2016/08/01 のログ
美澄 蘭 > 目を閉じる。
日が長いとはいえ、西の空が赤く染まり始めている時間帯だ。
さほど広くないとはいえ鎮守の森は薄暗くなり始めており、蘭も、閉じた瞼越しに光はほとんど感じない。
…少なくとも、視覚的には。

蘭は、「別の感覚で」森の中を「視ていた」。
一時の雨で爽やかに濡れた空気の、青い匂いの中に「甘い」「光」がぼんやりと漂って見える。
ところどころ、木の形にやや強めの「光」を感じるのは、この鎮守の森の中でも古い木だろうか。

(…何かしら、この…いつもの五感とは別のところで、世界を「視てる」みたいな…)

「甘い」「光」とか、まるで意味が分からないし、そもそも目でない場所で「光」を感じるのも妙なのだが。
そうとしか言えない感覚に、蘭は、言い知れぬ高揚感を覚えていた。

ご案内:「常世神社」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
ほんの少し、魔術の感覚を察知した。

ふわりと雨の降る空から舞い降りる。

「……どうしました?」

身を隠す偏光迷彩を解除し、目の前に出現する。

美澄 蘭 > そこに…ふわりと舞い降りる、人型の「光」。
声をかけられると…びくっとしたように、目を開けて。

「…え、べ、別に…
どうせ瞑想するなら、自然が近くて静かな場所が良いかと思って、ここにいただけだけど…
………一応本殿の方にはご挨拶して来たんだけど、良くなかったかしら?」

さほど自分と背丈の変わらぬ、中性的な容貌の男性に、不安そうにそう答えた。

魔術の気配は、少女が纏う球体状に展開された物理防御術式のものだろうか。
少女の足元は通り雨の後の森であることを考えると不自然なくらい綺麗なままだし、虫に狙われたような形跡もない。

…少女が先ほど目を閉じたまま「知覚」していたそれは、彼女が素で持っている魔力感受性が機能していたものであり、魔術とは別のものだ。
彼女自身にも、まだ自覚は乏しいが。

寄月 秋輝 >  
「あぁいえ、特にそういうわけでは。
 ……ただ、こちらで常駐魔術を確認したので……
 何かあったのか、と思って」

雨の中を歩いてくる。
ただ髪も服も濡れないのは、同じような魔術のためだろう。

「……僕もここが好きなんです。
 時々、参りにくるついでに気を安めるんです」

少女の目の前を遮らぬように、少し横にずれた。

美澄 蘭 > 「…魔術に詳しい後輩に教えてもらった防御術式を、先生に改造してもらったやつを雨除けと…今は虫除けとかも兼ねてるかしら、に使ってたの。
…雨除け虫除けには、ちょっと強過ぎかもしれないけど」

そう言って、少しはにかむようなぎこちない笑みを見せる。
実際、少女が纏っている防御術式は物理的な狙撃になら十分耐えうるレベルだった。

「…そうなの…。
私は特に信仰に篤いわけじゃないから、あんまり来たことなかったんだけど…比較的安全で、自然があって、静かなところって、他にちょっと思いつかなくて…それで」

少し横にずれた男性の方を少し向くように首を傾げながら、そう答える。

男性も、自分と同じように濡れたり足元が汚れたりはないようだが…「常駐魔術を確認した」と言えるからには、恐らく自分が纏う防御術式に似たような何かを使っているのだろうと、漠然と推測する。

物理防御術式は、魔力は透過させてしまう。
自然の中で、少女の持つ魔力が、鎮守の森の持つ神秘的な力と、わずかに境界を曖昧にしているのが、青年には感じられるだろうか。

寄月 秋輝 >  
「正しい魔術の使い方だと思います。
 僕も似たような魔術で体を覆っていますから。
 雨や紫外線、熱や冷気等も遮断するような防御魔術……一種の結界術を」

