2016/10/25 のログ
ヴェイパージェイル >  
お手水場を指差し、その指をすぅと持ち上げたならば、石桶に貯まった水がまるごと浮き上がる。
水は、空中で全くの球体に姿を変えて、水を指差す女性へとふよふよと吸い寄ってきた。
頭よりも高い位置で、指を天へ。その先に水の球体が浮かぶ。小慣れたバスケ部の生徒が、器用にボールを回すように。

「~♪」

鼻歌――やや古いジャズソング――を鳴らしながら、水を抱えた女性は近くの生け垣へ。

「さん、はい」

そして散、配とでも言うように。
真球を象っていた水が、生け垣へぱっと撒き散らされた。

ヴェイパージェイル >  
普段、夜には抜かれている水道の栓が、今はきっちりと取り付けられて、石桶の中へこれでもかと水を吐き出している。
栓には常世神社/管理とタグがぶら下がっており、普段は社務所で保管されていることが分かる。尤も、今は社務所も真っ暗で――要するに彼女は慈善活動をしていた。

「いやはや」

夜中にも関わらず神社の生け垣に水を遣る。善人であろうか?
いやいや、そんなはずはない。そんなはずはないと、彼女の目に、その瞳の奥に宿る"光"が、そう告げている。断言している。
まるでそれを裏付けるかのような言葉が次に、ぼそっと漏れた。

「面倒くせぇ……供え物の御神酒飲んだくらいでなんだってんだわ……」

訂正しよう。間違いなくコレは慈善活動ではなく、強いられた社会貢献である。

ヴェイパージェイル >  
実のところ、この水やり行為を始めてまだ数十分しか経っていない。それでも既に、彼女の脳裏には『飽』の文字しか浮かんでいなかった。
それでも半分脳を殺して、機械的に水やり作業へ勤しんでいたのだが、もう限界だった。特に、水をガパっと石桶から持ち上げて、そしてまた石桶に水が貯まるのを待つ。彼女が悲鳴を上げたいのは、まさにその待ち時間である。

「暇つぶしが必要……いやしかし……」

反省は念入りに、禅の心地で行うようにとテメーはテンプルじゃねぇだろ、神社じゃねぇか。心のなかでそう叫ばずには居られなかったが、この社会貢献活動を行うにあたって、暇つぶしになりそうな機械類は全て没収されている。

「うーん……」

無い頭を絞る。――それもそれで、水が貯まるのを待っていたからこそ起こる悲劇だったのかもしれない。

「…………あっ、なるほどね。分かった。水が貯まるのが煩わしいわけじゃーん、そこをどうにかすればいいわけでしょ」

パチン! 我が意を得たりとばかりに指を鳴らす。その瞬間、その直後であった。

お手水場ほぼ直下の水道管が破裂し、天高く水を撒き散らし始めたのは。

ヴェイパージェイル >  
大人の方ですからねぇ、分別もあるでしょうし、ねぇ。
神主がそう言って、保護監督責任を放棄し、神社を後にしたのはどれくらい前の話だっただろうか。

「Yeah! ゴキゲンね~」

水道から出る水量の何倍になるだろうか。ガババババババババと、あまり渓谷や滝壺以外では聞かない水音を放ちながら、無限はここにあるのではないかと思える量の水が湧き上がる。
――もちろん? 彼女も突然馬鹿になったわけではなく? まあ元々馬鹿ではあるのだが、辺りを水浸しにすればいいじゃん! みたいなことを考えたわけではない。ちゃんと考えている。
やりたかったのはすなわち、出てくる水の量を増やしたかったということ。
そして今からやることは、さっきやっていたことがちょっと、ほんのちょっとだけ大規模になっただけ。

水道管から直接吹き上がった水は、地面に落ちることなく、彼女の頭上に巨大な水の球体を作り上げていく。

ヴェイパージェイル >  
「こんなもんかしら……Stop」

ピタリ。

事件では? と思えるほどの水柱は、彼女の操作によって一時的に終わる。そう、何も考えずにやっていたわけではない。ちゃんと勝算があるのだ。

頭上にあるのは、先程までとは比較にならないほど巨大な水塊。正直なところこれの維持はしんどいようで、彼女の額に汗が浮かぶ。とは言え、禅にも似た単純労働に比べればやりがいもある。

「あとは……」

スタスタと歩き、境内のおおよそ中央へ。水撒きを任された範囲は概ねこれくらい? 東西南北を視認して、まあ、パッと見では誰も居ないかな?

