2015/06/27 のログ
ご案内:「常世神社」にテオドールさんが現れました。
テオドール > 神社の境内。少年はその中のベンチに座り、缶に入った紅茶を飲んでいる。

「…………」

風が頬を撫でる。
……潮の匂い。

……潮風。海が近いのかな。
少し、肌寒いけど。
少し、眠いけど。
いい朝、だと思う。

テオドール > 『…………おい』

……眠い。歩き通しちゃった。

『……おい』

……フランがうるさい。いい朝なんだから、少しは静かにしてほしい。

『おい』

……そんなに何度も呼ばれなくても聞こえてる。

「……なに」


少年にだけ聞こえる、その声。その声に返事する様は、独り言。

テオドール > 『…………なぁ。なんで。こんなところにいるんだ?』

なんで、って。そんなの。

「……歩いてきたから」

それしか、ない。

『……お前。昨日事務所の近くまで行ったよな?』

「……うん」
行った。学生街、っていう所、歩いた。

『……お前、昨日。私が道順教えてやったよな?』

「……うん。フラン、お役立ち」

フランは、そういうところ。すごく頼れる。
紅茶、おいしいね。


『じゃあ、なんで。事務所にまだついてないんだ?』

テオドール > 「……大丈夫。今日の、夜につけば2日でつく」

うん。2日でつくって、言ってたし。
なんにも、問題ない。

それに……。

「……日本には、急がば回れ、っていう言葉、ある」

……あれ、いそかばだっけ?
フラン、黙った。どうしたんだろ。

『…………態々教えた道順の真逆を突っ切って歩く奴がいるかこの馬鹿がぁっ!』

「……うん。疲れた」

『お前ほんと馬鹿だな!?』

疲れた。紅茶おいしい。

テオドール > 『大体回るっつったって外周一周を歩いてどうすんだこの馬鹿、おい、聞け、おい!』

……フランが、何か騒いでる。うるさい。

……いい風。



少年は、しばらくの間。そこで風に揺られていた。
フラン、と言われた声の主は、しばらく騒いでいたが、大きなため息をつくと。少年に合わせて……一緒に静かな時間が訪れた。

テオドール > 「……フラン。……ここ、いい所だね」

『……ん。……あぁ。……そうかもしれないな』


色々なものがある。新鮮で……潮風が気持ちよくて。

――ここで、彼女と一緒に、学べるのは、とてもいいことだと思う。

……でも。



潮風が、少年の頬を撫でる。

テオドール > ……もし、オレが見つける前に。
彼女の隣に、彼女を守る人がいたら。
――自分は、隣に行けない。だって、彼女にそう言われたから。彼女が、そう望んでるから。3歩右後ろ。……そこが、自分の場所。

だから、そうして。自分がいらなくなったら……。


「……スシと、ゲイシャを、買っていこう」

『………………。……ゲイシャは、お土産じゃないぞ』

……そうなのか。じゃあ、お土産話。……それをもって、帰ろう。……そうしたら、きっと、父さんも喜んでくれると思う。

……きっと、そう。

――でも、それは、少し。


「……悲しいかも」


流れる風は、少年の髪を揺らす。
それきり、少年はだまって。また、静かな時間がやってくる。

テオドール > ――――――…………。
…………

――。


『……テオドール』
「……なに」

はっと、意識を今に戻す。……考え込んじゃったみたい。

『……お前は、あの子を守るんだろ?』

……そう。……そうしたい。あの、場所から。そうしたい。

『なら、今は深く考えるな』

「……うん」


あぁ。やっぱり……。フランは優しい。
……そう。そうしてても、仕方ない。

……この、潮風は、気持ちいいけど。ここに、彼女はいない。
だから、行かなくちゃ。

――そう、まずは。……2日間かけての、転入手続。

「…………今日中には、つける」

『いやだから今すぐ行けよ』





――風はまだふいている。
だけど、もう。そこにふかれるべき少年の姿はなかった。

ご案内:「常世神社」からテオドールさんが去りました。
ご案内:「常世神社」に朱堂 緑さんが現れました。
朱堂 緑 > 男はそれはもう落ち着かなかった。
約束の時間の30分前には当然のように到着し、まるで動物園で狭い檻に入れられたクマのように右往左往していた。
右の狛犬まで歩いては時計をみて踵を返し。
左の狛犬まで歩いては日の高さを確認して踵を返す。
そんなことを落ち着きもなく繰り返していた。

ご案内:「常世神社」に麻美子さんが現れました。
麻美子 > そんな右往左往している男が待っている神社に、
約束の時間の15分前に駆け上がって来る少女が1人。

「……緑サン、なんでもういるんスか?」

約束より随分早めに来たにも関わらず、
既にそこに居る彼に苦笑しつつ、彼に歩み寄る。

朱堂 緑 > 「あ!? あ、ああ……麻美子か。いや俺も今来たところでな」
 
意識まで右へ左へと明後日の方向に向いていたせいか、男は驚きながら麻美子に振り返る。
わりと毎日に近い頻度であっているはずなのだが、なぜか今日はやけに久しぶりな気がする。
 
