2015/09/27 のログ
ダナエ > 「……常連か」

相手とおばちゃん店員とのやり取りを、少し羨ましげに眺める。
芋の大きさの違いに一人納得。

「なるほど、方言か。島に来てからどのくらいだ? この島の生活にはすっかり慣れているようだな」

二輪の乗り物を見る。
鎧がおかしいと言われたことにはドキリとして、目が泳ぐ。

「お、おかしいと言うと……素材が、か?
 長い間海の底を旅したせいで、
 色々と余計なものが付いてきたのだ……」

フジツボとか。呪いとか。
腐っても聖属性の騎士、精神が強いとも言えるが、
呪いの亡者達がまだ騎士の隙を伺っている段階だとも言える。

「へるす……健康だったな。ふむ、皮は体にいいのか」
剥がした皮を食べる。
「……」
流石に皮だけだと美味しくはない。
素質のある者には【暴食】の亡者が騎士にクレームを
入れるさまが、うっすら感じ取れるかもしれない。

否支中 活路 > 「この辺よう居るさかいなーまぁせやから気になったんやが。
 俺は七年目や。慣れたーいうか居すぎやけどな」

苦笑しながらダナエの視線を追えば、
二輪、そして虚空へ移る。
だからダナエへと戻して。

「いや素材っちゅうか、まあ磯臭いのは確かやけど……
 海の底……」

魔術や異能によってはもちろん出来る者もいるだろうし、マレビトなら余計だろうが、
それにしても光景を思い浮かべてシュールさに頬を引きつらせる。
ともあれ相手は真っ当に受け答えできるし何らかの呪いがあるにしても致命のものではないようだ。

「ま、なんや。何でもあらへんにゃったらええんや。
 やけど、もし学園の方で相談にのってくれへんよーな揉め事や問題が起きたら
 力になったりはできるかもしれへんで。お代はいただくけど……って」

性分でもあるし、それが今の生活の糧でもある。
連絡先つきのちょっとした(素人づくりの)電子公告・名刺を送ろうとして、みたびダナエの全身を見た。
鎧。
なんかひんまがった盾。

「携帯端末とかー……もってへん、よ、なあ?」

ダナエ > 「七年目……今はもう学生ではないのか?」
在学生ではなく卒業生だろうか、と。
何となく十代から二十歳くらいの島民は学園の生徒、
というイメージがある。

「む……
 これでも夏場よりはましになったのだぞ!」
磯臭いと言われ屈辱。
確かに真夏よりは臭さはましになっている、らしい。
太陽の光も届かない深海を、この全身鎧でゆっくりと
歩く様は傍目から見れば確かにシュールだっただろう。
深海魚の放つ光に照らされて、暗闇にこの姿が一瞬現れる、
などという状況なら完全にホラー。

「なんだ、便利屋の営業回りか? 金はないぞ」

軽口を叩きながら、焼き芋を食べ進める。甘い。

鎧に、くの字に曲がった大盾に注がれる視線。
半眼になりながら、

「私がケイタイを持っていないであろうという
 貴公のその予断、覆して鼻を明かしてやりたいところだが……
 ケイタイは、ない。住所はある」

むしろ胸を張り、腕組み。

「その前に名を聞こう。
 私はダナエ。
 見ての通り重騎士で、学園の一年だ」

さて貴公は、と尋ねる。

否支中 活路 >  
「大体四年ぐらいで卒業っちゅうのが相場やけどな、長居するやつもおるで。
 まぁ金のこととかいろいろあるけども……あぁいや悪い悪い。そうかマシになったんやったら……ええことやな……
 ……っともかく金は今なくてもこの先どうなるかは知れへんからな。
 長い分それなり此処のこともわかっとるつもりやし、魔術関係なら多少は話もできる。
 何かあったらよろしゅうに……っちゅうことで――」

ダナエの疑問に答えると、焼き芋を食べる前で自己紹介し、

「ヒシナカや。ヒシナカ・カツロ。
 便利屋言うんは間違いあらへんな。呪具の加工も多少やるし。
 まぁ可愛い後輩いうわけや……ダナエ……は、あれか、名前一つしかないトコの出か」

