそんなことを言いながらシャツを脱いで、下着を新しいものに取り替える。
あちゃー、と小さく声が漏れながら、新しい物をきっちり付け直して、シャツをもう一度上から着て。
「ごめんなさいね、待たせちゃって。」
何事も無かったかのように、からりと戸を開いて現れる。さすが先生である。
■東雲七生 > 「まったくもう……。」
上機嫌そうなのでそれ以上何も言えず。
まあ、心配ではあるが不安では無いので良しとしようと。
「まさか!
先生の授業で寝るとか、勿体無くて出来ないっすよ。」
立派なご本尊が拝めるから、ではなく。
確かにそれもあるのだが、それ以上にやはり授業の分かりやすさが第一だった。
ともすれば丁寧過ぎる解説も、他の授業で応用に使える知識として申し分ない。
それほど、七生にとって生物の授業はウエイトが重い。
「今のは流石に、いつもの格好じゃ無理だ……!」
ブラウスで同じことをしてみたら、それこそ大変な事になりかねない。
仕事中にやるのは蒸しタオルだけにして貰おうか、と思った矢先に戻って来た先生を見て。
やや赤みの残る顔で、こくん、と頷いた。
「い、いや。別に良いっすけど。」
むしろお礼を言いたい気分だが、それは流石に怪しまれるだろうと。
■朝宮 小春 > どっちが子供か分かったものじゃないやりとりをしつつ、
戻ってきては、元の椅子にぎしり、っと腰掛けて。
「あら、本当に? ………じゃあ、やっぱりがんばっちゃうしか無いじゃない。」
くすくすと笑う。
教える際の教科知識は勿論だが………何を伝えるべきか、授業前に毎回自分で絞り込んでいることが功を奏しているようだ。
彼女の夜は、大体この作業に費やされることが多いは多い。
「………何も無かった。 いいわね?」
あ、これは気が付かれたな、ということくらいは、さすがの彼女でも分かる。
ぴしゃり、と本人的には言ったつもりで、相手に伝えつつ。
……ほんのちょっぴり頬が赤いのは、流石に恥ずかしかったのか。 くるり、と、少し隠すように横を向いてしまう。
■東雲七生 > 「まあ、授業に関しては……いや、授業でも無理のない範囲でお願いしたいっすけどね。
自分らの為に頑張り過ぎられても、それはそれで重いっつーか。」
いい加減解ってくれないものか、と苦笑が零れる。
きっとこればっかりはどう言ってもやる気を上げてしまうな、と諦めるしかなかったが。
「………は、はい。」
こくり。反射的に、勢いに圧されて頷いてはしまったものの。
流石に今のを無かった事にするには刺激が強過ぎた。
横を向いてしまった先生の目を盗んで、ちらり、と改めて封が施されたであろうそれを見る。
■朝宮 小春 > 「何言ってるのよ、先生が授業で手を抜いたら、何でいるのかわからないじゃない。
先生と生徒の間柄なのだから、重くて当然。 重いと思うなら、それを十二分に受け止めて成長して、ね?」
鼻をつん、とつついて、このきっぱりとした物言い。
教師としての彼女の言葉と、一個人としての彼女の言葉は、どうにも乖離がある様子。
「………い、一度休憩しましょうか。
おやつがあったと思うから、少し待っていてくれる?」
インターバルを置こうと、立ち上がる。まあ、自分自身の落ち着きのためにも必要な措置だろう。
テレビのリモコンを無造作につければ、夕方のニュースが乱暴に割り込んできて、きっとお互いを冷静にさせてくれるだろう。
やらかしてしまった、と内心頭を抱えながらため息。
袋菓子を出しつつ、お茶を新しく注ぎつつ。
ストレッチ指導はまだ続く、のか……? それはまた後日のお話。
■東雲七生 > 「それはそうなんですけど、こう、オーバーし過ぎないって言うか……。
そう言われると返す言葉も無いんすけどね。ホント。分かりましたよぅ。」
不承不承で頷いた。
教師としての朝宮と、個人としての朝宮の差に僅かに違和感の様なものを覚える。
「あっ、えっと、はいっ。
……ごちそうになります。」
もう充分頂いた気もするのだけども。
せっかくの厚意を無下にするのも悪いので、お言葉に甘えさせて貰うとして。
夕方のニュースを、なんとなしに眺めはじめた。
続くかもしれないし、続かないかもしれない──
ご案内:「職員寮 ~朝宮小春の部屋~」から朝宮 小春さんが去りました。
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