2016/06/14 のログ
ご案内:「浜辺」に霧依さんが現れました。
霧依 > 麦わら帽子に青と白のストライプパーカーを身に纏い、浜辺の側の堤防の上に腰掛ける人影一つ。
風の吹くまま思うまま、明日は明日の風が吹く。

自由人の女は、釣り竿を軽く片手で揺らし。
リュックの中から取り出したお酒を軽く口に含む。

未成年ではない、ってことになっているはずだ。


「いい風だけれど、なかなか結果はついてこないものだね。」

通り抜ける風を心地よさそうに受けながらも、釣果の方はまさしく海坊主。

ご案内:「浜辺」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > 日課のランニングで訪れた海辺に、何やら釣りを嗜んでいる風の姿を見つければ。
同好の士だろうか、と少しだけ興味が沸いたようで額の汗を首から下げたタオルで拭って進行方向を其方へ向ける。

「釣れますかー?」

一歩、二歩、と小さい助走の後に堤防に跳び乗って、
そのまま小走りに釣り人へと近付いて行った。
極力足音と声量は抑え目で。集まった魚が逃げない様に。

霧依 > 「いいや、あまり釣れないね。」

穏やかな声をしながら視線を送って、僅かに柔らかく微笑む。
特に釣れるかどうかに集中している気配も無く、特に視線は海面に向けず。

「東雲先輩は、本当に努力をしているところだったかな。
 僕はこの調子で、ちょっと自主的に研究って名目にして、遊んでいるんだ。」

上半身はパーカーを羽織ったままだが、下半身は水着のみ。
糸を垂らしつつ日光浴、後で飛び込んで自分でかかるかな、なんて、朗らかに笑う。

東雲七生 > 「あ、霧依だったんだ……よっす。」

微笑に対して満面の笑みを返す。
ランニングの最中で上気した顔を少し冷まそうと、一、二度頭を振って。

「まあ、遊びも大事だと思うけど……授業の方は大丈夫?」

身近に出席すら十分にしない不良が居るからか、少し心配になってしまう。
訊ねながら霧依の姿を改めて見て、下半身がほぼ素足である事に気付いた様だ。
遠めに見て解らなかったらしく、あたふたと視線を逸らしながら、

「そ、それに、まだ水着を着るには早過ぎねえかなあ……?」

海開きもまだひと月以上先だし、と。

霧依 > やあ、と満面の笑みを受け止めながら、隣をぽんぽん、と叩いて。

「この席が偶然空いている。相席は今なら時間無制限で無料だよ。」

なんて、涼しげな顔で答えて足を組み。
授業の質問には、苦笑しながら首を振って。

「大丈夫だよ、ちゃあんと学ぶことは学んでいるし、卒業はできないと困ってしまう。

 ………そうかな?
 日に一日照らされていると、海に飛び込みたくなるものだしね。」

相手の声色と視線に、くすくすと笑ってしまい。

「足くらいで恥ずかしがっちゃいけない。これを脱いだらもっと刺激的なんだから。
 どうにも、おもしろいものを見つけると後先考えずやってしまう癖があってね。」

ボタン2つで前で留められているパーカーを引っ張りながら、軽くウィンク。

東雲七生 > 「普段は金取ってるの?」

訝しげに叩かれたコンクリートを見て、
皮肉るというよりは、本当に疑問に思ってる様な調子で尋ねつつ、海に足を投げ出す様に腰を下ろした。

「それなら良いけどさっ。
 ……そういやさ、霧依はどうして学園に?何か事情でもあって?

 ……飛び込みたくなったとしても、まだ海の水は冷たいだろー?
 天気が良くっても、流石に山の水は冷たいし。」

それとも慣れてるのだろうか、と視線を海面へと向けて。
思えば先日学校で幾らか話をした程度で、相手の事は全然知らないな、と思ったところで、

「は、恥ずかしがってねーし!驚いただけだし!
 ……どうせ上も水着なんでしょ、変な言い方するなよなー。」

赤くなった顔を見せないようにと、ふいっとそっぽを向いてしまう。
どうにも掴みどころのない人だな、と内心で溜息を溢す。

霧依 > 「どうだろう、本当に座られたくない時は取るかもしれないね?」

疑問を受け止めながら、特に気にした様子も無く、隣に座る少年。
まだ汗かいてるよ、と彼のタオルを片手で持って、ぐい、と拭いてあげ。

「東雲先輩のような先輩に会うためかな。」

即座の返しがこれである。
その上で、少しだけ間を置いて。

「いやなに………。
 いろいろな場所を見て回っているうちに不思議な力に目覚めた、と言えば聞こえはいいかな。
 しょうもない力ではあるけれど、この島ほどにこの手のことに詳しい場所は無いと聞いてね。

