2016/10/23 のログ
ご案内:「喫茶店どんぐり屋」にシング・ダングルベールさんが現れました。
ご案内:「喫茶店どんぐり屋」にルチアさんが現れました。
シング・ダングルベール > 夕暮れの喫茶店。席にひしめくは常連客の群れ。群れ。群れ。
カウンター、テーブル、どちらも等しくだ。
対する我らが戦力は、俺と新人のアルバイトただ一人。
店主であるおやっさんと言えば、「万馬券だとよ! えっへへ、ちょっくら出かけてくらあ!」と言ったきり連絡がない。
大方どこに向かったかは予想が付くけれど、まあおやっさんだって人の子だ。男の子なんだよな。
仕方ない。仕方ない。そう自分に言い聞かせては皿の山を洗う。

「おーい、水おかわりー。」

「ああすいません、今行きますんで!」

と返しつつもこちらは水濡れの手。
肺の底が見えそうなほどに深い溜息を付き、新人バイトに目配せをする。
名はルチア。俺と同じ異邦人だ。

ルチア > 混んでいる。
目が回りそうなほどに混んでる。
実際回しているのではと思うほどだが、指示されれば動きはするし、配膳などの手伝いであれば問題なく出来る。

おやっさんは万馬券を軍資金にどこぞへと行ってしまったので、
この忙しい時に……!
と正直に思う。
とは言え、現状を憂いても仕方がない。
目の前にお客様はいらっしゃる訳であり、とりあえずこのお客様をどうにかしないことには文句も言えない。

「はい、お水ですね。お待たせしました」

と下げていた食器を容赦なくシンクにへと追加してから、
よく冷えたピッチャーを持って水をご所望のお客様へと。
忙しいからと言って不満そうな顔をしてはいけない。
程よくスマイルである。

向こうではコーヒー、と声が上がる。
本当に忙しい!

シング・ダングルベール > 「はいよー! って旦那アンタ何杯目だよ! レポート持ち込んだ学生でもそんなに粘らないからね!?
 ああわかったわかった、出すから! いいから触角を伸ばすのはやめて! ほかのお客さんに刺さるから!!」

ここは異邦人街の一角だ。来店する客も異邦人が多い。
この世界でいうとこの人間タイプよりも、どっちかと言えば亜人タイプの方が多いくらいだ。
今コーヒーのおかわりを注文してきた旦那なんて、甲虫みたいな触角や外骨格がある。
まるで鎧を着こんでいるみたいだけど、不思議と重くはないそうだ。
好物はコーヒーと煮豆。というか、豆ならなんでもいいそうで、ランチの味噌汁なんかもよくおかわりをする。


さて、俺はおやっさんのメモ通りに抽出機に豆をかける。
普段からみっちりと仕込まれたおかげで、それなりの味は出せるって自負はある。
おやっさんからすればまだまだってらしいけれど、追い越してやるのはまあそのうちだ。
思考と経験は結果をより良く発展させてくれる。魔術だろうが武術だろうが、勉学だってコーヒーの淹れ方だってそれは同じこと。

それよりも、この忙しさで彼女が目を回してないか心配になる。
俺が店を空けるときは多いけど、おやっさんが店を空けることはあまりない。
……なかったっけ。少なくとも最近はそんなになかったから、おそらく彼女にとっては、これが初めての経験になる。

「そろそろオーダーはほぼ出し切ってあるから、ここがピークだと思う。
 思うっていうか、思いたいねえ……。

 ルチアはどう、大丈夫? 冗談みたいに忙しかったろ。」

ルチア > シングのノリの良いツッコミに小さく笑いが漏れる。
まだ彼みたいに親しい感じに接客は出来ないが、それは慣れの問題もあるだろうし仕方がない。
触覚を伸ばしたお客様は漂い始めたコーヒーの香りにそれを引っ込めて大人しくお待ち頂けるらしい。

異邦人街、と呼ばれるこの区画の喫茶店で働いて数日目、
学校にはまだあまり通ってない所為もあるだろうが、ここに来る――ここに居る人々の多様性には本当に驚かされる。
全く別の進化を遂げたような者も多く、最初はおやっさんに「これはお客様なのか、それとも敵か何かなのかい?」と視線で何度か確認したほどだ。
流石にそれらは杞憂にも程があり、大体がこの店の良き常連客であり、隣人だ。

自分はまだ調理やコーヒーなどは任されていないけれど、その内、とは思いつつ。
手際よく抽出機を操るシングを横目に見ながら、
お勘定、とレジに立った客の会計を行う。
この程度なら特に問題なく出来る。

「そうだな……後はコーヒーとかの飲み物だろうとは思うけれど。
まあ、正念場だと思って乗り切るよ。

大丈夫、ちょっとびっくりするぐらいに忙しいのは事実だけど。
でもそれだけ繁盛しているってことだろう?」

目が回りそうな忙しさなのは事実だが、先輩のお陰もあって幸いパニックを起こすほどではないし、
おやっさんが居ない時もある、と言う心構えも出来た。
初めての経験だけれど、何とかなっていると、
ゆるく笑みを浮かべて会計を終えると、
今度は此方がシンクに立つ番である。
ある程度減ったとは言え、山積みの食器は片付けなければならない。

