2015/08/30 のログ
■四季夢子 > 「――夜中にそんな所で何をしてるの?夜釣りでもなさそうだし、世でも儚んだ?」
夜の海は海と空の境界が不明瞭で何処か世界の端を想起させる。
踏み出せば何処までも落ちていきそうで、だから時折眺めに来る。
今日も独り、そう思ったんだけど、そうじゃあなくて
今日は私とは真逆の髪色を持つ誰かが居た。
同好の士って奴かもしれないから、一先ずは軽めに言葉を投げて
振り向いたなら真昼の太陽みたいに笑ってみようかな。
■東雲七生 > 「──え?」
背後からの声に、やや驚いた顔で振り返る。
まさかこんな時間に人が来るとは、と思わなかったわけではないが。
「別に、ちょっとした散歩のついでに来ただけー。」
へらり、持ち前の童顔と相俟って何処か子供じみた笑顔を向ける。
こんな時間にこんな場所に来る物好きが、悪い奴だとも思えなかったので。
■四季夢子 > 振り向いた赤髪の誰かさんは、兎のような瞳の誰かさん。
何処かで見たような気がするから、ひょっとしたら私と同じ学園の生徒かも
「む、この私に幽霊を視たような顔を向けるなんて失礼ね。」
驚いた顔に笑みを向け、言葉だけで不満を伝えたなら、人懐っこい笑顔の彼に一歩近付き
「散歩は素敵だけど、夜に出歩いたら怖いものを視るかもしれないわ?。」
二歩、近付いて息を止めて"私の姿は世界に溶ける"
三歩、透過したまま近付いて
四歩、五歩、私より背は高いけど、私より幼い印象の顔が近くなったなら
「例えば、こんなのとか」
透過を解除して、幽霊のようにあっかんべえってしてやるのだ。
■東雲七生 > 「いや、ごめん。いきなり声がしたからさ──」
少しだけバツの悪そうに弁解をしようとして。
少女の姿がたちどころに消えたことに今度こそ驚いて目を丸くする。
「え?あ、あれ……?」
右、左、と見回して。
確かに何処にも姿が見えないことを確認した後、今のは何だったんだと考える直前。
再び現れた少女の姿に、面食らって一歩後ずさった。
「うわっ、とと、びっくりした……!
何だよ、それ……お前の能力?」
■四季夢子 > 「あははは、いい顔だわ!」
髪の毛も瞳も赤いのに顔色を白黒させて驚いて、おまけに頓狂な悲鳴まで上げてくれるものだから
私はそりゃあ満足そうに口端を喜悦に歪め、北叟笑むようにして相好を崩す。
「能力じゃあ無くって私、幽霊なの――なんてね。
貴方の言う通りの能力よ。息を止めている間は透明になれるの、面白いでしょう?」
もう一度赤い舌をぺろりと出して、ついでに拝むように手を併せて拝んで形だけの謝罪。
それが形だけであるとは、そんな様子が直ぐに消える事からして判るかも。
「暇だからぶらぶらしていたんだけど、ちょうど貴方が目に付いたものだからね。
よかったら少し御話しましょうよ、私は四季夢子《ひととせ ゆめこ》。貴方は?」
■東雲七生 > 「う、ぐ……。」
目の前で笑う少女に対して少しだけ悔しさを覚えたが。
一度深呼吸をして気分を鎮めて、それでも納まりきらなかった感情が笑みを引き攣らせた。
なるほど今のがこの少女の能力か、と解ってしまえば同じ手は食わない自信があったし、
悪戯に目くじら立てていても仕方ない。
「息を止めている間、かあ。
なるほどね、透明になれるだけ?どっか別の場所に転移してるとかじゃなくて?」
自分の能力を偽る事はそう珍しい事でも無いと思ったので念のために尋ねる。
まあ、偽られたところでそれを確認する術も無いのだろうけれど。
「ああ。えっと、俺、東雲。
東雲七生、宜しくな四季!」
話をする事には何も抵抗は無い。
そもそも誰かと居る事の方が好ましい性質だ。
──ただ、また女子か、と胸中で呟く。
■四季夢子 > 「そ、透明になれるだけ。転移じゃあ無いわ?証拠にほら。」
何処と無く訝しげな様子を見せる彼の前でもう一度息を止めて世界に溶けて
そのまま彼の頬をぺたん、と撫でて直ぐに解除。