 だから、いろいろ知るため。
 結局入ってみて、よく分からないってことには気がついたけれど。

 でも、ここはおもしろいことがたくさんあるから気に入ってるんだ。


 …まだ、そんなに冷たいかな。
 もしかしたら暑い肌がきゅっと冷えて、とっても気持ちいいかもしれないよ。」

しっとりとした声で囁きつつ、ぺろりと意地悪に笑って。

「正解、上も水着だよ。
 変な言い方をしているかどうか、ちょっと見てみるかい。」

言いながら、パーカーの紐をしゅるりと解いてボタンを外し。
ひらりと開けば、ワンピース型の普通のモノクロ水着………のように見えつつも。
肩辺りから真下にざっくりとスリットが………一番下まで。
素肌をそのスリットの隙間から晒しつつ、ところどころが黒いリボンで結ばれて留められて。

「こっちの店はおもしろいものを作るよね。」

笑う女。釣り竿は全く揺れない。

東雲七生 > 「そんな事して、変な人に絡まれても知ら……わ、ぷ。」

やれやれ、と言わんばかりに先輩ぶって肩を竦めようとした矢先。
強引に汗を拭かれて言葉が途絶え、不満げに口を尖らせながら「ありがと」と礼を言う顔があった。

「はいはい、俺みたいな先輩なんかいっぱい居るっしょ。

 ……不思議な力?しょうもない力なの?
 それなら確かにこの島だったら何か解るかもって思うけど……それでも解んなかったんだ?」

どういうことだろう、と首を傾げる。
この島に来ても解らない力、というものに少しだけ興味が沸く。

「うん、ここは面白いよなっ。
 俺も学校行ってる時以外はあちこち行ってるけどさ、毎日飽きないんだ。」

へへ、と初めて描いた絵を褒められた子供の様に喜びつつ。
自分もそうなんだ、とこくこく頷いた。

「肌どころか、血管が縮まっちゃうよ。
 海開きまで、プールで我慢しときなよ。プールで。

 って、別に確認なんて──」

何だか先輩風を吹かそうとするタイミングで決まって邪魔をされてる気がする。
そんな事を思いつつも、真横で水着姿を見せつけられれば。

「お、面白いのかどうか分かんねえけど!
 えっと、あの、とりあえずもうしまえって!」

水着という時点で七生にとって刺激的だということには違いないので、
彼女の言は正しかった事になるのだが。何だか認めたくない七生だった。

霧依 > 「大丈夫だよ、僕がもう変なのだからさ。
 それでも心配してくれるのなら、東雲先輩は優しいね。」

そのまま手を伸ばして、頭をぽんぽんと撫でる。
長身な彼女と並べば、少年らしさが際立つかもしれない。

「そうだね、毎日飽きない。
 自然も多いし、それなりに広くて。
 明るい太陽のような場所もあれば、月夜のようにしっとりとした美しさもあり。
 それでいて、月明かりすら差さないような暗闇もある。

