2015/09/15 のログ
■リヒット > 「……じゃあ、借りるね。あとで洗って返す……」
あまり水分を拭い去ってもそれはそれで体力が落ちてしまいますが、塩まみれ海藻まみれよりはマシ。お言葉に甘えて、ハンカチで脚から拭っていきます。
さわさわと撫でるように、繊細にみえる肌を塩や砂で傷つけないように。その動作は見ていてなんとも緩慢でたどたどしいもの。
……そして、躊躇なくスモックの中にも借り物のハンカチを突っ込んで、股間まで拭いているようです。
リヒットが男の子である証が、ちらちらと裾から見えたり見えなかったりするかも。
「……ふぅ、パサパサ、楽になった。ありがとう、えーと……おにーさん」
ひとしきり半身を拭き終えると、再び目の前の名も知らぬ少年を見上げ、とくにニコリともせずにお礼の言葉を言うリヒット。
とはいえその口調は先程よりは幾分か明るさを取り戻しているようで、目もぱっちりと丸く開かれています。
その真ん丸な目と半開きの唇で、じっと相手の赤い瞳を見つめながら。
「……おにーさんは、楽しくないけど、面白いの?
楽しくないけど面白いもの……なにか、海のことをおべんきょう中? けんきゅう中?」
■東雲七生 > 「いや、別に気にすんなって!
どうせこの後は帰るだけなんだ……」
はっはっは、と快活に笑いながらハンカチを返してもらう心積もりで居たけれども。
思ったよりも遠慮無く体を拭いていく姿を見て、若干面食らう。
そんな中、男の子である事を確認して人知れず安堵してたりも。
「……いやまあ、うん。どーいたしまして!
俺、ナナミ。東雲七生。お前は……リヒット、って言ってたっけ。」
それが個体名である事にちょっとだけ自信が無かったけど。
おにーさんと呼ばれた事に少しだけ気を良くしてニコニコと笑みを浮かべている。
「いや、そういう訳でもないんだけど。
……んー、どう説明したもんかな……。」
顎に手を当てて思案気に視線を彷徨わせ。
結局うまい言葉が見つからず、溜息だけが零れ落ちた。
■リヒット > 「ななみ。よろしく。これの名前はリヒット。よろしくね、ななみ」
小さい指で相手を指差し、自分を指差し。互いの名前を歌うように言い連ねる声は陽気さを帯びつつありますが、表情はやはり仏頂面。
感情表現が拙いのかもしれません。
「ななみはどこに棲んでるのかな。あとでハンカチ返しにいくから、おしえてくれるとうれしい。
リヒットは今は『いほーじんがい』の池に棲んでるよ」
東の方を向いて、指差しながら説明します。
……そしてそのまま、くいっとまた顔を上げて真上を見、常世島の夜空を眺めます。
「まちの中よりはいいけど、ここでもやっぱり、星は見えない。
海も真っ暗でなんだか怖いし、ななみが面白いっていう気持ち、リヒットにはよくわかんない。
……ななみは『オトナ』? 『オトナ』だとわかる面白さ、だったりする?」
再び東雲さんの方を向いて、真ん丸の青い瞳で尋ねてくるリヒット。
……その容姿からは、リヒットの故郷基準に照らし合わせても彼が『大人』かどうかは判別できなかったようです。
■東雲七生 > 「おう、よろしくなリヒット!」
表情による感情表現の乏しい小人に対して声音に沿った笑みで頷いて。
なるほど異邦人街か、それなら近いなと思った直後。
「……い、池ぇ?」
と、素っ頓狂な声を上げてしまった。
海から来て、池に住んでて。やっぱり異邦人なのだろうか、と首を傾げる。
「え?えっと……大人、なのかなあ。
自分で自分を大人、っていうのも変な感じするけどさ。
……うーん、大人かそうじゃないかよりも、人によって違うんじゃねえかな。」
軽く腕組みをして、中々に小難しく思える問いに普段働かない頭を働かせて。
導き出した答えは、あまり的を射たものとは思えなかったけれど。
■リヒット > 「リヒットは水がないと元気が出ない。でも、海の水や山の中の井戸水でも元気が出ない。
……『じゅぎょう』が終わったあと、時計塔の上で寝てたら、たぶん風で飛ばされちゃったんだと思う。気付いたら海の中……」
初耳では訳のわからない事情を語るリヒットの身体が、ふわりと音も立てずに、夜の闇の中に浮遊し始めます。
ふわふわと風に流され波止場の上を行ったり来たりしますが、東雲さんの目の前からは離れたりはしません。
元気を取り戻してきたようで、普段通り浮遊し始めたリヒット。再び、真っ暗な海の方を見やります。
