2015/06/27 のログ
桜井 雄二 > 「…………泪…俺は二年生だ……」
「別に今更敬語を使えとか先輩と呼べとか言う気もさらさらないが」
「そうだな……友達以上の何かなんだから、遠慮はしなくていい」

こほん、と咳払いをして会話を続行。
足元の小石を拾って海とは逆方向に投げる。
この小石を裸足で踏んだら痛いかも知れない。

「むしろ最近はこの学園で、この島で何度も蟻人は侵攻してきている」
「怪異対策室一課、二課、三課が総出で討伐に向かっているし」
「討伐した後の蟻人の死体は全部回収しているから一般人にはわからないかもな」

投げた小石が藪の中に飛び込んだ。

「……俺は昔、親の仕事の都合であちこち引っ越して回っていた」
「ある日、俺と兄が遊んでいると蟻人が街中に出現して大パニックさ」
「兄は俺を逃がして、蟻人に捕まって死んだ」
「あいつらに拷問され、殺されたんだ」
表情が歪む。憎悪が抑えきれない。
「第一発見者だった俺は……何かを求めるように伸ばしたままだった兄の遺体の手を、俺は掴んだ」
「その時、兄の異能だった炎熱系の力が右半身に宿ったんだ」
「俺は元々、氷雪系の異能持ちだったが、それからは半炎半凍の桜井雄二さ」

ふぅ、とため息をついた。

「……それからは蟻人を殺すために異能を磨き、異能を完全にコントロールするために常世学園に来た」
「怪異対策室三課が開設されたら飛びついたよ、復讐のチャンスが巡ってきたって」
「でも、どうしてだろうな……あいつらを殺しても、殺しても…何も終わってくれないんだ……」

三千歳 泪 > 「私16歳。君も16歳。たぶんおんなじ一年生」

指さして、指さして。笑いながら頬をかく。実際笑うしかないよねこれは。

「だと思ったんだけどなー! そっかー。君の方がお兄ちゃんだったかー。明日からお兄ちゃんって呼んじゃおっか?」
「別に同い年じゃないと駄目とかないから安心しなよ桜井くん。前にも言ったけど、私は君の特別になりたいのさ! 今はそれだけで十分」

おとーさんとおかーさんみたいに呼ぶならおにーさん? にーさんの方が自然な気がする。
世間的には彼氏と彼女みたいに見えてるはず。うまく言えないけど、それだけじゃない関係もあると信じてみたい。

「恐ろしい怪物を、闇から闇に葬るために戦ってる人がいる。バラ色の学園生活は針のうえのお皿みたいにたやすく崩れてしまうのに」
「《時間旅行機》のときもそう。君がいたから何とかなっただけ。私たちの大切なものはすごく壊れやすいみたい」
「その正義感だけで戦える人はいないはず」

つまり、彼には戦いに駆り立てられる理由があるということ。
彼の語る昔話に静かに耳を傾けた。さざなみの音。吹き渡る風の音。言葉は訥々と凄惨な過去を語る。

「桜井くんは強いんだね。私さ、血を見るとダメなんだ。怖くなっちゃって。震えがとまらなくなるの」
「吐きそうになって、自分がどうしようもなく弱くなっちゃったみたいな気分になって、収まるまで耐えるしかなくなるんだ」
「君が助けにきてくれた時もそう。限界なんかとっくに超えてたよ。でも君が抱いていてくれたから、何とか耐えられたんだと思う」
「はっきり言うとね、私には戦う理由がない。人を傷つけることが苦手。戦いに巻き込まれたとき、きっと私は足をひっぱる」

私は弱い? ちっぽけで無力な存在で、何もできない? まさか。そんなことを言うつもりは全くない。むしろ正反対だよ。
人の過去に知ったようなことを言うつもりもない。その代わり、すこし背中を丸めた彼に右手を伸ばす。

「ね、桜井くん」
「桜井くんはさ! どうして生きてるの? 君が明日を生きないといけない理由。ちゃんと聞いておきたいんだ」
「私にとってはすごく大切なことだから。復讐のためでもいい。お兄さんが生かしてくれたことも理由にはなる」