「さんッ……」

一瞬だけ、その巨大な水球の体積が十分の一くらいになったかと思えば。

「はいッ!」

花火が炸裂するかのように、夕立さながらのにわか雨となって、周囲にこれでもかと降り注いだ。

ヴェイパージェイル >  
辺りはまあ、巨人のガキが水遊びでもしたような惨状だ。

「うん、これでいいでしょ。神社の水やり終わり。あー疲れた。帰ろ」

頭をぼりぼりと掻きながら、お手水場へと歩く。
水道の蛇口を締めて、栓を取り外す。これで勝手に水が出しっぱなしになるということはない。当然のセキュリティだ。

「んで、あとはこの水道管を……」

破裂した水道管。

「水道管を……?」

彼女が能力で、一時的に"カサブタ"のようなものを作って、水の噴出を止めている。

「……」

彼女の意識が外れるか、仮に無意識下で管理できるパターンを組んだところで、一定の距離を開けてしまえば能力は解除される。

「す、水道管を……」

直す術を、彼女は持たない。

ヴェイパージェイル >  
水は時間が経てば乾く。
だから水道管も直る!
ここから直接水を取り出そうと考えて実行した時には、結構本気でそう考えていた。

そして今、絶対に直らないぞという水道管の強い意志を感じている。

「……」

彼女の想うは一つ。今こそ、ここで颯爽と自分を助けてくれる男こそ、――白馬の王子様なのではないかと。

ご案内:「常世神社」に真乃 真さんが現れました。
真乃 真 > 「おおっと、どうしたんだいそこの人!
 まるでここだけ大雨があったかのようじゃあないか!!」

吹きあがった水柱に惹かれて現れた男。
異様に長い白タオルを首に巻いた男である。

どうしようもないほど水浸しになった境内を見渡す。
原因はなんだろう?

「これは一体何があったんだい?」

いる人に聞いてみるのが一番早い!

ヴェイパージェイル >  
さあどうしたものだろうか。徐々に悪くなっていた顔色が、その気配に、聞こえた声に、足音に応じて、パッと明るくなった。

「ああッ、正直諦めてたけど……助けて!」

問われた言葉。迷わず返すのは打算もなければ同情を引く気もない、単なる事実。

「壊した水道管が直らないの!」

真乃 真 > 「ああ、僕に任せるがいい!
 助けよう!助けるとも!」

困っている人が近くにいればそれを助けるのが真乃真という男である!
だが、壊した水道管が直らないのか。そうか自分で壊したのか…。

「…よし、分かった!神社の人に謝って業者さんを呼ぼう!
 僕も一緒に謝ってあげるから!」

壊してしまったと素直に告げる少女?にそんな事を言う。
真乃真にそれを直すことなどできないのだから仕方ない選択である!助けられたとは言い難いが!
夜の暗さで良く見えないが着ているフリフリな服と背丈からしておそらく少女だろう!
流石に夜の暗さに隠れているとはいえあんな服だ!流石に少女だろう!!おそらく!多分!

ヴェイパージェイル >  
ヒューッ! トキメキ!