シング・ダングルベール > 「『一度本気で忙しい時を経験しちまえば、あとはもう余裕よ。』って前におやっさんが言っててさ、君にとっては今日がきっとそれなんだろう。
 忙しい時にこそ余裕持たせてくれって思うけどねえ……俺は。

 ったく。帰ってきたらキスマークだらけだぜきっと。」

洗い物を進めるルチアを背に、抽出を終えたコーヒーをカップにそそぐ。
琥珀色がゆらり波打って、芳ばしい香りがふんわりと。
うん、実に良い。会心の出来。

「はい、おまちどうさま。ミックスナッツはサービスだ。
 そいつだけじゃ口寂しいからね。こっちがカシューで、こっちがクルミ。
 それはピスタチオって言って……いやいやいや殻ごと喰うんじゃなくてね!?
 ああそう……うん。おいしいならいいんだ……うん。」

目の前でバリッバリと音を立てて、ピスタチオが噛み砕かれていく……。

ルチア > 「確かにそれは否定しないけれども……。
基本的には君の意見に賛成だな。
まあ、一人の時にこう言う忙しさに当たらないことを祈るよ。

……ああ、そういうお店か……」

べろんべろんになって帰ってくるのも覚悟して置かなければならないだろう。
今日はお店の終了までバイトに入る予定なので、そんなおやっさんが見れるかもしれず。
女の子がいるお店に行くのは仕方がないだろう、だっておやっさんだって男なんだし。

背後から漂うコーヒーの豊かな香りは、その味を保証しているようで、
その淹れたてを味わえる触覚の客が正直に羨ましい。

しかし、良い音――どう考えてもナッツを齧っている音ではない音は如何なものか。
美味しいから良いのだろうか。
そんな疑問を覚えつつ、コーラ、と声の上がった客にただいまーと声を上げて手を拭く。
冷蔵庫から瓶コーラを出して、グラスに氷を入れて、封を開けると泡立たないように注ぎいで持っていく。
それが終わればまた、お会計だ。
忙しい状態は続いているが、落ち着きつつある。

シング・ダングルベール > そしていくらか時間が過ぎれば、客もぽつぽつと帰っていった。
今最後の客が会計を済ませてドアを開ける。
ちりりと響く鈴の音。もう今日だけでも随分と聞いた気がする。
きっとこれが最後だろう、もう店内の時計も、営業時間の終わりを告げているから。

「はあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~疲れた!!!!!!!!
 結局帰ってこないのかよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

突っ伏した先、カウンター席がひんやりと。
もう動きたくない……ああでも最後の掃除が……。
……いいや、あとで考えよ……今は、そうだな。
少し休んでから考えよう。



「……ねえ、ルチア……君は本当に、ここで良かった?
 凄腕のスイーパーだったんだろう? それなら、こんな普通の飲食店じゃなくてもよかったんじゃないかなって。
 きっと稼ぎだってそっちの方がいい。けど、かなり危険だし、まともじゃない仕事ばかりだろうけど。」

ルチア > ありがとうございました、と最後の客の背中に投げれば、
思わず大きな息が漏れて出た。
鈴の音がこんなにありがたく聞こえた日は多分これが初めてだ。
営業時間が終わリなのを確認してから、扉にかかったプレートを「close」へと変えて。
これ以上客が入るとちょっと辛い。

「お疲れ。
あ―――いや、本当に疲れたよ。
どちらかと言えば暇なことが多かったからびっくりしてる。
……おやっさんはそうだな、嫌味の1つや2つは許される気がするな」

突っ伏した彼の横のカウンター席に座って大きく伸びをする。
掃除のことは同様に頭にあったが、それは少し休んでからでも良いだろう。
これだけ頑張ったのだ、おやっさんも居ないし、これくらいは許されると思う。

「……ん?
凄腕って程の腕前ではないよ。
体質と色々な巡り合わせと幾ばくかの幸運でやっていた仕事だったしね。
だったらここに辿り着いて、君に出会うという幸運でこう言う仕事に着くのも悪くはない話だと思わないかい?
違法な仕事が嫌な訳ではないけれど、今のところその必要も感じてないしね。
まあ、稼ぎは足りなくなったら掛け持ちでもするさ。
勿論此方に影響のない範囲で」

ふいに飛んできた質問に、カウンターに肘を付いて頬を載せて、彼を見る。
前職が嫌いだったわけではない、天職だとは思っている。
しかし――ここは場所が違うのだ。
自分が銃を向けるような相手は、ここに居る限り単純に闇に住まう者ではなく、
自分と同様に人権がありそれは尊守されて――少なくとも、島の住民として権利を受けていれば――
愛すべき/良き隣人とはいえなくとも、認めなければいけない他人なのだ。

だったら、違う生き方を考えなければならない。
ただ、それだけのことだ。


――それだけのこと。

シング・ダングルベール > 「折り合いが上手いねえ……年頃のお嬢さんっていえば、もう少し動揺とか動転とか、平静でいられないーって感じだろ?
 そういうのは無いものな。天性のものかはわからないけど。
 俺もそっちのタイプだと思ってたけど、負けたねえこれは。
 ……なんの勝負なんだって話だけど。」