桜井 雄二 > 「お兄ちゃん!?」
なんだろう、この甘美な響きは。でもこれに甘えたら多分ダメになるやつだ。
「そうか………ま、まぁお兄ちゃんは保留にしておいてくれ」
ここでやめてくれと言えない自分の弱さを呪った。

「そうだな……本当に人が正義感だけで戦えるなら、世界はこんなに不安定なものではないはずだ」

空を仰ぐ。この夕焼け空にも光らない星がたくさんあって。
その中に、自分の兄もいるのだろうか。
もうなんて呼んでいたのか思い出せない、実の兄。

「強くなんかない……殺すことが少し得意なだけだ」
血がダメという彼女の言葉に、《時間旅行機》の時の泣いている姿がダブった。
もうそんな姿は見たくない。
彼女の前に続いている道を守りたいと思った。

……自分にそんな資格があるのか…?

そう考えていると彼女の右手が、肩に優しく触れる。

「俺が生きている理由……それは、自分に納得がしたいんだ…」
「誰かを助けるとか、街を綺麗にしたいとか、そういうのも同じ理由だ」
「蟻人と戦うのもそうだ。復讐じゃなく、結局自分が納得したいだけなのかも知れない」
顔をくしゃりと歪めた。
「何もかも忘れて、何もしないで生きていくよりも、そのほうが人間らしいって……思って」

三千歳 泪 > 「だめだめ! そういう事は嘘でも言わないで。アリ人間を殺すときの感じ、時々思い出したりしない?」
「この手の中でたくさんの生命が消えた。君はそのことをよく知ってる。ぜんぜん平気って顔しないの!」
「桜井くんが傷ついてるのに見て見ぬふりをしろって、そう言ってるのと同じだよ。わからない?」

「私はね、見なかったことにしない。聞こえなかったふりもしない。現実から目をそらさない」
「自分にできる精一杯のことをする。そう決めてるんだ。私が望んだ結末のためなら、捨石になっても構わない」

《時間旅行機》の事件では別れを告げた方の自分が残った。それが世界の選択。偶然が生んだ結果だ。

「それが私の戦いかた。桜井くんだけは知ってるはず。もちろん、ただじゃやられないよ!!」
「それしかできないからそうしてるだけ。君と私はだいたい同じ。ほんっと不器用だよね! えへへへへ」
「―――あ。泣きたい気分? いいよ。誰もいないし。ほらさー、私だけ泣き顔を見られてるのは不公平だと思うんだよね!!」
「気持ちが揺れたらわんわん泣いてすっきりするの。桜井くんもロボじゃないんだからさー、たまには泣いてみなよ!!」

襟元をぐいっとひっぱって、ほとんど無理やり抱きしめる。あばれても駄目だよ桜井くん!
泣き顔が見えないのはちょっと不満だけど、それはそれとして背中をさすってみた。

「私が心配してるのはひとつだけ。戦うなら目的を決めないと。目的のない戦いはただの暴力だよ」
「それじゃ君の仇とかわらなくなる。怪物になり下がって、何の救いもない終わりが待ってる。私は君がそうなることを許さない」
「ぜんぜんふつーじゃんさー。ふわふわしてるなら今決めちゃおう。桜井くんは何のために戦うんだっけ?」

桜井 雄二 > 「泪…………」
彼女は自分の精一杯の強がりも、見透かしてしまうんだ。
だから――――弱さが隠し切れない。

「………俺は…………」
抱きしめられると、ずっと忘れていたことを思い出した。
記憶の中の兄が、いつも笑っていたことを。
「ううっ……うっ……………ううう…」
泣いた。ただ、泣いた。
背中をさすられると、心の中に閉じ込めてきた感情が流れ出してきた。
この優しくて温かなものが、今の俺の全てだ。

「……この島には…大切な人がたくさんいるんだ…」
「その人たちを守るために戦うよ……」
「安室冥路とか、ウィリー・トムスンとか、湖城惣一とか、四十万静歌とか」
「泪……お前と、お前の前に続いている道を守るために、戦うよ」

