2015/08/17 のログ
東雲七生 > 新たにぶらり旅のお供に加わった肉料理を齧りながら更に歩みを進める。
居住区、歓楽区、そして落第街と三つのエリアと隣接するこの異邦人街はそれこそあらゆるタイプの住人が居るのだろう。
そういう意味では、最も「異文化同士の融和」というものに近いのではないだろうか。

──そもそも何を以て統合を果たしたと見做すのだろう。

口いっぱいに広がるソースの味に頬を緩めながら、そんな事を考える。
どうしたら完成となるのか。果たしてこの常世島をモデルと決めた人たちはそれを決めたのだろうか。
それともこの島の行く末を以て、それを決めるつもりなのだろうか。

どちらにせよ一介の学生である七生には与り知らぬことではある。

東雲七生 > 与り知らぬことではある、のだが。

やはり一度気になってしまうとじっとしていられない性分。
とりあえず今食べてるものが無くなるまではぼんやり考えてみよう、と近くのベンチに腰を下ろした。

──世界の融和と統合

言葉にすればこれっぽっちだが、実際そう易くは無いだろう。
学校内でさえ、生徒間での上下関係が存在し、さらにその上には教員達が居る。
落第街ですら力関係、食物連鎖の際にならったようなピラミッドが存在していた。
それらは規模の小さい世界の様なものだろう、と七生は思う。
落第街という世界、常世学園という世界、研究区という世界。
それら小規模な世界が互いに干渉し合って常世島という世界を成している。

それがこの数ヶ月、様々な人と出会い、ランニングと称して様々な地区へと足を運んだ七生が“解っていること”だ。

東雲七生 > (……ん?)

ふと頭の中を整理するべく、近くに落ちていた木の枝を拾い上げた。
そしてそのまま地面に簡略化した小さな世界を描き始める。
まず、小さい円。そしてそれを囲う様に少し大きな円。
これは「学生」という世界と「学校」というそれより少し大きな世界だ。
そしてその学校と隣接する様に、歓楽区、研究区、学生街にそれぞれ見立てた円を描く。
更に続けて異邦人街、そして落第街。

だいぶごちゃごちゃしているが頭の中は少しまともになった気がした。
これらの大小さまざまに組み合わさった円をぐるっと囲んで、常世島になる。

(──うんうん。)

東雲七生 > 簡易常世島をしばらく眺める。

様々な要素が絡み合って成り立つ世界。
それらは完全に上下が決していたり、拮抗していたり、有り様も様々だ。
これを融和と、あるいは統合されている、と呼べるのだろうか。
そんな疑問を改めて感じながら肉料理の包み紙を手の中で握りつぶす。

    この世界
(──今の常世島だけで、こうだもんな。)

これから更に新たな異世界の文化が流入してくるとして、
そうしたらいつまでも融和・統合なんて難しいんじゃないか、と思う。

そこまで考えて、流石に処理能力の限界が来た。

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に美澄 蘭さんが現れました。
東雲七生 > 「……はー、ダメだー。」

何だか普段よりも頭を使った気がして溜息が自然と漏れる。
そもそも劣等生の七生が過去のお偉方の思想にケチつける方が烏滸がましいと言うものだ。
授業中に居眠りをしない方法を考える方がだいぶ生産的である。

地面に書かれた幾つもの円を足で消しながらベンチから腰を上げた。
手にはアイスのコーンを包んでいた紙と、肉料理を包んでいた紙。
どちらも等しくくしゃくしゃに丸められている。

美澄 蘭 > 日傘を差して、華奢な少女が通りを見回しながら歩いている。

夏休みの読書で、改めて「異世界」「祖母の故郷」に興味を持った蘭は、休み明け、早速訪れた休日に異邦人街を散策していた。
祖母の故郷を特定するための情報などほとんどないが、それでも、「異邦」感溢れる街並みは蘭の想像力をかき立てるには十分で。

