2016/06/09 のログ
ご案内:「浜辺」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
夕方の浜辺。
比較的高度の低い位置で浮遊する。
おおよそ5メートルといったところか。
「……ふーむ」
夕暮れを眺めながら、小さくうなる。
その残照は海の果て、この身を赤く染め始める程度に。
「……平和だな……」
呟く。
静かに、しみじみと。
ご案内:「浜辺」に八雲咲雪さんが現れました。
■八雲咲雪 > 今日も今日とて、講義が終わり着替えて浜辺にやってきた。
通常飛行で空を飛びながら、浜辺に下りたとうとする、が
(……あ)
既に浜辺には人がいた。
いるといっても、浮いていたが。
いつか、どこかで会った人だ。
すー、と滑るようにゆっくりと男性に近づく。
■寄月 秋輝 >
すい、と後ろを振り向いた。
魔力の流れ、風の揺らぎ、光の動き、いずれかで察知した。
「こんばんは。
練習ですか?」
空中で振り向いても揺るがぬ姿勢。
体幹がしっかりしている。
■八雲咲雪 > 「こんばんは」
ある程度近づいたところで止まり、ぺこりとお辞儀をする。
――バランスがしっかり取れている。
飛行魔法のおかげか。
それとも努力か。
少しだけ寄月をじっとみてから、コクリと頷く。
「練習です。
今日は天気も悪くはなかったので、海のほうでできるかなって思って」
■寄月 秋輝 >
「なるほど、精が出ますね。
僕も少し訓練がてらの息抜きですから……
見てみましょうか、あなたの飛び方を」
先日は超高高度から見ていただけのものだったからか、正しい裁定が下せたとは言い難い。
もう一度ちゃんと見てみたいのだ。
■八雲咲雪 > 「……」
男性の言葉に少しだけ迷いを見せる。
大きなお世話、といえば簡単だが、正直他人から意見をもらえるのはこの上なくありがたい。
姿勢も、知識も、全て独学。
全国大会に出れるほどの実力になっても、自分では、自分の中の理想の飛び方とかけ離れていると自覚している。
故に――
「お願いします。
あまり、綺麗じゃないかもしれませんが。
悪いところがあれば言ってください」
再び、ぺこりと頭を下げて、飛ぶ姿勢を作る。
前傾姿勢になり、いつでも飛び出せるような姿勢。
■寄月 秋輝 >
「はい、ありがとうございます」
人の飛行モーションを見るなど、あまりないことだ。
だが、それが好きなのだ。
「大丈夫ですよ、僕もそんなに偉そうなことは言えません。
それでも……きっと空を飛んだ回数は、引けを取らない」
ふ、と目を細めて小さく笑った。
じっと咲雪を見つめる。
■八雲咲雪 > 空を飛んだ回数なら、自分だって負けない。
そんな思いを、しかし言葉には出さず。
そんな言葉はいらない。今から示せばいいのだ。
「――いきますっ」
強く発した言葉。
それが合図となり、飛び出す。
スタートダッシュではないものの、それなりに速力を持って。
姿勢をみてもらうため、いろんな技を行ないながらも速力はそれほどだしていない。
それでも、最高速度の七割程度。
普通の人が見れば十分に早いと思える速度で、魔力で構成された飛行機雲を残しながら飛び続ける。
■寄月 秋輝 >
じっと見つめる。
風を切り飛んでいく少女を見て、わずかに目を細めた。
(悪くない)
という評価。
彼自身、一応あれからエアースイムの動画を漁ってみた。
それと自分の経験と照らし合わせて、そう思う。
(悪くない、けど)
まだまだ。
まだ、伸ばせる。
彼女はまだ早く、美しく飛べる。
微笑んだ。
■八雲咲雪 > 空を飛ぶのが楽しい。
子供の頃からずっと変わらぬ思いが、今も芽生え続けている。
空を飛んでいれば嫌なことは忘れられた。
先生に怒られたときも、友達と喧嘩したときも。
嫌なことはすべて忘れられた――けど。
(……っ)
不意に、思い出す。
競技を知り。
勝負を知り。
敗北を知った。
空を飛び続けるのは変わらず楽しい。
けれど、その楽しさに、勝負という概念がつきはじめた。
ただ飛ぶだけじゃ足りなくなり。
より速く。より強く。
相手を負かさなきゃ、楽しく飛べなくなっていた。
――飛ぶ速度を速める。
■寄月 秋輝 >
(まだ加速出来るのか)
少し驚いた様子で見つめ続ける。
速度は、まぁ十分。
おそらく競技に出ても遜色ないだろう。
じっと、じっと見つめる。
彼女がこちらに来るまで、それは続く。
■八雲咲雪 > (もっと速く)
背中のS-Wingに魔力をさらに籠める。
自分ならもっと速くいける。
速く飛べると信じて。
いつからか、スペック上の速度限界まで達し、飛び続ける。
けれど、世界の強豪たちはこの速度をもってしても勝てなかった。
(もっと、速くっ)
早くなるために。勝つために。飛び続けるために。
もっと、もっともっと、もっと!