「実はな、麻美子。これ」
 
そういって、右腕の腕章を見せる。
 
「まぁ、色々あって……復職の運びになった」
 
いや、その話は今はあとでもいいだろと自分につっこみながらも口は止まらない。

麻美子 > 「いや、どう見ても今来たって雰囲気じゃないッスよ?」

そう言って彼に苦笑いを返す。
いきなり電話がかかってきて『神社に来い』なんて言われた時は何事かと思ったが、
彼のその様子を見ると、なんとなくそんな予感がして、なんとなく緊張する。

「あ、そうなんスか、そりゃおめでとうッス。
 これでカツアゲの心配はないッスねー!!」

そんな風に彼のその明らかに本題ではない報告を右から左に聞き流して乾いた笑いを浮かべながら、
手を後ろに組んで無意味にそわそわと身体を揺すった。

朱堂 緑 > 「そうだな。飯も奢れるしな。気軽にな。また経費でいくらでも落としてやるからどんとこい」
 
そう、胸を叩くなんていう普段だったら絶対しないような慣れないジェスチャーをする。
当然咽る。
何をしているのだ俺は。
男は内心の困惑と呆れを隠せなかったが、顔には何故かでなかった。
まるで違う自分が内側にいて冷静に自分を見ているかのようだ。
ここまで考えてからようやく自分が浮かれているのだろうと男は気付き、また違う意味で内心で頭を抱えた。
分かりやす過ぎるだろう自分。

一度、しっかりと深呼吸してから、麻美子の顔を見る。
日の光のように輝く、黄色がかった薄い茶瞳が、伽藍洞の男の目を見ていた。
その大きな瞳に映った自分の面を見て、男は少しだけ苦笑した。

「……ちっと、長話になるとおもうからよ。すわらねぇか。
丁度、夕日も綺麗な時間だしな」
 
そういって、境内の隅にあるベンチを指差す。 

麻美子 > 「そうッスねー、たっぷり世話した分、キッチリ返して貰わないといけないッスね。」

そんな彼の仕草を笑いつつ、
眼鏡を外すと無意味に拭いたりして彼から視線を外す。
いつもと違う彼の仕草が、これからする話を予想させて、
彼女の頬を僅かに紅く染めた。

眼鏡をかけなおすと、彼の顔が近くにある。
彼の瞳に映る自分の顔を見て、彼女も少しだけ苦笑する。
まったく、お互いに何をやっているんだろう。

「夕日が綺麗とかそんな台詞どう考えてもガラじゃないッスよ?」
そう言って笑いつつ、隅にあるベンチにゆっくりと歩いて行く。

朱堂 緑 > 「あ? そうか?」

そういわれて、虚空に視線を投げかけながら、以前の自分はどうだったろうかと考えて……やめた。
意味のない事だ。
今は今。昔は昔だ。
 
「まぁ、そうだったかもな」
 
含みある笑みでそういって、ベンチに腰掛ける。
夕暮れの程よい日差しが、お互いの横顔を照らしていた。
暫し、日差しに任せるまま、互いの相貌を朱に染めて、沈黙する。
紅潮が誤魔化せるのは都合がいいかもな、などと男は脳裏で思っていた。
だが、誤魔化して良い事と、良くない事があることまた……わかっていた。
 
「なあ、麻美子。俺らがあったばっかりの頃。覚えてるか」
 
藪から棒に、男はそんなことをきいた。

麻美子 > 「ま、そうだったッスね。」

昔は昔、今は今。
昔は不気味な事ばかり言っていたこの男も、
今ではそんなロマンチックな事を言うようになったのだろう。

そんな事を考えつつ、ベンチに座って夕日を見る。

「会ったばっかりの頃ッスか?
 緑サン、本当、超怖かったんスからー!!」
『会うたびに寿命が3年は縮んだッスよ。』と、彼女は笑いながら返す。

「で、それがどうかしたッスか?」

『それがどうかしたの?』とあえて聞く。
彼女にとってもやはり、過去は過去、今は今だ。
昔どういう関係性であったにせよ、
今はこうして隣に座って、手を握り、夕日を見ている。

冷静に考えるとかなり恥ずかしい状況な気がして、控えめに頬を掻いた。

朱堂 緑 >  
「俺、ほとんどもう覚えてねぇんだその頃」
 
何でも無いように、いった。
過去は過去でしかないからなのかもしれない。
今は今と認識してくれる彼女にだからなのかもしれない。
もしかしたら、恐ろしかったのかもしれない。
それでも、いった。
 
