2016/09/03 のログ
ご案内:「異邦人街・中華飯店『意杯一叶生』」に谷蜂檻葉さんが現れました。
谷蜂檻葉 > (色々と見て回ったけど、そろそろ帰ろうかな。)

今日は仕事も宿題もない、久々に『やることのない休日』だった。

ついでに言えば誰かとの約束もなく、そういう気分でもなかった。

一人で、のんびりしたい気分。というやつだ。
そこまで気分が乗った所で、檻葉は異邦人街に足を向けた。
おおよそ同年代の子といえば商業区か、もしくは歓楽区に足を向ける。

実際、檻葉もそういうところはあるが、数年して考えが変わった。
いい所を、見つけた。

それが異邦人街だ。
様々な『国』が交わる常世島の中でも、”馴染みづらい人々”が多く集まりやすい此処は、
確かに難儀なこともあるけれど、言ってみれば『旅行』に来ているような気分にもなれた。

頻繁ではないけれど、別の世界の”学生”が来ることになれば、また目立って一角の空気が変わる。
身近な目新しさが、何度も楽しめる秘密のスポット―――それが異邦人街だった。

谷蜂檻葉 > (あぁ、でも困ったな。)

そんな異邦人街の何件目かの衣料品店を見て回り、新しい服を探して見て回っていた。

ある店では地球の言葉をまだ上手くしゃべれないという店主と、身振り手振りで、時には授業で習った語学で変わったコミュニケーションを楽しみながら時間を過ごしたが、結果的に随分と長居してしまったようだ。


ぐぅ、とお腹が鳴る。


(これはいけない。)

誰かに聞かれる程腹の虫が大暴れする前に、機嫌をとってやらなくてはならない。
ふと視線を回せば、調度良く飲食店が立ち並ぶ通りが見えた。

少しだけ急ぎ足で、見て回る。

谷蜂檻葉 > (お肉、じゃないよね。

 洋風、かぁ。でもチーズっていう気分でもないかな。いい匂いだけど、今はくどい。

 わっ、なんだか良い雰囲気! あぁ、でも惜しいなぁ。満席って書いてある。)

とん、とん、とん。と
横目に見ながらお店を見比べていく。

どこも、目玉商品と『地球の食事に何と似ているか』というふうに書いてくれている。
……まぁ、たまにソレでもわからないものもあるのはご愛嬌。

仏国や独国の文字を習っている人達もいて、候補に外れてしまうこともある。
早めに、語学の授業は増やしておくべきだろう。

(ご飯が食べれるのはポイントが高いよね、キープしてっと。

 うーん、甘い香りも気になっちゃうな。

 ――――あっ。 )

4,5,6
9,10,11 とどんどん奥へ奥へと進んでいったその足が、ふと止まる。

谷蜂檻葉 > (なるほど、ラーメンかぁ。)

複雑に入り交じる『旨味』の香り。
どれがどれだと判別できないほどに絡みあったその匂いに迷いが晴れていく。


ぐうぅう……。

お腹の虫も、これが良いんじゃないかと囁いてきた。


(よし、今日はここにしよう。)

そうと決まれば、善は急げだ。
窓の空いた調理場を横目に見ながら少しだけ油で曇った扉を押し開いてお店に入る。


『ャァーリャイアッセィ!』

料理をつくている、恐らく店主さんはずんぐりむっくりとした―――何だろう?
熊と、豚と、鯰か蛙を混ぜたような。

そんな『異世界風な人』だった。

もしかしたら、何かの拍子にそうなった、地球のヒトとか、
ずぅっとこっそり隠れていた幻獣と呼ばれるような生き物かもしれないけれど。


『ウぅン! チュモン!ドゾ。』

そんな彼(彼女?)は銅鑼の音のようによく通って響く声を上げて、
わざわざ料理の手を止めて注文を聞いてくれた。

表情は見えない顔だけど、なんとなく笑顔に見えるそんな表情で指を上に向ける。

大きな絵と、文字でメニューが3つ。番号も振ってある。
異世界人も大半の学生は真っ先に数字を覚える。本当に共通して、そして便利で覚えやすいからだ。

(あぁ、これなら誰でも注文しやすい。こういう気配りがあるお店は良いお店だよね。)

「……2で!」

『アイ2デーー!』

クマブタガエルな店主さんが元気な声で繰り返してまた厨房に向いたのを見て、私もテーブルを探す。

谷蜂檻葉 > 人の入りは、そこそこ。
半分ぐらいが埋まってて、カウンターだけはガラガラだった。

(まぁ、一人だし。)

一人で食べるご飯というのも、良いものだ。

というか、誰かに声をかけて食事をすることが多いけれど。
……本当のことを言えば食事は独りでしたい時のほうが多かったりする。

独りで、静かに味わって食べる。
その後でこれのどこが美味しかった。と話し合うのは勿論好きだし、食事のシェアも見逃せないけれど。


(あんまり良く見ないで注文しちゃったけど、なんだったっけかな。)

もう一度、店内を見回してメニューの看板を探す。

1番は豚。トンコツだ。色々乗っていて、美味しそう。

2番。私の注文したメニューは、なんだろう?魚の絵に見えるけど、何の魚かわからない。
  でも、そういう絵なら、魚介なんだろう。あまり食べたことはないけど、嫌いじゃない。

3番は、……調味料の絵が描いてある。その横に、唐辛子?
    炎も書いてあって、要するに辛いラーメンと伝えたいのが判った。


(魚介、魚介かぁ。 癖が強いのが多いから当たり外れが大きいのよね。)

一番好きなのは、塩ラーメン。
あっさりさっぱりしたのが、私の好み。その次が、醤油かな?