ふと、S-Wingが緊急停止する。
途切れる白い飛行機雲。
S-Wingが急に止まったことに驚きながら、咲雪は空を舞う。
慣性に従い、くるくると。
■寄月 秋輝 >
(……速いけど…)
速いのだが、少しおかしい。
速い、だけだ。
その速さを生かせる飛び方をしていない。
そう考えた矢先、少女が失速する。
「む」
小さく、声を『残し』て飛翔する。
音速を越え、まるで稲妻のように早く。
直線で追い、わずかなズレを直角軌道で修正。
咲雪が少しだけ落ちた先で待ちかまえ、抱きとめるか。
■八雲咲雪 > (あっ……)
くるくる、くるくる。
めまぐるしく情景が変わる中、冷えていく思考。
飛んでいるときに芽生えた熱い思考は消え去り、今はいつもの冷たい思考が流れ込んでいた。
緊急停止したS-Wingはまだ起動できず、ただぼうっと変わる情景を眺めながら。
「……あ」
柔らかい…いや、硬いところにおちる。
それが人の体だと気付くのは5秒もたってからで。
「……ありがとうございます」
先にお礼を言う。
■寄月 秋輝 >
秋輝に抱かれればわかるだろう。
その体は、尋常ではなく鍛えられ、まるで鉄のように固いこと。
「焦りましたね」
小さな笑顔を浮かべたまま、おいたをした子供を叱咤するように、優しく囁いた。
状態が安定したなら、すぐに咲雪を離すだろう。
「素晴らしい飛行術です。
実際僕から言うことなんてあまりないでしょうね」
つい、と上を指さし、少し高くまで浮遊していく。
ついてこい、という意味だろう。
■八雲咲雪 > S-Wingが再起動する。
先ほどの緊急停止の原因は分かっている。
魔力を籠めすぎて、壊れないようにシステムが勝手に止めたのだろう。
「……ごめんなさい」
寄月の焦った、という言葉に目を伏せる。
途中から見られていたというのも忘れていたかもしれない。
寄月の体から下ろされ、褒められたような言葉を投げられても、起こられているように聞こえた。
彼が上に指をむけて高く飛んでいけば、追従するように飛び出す。
■寄月 秋輝 >
「少しだけ、心持ちに余裕がありませんね。
まるで僕が空で戦っているときのようでした」
咲雪が飛べる限界高度まで付き合い、そこで止まる。
「今あなたは、空を飛ぶのは楽しいですか?」
少しだけ近付き、優しげに尋ねる。
女性のような顔立ちが、沈みかけた夕日に照らされている。
■八雲咲雪 > ふわり、と浮かぶ。
夕日に照らされた彼の顔は、まぶしかった。
「……楽しい、です」
詰まった答え。若干、目を伏せて答える。
嘘ではない。
だけれど、正確でもない。
空を飛んで、勝った時、楽しい。
果たしてそれは、子供の頃感じていた感情と同じだろうか。
■寄月 秋輝 >
「昔の僕と同じ顔をしていますね」
今の秋輝の顔は、どう映っているかわからない。
けれど、少女の顔はよく見える。
「僕より速い人には抜かされ、僕より強い人には負かされてきました。
まぁ正直楽しくはなかったですね。
結局僕は、誰にも勝てなかったので」
くすくすと笑いながら語る。
敗北の歴史から、少しだけ解き放たれた男の笑顔。
「でもね、ひとつだけ。
ひとつだけ、僕にしか見れないものがあったんですよ。
僕より強く速い子が見たことのない景色が」
手を差し出す。
その手を掴めば、再び抱き寄せられるだろう。
■八雲咲雪 > 「……」