できるだけ、何でも無いように。
 
「漠然と記録はのこってるから、なんとか思い出そうとすればそれを頼りに思い出すことはできる。
それでも、細部は無理なんだ。
最近も、気付いたら『俺じゃない奴』に取られていることが増えてきた」
 
銀の指輪をみながら、苦笑する。
 
「昔の事あんまり覚えてないのって、それのせいなんだ。
悪いな、今まで隠してて」
 
自然と、寄せたて手が、それを握った。
まるで、求めるように。
まるで……恐れるように。

麻美子のそれよりも、遥かに大きいはずのその手は、大事そうに、それを捕まえていた。

麻美子 > 「……そッスか」

彼の話を聞くと、彼女は短く、一言だけ、そう答えた。

そして、彼の大きな手を小さな手でぎゅっと握って、
彼ににっこりと笑いかける。

「それなら、麻美子の事だけは忘れられないように、これからもずっと一緒に居て、
 思い出を作り続けないといけないッスねー。
 写真も動画も沢山とってー、なんなら記事にしてもいいッスね!」

『なんか恋愛漫画みたいッスね。』と、足をぱたぱたと動かしながら、
いつも通りにけらけらと笑って、彼にそう答える。

朱堂 緑 > 「恋愛漫画みたい、か……」
 
明るく、いつものようにそういう彼女。
その顔を、男は見ていた。
夕日に照らされるその顔を、見ていた。
いつか、思い出になるそれを。
いつか、写真に残さなかったことを後悔するそれを。
 
いつか……忘れてしまうそれを。 
 
ただ、緩やかな日に照らされるその様子を見て、ふと、男は口を開いた。
  
「なぁ、麻美子」

少し、真面目な様子で。
 
「これから俺。すっごいワガママいうんだけど聞いてくれるか」

少し、悲しそうな顔で。


「無茶苦茶ワガママな上に長いんだけどさ。
内容だけでも、とりあえず……いいからさ」

麻美子 > 「なんスか?」
呼ばれれば、首を傾げる。
彼女のショートポニーが、神社に吹く風に揺られた。

「しゃーないッスね、麻美子が何でも聞いてやるッスよ。」

『かわりに、後でジュース奢りッスよ?』と言って笑いつつ、
彼の手を握って、彼の顔を覗き込むように見る。
その少し不安そうな顔は、いつもよりも、なんだか少し可愛かった。

朱堂 緑 > 徐に頷いた男は、夕日をみながら、ぽつりぽつりと、語り出した。

「多分俺、麻美子より先に死ぬとおもうんだわ」

少しだけ、斜め上を向いて。
眩しそうに、優美を見ながら。

「俺、知っての通り喧嘩別に強くねぇし、身体も弱いし片腕だ。
それに、こんな仕事復帰しちまったから、きっとまた『コマ』にされる。
そしてそれはもう、きっといろいろな意味でしょうがねぇことなんだ。
だから、先に死ぬことを許してほしい」
 
目を細めて、また語る。
 
「多分俺、麻美子の事場合によっちゃ殺すとおもうんだわ」

唇をかみしめて、続ける。
 
「俺、なんだかんだで、嫌いなじゃなかった後輩がいたんだよ。
いやまぁ、いけすかねぇやつだったよ。
でも、それは単純な、なんか、しっかりしてるやつだからこその衝突ってもんで……仕事仲間として、人間的には嫌いじゃなかった。
だけど、そいつは俺とは違う『正義』を持っていた。
そいつは、それを曲げなかった。曲げずに、罪を犯し続けた。
だから、殺した。
麻美子がもし同じことを何かの間違いでしたら、きっと俺は麻美子を殺すんだと思う。
だから、いつか殺すかもしれないことを承知してほしい」
 
嘘偽りなく、続ける。
 
「多分俺、麻美子の事忘れると思うんだわ」
 
手を、握ったまま。
夕陽を見ながら。
血のように、紅い夕陽を見ながら。
 
「俺は魔術師なんだけど、才能がないんだ。
だから、普通の奴よりも余計に多く悪魔に『体の機能』をもってかれてる。
それが徐々に置換されていくせいで、俺の体はだんだん『俺じゃない奴』に乗っ取られ続けている。
底意地わるい笑い方とかも、多分俺じゃなくて元々は『そいつ』の笑い方だ。
俺は、俺の知らないところでも俺じゃなくなっている。
だから、ある日突然全部忘れたら……麻美子も俺の事なんて忘れて欲しい」
 
唇を食いしばる。
喉の奥がちりちり焼ける。
 
だけど、それでも。

朱堂 緑 >  
 
 
「それでも、俺、お前の事好きなんだ」 
 
 
 

朱堂 緑 > 男が、向き直る。
少女の目を見て、向き直る。
覗き込むように、覆い被さるように。
それでも、いつもより少し小さくみえるその上背のある男は……なんとか、そう告げた。

