2015/09/22 のログ
寄月 秋輝 >  
がくん、と自分の中の魔力が揺らぐのを感じる。
構成された魔力が狂う。
三つの魔術が、おそらく変わってしまったのだろう。
けれど知らぬ、構わぬ。
殺す上で変わらないならば、それでいい。
限界を超えて鍛え抜いた体は、それでも動かせる。

「すみません、先生。
 この身の至らなさ、後で改めてお詫びいたします」

木刀を掲げ、まっすぐ『ウィザード』へ柄頭を向けた。

「《シューティングスター》」

元の世界とは違い満足に扱えない魔術。
それを即興で組み立て、発動させる。
わずかにさいこの異能によって狂わされ、追尾性能を無くしているが関係ない。
十六発の小さめの光弾が放たれ、『ウィザード』へ殺到する。

「……お前のその顔には覚えがあるんだよ。
 人を騙して喜んで、自分の楽しみのために周囲をいくらでも傷つけられる。
 お前はそういうタイプだ」

わずかに、怒りに表情が歪んだ。
魔力はそれに呼応せず、大した威力ではないまま光弾はそのまま飛んでいく。

『ウィザード』 > 「まだ正式にこの学園の生徒というわけではないからな。
 そうだな、観光客と思ってくれた方が良い立場だ。
 あくまで生徒予定。
 貴様のお世話になるのは、もっと後の話だ
 故に、貴様に私を指導する義務はまだない」
防衛を宣言した以上、『ウィザード』が不良に攻撃する事はないだろう。
最も、不良が『ウィザード』を攻撃するような奴なら話は変わってくる。

空中を舞っている『ウィザード』は、変な方向に移動しかけるが、余りある膨大な魔力をもってして制御する。
その自慢の観察眼で、なにやらある事を理解する。
「なるほどな。能力を狂わせたり、制御し辛くする異能か。
 具合が悪くなったという事は、そちらの生徒指導の異能で間違いないな」

十六発の小さな光弾が『ウィザード』を狙う。
本来なら、さらに厄介な魔術である事が想像できるが、生徒指導の異能により弱体化しているのだろう。
条件はお互い、同じというわけだ。

「酷い言い草だな。
 私はこれから、善良な一般市民になろうと言うのにな」
まるで息をするかのように嘘を吐く。
「信用してもらえないのなら、仕方がない」
寄月秋輝の言葉に、おかしくて、おかしくて、正解すぎて笑えてくる。

『ウィザード』は特に何の動作もしていない。
だが、『ウィザード』の手前に炎の障壁が展開される。
その炎の障壁は、光球さえも燃やそうとしていた。
ちなみに、さいこの異能により本来狂わされるはずの魔術は、明らかに燃費の悪い魔力量を持って、半ば力技で回避していた。
「ぬるい攻撃だな。
 そんな魔術では、私は殺れぬぞ」
炎の障壁は、人の姿を象っていく。
そして障壁は、全長三メートルの炎の魔人となった。

「次はこちらからいかせてもらおう」
炎の魔人は、寄月秋輝を連続でパンチする。
これもまたさいこの異能で狂わされないように、膨大な魔力を注いでいる。
力技で、さいこの異能に対応しようとしているのだ。

来島さいこ >  ――力技で対処しようとする事は可能だろう。
 が、追加で注がれる魔力そのものを対象に取ってしまう為、秒毎にn倍,次はnの倍,その次はnの4倍、nの8,16,32――
 "もっと!もっと!"と制御の為の魔力を要求する――かもしれない。
 その傾向で狂う場合、こまめに発動を切ってやったり、維持の短いものを使ってやったりするとよさ気にも思えるし、その他の対処もあるだろう。
 尚、ポーションや道具などで魔力そのものを回復を試みる場合、
 それすら狂わせようとするので注意が必要だ。

 ……来島さいこは能動的な行動を行わない。
 久々に使った異能はあまりよろしくない感じだったのかもしれない。

(残ってもらって、正解だったかも。)

