2015/06/26 のログ
ご案内:「打ち捨てられた祠」に鳴鳴さんが現れました。
鳴鳴 > 打ち捨てられた祠。祭り捨てられた祠。
今はその祀られた神の名さえよくわかっていないような祠。
そこに、一人の童女がいた。
燃ゆる三眼、三本の足。貌の無い神。黒きもの。
そんな禍々しい神像の上に、童女は座っていた。
実に、楽しそうな笑みを浮かべて。

「……どうにも、面白そうなことが起きそうな予感だ」
手に持った杯には、自然と酒が湧き出してくる。
「フフ、石蒜……君を僕のものにして、とてもよかったと思っているよ。
 ああ……楽しいことになりそうだ。
 石蒜、君の周りで、何か動こうとしているんだからね」
誰もいない。この場所には童女しか。
そして、この場所に今はいない少女に向かって言う。もちろん、独り言だ。

鳴鳴 > 「……まあ、渾沌の顔に七つの穴をあけるような結末にならないといいけどね。
 そのままでいいこともある。自分の幸せ、自分の価値観、そんなものは人と一致しない。
 無駄なことだよ。大いなる「道」の前では、全て矮小な事。
 相対的な差別にすぎないさ」
盃を傾ければ、酒が重力に従って下に溢れていく。
禍々しい無貌の神の像に酒が垂れ、濡れていく。
「でも、楽しみだな。そうでなければ面白くない。
 だからこそ人は面白いんだ。だから僕は君達が好きなんだ。
 石蒜、君がどうするのかもとても楽しみだ。
 君には全てが許されている。殻を破りさえすれば、もう何も恐れるものなんてない。
 全ては、享楽のままに、行えばいいだけなのだから――」

鳴鳴 > 「この島にまだ「門」があって、白痴の魔王の欠片があったということは意外だったけど……。
 変わらない。僕は僕のままにやるだけさ。いつもそうしてきた。
 星が揃うその日まで、気長に待てばいい。遊んでいればいい。
 僕も、そう思うだろう?」
そう笑いながら、自分の座っている神像を撫でる。
杯は再び満たされていた。
それを一気に飲み干す。酔った様子はない。
「まあ、何をしようとしているのか……敢えて見てはないけど、楽しみだな。
 もしかして、アレをやってくれるんじゃないかなって……石蒜もいい友達を持ったね「
真夜中の月を見上げる。童女はその月を見てけらけらと嗤っていた。

鳴鳴 > 「くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー しゃめっしゅ しゃめっしゅ にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん……
 ハハ、まるでバカみたいだ。こんな称詞で祈られていたんだからね」
柱に書かれた、神への言葉を読み上げて嗤う。
その柱を指さして、少し指を動かせば、それが書かれた柱の一つが自壊していった。
「……さて、また会えるのかな。あいつには。
 フォマルハウトからわざわざ来てくれるのなら、何よりだけど。
 ハハ、ハハハ……どうなるかな。楽しみだな、楽しみだ……」
空を見上げる。今は夏だ。まだその星は見えないが、こういう世界である。どうにでもなるだろう。

鳴鳴 > 「……さて、ここは去っておくとしよう。
 石蒜には、僕がここに来ていたことを知られないほうが面白そうだからね。
 ああ、しかし。面白いのはいいけれど」
ぽい、と杯を投げ捨てる。それは自然に闇と同化して、この世から消え去って行った。
「みんな、自分のしたいことをしているだけ。ただそれだけだ。
 その行為の意味なんて、自分がしたいからしている、それだけでいい。
 それを、皆に教えてあげる日……そう、星辰が正しくなるとき。
 その日が来るのを僕は、心待ちにしているよ。
 ハハ、ハハハ、アハハハハ……」
高らかに祠内に哄笑を響かせる。
その姿はいつの間にか闇にまぎれ、見えなくなっていた。
打ち捨てられた祠には、ただ静寂が満ちるのみであった。

ご案内:「打ち捨てられた祠」から鳴鳴さんが去りました。
ご案内:「打ち捨てられた祠」に石蒜さんが現れました。
石蒜 > また足がここに向いてしまう。散歩をしていたのだが、気づいたらまた祠の前にやってきていた。
ちょうどいい、歩き続けて疲れていたところだ。少し休もう、ここは居心地がいい。

石蒜 > はて、と崩れた石の柱を見る。
この間来た時はこの柱は崩れていなかったはずだが、老朽化が進んでいたのだろうか。何せもう長いこと放棄されているのだから、有り得る話だ。
何かが書かれていたようだが、粉々でもう読めない。

ご案内:「打ち捨てられた祠」に畝傍・クリスタ・ステンデルさんが現れました。
石蒜 > まぁ、ちょうどいい。大きめの破片に腰掛ける。
「ふぅ」空を見上げる、そこに見えるのは大小様々な瞳。星星の間からじっとこちらを見つめる無数の瞳。
目を細め、笑みを浮かべて、それを見返す。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 異邦人街での『取引』からしばらく後。畝傍はまた、この祠に足を向けていた。
石蒜は端末を買えただろうか。買えたなら、電話番号を交換して――違う。ここに来たのはそのためではない。
畝傍は石蒜に大事な話をしなければならないのだ。そう、『石蒜』としての彼女の存在にも関わるであろう、大事な話を。
その覚悟も決めた上で、畝傍はこの祠を訪れたのだ。
「…………!」
見ると、石の柱のひとつが崩れていた。いや――何者かによって崩されていた、といったほうが正しいか。
自分がいない間に、何かがこの祠で起こった――畝傍の感覚が、そう告げていた。
「シーシュアン……?シーシュアン?いるの?」
星空の下、石蒜に呼びかける。いるなら返事をするはずだ。

石蒜 > 「アハハ、アハァハハハハハ」空を見つめ、笑う。その目は何も見ておらず、その耳は何も聞いておらず。ただ空を見つめ笑う。
それはまるで中国の神話に伝わる、渾沌の如き姿であった。
「アハハハハハ!」呼びかけには答えない、だがけたたましい笑い声が、相手に届くかもしれない。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「シーシュアン……そこにいるんだね。いま、いくから」
響く少女の笑い声を耳にし、畝傍は聞こえてきた声の方向へ歩を進める。
右腕に狙撃銃を抱えつつ、いざとなれば『取引』の成果を石蒜に突き出せるよう、
畝傍は左手で自らの頭部に装着したヘッドギアを操作し、それが納められている収納ポータルの準備を整えていた。

石蒜 > 「ああ、そうか……そうだったんだ、ハハハハ。笑える……これじゃあ笑うしかない。アハハハハ、ハハハハ!」笑い続ける、笑い続ける。
星々に何を見たのか、笑う以外何も出来ないといった様子で。
全てを嘲笑するような笑いを。

畝傍・クリスタ・ステンデル > ポータルから『それ』を取り出すと、腰の裏側――普段はナイフを収めている場所に収納し、
再び両腕で狙撃銃を構え、また歩く。
どうにか石蒜を見つけた畝傍は、その変わり果てた様子に戸惑う。
畝傍は狂人である。だが眼前の石蒜は――明らかに畝傍のそれとは別種の狂気を放っている。
「どうしたの、シーシュアン……?ねえ……」
声は途端に弱弱しくなる。