胸を張るダナエに軽い調子で返した。
聞いた名は咀嚼するまでもないだろう。大体この風体は忘れそうもない。

「別にマレビトやったら最初物が揃わんのはしゃーないわ。
 まー端末はアレやな、生活安定したら買ったほうがええで。
 知り合いが出来た時に連絡もとりやすいし、学園のいろんなサービス受けるのにも便利やからな」

ダナエ > 「ほう、魔術に……呪具か」
少し考えて。
「……私が金を払ってでも叶えたい希望は二つ。
 『門』を開いて私の世界に帰ること。
 そして忌々しいこの呪いを解いて身軽になること、だ。
 貴公に叶えられそうなら、今から金を貯めよう」
腕組みをしたまま、真剣に。

「親がいないのでな。名字もない」
名前だけかと問われれば、頷いて。

携帯の重要性を説かれ、苦い顔。
「この世界の住人にとって、ケイタイは相当重要らしいな。
 それならば、
 もっと安価なケイタイがあっても良いと思うのだが」
高い。
異邦人街にある自分の住所を告げ、
「何かあれば手紙をくれ。
 急ぎの時は隣のマツエ殿……大家の電話がある」
一応、大家の電話番号も告げる。ちなみに黒電話。

否支中 活路 > 「んー……なるほどなあ。
 まあ前者の方はなかなか、繋がりが消えてもうてるなら難しいかもしれへんな。
 鎧の方は、ま、よう見てみなわからへんけど、俺ができん場合でも解呪出来るやつを探すーいうのも仕事にはなるわな」

 元の世界に帰りたいという願いはマレビトの中では最もよくある願い。
 当然、と言った顔で受け止める。
 それに鎧に関して反応が妙だったのでそうだろうとは思っていたが、呪いについて自覚があるとわかってゆっくり頷いた。

「どっちも簡単には行きそうもあらへんことやな。
 ま、この先ここで生活するんやったらそん時また何かあるかもしれへん。
 なんや便利屋みたいなんが言うとったなーて覚えといてくれたらええよ。
 んで苗字はないんやったらええんや。じゃあダナエ……と」

 騎士といえば家名あるものを浮かべるが、彼女の世界の文化はまた違ったのだろう。
 鎧の表面も随分変質してしまっているし、元の世界ではどういう感じだったのか……と想像しかけて

「あっちょい待っ……っと……はいはい。俺の番号……あっこれや」

 あわてて端末に聞いた番号を入力し、代わりに使いきった呪符の隅に書きつけた番号を渡した。

ダナエ > 「ろすとさいんという組織が、
 『門』の制御に成功していたと聞いた。
 彼らに関する情報にも、金は出すぞ。
 ……貯めてからだが」

頷きながら。
次の話題に入る前に、咳払い。聞きづらい質問。

「……ところで。
 解呪や情報の相場はどのくらいだろうか。
 先輩後輩のよしみで負けてもらえると助かるが」

ちなみに。
故郷で女性が騎士となったのはダナエが初めてではないが、
下級民が騎士となったのは初めてだった。
騎士になるまでも、なった後もそのせいでゴチャゴチャ
したりしなかったりしたとか。

使用済みの呪符を受け取り、
「ほう、これは……?」
裏に表に、ピラピラと。呪符に興味を持つ。

否支中 活路 > 「――――……」

名前。
聞こえたものに目が細まる。絞られた緑光がやや濃くなった。
とはいえ、妥当なことだ。ロストサインはどこかと繋がった門を制御していた。
ならばもしかしたら、もしかしたらその『グランドマスター』は『門』を自由にできたのではないか?
そういう噂が今でも残るのは当然だし、ダナエのような故郷に帰ることを目指す者にとっては重要な情報だ。
そんなものは噂だと切って捨てる事はできるが、感情から出たもので他人の目的を邪魔するわけにもいかない。

ロストサインの門はここにあるし、それで帰ることなど出来ないと。
そう言うわけにはいかないだろう。

「……まあ、そうやな。多少は知っとるで。
 調べ物になったら調査費ーっちゅうことになるけど、今知っとることを教えるだけならある程度まけたるよ。
 誰でも知っとる程度のことやったら今教えたるしな」