それは、混ざり気のない笑顔。
なぜ笑えるのだろう。
彼はもう強いからか。
でも彼は、今勝てなかったといった。
じゃあ彼はどうやってそれを乗り越えた。
その答えを、知りたい。
「……」
ゆっくり、恐る恐る手をとれば、抱き寄せられる。
先ほどの硬いからだに抱かれ。
不思議そうな目で彼を見上げる。
■寄月 秋輝 >
抱きしめると、一瞬で秋輝の顔が笑みのまま、少し引き締まった。
優しい女性のそれから、精悍な男性のそれへ。
一瞬で音の速度を超え、すさまじい速度でまっすぐ天空へ飛び上がる。
不思議と風の抵抗は一切なく、ぐんぐんと雲に近付き。
雲へ突入し。
雲を貫き。
はるか上空。
見下ろせば雲海、見上げれば夕日の落ちかけた星空。
阻む者の何もない『空』。
■八雲咲雪 > 速い。
そんな感覚すら置いていき、気付けばそこは満天の星。
いつも飛んでいる空を越えた、更に先の空。
「……きれい」
星が近い。
空を飛び続けて何年にもなる。
それでも、この星の近さは初めてだった。
小さく呟き、星をみる。
■寄月 秋輝 >
「綺麗に見えますか?」
そこは高度一万五千メートル。
雲すら存在しない、空気も恐ろしく薄い、氷点下四十度を下回る人の存在できない空間。
今は秋輝の魔術で空気からも冷気からも守られているが、紛れも無くここは今、二人だけの世界。
「僕はここへ来て、自分を思い出します。
美しい空を、自分の跳び続ける意味を、戦う意味を。
僕だけが見れる、この世界を見て」
手を体を離しはしない。
離せば、少女はこの空間では生きてはいけない。
「……それでも、僕に見えるこの空と、咲雪さんに見えるこの空はきっと違う。
ですから、あなたの心にこの風景はしまっておいてください。
この風景が、あなたの求めた世界で……あなたの大切な世界であるように」
■八雲咲雪 > ああ、なんだ。そんなことだったのか。
そんな風に思い、そして安堵する。
彼も自分と同じだった。
空を見て、自分を知ったんだ。
私が、あの星空を見たときのように。
自分を見つけ出した、あの空を見て。
「――つれて来てくれて、ありがとうございます。
あなただけの世界、すごく、綺麗です」
おそらくはもう二度と見ることはないだろうけど。
でも、二度と忘れないだろう。
咲雪がみた世界の、更に先にある世界を。
■寄月 秋輝 >
「……もう一度、飛ぶ理由を見つけてください。
そしてあなたの飛べる空を、ちゃんと楽しく……
そう、誰よりも楽しく飛べるようになったら。
装置はそのままに、もっと速く飛べるようになる方法をお教えします」
微笑みながら、そう囁いた。
その言葉は自信に満ち溢れていた。
「……あなたがもし、世界で一番楽しく……僕より楽しんで飛べるようになったら。
その時にまた、ここに連れてきますよ。
きっとその時はまた、見える世界が違って見える」
そう言い切ると、今度は急降下していく。
再び雲を貫き、眼下に広がる島が、海が近付いてくる。
先ほど咲雪が飛んでいた高度まで一気に下りてきた。
■八雲咲雪 > 誰よりも、楽しく。
簡単なようで難しい条件。
だけれど、不思議とそんなに時間はかからない気がする。
自信も根拠もないけれど、そんな気がするのだ。
ふわりと笑顔を浮かべ、
「楽しみにしてるから。
約束、破らないでね」
彼へ小指を向ける。
約束を守らせるためのまじないをもとめる。