石蒜 > 「アハハ、アハ……?」呼びかけに、ようやく気付いて、声の方へ振り返る。
「あれ……今、私……何を笑って……いや、何をして……ええと……。」柱の破片に腰掛けてからの記憶が無い、気づいたら畝傍に呼ばれていた。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「……だいじょうぶ?」
なおも、弱弱しい声のままで。畝傍は石蒜の身を案じる。
「シーシュアン、わらってたよ。あの空を見て……。でも……あれは……」
空を見上げるが、うまく表現できない。視線を石蒜に戻し、無理に話題を変えようとしてみる。
「……それより、端末は買いにいけた?」
畝傍は狙撃銃を左手に抱え、自身の携帯端末を取り出す。

石蒜 > 「た、多分大丈夫です。私、笑って……?」空を見上げる、そこはいつもと同じ星空が広がっていた。星空を見て何を笑っていたのだろう。

「あ、買えましたよ。なんとか使い方も覚えました。」懐から、中古品らしい少し古ぼけた端末を取り出す。
「それでええと……これだ、これが私の番号のはずです。」画面に表示して、見せる。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「それじゃ、ボクがやるとおりにして。こうやって、端末をあいての端末にむけるんだ」
畝傍は自身の端末を石蒜の端末に向け、何やら操作をしている。
「ボクがそうさするから、シーシュアンはがめんに四角いのがでてきたら『はい』のほうを押して。そうすれば、ボクのばんごうとシーシュアンのばんごう、こうかんできるから」
ひらがな以外は読めないと言っていた石蒜でも、どうにかわかりそうな説明を試みる。

石蒜 > 「あ、はい。こう、でいいのかな……。」自分の端末も、相手のものへ向ける。
「あ、なんか出ました。ええと、はい……と。」タッチして、あとは機械任せ。しばらくして、登録できましたの表示に
「あ、できましたって出ました。これでいい、のかな……?」何が何やらさっぱりわからない、不安げな声になってしまう。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「うん。ボクのほうもちゃんとできたよ。ちょっとかけてみるね。音がなったら、がめんをさわってみて」
畝傍は端末を操作し、石蒜の端末に通話をしてみる。
番号がきちんと交換できていて、石蒜の端末がマナーモード等になっていなければ、設定された着信音が鳴るだろう。

石蒜 > 「……。」相手が電話をかけるのを、固唾を呑んで見守る。
着信、手元の端末が震えながら、デフォルトの味気ない着信ベルの音を出す。
「あ、あわ、あわわわ。」まさか震えるとは思わなかった、驚きのあまり取り落としそうになる。
「え、ええと、出るには……。」緑の受話器のマークを押せと教えられたが、受話器ってそもそもなんだろう。どうすればいいのかわからず、画面と畝傍を交互に見ながら曖昧に笑う。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 番号は無事に交換できたらしいものの、どうしたらよいかわからなさそうな石蒜の姿を見て、
畝傍は石蒜の隣に回り、右手の人差し指で受話器のマークを指し示す。
「ここを、おしてみて」
優しい声で、微笑みながら。

石蒜 > 「は、はい。」恐る恐る、という感じで示されたマークを押す。
表示が変わった、これで通じてるんだろうか?
「こ、こんばん…は?」端末に正面から向き合ったまま、声をかけてみる。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 無事に電話も通じた様子を見ると、
「みみにちかづけたら、よくきこえるよ」と告げ、
畝傍は一旦石蒜から離れ、端末を通じて話してみる。
「シーシュアン、きこえてる?」

石蒜 > 言われたとおり、端末を耳に近づける。すべての動作がおっかなびっくりである。
「あ、あ、聞こえてます、畝傍の声。こっちの声、聞こえてますか?」

畝傍・クリスタ・ステンデル > 石蒜の声は畝傍の耳にはっきり届いていた。
「うん、きこえてる。だいじょうぶ。……これで、どこにいてもはなせるね」
その声は優しくありながら、どこか儚げな感情を含んでいるようにも聞こえた。

石蒜 > 「良かった。ええ、いつでも話せますね。」知らないものを知る喜びと、これからへの期待で、畝傍の声に潜んでいた何かには、気付けない。
畝傍・クリスタ・ステンデル > 「そだね。それじゃ、一回でんわ切るよ。近くではなせるもんね」
そう言って通話を切り、再び石蒜の近くまで歩いてきて、隣に立つ。すると、畝傍は。
「……ねえ、シーシュアン」
先ほどとは声の調子も変わり、俯いて。
「ボクがいなくなったら、シーシュアンは……泣く……?」
突然、問いを投げかける。畝傍の中に渦巻く感情の流れは、次第に抑えられなくなりつつあった。

石蒜 > 「ええ、やっぱり顔を見ながら話したほうがいいですよね。」通話が切れた。よし、次からは、多分ちゃんと使える。安心しながら、端末を懐にしまう。
「どうしたんですか?畝傍。」急にどうしたんだろう、いきなり沈んでいるように見える、そして突然の問に「えっ…」と言葉に詰まる。
「そんな……泣きますよ、泣くに決まってるじゃないですか、どうしたんですか急に……。わ、私の前から居なくなるつもりなんですか……?」不安げに、問い返す。不安と恐怖、そして困惑。それがないまぜになった表情で。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 畝傍の瞳から溢れる涙の雫が、地面に向かってひとつ、ふたつと落ちていく。
「ボクは……ボクは、だよ。シーシュアン。『生きている炎』を呼ぶ方法をさがして……おしえてもらったんだ。でも。『生きている炎』を呼んだら、その時はボクも『生きている炎』に焼かれて、いなくなるかもしれない。それでも、シーシュアンを悪い神さまからたすけられるなら。ボクはボクのからだなんて焼いてもかまわないとおもった……でも。やっぱり。シーシュアンはボクがいなくなったら、かなしむ」
言葉が進むにつれ、声の調子も乱れていく。
畝傍の中では、ありとあらゆる感情が爆発してしまっていた。
「ボクは。ボクはどうすればいいんだろう……ねえ。シーシュアン。ボクは……ねえ……『サヤ』……」
そして、無意識のうちに、今の石蒜にとっては忌むべきものとなったその名を口にしてしまう。

石蒜 > 「『生きている炎』……畝傍、……ご主人様を……私の、ご主人様を本当に殺そうと……。」確かに、前に畝傍はそう言っていた。その時は本当に出来るのか半信半疑だったし、神を殺せるほどの存在を彼女に呼ぶ事ができるとは思わなかった。
でも、畝傍はもう、呼び方を知っているという。
「どうして……?どうして……私の、ご主人様なんだよ……?私には、もうあの人しか……居ないのに……。」自分も、涙がこぼれる。通じあってると思ってたのに、どうしてそこまで、私のご主人様を否定するんだろう。それがわからなくて、畝傍が自分にわからない存在になってしまったのが悲しく、涙が止まらない。
そして、畝傍がその名を口にした瞬間に、悲しみの代わりに心を支配したのは怒り。右手を振り上げ、その頬を叩こうとして、ギリギリで止める。「畝傍……畝傍……その名前で呼ばないで……。私は石蒜……もうサヤには戻れない、サヤ/鞘は、もう失くしちゃったの……。」怒りを必死で鎮めながら、告げる。もう後戻りは出来ないのだという諦めを込めて。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「……ちがうよ!」
畝傍はまっすぐに石蒜のほうを向き、涙を零しながら力強く叫ぶ。
「ほんとうに……シーシュアンはそうおもってるの!?シーシュアンは、ほんとうに、今のままでいいの!?」
爆発した感情は言葉として紡がれ、一直線に石蒜――かつて『サヤ』だった少女へと向かう。
「今のボクならわかるよ。シーシュアンは狂ってるんじゃない。狂わされてるんだ!悪い神さまか、仙人さまか知らないけど。そいつに!」
そして、スーツの腰の後ろに忍ばせていた『それ』を。折れた刀の切先を。石蒜に向け差し出した。
「これ……『サヤ』のかけらだよ。みつけたんだ!ねえ、こたえて!シーシュアンは、ほんとはシーシュアンじゃない。『サヤ』なんでしょ!?」
もはや、誰にも。もちろん畝傍自身にさえ。その感情の奔流を止めることはならないだろう。