仏頂面だったが、そのぎこちない笑みを見て、小さく微笑んだ。
緊張しているのだろうか、などと考える。

「いえ、ここを選んで正解だと思いますよ。
 ……ここにお邪魔して、ちゃんと本殿にあいさつをしたのなら、それで十分ですよ。
 信仰心よりも、その気遣いと礼儀はちゃんと見てもらえていますから」

そう言っておく。
一応神社の生まれということで、伝えられるとよいのだが。

じっと魔術式を見つめ、よく出来ているな、と感じた。
物理に限定した防護術だが、おかげでかなり見辛い。

しかし、この神社の気とかみ合って、少々歪んで見えるのが気になる。

美澄 蘭 > 「ええ…せっかく使えるものだし…戦い以外の、平和な使い道も充実してる方がいいわよね」

意見が合った安堵か、少女の笑みが柔らかさを増す。
少女も、その防御魔術の他に、冷気を自分の周囲に循環させながら、周囲の温度の影響を遮断するような冷却魔術を身につけているようだ。
…防護術のせいで見えづらいが、その冷却魔術も、魔術耐性がなければ肌寒いくらいの強度だったりする。

「…そう、良かった…。
昔、お父さんの実家の方の親戚に神社とお寺のお参りの仕方の違いは教わったんだけど…覚えてて良かったわ」

胸に手を当て、安堵の息を漏らす少女。
神社などに縁があるということで日本か、それに類する文化圏の出身には違いないだろうが…その割に薄い色素は、この島では珍しくもないだろうか。

少女の魔力と神社の気のわずかな混交は、深まるでもなく解けるでもなく維持されている。
少女の素の魔力が、自然や、超自然と親和的な要素を備えているらしい。

寄月 秋輝 >  
「魔術は日常にも利用できる、ということがイマイチ浸透しませんね。
 戦闘に扱えるのも間違いではないのですが」

ふむ、とため息を漏らす。
そんな現状を憂いて、来年から教師をしようと考えたわけだが。

「作法も大きな問題ではありません。
 その心がけそのものが、この場においては大切なことだと思います」

続けて、その態度を褒める。
若いのに礼儀正しいな、と思ったりしてるかもしれない。

(……僕と同じ、神性持ちだろうか。
 いや、これは……保有する魔力の質そのものか)

魔力に関してぼんやり考えながら、少し少女の目、色違いのそれを見つめる。
もしくは、異邦人としてこちらに来て育ったか。
魔力を保有しながら生まれ、現地の気と融和すること自体はさして珍しいものでもない。

美澄 蘭 > 「戦闘以外の使い道を中心に教えてくれてる講義もあるのにね。
…私がとってるのだと、獅南先生の魔術学とか、治癒魔術とか」

溜息を漏らす男性の様子を気遣うように首を傾げながら頷く。
…この女子生徒、平然と「獅南先生の魔術学とってる」と断言した。

「…そうなの…結構、神様も寛容なのね?」

そう言って、口元に拳を軽く当てて口元を隠し、くすりと楽しげに笑みを零す。
穏やかな物腰は、少女の「育ちの良さ」を思わせて余りあるだろう。
…が、男性が自分の様子を伺っているのに気付くと、不思議そうにその大きな目を瞬かせた後、きょとんと首を傾げて、

「………どうか、したの?」

少女の持つ魔力は、この世界在来のものからは、若干異質な印象を受けるかもしれない。
…あくまで、「若干」だが。
そして、「神性」というほどの気配を少女から見出すことは出来ないだろう。

