2016/02/12 のログ
ご案内:「職員寮:朝宮小春の部屋」に東雲七生さんが現れました。
ご案内:「職員寮:朝宮小春の部屋」に朝宮 小春さんが現れました。
東雲七生 > 「先生居るかな……。」

お土産のぬいぐるみを抱えて、部屋の扉の前に立つ。
試験も近いから、と対策のアドバイスを貰いにやって来たのだ。

七生がこの部屋を訪ねるのはこれで二度目になる。
初めて来た時は色々と、それはもう色々と心臓に悪かったが、あれから数ヶ月。
七生も成長してちょっとやそっとの事じゃ驚かない自負があった。そもそも今日は補講の延長みたいなものだし。

「せんせー、居ますかー?」

朝宮 小春 > 「ふわぁ………」

本日は早く帰ってきた彼女は、帰り次第倒れこむように寝てしまった。
この季節、質問を受けやすい教師は忙しい時期なのだ。
様々な書類を受け持ちながら、帰ってそのまますやすや。

彼が学校帰りに立ち寄る頃に、ようやく目覚めた様子で。

「……はぁーい、…どちら様ですかー?」

暖房をつけっぱなしで眠ってしまった彼女は、解けた髪もそのまま、眼鏡もつけずに。
プリントされたシャツとハーフパンツ一枚という姿で扉を開いて。

「……っと…!」

即座にばたん、っと閉じた。
……しばらくすると、何時も通りの格好の、眼鏡をしっかり身につけた先生の姿。

ご案内:「職員寮:朝宮小春の部屋」に朝宮 小春さんが現れました。
東雲七生 > 「あっ、ちわっす。ちょっと聞きたい事があって──」

扉越しに聞こえた声で朝宮先生が居る事を確認して、簡潔に用件だけ先に言っておこうとした矢先に。

何か見えた。

と七生が気付くと同時に閉められた扉。
少しの間ぽかーんと、目を丸くして扉を見つめていたが、
扉が再び開かれ、普段通りの姿になった先生の姿を見るや、さっきのは何だったんだろう、と心中で首を傾げる。

「えっと、すんません。……もしかして、お休み中っしたか?」

朝宮 小春 > 「………いいえ? 大丈夫大丈夫、何の用だったかしら。」

多少シニヨンヘアーが雑だけれど、それ以外は何時も通り。
その辺りはちゃんと大人の対応をしつつも、返事は少しだけ遅れた。

「とりあえず寒いし、中に入ったらどうかしら?」

暖房入りですやすやとしていた身にとって、外の空気は堪える。
ぶるり、っと身震いしながら一歩後ろに下がって、どうぞ、と中を勧める。

扉閉めましょう、と言外に伝えながら、頬は少し寝ていたせいか、赤い。

東雲七生 > 「いや、ちょっと学校帰りに寄って試験対策のアドバイス貰おうって……」

何だか凄くバツが悪い。
当初は学校で訊こうと思っていたのだが思っていたよりも早く先生が帰られていたためにそれが出来ず。
どこに住んでるかは知っていたために、それなら帰り際に寄れば良いと軽い気持ちで居たのが少し悔やまれた。

「えっと、あの、お邪魔します。」

勧められるままに、一つ頷いて玄関に足を踏み入れる。
学校帰りのため制服姿だが、年頃の少年らしく上着の前を全開にしていた。
その下には直接Tシャツである。この寒いのに。

運動靴を脱いで玄関の隅に揃えて置いてから、ふぅ、と息を吐いた。
まだ少し申し訳なさが残っていた。

朝宮 小春 > 「ええ、良いわよ? 今日は偶然早く終わったのよね。」

なんて、ぱちりと片目を閉じて招き入れる。
いやあ寒い寒い、なんて両手で身体を抱えたままぱたぱたと奥へと歩き始めて。
そんな様子にも気が付かぬままに、こぽこぽとお茶を入れる。
特に迷惑そうにする様子は全く見られず、変わらぬ笑顔。