朱堂 緑 > 「本当にひどいワガママだとおもう。
本当に自分勝手なお願いだと思う。
だけど、それがわかった上で、麻美子に頼みたいんだ」

朱堂 緑 > 「俺は、麻美子のいないところで死にたくない」

「俺は、麻美子の事を殺したくなんてない」
  
「俺は、麻美子の事を……これ以上忘れたくない」
 

朱堂 緑 >  
 
「だから、麻美子。俺のワガママで、本当にひどいワガママで……それしかないんだけどさ」
 
 

朱堂 緑 > 振り絞るように。
嘆くように。
祈るように。

朱堂 緑 >  
 
 
「俺と……恋を、してみてくれないか。麻美子」
 
 

麻美子 >  








「……プッフ」

  

麻美子 > 思わず噴出してしまった、
長々と殺すとか殺さないとか色々と言って、
我侭で申し訳ないとか散々前振りして、
そんな泣きそうな顔をしながら、
一生のお願いでもするようにいう言葉が

『恋をしてみないか?』とか、笑わずにはいられない。

麻美子 > 「ははっ!!!はっ……ははははははは!!!!」

一度決壊してしまえば、もう止まらない、
膝をバンバンと叩き、お腹を抱えて笑い出す。
数十秒それを続けただろうか、やがて、胸に手を当てて
ゆっくりと深呼吸して、彼ににっこりと笑みを向けた。

麻美子 >  

 「 いいッスよ 」
 
 

麻美子 > 彼女は一言だけ、そう答える。
殺してもいいし、忘れてもいい、
そしてなにより、恋してみてあげてもいい。

―――彼女はゆっくりと、でも確実に、
その祈るように下げられた彼の唇に自分の唇を重ねた。

麻美子 > 「麻美子は忘れないッス。」
彼が忘れてくれ、と言っても忘れはしない。
彼が彼でなくなるなら、元に戻す努力をしよう。

「麻美子は殺されないッス。」
彼に殺されるような事はしないようにする。
たとえ、殺しに来ることがあっても、絶対に殺されてなんてやらない。

「麻美子は死なないッス。」
彼よりも先には、絶対死なない。
もちろん、彼も死なせない。

「麻美子はずっとそばにいるッス。」
彼を1人で死なせたりはしない、
もちろん、それ以外の時もずっと一緒にいよう。

「―――そして、麻美子も、
     緑サンの事が、大好きッス。」

彼に向けて、にっこりと笑いかけた。

麻美子 >  
 
 「だから、緑サンと恋してやるッスよ。」


 

麻美子 >  
軽く。
明るく。
彼の祈りに答えるように。

彼女は少し頬を染めて、そう答えた。

朱堂 緑 > 最初は怒るつもりだった。
次に麻美子が冗談か何かで済ませられるなら、それも仕方がないとおもった。
そう思って、男も微苦笑の準備をしていたのだが……そんな小細工を考える間もなく、彼女の唇が、男の言葉を封じた。
甘い、匂いがした。
普段から、となりにいるだけでわかる、麻美子の匂い。
それが、すぐそばで、優しく身を包んでくる。
 

朱堂 緑 > 祈りは、真実なのかもしれない。
嘆きも、真実なのかもしれない。
 
そのどちらにも、本当は意味なんてないのかもしれない。 
 
それでも、嘆きも祈りも、ただ、そこに、『受け止めてくれる人』がいるのなら。

朱堂 緑 > 男は、難しい顔をした。
どんな顔なのか、一言でいう事は難しい顔だった。
それでも、男は、一言声をかけられるたびに、小さく小さく、それを解していった。
彼女が一つ赦すたびに。
彼女が一つ誓うたびに。
彼女が一つ囁くたびに。
 
少しずつ、少しずつ。 
 
そうまるで、それは今までのように。

朱堂 緑 > 彼女の言葉を、全部貰って。
全部全部、願いを聞き届けてもらってから。

朱堂 緑 >  
 
 
「ありがとう、麻美子」 
 
 
 

朱堂 緑 > ようやく男は、笑った。
口元を緩めて、目尻を細めて。
屈託なく。

朱堂 緑 >  
 
 
まるで少年のように、笑った。 
 
 
 

麻美子 > 「どういたしましてッス。
 ま、改めて宜しくお願いするッスよ。」

彼女も、その彼の屈託の無い笑顔を見て、
満足そうに笑った。いつものように、いつもより明るく。

―――が、ややあって少しだけ不満そうに口を尖らせる。

「……緑サンのほうからはしてくれないんスか?」

彼の大きな手に自分の手を重ねながら、
座高でも結構差がある彼の顔を、少し赤くなった顔で見上げる。

朱堂 緑 > そういわれて、しばらく何のことかと男は笑顔から一転して訝し気な視線を麻美子に向けたが、
意味を理解すれば突然赤面して、手を重ねられればさらに頬を紅潮させる。
 