「……ね?ただ透明になった私に素肌を触られると、その人も透明になっちゃうんだけどさ。」
触れるって事は実体があるってこと。それを示して上げてついでのオマケも教えて上げたなら
御行儀悪くその場に座りこんで寛ぐ姿勢。
「東雲七生……んー……名前、どっかで聞いた事あるような、掲示物か何かで視たような……
ま、いっか。宜しくね東雲君……って何でそんな残念そうな顔してんのよ貴方……!?」
下から見上げるようにして、握手の一つでもーと思って手を差し出すとなんだか残念そうな様子。
だから私がじろりと剣を呑んだような目線になってしまうのも無理からぬ事って奴で
■東雲七生 > 「ホントだ。」
頬に触れられた感触が確かにあった。
呆けた顔で自分の頬に軽く触れて、得心がいったのか繰り返し頷く。
「へえ……透明化かあ。すげえじゃん。
息を止めてる間ってのがしんどそうだけど、それでも何か……色々使い道はありそうだな。」
例えば、と考えて特に思い浮かばなかったが。
触れたものも透明に出来ると言うのは何かと便利そうな気がして。
「え?……ああ、いやいや別に。
こんな時間に女子一人で出歩くなんて不用心だなーとか、そんな事考えてただけっ!」
見上げられ、誤魔化す様に笑ってから差し出された手を握って。
手が離れれば、少し気恥ずかしくなって自分も腰を下ろした。
■四季夢子 > 「ん~……とりあえず、暴漢に追いかけられたりした時に遣り過ごしたりするのに便利ね。
どういう訳か物品なんかも透明になるんだけど、私より大きいものはダメだったりするし…中身の割に不透明な感じ。」
こんな時間に出歩いても平気な理由を答え、東雲君と握手を交わして我ながら向日葵のような笑顔。
北叟笑んでいるようにみえる?そんな事はないわ。
「……で・さ。……東雲君の異能って奴も教えなさいよ。何かあるんでしょう?こんな島だもの。
それとも魔術って奴?昨日の公園の花火みたいに夜空を彩るような派手な奴が使えちゃったりして、
それで実は此処で練習してた!とかさ。」
暇潰しで夜の散歩をするくらいの私なのだから、猫を殺すような感情はそれこそ掃いて捨てる程ある訳で
己を先に詳らかにした理由も此処にあったりする。ほら、断り辛い状態にするっていうか。
おまけに可愛い私が笑顔で首の一つも傾げてみる訳で、これは完璧って言える作戦よね。
もし駄目だったら頬を風船のように膨らませてブーイングでもしてみようっと。
■東雲七生 > 「確かに逃げたり隠れたりって時は重宝しそうだよな。
四季より大きなものかあ……でもまあ、そういうものって結構持ち運ぶのも面倒そうだし。」
重量まで消せるなんて事は無さそうだし、と笑って。
意識しなくとも日輪の様な笑みが向けられる。
が、それもすぐに固まってしまった。
「え、俺の異能……?
いや、別に花火なんて出来ないし、練習してたわけでも無いんだけど。
……えーと、どう説明したもんかな。
血をね、ちょっとこう、色々出来る。」
どうにも曖昧な説明になってしまって首を傾げた。
実演してみせるのが一番なのだろうが、生憎血液を持って散歩する趣味も無い。
今の説明で理解し、納得して貰えない事には少し困ってしまうだろう。
■四季夢子 > 「そ、とっても便利なのよ?例えば歓楽街でゴロツキ同士の喧嘩とか、言葉通りに息を飲んで見守ったりとか……
あ、勿論物陰からだけどね。ずうっと息を止めていたら死んじゃうから。」
重たいのは無理ね。とスウェットを腕捲りして細い手を示しもするけれど
彼が不自然に……断るとか駄目とか、そういうのではない拒否を示す事には頬は膨らまず、倣う様に首がゆらりと傾いじゃう。
そのまま説明を聴いて、ふむふむと唸って今度は反対側に傾ぐ首。さながら潮風に揺れる水面のようにゆーらゆら。
「つまりこう……色々出来るけど、使う為には手間がかかって、見た目もちょっとホラーな感じになっちゃう。って感じ?