お茶菓子(安かったチョコレート)も並べてこれで完璧である。

「…ほら、温かいお茶でもまずはどうぞ?
……それで、どこを聞きたいのかしら。」

生真面目な先生であれば、二言目には本題の相談へと飛んでしまう。
首を少しかしげて、相手の相談を待って。

東雲七生 > 「どもっす。出来るだけ早く帰るんで……!」

軽く身を竦めながらぺこり、と頭を下げて。
そんなに寒いかな、と身震いする先生と閉められた扉の向こう側、外の気温とを見比べる。
夜は確かに寒いけど、昼間はもう日が出ていれば暖かいと思えるほどだと思うのに、と。
子供は風の子を地で行く七生には少し不思議に思えたのだった。

「えっと、先生の授業じゃないんすけど。
 ……幻想生物について、先生ならちょっとは知ってそうかなーって思って。」

幻想生物。
門を通して異世界から此方へと現れ、そしてそのままこの世界で繁殖した生物の総称。
その存在が公に認知されたのも、大変容以降とされているが伝説や神話、御伽噺を通じて遥か昔からその存在が仄めかされていたのである。
他に魔物や魔獣などとも呼ばれるが、学問的見地では幻想生物と呼ばれるのが一般的らしい、と知っていた七生は敢えてそう呼んだのだった。

ご案内:「職員寮:朝宮小春の部屋」に朝宮 小春さんが現れました。
朝宮 小春 > 「ええ、大丈夫大丈夫。気にしないで?」

手をこすり合わせてお茶を手にすれば、暖房の入った部屋でふう、っと一息。
チョコのボールをぱく、っと口に入れながら、ふんふん、と話を聞いて。

「………諸説あるから、私の知っている知識がそのままテストに出るとは限らないけれど。
それでもいいのかしら。」

苦笑する。
数多の学説をそのまま教えている先生は、非常に多い。
だからこそ、中途半端な他の知識は混乱を招くけれども、と一応の注意勧告。
それはつまり、知識が無いわけではないということ。

東雲七生 > 「いや、でも……まあ、宜しくお願いしまっす。」

ちょこん、と小さめの身体をさらに小さくしたように椅子に腰掛ければ、
湯呑を手に、思案気に視線を巡らせる。以前来た時とあまり変化は無いように見えるな、と思いつつ。

「んまあ、出来れば生物に詳しい先生の話聞いときたいなって思ったんで。
 元々居た在野の生物との比較とかも交えて貰えると助かります。」

デイパックからノートと鉛筆を取り出して。
空いてるページを開くとメモを取る構えに入った。

朝宮 小春 > 「私が最も正確に分類できていると思うものは……幻想生物をおおよそ三つに分けているわ。
一つは太古の昔から存在する噂や神話に代表される、今現在を持ってしても確認されていない生物。
『未確認幻想生物』と呼ばれる分類になるかしら。
ただ、今はこの境界線は曖昧になってしまっている、と聞いているわ。
例えば竜にしても河童にしても、私は竜です、って人がそこここで生まれてしまったのだからね。」

苦笑交じりに呟きながら、さらさらとペンを走らせる。

「次は、いわゆるこちらの生物学で分類、識別、理解把握ができる幻想生物。
『準幻想生物』という名前で呼ばれることもある生物ね。
例えば有翼の人や獣人と呼ばれる存在が当てはまるかしら。
骨格とかの生物的構造が今いる生き物と比較できて、強引にでもこの生物とこの生物の中間だとか決めることができる場合の呼び名ね。

他の国で新しい種が発見された、……と同じ感覚で、学名なり調査研究なりが進んでいるわ。
こちらに関しては、今までの生物との差異はそんなに無いことが多いかも。
在来種と外来種の食い合いはあるけどね。」

言葉は優しく流れるよう。
誰ぞの説を詳しく説明してくれる。

「最後は、こちらの生物学では、まだ理解が追いついていない幻想生物。
……動くサボテンやら、ゴーレムやら、ね。
動くサボテンはどっちだったかしらね………。
とりあえず、「何故生きているのかが、仮説でしか説明できないもの」が『幻想生物』として呼ばれることが多いわね。
こっちに関しては、完全に今までの生物とは別種だから、どんな影響を与えるかは研究中、って学んだわね。」

東雲七生 > 「へぇ……」

ともすれば感心したまま聞き流してしまいそうになるのを、慌ててノートに書き留めていく。
流暢に話していく姿は学校で教鞭をとる姿と何ら変わりは無く、油断していると此処が職員寮の一室である事を忘れてしまいそうになるほどだった。