寄月 秋輝 >  
魔力弾は威力がかなり低く、あっさり『ウィザード』の魔力に飲まれるだろう。
しかし三つの魔術はまだ発動すべきではない。
あれは決め技として扱わねば。

「先生……大丈夫ですか?
 調子が悪ければ、その人を連れて撤退したほうが」

まで言葉を紡いで、炎の巨人に殴り飛ばされる。
だがほんの僅か揺らいだ程度、一瞬で態勢を整える。
そしてあろうことか木刀を腰に構え、その巨人の腕に振るう。

立ち居合の抜刀術、神速を誇る剣術。
残像すら残さぬ抜刀、振り切った次の瞬間には終わっている高速の納刀。
魔力も込められているか、木刀は焦げ付くものの燃え尽きたりはしない。
空を切り裂き、巨人の炎の腕を切りつける。
それは一度で終わらず、何度も何度も神速の抜刀と納刀を繰り返す。

『ウィザード』 > 『デーモンズ・ロッド』は無尽蔵に魔力を増幅させる。
つまり溢れ出る魔力により、力技で抗う事ができるようだが、無限に連鎖し狂わされる魔力には矛盾が生じてしまう。
つまり、無限に狂い始めて、それをまた増幅した魔力で制御しようとし、それがまた狂わされ、さらに膨大な魔力で制御しようとするため、『デーモンズ・ロッド』から目に見える魔力がまるで噴水のように溢れだしてしまう。
このままでは、魔力が神社を覆い尽くすかもしれない。
「ふん。
 悪魔の杖から魔力が溢れだしているな。
 生徒指導教師の異能による影響か。
 このままでは正直まずいな。
 我々が戦闘している場合ではなさそうだぞ」
そう寄月秋輝に警告を告げる。

『ウィザード』の持つ宝具『デーモンズ・ロッド』から魔力が溢れだした事で、炎の巨人はさらに巨大化する。
寄月秋輝の神速の剣術は次々と炎の魔人を斬っていく。
だがもはや膨大という言葉すら生ぬるい魔力を宿している魔人をそう簡単に斬る事はできない。
何度斬り付けようとも、魔人は傷を負ったようには見えない。
しかし、目には見えない傷は追っているようで、痛みに少し悶えている事が分かる。

寄月 秋輝 >  
「それがどうした。
 言ったはずだ、お前を滅ぼすのが目的だと。
 ここが吹き飛ぼうが、僕が吹き飛ぼうが関係ない。
 お前が死ぬなら、関係ない」

狂気的ですらある目で、静かに答える。
音速の剣技は止まることなく、それどころか速度を増していく。

明鏡止水。
一瞬で精神を極限の集中状態へ持ち込み、速度を上げる。
さらに分割思考、神速の抜刀術を行いながら魔法を構築する。

「《スターフォール・アヴァランチ》」

空から、『ウィザード』へ向けて魔法の弾丸が降り注ぐ。
それは先ほど射出した弾と同程度の威力とサイズだが、量が比ではない。
少しの転移程度ではかわせないほどに大量に、周囲を覆い尽くすように雪崩れてくる。

来島さいこ > 「――。」

 異常な速度注がれる魔力と能力がデッド・ヒートして大変なことになっている
 増える魔力と狂う魔力が尋常じゃない。

 だとしたらまずい。
 即座に止めないと行けない。異能と魔力が合体事故を起こして外道な魔生物とか出来てもおかしくない。

「止めるね――。
 ……有効じゃないみたいだし、足手まといにしかならなさそうだから。
 わたしはこの人を連れて行くよ。」

 さっくりととめてから、ふらついた足取りで不良と共に後にする。
 寧ろ不良にも心配されている始末である――と言うか、不良も何か困ってすら見える。

「後、風紀委員さんも、ここは壊しちゃ、だめだよ。」

 それ故に、自身で穏便にどうにかしたかった所もあるが――
 ――今は不良の避難と、通報が先決だ。

 程なくすれば、各委員会が駆けつけるだろう。

ご案内:「常世神社」から来島さいこさんが去りました。
ご案内:「常世神社」に来島さいこさんが現れました。
ご案内:「常世神社」から来島さいこさんが去りました。
『ウィザード』 > 「ああ。生徒指導教師。
 止めてくれた方が、私としては助かるな。
 この膨大な魔力がよからぬ方向に動いてしまっては、惨事になりかねない。
 私もさすがに、それは避けたい」
もちろん、“今は”だが。
むしろ、大惨事になってくれた方が『ウィザード』にとっては喜ばしくある。