聞いてみるか?というふうに首を軽くかしげて

「あと、それは疲労回復の呪符やな。燃えたり崩れるもんもあるけど、それは使ったら効果だけ無くなるタイプやねん。一応自作やで」

ダナエ > 人の顔色を読むスキルはあまりない。
よって、緑の色が濃くなったことには残念ながら気付けない。

「…………」

残りの焼き芋を口に押し込んで、右腕を鎧の胴の中へ。
取り出した財布代わりの革袋の紐を緩め、
斜めに傾けて軽く揺らしながら相手に差し出す。
それは、今知っていることを教えてもらうために
有り金全部出す、という仕草。
相手が手を出せば、逆さに振って中身を全て支払うだろう。
それだけ必死。故郷への思いは人一倍強い。

「ほほう、便利なものがあるのだな。
 地下闘技場あたりで売れば、飛ぶように売れそうだ」
連戦可能になるだろうと。
しげしげと呪符を見て、ふとペタリと額に押しつけてみる。
先日の手合わせでの疲労が少しでも回復しないかと
思っての行動だが、使用済みなのでまず無理だろう。
おもむろに剥がして、ゴソゴソと懐へ仕舞い込む。

否支中 活路 > 「やめーよ。ええよ、んな有り金全部はたいたってこの後どうすんねん。
 帰りたいんやったら帰るまで生きていかなあかんやろ?」

ひらひらと拒絶として手を振る。
嘆息しながら後頭部をかいた。

「で、どの辺までは知っとんねん。ロストサインってのが無くなった組織言うのは知っとるよな。
 そのトップが行方不明になった『グランドマスター』っていうやつやった。俺も直接は知らんけども」

口元を抑え、言葉を選んでいく。

「ジブンがこっちに来た時のもそうやろけど……大抵の『門』はすぐ消えてまう。
 やけど、たまに行き来出来るタイプがある。『ロストサインの門』はそれやった。
 まぁ、これは間違いない。
 それが勝手に開いたもんか、意図的に開かれたもんか、なんなんかは、わからんけどな」

希望を持つようなものではないと。
だから
 
「せやから別に『グランドマスター』を見つけたかて帰れるとは限らんで……?」

最後の念押し。しかしそれは、本人もあまり意味を感じていないと隠せない、なげやりな調子だった。

ダナエ > ごくんと焼き芋を飲み下し。
「……いいのか?」
タダで情報を得てしまった。のろのろと革袋を仕舞う。

「詳しいことは何も知らん。
 かつて『門』の制御に成功していた、
 そして壊滅した組織、ということだけだ」

鋭い眼差しで話を聞いている。

「……もちろん、ろすとさいんが開いた『門』が
 私の世界と繋がっていると思ってはいない。
 だが『門』を制御する技術の詳細が分かれば、
 それを応用して任意の『門』を
 開けられるようになるかもしれないだろう?
 私は一介の重騎士だから、
 『門』をどうこうすることはできないが──
 こちらには神も魔王もついている。
 某かのヒントがあれば、どうにかできるはずだ」

最終的に人頼みになる。頼む相手は人じゃないけど。

呆れたような相手の投げやりさには、不思議そうな顔。

「何故だ?
 可能性は十分あると思うが。
 やってみなければ分からないだろう?」

まさか相手が確証を持っているとは知らず。

否支中 活路 > 理屈としてはダナエの方が正しい。
確証あることは少ない。可能性は確かに十分あるのかもしれない。
ロストサインが……『グランドマスター』が開いたやり方があって、それでダナエの世界に戻れるかもしれない。
あるいは『グランドマスター』が自在に開く事ができるのかもしれない。

しかしこの世界に、無数の別の世界から何かがいつもやってきていて。
その『無数』というのは一体どういうことでもありえるのかということを、自分はかつて見てしまった。
だから感情が理屈を否定する。
近づくべきではない。それは希望にはならない。と。
慈悲なき偶然が生み出したものに意図でもって臨むとき前にするのは、多分とてつもない虚だ。
しかし

「…………そう、やな」

ゆっくり答えて、芋をかじった。視界には包帯で覆われた手がある。
その向こうにいる相手への視線は通らない。

「神に魔王か。まあ何でもおるんや。やってみるんは悪くないわな。
 帰りたいちゅう気持ちは、わからんわけやあらへんし。
 まぁ別にこれぐらいは当時噂になった程度の話や、金にゃならんから気にしーな」