(…全然違うところに飛ばされて、おばあちゃんはどう思ったのかな…)

そんな感慨に耽りながら歩いていると、蘭と同じくらいか、やや背の低い少年がため息を吐きながらベンチから腰を上げたところに出くわした。

「………あの…?」

何か困っているのかもしれない。蘭は少年に声をかけてみることにした。

東雲七生 > 「ほぇい?」

まだ思考の世界に足を半分突っ込んだままだったところに声を掛けられ、間の抜けた返事と共に振り返るる。
不審そう(に七生には見えた見える)に、こちらを見ている少女と目が合うと、すぐに我に返った。

「あっ!? いや、えっと、は、はい!?何でしょう!?」

あはは、と何故か愛想笑いまで浮かべる始末。
特に怪しい者ではない事を主張しようとして、盛大に裏目に出ていた。

美澄 蘭 > 心ここにあらずといった風に反応をしたかと思えば、急に我に返って過大なリアクションをしてみせる少年に、こちらもしばし面食らったかのように目を瞬かせた後

「………いえ、その…こんな場所でため息を吐いていたから、何か困っているのかと思って。
私で役に立てる事もそう無いけど…ちょっと、気になったから。
…迷惑だったら、ごめんなさい」

そう、少し俯きがちに返した。
少年の挙動不審は、そこまで気にしていないように見える。

東雲七生 > 「ん゛っ!
 あ、ああ、いや、気にしないで。
 ちょっと考え事してたところに声が掛かってびっくりしただけだから!
 ホント、迷惑だなんて、ぜんぜん!」

ぶんぶん首を振って否定すると、にぱっ、と笑みを浮かべる。
小柄な体躯に見合った、子供っぽい笑顔。

「それよりさ、ちょーど良かった!
 この辺のクズかご何処にあるか知らねえ?」

手にしていた紙クズを美澄へと見せる。

美澄 蘭 > 「考え事」のことはちらりと頭を掠めたが、この少年はそれを表に出したくはないようだった。
まあ、初対面の人間相手では当然の事であろう。蘭はその件をひとまず追いやって

「………なら…良いんだけど。

………ゴミ箱なら、そっちにあるけど?」

と、ベンチの(七生から見て)右側を指差す。
蘭の指の先—ベンチからさほど離れていないあたりに、ベンチと調和するような意匠のゴミ箱が設置されていた。

東雲七生 > 「んぁ?どっち?」

指差された方を目で追って、ゴミ箱を発見する。
あーほんとだー、などと少々大袈裟に声を上げるが、その仕草に嘘っぽさは無い様に見えるだろう。

「サンキュー、結構目立たないもんなんだな。
 ……よっ、ほっ、と。」

丸められた紙屑を、サッカーボールを扱うかのように二つ、山なりに蹴り入れた。
それを見届けて小さくガッツポーズをしたりしてから、はた、と我に返って美澄へと向き直る。