「ここを吹き飛ばそうとまでするのだな。
 それもまた、貴様の狂気とでも言えるだろう。
 人間の心は、全くもって脆いものだな。
 すぐに、狂ってしまう。
 そして、悪意へと染まってしまう。
 今の貴様がそれだ」

今ここには、あまりに膨大な魔力がある。
それも目に見える程のだ。
それ等の一部は『ウィザード』の支配下にある。
そして、大半が狂ってしまった魔力だ。

──その狂ってしまった魔力が炎の魔人に吸収されていく。
炎の魔人は三十メートル級にもなった。
それも、来島さいこの異能により狂ってしまった魔力でだ。
当人の得をしない方向に動くだろう。

そんな時、『ウィザード』の真上より、複数の弾丸が降り注ぐ。
数が尋常ではないので、回避は難しいと言える。
「簡単な話だな。
 回避ができない範囲攻撃がきたのなら、防御すればいいだけの事だ」
『ウィザード』の体に、凍てつく氷の鎧が纏われていく。
銃弾は次々と氷の鎧を貫いていく。
最終的には、氷の鎧は割れてしまった。
だが中には『ウィザード』はいない。
まるで脱出の手品かのように、『ウィザード』は秋輝の背後に現れる。
「そんな攻撃を何度続けても無駄だぞ。
 それよりも、あの炎の魔人が狂い始めてきたな。
 さて、貴様はどうする?」

さいこの異能により狂った炎の魔人は、本殿を殴りつけようとしていた。

寄月 秋輝 >  
「……気を付けて、先生」

魔力の異常が直った。
先生の力だったか、と少し納得しつつも。

「《スターコール》」

きゅっと右手を握りこむと、降り注いだ無数の光の弾が自分へと収束する。
もちろんそのままならば、真後ろに居る『ウィザード』もそれを浴びることだろう。

「お前を殺せばいいだけのことだ。
 お前を殺して、あの炎の塊が残るならそれから処分する。
 順序通りだが、どうするか尋ねたいことがあるか?」

どうもこうもない。
行く先は、答えはただ一つ。

巨大な炎の魔人に殴られる。
さすがに直撃を受けるわけにはいかず、再び木刀を全力で叩きつける。
今度は納刀すら考えない、全力の一撃。
振り抜く速度は今までよりさらに早いが、炎に木刀は飲み込まれて消し炭となるだろう。

『ウィザード』 > 降ってくる無数の光の弾は、風魔術により宙に浮いて大きく後方に下がる事で回避する。
「ひとつ言っておくが、私を殺してもあれは止まらぬぞ。
 なぜなら、今やあの魔力は私から離れている。
 本来ならば私が制御できるものだったはずだが、先程の異能で狂わされてしまったようだ」

炎の魔人は、本殿をぶち抜いてしまった。
さらに、秋輝にも攻撃を加える。
「こちらは、貴様の狂気に付き合っている場合ではないのでな。
 あの狂った魔人を先に止めさせてもらう。
 あれを放っておいても、私にメリットはあまりないのでな」
『ウィザード』は、詠唱もなしに大魔法を展開する。
無数の巨大な氷柱が、炎の魔人に突き刺さった。
「貴様は、今私を狙うという馬鹿な事をして自滅の道を歩むか?」

当然、共闘などというのは、ただの慣れ合いごっこだ。
『ウィザード』はそんな事を本気でする奴でもない。
しかし、炎の魔人は単純に『ウィザード』にとって邪魔な存在となってしまったのも確か。

