2016/05/23 のログ
■赤城 雪子 > 静かな海の光景。
ただし、白い布に描かれているのは、それと非なる光景。
灰色で塗られた空。
どす黒く、赤い色んなものが突き出されたまっ平らの地面か水面か。
それを取り巻く黒塗りの無数の人影。
女子生徒は目の前の海を見ながら、虚ろな目で別の何かを見ていた。
■赤城 雪子 > 「るー…… ん、ぅ…… 」
絵の具で赤を足して、黒を足して、白を足して
青を足して、黄色を足して それを塗り潰して
重ねて、重ねて、違うものを描いていく。
毎日毎晩、朝に昼に夜に、頭に流れ込んでくるものを。
吐き出すように、少しでも、軽くするように、そうなるように
筆を動かして白い布を絵の具で塗り潰していく。
■赤城 雪子 > 2時間か、3時間か過ぎた頃。
完成したのは、目の前の穏やかな光景とは似ても似つかぬ地獄絵図。
灰色の空は裂け、赤い火が流れ落ち
黒い水面は焼き焦がれ
しかし、火の滝に縋るように寄る奇怪な亡者の群れ
水面の下に映る巨大な白い目
筆を止め、じっと自分の描き上げたものを女子生徒が見る。
ぼんやりとではなく、意識の入った目で見る。
「………… 汚い。」
何かを言いかけて、飲み込んだ後、一言だけ呟いて、立ち上がる。
■赤城 雪子 > 画板の端を掴んで、振り上げる。
頭痛を堪えるように何度か頭を振って そのまま海へと投げ捨てる。
貧弱な腕で大した距離を投げられるわけでもない
波間に落ちた絵は、生乾きだった絵の具が滲んで、混沌とした絵を更に意味の不明なものとするだろう。
水の中に落ちたのを少しの間眺めて、ふぅ と息を吐いた。
「…………少し楽になった。
少しだけ。」
筆を乱暴に傍らの箱に放り込み、のろのろとした動作で片付ける。
星明りに生まれた自分の影の、腕だけを伸ばさせて手伝わせる。
椅子と、イーゼルと、画材の入った袋を持たせる。
すぐに帰り支度は終わる。
■赤城 雪子 > 海に背を向けて、浜辺を さく さく と踏んで、帰路に着く。
影の手を従えて、帰路に着く。
波間に漂う、捨てた絵を省みることはなく。
ご案内:「浜辺」から赤城 雪子さんが去りました。