2015/08/16 のログ
ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > ──夕暮時の異邦人街・商店街
他の地区の商店街同様に店の並ぶ通りを、東雲七生は興味深そうに歩いていた。
補習や宿題諸々を片付け終わったその足でこの商店街を訪れた理由は、特に無い。
今まであんまり行った事の無い場所へ赴こう、そう思った結果がこの商店街だった。
「ほぉぉ……やっぱ異邦人の売ってるもんってのは違うなあ。」
まるで子犬が散歩するかのように、あっちのショーウィンドウからこっちのショーウィンドウへ。
好奇心の旺盛さを隠そうともせずに歩く。
■東雲七生 > 衣料品、家具、家電、日用雑貨から食料品に至るまで。
並べられているのは学園地区では見かけない様な品々。
改めて異邦人との感性の違いに感嘆しながらも、
行く先行く先で歓声を上げながら七生は商店街を進んで行き、
一件の装飾品を取り扱っている露店の前で足を止めた。
途中で買ったアイスが溶けそうな事に気付いたのが一つの理由。
しかしもう一つ、七生の足を止めたのは、色とりどりのリボンだった。
■東雲七生 > 「ふーむ。」
リボンの他にもミサンガやバレッタといった装飾品が並んでいる。
手元に垂れてきたアイスをなめとりながらそれらを眺めて、
少し思案する様に唸り声を上げた。
たまには親元へ何かプレゼントでも送るか、と考えて。
ついでに日頃世話になってる友人たちにも何かプレゼントを、と考えて。
よく考えてみたら異性ばっかりでどうしたもんかな、これ。
そんな心の声が露骨に表れている唸り声だった。
■東雲七生 > 「バレッ……いや、リボ……んー?」
眉間に一本、皺を立てて並べられた装飾品を眺める。
誰に何を選ぶと納まりが良いだろうか。
そもそも誰へと贈れば角が立たないだろうか。
ていうか何人に贈れば良いんだろうか。
何人に、って悩むほど居るのかよ、マジかよ。
悩みの形は秒刻みで変わっていく。
そしてその都度七生の表情も変わっていった。
それを不思議そうに露店の主は眺めているのにも、悩み多き少年は気づかない。
■東雲七生 > 「えーと……いやまあ、でも、うーん……?」
あれこれ悩みながらも、アイスを口へ運ぶのは忘れない。
その姿は異邦人街でもだいぶ目立つだろう。
実際何人かの異邦人が物珍しそうに七生を見ながら通り過ぎていく。
「えーと……リボン、とー……このシュシュってやつも、うーん……」
悩む。
何人かの顔を思い浮かべ、そして似合う装飾品を考える。
金銭面については元から悩む事は無い。
そこまで貧窮しているのでもないのと、並べられた装飾品が驚きの安さで売られているからだ。
■東雲七生 > 「あー……うぇー……」
言語能力を失ったかのような呻き声と共にいくつかの装飾品を指でさす。
しかし実際に言葉を失っているわけでも、屍人として第二の人生を歩もうとしてるわけでもない。
ついでにワンチャンアルッショなる古代呪文も唱えたりはしない。
「んぁー……それと、それ……あと、それと……」
思い出したように言語を用いて最低限の物欲を言葉で示す。
店主は指し示された商品を頷きながら手に取り、紙袋へと収めて行った。
店主、本当の事を言えばこのまま目の前の少年がゾンビになるんじゃないかと気が気では無かったらしい。
■東雲七生 > 代金と引き換えに受け取った紙袋は、悩んだ時間の割に酷く軽く感じられた。
世の中の彼女持ちの男性はこんな思いをして毎回恋人へのプレゼントを選んだりしているのだろうか。
七生の脳裏をさっき家電屋の前に置かれていたテレビで放送されていたドラマの一場面が掠める。
だとしたらやはり、そういうのは自分にはまだ早い。
“恋人でも何でもない相手”へのきまぐれなプレゼントを選ぶのにもこれだけ悩むのだから、
愛する相手へのプレゼントなんてそれこそ脳みそ溶かしても足りないくらいだ。
真夏に脳みそ溶かしていては死んでしまう。
改めて自分の色々なダメな部分を認識し直して、気持ちを新たに店主へ礼を述べて歩き出す。
既にアイスはコーンを残すのみで、代わりに紙袋が追加された。
■東雲七生 > 相変わらず好奇心旺盛に一軒一軒店を覗きながら歩いて行く。
──世界は本当に多いな
以前海で知り合った異邦人がそのような事を言っていた。
全く以てその通りだ、と七生も思う。広いのではなく、多い。
もちろん世界は広大だが、それはあくまで地理の話であって。
体感的には広いよりも、多い。
ましてや門を通して様々な世界と接続するこの時代は、やはり世界の多さを実感させられる。
(──世界、かー。)
様々な材質を使った家具屋の前を通り過ぎながら、ふと思う。
入学時に、常世島──常世学園を中心とする学園都市は未来のモデル都市として創られたものだと聞いた。
未来の、と付くという事は現在では未だ到達出来ていない、という事なのだろうか。
それとも、“未来”とはあくまで創立当時の言葉であって、既に訪れた時代を指すのだろうか。
どちらにせよ、あらゆる異世界の文化と、現代の地球の文化を融和・統合した世界のモデルケースとしてこの島は在ると聞いている。
「──異世界、ねぇ。」
様々な果実の並んだ露店の前を通り過ぎながら、ぽつりとつぶやきが零れる。
■東雲七生 > はたして、そんな事が可能なのだろうか。
入学当初からずっとそんな疑問を持ち続けていた。
融和そして統合。まったく異なる発展を遂げてきた別々の文化が、そう簡単に融和し統合できるものだろうか。
(──地球の文化だけ見ても、それが出来ていないのに?)
ケバブの様な肉料理を売っている移動屋台の前を通り過ぎる。
一度何か考え始めると周りが見えなくなることが多いが、
それでも今回はまだ視野が広い状態だった。通り過ぎた移動屋台へと踵を返して近づいていく。
──単に小腹がすいただけともいう。