「あはは……。
 ああ、俺、東雲七生。一年。」

アンタは?と軽く首を傾げながら、簡単に自己紹介を。

美澄 蘭 > 紙くずを投げるでもなく蹴りで…しかも綺麗にゴミ箱に入れたのを見れば

「…すごーい…」

と、小さく感嘆の声を漏らす。その後

「この街なりに、雰囲気の調和は最低限気にしてるんじゃないかしらね」

と、「目立たない」という感想に対して意見を述べる。
…そして、相手から自己紹介されれば

「…美澄 蘭。私も1年生よ」

そう言って、日傘の陰ではにかみがちの笑みを浮かべた。

東雲七生 > 「すごいっしょ、投げるより蹴っちゃった方が確実なんだよねえ。」

へらへら笑いながら少し得意げ。
実のところあんまり褒められた事じゃないのだが、そこは意図的に気にしないことにした。

「調和……ねぇ。

 美澄、か。そっか、同じ一年かー。
 んじゃ明日からまた学校とかで会うかもな、よろしく!」

笑顔のまま軽くズボンで拭いた手を、握手を求めて差し出した。

美澄 蘭 > 「…ほんと…私、何かを蹴ってその飛ぶ先をコントロールするなんて考えられないもの」

この少女は「文化系」なのか天然なのか、蹴って物を飛ばすのが上手いのが褒められたことではないとはあまり思わないらしかった。
運動技術の1つとして捉えたらしい。

「…もしかしたら、この辺りは異邦人街としての成立が早いのかもしれないわね。街並みとベンチの組み合わせにも、あんまり違和感無いし。
ベンチとセットのゴミ箱なら…デザインの雰囲気を合わせるのは、そんなに難しくないでしょうしね」

「調和」についてはそんな考えを述べた後。

「…私、あまり同じ学年の人と同じ講義とって無いんだけど…
もし会ったら、その時は…よろしく、ね?」

差し出された手に、少し戸惑ったように見えた。
だが、少し視線を迷わせた後…躊躇いがちに手を差し出し、七生の手を優しくー「弱々しく」とも感じられるかもしれないー握った。

東雲七生 > 「まあ、普段からそういうことしてなかったら、そりゃそうだって。」

苦笑いにも似た表情で頭を掻く。
物を蹴る事よりもゴミの扱いについても咎められる気配が無いと見れば、少しだけ物珍しそうに少女を見つめる。

「ああ、うん。そういうもん……か。
 ゴミ箱一つでよくそこまで考えられるよなあ、大したもんだ。」

ほうほう、と何度か頷きながら美澄の考えに相槌を打って。
改めて見れば確かに言う通りなのかもしれない、と感心する。

「俺もあんまりなんだけどさ。
 まあ授業以外でも会うかもしれないし、さ!」

握られた手をしっかりと握り返してから、数回上下に振って離す。
そして離したと同時に随分と自分が大それたことをした事に気付いた。
自ら異性に握手を求めるなんて、と悟られない様にしながらも冷や汗をかいている。

美澄 蘭 > 「そうよね…運動にそこまで興味あるわけじゃないから、どうしても別の活動の方が優先度高くなっちゃうし」

読書とか、ピアノとか…と、指折り数えるかのように。
物珍しそうな視線は、今のところ意に介していないらしい。

「………何となく、そう思っただけよ。
デザインの事とかよく分からないから、専門の人から見たらそうでもないのかもしれないし」

ゴミ箱に端を発した考察への感想については、そう言って苦笑する。

握った手を強く握り返され、上下に振って離されれば…驚いたかのように、目を見開いているだろう。
蘭にとって、中学生以降の男子はその程度には親密に振る舞い難い存在だったのだ。…もっとも、目の前の少年にそれを知る由は無いが。

「…そうね…時間帯が合えば、ロビーとかで会ったするかもしれないし…」

少しおろおろしながら、口からそんな言葉を紡ぐ。

東雲七生 > 「そっか、あんまり運動には興味ねえのか。」

別にそれを悪く言うつもりはない。人それぞれだろう。
七生だって読書は苦手だし、その事をとやかく言われるのも嫌だ。
読書にピアノ、と指折り数える少女を見て、その出で立ちと併せてそこそこ教養があるのだろうと推測する。

「んまあ、実際のところは分かんねえけどさ。
 まあ、そこまで考えられるってのは凄いと思うよ俺は。」

自分のとった暴挙を反省しつつ、軽く呼吸を整えて上がった心拍数を下げる。
相手は少し狼狽えている様だし、変に思われたかも、と若干気が気じゃない。

「そうそう。うん。
 ところで、美澄は何で異邦人街に?家がこっちとか?」

美澄 蘭 > 「…そうね、あんまり運動しやすい環境じゃなかったし…
…興味を持ちやすい環境でも、なかったから」

脳裏に、中学校時代の暗闇の歴史が掠めるが…何とか、表情には出さないように努めた。
…それでも、未熟な少女では表情を強張らせるぐらいはしてしまったかもしれない。目の前の少年が、どれだけ読み取れるかは定かではないが。

