2016/05/23 のログ
赤城 雪子 > 静かな海の光景。

ただし、白い布に描かれているのは、それと非なる光景。

灰色で塗られた空。
どす黒く、赤い色んなものが突き出されたまっ平らの地面か水面か。

それを取り巻く黒塗りの無数の人影。

女子生徒は目の前の海を見ながら、虚ろな目で別の何かを見ていた。

赤城 雪子 > 「るー……   ん、ぅ……  」

絵の具で赤を足して、黒を足して、白を足して
青を足して、黄色を足して  それを塗り潰して

重ねて、重ねて、違うものを描いていく。
毎日毎晩、朝に昼に夜に、頭に流れ込んでくるものを。

吐き出すように、少しでも、軽くするように、そうなるように
筆を動かして白い布を絵の具で塗り潰していく。

赤城 雪子 > 2時間か、3時間か過ぎた頃。

完成したのは、目の前の穏やかな光景とは似ても似つかぬ地獄絵図。

灰色の空は裂け、赤い火が流れ落ち
黒い水面は焼き焦がれ
しかし、火の滝に縋るように寄る奇怪な亡者の群れ

水面の下に映る巨大な白い目

筆を止め、じっと自分の描き上げたものを女子生徒が見る。
ぼんやりとではなく、意識の入った目で見る。

「…………   汚い。」

何かを言いかけて、飲み込んだ後、一言だけ呟いて、立ち上がる。

赤城 雪子 > 画板の端を掴んで、振り上げる。

頭痛を堪えるように何度か頭を振って そのまま海へと投げ捨てる。

貧弱な腕で大した距離を投げられるわけでもない
波間に落ちた絵は、生乾きだった絵の具が滲んで、混沌とした絵を更に意味の不明なものとするだろう。

水の中に落ちたのを少しの間眺めて、ふぅ と息を吐いた。

「…………少し楽になった。
 少しだけ。」

筆を乱暴に傍らの箱に放り込み、のろのろとした動作で片付ける。
星明りに生まれた自分の影の、腕だけを伸ばさせて手伝わせる。

椅子と、イーゼルと、画材の入った袋を持たせる。

すぐに帰り支度は終わる。

赤城 雪子 > 海に背を向けて、浜辺を さく さく と踏んで、帰路に着く。
影の手を従えて、帰路に着く。

波間に漂う、捨てた絵を省みることはなく。

ご案内:「浜辺」から赤城 雪子さんが去りました。