寄月 秋輝 >  
「もう一度言うが、お前を殺してアレを止める。
 順番通りだ。
 ……いや、二つまとめて仕留めてもいいか」

真上に指を向ける。
天空で時間をかけて完成させ、今まで光を吸収させて強化させておいた。
歪んだ魔力に正常な魔力を上乗せし、歪みすら修正した。

「おいで、《太陽の怒り》」

直後、天空から光の柱が建つ。
発生した、と言えるほどに早く光の壁が降り注ぎ、境内を含む全てを包み込む。
その中に居る炎の魔人はもちろん、『ウィザード』も自分も巻き込んで。
しかしそれは物理的な破壊力は皆無である。
殺傷能力は無いが、魔力そのものに対する純粋なダメージを与える光の柱。
それが全てを包み込む。

無論、自分へのダメージも甚大だ。
それでも落とさずには居られない。

これ以上の被害を広げてはいけない。

『ウィザード』 > 「二兎を追う者、一兎も得ずとはよく言ったものだな。
 同時という方が、ある意味で有効手段足り得るかもしれない。
 私との戦いで長引いている間に、あの魔人は破壊の限りを尽くすだろうからな」

寄月秋輝が真上に指を向けると、天空から光の柱が降り注ぐ。
光の柱は、境内全てを包み込んだ。
どうやら物理的な破壊力はないらしい。
光の柱を受けた事で、外傷は見当たらない。
だが魔力ダメージを叩きこむ技のようだ。

『ウィザード』はもろにその技をくらってしまい、魔力のダメージを受ける。
一瞬、苦しい顔を見せるが、また平然とニヤリとした怪しい笑顔を見せた。
「魔力ダメージか。
 そんなものは、この私にはほとんど意味がない。
 損失した魔力を即座に増幅できるのがこの悪魔の杖、宝具『デーモンズ・ロッド』だからな。
 しかし、炎の魔人には有効なようだったな。
 見てみるがいい、あの苦しむ姿を」

『ウィザード』の言葉通り、炎の魔人は苦しむ表情を見せる。
魔力の塊となった炎の魔人にこそ、魔力ダメージが特に有効に働いているのだ。
「礼を言うぞ、少年。
 ある程度魔人を弱らせてくれた事で、あの膨大な魔力を私の制御化に戻す事ができそうだ」
『ウィザード』は、炎の魔人に向かって飛んでいく。

寄月 秋輝 >  
「……チッ」

光の柱は消えたが、自分の残る魔力はほとんどが消し飛んだ。
さて、どうする。
先生の言った救援をアテにするには、いささか時間がかかりすぎている。
体術で滅ぼしてもいいのだが、それであの炎の魔人ごと消すには時間と体力がかかる。

「あと二つか……」

魔術ストックを考える。
しかし片方はともかく、もう片方はあれらを滅ぼすに足る魔術ではない。

目を細めた。
難解なパズルに挑むように、勝利への道を探る。

『ウィザード』 > 「安心するがいい。
 貴様の相手が一匹消える。
 この炎の魔人に宿す魔力が、この私に戻ってくるのだからな」

『ウィザード』は、苦しむ炎の魔人の内部に突っ込んだ。
すると、炎の魔人はさらに苦痛に暴れ出そうとする。
だがそれも序々に静まりかえろうとしていた。
やがて、炎の魔人は魔力の塊となり、『ウィザード』に吸収されていく。
あの圧倒的に増幅した魔力を『ウィザード』が再び体内に取り込んだのだ。
「うっ……。
 さすがに、これだけの魔力を一気に取り込むと、体が悲鳴を上げるな。
 仕方がない事だろう」
炎の魔人の魔力を取り込んだ事で、『ウィザード』の周囲には火炎が渦巻いていた。

そして『ウィザード』は、寄月秋輝の前に降り立つ。
帽子に隠れた口は、不気味に歪む。
「まだやるか?
 まだ戦えるだけの元気があるか?
 さて、どうする?
 私を殺す、とまだ言えるか?」
それはまるで、煽っているようでもあった。