「未確認幻想生物と、準幻想生物、あとはサボテンやゴーレム……
 ええと、昔話とかに出てくんのは未確認幻想生物で、
 こっちの生物と比較が出来るのは準幻想生物で……植物とか無機物なのに動いてるのは……」

何だかんだ走り書きのメモのつもりが思ってた以上の解説と、すっかり『教師』然とした先生の空気にアテられてしまい、
普段の授業中と遜色ないノートが出来上がって行く。
先生の説明と、それを復唱する七生の声を繋ぐように紙を鉛筆の走る音が響いて、そして一度停まった。

朝宮 小春 > 「基本的に外来種との食い合いに関しては把握半分といったところね。
元々、数が少なくて確認されていない種に関しては、大変容以後確認情報が出ていない種もたくさんいるわ。
ただ、あまりに強く、あまりに大きな変化をもたらす存在は人間が隔離したり処理したりすることが多いから、あまり問題にはなっていないのだけれども、ね。


また別の説では、準幻想生物と幻想生物の区分は無くて………と、これは行き過ぎかしらね。」

さらさらと言葉が流れて止まれば、首をちょっと傾げて。

「どうだったかしら。 おおよそ分かった?」

なんて、尋ねてくる。

東雲七生 > 「ふんふん……
 まあ異能や魔術で召喚したりとか、創造したりとかって事も出来るしまだまだこれから、って事情もあるんすよね?
 ありがとうございまっす、取り敢えず大別して3種ってのは分かりましたけど……」

んー、と下唇を鉛筆の尻で軽く押し上げて、今書き上げたばかりのノートを眺める。
もしかしたら、と前置きしてから、

「幽霊とか、骸骨とかってのは、どこに入るんすか?
 サボテンやゴーレムと同じ括りで良いんすかね?」
                    アンデッド
実体が無い、あるいはそれに限りなく近しい不死種と呼ばれるものたち。
そもそも生物の枠に入れていいのだろうかとも思ったのだが、一応確認はしておかなければならない、と。
何故なら、既に七生はそれらと交戦したことがあったからだ。

朝宮 小春 > 「そういうことね。
強引に押し込めている枠組みになるから、問題には大体「おおよそ」とか「今現在は」って言葉が付いていることが多いのよね。」

苦笑しながら、相手の言葉に静かに頷く。

「召喚生物は難しいところなんだけれども、ね。
一時的に存在する生物を生物として捉えていいのか、むしろ制作物として捉えて、生物的には分類しなくてもいいのでは、とかね。

……ただ、今は基本的には幻想生物の中に入れられているのよ。
障害物を避けたり、何かを追いかけたり、気まぐれに行動を変えたり。
パターン化されていない行動を取るものは、ひとまずは幻想生物、ね。

それらをプログラムした魔法が使われているから生命は無いはず、とか、言い出したらキリが無いのよね。

そう考えると、幽霊も骸骨も準のつかない『幻想生物』のくくりに入るわ。


ただ、近寄る相手を全て攻撃する「だけ」のようなものは大体認められないみたいだけれどもね。

東雲七生 > 「まだまだ綺麗に納まるには時間が掛かりそうなんすねー……。
 元々こっちに居た生き物にも、何らかの変化はあるだろうしそのへん洗うのは大変そうだな……。」

停めていた手を再び動かしてノートに書き加えていく。
もしかすると学校の授業よりもノート取ってるかもしれない、と思いつつも自然と手は動くのでそのまま文字を連ねた。

「パターン化されていないもの、か。
 まあ実際難しい所だってのは分かるんですけどね、例えば死霊魔術とかあるじゃないですか。
 ああいうのって術者が目視出来たりすれば、ああ、あの骸骨は動かされてんだな、って判りますけど。
 術者が隠れてたりしてたら単独で動いてるのかとか一目じゃ分かんないっすから。」

そう考えると、大変容以前の生物分類より遥かに面倒臭そうだ、と。
七生は小さく溜息を吐いて、再び鉛筆を持つ手を止めた。ここまでの説明は無事に取り切ったようだ。

朝宮 小春 > 「ちょっとやそっとの努力では、分類はしきれないでしょうね。
本来なら一番動くべき若い研究者は、基本的に人に起きた異能や、異邦人を調べる方が人気だから。