「………お父さんと…おじいちゃんが、仕事でよくそういうことを考え込んでたから…
あんまり意識した事なかったけど、私にも考え込む癖、ついてるのかもしれないわね」

少年にそう指摘されれば、そうして考察する事をさほど意識していなかったかのような口ぶりで…そして、どこか気恥ずかしげに、少しだけ笑った。

「…私?そうね…
一応、こっちにも少しだけルーツがあるから…ちょっと、知りたくなったの。
それで…生で触れられる「異世界」を、見ておきたくって」

そう言って、それぞれ色の違う瞳が、同じように伏し目がちにされて…それでも、口元には優しい笑みが浮かんでいる。

東雲七生 > 「そうなのか。
 まあ、失礼かもしれねえけど見た感じそんな感じするもんな。」

悪い悪い、と軽い調子で謝る。
読心の術を持たない七生には美澄の過去も心境も詳細は解らない。
が、表情からある程度の事は察した様で、努めて暖かな笑みを浮かべた。

「へー、なるほどねえ。家系代々の癖なのかねえ?」

感心した様に何度も頷いてから、ふと自分の家族を思い返す。
自分の父親には、または母親にはそんな癖があっただろうか。
しかしすぐにその回顧は霧散した。

「ん、ルーツ?
 異邦人街、に? 異世界の……って事だよな。」

きょとん、とした顔で左右異なる色の瞳を見て。
なるほどね、と得心がいった様に頷いて見せた。

美澄 蘭 > 「………まあ、見た目通り日差しにはあんまり強くないしね」

色素が薄いから…と苦笑する。
実際、蘭の透き通るように白い肌は、夏にはすぐ赤くなってひりひり痛むので(全く黒くならないわけではないが)、「見た目」とだけ言われれば誤魔化すのは難しくなかった。
相手の気遣いには、どこまで気がついただろうか。

「…あ、おじいちゃんって、母方の方よ。
仕事の縁で知り合ったらしいけど、お父さんとは血のつながりは無いの」

誤解されたと思ったらしく、丁寧に訂正を加える。
しかし、脳内では、母方の祖父の娘たる母より、父の方が母方の祖父に似ているのかもしれない…と、少し思ったとか思わなかったとか。

「………私、母方のおばあちゃんが異世界出身の人だったの。
…左目は、そのおばあちゃん譲りなのよ」

会った事はないんだけどね…と、少し硬い笑みで答えた。

東雲七生 > 「あ、ああ。そっちか。
 てっきり親子なのかと、でも何て言うか、似たもの同士なんだな、美澄の親父さんと祖父さんってさ。」

義理なのに、と笑いながら付け足す。
ということは、そんな祖父の子供である彼女の母も、やはり似たような面があるのではないか、とも思う。
実際のところ、どうなのか分からないが。

「へえ、なるほど。
 母方の祖母ちゃんってことは、ええと……くぉ、くぉー……?」

喉元まで出掛ってるのに言葉が出て来ない。
クォーター、言い慣れないその言葉を笑って誤魔化しながら、

「まあ、何にせよ異邦人の血が混じってるって事か。
 なるほどね、それで両目の色もそれぞれ違うのか。」

納得した、と頷く。
硬い笑みを見れば、また余計な事を聞いただろうか、と内心で苦笑した。

美澄 蘭 > 「そうね…お父さんとおじいちゃん、どっちも法学系だし」

そう言って、今度は幾分硬さの取れた様子で笑う。
この少女の実年齢で「法学系」という言葉を出すのはあまり平均的ではないとか、あんまり考えていないらしい。

「………クォーター、ね。

…この世界の遺伝学的には、左目の色はほぼあり得ない色、らしいわ」

それで嫌な思いもしたの…と、肩をすくめて笑うが、その表情には、苦さが濃過ぎるぐらいに感じられるかもしれない。

東雲七生 > 「法……学……系。」

言葉の意味はよく分からないが、何だか凄そうだというのはよくわかった!
何となく、法っぽい物を学ぶ系なんだろう、と繰り返し肯く。

「そうそれ、くぉーたー……美澄はそれなんだろ?