「……ルーキーなんだよ、あまり苛めないでくれ」
 
たっぷりと、5秒は時間をかけてから、男はそっと、顔を近づける。
 
そうして、ぎこちなく。それでも、優しく。
そっと顔を屈めて、影を重ねる。

そのまま、ずっと、ずっと。
 
しっかりと、彼女を覚えるように。
もう二度と、忘れないように。
 
 
改めて、男は恋におちた。
 
そう、きっと、互いに願うが故に。

麻美子 > 『……ルーキーなんだよ、あまり苛めないでくれ』

そう言う彼に苦笑する。
ルーキーの彼は、
前よりももっと色んな表情を見せるようになった。

ゆっくり近づいてくる彼の顔に、少しだけ背伸びをして。
重ねたその手を離さないようにしっかりと指を絡めて。

そして、そのまま、
―――ずっと、ずっと。

改めて、彼女も恋におちる。

………互いに願うが故に。

麻美子 > そうして、やがて、2人は名残惜しげに、ゆっくりと離れる。
夕暮れだった境内には、ゆっくりと夜の影が落ち始めていた。

ふぅ、と小さく息をついて、彼女は
足で勢いをつけて、『よっと』と立ち上がった。

「さてと、話は終わったッスよね。
 あ、緑サン、帰る前にちゃんとうちによって行くんスよー?」

『ルーキーには厳しいッスかね?』
そう言って悪戯っぽく笑って、彼に手を伸ばした。

朱堂 緑 > 麻美子の提案にまた、少し頬を赤らめる。
それでも、男は伸ばされた手に、先ほどのように指先を絡めて、立ち上がると同時に、ぐいと引き寄せる。
体格差もあって、コートの中に麻美子が沈み込むかのよう。
そこで、ようやく男は、なんとかいつもの不敵な笑みを取り戻す。
 
「ああ、そのせいで、遠慮が出来ないかもな」
 
そのまま、身を寄せ合ったまま、歩き出す。
少しだけ、先ほどよりも強気な笑みを返して、力強く。 

麻美子 > ぼふ、とコートに沈み込んだまま、
『麻美子は初めてなんスから、ちょっとは遠慮するッスよ。』
と、小さくぼそぼそと呟くと、

腕を絡め、重ねた手の指を絡めて、
身を寄せ合って、まだ少し涼しい夜風の中をゆっくりと歩き出した。

強気な笑みを浮かべる彼とは対照的に、
さっきより少しだけ、照れたような笑みを浮かべて。

朱堂 緑 > 「善処はしよう」
 
最早何を気にすることもなく、抱き寄せるように左手で互いに指を撫であって、神社の長い階段を下りていく。
若干肌寒い夜風に流され、まだ青い木の葉が舞う。
若葉のそれをみて、微かに苦笑を漏らしつつ、身を寄せ合って階段を下りていく。
長い長い階段をゆっくりと。
 
もう、足取りはしっかりしている。
 
揺れる事なく、躊躇うことなく。 

ご案内:「常世神社」から朱堂 緑さんが去りました。
ご案内:「常世神社」から麻美子さんが去りました。
ご案内:「常世神社」に光ヶ丘睦美さんが現れました。
光ヶ丘睦美 > 「よ、い、しょ、っと!」
テンポ良く石段を踏んだ足が、最上段に着いた。
「結局あれこれあってもうこんな時間になっちゃったなー…」
街に出てみれば頼まれごとの連続、孫に会いに来たおばあさんの道案内はするし、行方不明の猫探しにも付き合うしで、
それなりに睦美にとっては充実した一日となっていた。
すっかり手から流れ出る生気のことなんかべつにいいかなと、思い始めていたところだったのだが。
「結局トラックに轢かれそうになってた猫をたすけられたのもこれのおかげみたいだし…」
じ、っと両手を見る。

光ヶ丘睦美 > 「なんだかよく動けるようになってる…ような。気がするけど」
ほんのちょっと、たとえば風船を取るためにジャンプして、街路樹に届くとか。
トラックに轢かれそうな猫を、歩道から飛び出して助けて、向こうの歩道まで抱えて走れるとか。
そういう、ちょっとした……力。
睦美がこの学校に入学して、なんとなく欲しいと思っていたもの。
「手に入ってみるとなんて言うか、その…」
「案外…」

「いいなぁ…」
えへへ、と締まらない笑い方で喜ぶ少女の両手からは、相も変わらず光が立ち上っている。

ご案内:「常世神社」に烏丸 九郎さんが現れました。
烏丸 九郎 > (重い足取りで石段を登る少年は、目の下にクマを作り
その若い活力を枯渇させたかの様子であった。
実際、今まで、学校に行って、まじめに勉強して
帰っては遅れを取り戻すため自室にカンヅメになって勉強。
大好きな歌も、夜歩きも封印して、勉強漬けの毎日だったのだ。
それもついに限界が来た…さすがに、これ以上は持たないと判断した彼は、気晴らしに夜の散歩へと出かけたのである。
そして気がつけばこんなところにいる。)