寄月 秋輝 >  
こきん、と首を曲げて鳴らす。
その表情は笑みでも焦りでもない。
素だ。

「くどいな。
 お前を殺して成仏させる。
 それが今の僕の仕事だ」

当然のように言い放ち、今度は手首をバキンと鳴らした。
不利な局面だ。

しかしそれはいつも通り。
有利な戦いなど進めたことがない。
刀が無い、魔法が使えない、そんな理由で犯罪者は待たない。
このまま勝利へと歩を進める、それだけだ。

『ウィザード』 > 「そうか。
 なら、今この状況でどう抗ってみせる?
 どう足掻いてみせる?
 どうやって、この『ウィザード』を殺してみせる?
 答えてみるがいい、勇ましい少年よ」
帽子で顔はよく見えないが、また口が歪んでいる。
「いくら成し得ようとしても出来ない事はある。
 貴様は今、その絶望を知る機会にある。
 だが皮肉なものだな。
 私に刃を見せなければ、その絶望を目にする事などなかった。
 自らが招いた“絶望”だ。
 炎の魔人も本来、私に手を出そうとしなかったら生まれなかったものだ。
 この神社がめちゃくちゃになった理由の一旦は、貴様にある。
 その自覚は、できているか?
 私を倒そうとしたばっかりに、無駄な被害が出てしまったな」
煽ろうとする『ウィザード』だが、あくまで攻撃を加えようとしない。
『ウィザード』の中では、今回は正当防衛と決めているからだ。

ちなみに『ウィザード』は現段階において、違法滞在を除く表立った罪は犯していないと言える。
殺人も一切してないし、普通にこの島に暮らしてきた。

最も、これから大罪を犯す気まんまんな危険人物である事には変わりない。
大量虐殺するための計画も進行中。
そんな表裏一体の状況である。だからこそ、たちが悪い。
事前にそれを止めるには、やはり『ウィザード』の殺害は正解なのだ。

寄月 秋輝 >  
ふ、と初めて小さく笑みを浮かべた。
全て一度は聞いたセリフだ。
何よりおかしいのは、『戦おうとしたが故に被害が広がった』というセリフ。
では戦わなければ被害は小さく済むのか。
見逃せばそれで終わりか。
そんなわけはない。

「面白いな。
 犯罪者は相手に罪を広げようとする、典型的なパターンだ。
 もう少しひねった言葉を吐いてほしかったな」

きゅっと、今度は左手を握りこむ。
瞬間、『ウィザード』の空間を固定する魔術を発動させる。
両足と首と胴を光の輪で締めあげるための魔術。

「《バインドロック:スターライト》」

二つスタックしたうち、殺傷能力を一切持たない魔術。
ただ拘束するための魔術だ。

『ウィザード』 > 「先に私は言ったな?
 『私は他の英霊のように暴れる気などない』とな。
 そして、私はいつ犯罪を犯した?
 それを貴様は言えるか?」
『ウィザード』はフッと笑う。
「私は、駆け付けてきた風紀委員にはこう告げるかもしれない。
 特に何もしていない、男の人と会話しただけなのに、狂気に狂ったキチガイに襲われた、とな。
 だから自分の身を守るために、仕方なく魔術を使用した。
 その全てが、事実だ。
 貴様が私に手を出さなければ、余計な被害が出なかったのもまた事実だ。
 私が攻撃したのは、炎の魔人に放った氷系の魔術しかない」
さいこにより暴走させられたとは言え、炎の魔人を止めるのは、『ウィザード』の義務とも言えるだろう。
『ウィザード』はその義務を果たしたまでだ。

そんな時、秋輝の魔術により四肢と首、胴が輪で締めあげられる。
『ウィザード』は、無抵抗のまま拘束されてしまう。
「ほう……。
 私を殺すのではなく、拘束する方向に変えたのか?」

寄月 秋輝 >  
「七英霊の処分は既に必要項目として存在している。
 加えて一つ忘れているようだが、炎の塊を生み出したのはお前で、けしかけたのもお前だ。
 それまでに僕らは一切の攻撃をしていない。
 端末に魔力の証明とことの顛末は記録してある。
 下手な言い訳をしないことだ」

つかつか歩いていく。
そして『ウィザード』を正面から抱きしめる。
魔力、加えて自分の体で拘束し、とどめようとするだろう。
力強さよりも柔らかさのほうが強いかもしれない。
魔力拘束さえ抜け出せば、秋輝本人の拘束等楽に外せるだろう。