 遺伝学的には、かー。
 ふぅん、なるほど……な。

少しだけ、少女の境遇が分かった気がした。
本当に少しだけだが、彼女が周囲からどんな態度を取られたのかは、
赤い髪と瞳を持つ身としては他人事では無い。
その原因となった瞳をじっと見つめてから、にぱっと笑みを浮かべる。

「まあでも自信持てよ!
 俺は綺麗だと思うぜ、美澄の目、さ。」

美澄 蘭 > 「そう、法学系。
本土の普通の大学の、法学部のやるあたり」

ざっくり過ぎる説明を付け足しつつ、同意するかのように頷くが…これでも、どの程度少年に通じるかとか、やっぱりあんまり考えていないようだ。

「………どっち、が?」

「綺麗」とだけ言われれば、表情が消える。

これでも、少女なりの「演技」なのだろう。
『あなたに、何が分かるの?』と言う言葉を呑み込むための。
『私がどんな思いを抱えてきたか、あなたに想像出来る?』と言う言葉を表に出さないための。

ただ、「綺麗」という言葉がどちらを指すのかを、相手に問う言葉を投げた。
…下手な答えをしてどうにかするだけの力は…恐らく、蘭には無いはずなのだ。

東雲七生 > 「どっちってそりゃ……どっちも?」

少し考えるように虚空を見上げた後、僅かに首を傾げてから答える。
慰めようとしたわけではない。ただそう思ったからそう言っただけであって。

「うーん、上手く言えねえけどさ。
 その、両目の色が違うってのはさ、やっぱ美澄の身体が他とどっか違うトコ……
 んー、美澄の場合は祖母ちゃんか。祖母ちゃんのこと受け入れてるって事だと思うし。
 それに、お前の家族だってそう。祖母ちゃんの血を受け入れてるんじゃねえかな。

 そういう「違いを受け入れる」っていう精神の現れ、っつーの?
 そういうのが、綺麗だなって。」

説明下手でごめんなあ、と苦笑しながら思ったままを述べていく。

「ほら、俺もこんな髪と目だからさ。   コト
 ……まあ、分からなくもねえよ、お前の境遇は。」

まるで血の様に赤い髪と瞳。
それでも少年は変わらず笑みを浮かべたままだった。

美澄 蘭 > 「………分からないわよ…
異世界の人だったおばあちゃんは、私が生まれるずっと前に死んでるし…

…おじいちゃんとお母さんが受け入れてたのは間違いないし…わざわざ「違う」人を排除したいなんて…私も、思わないけど」

「身体が受け入れている」と言われれば、絞り出すように、そんな思いを吐き出す。
蘭は、時間を超えて祖母が使っていた系統の魔術の初歩を受け継いではいるが…それだけでしか、なかった。
「違う人を排除しない」という考えは…母方の祖父と父の影響、そして、中学校の暗黒の経験の中で、『自分がされたくないと思った事は他人にしたくない』と思った、その薄弱な—少なくとも、蘭はそう自認していた—根拠しか無く、母方の祖母と、直接の関係が濃い理由ではない…そう、蘭は思っていたのだ。

「…でも…そうね…東雲さんの「色」も、あんまりないものね…
………独りよがりで、ごめんなさいね」

そう言って…蘭の身体は、七生とは対照的に、より縮こまったように見えた。

東雲七生 > 「親父さんだってそうじゃねえの?