月明かりや街の光を受けて点々と輝きを見受けられますが、それも遷ろい、概ねは漆黒の闇。やはり海という景色には慣れません。
……地面からリヒットのお尻や脚が離れて宙に浮いてても、なおも目線は東雲さんのほうが上です。よほどにリヒットは小さいのです。
「んー……『あっち』では、たしか15歳から『オトナ』。ななみは、どうなのかな。
『こっち』では、歳のことはビミョーに違うって言われたけど、でも、いままで会った人は、みんな『オトナ』に見えた。
……ななみのことは、まだよくわかんないけど」
なんとも素直な物言いです。
「リヒットは、怖いものは怖い。星が見えないのは、とっても寂しい。
ななみがいたから、怖くないけど。ひとりでここに来てたら、怖くて、リヒットは壊れてたかも」
そう言い放つリヒットの表情は、なおも無表情の仏頂面のままです。
■東雲七生 > 「ふ、ふむふむ。
やっぱりその、何て言うか。シャボン玉……」
何とかリヒットの事情を理解しようとしていたところ。
いきなり目の前で浮かび上がられれば、驚きを隠さず目を丸くして。
そのまま短く、なるほど、と合点がいったように頷いた。
やっぱり彼は異邦人なのだ、と確信を持てれば。あとは普段と何ら変わりない。
“そういうもの”として受け入れてしまえば話すことは容易くなる。
「なるほどねえ、昼寝してたらここまで飛ばされて来たって訳か。
確かにここんところ急に強い風吹いたりするからな……
ん?んん?
15歳から大人、なんだよな?15歳。
俺、15歳に見えない?……一応15歳なんだけど。いや、絶対の自信は無いけど、でも15歳には見えるだろ。
……見えるよな?」
笑顔が若干、というかかなり強張って。
リヒットからしてみれば、年齢はどうあれ年上に見えるから『おにーさん』と呼んだだけなのだと思い至り。
……軽く凹んだりする。
「怖いと壊れるのか。
風で飛ばされてくるあたり、精神的にというか、本当に“壊れる”んだろうなあ。
……じゃあ、良かったな。俺と会えてさ!」
さっき見たシャボン玉。リヒットの手から生まれたものを思い出して。
彼の言う事を言った通りに受け取れば、大体その実態が把握出来てきていた。
■リヒット > 「そう、リヒットはシャボン玉。だからよく壊れるよ。でもすぐにまた作れるよ。
でも壊れるのはそんなに好きじゃないから、ななみとお話できてほっとしている」
くるり、と軽やかに宙返り。スモックの裾から、シャボン玉が何個も飛び出して、波止場の上に散っていきます。
大量とはまだまだ言えませんが、徐々に海水のダメージから回復しつつある模様です。
そのまま、月に煌めくつややかな青髪で風を受けるように空中を漂うと、東雲さんとの距離をぐっと詰め……。
目を見開いたままの顔を近づけ、鼻をひくひくとさせながら、衛星のように東雲さんの周囲を飛び回りはじめます。
髪からは潮の匂いに混じって、柑橘系ともラベンダーともつかぬ爽やかな石鹸の匂いが漂っています。
「んー……15歳……どーだろー。リヒットは9歳だよ、たぶん。
リヒットよりは絶対に上だけど、でも、15歳かというとー……ぷー……」
その童顔よりも、声のほうが気になります。
リヒットの故郷で男の子がオトナになったかどうかを判断する基準は声変わり。年齢が至らなくても、声が変わればもう半分オトナと言っていいレベルです。
「……ななみ、おんなのこ、じゃないよね?」
ズバリと言い放つ、まるで女の子みたいな容姿のリヒットでした。
■東雲七生 > 「なるほどねえ、シャボン玉。
確かにシャボン玉だな、飛ばされたり壊れたり、危ない事だらけじゃねーか。」
すぐに作れると聞けば、高速再生か蘇生に似た能力でも持ってるのだろうと見当をつけて。
それでも壊れるのは好きじゃない、という言葉に苦笑を浮かべる。
そのままくるくる自分の周りを回るリヒットを眺めながら。
潮の匂いの中に仄かに香る石鹸の香りに何とも不思議な心地になったりもしつつ。
「……そっかー。
いや、でもホント15歳……なんだよ。ち、ちっ……
……伸び悩んでるけど。」
自分で「ちっちゃいけど」なんて自分より小さい相手に言うのは屈辱的過ぎた。
しかし直後にリヒットの口から飛び出した疑問が七生の心のどこか柔らかい所を容易く貫いていく。
「それは絶対に違うから!!!」
涙目での主張。まさか性別を疑われるところまでくるとは思わなかった。
■リヒット > 「ふーん……」