石蒜 > 「違う……違う…!!私は……私は……!!」頭を抱え、体を丸める。まるでそれは現実を拒む子供のようで。
「私は、石蒜だ!!血のように赤い彼岸花!!ご主人様に、そう刻んでもらったんだ……!!だから私は、石蒜じゃなきゃいけないんだ……!!」拒絶する、拒絶する、自分の中に眠るかつての自分を、まっすぐに向かってくる畝傍の言葉を。目を背け、心を閉じて拒絶する。

そして、畝傍の取り出した刀を見て、怯える。火を恐れる獣のように、闇に暮らす悪しきものが光に照らされるように。手をかざして、顔を背ける。
「や、やめて……!!それを近づけないで…それは……駄目……やめて、畝傍……私を苦しめないで……。私は、石蒜だよ……あなたの一番……石蒜……。どうしてこんなひどいことをするの……?」私は嫌われてしまったのだろうか、私はどこかで間違えたんだろうか。悲しみと困惑が心の中で荒れ狂う。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 体を丸める石蒜を、畝傍は立って見下ろす形になりながら。
まっすぐに言葉をぶつける。それはまるで赤い稲妻のように。
「そう……彼岸花。『悲しい思い出』の花。でも」
彼岸花の花言葉のひとつ。されど。
「あの時。シーシュアンに初めて会って、また会う約束をした時。ボクは確かに、『また会う日を楽しみに』してたんだ。ほんとうに通じ合えるトモダチが、初めてできたとおもった。だから。ボクはシーシュアンと、トモダチでいたかった。だけど。……ごめんね、シーシュアン」
謝罪の言葉を紡ぎながらも、畝傍が『サヤのかけら』と呼んだそれは差し出したまま、戻すことはない。
「やくそくした。ボクはシーシュアンのトモダチ。シーシュアンは、ボクのいちばん……だけど。だからこそ……ボクにできることは、これしかないんだ。ボクには……いまのシーシュアンが、しあわせだとおもえなくなった」
再び、俯いて。
「…………ごめんね。ほんとうに……ごめん」
弱々しい声で、呟く。

ご案内:「打ち捨てられた祠」に鳴鳴さんが現れました。
石蒜 > 「う……う、うぅ……。」漏れるのは嗚咽。小さな肩が震えている。
その剣の切っ先に篭っているのはサヤだった頃の魂。
それが近くにあるだけで、石蒜は石蒜であることを否定されている。
もはや逃げる力もなく、ただただ震えながら泣くしか出来ない。

「私は……畝傍……。サヤに戻れないの……私の魂は、もう歪んで……染まっちゃったから……。戻っても……もう、あなたと友達になれるかわからない……。それに私は……幸せだよ……。ご主人様と一緒に居られて、幸せなの……だから……やめて……。畝傍……お願い……。」息も絶え絶えに、懇願する。

鳴鳴 > 「――僕の石蒜を虐めないでよ。この子を虐めて良いのは僕だけなんだ」
声が響く。
声が響く。
何処から声が響く。這い寄ってくる声があった。
闇の中から燃え立つ瞳があった。それは、この祠の神像であった。
その神像の中から声がする。その神像の中から何かが現れる。
それは童女であった。今この領域にいる人間の中で、最も幼く見える姿。
赤い瞳に褐色の肌、ゆったりとした道服。
二人の様子を見て口角を吊り上げながら、童女は現れた。

「やあ、初めまして。僕は鳴鳴――石蒜の言葉でいうなら、『ご主人様』だ」
石蒜の背後までやってきて、蹲る彼女を後ろから抱きしめようとしながら、畝傍を見上げて言う。
「酷いことをするね。ほら、こんなに怯えてしまってるじゃあないか……」

畝傍・クリスタ・ステンデル > 石蒜を前に、もはや言葉を紡ぎだすことすらできず、ただただ涙を零す畝傍。
しかし、祠の神像の中から現れたその童女が名乗りをあげると、
畝傍は鳴鳴と名乗ったその童女に、さながら生ける炎が如き激情を向けた。
「あんたが……あんたが!シーシュアンの『ご主人さま』なのか!」
感情のまま大声で叫ぶ。
『サヤのかけら』を仕舞い込むと、畝傍はすぐさま後方へのステップで鳴鳴から距離を置き、狙撃銃を構え戦闘態勢をとる!
「シーシュアンをくるしめてるのはあんただ。シーシュアンをしあわせからとおざけてるのは!あんただ!そうだろ!」

石蒜 > その声に、身を震わせる。ああ、ああ、ご主人様が来てくれた。
抱きしめられると、恐怖は消え、安らぎが全身を満たす。
「ご主人様……」自らを包む手に手を重ねる。
「お見苦しい姿をお見せして申し訳、ありません…石蒜はまだまだ未熟です……。」甘えるような、媚びたような声。>鳴鳴

「畝傍……私のご主人様だよ。私の、私だけのご主人様を……悪く言わないで……お願い…。」悲しみと共に、親友に声をかける。私は幸せなのに、これ以上ないほど幸せなのに、畝傍はそれを否定する。それが悲しい、分かり合えないのが、悲しくて、辛い。>畝傍

鳴鳴 > 「アハ、アハ、アハハハハハ! 君は面白いね、とっても面白いよ。
 ひどく独善的じゃないか。君は僕の何を知っているんだ? 僕と石蒜の何を知っているんだ?」
口角を吊り上げ、嘲笑うように言う。狙撃銃を構えられたものの、動じる様子はない。
「……君が望んでいるのは、自分と石蒜……『サヤ』との幸せじゃあないか。
 でも、それが本当にこの子の幸せかどうかなんて、君が決めることじゃない。
 君は僕の事を何も知らないのに、そんなことを言うんだ。……酷いと思わないか?
 僕は、『サヤ』だったころの石蒜を知ってるんだ。君は、その時の彼女の苦しみを知っているのかな?」
けたけたと笑いながら赤い瞳で射るように畝傍を見つめる。
「僕が何であるかなんて、どうでもいいじゃないか。大いなる「道」の前では些細なことだ。
 だから、僕を是か非かなんていうのはやめたほうがいい。
 君が、石蒜を、サヤを僕から奪いたいのなら、そうしてみるといい。
 自らの欲望と、享楽のために――」