 しばらくは退屈せずに済みそうだ。」

相手の声に苦笑しながらパーカーを羽織り直して、紐で軽く結び。


「しょーもない能力だよ。
 まあ、僕らしいといえば僕らしいとも言えるから、どうだろうね。
 例えば。」

そっと手を伸ばして彼の背中に触れ。
抵抗がなければ、すう、と着ている衣服を通り抜けて、細い指が背筋をつ、っとなぞるだろう。

「好きな男の子や女の子の肌を触りたいだけ触る能力かな。」

堂々とそんなことを言って、涼しげな顔のまま、さ、っと手を引いてしまい。

東雲七生 > 「うぐ……むー、子供扱いするなよな。
 一応先輩なんすけどー。」

頭を撫でられ、輪を掛けて不満そうな顔になる。
汗で濡れた髪は流石に平時のふわふわ感は大幅に減っていた。
たがいに座ってもなお聳える高低差に七生の不満が少し増す。

「でも、面白いとこもあるけど、危ないとこもいっぱいあるから。
 ちゃんと気を付けなよ?」

パーカーが羽織り直されたのを確認してから、向き直って。
ようやくまともに先輩らしく注意が出来た、と少し満足げだ。
が、

「ひゃぁ!?」

突然背中を、素肌を直になぞられて。
驚きのあまり裏返った声を上げる。咄嗟に口を手で覆って、恨めし気な視線を向けて。

「よーく分かった。
 ……物をすり抜けて触れられるのか。」

びっくりした、と溜息混じりに。

霧依 > 「先輩だろうと後輩だろうと、大人だろうと子供だろうと。
 撫でたいと思ったものを撫でるだけさ。

 可愛らしいものを目の前に何もしないのはストレスだもの。

 危ない所、っていうのは例えばどこなのかな。」

相手の言葉に、こっちは素知らぬ顔でそんなことを言う。
そのままの流れで相手の言葉に質問を返して、首を傾げ。


「触りたい人間の肌に自由に触れる能力さ。
 次はどこがいいかな。」

言いながら、指をゆらゆらと揺らして脅してみせる。
穏やかな微笑は冗談だと伝えてはいるけれど。どこからどこまでが本気なのかは茫洋として。


「知ろうと思ったけど、よく分からないと言われてね。

 東雲先輩も同じクチかな。 それとも、別世界から?」

相手がこちらを知ろうと言うなら、こちらも相手を知ろうとする。

東雲七生 > 「かーわーいーくーなーいー!
 先輩なんだから!せめて一言声掛けるとか!」

がー、と足をバタつかせながら吠える。それなりに不服だったらしい。
しかし、危ないところについて訊き返されれば、すぐに真面目な顔に戻り、

「落第街っていう、学校から見て歓楽街のもっと奥の方。
 時々風紀委員とか、公安委員が取締りしてるけど……基本的に無法地帯みたいだから。」

何されるか分かんないよ、とつとめて真剣な表情で告げる。
知り合いが危険な目に遭って欲しくない、と本気で訴える眼差しだ。

「な、なんかずるい……!」

ぐっ、と自分の体を抱くようにガードを試みる。
というか、予め来ることが分かっているなら対処も可能だ、と気づいて。
警戒する様に霧依の挙動をつぶさに観察する。じーっと。

「いや、俺はこっちの世界の出身……だと思う。
 能力もどういうものか、一応検査受けてはっきりしてるし。
 どうして此処に来たか……は、ええと……能力の、コントロールをちゃんとする……ため?」

痛い所を突かれてしまった、と顔に出る。
実際のところ記憶があやふやになっていて、この島に来る前の事は断言する事が出来ない。
そして七生の性格上、適当な嘘で誤魔化すということも、また出来ないのだ。

霧依 > 「じゃあ、触る時には何か言うから。
 我侭な先輩だなあ。 後輩だからちゃあんと、言うことは聞くけれどもね。」

不服そうであっても、相変わらず熱の無いさらりとした声と表情で後輩らしいことを言って。

「なんでも、ね。」

なんて、ウィンクを付け加える。
釣り竿はやっぱり、ぴくりとも動かない。

「………なるほどね、落第街か。気をつけておくとするよ。
 僕だって危ないことをするためにここに来たんじゃないからね。」

行かない、とは口にしないまま、手をゆるゆると動かして………
視線がじぃ、っとこちらを見ていることに気がつけば、しゅるり、とパーカーの紐を見せつけるように解いてやる。


「僕もコントロールをできるならするためでもあるから、同じといえば同じかもしれないね。
 だって、気がついたら地球の真ん中まですり抜けて行きましたとなったら、流石に怖いからね。
 バンジージャンプは戻ってくるから面白い。

 ………嗚呼、僕はどうも踏み込みすぎるところがあるから。
 思い出したくないことを思い出させたなら、ごめんね。」

あやふやなことを、記憶の混濁だと解釈する。
記憶の混濁は、嫌な記憶が原因ではないかと仮定する。
彼女は浮かぶ雲のようだけれど、物事を理詰めで考えることも、問題なくできる。

東雲七生 > 「んー、ならよし。
 ……何でもいう事聞くんなら、危ない目には遭わないようにね。」

言質とった、と言わんばかりにくぎを刺す。
本当に危ないんだから、と注視していたところでパーカーの紐が解けるのを見れば。
先の光景が思い起こされたか、慌てて顔を赤らめて目を逸らし。

「女の子は肌を安売りするもんじゃありませんって、本に書いてあった!」

ふしゃお、と威嚇にも似た声音で告げる。
どうにも調子が狂うな、と苦言を零しつつ、ふぅ、と息を吐いて。

「……それは、確かに怖いけど。
 え、物をすり抜けられるのは、手だけじゃないのか?