 今となっちゃ当たり前かもしれないけど、その時は結構大変だったと思うぜ?
 美澄のお袋さんと結婚するのもさ。」

未だに異邦人に対する偏見が消えないのは彼女は経験として知ってるだろう。
そこは敢えて語らない。

「まあ、何つーか、俺の事は良いんだけどさ。
 美澄も色々あったんだろうし、無理にとは言わねえけど……。

 “ここ”じゃ、そういう他人と違うところをもうちょっと誇っても良いと思うぜ?
 そういう奴ばっかりだしさ、きっと同じような境遇の奴も居るだろうし。
 『排除しない』から『受け入れる』方にランクアップしても良いんじゃねえの?」

酷く曖昧な言い方しかできない自分に僅かに苛立ちを覚えながら。
それでも少女を説得する様に、軽く肩を叩こうとする。

美澄 蘭 > 「………お父さんは、「跡取り」じゃなかったから。
…でも…「理解」無しにお母さんと結婚するのは…確かに、面倒だったかも…」

父方の祖父母も理知的な人だったので、『「跡取り」じゃない』という理由で納得出来ていたのかもしれない。
…でも、改めて聞かれれば、父方の祖父母のような理性を持たない人が、自分の両親の結婚話にどう反応したか…自分の過去の境遇を考えれば、確かに、理解は「あり過ぎる」ほどだったのかもしれない。
…そこは頭では理解出来たが…それでも、納得出来ない事はあった。

「………『受け入れる』って…きっと、『普通』の人同士でも、難しい事よ。
…異能とか、出自とか…それとは別の問題でね…」

表情は硬いが…それでも、肩を叩こうとする七生の手を、拒みはしなかった。
近い境遇だろう少年は、「受け入れ」ざるを得なかったのだろう。

東雲七生 > 「確かに、普通の人同士でもそうそう出来るもんじゃねえよ。
 ある意味じゃかなり危険な事だと思う。

 でもそれだと、いつまでたっても変わんないじゃん。
 人と違うからって嫌な思いをする奴は減らないままだろ?
 
 そんなの、俺は勿体ねえと思うし。
 一人でも多くの奴の嫌な気持ちがちょっとでも楽になる為には、まず受け入れてやる事から始めねえとさ。

 それに、そんなことくらいしか、俺には出来ねえから。」

もったいないもったいない、と繰り返し呟きながら大きく背伸びをした。
せっかく人と違う、異なる可能性を持っていながら狭い世界の中で腐っていくのは、損なのだと七生は思う。

美澄 蘭 > 「…感情面の動きを社会的に変えるのは難しいから、システム面での受け入れの余地を考える…
立場は違えど、お父さんとおじいちゃんは、そういうことをやってたの」

だから、ある意味安心出来たの…と、蘭は呟く。
感情面で理解しあえなくても、「排除」がなければ共存はあり得る…それが、蘭の希望だったのだ。少なくとも、今までは。

「………でも、そうね。
自分の振る舞いで他の人がどれだけ嫌な思いをするか…今までは、あんまり、考えてこなかったわ」

それどころじゃなかったから…と、蘭はその色が違う瞳を、負の感情に任せて伏せた。

東雲七生 > 「俺、馬鹿だからさ。
 あんま難しい事はよく分かんねえし、そういう事を遣ってる人が居るなら、それはその人らに任せてさ。
 俺は俺の出来る事でやってこうかな、って。」

排除を失くすことだけじゃきっと何かが足りない。
七生では上手く説明出来ないけれど。
上手く説明出来ないってことは、きっと理屈じゃない部分がそう言っているからで。

「今まであんまり考えてこなかったなら、これから考えりゃ良いさ。
 俺と美澄は違う。だから全く同じには出来ない。
 でも、真似するくらいなら出来ると思うし、真似するくらいで上等だよ。
 ──だって、解んないものは真似すら出来ないから。