最後の一欠を放り込む。
飲み下して再度口を開いた。

「言うたとおりグランドマスターは行方不明。居場所を知ってる可能性がありそうなんはロストサインの元マスターやな。
 生きとるのがわかっとんのは東郷月新、ザデルハイメス、ウェインライト、あとは……折神、直、か」

ここまでは金をとる話ではない、と一気に伝える。

ダナエ > 相手が見たものを、騎士はまだ見ていない。
これから見て希望を断たれるのか、或いは奇跡が起きるのか。

「長のグランドマスターは行方不明。
 元マスターというのは、構成員か?
 その元マスターが、東郷月新、ザデルハイメス、
 ウェインライト、オリガミ・ナオ……」

名を繰り返すと、これまでぼんやりとしていたロストサインの
姿を初めて見たような気がして、背筋に鳥肌が立つ。

「……ようやく、辿るべき道に光が刺した気がするな。
 感謝するぞ」

その道は果たして故郷に通じているのか否か。

「しかし……
 金も払わず情報を得てしまって申し訳ないな。
 ヒシナカ、腹に焼き芋はもう一つ入りそうか?」

せめてものお礼に、もう一つ焼き芋でも奢ろうかと。

否支中 活路 > 「そうや、マスターいうのがまぁ幹部みたいなやつらやな。
 ……せやからこの程度別に金にゃーならんて。
 さっきいろいろ余計なこと言うた詫びぐらいに思っといてくれや。
 別にそんないっぱい芋食いたいわけやないしの」

右掌を見せて断ると、包帯の下が軽く笑いを作り。

「ま、気になるんやったら何か人手が欲しい時でも便利屋や思い出してくれたらええわ。
 周りでなんやあったら紹介でもしてくれや。
 この地区にはよーおるから、ジブンより大分詳しいと思うしな」

うんうん、と自分だけでうなずいて店主の方へ視線を移す。

「長々店先で話してすまんかったわーおばちゃん、またなー」

そしてダナエにもじゃあと顔を傾け、

「俺のことは置いといても金んことは考えた方がええやろな。最初は補助金なりもあるやろうけどずっと言うわけにもいかんし」

実際そういうところで躓いて落第街の住人のようになってしまう異邦人は少なくない。
他生の縁で、悪いようにはなってほしくないと思いながらダナエの前から少し二輪を押して行く。
エンジンの音が響く。

ダナエ > 「そうか」
焼き芋はいらないと言われ、謝礼をできずもどかしい。

「便利屋というものは、その名の通り本当に便利なのだな。
 金が貯まり次第、連絡させてもらう」

金の話には叱られた生徒のような顔で頷く。
「うむ。
 どうも私は金勘定が苦手でな……。
 だがそうも言ってはおられん、努力する」

「……その二輪がどういう原理で倒れずに、
 あそこまでの速度が出るのか分からん。
 その包帯では前が見えづらいだろう、気をつけて帰れよ」

以前出会った教師もこんな二輪に乗っていた。
だが未だにその原理は分からず、
無事の帰宅を祈りながら見送る老婆心。

否支中 活路 > 「まーそういうのは人の伝手次第やさかい。多少どんぶり感情っちゅうわけや、俺もな」

便利屋の話と金の話。両方にそう返すとやや皮肉げな笑いを浮かべ。

「バイクなー、説明はなんとも……ジブンもこっちに長なったらアシぐらい必要になるかもしれへんな。
 ま、そっちこそ迷いなやー」

言いながら跨ると、アクセルを開けて走り去っていった。

ご案内:「異邦人街」から否支中 活路さんが去りました。
ダナエ > 排気音にはまだ耳が慣れない。
フルフェイスがなければ耳を覆っていたところ。
軽く手を上げ、後ろ姿を見送り。

「さて、私も帰るか……」

ロストサインの情報を求めてさまよった日々には収穫はなく、
焼き芋を食べていただけの今日は大いに収穫があった。
人生とは得てしてこんなものなのだ。多分。

焼き芋を売る露店のおばちゃん店員に軽く一礼。
重い鎧と疲労の残る体を引きずり、ゆっくりと帰って行った。

ご案内:「異邦人街」からダナエさんが去りました。