そして、重なり合った石蒜の手を握り、石蒜に囁く。
「何、いいんだ。面白いものが見れた。君を僕のものにして、本当によかったよ、石蒜。
 君は全てを赦されている。今更、恐れることなどないよ。
 君は、君の思いのままに天下を駆ければいい」
酷く優しげな声でいい、石蒜の首筋に舌を這わせる。

畝傍・クリスタ・ステンデル > もし仮に、今この場にいる第三者が畝傍と鳴鳴の言葉を客観的に見れば、鳴鳴の言葉にこそ理があるようにも思えるだろう。
だが畝傍の精神は肉体に輪をかけて幼く、そして彼女は狂っていた。
外見こそ童女でありながら、その実遥かに長い時を生きているであろう鳴鳴とは正反対である。
「……しらないさ。しらないよ。でも!ボクにはわかる。あんたはボクとおなじニオイがしないからだ!あんたはシーシュアンを……サヤを!むりやり狂わせて!もてあそんでるだけだ!」
そしてその幼さ故に、哄笑する童女の語る論理を全てかなぐり捨て、逆に自らの感情に任せた拙い論理を思い切り叩きつけんとすることさえ、今の畝傍にはできた。
火の玉めいた赤い瞳の視線が、鳴鳴を射抜く!
「――なら、そうするよ。ボクはあんたをみとめない。サヤを、このままあんたのものにさせてたまるか!うばいとれっていうなら、やってやる!ボクが!」

石蒜 > 「どうして……。」どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「私は、ただ仲間が欲しかっただけなのに……ただご主人様とともに居たいかっただけなのに……どうして……」二人が争わねばならないのか……。
私には過ぎた願いだったのだろうか、どこで間違えてしまったんだろう。
いつもなら身も心も溶かし、喘ぎをこらえられないご主人様の愛撫も、今はただ触られているだけにしか感じない。
それほどに心を痛め、悲しみが心中を満たしている。

鳴鳴 > 「……そうだ」
嗤う。三日月のような形の口で嗤う。
「――そうだとも。それでいいんだ。それでいい。
 そう、結局はそういうことさ。価値観など、相対的なものなんだ。
 絶対のものじゃない。時代や見方、立場で変わるようなものだ。
 だから、君はひどくただしい。僕の論理なんて、無視すればいい。
 そうだろう。君は、ただ自分のしたいことをするだけなんだ。そこに、本来善も悪もない。
 ――君は、僕と同じだ。君が『サヤ』を得たら、きっと僕と同じように狂わせて、君のものにするだけさ」
鳴鳴の顔の半分が溶け、闇に染まる。
宇宙の深淵のような色が浮かび上がる。宇宙のいかなるスペクトルとも異なる光が溢れる。
それは混沌である。善も悪も、正も邪も、何もかもを内包していた。
「君とは、仲良くできそうに思ったんだけどね。君も、石蒜と一緒になったらどうだい? それはそれで、幸せだと思うよ」
混沌が嗤う。黒い何かが、囁くように嗤う。
全てを冷笑するものが、童女の中にいた。

「石蒜、僕は言った。君は全てを赦されている。それは、僕に対しても同じなんだ。
 安心するんだ。君には、僕がいる。未来永劫、どの宇宙にも、僕はいる。
 君は、僕だ。僕は、君だ。ほら、あの星々と同じように」
混沌が石蒜の肌を撫でた。その身を抱きしめながら。
「……君のしたいことをするといい。君は、九万里を翔ける真人なのだから」

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「ごちゃごちゃと……!」
もはや、畝傍には鳴鳴の言葉を聞き入れるつもりはなかった。彼女の心は、ただ眼前に広がる混沌の存在への怒りと破壊衝動に満ちていた。
鳴鳴の姿が混沌へと変じていくのに呼応するかのように、畝傍の肉体にもわずかながら変化が生じる。
ブロンドだった髪は色彩を変転させ、揺らめく炎のように輝きながらなびく。そして眼帯で覆われているはずの左目と、さらには両の手首、足首からも、炎のようなモノが溢れだしているように見えた。
しかし、限界まで昂ぶった怒りの感情ゆえ、畝傍は自身の変化に気付いていない。
畝傍は狂人である。ゆえに眼前の名状しがたき混沌に対しても恐れをなさず、狙撃銃の引き金を引く!BLAM!放たれる弾丸までもが未知の炎を纏う!
そしてすぐさま後方ステップと同時に次弾を装填、躊躇なく発砲!BLAM!

石蒜 > 「私の、したいこと……。」ご主人様の言葉に、力なく空を見上げる。
そこに見えるのは、目。こちらを見つめる無数の目。
それを見つめる石蒜の目に、狂気が宿った。
そうだ、全ては無意味で、無価値だ。私にとって唯一絶対なのはご主人様だけ。
私は順番をつけていたはずだ、一番はご主人様で、畝傍は二番目。
それに従えばいい。それだけのことだ、私は何を悩んでいたんだろう。
畝傍との時間に価値はない、意味もない。ご主人様を害するなら、排除しなくては。

ご主人様の手を逃れ、ゆらりと立ち上がる。同時に右手の中に刀を呼び出す。その刀は血に濡れたように、紫色の光を帯びていた。
石蒜の目が、薄紫に輝いた。
ご主人様を狙う銃弾を、刀で弾く。二発目は、左手に斥力をまとわせて逸らした。
「さようなら畝傍。私のご主人様を殺そうとするなら、あなたは敵。私の一番はご主人様で、あなたじゃない。」静かに、笑みすら浮かべながら、宣言し、構える。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 「……やっぱり」
畝傍の瞳には涙が浮かんでいた――はずだった。
その涙さえも、今は未知の炎となって溢れ出している。
「…………やっぱり、ボクだけじゃ」
――サヤを救えない。畝傍は己の無力を確信した。
二対一。狙撃銃と刀。状況は圧倒的不利。ここでみすみす命を落とすわけにはいかない。
彼らに。一人でも多くの者に伝えなくては、かの童女の正体を。伝え、来るべき時まで身を潜めよう。そう決意した。
畝傍は眼前の混沌と石蒜に背を向けないまま、後方へ大きく跳躍。そして石蒜が最も恐れる彼女自身の半身――『サヤのかけら』を――彼女めがけ、投擲する!