三千歳 泪 > 「よしよし。これでおあいこだね!!」
「うん、かっこわるいね。桜井くんはダメダメだなぁ! でも大丈夫、私がついてるからさ」

どちらかといえば大満足。熱い涙が胸に落ちて、私の肌までしみていくたびむずむずしちゃってヘンな感じ!
かわいいなー。私よりお兄ちゃんなのに不思議だよね。
私もけっこう溜めこんじゃう方だから、自分を見てるみたいな気分にもなったりして。

「言えば隠さずにみせてくれる。強がりきれない君が好きだよ」
「桜井くんはいい子だなー。前に言ってたのと同じだね! 自分に手の届くものを守るって」
「目指してくものはこれでOK? あとはブレずに走り抜けるだけ。できるよ。君ならきっとやれる」
「私が言ったこと、ちゃんと覚えてといてよね!」

頭をなでる。私にも弟がいたらこんな感じだったのかなー。とか思いつつ。わっしゃわっしゃと。

「どう? 話してみてさ、すっきりした?」

桜井 雄二 > 「………バカ…………」
そう呟いて、泣き続ける。
姉がいたら、こんな感じなのだろうか?
年下の姉と考えるとすごく業が深い感じもする。

「ああ、わかってる。手の届く範囲のものを守るよ」
「俺の大切な人たちのためになら、戦える」
「ああ……わかってる。憎しみのために振るう暴力じゃなくて…」
「もっと真っ直ぐなものを」

頭を撫でられると、気恥ずかしそうに顔を逸らして。

「ああ、すっきりした。ありがとう、泪」

三千歳 泪 > 「迷子になっちゃったときには私を頼るといいよ! でも私もけっこう方向音痴だからなー」
「二人いっしょに迷ったらトムとか岡部先生もいるし。巻き込もう。巻き込んじゃおう。みんなで迷えば怖くないよ」

増え続ける被害者。雪だるま式に迷走するイメージを振り払いながら静かに頭を撫でる。

「君の泪は君だけのもの。君の悲しみに寄り添って、どんな深い傷も癒してくれる」
「―――そう考えると私の名前も悪くないよね。はじめてだよ。ちょっといいかもって思えたの」
「桜井くんのおかげだよ! あはははは、こちらこそ。どういたしまして」

大海原の彼方へと夕陽が沈んで。空には星が瞬きはじめる。今はもうすこしだけこのままで。

桜井 雄二 > 「岡部先生も、ウィリー・トムスンも……巻き込んで、いいのだろうか…」
茜と蒼黒が混じる空の境界だけが二人を見ている。

「俺は…泪の名前が好きだ」
「人の悲しみも、優しさも、喜びも知っている名前だ」
「だから―――――」

世界は不確かで、歪んでいて。
それでも、このナミダだけは偽りじゃない。

ご案内:「浜辺」から三千歳 泪さんが去りました。
ご案内:「浜辺」から桜井 雄二さんが去りました。
ご案内:「浜辺」に霜月 零さんが現れました。
霜月 零 > 「……」

ぼーーーーっと、釣り糸を垂らしている青年剣士がそこにいた。

ちなみに、エサはなくルアーですらない単なる釣針を、特に工夫のないシンプルな釣竿から垂らしている。

霜月 零 > 「…………」

目には気力はなく、魚が釣れる気配はまるでない。

が、本人としては

「(……平和だなぁ)」

これでも目いっぱい楽しんでいるのである。

霜月 零 > そもそも魚を釣りたいのではなく、海を見てぼーっとしていたいのだ。
その上で、極稀にかかる魚に変化と刺激を求めて飽きを解消しているのである。

のんびりと、さざめく海の声を聞きながら釣り糸を垂らす。

こんなに贅沢な時間の使い方があるだろうか?

