2015/08/14 のログ
ご案内:「常世神社」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > ──もうすぐ夕暮も近い常世神社
西日に目を眇めながら、東雲七生はぼんやりと考え事に耽っていた。
眼下では明日の祭に向けての準備が着々と進められている。
……そう、眼下では。
東雲七生が考え事をしているのは、常世神社の石段を上り切った最初の鳥居の上だった。
■東雲七生 > 「……あ~、夏が……終わる……」
口から漏れるのは考え事とは別の言葉。
さっきからずっと頭の中でぐるぐる回っている悩みは、
どういうフィルターを通されているのか、全てその呟きとなって口から外へと出ていく。
傍から見れば単に夏休み明けに絶望している学生にしか見えないだろう。
──実際、絶望しても居るのだが。
■東雲七生 > 「海……山……花火……祭……」
絞り出す様に呟かれる単語。
それは、出来れば夏休みの内にやりたかったことだ。
だが、まだ夏は残ってる。これから何度でもチャンスはあるだろう。
それよりも今は優先すべき事柄がある。
──まずは延ばし延ばしにしている一つの答えを伝えること。
■東雲七生 > 「やっぱ昨日何かアドバイス貰っとけば良かったかな……」
トラウマに隣接する悩みというのはそもそも打ち明けにくい。
今になって考えてみれば昨日は絶好のチャンスだったんじゃないか、とか思ってはみたものの。
同級生の、それも異性に打ち明けるのは流石に勇気が足りなかった。
(──いつもそうだ。)
肝心な時に一歩踏み出せない。
それは体ではなく、心の問題。
体はむしろ考える前に一歩どころか一足飛びくらいの勢いで前に出る。
しかし、体を動かしてもどうにもならないこと。特に自分の事に関してはどうしても前に進めない事が多い。
(──分かっては、いるんだけどなー)
■東雲七生 > しかしまあ、何時までも悩んでいられる様な性格でもないので。
意を決した様に制服のポケットから携帯端末を取り出すと、鳥居の上でメールを打ち始める。
祭の準備をしているうちの何人かが、時折七生へと目を向けるが特に何も言わずに作業へと戻る。
初めのうちは手伝いだと思われていたのだが、力仕事が出来ない事を悟られてからは徹底してスルーされている。
七生も作業の邪魔にならない様にと、鳥居の上に避難してきていたのだった。
「……まあ、これで良し、かな。」
一つ目の悩み事を一手、前に進めよう。
■東雲七生 > 正直、しばらく色恋沙汰とは無縁に生きたいと思っているのだが。
だからと言って周囲にそれを強要する気も無い。
その事を、過不足無く伝えなければならない相手がいる。
メールは、その相手へと正しく送られたはずだ。
これで宛先が間違っていたらそれはもう事故とも呼べない大惨事だ。
……ちょっと背筋が冷たくなったので、たった今送ったメールの宛先を確認する。
「……よ、よし。おっけー、大丈夫。」
■東雲七生 > これで悩みの一つは近日中に結果はどうあれ一応の解決はするだろう。
その為にはもう一歩踏み出さなきゃならないのだが、それはその時の勢いでどうにかするしかない。
今考えたところで、どうしようもない。
七生は大きく息を吐いて視線を石段へと向ける。
今日は半日以上一人で悩んでいたので、そろそろ誰か話し相手が欲しい所だった。
──欲を言えば、気楽に話せる見知った顔なら尚良い。
■東雲七生 > 「流石にそう都合良く知り合いが来る筈も無いか……。」
薄々分かってはいた。
だって神社は今、明日の準備中だもん。
「祭かあ……祭も、来たいよなあ。
浴衣か、甚平あたり着てさあ。わたあめとか杏飴食べたい。」
溜息と共に願望が漏れる。
ついでに、出来れば浴衣の似合う女の子と来たいなあ、とこの年頃の男子なら誰もが思うだろう。
しかし“そういうの”は今はもう考えるのも面倒だった。出来るだけそっとしておいて欲しい。今はその手の感情には能動的になれない。
■東雲七生 > 「よし、帰ろう。」
一度帰って着替えていつものランニングをしよう。
そう決めておもむろに鳥居から身を投げ出した。
祭の準備をする式典委員が何人か驚く中、
石段の途中に着地し、その反動で跳ぶと残りの石段も跳び越して着地する。
あんまり人前ではやらない軽業めいた行動に、思わず着地後に辺りの様子を窺ったが、幸い人の気配は無かった。
「ついいつもの調子で跳んじゃったけど、気を付けねえとなあ。」
くしゃ、と夕日に照らされて赤さの増した髪を掻く。
■東雲七生 > 出来れば目立ちたくない。
平穏無事に過ごして卒業したい。
それは常世学園に入学した当初抱えていた願望だ。
今はそれも、少し形を変えた気がする。
何が変わった、と自分ではっきりいう事は出来ないけれど。
「明日も学校──は休みだっけ。」
ただ、何かとやらなきゃいけない事は多いので。
明日はまず手つかずの夏休みの日記を片付けよう。
そう心に決めると、七生は駅の方へと走り出した。
ご案内:「常世神社」から東雲七生さんが去りました。