「謝って……? 一緒に……?」

年相応の声。特に、生徒の立場にある人間をちょっと叱る時に使うやや凄みのある声だ。

「よく考えなさい、まず神社の人を呼んだら意味ないじゃない。このまま朝を迎えたら自動的にバレるのよ。Okey? 困っている女性を助けるときの男はなんでも出来るでしょ?」

あんまり無茶苦茶な注文をしている――つもりはない。真剣である。ただ、少しだけ王子様願望が強く、王子様に求めているハードルが高いだけだ。王子様は日曜大工で水道管を直すことが出来なければならない。

「そ、それに……一緒に謝るって、それはちょっともう……それはもう結婚じゃない?」

重ねて言おう、真剣である。恥じらいから頬を少し赤く染めていたのだが、残念ながら、しっかりと塗られた下地クリームは紅潮もがっつり隠すのである。

真乃 真 > どうしよう、多分この人年上だ!
しかも、先生っぽい感じもする!
でも、流石に教師がこんな時間にそんな服を着て水道管を破壊するなんて流石にあり得ないだろう!
きっと、生徒かそれ以外の人だ!

「うーん、僕としては神社の人に謝ってほしいんだけど君がそれを望むなら
 もう少し考えてみよう!」

とは言ってみたものの…。
今、水道管の修理に使えそうなものは持っていない。
強いて言うならコンビニの袋とそれに入ったカップ麺しかない!

そして水道管は内部から強い力で破裂したみたいになってる!
ちょっとまって、日常大工のレベルで直るのこれ!

「…結…婚?」

何を言っているんだろうこの人…いや、夜で暗いせいで聞き間違えたのかもしれない。
それはもう決闘じゃないとかと聞き間違えたんじゃ無いかな?
そっちの方が意味は通る気がする!



「…というわけで神社の倉庫から色んな道具を借りてきたわけだけども。
 やっぱり諦めて謝った方が良いんじゃないかな?」

鍵はまあ、うん、少し工夫したら開いたので色々な道具を取ってきてみたものの
ただの神社の倉庫にあるような物だけで直せるのだろうか?
素直に謝った方が良い気がする!

ヴェイパージェイル >  
ワガママを言っているようで、実は少しドキドキしている。年下に『君』と呼ばれているのも評価が高い。王子様度60%くらいだ。
その上、頼りないながらもこちらの言う言葉に真摯な対応をしてくれている。これは王子様度が高い。ほぼ結婚相手と見て間違いないだろう。彼女の決意はかなり固まってきた。

「水は私が止めてるから、なんか普通に上から被せれば止まるんじゃないの……?」

『水は栓をすれば出てこない』というレベルの知恵しか生み出せない。とはいえ、テント用の耐水シートはいい仕事をするかもしれない。例祭時に「シートどこだっけ?」となる事態が容易に想像できることを除けばかなり良い。
尤も破裂の衝撃で、穴の口は割れた瓶みたいになっているものの。

「謝ったら次はどんな罪が待っていることか……?」

待てよ?

「……一緒に謝ってくれるって言ってたっけ?」

真乃 真 > …何だろう寒気がする。さ、最近夜は寒いからな!気をつけないと!!
早く帰ってあったかい布団に入りたい!でも、そのためにはまずこの人を助けないと!

「応急処置だろうけど確かにそれはいいアイデアだね!
 じゃあ、とりあえずそうしようか!」

そういうと、防水シートを持って裂けた配管に近づくそれに触れるか触れないか。
いつの間にかピッタリとシートはその穴を覆い隠して巻かれていたその裂けた部分にもピタリとフィット!
強い力を加えなければしばらくもつだろう!

「これでよしかな?あくまで応急処置だけどね。」

今度本格的に修理できる人を呼んだりする必要があるだろう。

「…ああ、言ったよ!確かに言った!一緒に謝ってあげるよ。」

…嫌な予感がする。
それでも確かに一度一緒に謝るって言った!言ったからにはどうしようもない。

ヴェイパージェイル >  
めっちゃ褒めてくれる……嬉しい……。
基本的にあまり頭がいいほうではないので、知恵を褒められることがあまりない。「酒強いね」とか「化粧上手いね」とか、そういうのは聞き飽きているのでグッと来ないけれど。
いいアイデア……知性的……不自然に彼女の顔は歪む。いや、ここは蕩けると言ってあげよう。