もしそうならちょっと不便そうね……あ、でも怪我をした時なんかは便利なのかな?ほら、最近何かと物騒でしょう?昨晩も学生通りで一騒ぎあったそうだし……
でも便利なら安心して暴漢に襲われることが出来るわねっ」
結論、便利そうでいいなあって、ちょっと夜空を見上げるようにして言葉が飛んで、落ちて、防波堤の何処かに転がって行った。
■東雲七生 > 「おいおい、そんな事してたらなんかの拍子に巻き込まれるだろ。
見えないってだけで、その場には確かに居るんだろ?」
感心しないな、と少しだけ眉を寄せて険しい表情に。
ただでさえ夜更けに独り歩きする少女らしいが、そこまでと知ると心配になってしまう。
まだ歓楽街なら救いの手もあるだろうが、落第街まで行ってしまうとそれも厳しいだろう事は、七生もよく知っていた。
「んまあ、そんなとこ。不便だし、あんまり使いたくは無いんだよね。
怪我の程度にもよるけど、さっさと絆創膏貼っちゃった方が早いし、ホント、あんまり役に立たない能力だよ。」
暴漢に襲われたところで、きっと素手で圧倒は出来なくとも追い払うくらいなら出来るだろう、と。
そう呟く少年の腕は少女に負けず劣らず細いが。
■四季夢子 > 「もっちろん。だから嗅覚の鋭そうな獣人とか、如何にも気配とか察知できそうな強そうな人なんかには出来るだけ近付かないようにしているわ?」
咎めるような言葉や顔を向けられても、小鼻を鳴らして、口端を三日月のように曲げたにんまりとした笑み顔でいざ迎え撃つ。
言外に、そのどちらでもなさそうだから東雲君には声をかけたんだけど、って事になるけれどそれは一先ず置いておこっと。
「それにしても絆創膏のが速いんだ?もっとこう…映像を逆再生するみたいに血液がぎゅるんって戻っていったりは……あ、追い払ったりは出来るんだ。
そうなると見た目がちょっと怖いわね……私が幽霊ならそっちは妖怪、みたいな。」
脳裏に浮かぶは血液を流体のまま鞭のようにしならせ、筋骨隆々でモヒカンで肩パッドとかつけてそうな大男を縛り上げている姿。
視線を向ければ東雲君の腕力ってものは余り無さそうに見えたから、ついついそんな遠隔操作な様相を想起してしまうのよね。
「ふむふむ……面白い話が聴-けーたーかーもっ。」
頭を振って想起を払い、立ち上がったなら衣服についた砂をも払う。
「よし、退屈も紛れたし私はそろそろ帰るわね。また何処かで会ったら御話しましょ?」
スウェット姿じゃあサマにならないけど、その場でくるりと回って芝居がかったカーテシーの一礼をし、最初のように赤い舌をおどけてぺろり。
それが済んだら緩慢にゆーらりゆらりと歩いて私は何処ぞや……いえ、家に帰るのだけど。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」から四季夢子さんが去りました。
■東雲七生 > 「──ああ、なるほど。匂いか。」
すん、と鼻を鳴らす。
なるほど潮の香りに混じって僅かな女子特有の──
途端に頬を赤らめて我に返る。今の無し、と何をと言うでも無く呟いて。
まあ、自衛が出来ているというのなら言及する事も無いだろう、と溜息と共に納得することにした。
「どんな想像してるのか分かる様な気がするけど。
あんまり能力は使わねえんだ、俺。だからその想像は間違ってるかも。」
苦笑とも取れる呟きを投げて。
やれやれ、と首を振る。まあ、そう思われてしまうのも仕方のない事と解ってはいるけれども。
「ああ、またな、四季!