 それにさ、受け入れるったって別に難しいことじゃねえのさ?
 今すぐにでも出来る。」

とん、と目を伏せた少女の肩をもう一度叩いて。
その視線の先に、手を差し出す。

「友達になろ、美澄。
 まずはそこから、順番は前後した感じするけど、それが最初の一歩。」

美澄 蘭 > 「………まあ、「システム」って、難しいものね。
法学概論はとったけど…やっぱり、ちょっと難しいわ」

そう言って、少しだけ歪に、微笑む。
理屈と、感情のすり合わせ。
年齢相応に、蘭もまだその点で苦労しているようだった。

「………そうね…考えるためにここに来たんだし…自分の事の「ついで」に、他の人に対しての振る舞いを考えたって…罰は当たらないわよね」

七生の励ましに、はにかみがちに柔らかく笑む。
今までの硬さは、大分薄れたようだった。

「………ところで………」

そう切り出しながら、表情がまた固まる。

「………「友達」なら…名字にさん付けって、大分、他人行儀よね。
…なんて、呼んだら良いの?」

異性の「友達」という存在は、蘭にとって久しぶりの経験らしい。
緊張に顔を強張らせ、尋ねた。

東雲七生 > 「うん!
 ……その、なんだ、ほーがくがいろんってのが、
 地図見る勉強じゃない感じってのは何となくわかった!」

後でネットで検索しとこう、と静かに心に決めて。
相手も、自分も、難しい年頃だし、難しい境遇だ。
けどまだ、取り返しがつかないわけじゃない、と本気で思う。

「うん。そもそも俺の知り合い──ここの生徒だけど、
 破壊神とか、居るからさ。そんな意地悪する神様なら何とかしてくれると思う。たぶん。」

はにかんだ笑顔に、笑顔を返す。
暖かくも頑固な子供っぽい笑顔。

「え?
 いやあ、それは……あー、どうなんだろ。
 別に普通に苗字で呼び捨てーで良いと思うんだけど?

 名前の方が呼び易かったら名前でも良いです。」

美澄の疑問に少し考えて答えて。
言葉の途中で友人たちからの自分への呼び方を思い返してみれば、何だか名前で呼ばれる事が多いと感じ付け加える。

ななみ、と言う名はどうも女っぽくて苦手である、ので。

美澄 蘭 > 「………法学概論だから、法学の入門みたいな話よ?」

『法学概論』が通じなかった事に密かな衝撃を受けつつ、とりあえずざっくりと説明をしておく事にした。
これで通じなかったらどうしよう…とか、さすがにそこまで考えが及ばないあたり、蘭もまだまだ子どもである。

「………破壊神………?」

想像以上の存在が例示された事に、呆気にとられつつ。
「知り合い」になるくらいだし、きっと交渉次第では何とかなるのだろう…と考えて、安心する事にした。したと言ったらした。

「………呼び捨て………」

ここで眉をひそめる蘭。
異性を呼び捨てというのも、蘭にとってはほとんどない経験なのだ。

「………えぇっと…東雲君、で良い?」

第一候補に名字が出てくるという事はその方が相手にとって良いのだろう…と考えて、呼び方の修正案を提案する。
ほとんど変わっていないとか、つっこんではいけない。

東雲七生 > 「ほーがく!
 ……うん、まあ、大体分かった。」

9割9分くらい分かってない。
絶対帰ったら調べよう。そう固く決心する。

「お、おう。良いぜ、それで!
 うんうん、東雲君で。言い辛くねえかな?」

たまにしのののめくんとか一時多かったりすることも無くも無い苗字だ。
自分ではどうしようもないけど、少し気にしてしまう。

美澄 蘭 > 「………今度、機会があったら私に出来る範囲で説明するわ」

七生がほぼ分かってないのは言葉のアクセントやら何やらで何となく察したらしい。
そんな事を言ってため息を吐きつつ、口元には少しだけ笑みが浮かんでいる。七生の振る舞いがちょっと面白いのかもしれない。