と、本人は思っているのだが……

「……」

傍から見ると、釣りの基本をわかってない馬鹿か、目が死んでる世捨て人そのものである。

霜月 零 > 「(お)」

ぴく、と竿が揺れる。この感覚は、生きた魚だ。

「おまえなー……」

つい、つい、と軽く左右に振って、絶妙なタイミングで竿を上げる。

釣れたのは、まあそこそこじゃね?と言ったサイズの……なんだろう、と言った感じの魚。

「お前なー、こんなのに引っかかんなよなー?」

言いながらぽいっとリリース。別に魚が欲しくてやってるのではないのだ。

霜月 零 > そして、しゅっと竿を振り糸を垂らす。

そのまま、ぼけーっとする事数十分。

「(あ)」

また引きだ。

霜月 零 > 「(今日はよく釣れんなー)」

数十分掛けてやっと1匹で釣れる方、と言うのがそもそもおかしいのだが、元々釣れないようにやってるんだから当然と言えば当然でもある。

そのまま、魚と呼吸を合わせて、くいっ。

「……お前さー」

釣れたのは、先程と同じ魚だった。

霜月 零 > 同種、とか、よく似た別の、じゃなく、同じ。
ぱっと見で覚えた特徴が全部合致するし、しっかりさっきの釣り針の傷が残っている。

「お前、そんなんで大丈夫か?」

ぽいっちょ。こんな雑な釣りに引っかかるとかコイツ、大丈夫なのだろうか。

そんなことを考えつつリリース、そしてまた糸を垂らす。

霜月 零 > またしても、ぼーっと海を眺める。

これから試験が終われば夏季休校だ。この海も海開きから賑わうのだろうか。

ここ最近は、炎の巨人だの復讐だので、のんびりする時間が取れなかった。

剣術の稽古もいい気分転換になるが、疲れを取るにはこういう癒しの方がいい。時間を無為に過ごし、その中で思索にふける。ああ、なんて素晴らしい一時だろう。

霜月 零 > 流石にすぐには針にかかりそうにないので、のんびりと思考に意識を割く。

「海開き、なぁ……」

試験は正直割とどうでもいいとして、この後の海開きを少し想像してみた。

普通の男子ならば水着の女子を想像して鼻の下を伸ばすのかもしれないが……零の想像はもう少し悲観的だ。

「……異能学校の、海開きなぁ」

……なんだろう。大惨事の予感しかしない。

霜月 零 > 例えば、慌てた氷結系能力者が海を凍らせたり。

例えば、海から謎のクリーチャーが出てきてぞろバトル展開になってしまったり。

例えば、スイカ割りでやりすぎて地面を割断する奴が出てきたり。

他にも、異能を無駄遣いして覗きだのぼったくりだの、しょーもない事をする奴も出るかもしれない。

マイナス思考が過ぎる、と自分でも思いはするが、ありえないと言い切れないのが怖い所だった。

「……ま、俺にはあんまり関係ねーか」

とは言え、そういうのの対処に追われるのは風紀委員辺りだろう。零には関係ない。

霜月 零 > 「風紀と言えば、なあ……」

風紀ついでに、知っている風紀を思い出す。

まず頭に出てくるのは、妹の芙蓉。つい最近トラウマを克服し、退院した。

「それでまた、風紀を続けるってんだからなぁ」

立派だ、と素直に思う。心が折れることなく、寧ろ立ち向かう気概を持って、感情ではなく意志で風紀を続けると言って来た。
心配ではあるが、その決断と意志は誇らしくすら思う。

