2016/08/04 のログ
ご案内:「浜辺」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > 夜の海。
まだ寝静まるには早いが、遊ぶには遅すぎる、そんな時間。
真新しいビーチサンダルを履いた七生は、静かに砂浜の上を歩いていた。
「うーん……」
悩ましげに吐息を漏らしながら、見つめる先は一冊の本。
かつて架空の存在と思われていた生物や怪物、神話や伝承に登場する者たちを記した、謂わば図鑑のようなもの。
今から何十年も前、それこそ《大変容》以前に書かれたその本に気になるページを見つけた七生は、
久し振りに図書館で本を借りるという行動に出たのだった。
「うーん………」
両方の眉がくっ付きそうなくらいに寄せられて、
視線は手元に。完全な前方不注意状態だ。
■東雲七生 > ……まあ、ぶつかる様な人も居ないから堂々と前を見ないで歩いているのだけど。
時折波打ち際に足を突っ込んで、水の冷たさに驚いては進路を取り直したりしつつ、さくさくと砂を踏みしめ歩き続ける。
走ればあっという間に家に帰れるのだが、それをせず歩くのは考え事をしたかったから。
主に今、手の中に有る本に記載されていたことに関して。
「……『地を揺らす者』」
ぽつりと、そんな事を呟くも、
潮騒に呑まれて海の中へと消えて行く。
■東雲七生 > 北欧神話に登場する、魔狼──フェンリル。
紹介されているページ数はさほど多くも無く、見開き2頁しか無かったものの、
それでも七生の気を引くには充分過ぎた。
何故なら、あらゆる特徴が一致する人物を身近に知っているから。
「……でも、なあ。ううん……いくらなんでも同じと考えるのは変かなぁ。」
出来れば他人の空似であってほしい。
あるいは、モチーフとなる、あるいはモチーフとされた種族の異邦人であってほしい。
そんな事を考えながら歩いていたら、再び片脚を波の中に突っ込んだ。
「ぷわ、つめてぇっ……」
■東雲七生 > もう片足だけびしょびしょである。
それでも意識は手元の本に向けられていて、七生はあまり気にした様子は無い。
それだけ衝撃が大きかったし、未だに抜け切らないで居るのだった。
「帰って本人に直接聞いてみ……いや、そうだった場合も違った場合も怖いな……」
この事はそっと心の中に仕舞っておいた方がいいのだろうか。
でも絶対顔や態度に出る。絶対出る。自分の事だから自信がある。
「……どうしよう。」
こんな事なら本なんて読まなければ良かった。
分かりやすく後悔しながら、七生は浜辺を歩いていた。
■東雲七生 > 「……とりあえ、ず」
家に帰って、この本を一冊全て読みきろう。
読んでる間は上手く誤魔化せるはず。
そう自分に言い聞かせて、異邦人街のある方へと目を向ける。
此処から一番最短のルートを頭に思い描きながら、ビーチサンダルを履き直して。
一、二、と軽く足を鳴らしてから疾風の如く駆け出したのだった。
ご案内:「浜辺」から東雲七生さんが去りました。