今までいたあの生物が今はどうなっているのか、なんて、なかなか調べようと思い立つ人も減っているのが現状なのよ。」

さらりと言葉を漏らして肩を竦める。

「そういうことね。
だから、学問上は基本的、自発的に動いているものを扱っているわ。

死靈魔術師はあくまでも「自発的に動く骸骨」に似せた「物」を使役する人、という枠組みね。」

鶏が先か卵が先か、みたいな話だけどね、なんて苦笑をしつつ、お疲れ様、と声をかけて。

東雲七生 > 「まあ、確かにそっちのが興味は引きそうっすけどね……。」

真新しい物に関心を持ちやすいのは人の性だろうと七生は頷く。
冷めてしまったお茶で喉を潤してから、学者さんも大変なんすね、と苦笑しつつ呟いた。

「自発的に動く、か……。
 “あいつら”って基本的に知能とかはどれくらいなんすかね。言葉が通じそうなのも居れば、こっちの生き物よりも何考えてんだか分かんないのも居るし。
 ……元居た世界によって全然違うんすかねえ。」

異邦人にも様々居る様に、幻想生物にも色々居るのだろう。
そう思いを馳せながら、七生はノートの上に鉛筆を転がした。
あとやるべきとしたら自分が知っている生物を今教わった三種に割り振っていくことだが、それはこの場でなくても出来る。
そして各々の特徴やそれらを踏まえた戦闘法もまとめなければならないのだが、それはむしろ此処ではやらない方が良いだろう。

あざまっす、と労いの言葉に軽く微笑んでから、ふぅ、と一息ついた。

朝宮 小春 > 「知りたい人も多いのよね。 だから……」

研究費も集まる、と言いかけて首を横に振って。
それは言わずとも良いだろう。昔のことを思い出した。

「………難しい話ねえ。 それを言ったら、物言わぬ動物がどれだけ頭がいいか、ってのも、実際のところは分からないまま、大体の予測で終わっていたじゃない。

だから、正直なところ分からない、というのが本当のところよね。

コンピュータを「頭がいい」とするなら、同じようにプログラムして動き出す骸骨も「頭がいい」と形容できるだろうし。」


小さく言葉を漏らしながら、お茶のお代わりを注いで。

「参考になったならよかったけれどもね。」

東雲七生 > 「この島にも両手の指じゃ足りないくらい研究施設、ありますしね。」

以前は研究区に住んでいた─学校側には未だに研究区に住んでいるままで通している─ので、そのあたりの事情も若干とはいえ知っている。
そもそもこの島に、学園に来たのももとをただせば研究施設のツテを通してだ。
だから異能者や異能にどれだけ人の関心が向いているのかは人一倍といかずとも知っているつもりだった。

「まあ、そうっすよね。科学の発展に合わせて解明がされてるーみたいな話は聞きますけど。
 やっぱ、言葉が通じないって結構でかい壁なんすかね。」

言葉が通じる者同士でも分からないことだらけだし、とお代わりに少し暖まった吐息を漏らす。
参考になったどころかかなりの収穫があったと言える。
座学に対する苦手意識から、そして以前の授業態度による後ろめたさから中々他の教師に話を聞きに行けずにいた七生にとって、
今回の私的な講義はとても分かりやすかった。素直にその旨を述べて、

「ほんとーに先生の話は分かりやすいっすね。
 あんまり頭の良くない俺でも分かるくらいっすから、
 きっと俺より頭良い連中はもっと色々訊いてくるんっすよね?」

朝宮 小春 > 「そういうことね。」

元研究者であれば、どれだけの人間がその目的に向かって行動しているかは、周知の事実だ。
少しだけこくん、と頷きながら、相手の言葉に首を横に振って。

「そんなことは無いわ。
意識が聞こう聞こうと向いていれば、それは聞く力が生まれるものなの。
確かに、相手の言葉がまとまっていなければ難しいとは思うけれどもね。

……んー、頭のいい子は………

それそのものはとても良いことなんだけれど、曖昧なところをどうにかしたい子が多いのよね。
だから、今の現状だと満足させるような授業はできていないのが本当のところ、かな。」