お互い無事にまた会えると良いけどな。」
好奇心旺盛なのはお互い共通する性格の様で。
だったら余計な事に巻き込まれないよう祈っておこうと、去り往く背中を眺めて思ったのだった。
■東雲七生 > 「──さてと、」
俺はどうしようか、などと海を眺めて考える。
新しい邂逅に満足して家に帰るべきか、それとも更なる邂逅を期待してこの場に残るか。
流石にもうこんな時間だから誰か来るとも思えなかったが、自分やさっきの少女みたいな物好きがまだ居るかもしれないとも思えて。
──それに、
「帰りたくねえんだよなあ、まだ。」
あの部屋へ。
否が応にも一人を感じさせるあの部屋へ。
眠くて眠くてしょうがなくなるまで、出来れば帰りたくは無かった。
■東雲七生 > 「異能ねぇ──」
先の話題で上がった自分の異能へと思いを馳せる。
血液を操る能力。
液体のまま流動的に動かすことも、固体へと変質させることも出来る。
それは確かに、自分の非力な腕力を補って余りあるほどに便利な能力ではあったが。
「──怪我、か。」
流血を伴う怪我なんて、したところで得るものは少ない。
幾ら能力が使えるようになるとしても、受けたダメージが取り返しのつかない程なら大損である。
幸い、そのような事態には未だ一度も──
「いや、あるか。
思えばあの時初めて自分に異能があるって知ったんだっけ。」
自分の膝に肘をつき、掌に顎を載せる。
どの様な体勢で眺めても、海は暗く、夜空との境界は曖昧だ。
■東雲七生 > 中学三年の夏、ちょうど夏休みに入りたての頃。
七生は交通事故に遭った。
その時に大量出血をし、意識の無い七生をあざ笑うかのように能力が覚醒、暴走。
それが切っ掛けとなって常世島に──
「──ん、あ、れ?」
当時の事を思い出していた七生の表情が曇る。
──事故を起こした車の種類が思い出せない。
普通車だったか、軽トラックだったか、それとももっと別な、異世界からの乗り物だったか。
こうして七生が生きているという事は、小柄な中学生を撥ねても即死に至らせない程度だという事は察しが付く。
だが、どうしても細かいところまで思い出せない。車の形状、色、運転手の顔。
車にぶつかったという体験は記憶として残っているのに、細部が異様に曖昧だ。
自分を撥ねた車を覚えていない、しかもたった一年前の出来事にも関わらず、だ。
「……え? 何だ、まだ頭ん中で整理が付いてないとか?」
■東雲七生 > 事故の記憶なんて大抵はトラウマだろう。
ましてや生死の境をさまようほどであれば尚のこと。
そう思って片付けようとした七生だが、もう一つ腑に落ちないところに気付いた。
「……あの時、俺、どこ怪我したんだっけ……?」
能力が暴走するほどの出血量だったのだから、相当深い傷を負ったはずだ。
病院のベッドで目が覚めたとき、かなりの激痛に一日寝たきりでいたも覚えている。
なのに。
それがどこの傷なのか、全く覚えていない。
傷跡らしい傷跡も、体には残っていなかった。
──事故に遭って怪我を負い、能力を暴走させたという事のみが記憶に残っている。
その事に気付いた瞬間、言い知れぬ悪寒が七生の身体を包んだ。
■東雲七生 > 僅かな頭痛と寒気に、自分の身体を掻き抱く。
何かが変だ、何かがおかしい。
しかし、その“何か”が解らない──
事故に遭ったショックで記憶が混乱しているのだ。
出血したと言っても怪我自体は浅く、たまたま太い血管の側を切ってしまっただけだ。
そう自分に言い聞かせるも、一度抱いた違和感は鈍い痛みと寒さとなって全身を包んでいく。
(──気付かなきゃ良かった……?)
聞こえているのは潮騒か、血の気の引いていく音か。
自身が確かだと思っていた記憶が、途端に信用ならないものへと変わった気がして。
小さな体を丸めるようにして、七生は震えていた。
■東雲七生 > 「……か、帰ろう。」
震える声で、絞り出す様に呟いて。
酷く緩慢な動きで立ち上がる。自分自身の存在を確かめるように。
名前は。年齢は。趣味は。生まれ故郷は。両親は。
それら全てが頭の中に浮かんでは泡沫の様に消えていく。
あまりにも曖昧で、自分の足元が今にも崩れそうで。
一歩踏み出すどころか、指一本動かすことすら怖くて儘ならない。
──それでも、帰らなければ。
ついさっきまで一人が嫌で帰りたくなかった部屋に無性に帰りたくなっていた。
否、
一人で居ざるを得ない部屋に帰る方が、幾分もマシだと思う様になっていた。
■東雲七生 > 足を動かせば何とかまだ動く。
首を動かせば何とかまだ前を向ける。
きっと今の自分の顔は蒼白に近いだろう。
紅い髪と、紅い目と合わせてそれはひどく目立つほどに。
だから誰にも会わないように帰ろう。
帰って、シャワーでも浴びて、寝れば。
「……大丈夫。」
ゆっくりと歩き出し、呟いた言葉は。
酷く小さく、細くて。穏やかな潮騒にさえ呑まれてしまった。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」から東雲七生さんが去りました。