鳴鳴 > 畝傍の体の変化に目を細める。とても楽しそうな表情を鳴鳴はしていた。
哀しみに満ちた石蒜とは全く違う。この状況の全てを、悦んでいた。
「成る程。そこにいるのか? ――でもいいさ。星はまだ、僕たちを完全に開放してやくれないのだからね。
 完全なる顕現でなければ、あの時のように僕は焼けないよ」
炎が燃える。畝傍の髪、瞳、手首手足から炎のような何かが溢れ出していた。
「――なぜならば、僕は仙人……いや」
狙撃銃の引き金が引かれる。一発、二発。それらすべてが炎を纏っていた。
その弾丸の全てが、弾かれ、逸らされていく。石蒜の刀によって。
「僕は、這い寄る混沌だからだ――」
背後の空間が割れる。そこから混沌が溢れだし、触手めいたものがはいずり始める。
「渾沌の話を知っているかな? まあ、詳しい話はいい。
 つまりだ、余計な事をしたせいで、大事な物を失うという話だよ。
 君は、今の関係を続けていれば、こんなことにはならなかったのに。
 君は、僕の事なんて、一々調べなければ、こんなことにはならなかったのに。
 ……愚かだね。人はそうして、全部失っていくんだ。
 ほら、石蒜も言っているよ。
 ……君は、石蒜の敵だそうだ。
 残念だったね。アハ、アハ、アハハハハハハ!」
手を叩いて嗤い、畝傍に手を伸ばす。そうすると、無数の触手が彼女目がけてとびかかっていく。

「そうだ、わかったようだね、石蒜。
 君は、君のしたいことをすればいい。僕は、全て許してあげる。
 君を、全力で愛してあげるよ」
混沌の笑みを浮かべながら、石蒜にいう。
「いいよ。君の思うままに。君は、僕のものだから」
そして、飛来する『サヤのかけら』
だが、鳴鳴はそれを静かに眺めるだけだった。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 樹上へ跳び乗った畝傍に襲いかかる、混沌の触手の群れ。至近距離で狙撃は使えない。
絶体絶命の状況。畝傍は狙撃銃を――捨てた!身代わりとなりうるものは、もはやこれしかない。触手の群れは狙撃銃を取り囲み喰らった。
しかし数秒後、混沌の触手に喰われたはずの、畝傍の狙撃銃が内側から爆ぜる!KABOOM!

石蒜 > 「……!」『サヤ』だ、『サヤ』が来る……!!弾く、避ける、何とかしろ、何とかしなくては。
だが、足が動かない。手も、指さえも動かすことが出来ず、ただ回転しながら飛んでくる『サヤのかけら』を見ていることしか出来ない。
「ここに来て……いや、この時を待ってか……『サヤ』ぁぁぁぁ!!!」今まで弱っていたふりをしていたな、この瞬間に、私の動きを止めるために!!

「ああぁぁぁ!!!!」動けない、動けない!あれを受けると、まずい、ご主人様、助けて……!!
しかし、何の助けも、手立てもなく、折れた刀の切っ先が、『サヤのかけら』が、胸に突き刺さる。
「がっ……あ、あぁぁ……!!」突き刺さったかけらは、吸い込まれるように、深く深く刺さっていき、体内に消えた。
「あぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」私の中にサヤが、戻ってきた……!!拒絶反応のようなものに襲われる、全身に激痛が走り、その場にくずおれる。

鳴鳴 > 「……ほう、なんと!」
伸ばした触手は畝傍を捕えず、狙撃銃を喰らった。
しかしその狙撃銃は、内側からはぜる。混沌の触手が砕け散り、バラバラになっていく。
触手は消え去り、ずるずると、残った触手は鳴鳴の背後の空間へと消えて行った。
「ふふ、君とは、全力でやりあいたいね。喚べるんだろう? あいつを。
 だから、その時が来るまでは、生かしておいてあげるさ――」

そして、『サヤのかけら』たる刀の一部が、石蒜に突き刺さる。
石蒜が苦痛にあえぐ。その場に崩れ落ちる。それを見下ろして、鳴鳴は口角を吊り上げた。
「酷いな、なんて酷いことをするんだ。友達は、こういうことをするものなのかい?
 アハ、アハハハ! 酷い、酷い! こんなに苦しんでいるのに、君は良かれと思ってやってるわけだ!
 フフ、アハハ、ねえ、考えてごらんよ。石蒜が行ってきたことを。
 人を傷つけ、数多の罪を犯した――そんな彼女が、今更サヤに戻って何になるっていうんだ?
 普通に戻れるわけが、ないじゃないか……アハ、アハハハハ!!
 可哀そうにね、石蒜……君の友達のせいだよ。アハ、アハハ……!」
そういうと、蹲る石蒜を、サヤを、抱きしめる。
「……可哀そうにね。痛いだろう。辛いだろう。だから、僕がまた、君をどうにかしてあげる。
 行こうか、石蒜。僕たちの仙窟に。そこで、また可愛がってあげるさ。
 ……そのとき、君が石蒜なのか、サヤなのか、わからないけどね」
背後の空間が再び裂ける。このまま、石蒜ともども去るつもりだ。

畝傍・クリスタ・ステンデル > 鳴鳴が言葉を終えたとき、そこには既に畝傍の姿はなかった。
ただ、わずかに彼女が纏っていた未知の炎が残されているのみである。
畝傍はどこに姿を消したのか?そして、彼女の体から溢れだした未知の炎の正体とは、一体何だったのであろうか?
今はまだ、誰もその全てを知り得ないだろう――

ご案内:「打ち捨てられた祠」から畝傍・クリスタ・ステンデルさんが去りました。
石蒜 > 「あ、あぁぁあぁぁあああ!」私はサ違う石蒜だ、違うサヤだ。いいや違う、私は石蒜血のように赤違う、サヤだ、臆病で引っ込違う!!
「あぁぁぁぁああぁああ~~~!!」頭をおさえ、呻く、その体内では、2つの魂が主導権を争って自己認識を塗り替え続けている。まともな精神なら耐えられるはずもない。

鳴鳴 > 「クク、アハ、アハハハ……」
畝傍は消えていた。だが、必ず次の手を打ってくるはずである。
鳴鳴はそれがたまらなく面白かった。
自分のまいた種で、サヤという少女は狂った。
そして、そのサヤのおかげであの畝傍という少女の運命も狂わされていくのだ。
狂気。狂喜。鳴鳴はとても喜んでいた。

そして、今の石蒜/サヤに対しても。
鳴鳴は、『サヤのかけら』を防御することなど容易かった。
しかし、敢えてそうしなかったのだ。助けてと、彼女が思っていたのを知っていて、それでも。
「……大丈夫。大丈夫だ、石蒜。いや、サヤかな? まあ、どちらでもいいさ。
 僕は石蒜が好きだけどね……彼女なら可愛がってあげるし、サヤなら犯し直してあげるだけさ。
 おや、どちらも同じだね。もし君が、サヤとして戻ったのなら、それはそれで面白いけれど。
 さて、どうなるかな。アハ、アハ、アハハハハハ!!!」
鳴鳴の顔の全ては混沌に溶け、燃える三眼が闇に浮かんでいた。
そして、闇が二人を包まんと迫る。このまま、鳴鳴のねぐらへと移るのだろう。
石蒜/サヤを抱きながら、ひたすら鳴鳴は嗤っていた。

石蒜 > 「たす、けて……。」闇に包まれ、この場から消える寸前に、少女はそれだけ呟いた。
それが誰の言葉で、誰へ向けたものなのか、それは誰にも、少女自身にすらわからなかった。

ご案内:「打ち捨てられた祠」から鳴鳴さんが去りました。
ご案内:「打ち捨てられた祠」から石蒜さんが去りました。
ご案内:「打ち捨てられた祠」に石蒜さんが現れました。
ご案内:「打ち捨てられた祠」にラヴィニアさんが現れました。
石蒜 > 打ち捨てられた祠、何が祀られているのか、知る者はほとんど居ない。
だが「アハ、アハハァ……ご主人様、ご主人様ァ」祠にすがるように抱きつく、この狂った少女は知っていた。この神が何であるか、どれほど邪悪な存在なのかを。