「……」

塞がれた穴。蛇口のほうから水を出しておけば圧力もかからないし、明日の夜に神主が蛇口を締めるまで、上手くいけばバレない。現行犯でなければ、ここを壊した証拠もない。
逃げ切れる……が。

「……そうね、このままにしておけば私のせいにはならないかもしれないけれど、やっぱり謝ったほうがいいわよね……?」

謝るとするだろう。
罰としての社会奉仕で器物損壊をしたのだ。もう一度、何らかの罰が与えられるだろう。
そしてその時には、隣にこの名も知らぬ青年が居るはずだ。
一緒に謝ってくれる……一緒に罪を被ってくれる……一緒にその償いをする……。

「……フフッ」

完全にデートだわ……入籍してしまう……。

真乃 真 > 月の光が、彼女の顔を照らす。
…化粧で覆われた女性の顔に浮かぶ不自然な表情。

…怖い!何だろう何かこの人怖い!
でも、でも、この人は今、困ってる!困ってるから助けないと!

「うん!分かってくれたらいいんだよ!
 自分の非を認めて謝るその姿勢は好…嫌いじゃないよ!」

無駄にカッコいポーズをとりながら言う。
普段なら迷いなく好きだなとか、素敵だとか言っているところである…あるのだが…。

「…そうと決まったら善は急げだ!さあ、早速謝りに行こう!」

何で笑ってるのこの人!?やっぱり少し怖い!

…でも、どんなに困った人であっても困ってる人なら助ける!
けど、正直僕も少し誰かに助けて欲しい気持ちもある!いや、困ってはない!困ってはないんだけど!

ヴェイパージェイル >  
残念、相思相愛の確認は取れなかったものの、これはこれで純愛みたいでいい。真の愛情は時間とともに育まれるのだ。

「そうね、急がないと……逃さないように……」

小声なので、まあ届くことはあるまい。

「あっ、貴方は生徒で――一年ではないわよね? 私、ヴェイパージェイルっていうの。ポーラって呼んでくれると嬉しいかな」

さあエスコートは王子様の役目だ。右手を差し出し、自らの名前を告げる。相手の名前を知ればもうそれは彼女にとって結納みたいなものである。おっとよだれが……いやいや、これは『雨』が偶然口元に降ってきたことに気づかなかっただけ……バレない……。

「行きましょう?」

ヴァージンロードがもう見える。境内の石畳だけれど。

真乃 真 > 絶対コレ駄目な奴だよね!絶対コレ駄目な奴だ!!
そう思うけども困ってる人を助けなきゃという思いが勝つ。
きっと、ほら疲れてるんだよ!この人も!

「ああ、僕は真乃真!三年生だ!よろしくねポーラさん!」

これって取らなきゃいけない手なんだろうか…それとも取ったら駄目な手何だろうか…。
ええい、ままよ!そう思って掴んだ手はなんというか歳上って感じ(マイルドな表現)だった。
多分、苦労してきたんだろうな…。
何だか少し、可哀想な気持ちになりながら手を引く。
そしてそう、きっとあれは雨だ、雨なのだ、ジュルって感じの音も地面のぬかるみに違いない!

「ああ、行こう!」

一緒に謝ったらすぐに帰ろう!急いでダッシュで!走って帰ろう!
そう心に決めて神社の人のいる場所へと向かう!
少し急ぎ足で!

ヴェイパージェイル >  
「真くん……」

距離の詰め方がインファイトボクサー並なので、返す刀で既に名前呼びだ。まあ付き合ってるなら普通だから?

さて、この後できっちり神主の元へと謝りに行き――己を偽ること無くきっちり謝ることが出来たということで、心の広い神主からはお咎めなし。もちろん、追加の社会奉仕活動があるはずもなく――デートプランがおじゃんになることなど、彼女は知る由もないのだ。

まあ、デートが出来なかったくらいで諦めないけどね。

連絡先を聞く前にさっそうと走って帰られたくらいじゃね!

ご案内:「常世神社」からヴェイパージェイルさんが去りました。
ご案内:「常世神社」から真乃 真さんが去りました。