2015/09/18 のログ
ご案内:「浜辺」に霜月 零さんが現れました。
霜月 零 > 「…………」

すぐに帰宅する気になれず、何の気なしに浜辺に出て来ていた。
季節はもう秋、夜風が肌寒く感じる時期だ。

「……はぁ」

溜め息が漏れる。
才能の差は言い訳、なのだろうか。
無論、自分が恵まれていないとは思わない。それなりに丈夫な体を与えられ、人間と言う種族の範疇においてはそこそこのスペックを誇るはずだ。
が、格の違う存在を目の当たりにした。
いや、それだけなら救いはあっただろう。まだ別の方向を切り口に出来た。
が……無念無想まで見せつけられるとは。
無論、あの無念無想は霜月流のそれとは違う。そもそも無念無想の遣い方が根本的に違う。
が……類似の境地を見せつけられたことに、ショックを隠せずにいた。

霜月 零 > 左手に握りしめた刀をじっと見つめる。
自分の中に浮かんだのは「刀ってなんだ」と言う疑問だった。
自分が魂を注いで鍛え上げてきた、剣の技術。
それは何のためにあったのか。それは何をするために存在するのか。
失意の中で、そんなことに思いを馳せていた。

「どーすりゃいいんだろうなぁ……」

呟く。
体幹を鍛えるとか、剣技に年季を加えるとか。
それで、この『身体能力の差』は埋まるのだろうか。
いや、もはやそんなことすらどうでもいい。
自分が剣を取ることに意味はあるのだろうか。
そんなところまで、思い悩んでしまっていた。

霜月 零 > すら、と刀を抜き放ち、月光に照らす。
刀とは何をするものなのだろう。
守るものか。打ち倒すものか。ただ極めるものか。
刀の……剣の本質とは、なんなのだ。
思考は、巡り巡ってそんなところに到達してしまっていた。

「お前さ、何がしたいんだ?」

付喪神に成ったわけでもなし、返事などあるわけがない。
だが、ぼうっとしたまま刀に問いかける。

「俺は、出来ればお前を上手く使ってやりたいんだけどな。お前は、どうやって使ってほしい?」

返事などない。
ただ、己の思考をまとめるために問いかけ続けた。

ご案内:「浜辺」に雪城 氷架さんが現れました。
雪城 氷架 > 「わぁーッッ!!」

突然後ろから大きな声がかかる

霜月 零 > 「うおぉっ!?」

びく、として立ち上がり、振り向いてとっさに平正眼に構える。
声の主が誰だとかそういう問題ではなく、単なる脊髄反射による行動だった。

「な、なんだなんだ!?」

雪城 氷架 > 「うわっ!」

刀をつきつけられる位置にいた、思わず転倒して尻もちをついてしまう

霜月 零 > 「ひょ、氷架!?何やってんだお前!?」

刀を納めて慌てて抱き起す。
いやほんとに何をしているんだこんなところで。

雪城 氷架 > 「や、なんか見かけたからついてきてみたら…なんか刀に話しかけてる変な奴がいたんで」

起こされながらそんなことを言う
なのでつい脅かしてみたらこうなったというわけだ

霜月 零 > 「へ、変なやつってお前……」

そりゃあ変だろうけど。だからと言って後ろから脅かすのはいかがなものか。
下手をすれば斬り伏せていたかもしれないというのに。非常に危険である。

雪城 氷架 > 「それで?何をしょぼくれてたんだよ」

変なやつ扱いにはそれ以上言及せず、零の横にちょこんと座り込む
制服が汚れるとかは最近気にしなくなったようだ

分子レベルで汚れを除去なんてこともできる便利な異能です

霜月 零 > 「あ、あー、いやな……」

ばれてた。まあ、確かに覇気のない姿だっただろうから、簡単にわかってしまったのだろう。
少し言いよどんで、しかし、隠し事はしたくないので素直に話すことにする。

「完膚なきまでに負けてな。ついでに、目指してた境地に近いものを見せつけられた。身体能力の差まで考えると、俺じゃああいつには追いつけそうもない。
そう考えると……俺が剣を取る意味って何かな、って、わかんなくなっちまってさ」