ラヴィニア > 祠の周りの薄暗い陰に、黒い装いが溶けるように現れていた。
修道服のようでもあるが、そのスカート部は脚の可動用にスリットが入り、
その厚手の生地は魔導合成繊維が編み込まれ強化されている。
中から覗く脚は光沢ある黒いボディスーツ。
ウィンプルから垂れるヴェールは側頭部後頭部だけでなく、顔の前を覆うような薄布があり
それは顔を完全に隠しているわけでもないというのに、奥の顔を『認識できない』ようにしている。

公安委員会直轄第九特別教室『コードネーム:アリアンロッド』は、
その教室機能――――危険な門の開閉の予知、によってこの場の確認にやってきた。
現在、人員の被害により予知精度が落ちているためだ。
そこで見つけたのは、狂ったように笑う声。

第九教室の職務上、到着時に危険存在が現れていることは少なくない。
傍の岩に右手をつけたまま、ゆっくりと陰から祠へと近づいていく。

石蒜 > 少女は、巫女装束のような服装である。しかし純白であるはずの白衣は漆黒に染まり、胸元に赤く不吉な彼岸花の模様。緋袴も、血で染めたように赤い。服の何処にも汚れはないのに、それは穢れた印象を放っている。まるで神に仕えるために着られる巫女装束をあざ笑うために歪められたようだ。
石蒜、彼岸花と名乗る少女は、実際に全てを無価値無意味と断じ、神々すらも冷笑する邪神に仕えていた。

「アハ……ハァ……。」壊れた笑いが止まる。
臭う、嫌な臭いだ、神気臭い、綺麗なものの臭い。私を否定するものの臭い。
ゆっくりと立ち上がり、臭いの元を探す、近くにいるはずだ。
「何をしに来たのか知りませんが、それ以上近づくならこちらにも考えがあります。」薄笑いを浮かべながら、警告する。

ラヴィニア > 相手の姿を認めたところで、やってきた声に足を止めた。
公安委員会の人員は、風紀委員会が公にしている重要案件に関しては目を通している。
それは勿論警戒のためでもあるし、“ナワバリ”の距離を保つためでもある。
そこから、記憶を引き出した。
石蒜と名乗っている凶刃……ここにいる理由が推し量れず、ヴェールの下で目を細める。

予知とはただ空間的なものではなく因と果のもの。
この場所かもしれないし、目の前の少女かもしれないし、また今見えているものとは全く別の何かの因果が予知に現れたかもしれない。
精度の落ちている今では余計判断がつかない。
しかしあるいは何かを知っているかもしれない。
この祠が何かも、異邦人街の特色上よくわからないままここに来ているのだ。

「……考え? こんな所に潜伏していたのですね。
色々とお元気になさっていると聞いておりますが……」

石蒜 > 足を止めた。神気臭い、イライラする。ただでさえ、『サヤ』が私の中で暴れていて気分が悪いのに。

「誰ですか、知りませんよあなたのことは」元気にしている?何処がだ、馬鹿にしているのか。苛立ちを隠そうともせず、相手を睨みつける。

「ここは私の大事な場所、誰にも渡さない。あなたの臭いはとても不快だ。これ以上ここにその臭いを植え付けるようなら……」右手に刀を呼び出して、構える。明確な殺意と敵意を、相手に叩きつける。

ラヴィニア > 隠そうともしない敵意に、薄いヴェールに覆われていない口元が薄く上がった。
笑う。

しかけてきたのは向こうだ。
第九教室の危険予知はここに反応した。なら目の前の相手は重要参考人と言える。
風紀委員会に対してはなんとでも言い訳は立つ。
それに最近はもう。

「不快、ですか。申し訳ございません。聖潔に心がけておりますもので」

軽く会釈するようなポーズをとり、ヴェールの下から上目遣いに相手を見た。
あまり堪えられない。

「でもわたくしは、薄汚れた貴女様のような臭いは嫌いではございませんが」

嗤う。

石蒜 > あからさまな挑発に、ケシ粒ほどの理性は吹き飛んだ。
犬歯を剥き出しにして、怒りに顔が歪む。
「後悔させてやる……!!」足と地面を斥力で反発させ、一気に跳躍して飛び込む。私に染み付いているのはご主人様の匂い、それをこの女!!

「シッ!!」裂帛の気合とともに、全力の袈裟斬りを放つ、まともに当たれば肩口から胴を斜めに切断するだろう。

ラヴィニア > 石蒜が踏み出す瞬間、ラヴィニアが岩につけた右手がかすかに輝いた。
後ずさるラヴィニアより、当然石蒜の踏み込みのほうが速い。
だが刀が切り裂いたのはラヴィニアではなく、その場から壁のように形を代えて引き伸ばされた岩。

ゴン、と歯車の回る音がした。

斬撃と同時にぼろぼろと崩れていく岩壁の向こうで
後ろへ下がった修道女の右手には黒い塊が握られている。
ベルギー製自動拳銃、FNZ-9F MK3。
岩からきっちり同じ形で削り取られた穴も崩れた瞬間、撃鉄が起きて金属爆薬が弾丸を放った。
そのまま石蒜に向けて3射される。

石蒜 > 刃が止まる、岩の壁?!しかしそれも一瞬で崩れ去る。
時間稼ぎのつもりか、さらに踏み込もうとしたところに、相手の構える黒いものが見えた。穴が、こちらを向いている。
「くそ……!」斥力の力場は足に使っている、手元に移動させるのも間に合わない。狙いは、頭か。致命傷だけは避けなくては。
首をひねり、左腕で防ごうとする。一発目が左腕の骨に食い込む。
二発目が左肩を、三発目に刀を戻すのが間に合い、なんとか弾いた。腕にビリビリと痺れが走る。
銃弾の運動エネルギーをその身に受け、体重の軽い体が吹き飛ぶ。
痛い、痛い、骨にまで届いた。全身を衝撃が貫く。
痛みは快楽へと変換され、吹き飛びながら恍惚とした笑みを浮かべた。
空中で体勢を立て直し、ふわりと着地。

「楽しい、楽しいですね……ハハ、アハハハハ。銃ですねそれは、とても痛い。いい武器だ、アハハハハ。」壊れた笑い声、その傷口から温かい血が流れることはない、そういう体なのだ。滾るのがわかる、イライラも不快感も吹き飛んだ。殺し合いこそ私が求めていた薬なんだ、素晴らしい、なんて素晴らしいんだろう!

