2016/02/02 のログ
ご案内:「常世神社」に士尺 流雲齋さんが現れました。
■士尺 流雲齋 > 「如月か……」
からん、ころん。こつ、かつ。
下駄を鳴らし、杖をつき。冷えた夜の参道を独りあるく。
「今年もこの季節がやってきおったの」
立ち止まって境内を見やり、呟いた。
雲がかかり、弱まった月光に照らされた老人の背が、ふと、ぐうんと伸びる。伸びる。伸びる……。
■士尺 流雲齋 > 杖を宙(そら)に高く投げ上げると、かわりに雲を切り裂いて、黒く輝く巨剣が落ちてきた。
着物の袖から、青白くほんのり光る右腕をぬうっと突き出し、その柄をがっしり掴むと、突き刺さらないよう提げもつ。
生暖かい風がびゅうっと噴き上げる。
そこに居たのは、身の丈11mはあろうかという大鬼であった。
「十一尺で、士尺。とは、流石に安易じゃったかのう」
尖った二本角に劫火の如く輝く眼、岩のような鼻。
着物を腰に纏った、筋骨隆々とした蒼い巨躯である。
剣山のように鋭い牙の間から、幾度目かとも知れない独り言が漏れる。その声、口調は間違いなく、先ほどまで居た老人のものであった。
■士尺 流雲齋 > 普段は力を抑え、人の身に封じている、この翁。
この時期にこの姿になったのには、理由がある。
「さて。節分にはまだ時間があるが、悪鬼共がやんちゃをしすぎないよう、見回らねばなるまいて。
昔と違って退治されることもなく、ただ豆ぶつけられるだけの仕事じゃ、良い世の中になったものよ」
悪鬼修羅が蠢いていた昔を懐かしむように、めらめらと息を吐く。
もちろん、鍛えた鬼は豆なんぞで死ぬことはないのだが、きちんと清めた豆だ、痛いものは痛いのである。
■士尺 流雲齋 > 巨剣の柄頭で地面を静かにたたくと、辺りの闇がざあっと流れ出し、黒雲のようにまとまった。
蒼い大鬼は剣を肩に担ぐと、巨体からは考えられぬ身軽さで、ひょいひょいと雲に飛び乗り、瞬く間に50mくらいの高さまで上昇する。
「いつも通り北東、艮(うしとら)から始めるとしようかの」
剣を舵のようにして雲の流れを器用に操り、闇に紛れて飛び去ってゆく。
あとには静寂があるばかり。
ご案内:「常世神社」から士尺 流雲齋さんが去りました。