2016/07/21 のログ
■耳かき屋、楢狗香 > 「異邦人のお方やこちらの国の片でなしれば、聞き覚えなくも無理なくありんしょう。
さすれば一片、試してみるも一興と存じんす。」
知らないことは不思議でないと言うようにことりと首を縦に振って。
口の笑みを深めて誘う、誘う。
そばの路地裏の物陰から何かの気配がにじみ出る。
じわり、じわりと這い出るように、伸び生え繁るような。
見つめてみるかは、貴方の好奇心次第。
「お痛など。
おや、結構な御歳で?人の世もずいぶんと変わったようにありんす。
だいたいは新しいこともなく、還って来た、と聞いてありんすが。」
ころころと哂う。そして語る。
大災厄。
かつての災害について語る。授業で習ったさわりを、極めて軽く。
「その言い様、あたりの類に無しそうにありゃんせ?」
同じように口元を手に持っていた書のようなものを包んだ布包みで隠して、二眼を細めた。
■ライラ > 物陰にちらりと視線を送る。
気配に覚えはないものの……。
「語らうだけならまだしも、体を預けるにはわらわは聡すぎたようじゃ。
魔というより別の何かの気配が気になってしょうがないわい」
パタパタと扇子を軽く扇ぐ。
そよ風が銀の髪を弱く揺らした。
「なるほどのぅ……我らに限らず神秘が負けておったか。
眠りすぎたわけじゃ」
大災厄に語られれば得心がいったと頷いた。
「闇に潜むのは、我が眷属だけに非ず……といったところかのぅ。
知らぬモノも増えていような。
潜み方もわらわの頃よりも変わっていよう。
正直に言えば、お主のことはさっぱりわからぬ。
こちらよりであろうという事くらいじゃ。
……急ぎで世に聡い従者を探さねばならんようじゃと、思うておるところよ」
■耳かき屋、楢狗香 > みてしまったか。
眼がある。指がある。這いずり伸びる血管が壁を蚕食している。瞳孔がそちらをいっせいに向く。目があう。何事もない。
平穏なただの路地裏だ。
「そうで―――ありんすか。
もし、気が代わられることでもあれば、また。
お隣にあらばいずれまた会うこともありんしょう。」
食い下がることはない。体の向きをかえ、ぺこりと軽く頭を下げる。
そうしてすれ違おうというときに再び、口を開く。
からん ころん。
「従者。
従者がお入用にありんすか。
もし、お気に召したなら…あちらのかたでもおもちかえりなし。」
すっ、と路地裏を指し示す。
うつろな瞳の グール、とでもいうものだろうか。
ぼんやりとした制服姿の不良がそこに、何事もない薄汚れた壁の路地裏で空ろに立っていた。
命じれば何事でも聞きそうだ。
その路地裏は地面をむき出しにした。何事もない平穏な場所に突然現れた人影。これは不審だが。
そして異邦の女はすれ違って歩き出す。そのまま、どこかへ。布包みを大事そうに抱えて。
からん ころん ことん かたん こたん からん。
■ライラ > 路地裏と視線が合う。
そうとしか表現できない何か。
面白くなさそうにフンと鼻をならした。
「そうじゃな、食事以外で場を荒らすつもりは当面ないでな。
……古さだけが取柄の新しい隣人じゃ。そのうち土産でも持って挨拶回りはせねばなるまいな」
頭は下げないが、目線は下げる。
目礼というものである。貴族たるものそうそう頭を垂れてはならぬのだ。
「従者は必要じゃが―――」
不良を見る。身形はまぁきっと普通。男性。
今の時代の身形をよく知らないが。
空ろすぎて会話できるかも怪しいし。
そして何よりも。
「―――男に用はないわ。どこへともなり消えうせい」
不良に向かって扇でしっしっとジェスチャー。
■耳かき屋、楢狗香 > 不良の男はずるりと崩れ落ちる。
何かが足りない。もしくは多い。まるで子供の細工のような。残骸。
すれちがった女性はもうどこかへいってしまってもういない。
ただ足音だけがもしかしたら、耳にこびりついてはなれないかもしれない。
からん。ころん。
男だったものはもうどこにもない。残るのは漂う溢れた血の匂いだけ。
ご案内:「異邦人街」から耳かき屋、楢狗香さんが去りました。
■ライラ > 「本当に何じゃアレは。
得体が知れぬどころではないぞ……真祖も飲み込みかもしれぬなアレは」
おお怖い怖いと、軽く身を振るってみる。
「闇も光も、今の世に聡いものを探さねばなぁ。
うっかり歩いた先が滅びでは、目も当てられぬ。
好んで厄介事に関わるつもりはないが、避けられるものを避けぬのは愚者の所業じゃからな」
ああ、まったく。
血の匂いを濃く残してくれて……。
「渇きが強くなる前に、食事の用意もしておかねばな」
■ライラ > 深夜の散歩は続いていく。
ご案内:「異邦人街」からライラさんが去りました。