「はぁ…」

(何やってんだか、俺は。)

光ヶ丘睦美 > 「でも……でもやっぱり、ちょっと、困るかな」
「魔術とか、普通に操気術を鍛えるとか、そういう方法で頑張っても出来そうだし」
…それに何より、せっかく感謝してもらった気持ちも、すぐにこの両手からの流れに呑まれてどこかに行ってしまうのが、悲しい。

「だから、困った時の神頼み、に来たんだけど…」
こういう島だから、それこそ拝んだらなにか出てきそうで。なんとなく、二の足を踏んでいて、少女は石段の上、鳥居の下に立ち尽くしていた。

「……ん?」
後ろから、石段を登る足音がして、振り向く。
…たぶん、自分と同じ学生だろうとは、思うけれど。
自分とは足取りが、違う。なんとなく、重そうな。
(あ、こんなところに立ってると、邪魔かも)
なぜだか邪魔してはいけないような気がして、鳥居の影に隠れるようにして参道を空けた。
物のついでに光を放つ鳥居の片方。

烏丸 九郎 > (階段を登りきれば、そこには少女の姿。
見たことはない少女だが、なんとなく頼りがいがありそうな…そんな気配がした。
だが、女の子をジロジロ見つめる趣味もない。
すぐに視線を外し、すたすたと真横を歩いてゆく。
歌を封印してまで打ち込んだ勉強…結果が出ればいいのだがと悩む少年。
少年の溜まりに溜まったフラストレーションは、少女には感じられるだろうか。)

光ヶ丘睦美 > 重い足取り。むしろ見ていないことをアピールするような視線の外し方。
あれはつまり、頼み事のある人の歩き方と言って差し支えないわけで。

(別に私に用事があるわけじゃないんだろうけど…)
不特定多数の誰かが力に成れることなら、私がその役を果たせるのがこの異能の役目。
まだ不鮮明にしか見えない欲求のシャボン玉をよく見ようと、後ろから近づいて声をかける。
「ええと……あの!そこのお兄さん、困ってませんか!」

烏丸 九郎 > うおっ!?

(さすがに知らない人に…今さっき視線を外したばかりの女の子に声をかけられるとは思わなかったのか、思わず声を上げて驚いてしまう。
少年は振り向き、『俺のことか?』と確認するように自分を指さしつつも、あたりを見回す。
どうやら、他に人影はないようで…多分彼女の言うお兄さんとやらは自分のことなのだろう。)

困ってるって…なんだ?異能か?よく分かるな…。

(今の彼の様子を見れば、一目瞭然とも言えるだろうが
少年はそんなことにも気づいていないようで。)

光ヶ丘睦美 > 「わわっ!?」
ついさっきまで神社の雰囲気にビクビクしていた私としては、
そんな声を出されるとこっちもびっくりしてしまうんですけども、それは置いておいて。
「そ、そうです。お兄さん…えーと……私は、光ヶ丘睦美です」
相手の名前を聞くならまず自分から。ライブTの胸元に手を当てて、自己紹介を一つ。

「いや、多分誰が見てもわか……ええ、っと、そう……その、異能者なので。」
「すごく凄い読心能力が使えるんです、なので貴方に悩みがあるのは一目瞭然ですよ」
とりあえず乗ってみましたけど、ほんとに私に解決できることなのかな。

烏丸 九郎 > あ、あーわりぃ…俺は、烏丸九郎だ。

(名乗られたからにはこちらも名乗り返すのが礼儀。
少し戸惑いながらも名を名乗る。ちょっと驚かせてしまったようで申し訳ないが
こちらもびっくりしたので、そこはお互い様とさせてもらおう。)

すげぇ読心能力か。この島はやっぱり何でもありだな。
そうだな…悩み…そうだなー。

(話すべきかどうか考えてる。少女の傍らのシャボンには
少年がギターを掻き鳴らし歌っている姿が見えるだろうか。そしてその周りには、多くの人が集まっているのが。)

光ヶ丘睦美 > 「カラスマさん…ですね、よろしくお願いします。」
ポニーテールを揺らしてお辞儀を一つ。
「さ、それじゃあ本題に入りましょう」

……本題に入りましょうも何も、『すげぇ読心能力』で納得されてしまったんだけど、どうしよう、どうしましょう、どうしたものかな……
と、まだ薄くてぼんやりしてるけど、やっとシャボン玉が見える。