寂しいような、悲しいような。
そんな目と声で嘆きを口にした。

雪城 氷架 > 「は?」
なんだかすごい顔をする氷架
文字通り 何言ってるんだコイツ と言った顔

「あ、あのさぁ零…。私も零に美味しいお弁当食べてもらおうと思って料理の練習してて、
 零には絶対叶わないって自分でわかってるわけなんだけど…
 そういうのって零にとっては意味がわからないことになるのか…?」

霜月 零 > 「あ、いや、そういうわけじゃないんだけどな……」

自分でも首をひねって考え直してみる。
確かに無茶苦茶だ、別に一番になれないから意味がないというわけではない。
だが、確かに大きな失意を感じたのだ。これは……

「なんだろうな……自分でもはっきりとわかんねぇんだけど……多分、呑まれたんだ。
あいつ、無念無想を『単なる技術』と言い切りやがった。俺が必死に目指してたものを、だ。
それで、俺に反応を許さない神速の居合。あんなのもう、居合って言葉でくくるのが間違いに思えるレベルだ。
それで圧倒されて……心が、ちと折れそうなんだよ」

情けない事を言っている、と言う自覚はある。
恋人の前で見栄を張ることすら出来ず、甘えるように弱音を吐きだしている。
そんな自分がなおさら情けなくて、なおさら心がひしいでしまう。

雪城 氷架 > 「ふーん……」
零の言わんとしていることはわかる
その心情もよくわかる
世の中には自分が苦労して目指すものを、自然にこなし身に付けてしまう者がいるのだ

「じゃあ、少しだけ甘えてよし!」
そう言って、例の頭を自分の胸元にむぎゅっと抱え込む氷架

霜月 零 > 「うわっ!?」

突然のことに抵抗できず、そのまま抱え込まれる。
最初は慌てていたが、抱え込まれると力を抜き、腕を回して抱き着くようにする。

「……悪い」

そして、そのままぽつりと口にした。

雪城 氷架 > 「お、今日は『すまん』じゃないんだな」
茶化すような声が頭上から聞こえるだろう

抱き込んだままなんとなくいつもされるように、今日は逆にその手で零の頭を撫でる

「おっぱい小さくて悪いけど、まぁしばらくそうしてるといいよ。
 人間の心なんてちょっとしたことで傷ついたり沈んだりするものなんだ」

そう、挫折に限らず、いつでも、どこでも
そんな脆い心を持った生き物なのだ

「そういう時に慰めてもらう貯めに友達とか家族とか、恋人とかいるんだよ。
 わざわざ心が怪我してる時に難しいこと考えなくたっていいんだ。治ってからゆっくりじっくり向きあえばいいんだよ」

霜月 零 > 「……ありがとな」

優しい言葉に礼を返す。
顔には決して大きくはないが、確かな膨らみが押し付けられ、頭はあやすように、癒すように撫でられている。
恥ずかしい恰好なのだという事はわかる。人に見られたら顔から火が出る羽目になるだろう。
だが……心地よかった。
思えば、こうやって誰かに心底甘えてしまうのはいつぶりだったか。ひしいだ心が癒されていく感覚がする。

「……あれ?」

慟哭しているわけではない。ただただ心安く身を委ねている。ただそれだけなのに、目から涙が零れた。
自分でも理由がわからず、そのまま少し困惑してしまう。

雪城 氷架 > 「うん」
謙遜も、遠慮もしない。ただそのありがとうと言う言葉を肯定する
零は、兄貴だ
芙蓉の兄貴。男兄として生まれると、誰かに甘えを許される機会はあまりないんだろう
親ならば別であろうが、この年になれば、尚のこと
ゆるりゆるりとその頭を撫で付ける
誰も見ていない、というのもあるのか、不思議と恥ずかしくはない