 ああ、いや、気にしないで。
 別に嫌なわけじゃなくて、何て言うんだろう……あんまり覚えてなくてさ。
 ここに来る前の事とか、その辺特に。」

嫌な想い出も良い思い出も、等しく闇の中である。
その要因が何であるかは、七生自身見当もつかないのだった。

霧依 > 「そりゃあ、もちろん。
 危ない目に遭おうと思う感覚はよく分からないからね。

 そこに見たいものがあれば行くけれど、怖い物を見るくらいなら可愛い子を見ていたいかな。」

釘を差されてもさらりとしたもの。
ふわりふわりと言いながら、横を向いた耳をぷに、と摘んで。
服の中には手を突っ込むことはしなかった。

「安売りなんてしちゃいないよ。
 暑い時は脱ぐし、寒い時は着込むだけ。
 ちょっとだけ暑がりなことは否定はしないけどね。

 ん、いや? ハグをしてみようか?」

手だけではない、ということを暗に肯定しながら手を広げて見せつつ。


「………ふぅん、成る程。
 じゃあ、東雲先輩は誰よりも強くなって、コントロールが出来たら、どうするのかな。」

過去は振り返らない。きっと何かあることは気がつくけれども。
肌の触れ合いに関しては躊躇なく踏み込む彼女は、心や記憶には彼女なりに繊細に。
身体よりも心のほうが壊れやすいことを、よおく知っている。

「僕はコントロールできるようになったら、世界中を旅して、可愛い女の子のお尻でも触って過ごすかな。」

からり、と笑う。浮雲だもの、重い空気にはならぬもの。

東雲七生 > 「それなら、良いけど……」

どうにも掴み所が無く、危なっかしい感じのするこの後輩は人の不安を煽ってくるな、と胸中で呟く。
まあ自分よりも年上なのだろうし、分別もそれなりに付いてるとは思うから杞憂だろう、と心境を切り替えようとして。

「だーかーらー、一声掛けろってば。」

摘ままれた耳は撞きたての餅のような柔らかさだった。
七生の場合、頬をはじめとして全身似たような肌触りである。もちもちだ。

「たとえ暑がりでも、流石に水着になるほど暑くないと思うけど。

 ハグ……って、す、するわけないだろ!霧依水着だし!
 もっと他に、何か証明できる方法ないのかよ!」

耳まで真っ赤にしながら断わる。当たり前と言えば当たり前だ。
とはいえ、別に証明されなかったところで肯定を信じるのだけれど。

「えっ……いや……
 ……あんまり目指す場所が遠いから、そっから先なんて考えた事もなかった……。」

ぱちぱち、と音がしそうなほどの瞬きを数度。
それから霧依のプランを聴いて、肩透かしを食らったように軽く体が傾いた。

「精々触られる側になって狼狽えないようになー。」

やれやれ、と。

霧依 > 「触ったよ、先輩。」

一声かけた。後から。触る前にかけるとは誰も言ってない。
好奇心の赴くままに足を運ぶ彼女は、警戒はしようとちゃんと心に決める。
警戒は。

「困ったな。全身ですり抜けると服が全部落ちるんだ。
 ここでやったら、流石の僕も少し困る。 夜寝る時には丁度いいんだけどね。」

断られればからりと笑って、そんなことを言う。
どうにもこの口は癖なのか、恥ずかしがる様子も無いままさらさらと言葉は流れ。


「これはきっと僕だけかもしれないけれど、思うんだ。
 目的地に辿り着くことが目標じゃあ無い。
 そこの美しい景色やら、風の匂いやら。
 そういうものを自分の中に詰め込んで、次の場所に向かうこと。
 それを好きなだけ繰り返すことが目標なんじゃないかなって。