男の子であることを涙目で主張してくる東雲さんを、リヒットはあいも変わらずボケッとした表情で、じっと見つめています。
音もなく高度を上げて、東雲さんと同じ目線の高さまで。鼻先が触れ合いそうなほど、真向かいで顔を近づけようとして。
「……ふしぎ、ふしぎー。でも、きっとそういう人間もいるんだね。『とこよじま』はふしぎなところー」
顔を離し、それでも視線は東雲さんの童顔をロックオンしたまま、右へ左へと踊るように身体をくねらせています。
スモックの裾がたなびくたびに、その端からシャボン玉の粒が離陸し、海の向こうへと流されていきます。
「……じゃあ、ななみはオトナなら、おしごと、してる?」
オトナに出会ったらとりあえずこう聞くようにしているリヒットです。
常世島では学生とはいえ多くは部活や委員会で働き、学費を稼いでる人が多数。リヒットはまだ保護児童に近い身分ですが、いずれは。
「リヒットもおしごと、したい。そして『りょう』に暮らしたい。
なにか、おもしろいおしごと、しってる?」
■東雲七生 > 「絶対信じてないだろお前……」
一応年中無休で男子してたはずだ。記憶は無いけど。
シンボルだってちゃんとあるし。確かに声変わりはしてないけどそれはこれから、これから。
ついでに言えば大抵の二次性徴は迎えていないけれど、それでも一次性徴はしてるんだから。男なんだから。
そんな事を頭の中でぐるぐるさせながら、リヒットの視線を真っ向から受け返して。
「……そういう納得のされ方は非常に、ひっじょ~~~に心外なんだけど……。」
自身が常世島特有の現象にされてしまうのは何とも言えない気持ちがした。
しかしまあ、それでも特別気分を害したりはしていない。
子供の言う事だし真に受けるのもな、程度。
「おしごとぉ?」
急に質問をぶつけられて、きょとんとした顔で復唱する。
視界の端を流れていくシャボン玉を目で追いながら、どういう事かと少し戸惑った。
しかし、続くリヒットの言葉に、寮生活の為の資金繰りがしたいのだと把握して。
「ああ、そういうこと。
いやー、俺は何もしてないんだよなあ。
だからあんまり仕事には詳しくない。悪いなぁ。」
申し訳なさそうに両手を合わせる。
いずれは部活動か委員会か、何か属さなければならないだろうとは思っているし、
バイトだってやらなきゃならないのは分かってはいるものの。
毎月七生個人の口座に生活費が定額で振り込まれているので、どうにも乗り気になれないのが本当のところで。
■リヒット > 「んー、リヒットはななみが言うことを信じるよ。うん、男の子って信じてる」
軽そうな頭をこくこくと上下に振りながら。なんとも安っぽい『信じてる』です。
「ななみが『オトナ』だって言うなら、ななみは『オトナ』。
声はまだコドモみたいだけど、ななみは頼もしいし、リヒットのこと気遣ってくれたし。
……リヒットの友達、『オトナ』になりたいって人は多くなかったから、ここの人たち、みんなすごいと思う」
続く『オトナ論』については、リヒットなりの真面目な口調と、踊りもやめたシャンとした姿勢で述べます。
ここは真摯な意見のようですが、はたしてさっきのふざけ具合とくらべて、ちゃんと受け取ってもらえるかどうか。
「……でも、おしごとはしてないんだね。むぅ、いろんな人がいるなぁ。
お金がなくても暮らせる人と、お金がないと暮らせない人がいるのかな? リヒットはなくても暮らせるけど」
この島の経済が『農業』やその他いわゆる一次産業と『物々交換』で成り立ってはおらず、『貨幣経済』であるところを見ると。
衣食住いずれを整えるにも、人間には『お金』が必要になるものです。リヒットは傍観者でしたが、その様子は故郷でも垣間見てきました。
「……あ、そうか。ななみは、おとーさんやおかーさんと一緒に暮らしてるんだね」
そんなリヒットの過去の記憶とすりあわせれば、東雲さんの身の上に関する推測は次にそこに思い至ります。
■東雲七生 > 「おう、ありがとよ……」
そもそも性別を信じて貰うというのも変な話ではあるのだが。
「……うん、まあ頼もしいなんてそんなに言われないから、素直に褒め言葉として受け取っとく。」
にっこりと口元に笑みを浮かべて、一つ、頷く。
口調だけでなく姿勢まできちんとされれば、こちらも真剣に聞き、しっかりと受け取って。
「んまあ、そうだな、色んな人が居るのかもな。
俺はお金が無くても……と言うと変だけど、自分でお金を稼がなくとも暮らせるから。」