『ウィザード』 > 「炎の魔人を使って攻撃した事を素ですっかり忘れていた。
 すまなかったな。
 確かに攻撃を加えていた。
 だが、先に仕掛けたのは貴様だという事は変わらないぞ。
 貴様は《シューティングスター》なる攻撃を先にしている。
 私はそれを炎の壁で防いだ。
 ついでに言えば、生徒指導教師も毒矢でこの私を先に攻撃したな。
 その二点を忘れているわけではないだろう」
どっちが先かという問答をしても、無駄だろう。
「最も、そんなものはいくらで貴様達の間でも改編可能というわけだ。
 話し合いが無駄な事がよく分かる蛮族に相応しい。
 七英霊というだけで処分というなら、何を言っても無駄だという事だ。
 英霊というだけで処分とは、差別に近いな」
『ウィザード』は、寄月秋輝にも分かるようにニヤリと笑った。

寄月秋輝が『ウィザード』に歩み寄ってくる。
四肢や胴、首などを拘束された『ウィザード』だったが、なんとその体が液体に変化する。
そうする事で、拘束具を抜けだし、地面に染み込ませることでその場を脱出してみせたのだ。
これもまた高度な大魔術であり、本来膨大な魔力と詠唱を必要とする。
だが『ウィザード』はそれを難なくやってみせたのだ。

「予想通りと言えば予想通りではあるが、『何も罪を犯していない』というのは、無駄のようだな。
 しかし、貴様等はどんな罪状で私を殺すつもりだ?」
それは、見える所にに『ウィザード』がいないにも関わらず、寄月秋輝にとどいた。

寄月 秋輝 >  
腕の中から姿が消えた。
ふむ、とうなる。
これは確かに、現状で勝つのは困難かもしれない。

「それは済まなかったな。
 改ざんまではしないし、僕自身まだ監視の目がある人間だ、そこまでは出来ないよ。
 もっとも、攻撃するにあたって十分な状況ではあったが。
 高空で魔力汚染された宝具を構えた時点で、な」

案外、あっさり謝罪の言葉を述べた。
素直というべきか。

「七英霊の危険度に関しては書に記されているからな。
 全てが全て汚染され、悪事を好む存在。
 改心は不可能。
 加えて今まで記録に残る英霊たちの言動から察するに、書に書かれたことに偽りは無いと考えられる」

つらつらと言葉を並べ立て、言葉を一度切る。
ほんの僅か思考した。

「もしお前が本当に自分に罪は無く、今後も何もしないというならば。
 今ここで僕に連行され、風紀委員会でその旨伝えて見ろ。
 しばらくの拘束と監視はあるだろうが、それで信が得られれば解放されるだろう」

まるで目の前に『ウィザード』が存在するように語り掛ける。

「ついで、僕はお前を殺すのは諦めた。
 言葉通り『成仏』させよう。
 その方がまだ現実的だ」

最後の魔法を腕の中に携え、語り続けた言葉を切る。
表情は素のまま、変わらない。

『ウィザード』 > 水となった『ウィザード』は再び、秋輝の傍らにある地面から現れ、その姿を現していく。
「なに、間違いは誰にでもある事だ。
 私も先程、炎の魔人の事については忘れていた。
 許そうではないか」
かなり偉そうに言う。
だがあくまで、『ウィザード』はこの場では穏便に済まそうとしていた。

最も、その理由は何度も言うように、邪悪な計画を進めるためである。

「この宝具『デーモンズ・ロッド』は融通が利かないところがある。
 魔力が汚染されたなら、ほぼ強制的にそれをねじ伏せようと働きかけたのだろう。
 とても危険なものだ」

「それは、その書に偽りがあるかもしれないという事だ」
実際には、七英霊の書に偽りなどない。
『ウィザード』も例外なく悪事を好む外道。
改心の余地がなければ、今は犯罪を犯していない市民を演じているので余計にたちが悪い。
「他の英霊達と私は違う。
 あんな“無暗やたら”に暴れようとは考えていない」
つまり、無暗やたらに暴れるのではなく、裏で策を練っている。