「いい目をするようになったもんだなぁ……」

なんだか、復讐に目がくらんでいた自分が恥ずかしくなるくらいだ。妹の方がよっぽど大人かもしれない。

霜月 零 > もう一人浮かぶのは、レイチェル・ラムレイ。炎の巨人事件で急造タッグを組み、その後も妹が世話になっている風紀委員だ。

とは言え、零自身は彼女の事を詳しくは知らないのだが。

「アイツもアイツで、訳ありっぽい感じはするけどなぁ」

これは、知識からの考察と言うよりは、直感の類だ。

直感と言っても、異能「根源接続」により、それは最早予知のレベルに近いものなのだが。

だが、数度話しただけで基本的な人格は把握出来る。危なっかしいところもあるが、基本的に信頼出来る奴だ。

「ま、そこら辺は俺より芙蓉だろ」

妹の芙蓉も、尊敬する先輩として慕っているようだ。兄としてありがたく思うし、これからもよくしてやって欲しいと思う。

霜月 零 > 「……で、アイツな」

渡辺慧。ラーメン屋でマズいラーメンを食わせてきたあんちくしょう。

飄々とした猫のような奴で、つかみどころがない。が、割とバカっぽい。

そのアイツが……なんと、風紀らしい。

「アレで務まるのか、風紀委員……?」

物凄く失礼な感想を口にするが、一人流し素麺とかやってる奴に対しては妥当な評価だろうとも思う。

そもそも、妹から見せられた名簿に名前があった時、意外過ぎて3度見してしまったくらいの男なのだ。

悪い奴ではない。が、正義や風紀と言う言葉が、なんだか似合わない。

霜月 零 > 彼を形容するなら、まさしく「猫」。

拘束より自由を好むタイプ、それっぽい用語でいえばコミュニタリアリズムではなくリベラリズム。

色々思う所はあるのかもしれないが……コミュニタリアリズム、要するに個人よりも集団秩序を重んじる思想の体現ともいえる風紀委員会に所属しているというのは、実に彼らしくなく、意外なものだった。

「……ま、その中でもアイツはアイツみたいだけどな」

まあ、決して真面目なタイプではないようだが。正直あまり仕事はしてないらしい。

霜月 零 > 「ん」

そんなことを考えていたら、引き。まさかまた釣れるとは。

左右に振って、絶妙のタイミングで竿を上げる。見覚えのある魚が目に入る。

「……お前よぉー」

さっきの魚だった。

霜月 零 > 「お前なー?もう少しこう、学習ってもんをな?」

呆れながら、少し治癒してやりつつ無意味に話しかける。いや、そういう言葉の一つでもぶつけてやりたいくらいには呆れていたのだ。

何せ、約50分ぶり3度目。なんの偽装もない単なる銀の釣り針に1日に3回引っ掛かる奴があるか、と言いたくなるのも已むなしだろう。飢えているのだろうか。

霜月 零 > 「しっかしなぁー……」

特にエサなんて用意してない。釣る気ゼロだったのだから当然だ。

変に巫術で補強とかしてやるのもよくないし、やっぱりリリースするしかない。

「まさか、釣る段階じゃなくて釣った後にエサが欲しくなるとか思わねぇよ」

ボヤきながら、ぽいっとリリース。ついでに釣り針の傷は治してやった。

霜月 零 > 「……帰るか」

いい感じの区切りかもしれない。と言うか、これ以上続けてもまたアイツが釣れそうでなんか嫌だ。

そのまま釣り具を仕舞い、軽く伸びをして立ち上がる。

「ま、世の中なるようになれ、だな」

とてつもなく雑な言葉を残して、その場を去って行った……。

ご案内:「浜辺」から霜月 零さんが去りました。
ご案内:「浜辺」に四十万 静歌さんが現れました。
四十万 静歌 > 「――♪」

浜辺をさくさくと歩きながら歌を歌う。
静かに透き通った声で歌うのは海の歌。
いわゆる海は広いな大きいなで始まる歌である。

「――♪
     ――♪」

静かな海の波の音を聞きながら歌を歌うのに、
満足しているのか心なし表情が楽しそうだ。

四十万 静歌 > 「――♪」

声もたたずまいも穏やかな海のように、
違和感が無い。

「――♪」

ゆるりと独唱を楽しんでいる。
時に身振り手振りを交えて――

四十万 静歌 > そして、やがて――

「――♪」

歌は終わりを告げる。
終わると同時に海に向かって静かに一礼。
まるで、海を鎮めるかのように。
まるで、海の神に歌を奉げるかのように――

四十万 静歌 > 「ふぅ――」

大きく長く息を吐く。

「――海を眺めていると落ち着きますね。」

そして、足を止めて海のほうをじっと眺める。
何かあるわけではなく、
ただ、海を見るために。

四十万 静歌 > ぼんやりと、穏やかな時間が流れる――
だが、
微動だにせず、彼女はそこに いる。

四十万 静歌 > 「静かなこの一時。
 ずっとは続かないと知りながらも、
 焦がれてしまう。
 でもそれ以上に喧騒に憧れる。
 
 ――♪」

静かに再び歌う。
何かを確かめるように。

少し、楽しげな歌を。

四十万 静歌 > 「――♪」

歌いながら再び歩き始める。
ゆらゆらと体をゆらして楽しげに。

さざ波にあわせるかのように。

四十万 静歌 > ――静かに歌いながら、やがて溶けるように姿を消すだろう
ご案内:「浜辺」から四十万 静歌さんが去りました。