ラヴィニア > 射撃を終えた贋の自動拳銃は反動に耐え切れないというふうにラヴィニアの白い手から崩れていった。
そのまま後ろに下がりながら両足を開いて腰を落とし、地面に両の指先をつける。

「ディアーボロめ……」

笑う石蒜の、血の流れない体を見て呟く。
しかしその口元は赤い舌をちろりと覗かせて、唇を舐めた。

地面に指をひっかけて引き上げるようにすると、そのまま地面が黒い砲身として持ち上がった。
修道女が跨るのはGE-SS社の魔導力式ガトリング砲XXM247。
機構はラヴィニアの処理された脳が完全に記憶している。
電動バッテリーの必要ないそれが、触れるラヴィニアから魔力を供給されて石蒜に砲身を向ける。

石蒜 > 「悪魔、ハハ悪魔とは手厳しい。人は辞めましたが、ふふふ、悪魔とは……。」でも相手も楽しそうに見える。同類かもしれない、なら私も楽しませてあげないと。

そして、相手の創りだした黒く、大きい機械を見て。
ああ、あれはまずいな。あれを食らったら、きっと全身がバラバラになって痛いどころじゃ済まないだろう。
想像するだけでたまらない、ビクビクと一部が跳ねている。でも駄目だ、勝たないと、快楽の追求はひとまず置いておこう。

接近するために、駆ける。大きい銃は取り回しも効かないだろうと過程して、大きく横移動しながら近づく。今斥力は左手に集めている。数発なら、飛んできても防げるだろう。

ラヴィニア > レーザーのように弾丸が溢れるが、横に振った石蒜のほうが速い。
追いかけるように砲身が追いすがり、祠の周りを弾雨が吹き飛ばしていく。

その振動を下腹部に感じながら。声を上げた。


                 「“すべての敵の顎を打ち”」

              「“神に逆らう者の歯を砕き給え”」

「“破戒の者に向かう力を”」

「“いま41の釘を撃つ”」


造られた機関銃は自身の射撃に耐え切れず崩れて、土は土に戻る。
地面を撫でるようにしながら体を持ち上げ、回りこむように駆け寄る石蒜へと正面を向けた。

同時に立て続けにラヴィニアの横手に立ち上がっていく。
地面から合計六本のメイス。

石蒜 > 「アハハハハハ!!」やっぱり当たったら大変だった!石がまるで砂のように崩れていく!その破壊力を間近に見て、それを紙一重でかわしていることに、狂喜する。この相手、容赦がない。それがいい、それがたまらない。

相手の銃が崩れ去ると同時に屈んで足を止める。ザリザリと地面を滑りながら、小石を一握りつかみ、勢いを残したまま走りだす。
しかし今度は横ではなく、直線。まっすぐ相手に向かう。

走りながら左手を前に突き出し、親指で小石を弾く、斥力も使って発射されたそれは、音速を突破し弾丸のように向かう。
次々と小石を連射し、敵の動きを止めながら刀の間合いまで接近するつもりだ。

ラヴィニア > 「“Exsurge Domine”」

声とともに黒い修道女の全身が光の帯に包まれる。
立ち上がったメイスの一つを左手が掴みとり、上下左右に豪速で振り回す。
身体強化。
連射される弾丸を4つ叩き飛ばして、メイスごと砕け散った。

その時には侍が白兵距離に入っている。
左右の手にはメイス。
地面には残り3つ。

石蒜 > 槌矛、あれは痛そうだ。それに、ただの鈍器ではないだろう、魔術か何か、込められていそうだ。ならば……
左手に残っていた小石を、斥力をつかって加速させ、相手の顔めがけてばらまくように投げる。
さっき撃ったのほどの威力はないが、目潰しぐらいにはなるだろう。
そして右手の刀で、地面をこするようななぎ払い、狙いは相手の足と、地面に突き刺さった三本の鎚矛!

ラヴィニア > 「あ、は」

ヴェールは顔を隠すためのもの、防御力はない。
だから飛び出るように体を倒した。

向かって左、相手が薙ぎ払ってくる右手の刀の方へと倒れこみながら、左手のメイスを地面に立てて支え/守りとする。

そして倒れる流れのまま、右手を振り上げる。
上から下へ叩きつけるように。

石蒜 > 一撃で破壊、は無理か。やはりただの武器ではない。
倒れこんでくる相手を見る、楽しんでるか?私は、最高に楽しい!
素早く刀から手を離し、拳を握り。刀を振った勢いそのままに相手の顔に拳をお見舞いしようとする。

そして、魔術によって斥力をまとわせた左手を頭上にかかげて、降ってくるであろう鎚矛に、備える。

ラヴィニア > 硬い。確かに異能によって自在に金属へと変成されたメイスは高い強度を持っている。
だが刀を防いだところまでだ。
その衝撃で構成そのものが崩壊したメイスは土へと還る。

そして倒れこみながら叩きつける右のメイスはそのまま、横合いからやや振り上げられた拳が顔面を打った。

「……ぎ ッ」

石蒜 > 殴った、拳から伝わってくる、肉の感触。いい、すごくいい!
たたきつけられた鎚矛は、左手の斥力で自分から見て左に力の方向をそらし、地面を叩かせた。

上半身を左にひねって殴りぬいた姿勢。異能を使って手元に刀を出現させ、握る。
ひねりはそのまま力の溜めとなる、足を踏ん張り、慣性に逆らって胴を右にひねる
「シャーッ!!」気合とともに、呼気が音を立てる。相手の胴へと左からの斬撃!!

ラヴィニア > 地面を叩いた右手のメイスはそこで崩れて消えた。

殴り抜けられた拳。
視界が衝撃で一瞬白く染まるが、エクススルゲドミネの効果で衝撃はやや軽減されている。
すぐに立て直す。
向かってくるのは引き絞られて逆に薙がれようとする刀。
体勢上から回避はできない。

が、異能“貧者ノ富(インドゥルゲンティア)”がメイスを失って先につけた左手から発動している。
体が、持ち上がる。
手をつけている地面そのものが隆起し、一気に上へ。
そして隆起部分を作り出しているのは、石蒜が踏みしめる場所だ。
相対的に高速で上下に引き離される。

石蒜 > 「……ッ!!」さっきの石の壁といい、銃といい、触れたものを操作する能力らしい。隆起した地面に刀が半ばまで食い込む。同時に自分は沈み込んでいく。引き離される……!刀を握る手が離れる。飛び上がろうにも踏ん張りが効かず、地面を蹴れない。
気づけば穴の底、今銃の類で撃たれたら、一方的だ。急いで足に斥力を集中させ、壁を三角飛びで登り、逃れようとする。

ラヴィニア > 銃を生成してから抜き放ち射撃する。
接触している手はたった今盛り上がる土についている左手だけなのだ。
それには時間がかかりすぎる。

「あっは……」

だからそのまま左手を離し、体を倒した。
急いで穴から脱出しようと土を駆け上る石蒜の直上へ、土の塔から落下する。

石蒜 > 登りながら見上げる、撃ってこない。代わりに、落ちてきた。
なんのつもりだ、捨て身の攻撃?
ああ、でも、楽しそうだな。笑っているように見える。
刀を手元に呼ぼうとして、やめた。
その代わりに、両足で突っ張って、腕を広げる。
まるで恋人が抱きついてきたように、笑顔で受け止める。
「アハハァ、ハハ……。」相手が抵抗しなければ、しっかりと抱きしめて一緒に穴の底まで落下するだろう。

ラヴィニア > お互い知らないが同じ年齢。石蒜ほどではないにしろ欧米人にしてはラヴィニアも小柄な方だ。
少女の体が二つ、重なりあって落下する。

「……っか、は……う、ふふ……この、邪悪な異教徒め」

ヴェールの向こうの顔が笑う。

石蒜 > 下になったまま、笑う。背中に響く痛みが心地よい。
「ふふ、くふふふふ。そうです、私は邪悪。ふふふ、ならあなたは何ですか、正義ですか?私の胸に飛び込んできたくせに。殺しあううちに愛しくなりましたか?」結局あんたも同類じゃないか、狂ってるんだ。