「罪がない以上、貴様に連行される気もない。
 拘束と監視は、勘弁願いたいからな。
 風紀委員に私の意思を伝えるだけなら構わない。
 私がやってもいいのは、それだけだ」
拘束なぞされては、計画が大幅に遅れてしまう。
そんな事になっていいはずがない。

「英霊の死は、すわなち成仏だからな。
 というよりも、英霊は既に死んでいる。
 もう一度死ぬなど、実際はありえないのだ」
 

寄月 秋輝 >  
す、と再び目を細める。

「以前、大きな犯罪『だけ』を起こす女が居てな。
 そいつは普段絶対に表舞台に顔を出さず、常に水面下で事件を起こすための準備を整えていた。
 頻度こそ低いが、起こした事件はどれも未曽有の大事件だ」

目の前の『ウィザード』を細められた目で見つめながら呟く。
嫌な思い出だ。
この女が件の女に見えてくるほどに。

「何度も姿を現す愚か者より、お前のほうがよほど危険だ。
 今の僕のように、どこかに魔力を蓄えて一気に発動されたら困る。
 例えば……大地に魔力を張り巡らせ、陣の型を取って増幅して、住居スペースの大半を吹っ飛ばしたり、とかな」

危険な可能性はいくつも思い浮かぶ。
特に普段牙を見せない、狡猾な獣は始末に負えない。
手を出せる状況になったときには既に手遅れという状況が十分起こりうる。

「だからこそだ。
 お前を成仏させる魔法を用意しておいたが……
 どうも今回は決められそうにないな」

『ウィザード』 > 「それは大変な女だな。
 何が目的で大事件を起こしているかは知らないが、風紀委員にとっては厄介な敵になったろう。
 それだけの事件を起こすのだったら、その女も大した奴だな」
素直に、女を称賛する。
少し、興味があるとも言える。

「ほう……。
 確かに、何度も姿を現したあげくやられている姿を見ると、愚かという言葉も出てくるな。
 大地に魔力を張り巡らせれば、ばれるリスクは高いだろう。
 特に、この常世島では優秀な魔術師も多くいる。
 魔力をどこかに蓄えるというのは、テロを起こす上で有効な手段にはなり得るな」
彼もまた、優秀な魔術の使い手だ。
あらゆる策が、彼の頭には思い浮かんでいるのだろう。

「それは残念だったな。
 私は、そう簡単に成仏できないのだ。
 なにせ、この悪魔の杖があまりある魔力を私に提供してくれるのだからな。
 次はまた、別の手段を考えてみるのもいいかもしれないぞ。
 それを私は、また防いでみせよう」
ニヤリと不気味な笑みを秋輝に見せた。
この無尽蔵の魔力こそ、『ウィザード』の脅威の一つと言える。

寄月 秋輝 >  
「……元の世界に居たヤツだ、こちらでは何もしていないよ。
 おぞましい相手だよ」

吐き捨てる。
思い出しただけで、ほんの僅かに疲れが見える。

「……今お前を倒せないのが残念でならないよ。
 今の僕には足りなかった。
 ……いつもと同じように……」

自虐的に笑った。
諦めたわけではなさそうだが、現状を受け入れないわけにもいかない。

「次こそは、な。
 安心しろよ、お前には敬意を表する。
 賢く、厄介。これまでで一番面倒な相手だ。
 だから苦しめて殺したりはしない。
 僕の誇りをかけて、お前は……静かに眠らせる」

最後の言葉は。
驚くほど優しく、慈しみにあふれて。
その浮かべた笑顔は、優しげだった。

『ウィザード』 > 「それは勘違いしていた。
 それで、単刀直入に言うと、私がその女と被るわけだな?」
これはやはり、寄月秋輝という男はこの『ウィザード』の前に立ちはだかる厄介な敵になりそうだ。
最も、敵にするのは策が本格始動してからでも遅くはない。

