2016/08/19 のログ
真乃 真 > 「なるほど、つまり絵が上手く描けなかったから落ち込んでたわけだ!
 残念なことに僕も絵は下手だ!せめて絵の描き方とか分かってたら何か手伝えたんだけど!」

そう、真乃真ではこの少年の絵を上手くすることは無理である。
技術的なアドバイスとかできないし。

「大丈夫!ほら、最終的には先生とか他の人にも見せるだろうし賞を取れば全校生徒が見るかもしれない!それと比べたら僕一人に見せても大したものじゃないよ!むしろ耐性が付くぐらいだ!さあ!!」

カモン!カモン!と手を招いて見せる。
手伝えないと言いつつ絵は見ようとする。まあ一応ね!

神宮司ちはや > 何故か堂々と絵がうまくないことを宣言するこのお兄さん。
少しも陰りがないどころか恥じらいが一切ないところが
ちはやの目には後から光が差しているように見えてしまった。
たぶん夏の太陽の悪戯か錯覚だろう。

「えーと当たらずも遠からずというか……。
 あ、いいんです!別に手伝ってもらおうとかそんなことは全然!」

慌ててぶるぶると首を横にふる。

「そりゃあ確かに先生には提出しますけど、でも賞をとったりなんかはきっとできません。
 そんな、別に減るものじゃないからいいだろうみたいな言い方されても……」

グイグイと押していく姿勢にややたじろいで不審者を見るような視線を送ってしまう。
そもそもこの人の名前も知らない。なんだろう、落ち込んだ人を助けるのが趣味の人なのだろうか。

でもまぁ、彼の言うことにも一理はある。
同じ絵が下手なもの同士、見ても見られても大した傷にはならないかもしれない。
しばらく渋っていたが相手の手招きに気圧されて結局おずおずとスケッチブックを差し出した。

真がそれをめくれば子供らしいのびのびとした水平線と青空が描かれた
海水浴場の風景が見れるだろう。
形や色味は拙いし初心者に陥りがちなそのままの色だが、
描かれた人々や雲、波間に寄せる慈しみがなんとなく察せられるような絵だった。

真乃 真 > 「まあ、絵の役には立たないけど何かの役には立つかもしれない!
 大した手伝いは出来ないから何の遠慮もいらないぜ!」

絵の具がなくなった時に店に走ったり。

「でも、ゼロじゃないよ!
 もしかしたら審査する先生が異世界から来た人でこの世界とは違う審査基準をもってるかもしれない!
 相手が普通の先生でも、何故か心が打たれるかもしれない!
 ああ考え出したらキリがないけども提出すればゼロじゃない!

そう力強く言う。
ありえなかった事が溢れるこの島だ!偶々賞を取るくらい珍しくもないはずだ!

「…下手じゃないじゃないか!下手って聞いてたから僕と同じくらいと思ったんだけど!
 僕は好きだねそれこそ僕が審査員だったら84点くらい付けちゃうね!」

絵を見た時明らかにショックを受けていた。彼は相当絵が下手らしい。
恐らく100点満点なのだろうが上手い人絵を見れば100点の限界を突破して一万点!
とか凄くインフレしそうな点の高さである。

「でも本当にえーとこの!なんていうか…そう、雲の感じ!この雲の感じが僕かなり好きだ!!」

手の動きで雲の形を表現しながら言う。
審美眼とか芸術への理解とかあとボキャブラリーとかが足りてなさそうなコメントだった!

神宮司ちはや > はぁ、と困ったような相槌をうつ。
そもそもちはやには年上の人を使いっ走りにしたいなどという考えはなく
むしろ手伝ってもらうとかじゃなくてそっと見守ってくれるだけでいいんだけどなぁ
という控えめな感想しか思い浮かばなかった。

可能性がゼロではないことを諭されればはっとさせられる。
確かに提出すれば何らかの審査や評点は出るのだ。
悪いことばかり考えていたが、確かに相手の言うとおりもしかしたら何かの幸運か気まぐれで
そんな事態もありうるのかもしれない……。
そう思わせるだけの言葉の力強さが目の前の青年にはあった。全くの無根拠だが。

「あのう、お兄さんはいつもそんな風に前向きに考えていらっしゃるんですか?」

何が彼をそこまでポジティブにしているのかが知りたくてそう問いかけてみる。
恐る恐る見せた絵が自分が思っていたよりもずっと好評を受ければ
あまりのことに驚いていたが、徐々に俯いて真っ赤になる。
こんなに褒められたことはあまりないことなので、照れと恥じらいでどっと汗が出た。