「烏丸さんは…ギターを演奏するんですか?」
本当は、頼まれごとはちゃんと聞くまであまりシャボン玉の中身を見ないようにするんだけど。
…こういう時は、別の何かが邪魔をしてることが多いから、はっきり聞いて行かないとダメかもしれない。
「……何か、こう、音楽ができない事情とか、あるんですか?」

烏丸 九郎 > お、おう…よろしく。

(少女につられて一つお辞儀を返す。)

っと、本題な…。ああ、こう見えても…いや、見ての通り、音楽をやってるぜ。
でも、俺はさ、約束しちまったんだよな。良い学生になるって。
そのために、ちょっとの間、好きなことを封印してさ、勉強に打ち込んできたんだ。
だけど、やっぱりだめだな…。こういうふうにすぐにボロが出ちまっていけねぇ。
俺は、やっぱり、歌って、歌を聴いてもらっていねぇとダメなんだ。
だから、いろいろたまっちまってよ…こう、発散したいんだろうな。歌でさ。

(少年は苦笑いしながら言葉を紡ぐ。
初対面の人間に悩みを打ち明けるのはなんだか照れくさいが
少女には、何か、悩みを打ち明けたい気分にさせる何かがあった。
少年の悩みというか、願望は…歌を聴いてほしい。その一点につきた。なんというか、単純な願いである。)

光ヶ丘睦美 > 苦笑いしながら話してくれる烏丸さんの顔を見ていると、段々はっきりとシャボンの中身が見えてきて。
…楽しそうに演奏して、歌っている姿。
凄く輝いてる、はっきりした思いが伝わってきて、私は思わずきゅっと拳を握って、意気込んでしまった。
「……いいえ、ダメなんてことないですよ、全然。」
「私、人のしたいこととか、してほしいこととか、そういうのが見えるんです」
「だから、我慢して、我慢して、ずっと我慢してる人が何を考えてるかも見たことがあります。……だいたい、そういう時って何をしたいのかも段々わからなくなってて、やりたいこともぼろぼろなんです」
ボロボロに成ったシャボン玉は、美味しくない。疲れたとか、眠いとか、ホントは何か別のものだったシャボンを上書きしてしまったそれは、滲んでぐしゃぐしゃしてて、悲しい味がする。

「でも、烏丸さんのははっきり見えますよ。」
つついてもそう簡単に割れなさそうなシャボン玉。…簡単に押さえ込めるものじゃなさそう、だもんね。
「そういうのはボロが出るっていうんじゃなくて…」
「やりたい事が溢れて止まらないっていうことなんじゃないですか?」

烏丸 九郎 > へっへ、やりたいこと、か…。
そうだな、俺は歌いたい。歌を聴いてもらいたい。
なぁ、あんた…えっと、睦美だっけ。
よかったら、俺の歌、聴いてくれねぇか?
ちょっとの間でいいからよ。そしたら、少しはすっきりすると思うんだ。

(少女の言葉に、自分の意志をはっきりと見つけた少年は
少女に、そう願う。
不躾かもしれないし、少女に時間を取らせてしまうのも良くはないと思うのだが…
それでも、少女に歌を聴いて欲しかった。)

光ヶ丘睦美 > 「えへへ、勿論です。烏丸さんの歌、聞かせてください」
「私、頼まれごとも大好きですし……ライブも、好きなんです」
それこそ最初は人の生気が溢れてて好きだっただけだけど。
今は結構、自分でも楽しんじゃってるな、って思うくらいで――

「さぁさぁ、せっかく聴衆はオールスタンディングなんですから、」
「存分に、全部スッキリするくらい、聞かせてくれちゃっていいんですよ?」
つまり、私のライブの好みはそういう方向なわけで。

烏丸 九郎 > へへへ、ありがとよ…それじゃ、いくぜ?

(少年が紡ぎだす歌声は、力に満ち溢れていて、歌声の中に喜びと今まで溜め込んでいた思いをのせて。
たったひとりのオーディエンスのために激しい曲調の曲をチョイスし歌い上げる。
腹の底から声を出しながらも、その声は少女にしか届くことはない。
異能を使った音の操作。
時間帯を考えての配慮ではあったが、今日のこのライブの観客はこの少女一人…そういう意味も込められていたのだろう。)

光ヶ丘睦美 > 拳を突き上げて、テンポに、ビートに、自分の気を音に同調させて。
ポニーテールを揺らしながら、頭でリズムを取って。
ドラムパートを想像しながら、両手で拍を打って。
もちろん足先で冷たい石畳をつつきまわして、ノセてあげることも忘れない。
歌声から感じ取れる心からの思いが、伝わっているよと、私も全力を込めて伝えたくて。全身を音楽に浸して……

「きゃー!九郎さーん!」
演奏が静まった時に、感極まって声を上げたら思いのほか神社に響き渡って心からびっくりする私。
え?
あれ?
…………なんだか凄く、恥ずかしい。なんか、つい名前で呼んじゃったし。

烏丸 九郎 > (自身と少女が刻むビートが心地よく響く。
歌を聴いてくれている少女に感謝を込めて、歌は流れ、そして終りへと近づく。
少年が歌い終わると、少女の声だけが神社に響く。
その反応が嬉しかったのか、満面の笑顔を少女に向けて)

へっへ、ありがとよ。聴いてくれて。
声援も、バッチリ心に響いたぜ!