氷の溶けきった水を注ぎ、ぐいと喉を鳴らす。
砂上に降りた雨のように、じわりじわりと俺の体に吸い込まれるようだ。

「ほんとはそんな違法な仕事、ない方がいいんだけどねえ……。
 風紀委員がどれだけ手を差し伸べようとしても、所詮は人の手。
 届く範囲に限界もあれば、掴める数も限られてるときた。
 俺たちみたいにすぐさまここに馴染める異邦人ばかりじゃないし、異邦人に馴染める島民ばかりじゃない。
 『人類皆兄弟』なんて本にはあったけど、ね。

 ここに来る客だって、誰でも世界に祝福されてたわけじゃない。
 聞けば迫害だって当然あったし、未だに差別もあるって聞くよ。
 でも、それでも生きていかなきゃならないのが……現実なんだよなあ。
 俺、元々この世界の住人だったおやっさんが、ここに店を出した理由がわかる気がするよ。
 本人に言ったら、『うるせえ。』って一蹴されそうだけど。」

ルチア > 「…………それなりに色々あったんだ。
自分の置かれた環境が変わるのは初めてでもないし。
流石に異世界に、と言うのはびっくりしたけれど、初めてここであった人も良くしてくれているしね。
3週間も過ぎれば、ある程度馴れはするよ。
それに、ここはまるで“慣らさせる”様に出来ているようにも思うし、ね」

年頃のお嬢さんって、君だって歳は然程変わらないだろう。
そんな事を付け加えつつ。

そして、続けられた言葉に宙に視線を放り投げてから、
改めて彼を見て。

「どこに行っても“そういう仕事”はあるよ。
私だって、仕事としては完全に違法だった。それをどうこう思ったことはないけれど。
幸い、私やシングはこの世界の“人”と変わらない容姿で、
然程変わらない道徳観を持っていたから馴染めたって言うのはあると思う。
私だって、さっきのナッツの客みたいなのが同じ異邦人、と聞けば驚くくらいだしね。
そう簡単には行かないさ。

人は異形を怖れるものだ。
異形、って言ってもその人の姿なりだけじゃあない。
心のあり方や、仕草。
そういったものでも恐れを為す。

――そうだね。
生きていかなければならない、“ここ”で生きていくしかない以上。
世界に祝福されなくても、心臓が動き呼吸が続く限り。
もしかしたら、酷く辛いことなのかもしれないけれど――。

確かにここは、差別も偏見もなく誰でも気軽に来るからね。
それはやっぱり単におやっさんの人柄なんだと思うよ」

(ここにはいろいろな人が来る。
異邦人も、この世界の人も。
異形と呼ばれそうな人でも。
それでも居心地が悪いか良いかで訊かれば、
間違いなく、ここは居心地がいい。
何やら雑多な店を見渡して、背もたれに体重を預けつつ)

シング・ダングルベール > 「んじゃあ、そのおやっさんのために片付け再開しますか。」

なんだろうな、別に俺自身が褒められたわけじゃないのに、意見が同じってだけでも嬉しくあるもんだ。
年頃の姉が身近にいれば、きっとこんな感じなんだろう。
既に俺には親兄弟なんてもういないが……第二の世界、第二の生。第二の家族って感じ。
続いてほしいよな、こういうのは。

……一時の夢であったとしても。





目が覚めるまでは、せめて。

ルチア > 「そうだね。
ああ、女の子のキスマークなんてついてたら、
私はちょっと平静ではいられないかもしれない!!」

先程の話をごまかすように大げさに言いつつ。
それほど店が忙しかったのも事実なのだけど。

立ち上がって、納戸から箒やら何やら引っ張り出しながら。
彼がどういった人生を辿り、どういった価値観かは理解しきれないけれど、
彼もまた自身が出会ったこの世界での親切で大切な友人だ。

まだこれが夢かどうかなんて、
もしくは――何かしらの辛い現実があるのかもしれないけれど。

今は、この幸運に浸っていよう。

ご案内:「喫茶店どんぐり屋」からシング・ダングルベールさんが去りました。
ご案内:「喫茶店どんぐり屋」からルチアさんが去りました。
ご案内:「異邦人街」に久世藤士郎時貞さんが現れました。
ご案内:「異邦人街」に宮比 奏楽さんが現れました。
久世藤士郎時貞 >  
手水舎で鎧と服のゲロを洗い流しながらむっすりとした顔で考える
そんな場所でゲロを洗い流すとは罰当たりな感じもするが今は些末な問題である

果たしてここはどこなのか
まわりの建物は見たこともない建築様式で建てられている
それどころか継ぎ目が見当たらないというあたり相当に進んだ技術で作られていることがわかる
というよりはそれしかわからない

これほどの技術を持つ国ならばさぞ名のある大名が治める国に違いない
洗い終わった着物を木につるし、腕を組みうなる

当然今はふんどし一丁である