ラヴィニア > 「う、ふふ。わたくしは貴女のような方を……ッ」

馬乗りになり拳を振りかぶった。
先ほどの仕返しというわけではないだろうが、石蒜の顔面へ振り下ろす。

「清めるのが務め! ええ、愛しておりますわ……隣人も、敵も、愛するものです……ッ!」

石蒜 > 「アハ、アハハハがっ!」笑い声を上げる顔面に、拳が叩き込まれる。
やりやがったな/ありがとう、この野郎。
「じゃあ、私も愛してあげましょう…!!」相手の鼻めがけての、右の拳

ラヴィニア > 「あぎゅ……く、は……っ❤」

叩きつけられ、鼻から血がばたばたと垂れ落ちる。

「抵抗する、なんて……なんていけない人なんでしょうか……!
わたくしが祓ってさしあげようと言うのに!!」

殴るというよりは握った右拳の底で叩くようにしながら、四方囲む土の壁に右手で触れた。
土が石蒜の体を拘束しようと四肢へ伸びる。
勿論、攻撃を与えれば簡単に崩壊するものではあるが……。

「何をしていたのか……正直に吐き出してくださいませ……ッ」

石蒜 > 垂れた血が石蒜の口元にかかる。舌を出してそれを舐める。
「あはぁ…♥」美味しい、今まで何度か血は舐めたが。格別の味だ、達しそうなほど。

四肢を拘束する土には、あえて無抵抗で受け入れた。その方が楽しくて、気持ちいいから。
「聞かれて話すとでも?お願いしますはどうしたんですか、礼儀の基本でしょう?」期待に目をうるませながら、挑発する。もっとだ、もっと傷めつけて欲しい。

ラヴィニア > 「お願い、致します! お願い……致します! お願い……いたします!!」

言うたびに両手を振り下ろす。

「正直に全てを告白なさってくださいませ……ッ
一体ここで何をなさっていらっしゃったのかしら……ッ
ここは一体どういう祠でございますか……ッ
ご主人様という言葉が聞こえましたが一体どなたでいらっしゃるの……ッ
ほら、ほら、ほら、“あなたがたは盗んではならない。欺いてはならない。互に偽ってはならない”……ッ」

石蒜 > 「アハハがっ」痛い♥「ぐっ」痛いッ♥♥「うぎっ」痛いッッ♥♥♥♥♥

「~~~~~~っはぁ♥♥」殴られる度に、達した。全身がくたりと弛緩する。きっと鼻の骨は折れているだろう、じんじんと痛みが持続する。

「私はぁ……♥こ、ここで……ふふ、ご主人様の、残り香で……シていましたぁ……♥♥」浅ましい笑みを浮かべながら、一つ目に答える。

「もっと答えるには、足りませんねぇ……。」ねだるように相手の拳を見る。

ラヴィニア > 「は……はっ…………は……っ❤
なる、ほど……頑迷な方でいらっしゃいますね……」

言って、息を整える。
頭の冷静な部分が、あまり長居することのリスクを訴える。
どういう場所かはっきりしていないのだ。誰が来るかもわからない。

この相手を“審問”にかけよう。殺さず、封印する。
そう決めて、馬乗りになったまま顔を上げた。

「“鉄槌はそこ。十字架はここに”」

石蒜 > 「ああ、駄目ですよ。それは駄目だ、私は自由で居たい。」おそらく拘束して、どこぞへ連れて行くつもりだろう。それは避けたい。

異能を使い、隆起した土に突き刺さったままの刀を操る。
刀はひとりでに土から抜け、回転しながらラヴィニアの背後に迫る。
「後ろにお気をつけて……♥」嬉しそうに、あざ笑うように、言う。

しかし狙いはラヴィニアではなく、拘束する土。ラヴィニアが刀を避ければ、次々と拘束を切り払って脱出することだろう。

ラヴィニア > 「――ッ!」

詠唱中断。背後から迫る刃に、石蒜から飛び退いた。
拘束は外部から衝撃を受けるとあっさり崩壊する。
それが異能“貧者ノ富”で操作された物質のルール。

「あらあら、いけない方ですわね……」

狭所で剣士との白兵戦は危険すぎる。そのまま異能によって取り囲む土を操作。自分だけ奥へと。

石蒜 > 追撃をしようとするが目の前で横穴が土に埋まる。
土中を自在に動ける相手に、穴の底では分が悪すぎる。
今度こそ斥力を使い、三角飛びで穴から脱出する。

しかし、この状況存分に戦えるとは言い難い。この祠が何を祀ったものかを知られるのは、良くない気がした。
だから地上に出ると即座に祠へと走り、内部の神像を取り出して懐に入れる。
「あなたは楽しい、本当に楽しい。素晴らしい相手だった、感謝したい!ああ、愛すら感じますよ!でも、この祠について知られるのはまずい。」
この祠の神の名が刻まれた石の柱を、斥力を込めた拳でバラバラに破壊する。

ラヴィニア > 「やはり何かご存知のようですね」

土を操作し地上に上がると、相手が何かを砕いた後だった。
ヴェールの下で瞳が怪訝そうに細められる。
何らかの証拠を隠滅したのだろう。
だとすれば最重要なものはもう失われてしまったことになる。
場所はわかっている以上、今はこれ以上深入りする必要はない。

口元に垂れてきた血を舌で拭う。

石蒜 > 「ええ、ええ、知っていますよ。この祠に祀ってあったのは何か、それがどのような存在か。でも教えてあげません。」薄く笑い、首をふる。無粋な真似をしてくれた罰だ。
「あのまま殴り続けてくれたら考えましたが……捕まえるのは駄目だ。興ざめですよ。」じりじりと、下がる。左腕は何かを抱くように胸元に。右手の刀の切っ先を向けながら、逃げるために下がる。

ラヴィニア > 石蒜に同じくじりじりと距離をとる。
逃亡するということなら致命的なものがここにあるわけではないのだろう。
しかし一応は調査対象にする必要はあるか、と。

「今度はちゃんと、叩き潰して差し上げますわ。
その無粋な刃物と一緒に」

ヴェールの下の口を釣り上げる。

石蒜 > 「アハァ……そうしてください、私もあなたを細切れにしてあげます。期待していますよ。」熱い息を吐く。

ジリジリと後退を続け、両者の距離が逃げるのに十分なほど開けば、身を翻し、夜の闇の中へと消えていった。

ラヴィニア > 石蒜が闇に消えた先へ、ゆっくりと頭を下げる。

そして携帯端末を取り出した。

「……はい、アリアンロッドです。
ええ、はい。……風紀が手配している相手ですわ。
いえ、わかりませんでした……協力者がいたようですので」

担任である“シビュラシステム”が重体である以上、今の予知はあまり確度が高くない。
そもそもどういった危険であるのか、本当に自分たちの管轄であるのかもはっきりしないのだ。
これ以上の調査自体は通常の公安委員会所属者に任せることになるだろう。

通信を終えると、胸に手をあててふううーっと息を吐いた。

「ふ、うふふ……今は、帰りましょうか」

ご案内:「打ち捨てられた祠」から石蒜さんが去りました。
ラヴィニア > そして黒いスカートを翻し、その場を後にした……
ご案内:「打ち捨てられた祠」からラヴィニアさんが去りました。