あくまで、少女が持つ魔力の「特性」の域を出るものではなく…だからこそ、過剰に境界が溶けることはなく、少女の魔力の輪郭はほぼ辿ることが出来るのだが。

寄月 秋輝 >  
「あぁ、あの先生ですか。
 僕はあの講義そのものは精度の高いものだと思っていますよ」

しれっと返した。
一方で、講義のことしか評価もしていない。

「そんなところですよ。
 ないがしろにしなければ、神はあなたに牙を剥くことはありません」

少しだけ柔らかくなった少女の雰囲気に、また笑みを浮かべた。
が、あまり見つめすぎたか。
こちらに不思議そうな目を向けられた。

「あぁ、いえ。
 魔術師として、他の方が術を展開しているのを見ると、どうしても分析してしまうクセがあって……
 失礼しました」

目を伏せて、ぺこりと頭を下げた。
しかし、そのおかげで大体だが少女がどういう質を持っているのかは理解出来た。

おそらく、この力は少女の今後の手助けになるのだろう。

美澄 蘭 > 「…正直、もうちょっと直感的に理解出来たら楽なのに、と思わなくもないけどね。
色んな魔術文字にも詳しいから、術式を組む時とか、相談したりするの」

彼の「異能嫌い」を身を以て体感した感覚の薄いこの少女は、講義以外の場面でも度々彼に助力を請うているらしい。
…それでも、講義自体は少女には少々「理屈っぽ過ぎる」ところがあるようだ。眉が少し寄り、その笑みには苦笑いの色が混じる。

「そう………
今日、帰る前にもお礼のご挨拶していこうかしら?」

「ないがしろにしなければ」の言葉を受けて、顎に人差し指を当てながら、思案がちに損なことを呟く。
頭を下げられれば、寧ろ恐縮したようにびくっとしてから手を身体の前で手を振って、

「ああ、良いのよ…別に、術式を隠したいとか、そういうのがあるわけじゃないから」

「ちょっと不思議な感じはしたけど…」と呟き気味に付け足しながらも、そう返す。

「術式を隠すつもりのない」彼女の素直さは、日常社会においては好ましいものとなり得るだろうが…万が一非日常に身を移せば、弱みとなる可能性が高いだろう。

獅南蒼二の講義についていける程度の頭脳の明晰さこそあるものの、少女の魔力の質、適性は本来は「感性」の方に寄っているのだろう。
「近代」的感性と我の強さが彼女を「ヒト」の側に強く留めていて、それが過剰な境界の融和を抑制している形だった。

少女のその力がどんな形で自身を助けるのか…それとも、振り回してしまうのか。
その天秤は、少女の「成長」を経て、少しずつ揺らぎ始めていた。

寄月 秋輝 >  
「……まぁ来年僕が始める講義を受講してください。
 魔術資質があるなら、もう少し感覚的な魔術をお教えしますので」

額を抑えながら言い放った。
魔術を学問、理論としてとらえて扱う、あの先生の講義は確かにわかりやすい。
しかし、それは同業者の身としてのものだ。
毎年の落第者数が多いという話も頷ける。

「そうですね。
 いえ、帰る時は鳥居の下で礼をして出るだけでいいですよ。
 お邪魔しました、と心で述べてからね」

それ自体が神社の参拝時の作法でもある。
神様の家にお邪魔しました、と告げればそれでよい。

「は……はっ!?」

慌てて魔術の分析視術を解く。
確かに、自分の魔力フィールドを通すだけで、相手の術式が見える。
眉をすごい勢いでひそめた。

「……いえ、それは……普段は隠した方がよいと思います。
 理由はまぁ……複数あるので伏せますが」

なかなか非常識な子が居たものだ。
こんなにあからさまに魔術を広げていますよ、と大手を振っている子はなかなか見ない。

質も含め、なかなか厄介な子だ、と感じる。

美澄 蘭 > 「…来年?あなた、先生になるの?」

「来年始める講義」と聞いて、予想外のところから話が降ってきたかのように目を瞬かせる。
女性として考えれば決して背の低くない蘭は、目の前の男性とさほど背丈が変わらない。
その彼が「来年講義を始める」と知って、驚きが小さくないようである。

「…そうなのね…そうするわ」

参拝の仕方までは教わったが、帰るときの作法までは覚えていなかった。
男性のアドバイスに頷く。

「………?」

男性の動揺と、凄い勢いでひそめられる眉に、こちらも不安そうに眉を寄せながらも、不思議そうに首を傾げている。
それから、言いにくそうながらも丁寧にアドバイスをくれる男性に、