(名前で呼ばれたことはあまり気にしていない様子。
むしろ少年的には名前で呼ばれるほうが語呂がいいので好きだったりする。)

光ヶ丘睦美 > 「さ、サイコーでしたっ!もし、もしもバンドで演奏することがあったら絶対聞きに行きます!」
もう恥ずかしくて恥ずかしくて、その笑顔がまともに見られなくて。
照れ隠しで拳を突き出す私。
こうやって拳を打ち合わせたら、言葉じゃ足りないところまで伝えてくれる気がするから。

烏丸 九郎 > ああ、たのむぜ。その時はよ。
ほんと、ありがとな。スッキリしたぜ。

(少女のつきだした拳にコツリと拳を打ち合わせる。
少年の感謝が少女には伝わっただろうか。
そして、力強く、澄んだ、多くの気が流れ込むだろうか。)

光ヶ丘睦美 > 「えへへ、さっき階段を登ってたときと比べて全然スッキリした顔してますよ、かr…クロウさん」
突き合わせた拳から伝わってくる思いが、クロウさんの悩みが晴れたことを裏付けてくれていて、
私はようやく照れっぱなしだけどクロウさんの笑顔に向き合って、名前を呼ぶことが出来た。一度呼んだら、もう一緒だし。

…でも、今の私だと、このままこの気もどこかに流れでていってしまう。
それじゃ嫌だ。私はまだまだ未熟者だけど、それでも私の全力をこんな形で上書きして塗りつぶされて否定されるのは悲しい。
……もしも、さっきの歌のように。回り道すること無く、この気が伝えられたら。

「でも、まだクマが残ってますから…そんなんじゃ男前が台無しですよ?」
溢れ出る生気を止める必要なんてない、もともと有ったものを無くすことは出来ないし、抑えこむことだって難しい。
だから、やりたい事をやれるように、方向付けしてあげるだけで、いいんだ。
深呼吸して…受け取った気を目印に、今度は自分の気をクロウさんに渡してあげるイメージを、強く持った。
最後の最後、今度は…良い学生になるための力が、拳から伝わっていけばいいな、と。

烏丸 九郎 > ああ、あんたの…睦美のおかげだぜ。やっぱり、歌を誰かに聴いてもらうっていうのはよ
最高に気持ちが良いよな。歌うってだけでも気持ちいいのに、誰かとそれを共有できるんだからよ。

(互いに向き合って、名前を呼び合って、同じ時間、同じ空気、同じ歌を共有して…その心地よさに少年の笑顔は輝いていた。)

へへ、疲れは…まだ残ってるからな。しばらくうろついたら、帰ることにするさ。

(そう言いながらも、打ち合わせた拳から、暖かなものを感じて。
その気が体に満ちてゆく。少年には見えない気の流れが少女にはわかるだろう。)

光ヶ丘睦美 > 出来た……今まではずっと、うちわであおいで水銀を移動させるような感じで、全然出来なかったのに。
さっきは、手も使わずに水を移動させるみたいに、なんとなく、イメージが軽くなっていた、気がする…
「やっぱり、通じ合うのが一番気持ちいいですよ。片方だけが頑張ってたら全然気持ちよくない、と思います」
感謝と感謝で通じ合うのは、私にとっても最高に気持ちいいことで。
「…………だから、つぎは、テストがクロウさんの努力と通じあってくれるかも、ですね」
冗談っぽく言って、今夜のライブの終わりを名残惜しく思いながら。
「それじゃ、頑張って下さいね。疲れてないように思えても、早く帰らないと、ダメですよ」
ちょっとだけ念を押す。

さてと。……どうも神頼みの効果もあるみたいで、私の中へ気の流れが帰ってきて、真っ当に戻った様子。
「……今晩、クロウさんに会えて良かったです。それじゃ、また」
クロウさんと、たぶん神社のおかげ。感謝の気持は尽きないけれど、今夜はこれくらいで帰らないと…

烏丸 九郎 > おう…。だといいんだけどな、それは努力次第…ってとこかな。

(カラカラ笑いながら少女に手を振って、見送る。
流れ込んだ気が、活力に変わるように少年の苦笑するような笑顔の顔色は良くなっているようで。)

ああ、俺も、睦美に会えてよかったぜ。かさねがさね、ありがとよ。

(去ってゆく背中に、更なる感謝を投げかける。)