『ウィザード』はあくまで、今のところは建前上一般人を装っている。
つまり、例え有効な手であっても、『ウィザード』もこの場で秋輝を殺害するのは不可能だ。
「その敬意、感謝する。
 ふん。貴様は良い好敵手になるかもしれないな。
 誇りをかけて静かに眠らせるか……。
 この『ウィザード』を打ち倒してみせるか?
 やってみるがいい、勇ましい少年よ。
 そうだな、貴様の名を聞こう」
優しげな彼の笑顔に対しても『ウィザード』は特に態度をかえない。
ただ『ウィザード』の方も、寄月秋輝を『勇ましい』と称賛していた。

寄月 秋輝 >  
「そういうわけだ。
 ……もっとも、だからってお前を襲うわけではないよ。
 同じだけ、警戒が必要だというだけのことだから」

言葉通り、笑顔を浮かべた瞬間であっても一切の油断は見えない。
たとえ今攻撃されても、簡単に命を奪うことは出来ないだろう。

「……アキ。寄月秋輝。
 覚えておけよ、『ウィザード』。
 しかしそう、好敵手か……
 もう敵対する可能性が無いとは言うつもりはないんだな」

今度こそ、迷わず相対することが出来る。
それでいい。

道を誤ってしまった霊を鎮めるは、自分の使命だ。

「……他の風紀委員の増援も無し。
 被害を最低限抑えるための自爆行動。
 ……また、逃がさなきゃいけないな……今度はお前を……」

口惜しい。嘆かわしい。
足りない自分が許せない。
だが、相手が上手なのは確かだ。
刀が無い、魔力を十分に扱えない。
そんな理由は、敗北の理由にはならない。
ただただ、倒せなかった。それが全てだ。

『ウィザード』 > 「その判断は正しい。
 今、貴様が私を襲ってもどうにもならない」
秋輝の笑顔には、油断が見えない。
ようするに『ウィザード』が彼を殺せない理由は二つになる。
一つは、『ウィザード』が犯罪者ではなく一般人を装っている事。
もう一つは、警戒されている敵は、そう簡単に殺せない。
つまり、ここで秋輝を襲うのは、下策以外のなにものでもない。

「寄月秋輝か。
 覚えたぞ、その勇敢なる者の名。
 未来はどうなるか分からないからな。
 もしかすれば、貴様の前に私が立ちはだかるかもしれない。
 逆もまたありえるという話だ」
建前上、今後事件を起こす気はない。
だが本音で語れば、大事件を起こす気満々であり、今もその策の準備をしているのだ。
それは、そんな表裏一体の意味を込めた会話だった。

「ああ。
 それでは私は失礼させてもらおう。
 また会える機会を心より楽しみにしている、寄月秋輝」
『ウィザード』のその目には『戦場で会おう』という意味も込められていたかもしれない。

楽しみな相手と出会ってしまった。
殺しがいのある相手と出会ってしまった。
この手で殺してみたいと思う相手と出会ってしまった。
だが、そんな感情は今は押さえておこう。
大事なのは、目先の欲望ではない。
先を見通す計画こそ、重要なものに他ならない。
だから、寄月秋輝も計画した上で殺す。
今は、その時ではない。

『ウィザード』の右腕は土に、右足は水に、左腕は火に、右腕は風に変化していき、体もまた火や水、風、土に変貌する。
四大元素となった『ウィザード』はそのまま、姿を消してしまった。

寄月 秋輝 >  
「……またな、『ウィザード』。
 気を付けて」

他の誰にもやられるな、という意味を込めてその言葉を紡ぎ。
姿を消す『ウィザード』を見送る。
勝てなかった。

「……次は勝たなきゃな……」

風紀委員への連絡をする。
今回の戦闘に関するデータと、危険性の報告、さらに本殿の修復依頼。

結果として、自分にも責任が飛ぶだろう。
それでも仕方がない。
自分が悪い結果だ。

もう一度、『ウィザード』の姿を思い浮かべる。
勝たなければ。

そうしてすべてを終え、秋輝もまた立ち去った。

ご案内:「常世神社」から『ウィザード』さんが去りました。
ご案内:「常世神社」から寄月 秋輝さんが去りました。