「………そう、なのね…危険な場所では魔力を隠した方が良い、ってアドバイスは獅南先生にももらったことがあったんだけど、平和なあたりを歩いてる分には、平気かと思って。
魔力とか術式の隠し方…ちょっと、勉強してみるわ」

流石に男性の危機感のようなものは察知したらしく、改善の努力は宣言した。

何というか、魔術の技量と、魔力の質と、魔術に対する認識が、あまりにもちぐはぐな少女である。

寄月 秋輝 >  
「はい、今年で飛び級卒業する算段が立ったので……
 20になったので、ちょうど考えていた魔術講義を発表するのも兼ねてやろうかなと」

男性としても背が低い秋輝である。
加えて中性的な見た目が、いくらか若く見せているのかもしれない。
しかし、彼はもう二十歳なのだ。

「……どこも常に平和とは限らないものなんですよ……
 身を護ることの出来る魔術ですが、その術式が見えたらレジストすることも簡単ですから……
 やろうと思えば、この場で雨から身を守っているその術を解除することも出来るんですよ」

なんとか察してくれたようで、安堵のため息を一つ吐いた。
このまま日常生活を送っていたら、とんでもないことになっていたかもしれない。

美澄 蘭 > 「…飛び級卒業…魔術に凄く詳しいとは思ったけど、優秀なのね…
私、4年で学びきれそうにないって思ってたくらいなのに…

………って、20歳(はたち)!?…ごめんなさい、同年代だとばっかり…」

「飛び級」という言葉に感心させられたかと思えば、それ以上に男性の年齢に驚くことになってしまった。
それから、申し訳無さそうにわたわたと頭を下げる。

「………まあ…島の外より圧倒的に魔術師とか、異能者とかの割合が高いから、あんまり油断するのも良くないんでしょうけど………」

「どこも常に平和とは限らない」という言葉に、どこか不服そうな色を瞳に覗かせるが、その後具体的に「隠さないとまずい例」を挙げられれば

「あー………確かに、そういうことも出来るわよね…場合によっては書き換えたりとか」

「そんな話も獅南先生の講義で聞いたなそういえば」くらいの心当たりだが、納得はしたらしく、不服の色は瞳から消えた。

この少女、「平和ボケ」「日常バイアス」の、ある意味具体例のような存在であった。

寄月 秋輝 >  
「というより、学園の理念と魔術、異能に対する理解度の問題でしたね。
 僕は異邦人ですが、元々居た世界が近い性質を持っていたので、問題なかったです」

そう言い放つ。
学園の本質たる、異能者や魔術に対する理解を持った人間の育成が完遂しているならば、それ自体は難しくないのだろう。
彼に関しては、研究所からの推薦もあったのだが。

年齢に関してはひらりと手を振って、気にするなと示すが。

「……例えばの話ですけどね。
 いたずらのレベルでも、突然雨に濡れるようになったりしたら困るでしょう?
 もっと度が過ぎれば、その防護術内部の空気を抜くことも出来ないわけじゃないんです。
 ……これが全て、魔が差したという程度のいたずら心で出来てしまうんですよ」

平和とは限らない、というのは平和ではない、とイコールではない。
平和だからこそ、軽い気持ちで行われることが小さな、もしくは大きな打撃になることもある。
そういうところを理解してもらえばよいのだが。

美澄 蘭 > 「…学園の理念と魔術、異能に対する理解度…」

学園の理念はともかく、魔術や異能に対する理解度という意味では、間違いなく少女の卒業は遠いだろう。
座学の修得速度だけならば、さほど問題は無さそうだが…いかんせん、「日常バイアス」「平和ボケ」がまだ酷過ぎる。