 東雲先輩も外に出て、もっともっと色んなところを見ると、きっと楽しいよ。」

ゆるりと風が彼女を撫でて、その風のような言葉をふわりと浮かせて。


「触って確かめてみるかい。」

その上で、意地悪なことを抜かすのだ。

東雲七生 > 「前に!!」

本当にこの後輩は、と頭を抱える。
好奇心は何とやら、と言うらしいがこれでは何が殺されるか分かったもんじゃない。

「またそうやってすぐからかう……。
 まあいいよ、そういう事なら。手以外も通り抜けられるんだって思っとく。」

顔を真っ赤にしたまま、大仰に頷いて。
本人がそういうんだから、そうなんだろ。と無暗に疑う事すらしない。

「う、うん。
 俺も興味はあるよ、島の外も、日本の外も。
 この世界以外の世界も。だから、うん。そうだな。
 卒業したら、旅に出るのも良いかもしれない。」

潮風に吹かれながら、まだ見ぬ世界に想いを馳せる。

「──胸も尻も触んないよ!?」

穏やかな気持ちになったのもつかの間、慌てて女から距離を取ろうとして。
は、と間の抜けた声だけを残して、七生の姿は一瞬宙に浮いた。
しかしすぐに重力に従って、海へと落下していく。

霧依 > 「分かった分かった。ちゃんと触る前には言うよ。

 そうだね、僕にもどこまですり抜けられるのか分からないから不安になることはある。
 だから、この島に来たのだしね。」

頭を抱える様子に、ふふ、と笑う。
自称殺される猫。怖いものはあんまりない。


「素敵な場所はいくらでもあるよ。
 素敵な人もいくらでもいる。

 旅に出るなら教えてよ。 人が行きたくなる場所があるなら、僕も行ってみたいから。」

好奇心の塊は、さらりとそんなことを言って空を見上げ。


「あ。」

あんまりにもからかいすぎたらしい、堤防から滑り落ちるかのように落ちていくのを見れば、さ、っと手を伸ばして彼の身体を捕まえようとする。
捕まらないのならば、パーカーをひらりと脱ぎ捨てて、躊躇なく海へと飛び込むだろう。

東雲七生 > 伸ばされた手にこちらからも手を伸ばすが、如何せん距離を取ろうとしての結果なので届くことは無く。
腹の底が冷えるような落下の後は、全身が冷えるような夏前の海の中へ。どぽん、と不気味なほど飛沫も立てずに落ちた。

(……くっ、やっぱり冷て……っ)

一瞬体の動きが停まった為か、体脂肪の少ない身体は容易く沈んでいく。
着衣水泳の心得があるわけもなく、ぞわりと全身を怖気が包んだところで傍らにもう一人が飛び込んだ気配がした。

(霧……依……?)

驚く余裕も無いまま、藁にも縋る思いで再び手を伸ばす。

霧依 > さぱん、と音を立てて飛び込めば、縦に一筋素肌を晒した女が暗い海の中、目的の相手をゆらり、捕まえる。

水着だからか、得意だからか。
沈みかける相手が伸ばした手を引き寄せ、柔らかく掻き抱いて。
相手がパニックにならぬよう、ぎゅ、っと抱いたまま、ゆるりと浮き上がる。


「…ぷはっ………」

顔を出せば、少しだけ困ったような顔で胸の中の少年を見下ろして。

「ひどく驚かせてしまったみたいだね。
 大丈夫かい。 流石に申し訳ないな。」

ゆるりと水の中、滑るように泳ぎ始める。 あ、ちょっと神妙になった。


「………あ。 ……うん、触ったよ。」

やっぱり後から言った。

東雲七生 > 水を吸ったスニーカーが酷く重く、鉛でも付いているかのような錯覚に陥る。
伸ばした腕は無事に捕えて貰えたまでは良かったものの、そのまま掻き抱かれれば、
ごぽ、と少しだけ息を吐いて狼狽えるも、自分の状況をすぐに省みて大人しくなる。

水面に浮かび上がれば、僅かに肺に残っていた空気を入れ替えて。

「は、はぁっ……ご、ごめん。だ、だいじょう、……」

少し水を飲んだ所為か咳き込んでしまって言葉が続かず。
落ち着く前に泳ぎ出されてしまい、泳げることを主張するタイミングを逃して。
間近にやたら柔らかな感触を覚えながら牽引されるように運ばれていく。

