2016/09/08 のログ
ご案内:「浜辺」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
携帯端末をぽちぽち。
ふーむとため息を一つ。

(……やっぱり無理だな)

弟子のことである。
冷静にデータを並べると、どう考えても無理だ。
根性論でどうにかなるものでもない。
現実問題、能力の差が激しすぎる。

ご案内:「浜辺」に八雲咲雪さんが現れました。
八雲咲雪 > 魔力の飛行機雲を作りながらふわり、と地面に降り立つ。
若干汗はかいているものの、まだ涼しい顔をしている。

浜辺の空で訓練をしていたのだろう。
体に負担をかけながら動くのは疲れるものの、最近は体力がついてきて汗をかく程度で済んでいる。

「……寄月さん?
どうかしましたか」

寄月 秋輝 >  
一発逆転の目を与えるか。
意表を突かせる技を仕込むか。
習得できるのはどちらか一つだけだろう。

分の悪い賭けだが、やってみるしかあるまい。

「……本日は訓練の前に、ミーティングをしましょう。
 次の大会への心構えをつける必要があります」

携帯端末をしまい、姿勢を正した。
いつもと変わらない表情である。

八雲咲雪 > 次は全国大会。
【S-Wing(スウィング)】と呼ばれる魔道具を装着し、大空を飛び回る競技の、全国大会。
毎年いいところまでいくものの、優勝どころか三位にも入らない。
去年にいたっては、ベスト10にも残らなかった。
が、今年はコーチ(寄月)がサポートをしてくれている。
負ける要素は、見えてなかった。

「心構え、ですか。
なにか、策とかですか」

寄月 秋輝 >  
「それもあるんですが」

口元に手を当てて眉を顰め、少しだけ迷う。
が、告げないわけにもいかないだろう。

「いいですか、咲雪。
 これは冷静な観点から見た、現実的な意見ですが……
 現状、全国大会での優勝は厳しいと言わざるを得ません」

渋い顔のまま告げる。
これでもかなり柔らかく伝えたものだが。

「トップランカーの飛び方の精度、あれは異常の一言に尽きます。
 僕が同条件で飛んだ場合、100回やれば勝率は五分になるほどの相手だと思います」

目を閉じ、一度言葉を切り。

「……なので、一つだけ策を仕込みます。
 今年咲雪をトップにさせるために、もう一つだけ踏み込んだ技術を叩き込みます。
 これから全国大会までに」

八雲咲雪 > 「……全国大会までに?」

全国大会まで、あと十数日。
一旦本土に戻る事も考えれば、数日だろう。
そんな付け焼き刃で、勝てるのだろうか。

「コーチ、私を優勝させてくれるって言ったのに。
嘘つく気、ですか」

じっと寄月をみる。
責める様な視線ではないものの、何か言いたげに。

寄月 秋輝 >  
「言いました。
 正直、僕の見通しが甘かった。
 それに関しては本当に申し訳ないと思っています」

深く頭を下げる。
正直、告げるのは胸が苦しい。
期待していた少女を裏切ってしまうのだから。

「咲雪の基礎的な能力も、僕自身の能力も十分にあった。
 けれど、現在のトップランカーはそれを凌駕している。
 今回の大会を見て、それがよくわかりました」

頭をゆっくり上げ、咲雪の視線を受け止める。
真摯に、目をそらさずに。

「ですが、咲雪を優勝させるという心づもりはもちろん、最善を尽くすという考えも変わりません。
 あなたを勝たせたい。誰より高いところに立たせたい。
 だからこそ、無理に多くを教えずに一つに絞って、咲雪が勝てるようにしたいんです」

八雲咲雪 > 言っていることは分かっている。
咲雪はそのトップランカーに実際に会ったことがあるし、飛びあった事もある。
スピーダーである、速度特化の咲雪が。
オールラウンダーであるはずのトップランカーに。
速度勝負で負けたことがあった。

「……」

その頃の咲雪の技量が低いといえば言い訳になるかもしれないだろうけど。
それを差し引いても、現トップは、根底から飛び方が違っていた。

「それを教わって……モノにしたら、勝てる見込みはありますか。
少しでも、トップになれる確率は上がりますか」

寄月 秋輝 >  
「可能性は上がります」

断言した。
というより、教えなければ勝率はかなり低いだろう。
よしんば二位までは上がれたとしても、一位は非常に厳しい。

「咲雪も随分と体が出来てきました。
 筋力、バランス感覚、それに付随して体幹もしっかりとした。
 なので、アレを教えましょう」

ぴっと指を立て、くるりと回した。

「バレルロール。ちゃんとした使い方の方を」

八雲咲雪 > 「バレルロール……」

ちゃんとした使い方、といわれてピンときていない咲雪。
用語自体は分かっているし、どういう機動をするかもわかっている。
が、寄月がなにをしようというのかがわかっておらず、首を傾げる。

寄月 秋輝 >  
「本来バレルロールは、航空技術の一つです。
 進行方向を変えずに、後ろからのミサイル射撃などを回避する技術です。
 同様の理屈で、後続機の背後に回ることも可能です」

とん、と空中に飛び上がり、ぐるんと体を回転させながら飛んで見せた。
わずかながら胴体の軸の位置が変化し、それでいて真っすぐに飛行する様子が見えるだろう。

「地区大会でもあったような敵の攻撃を回避しつつも、進行方向を変化させずに、なおかつ高度も変えない。
 それが僕の教える、発展技術のひとつです。
 会得すれば、咲雪はスピードも角度もほとんど変えずに、
 苦手なオールラウンダーやアタッカーの攻撃を回避できるようになるでしょう。」

ふわりと降りて来て、咲雪の前へ立つ。
要点がつかめただろうか、と少し心配になった。

八雲咲雪 > こく、こくと頷く。
寄月は簡単に言うが、勿論簡単ではない。
それなりに練習をつまないといけないし、うまく回転できなければ変な飛ぶ方だってしてしまう。
そんなものを、短期間に教え込もうという。

「……時間は、あと数日。
学校とかもあるから、実質、もっと少ない。
……それでも」

やらないより、やる。
どうせあの化け物に勝つにはそれしかない。

「コーチの時間、かなりとっちゃうけど……でも、教えてください。
おねがいします」

ぺこり、と頭を下げる。

寄月 秋輝 >  
目を細めた。
彼女はこの技術の難易度を理解している。
その心構えがある。

「……大丈夫、今の咲雪ならすぐに覚えられますよ。
 そう思ったから、この技術を教えることに決めたんですから」

微笑んで、小さく頷いた。

「勝ちに行きましょう、咲雪。
 きっと咲雪なら、僕の予想を超えてくれます」

八雲咲雪 > きっと彼の本音は、難しい、かもしれない。
だがそれでも、諦めないのをみて新しい技術を教え、挑ませようとしてくれている。
ならば全力で応える。

「勝ちましょうコーチ。
勝って、今年こそトロフィーを、持ち帰ります」

小さく微笑み、しかし力強く、そう宣言した。

ご案内:「浜辺」から寄月 秋輝さんが去りました。
ご案内:「浜辺」から八雲咲雪さんが去りました。