自分で動いて稼ぐか、それとも動かなくても収入が保証されているのか。
七生はどちらかと言えば後者なので、あまり経済的な面には首を突っ込まないでいたのだけど。
「え、いや……そういうわけでも、無いんだけどな。」
あはは、と少しだけ硬くなった表情に無理やり笑みを貼り付けて。
一番痛いところを突かれてしまった、と頬は一筋、汗が伝い。
■リヒット > 「ふーん……稼がなくても暮らせる……」
リヒットは、首を90度に至ろうかというほどに横に傾け、視界内で横に寝た東雲さんを尚もまじまじと見つめています。
……リヒットが言えたクチではありませんが、この東雲七生という青年、とっても不思議な子です。
物腰はリヒット基準での『オトナ』そのもので、でも容姿や声はどこかコドモみたい。声変わりがないなら女の子かとおもいきや、男の子。
そして、常世島のオトナなら仕事をしてるものかと思いきやそうでもないようで。
リヒットの中では『オトナ』とは働いている者。働くとは、自らの生き方をそこで大筋決定するということ。
……もしかすると、それは故郷の世界がこの常世島ほど発展していなかったせい、単なる文化の違いなのかもしれませんが。
『あっち』と『こっち』の文化の違いは、目下勉強中のリヒットです。
「……やっぱり、この島には、いろんなオトナがいるんだね。リヒット、べんきょうぶそく」
まぁそんなわけで、自身の勉強不足という結論に達したリヒットでした。思考停止ともいいます。
「でも、そしたらななみはうらやましいなぁ。お金があるのに、自由。きっと、やりたいことなんでもできるね」
■東雲七生 > 「あっははは……まあ、うん。
色んな大人が居るよ。大人って言うか、学生、かな。
リヒットが知ってる“オトナ”ってのがどんなのかまだ分かんないけど、
俺みたいなのは多分大人と子供のちょうど中間くらいなんだ。」
自分で語りながらもその曖昧な立ち位置には苦笑せざるを得ない。
子供としての権利と、大人としての義務を両方投げ捨てておきながらも存在を認められている立場。
しかし他に上手い事説明出来る気もしなくて。
「俺らみたいな学生は、大人になりたてだから。
ちゃんと働ける大人になるために、勉強しなきゃならねーのさ。
ようは、勉強するのが仕事、みたいなもんだな。」
リヒットとおんなじ、と笑いながら告げて。
その頭をそっと指先でなぞるように撫でようとする。
「あはは……流石にそこまで自由ってわけでもねーよ。
それに、やりたい事ってまだあんまり分からないしさ。」
■リヒット > 髪を撫でれば、青く澄んだ毛髪は指先をツルツルと滑っていきます。まるで1本1本が水面に立つ波の流れのように。
……髪も、頭皮も、やけにひんやりとしています。
リヒットは抵抗する素振りは見せず、かといって嬉しがる様子もなく、変わらず真ん丸な瞳をそちらに向け続けています。
「そっか、コドモとオトナの中間。じゃあ、早くオトナになれるといいね。
ななみもべんきょうしてるんだね。リヒットもべんきょう中。なかまだ。
リヒットはシャボン玉だからオトナにはなれないけど……じゃあ、せめて、ななみと同じ『中間』を目指してみようかな」
どうやってそんな妙なポジションを目指せるかはわかりませんが。あるいは、そこを目指すメリットもあるのかどうか。
……もしかすると、リヒットも働くようになったら、そう望むようになったら、すでにその領域に足を踏み入れているのかも。
さて、『やりたいことが分からない』という言葉。昨日も別の人から聞いた気がします。
「……やりたいことがわからないって人も、多いね、この島。
リヒットはね、先生に会って、先生になりたいって思ったよ。
ななみは、目指してる人とか、あこがれてる人とか、見習いたい人って、いないの?」
■東雲七生 > 「おお、何か面白い感触。」
リヒットの頭から手を離すと、たった今撫でた指を興味深そうに眺めて。
やっぱり人とは違うんだな、なんて改めて実感してみたり。
「おう、仲間だな。勉強仲間。
……んん、それがお前にとって良い事かは分からねえけど……
ま、目標があるのは良い事か。とりあえず、これからも勉強頑張ろーぜ!」
なっ、とリヒットへと屈託ない笑みを向けて。
新しく出来た小さな仲間に対して精一杯の応援を。
「ううん、今は……ちょっと分からないや。
毎日色んな人に会ったり、見たり、聞いたりしてるからさ。その中から探そうとしてる状態っつの?