「……え、あ、……うん。」

正直なところ、それどころではない。

霧依 > 「謝るのはこっちの方さ。
 先輩を堤防から突き落としたとあっちゃ、上級生に目をつけられてしまう。
 なんとか、黙っていてもらわないとね。」

抱く姿勢は変わらない。
冷たい水の中、出来る限り温めるように包み込んで、水の中を滑る。
押し付けたりとか? そりゃあするけど。

「………さ、そろそろ水から上がるから、僕の着替えで服を替えるといい。
 濡れた服より、いくらかマシだと思うよ。」

なんて言いながら………ちょっとだけ抱く力を強くして、埋める。


「でも、東雲先輩。
 僕はお尻は触ると言ったけど、胸を触るなんて一言も言っていないよ?」


『──胸も尻も触んないよ!?』

相手の言葉は、ちゃあんと覚えている。
意地悪に耳元に吹き込みながら、さぱり、と水から上がって。

東雲七生 > こういう時はただひたすら体の力を抜いて身を委ねる事。
以前教わった救命の内容を思い出しつつ、まさか自分が救命される側になるとは、と反省する。
こんな恥ずかしい事、誰に他言すればいいのだろうか。誰にもするはずない、と思いつつ。

「いや、ちょ、霧依の着替えって霧依はどうやって帰もごもご」

慌てて申し出を断ろうとするも、それを読まれたかのように埋められてしまう。
頬どころか顔いっぱいに何とも言えない感触に覆われて、みるみる顔が熱を帯びていく。

(俺が触ろうとして触ってんじゃないやーい!!)

耳元で告げられる言葉に、更に頬が暖まる。
水から上がれば、解放して貰えるだろうか。それはそれで名残惜しい気もすると、心の隅で思ったがただちに追い出した。

「あ、ぅ……‥と、とにかくっ、その、ありが、とう……。」

何だか霧依には礼を言ってばっかりだ、と思いつつ。

霧依 > 「旅人だって言っている人間が、一つしか替えを持ってないわけがないじゃない。
 気にすることはないさ。」

即座に嘘を涼しく言える。そんな女が妖しく笑う。
水から上って少しでも抵抗したり離れようという仕草を迷うなら、ひょい、とお姫様抱っこをしてくる。
この女、全く躊躇が無く男のプライドというものを削ってくる。


「僕が悪いんだから気にすることはないよ。
 むしろ、これで風邪を引いてもいけないから。
 早く着替えてしまう方がいい。

 ………流石に外はまずいかな? 上だけでも脱いで。」

抱っこか歩いてかはともかく、元の堤防の上に登れば、バッグから大きめのTシャツとハーフパンツ、タオルが取り出され、そんなことを言い出す。

東雲七生 > 「そ、そっか……なら、良いけど。」

平時なら嘘なんて即座に嗅ぎ分けられるのが特技の七生だが、流石に今はその嗅覚も働かなかった。
そもそも普段経験する事のあまりない感触が正常な思考を奪っていく。
ダメだダメだと思いつつ抗えない物を感じていたら、あれよと言う間に抱きかかえられていた。
水を吸った衣類を着たままなのを差し引いても、小柄な割にずっしりと重い。

「いやいや、待って待って!
 俺そんな軽くないから、無茶だって!
 
 着替えるから!着替えでも何でもするからぁ!」

そんな事を言いながら堤防まで運ばれれば、宣言通り渋々着替えはじめた。
とはいえ、言われるまでも無く上だけである。下は恥ずかしいを通り越してちょっと口に出来ない事になってるため。

不満の極みといった表情でシャツを脱げば、無駄一つなく鍛え抜かれた、さながら短刀の様な体が露わになる。

霧依 > 「何でもするなら、暴れない。
 なあに。 駄目な後輩の罪滅ぼしさ。 気にすること無いよ。
 鍛えているから重いことくらいは、想像をしていたからね。」

恥ずかしがっていることは分かるけれど、それを気がついても配慮はしない。
己の行きたいように自由に歩く女は、少し汗をかきながらも堤防へと運び。
己の生きたいように自由に生きる女は、タオルでその身体を包んで拭き始めて。