何よりうまいというよりは『好き』と言ってもらえたことがなんというかこそばゆい。

「あの、あの……うぇ、ありがと、ございます……っ」

言葉に詰まってどもりながら小さくお礼を口にする。
ボキャブラリーの貧困さなど気づいていないようで、一々大仰にどこが好きかを表されれば
恐縮したように身を縮こませた。

真乃 真 > 「ああ、僕はいつでも前向きだ!横はともかく後ろを向いても何も無いだろうしね!
 それなら、前向きに考えてた方が得だよ!ああ、きっと得だ!」

良く分からない理屈である。
良く分からない理屈ではあるけれどもその言葉は力強い。

「いやあ、でも実際よく見ればこの海も波が良いと思うし…。
 うん、大丈夫!この絵を僕は下手とは思わないね!
 …でも僕が好きかどうかは関係ないね!実際は審査員でも何でもないからね!!」

離してみたり、近づけたり、しげしげと絵を眺めて。
うんうんと頷く結構気にいったらしい。

「さて、それじゃあ君はこの絵をどう思う?どうする!?どうしたい!!?」

そういいながらそのまま描いた本人に見せる。

神宮司ちはや > 真の説明を受けても納得できるどころかむしろ逆に疑問符が頭に浮かんだまま首を傾げた。
ええとつまり、たぶんこの前向きさはこの人の天性のものなのではないだろうか。
ということはちはやが容易に真似できるものでもない。
何か前向きになれるヒントでも貰えればと思っていたのだがなんの役にも立たなかった。

「うん、でも確かにちょっとお得感はありますね」

何もないよりはお得な方がいいだろう。それだけはわかる。

「そ、そんなことないです!自信がなかった絵だったから
 その、けなされるばかりだと思っていたし、それに比べたらずっと嬉しいっていうか……
 好きって言ってもらえるのはありがたいし、それこそ賞なんかとるよりずっと、嬉しいです……」

結局真っ赤になったまま、落ち着きなさそうにそれだけを伝える。
気に入った様子の真に信じられないようなものを見る目であったが
それが本心かららしいことが分かれば自然とはにかんだ。

差し出されたスケッチブックをもう一度真正面から見据える。
褒められたせいだろうか、先ほど描いていたよりもなんだかこれも有りではないだろうかと思えるようになっていた。
確かに稚拙なところもあるがそれが味というかちはやらしい表現ではある。

「うんと……もう少し、手を加えてそれから……出したいと思います。
 その、お兄さんが褒めてくれた絵だしそう思うとあんまりないがしろにしちゃったら駄目ですよね」

そのまま手を伸ばし、スケッチブックを受け取る。
改めて見ても、それなりに見えるもののような気がしてきた。

突然パーカーに閉まっていた携帯がアラームを鳴らした。
それに気づくとあっと声を上げる。

「ご、ごめんなさい。ちょっと用事があってもう行かないと……。
 あの、好きって言ってくださってありがとうございました」

深く頭を下げると、わたわたと荷物をまとめ始める。

真乃 真 > 「…うん、得だ!やっぱりこう……」

良く分からないことばが続く
自分でも何を言っているのか分からないけど前しか見てない分
得なのだろう!

「流石にけなしてくる人はいないと思うけど…。
 でもまあ、そこまで喜ばれたら絵を見せてもらったかいがあったね!」

かなり自分に自信がないのだろう。けなされるって…。
それでも何とか役に立てたようだった。

「なるほどなるほど!そうするのか!よし!
 …だから僕は関係ないって!確かにその絵は好きだけど!」

…やっぱりこの少年は自分に自信が無いように思う。

「ああ、僕もいい絵が見れて良かった!
 あと、君はもう少し自分に自信を持った方が良いと思う!
 絵!がんばりなよ!完成して賞に出るの楽しみにしてる!」

最後にそう言い残して立ち去っていくのだった!

ご案内:「浜辺」から真乃 真さんが去りました。
神宮司ちはや > 自信を持つ、自分を信じること。
たぶん自分が信じられないから、それほど強くないから自信がないのだろう。
痛いところをつかれた気がして少しだけ片付けの手が止まった。
けれどそれを振りきって、この人の前向きさを少しだけもらおうと思えた。

「はい、あの、頑張ります!ありがとうございました!」

せめて声だけは同じぐらい負けないようにと最後に大きくお礼を言った。
結局名前も知らぬまま立ち去ってしまったが、狭い島内だからきっとまた合うこともあろう。
まとめた荷物を肩にかけると、彼とは別の方向へと去っていった。

ご案内:「浜辺」から神宮司ちはやさんが去りました。