「………あくまで喩えだけど…随分、性質の悪い「いたずら」ね………」

「防護術内部の空気を抜く」という喩え話に、少女に出来るめいっぱいの渋い顔と声で返す。
少女からすれば、そこまでいくと「倫理」の問題だろう、と思えてしまうわけだが…それでも、隙は作らないに越したことはない、と。
男性が言いたいのは、そういうことなのだろう。

「…「力」との付き合い方を考えなくちゃいけないのは、「暴力」になり得る部分に限らないのね」

そう、わずかに苦しみの見える声で漏らす。
「暴力」の部分で問題が見えることになってきて、それに向き合うための集中力を養うための瞑想のつもりだったが…どうやら、考えるべきことは増えていく一方のようだ。

寄月 秋輝 >  
「いたずらというのは時に恐ろしいものですよ。
 子供だって、面白半分に友達を水に沈めたり、袋を頭にかぶせたりするでしょう。
 ……魔術や異能を習得した子供は、それらとさして変わりないものです。
 そして、『それに対抗できる』とわかった相手には、エスカレートしがちですからね」

倫理も当然あるにはある。
ただこの世界を取り巻く魔術と異能は、まだ歴史が少々浅いものだ。
発現し、扱えるようになった者は『万能感』に包まれ、おかしな行動をとりがちだ。
それに対する隙を作るな、という言葉の意味が通じてくれたならば、それでいいのだが。

「そういうことです。
 守り、助けるための力もまた、付き合い方を間違えれば周囲や己に牙を剥く。
 ……あなたは聡明な方ですから、すぐに気付けますよ」

ふ、と笑みを浮かべた。
出会ってまだ時間は浅いが、それだけの信頼が出来る子であることは感じ取れた。

美澄 蘭 > 「………子どもって、無邪気だからこそ性質が悪いこと、あるわよね。
私は、酷いいたずらなんてほとんどやらなかったけど」

その声は静かながら…独特の冷たさを持って響いただろう。

少女の生育歴からすれば、「やらなかった」というより「出来なかった」の方が正しかった。
記憶は大分遠くなりつつあるとはいえ…無邪気さ故の性質の悪さを発揮しようとした蘭に降り掛かった「苦しみ」は、決して忘却の彼方に消え去ったりはしないのだ。
…その後の、「彼女」の悔恨も。

「…まだまだ、助けてもらって…守られてばっかりだから、あんまり自信は無いけど。
…分かるようになっていきたいわ。せっかく、色々押し切ってこの学園に入ることを選んだから」

まだ目はやや伏せがちにしているが…それでも、そう語る声には、「このままではいたくない」という強い「我」を感じることは出来るだろう。

寄月 秋輝 >  
す、と目を細めた。
何か、少女には心当たりがあるのだろう。
それとリンクさせて理解させたのならば、それ以上踏み込んではいけない。

「助けられ、守られることで見えてくるものもありますよ。
 ゆっくり、ここで学び続ければ、卒業するころには答えが出ているはずです」

声も、選んだ言葉も、とても強いものだ。
だからこそ、安心できた。
次の世代に、痛みを残さないでいられる子なのだろう、と。

美澄 蘭 > 「…助けられて、守られて見えるものは、いっぱい見せてもらってるわ。
それこそ、あなたにもね」

「だから、ありがとう」と、控えめにはにかんだ笑みを浮かべて言う。

「「力」との付き合い方に悩んで、先生に相談して…自分の「心」を強くするための方法の1つとして提案してもらったのが、瞑想だったの。
やりたいことが多過ぎて、どうしても頭でっかちになっちゃうことが多かったから…良い機会だと思って。

…考えることは増える一方だけど…こうして、親切に教えてくれる人と出会う機会ももらえて、今日は本当に良かったわ。
見たいものもまだまだあるけど…焦らないで頑張って見るつもり」