「タオルで隠しておくから、下も着替えてしまったらどうかな。」

どうにも大きなTシャツを渡しながら、そんなことを言う。
当然のように、拭こうか? とまで口にして。

意地悪な気配も無ければ、からかっている気配も無い。
かといって、真剣な強い意志も感じない。

相変わらずの浮雲。

東雲七生 > 「うぅ……」

実際のところ、罪滅ぼされるには十分すぎる思いをしてるのだが。
こうも言う事全て封殺されては黙ってされるがままにする他無くなってしまう。
か細い声で、先輩なのに、先輩なのにと繰り返しながらもウシャツを絞りつつ。
自由人の恐ろしさを身を以て体験し、溺れた事と併せてもう心身ともにぐったりだった。

「俺は良いから、拭かなくて良いから!
 下はダメなの、今は!今は凄くダメ!」

全力で拒否である。
完全に振り回されてる事を自覚しつつ、タオルで体を拭いて渡されたシャツに袖を通せば。
膝上までシャツの裾が来た。何これ大き過ぎない、と訴える眼差しを女へと向ける。

霧依 > 「先輩だから敬っているじゃない。
 尽くす後輩らしいことをしていると自称しているんだけどね。」

駄目かな、なんて小さく笑い。
相手の強烈な否定を想定内であるかのように、それなら仕方ない、と返事を返して。

「じゃあ、誰も居ないところでちゃんと着替えるんだよ。
 紐で引っ張れば、なんとか形になると思うから。

 僕は余計にサイズがいるからね、ちょっと大きいかもしれないけれど、ま、家に着くまでの我慢だよ。」

視線を向けられれば、ウィンクを一つ返してやりながら、己のパーカーを拾い直して、ひらりと羽織り。

「今日は申し訳ないことをしたから、またこの埋め合わせはさせてもらうよ。
 濡れてしまったのだから、今日は引き上げるとしようかな。」

結局、ぴくりともしなかった釣り竿を拾い上げつつ。

東雲七生 > 「尽くし過ぎ!!」

駄目だとは言わないけれど。
渡されたハーフパンツを見て、何とかこちらは普通に履けそうだ、と安堵する。
流石に上背はともかく、腰回りには差は無いらしい。

(やっぱりあれだけ大きいと尺も取られるんだろうな……)

すい、と自然と上背の方では無いサイズが要る方に目が向くが、慌てて目を逸らす。
ついさっきまでそこに顔を埋めていたと考えると、着替えがままならないままなのでぶんぶん首を振って。

「べっつっに!埋め合わせは十分間に合ってるけど!
 えっと、その……うん、また会えたら、うれしい、かな。」

服も返したいし、と慌てて付け加えて。
お互いずぶ濡れになった仲だもんな、と子供みたいな笑みを浮かべた。

霧依 > 「大和撫子って奴かな?」

相手の言葉に間髪入れずに返し言葉。
視線を受けても身じろぎもせずに、パーカーの紐をきゅ、っと結んで。

「鞄も貸すよ。濡れた服はこれに入れてもっていくといい。
 他に何も入っていない安物だけどね。

 ……そうだね。こんな僕でいいなら。
 この調子だと、次に会う時は泥まみれかな?」

空の鞄をひょいと渡して、パーカーを揺らして釣り竿を肩に。
落ちている麦わら帽子を拾って被れば、ぺろ、と舌を出して。

「それじゃあ先輩、ありがとう。
 釣れない釣りも楽しいものだけれど、やっぱり言葉も動作も、返ってくると尚楽しい。
 一人でいると、一人じゃないことが楽しいとよく分かるよね。

 また何処かで。」

手をひらりと振って背中を向けて。
空の鞄を渡してしまえば、着替えなんぞ無いこともバレてしまうのだけれど、さも当然かのように歩き出してごまかそうとする。
どんな嘘でも、つくならば堂々とつくものだ。

東雲七生 > 「どの口が……!」

耐え切れず吹き出した。
くすくす笑っていると、空の鞄を渡されて。一瞬戸惑う様な表情をした。

そしてそのまま水着で帰ろうとする後ろ姿を見て。

「っとに、厄介な後輩を持ったもんだ……!
 じゃーな、霧依!ちゃんと鞄も服も洗って返すから!

 お前も風邪ひくなよー!」

流石に嘘だと分かったけれど、そこに言及することはせず。
片手にハーフパンツと、空の鞄を抱えたまま、手を振って見送るだろう。

ご案内:「浜辺」から霧依さんが去りました。
ご案内:「浜辺」から東雲七生さんが去りました。