「私ってさ、すぐ誰かと自分を比較したりして、
 此処に来る前は…ううん、ここに来てからも、自分が落ちこぼれにしか思えなくってさ。
 括流とか、来島の兄貴とか、お母さんとか、友達とか……多分誰が欠けても今みたいにはなれなかったろうなって思うんだ。
 今はそれに零も加わってる。
 同じテスト受けたって同じ答え書いたって、そこに至る考えとか、色々違ったりするじゃん。
 零の剣とソイツの剣、零の見てるものとソイツの見てるものは違うものだよ。
 だって零はソイツじゃないし」

抱きかかえた零に向ける言葉は静かに、淡々と、それでもどこか優しげに語られる

霜月 零 > 「俺は俺、か……」

身を預けながら、言葉の意味を咀嚼する。
人はついつい、他者と比較して己の価値を決定してしまいがちだ。
だが、人の価値とはまず己自身で定義するもの。
その個々人にはそれぞれ違った歩みがあり、過程がある。
結果が似通っていたからと言って、本質が同じわけではない。
だから、必要以上に比べて落ち込む必要などない。
天上天下唯我独尊。この世界に己と言う存在はただ己自身しか存在せず、故にこそそれは尊いものだ。
他者に比べて劣っているからと言って、その本人の価値が揺らぐわけではない。
少なくとも雪城氷架にとって、霜月零は大きな価値がある。
きっと、そう言ってくれているのだろう。

「そっか。別に気にすること、なかったんだな」

雪城 氷架 > 「そうだよ」
少しだけ抱きかかえる力が強くなる

「零の剣は私の事を助けてくれた剣だった。
 意味があるのかなんて寂しいこと言うなよな」

顛末は、後から聞いたことしか知らない
それでもあの炎の巨人事件の時に自分を救ってくれた力の一つが、
この霜月零の力だったことは紛れも無い事実で
乙女チックなことを言えば、今だからこそ運命的なものも感じていた

霜月 零 > 「ああ、そうだったな」

あそこにはたくさんの人がいた。
ただその中に霜月零がたまたまいた。ただそれだけのことと言えば、ただそれだけのことだ。
だが、自分はたまたまとはいえあの場に巻き込まれ、誰とも知らぬ少女を助けるために剣を振るった。
その助け出した少女が、今自身の恋人である。

「俺の剣は、氷架を助けた剣だ」

自分の大事な、掛け替えのない人。
そんな人を守れるなど、これ以上の誉れがあろうか。
なら、それでいいのだ。それだけの価値があれば、霜月零はこれからも剣士としてやっていける。
単純なのかもしれない。でも、やっと霜月零が自分に認めてやれた、大事な大事な価値なのだ。

雪城 氷架 > 「そうだよ。
 これにこれからも守ってくれないと困るんだからな」
ぐしぐし、と少し強めに頭を撫でて、零を開放する

「…す、少しは元気出た…か?」
なんだか終わったら少し恥ずかしくなってきたらしく、目線をそらす

霜月 零 > 「……ああ、ばっちりだ」

目元の涙をぬぐって笑いかける。
答えは得た。
これからまた迷う事もあるだろうが、それでもこの答えを抱き続ける限り、霜月零は頑張っていけるだろう。

「ありがとな」

目を逸らさずはっきりと、笑顔で感謝を告げる。
先程とは違い、はっきりと、しっかりと。

雪城 氷架 > 「なら良し!」
にこっと笑いかけて立ち上がる
スカートのお尻をぱたぱたとはたいて

「バイト帰りなんだ、もう遅いし寮まで送ってってよ」
そう言いつつ、零よりは一回りも小さな手を伸ばす

霜月 零 > 「おう、任せとけ」

笑顔でその手を取り、そのまま思い切って腕を絡めてしまう。

「ついでだ、こんくらいいいだろ?」

吹っ切れたような笑みのまま、そんなことを口にする。

雪城 氷架 > 「いいよ、零はスキンシップ大好きだもんなー、やらしーなー」

───そんな巫山戯あうような言葉を交わしながら、二人は帰路につくのだった

ご案内:「浜辺」から雪城 氷架さんが去りました。
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