そう、穏やかに笑いながら言った後、何かに気付いたように目を何度か大きく瞬かせ、

「あ、でも術式とか魔力の隠し方だけは早めに覚えないとまずいわね」

と言って、少し困ったように笑った。

寄月 秋輝 >  
感謝の言葉には、ひらりと手を振った。
それは先達の義務でもあるのだ。

「素晴らしい心がけです。
 ゆっくり悩み、少しずつ解決し、誰かに教わり、自分で導き出していけばいいんです。
 まだまだ、急ぐにはあなたもこの世界も若すぎる」

そう呟いて、頷いた。

「……十分ほどお時間いただければ、教えられますよ。
 というより、それらを封じる方法を教えられていないことのほうが驚きです」

同じように、若干困ったような笑顔を浮かべ。
ぴっと指を払い、その指先から光の筋を残していく。
まるで黒板にチョークで板書するように、虚空に光の文字を書き込んでいく。
そのものまさしく、それら魔術関係の術式を簡単に見えなくするためのものだ。

美澄 蘭 > 「「無理に4年で卒業しなくていいかも」って話は、お世話になってる先生のうち何人かともしてるのよね。
一般教養だって、大学レベルに近い講義が開かれてたりするし」

そう言って、楽しそうに笑む。
勉強自体は、苦にしないどころか楽しめるタイプの人間であるようだ。

「あんまり上級の魔術講義とってないから…多分、日常で身に纏うことはあんまり想定されてないんだと思うわ。
………えーっと………」

隠す方法を教えられていないことについては、そのように推測する。
少女の才に気をひかれる魔術の先達が、個人的に且つ部分的に魔術の知識を伝授していくのが、割とこのアンバランスさを助長しているのだった。
双方に悪気がなかったのも、男性からすれば頭が痛いかもしれない。

そして、光の文字を注視してから、少女も同じように文字を宙に描いてみる。
光の軌跡を乗せるような器用なことは出来ないが、それでも7〜8割は合っているようである。

寄月 秋輝 >  
「そうですね。四年で必ず卒業する必要はないです。
 何人もそれ以上の年数勉強している人が居ますから」

世界単位で学ぶのに、実際四年は短いと感じる。
魔術も異能も、研究が進んでいる段階で『四年』というのはいかがなものか。

「……まぁ、無意識にやっている場合が多いですからね。
 魔術師にとって、魔術を解析されるのは命綱を取られるに等しいことですから
 ですが」

ぴ、と光の筋が途切れる。
簡単な魔術の構成式が描き上げられた。

「これをそのまま、自分の魔術に落とし込んでください。
 それでひとまず、同業者から即座に見破られることはなくなるはずです」

知識で習得し、感覚で学ぼうとする意識のある少女には、さほど難しくない内容だろう。
即座に扱える程度の、簡単なものかもしれない。

美澄 蘭 > 「飛び級するような人に言われるのも何か変な感じだけど…
一から学んで、専門を持つまでを「4年」はどう考えても無理があるものね」

そう言って、苦笑しながら頷く。
実際、「常世学園を卒業した後に」魔術や異能を専門的に学ぶ機会など、なくはないが門戸は間違いなく狭いだろう。

「………皆、無意識にやってたの………
あ、ありがとう」

見て、指でなぞって覚えた魔術の構成式を、魔力を籠めて描き上げる。
…もう、魔力フィールドを通す「だけ」では、少女の纏う2つの術式を読み取ることは出来なくなっているだろう。

「…うまく、いってるといいんだけど…
…今度、機会と時間があったらでいいんだけど…この術式の構成要素の意味とか、そういうのも教えてもらっても良い?」

そう、首を傾げて男性に乞う。
こういう知識欲も、恐らく彼女と出会う魔術の先達が色々伝授してしまう要因なのかもしれない。

寄月 秋輝 >  
「先ほど申しました通り、僕は魔術を扱える世界出身ですからね。
 この世界より、よほどそういった理念には強かっただけのことです」

じっと少女を見つめる。
発動させた瞬間に、術式が見えなくなった。
満足げに小さく頷いた。

「お見事、完璧です。
 ……そうですね、また会う機会があれば。
 とはいえ、これは難しいものでもないですよ。
 式の意味や、構成要素を教えるくらいなら、三十分もあれば」