そういう事が出来るのも、今の内だと思うからさー。」
居ない訳でも無いけれど。もっと色んな事、立場、見方をしりたくて。
今はこれ、と決められないでいる事をまとまらない言葉に載せてみたり。
■リヒット > 東雲さんの素直な笑みを見て、リヒットもそれを真似しようとします。
でも、目を見開いたままイーッと歯を剥いてみせるのみ。やっぱり表情を変えるのが苦手なようです。
「……わからない、かぁ。でも、そういうオトナが周りにいっぱいいるなら、いいんだと思う。
いないよりは、ずっといい。リヒットも、いろんな人に会って、べんきょうしたい。
先生とも、そうじゃない人とも」
話すこと。言葉を交わすこと。たとえ島に張られた翻訳魔術で言語の差は埋められていても、越えるべき『差』は山ほどあります。
そして、言葉では伝わらない情報だって、いっぱいあります。
「ななみは、やさしい。だから、リヒットもななみみたいにやさしくなりたい。
……ハンカチ、ありがとね。洗って返すから。リヒットは、洗うのはとっても得意」
塩水もすっかり落ち、いよいよ本調子を取り戻してきたリヒット。
ふわりと空中で身体を上下させてスモックをはためかせれば、真っ白な脚を覆い隠さんばかりのシャボン玉が噴出し、群れを成してリヒットの手に付き従います。
とはいえ、塩水を拭いたハンカチは石鹸だけでは綺麗になりません。真水でしっかりすすいで乾かさないと。
「リヒットも、自分のハンカチ、持とうかな。おしごと見つけて、お金を稼いでからだけどね」
手に持った東雲さんのハンカチをぱたぱたと振って、指先で弄びながら呟くリヒット。
何かを持つにも、まずはお金が先決です。その点では、貨幣経済は妖精には厳しい。
「……それじゃ、リヒット、そろそろ乾いちゃうからおうちに帰るね。
ななみ、またね。風邪をひかないよーにね、おやすみ」
そのまま、海岸沿いに西の方へと漂っていくリヒットでした。
ご案内:「浜辺」からリヒットさんが去りました。
■東雲七生 > 「あっ、ハンカチ!俺も、異邦人街に今は──
いや、やっぱりいいや。今度会った時にでも返してくれよな!」
少なくとも、自分はリヒットの住んでいるところを聞いている。
機会があればこちらから出向けばいいのだ。折角近くに住んでいるのだし。
ふわふわと夜風に優しく流されていくようにその場を去っていくリヒットの背に、
「またな、リヒットー!お前こそ風邪ひくなよー!」
シャボン玉が風邪を引くかはしらないけども。
大きく手を振りながら見送りました。
■東雲七生 > そして──
「やりたい事、か。
目指してる人、憧れてる人、見習いたい人──」
分からない、とは言ったものの。
全く何も考えて居ない訳では無く。そりゃあ何人かは目標として掲げて良いと思える人も居ない事もない。
でも、
「自分の事も分からない今、流石にそれは──な。」
誰も居ない防波堤のうえで、自嘲気味に笑みをこぼす。
やりたいこと、を見つける為にも。
今はまず自分の過去を、自分がどういった存在であるのかを知る。
そんな事は、会ったばかりのリヒットにはとても言えた事じゃなかった。
「俺みたいに、優しくなりたいか──
別に、優しいつもりは無いんだけどな。」
あはは、と困った様に笑いながらゆっくりと背伸びをして。
そろそろ夜も遅く、一人になって心細くもなってきたので。
今夜はもう居候先に帰ろうと、ゆっくり歩いて防波堤を後にした。
ご案内:「浜辺」から東雲七生さんが去りました。