谷蜂檻葉 > 手持ち無沙汰になって、店主さんを見つめる。

大きな身体の前で手が猛烈な勢いで動いていて、なんだかミスマッチ。
そして厨房全体へ動き回っていてゼンマイ式のオモチャみたいだ。

くすり、と笑みが浮かんでその姿に見入る。



『3、サーーン!』

グルッと急にこちらを向いて声を張る。
ちょっと、びっくりしちゃった。

「おう、ありがとよ。 ……アチチっ。」

『オキヲツケ!』


(なるほど、自分で取りに来る方式なのね。 っていうか、店員さん居ないものね。)

取りに来た大柄な男がラーメンを受け取るのを見ながら、この店の作法を知る。


(あ、なるほど水はそこにあったんだ。)


そしてカウンターのすぐ近くで、男がウォーターピッチャーを掴んでザブザブと大きなグラスに水を入れる。 その場で一口飲んで、継ぎ足してから席に戻っていった。


(……私も喉乾いてきちゃった。)

谷蜂檻葉 > ちょっとばかり入れ過ぎな気もする大きめのピッチャーを両手で掴んで、
これまた大きすぎる気がするグラスにザブザブと、タパタパ水をはねさせながら入れていく。

(多分、店主さんサイズってことね。)

グラスに握りはないけれど、代わりにアーティスティックな窪みが可愛く、そして実用的に手に馴染む。
デザインが気に入って欲しくなる気持ちを抑えて半分ほどをグラスに流し込んみ、席に戻った。

そうして、早速一口――――


「―――……美味しい!」

……思わず、小声だけど声が出てしまった。
お水なんだけど、ビックリするぐらいに美味しい。

チラとピッチャーを見返せば、何かボールのような……果実が浮いている。アレのおかげかな?

爽やか喉を突き抜ける柑橘系の淡い甘みが乾いた喉に染み渡る。
これは、なんだか期待してしまう。

(取り敢えず、もう一口……。)

やっぱり、お水は美味しい。
水として味は主張しないけれど、だからこそ何度でも飲みたくなる。

谷蜂檻葉 > と、水に夢中になりそうな時


『2! 2-!』


さっと他の客を見る。

―――私のだ。

「はいっ!」

思わず声を上げてしまった。少しだけ視線がこちらに向く。
顔が少しだけ赤くなるのを感じながら、ラーメンを受け取った。


『オキヲツケ!』

ニンマリと、ちょっとだけ怖い。でも愛嬌のある顔で笑みを浮かべて渡してくれた。
お盆はないけれど、大きめの杯に余裕を持って入れられて持ちやすい。

(端っこの方を支えて、よしよし。完璧。
 あぁ、凄い良い香り。 もう食べれるのに、お腹が空いてきちゃう……。)

そそくさと受け取ると、席に戻る。
置かれているフォークなどは無視して、箸立てに入った割り箸を取ると早速割る。

少しだけ不格好に割れちゃったのは見ないふりをして。


「――――頂きます」

谷蜂檻葉 > 顔に打ち付ける匂いの渦。
メガネが曇るのも構わずに、麺を箸で空に上げて軽く息をかけて冷ます。

レンゲで少しだけ受け止めて―――啜る。


(―――あぁ、効く!)

少しだけ固めの縮れ麺。
そこに濃厚な魚介スープが絡んで、両手を繋いで飛び込んでくる!

空っぽの口の中に、一気に味と食感が満ちていく。

噛みしめる。味が吹き出す。
魚介、だけじゃない。何か別の味がある。 鳥ガラ?わからない、でも美味しい。

噛んで、飲み込む。 喉を通る麺のコシ。 これだけでも御馳走だ。
ラーメンを食べてるって感じがする。

その後を、スープたちが追いかけていく。

もっと知りたくなって、スープを掬って呑む。

(―――濃い! けど、しつこくない。)

次の一口が待ち遠しくなるコッテリ。でも、トンコツのような油っぽさではなく、味の深みで出来るコッテリさ加減。 塩ラーメンの『いつまでも食べれる』とは違う、別種の良さ。

飽きないのではなく、『ハマる』。

すぐに暑くなって、水を一口。

(……っくぅー!)

凄い。
ここまでで1セット、って感じ。

味で掴んで、スープで満足し、水でリセット。

また味が飛び込んでくる。

谷蜂檻葉 > 麺とスープだけじゃない。

メンマがある、チャーシューがある、海苔…はなかったけど、アオサかな?
別の海藻がある。食べたことのない味だけど、店主さんにとっての『海苔』なんだろう。


メンマは紛れも無くメンマだったけれど、もしかしたらチャーシューもただの豚じゃないのかもしれない。とろけるぐらいに口の中に消えたけど、肉の強みが薄くてこの魚介のスープに良く合っていた。


(あぁ、「満ちてる」って気分……!)


食欲が、これ以上ないほどに解消されていく。


気がつけば、スープを少しだけ残して食べきっていた。
……また食べに来たくなる、けど。 少しだけ期間を開けよう。

今はいいけど、きっと後から重いかも。





「―――ご馳走様でした!」

『アリャーォトサー! ジェパ、ニァンム!!』


有り難うございました、と何だろう?
きっと、彼の世界の言葉なんだろう。 自然にほころんだ頬が彼の細まった瞳に写った。


「じゃぱ、にぁんむ!」

『アリャーォトサー!』

繰り返せば、彼はもっといい笑顔で笑ってくれた。


……よし。 また来よう、絶対。

お店を出て、外観をパシャリとスマホで撮る。




口を締めた洋服を入れた袋を手に、満足しきりの食事を終えた。

ご案内:「異邦人街・中華飯店『意杯一叶生』」から谷蜂檻葉さんが去りました。