首を縦に振って快諾した。
ただ、島を飛び回っている秋輝と会えるかどうかは別問題だ。
もしかすると、来年になるかもしれない。

美澄 蘭 > 「そっか…この世界でも魔術が「また」表に出てきて数十年は経ってるけど、まだまだ普及してるとは言えないものね…」

「世界の差」を聞いて、納得したように頷く。
素養の個人差が科学の比ではないこと、「力」を伴うため学ぶには安全を期さねばならず、それ故に学ぶ環境を整えるのにコストがかかること。
…無論、「降って湧いたもの」に対する警戒心もあるのだろうが、そんなわけでこの世界で魔術を学べる場所はお世辞にも多いとは言えないのだった。

「…そう?良かった…」

上手くいっていることを確認してもらえれば、安堵したように胸に手をあてて息をつく。
そして、式の意味などを教えてもらう機会については、

「…30分か…気になるけど、流石にもうそろそろ日が暮れるから帰っておかないと。

………あ、来年講義があるのよね。念のため、名字だけでも名前聞いても良い?」

「来年のシラバス見る時にチェックしたいし」と、男性の顔をまっすぐ見て。

寄月 秋輝 >  
「慣れてしまえば、魔術も科学も似たようなものなんですけどね。
 その慣れの足りない世界は、なかなか難しいものです」

ため息とともに吐き出した。

「あぁ、もうそんな時間ですね。
 ……僕は寄月。寄月 秋輝です。
 それと、寮住まいでしたらお送りしますよ」

小さな笑顔と共に名乗り、そう提案した。
自分は居住区でも別の場所に自宅を構えているが、送る分には難しくない。

美澄 蘭 > 「そうね…一応勉強の糸口はあるし。
…というか、ある程度科学の知識も役に立ったりするし」

「魔術も科学も似たようなもの」という解釈には頷く。
適応だけは無駄に早いかもしれない。

「…寄月さんね…私は美澄。美澄 蘭。

…送ってもらうのは、流石に悪いわ…アパート暮らしだけど、路面電車を使えばそんなに遠くないし」

名乗りには名乗りを返したが、「送り」の申し出には、困惑の表情。
…あまり、そういったコミュニケーションには慣れていない様子である。

寄月 秋輝 >  
「美澄さんですね。よろしくお願いします。
 そうか、路面電車という手があったか……」

交通手段が頭から飛んでいた。
何せ地上に居る時間が短い男だ。

「では十分に気を付けて帰ってくださいね。
 僕はこれで失礼いたします」

ぺこりと小さく礼。
ふわりと、風を伴わない浮遊から、空へと飛びあがっていった。

途中から偏光迷彩を纏い、完全に姿を消して飛んでいくだろう。

美澄 蘭 > 「こちらこそ…よろしく」

「来年会ったら「寄月先生」ね」と、少しだけいたずらっぽく笑んだ。

「ええ…時々帰りが暗くなることがあるから、交通機関が充実しててホントに助かってるわ」

少しだけ硬い表情のまま、そう答える。
流石に、初対面の異性をプライベートな空間に近づけたくはないようだ。

「ええ…また」

そう、別れの言葉に返し…ふわりと飛び上がっていく秋輝を、呆気にとられた様子で見送る。

「………。
………そういえば、最初もふわってここに来たんだっけ、寄月さん………」

いつの間にか、姿も見えなくなってしまった。

(…姿を消す意味…あんまり追求したくはないけど。
やろうと思えば、私もああいうことが出来るようになるのかしら?)

そんなことも考えるが、やがて頭を振り。

(…だめ、少しずつ、足元を固めるところから始めないと)

そう思い直して、神社を後にするのだった。
無論、鳥居の下で、本殿の方にお礼を込めて頭を下げることは忘れずに。

ご案内:「常世神社」から美澄 蘭さんが去りました。
ご案内:「常世神社」から寄月 秋輝さんが去りました。