東雲七生 > 「聞く力……」

そういうものなのか、と七生は呟く。
確かに聞こうとしなければどれだけ説明が良くても頭には入って来ないのだろう。それは七生にも心当たりはある。
ふんふん、と何度か頷いて分かった様な気になりつつ。

「曖昧って……まあ、さっきのジャンル分けじゃないっすけど、
 現実に曖昧な事っていっぱいあるじゃないっすか。ある程度あやふやであるのも、俺は大事なんだと思うんすけどね。」

けれど、まあ。
本人が出来ていないと思うのなら、こちらがとやかく言う事でもないと少しだけ、本当に少しだけ不満げに押し黙る。

朝宮 小春 > 「そう、それも大事。曖昧さを許容……許して、それでもいいか、と考えないとやっていけないのよね、普段の生活は。」

苦笑交じりにそんなことをつぶやきながら、それでいて目線を少しだけお茶に落として。

「それでも、その曖昧さを許せない人がいるから、こういう学問というものが成り立つのも事実だから。
それを「どっちでも良いじゃない」で済ませる人が100%なら、分類とか、正直どっちでもよくなってしまうでしょう?」

なんて、ぺろ、と舌を出して笑う。

「だから、大いに不満を持ってもらわないといけないのよ。こういう学問は。」

東雲七生 > 「不満を持つにしたって、別に卒業してからそっちの道に進んだって良いじゃないっすか。
 誰かに訊くより、自分でとことん調べてみる方が面白いんじゃないかって思うんすけどね俺は。
 ……とはいえ、こうして色々訊いたクセに何言ってんだって感じっすけど!」

学問、学問かあ、と繰り返し呟きながら広げていたノートを閉じる。
そういえば、とノートを鞄にしまってから、改めて先生を見て。

「先生の専門ってどんな学問なんすか?
 学校じゃ結構広い範囲教えてるみたいっすけど、やっぱ特定の得意分野とか、あるんすか?」

ご案内:「職員寮:朝宮小春の部屋」に朝宮 小春さんが現れました。
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朝宮 小春 > 「卒業して自分で調べる、のエネルギーが、教えてもらった内容に不満があるから……っていうのは、よくある話なのよ。
とことん調べるのも悪いことではないし、とても良いことだけれど。

不満があるから人は変わる、とも言えるのよ。
だから、そういう人を私は否定しないし、いくらでも不満を持てばいいと思うのよね。」

穏やかな言葉。
言われるのも特に気にならない様子で、お茶を傾けて。


「専門、専門………。

先ほど言った異能云々が専門かしら?」

東雲七生 > 「うーん……不満、不満かぁ……。
 そういう意味じゃ、あえて満足させないでおくのも一つの教え方でもあるんすかね。
 気になったら自分で調べれば良いし、……ってそういうもんでもないのかな。」

よく分からない。
正直に言えば、七生にはそう思えた。人から何か教わって不満が残るという事自体よく分からない感覚である。
程度の差はあれど、知らない事を知るだけで十分満足できるのだ。
だから、七生にはよく分からない、としか思えない。
ただ、その事がおかしい事だとも思わないし、不満を抱くことが間違っているとも思わなかった。

「異能の。
 ああ、だから色々と内情も知ってる様な口ぶりだったんすね。
 けど、異能に関する学問って何をするんすか?
 それこそ、生物の分類よりよっぽど多種多様過ぎてややこしい気がするんすけど。」

朝宮 小春 > 「そういうこと。
こういうものだよ、と教えられることを「それでいいのか?」って疑問を抱いたり、「それは違うだろう」って反発したり。
そういうエネルギーから新しい物は生まれるそうだから。

大体そういう人は変わり者、って言われるのだけれどもね。
それもまた一つの才能っていうものね。」

穏やかな言葉でそう呟いて。 くすくすと笑う。
そういう人間を山程見てきたからの笑み。


「…………んん、そうね。
多種多様に渡るから、今ここで「こういうもの」と口にすることは難しいかな。

ややこしいからこそ、たくさんの人が必要だし、様々な説が飛び交うのよ。

……様々な説が飛び交うからこそ、はっきりとしたものを見つけたら、それだけで随分と名前が売れたりね。」

具体的な内容をぼやかしながら、研究を思い出すように視線を窓の外へ。

東雲七生 > 「はー、なるほど。
 ……それなら分からなくもないっすね。」

疑問や反発から新しいものが生まれる、という言葉に深く共感する。
それは別に学問にも限らず、あらゆる場面で起こり得ることだし、事実それがあった故に今があるのだろう。
何度か頷きながら、七生はお茶を一気に飲み干した。