「…別に、そんなに長い名字でもないし、平気よ。
それじゃあ…東雲君には問題無いみたいだし、これからはそう呼ばせてもらうわね」

そう言って、優しい笑みを浮かべた。

東雲七生 > 「……よ、よろしくお願いします……。」

自分が実に不甲斐無いと思ったのはこれで何度目だろう。
涙を堪えながら軽く頭を下げる。お心遣い痛み入りますってやつだ。

「そっか。
 おう、問題なんてあるわけ無いし!へへ、よろしくな美澄!」

優しい笑みを見れば、同じように優しく笑みを返す。
また新たな友人が増えた事に対する喜びと、感謝と。

美澄 蘭 > 「流石に今はテキストも無いし…また今度、教室棟のロビーか「橘」辺りでね」

相手が、複雑な感情(蘭はそう解釈した)を籠めつつ軽く頭を下げるのを見れば、くすくすと困ったように笑う。

「友人」とお互いが認める人物が増えるのは嬉しいようで、柔らかい笑みに満面の喜びを籠めながら、

「…こちらこそ…よろしくね、東雲君。
…せっかくだし、連絡先でも交換しておく?」

と、スマホを取り出した。

東雲七生 > 「ええと、お手柔らか、に?」

何だか本格的な話になりそうで若干頬が引き攣る。
ただでさえ授業は苦手なのに、その上教える側が同年代の異性であれば殊更に苦手意識がざわめく。
──でも、

「ああ、うん。
 ……美澄、さっきよりだいぶ可愛く笑えるよーになったなあ。」

同じ様に携帯端末を取り出しながらそんな事を呟く。
友達が増えれば、それだけ自分が満たされて笑顔になれる。

──きっとこの小さな世界の誰もがそうやって繋がることが出来たら。

「えっと、俺のアドレスは……あ、QRコードで良い?」

美澄 蘭 > 「………必要ならさかのぼるから、大丈夫」

実際のところ、蘭の学習過程は高校のプロセスがかなり抜け落ちているので「さかのぼる」のはかなり怪しいが…そこは参考に出来るテキストを借りるなりしてどうにかしよう、と、今決意した。

「………そんな事、無いわよ」

「可愛い」と言われれば、透明感のある白い肌にほんのり赤みを灯らせて、視線を逸らす。家族以外の異性に褒められるのは不慣れらしい。
それでも、アドレス交換の申し出を快諾されれば、表情を和らげて

「ああ、そっちでも大丈夫よ」

手慣れた調子でアドレス交換を行う。
連絡先交換が滞り無く済めば、

「…それじゃあ、私はもう少しこの辺りを見て帰るから…またね?」

と、日傘を差したまま、ゆったりと歩き去っていった。

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」から美澄 蘭さんが去りました。
東雲七生 > 「ああ、またな美澄ぃ!」

去っていく日傘の少女へと手を振って。
その姿が人波に消えれば、大きく一つ息を吐いた。

「……俺も1/4でも異邦人だったなら。」

──きっと、もっと苦しみを理解出来ただろうに。

そう呟きかけて首を振る。
同情、憐憫、そんなものは必要ないだろう、と。
自分がどうにか出来るのは“これまで”ではなく“これから”なのだから。
自分とは異なる、新たな可能性に新たな道を示すこと。

「それくらいなら、俺にも出来る。」

腕力も無く、魔術も使えず、異能に制限のある自分でも。
誰かを認め、受け入れ、共に歩くくらいなら。

「──強くなんなきゃ。」

揺るがないくらいに。任せて貰えるくらいに。
その“強さ”が具体的に何なのかは、まだ判らないけれど。
いつか胸を張って誇れるくらいには。

まだまだ暑い黄昏時。
七生は、一歩足を踏み出した

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」から東雲七生さんが去りました。