「ほぇー……やっぱりごちゃごちゃしてんだなあ。
 一体今はどのくらいまで、この異能っていう力は解明されてきてるんすかね。
 ……って、実際持ってる俺が自分の異能すら全部理解してるわけじゃない、って辺りから察しはつくんすけど。」

恐らく、発見こそ多いけれど核心に至ることは殆ど無いのではないだろうか。
自分の掌を見つめ、その皮膚の下に秘められた能力の事を少し考える。

「あ、そーだ。
 俺みたいな、自分の血を操る能力者ってみた事ありま……あったら前に見せた時みたいに食い入るように見ないっすよね……。」

少しだけ声のトーンが下がりつつも、当たり前か、と苦笑する。
少しだけ、自分の異能に関する何かを得られるかも、と思ったのだが。

朝宮 小春 > 「あまりに多くの説が出すぎて、逆に混乱しているのが現状ね。」

全く解明はされていないわよ、と苦笑交じりに答えながら、ううん、と少しだけ考えるように顎を撫でて。

「……ただ、まあ、複合的な要因がある、………って見ているけどね。
人類の隠された力、で説明をつけるには無理があるから。
……受け売りだけれどもね。私も何らかの原因がいくつか、くっついて生まれていると考えているわ。

あくまでも仮説だけれどね。」

でも、あいての言葉にはちょっとだけ困った顔で笑いながら。

「実際に研究に携わったわけではないから、そういうところまで突っ込むと、私は何も知らないのよね。」

東雲七生 > 「複合的な要因……?
 んまあ、親からの遺伝とか……その他にもあるって事っすか?
 そう考えると、なんか病気みたいっすね。」

実際、病気で間違っていないかもしれないな、と内心で苦笑する。
求めれば必ず与えられるわけでも無ければ、拒否しても避けて貰える物でも無い。

「ああ、何かそういう、事例として知らないかなーって思っただけなんで。
 でも、それなら尚更学問としてどういった事をしてるんすか?毎日討論してるだけなんすか?」

朝宮 小春 > 「その他にもあるわ。 病気というよりも………どうかしらね。
私は何も知らないし、何も持っていないからこそ、軽々しくは言えないのよ。
だからこそ、フラットに調べることもできる、のだけれどね。」

彼女の血縁は……異邦人の実験であるという説を仮説として打ち立てていた。
昔さながらの論理で言えば、謎の円盤にさらわれて金属片を埋め込まれたなどの、アレである。
目覚めた人の身体を詳細に調べ、何も無いと思われる人の身体と徹底的に照合し、異能の根本を突き止める。
それが異能の原因の何割かを締めるのではないか、というのが本音ではあるが、それを「持っている」人の前で軽々しく口にするような、そういう人間でも無かった。

「そういう人もいるわ。」

苦笑交じりに言葉を漏らす。
えげつない研究事例はいくらでも知っている。

東雲七生 > 「ホント、大変なんすね。」

想像以上だった。
そして、確かに異能も持たず魔術も扱えない身であればどちらに肩入れする事もなく物を見れるのだろう。
しかし、その分の気苦労も多そうだと言葉の端から七生は感じ取った。

「俺、ちょっと訳あって自分の異能がどういうもんなのか。
 いつ頃発現したのかとか、どういう理屈で機能してんのかとか、調べたいなって思ってんすけど。
 ……やっぱ、どっかの研究施設で実験台みたいな事しなきゃ分かんないもんすかね。」

はぁ、と溜息が零れ落ちる。
それとなく何かしらの活路が見いだせればと思って振った話だったが、どうも期待通りの収穫は無さそうだった。
得るものが無い訳でも、無かったけれど。

朝宮 小春 > 「今は、そんな研究から離れているから。
私は大変じゃないのだけれどもね。」

肩を竦めて笑う。 元より、研究者としては一度断念した身である。

「ううん、………そういうことになるのかもしれないわね。
それに、正直な話。 調べても分からない事のほうが多いと思うわ。
例えば電気を起こせるならば、世の中に電気を起こせる生き物はいるのだから、そことの共通点を調べるなりできると思うけれど。

他に聞いたことが無い能力は、調べても………ね。

それこそ、天才的な人間に調べてもらう必要があるんだと思うわ。
過去の事例にとらわれないような、そういう人ね。」

東雲七生 > 「生物も生物で、大変そうっすけどね。
 いや、あくまで学校で教える分だからそこまで大変でもないのか……?」

怪訝そうな顔で首を傾げながら、それもすぐに止めてにぱ、と笑みを浮かべる。

「そう……っすよねー。
 だから他に、俺みたいな能力を見たり聞いたり、知ったりしてれば何か足がかりにはなるかも、って思ったんすけど。」

そう上手くいかないっすよね、と頭を掻いて。
天才的な人かあ、と独り言のように呟けば、ううん、と小さく呻き声を上げる。

「天才、って何を以て言い表せる存在なんすかね。
 どんだけ凄い人でも、何も無いとこから何か生み出せるわけじゃないじゃないっすか。
 学問にしても運動しても、何か理由があって、土台があって、過程があって、その結果として凄い人なわけで。」

そういう人が、天才、なのだろうか。
単純な疑問であって、別に問答をしたかったわけじゃないので慌てて顔の前で手を振る。

「あっ、いや別に。答えが聞きたい訳で言ったんじゃないっすよ。
 単に、何なんだろうなーって思っただけで。」

朝宮 小春 > 「大変じゃないわ、このくらい。
皆しっかり聞いてくれるしね。」

ころころと笑いながら言葉を返して、視線を伏せつつチョコレートをぱくりと。

「まあ、そういう意味では私よりも、もっと昔からここにいる人に聞いてみた方がいいかもしれないわね。
私はまだまだ、ここに来て初めて見ることも多いから。」

相手の言葉をうけて、……うーん、と小さく見上げて。

「例えば。
2つの全く違うものがあると、頭のなかで最初から「違うものだ」って思ってしまうのよ、人間は。
その2つの全く関係のない物事を、自然に混ぜることができたりね。

後は、人間が持っている前提条件…………当たり前だとか、常識だとか、倫理観だとか。
それらを自由に取っ払って考えることができたり、ね。


一般的な研究者なら……、見たことのない能力があったら、「知られている能力」で似たものがないか引っ掻き回して、それに似ていますね、って伝えてくると思うわ。

そうしないで、本当にフラットに、新しいのかそうではないのか判断できる人が、世の中にはいるにはいるのよ。」

東雲七生 > 「まあ、そういう意味じゃ先生も先生勉強中ってことっすね。
 親近感沸くのはそれで、なんすかねえ。」

けらけら笑いつつ、チョコを食べるのを見て自分もお茶請けとして出されたチョコを見る。
しかし、手は伸ばさない。それはチョコレートにちょっとしたトラウマがあるから。

「ん、そっすね。長く居るならそれだけ何か知ってるかも、だし……。
 何か見つかれば良いんすけどね……見つかるかな。」

小さく肩を竦める。
あまり期待しないでおこうと言うのが本心。

「……ふんふん、なるほど。
 まあとにかく、もっと色んな人に当たってみるしかない、か……。

 少なくとも、そういう柔軟な物の見方をする人には、俺はあったこと無いような気がするんすよねー。

 俺ら一人一人が個別の世界だとしたら、それこそ似通いこそすれ同一じゃないって、思うもんだと思うんすけどね。」

うーん、と軽く腕組みをして。
まあ、それはそれとして、と少しだけ小難しい事を考えて痛くなってきた頭を休めるべく、話題の切り替えとして今度は本当に、他愛のない世間話を始めたのだった。

そしてすっかり日が暮れた頃に、半ば慌てて帰って行ったのだろう。

ご案内:「職員寮:朝宮小春の部屋」から朝宮 小春さんが去りました。
ご案内:「職員寮:朝宮小春の部屋」から東雲七生さんが去りました。