2015/07/02 のログ
ご案内:「破壊された祠」に否支中 活路さんが現れました。
■否支中 活路 > 木々に覆われた暗がりに白い二輪が停めてある。
包帯の男はそれより少し離れたところにいた。
血の跡が残る地面はしばらく前に踏まれ、貼られたテープは一部ちぎれていた。
淡く緑に光る二つの瞳だけが暗がりの中でゆっくりと動く。
そこにはもう、崩れ去った祠しかない。
ゆっくりと、ただ見回している……何もない。
というより、何を探しているわけでもない。
元より異邦人街にはよくいるのだ。
なんとなくふらりと入り込んだ、それだけだ。
血の跡や、風紀か何かがテープを貼った理由もわからない。
ご案内:「破壊された祠」に『室長補佐代理』さんが現れました。
■『室長補佐代理』 > 「舞台裏にしちゃ芝居掛かり過ぎだな」
不意に、声が掛かる。背後から掛かる声。
いつ、そこに現れたのか。
しかし、その男はそこに居た。
柱を思わせる長身。焔の如く揺れる黒のザンバラ髪。
伽藍洞のような、黒瞳。
「今度は廃墟の亡霊にでも鞍替えしたか? 『破門』の男」
男は……嗤う。
右腕につけた『公安委員会の腕章』を、僅かに揺らしながら。
■否支中 活路 > 声に振り返った。
目を細めると、緑光も影の集まりに消えてしまいそうだ。
「なんや…………『室長補佐代理』」
応じる貌は笑わない。
腕章を見て、“だいたいわかった”。
いや、最初からわかっていたはずだ。
どうあるべきだったのかということも。
そして、誰かが言うように『かくあれ(アーメン)』とされ、そうなった。
今更追認など必要ない。
「俺にまだ用なんかあるとは思わへんかったけどな」
■『室長補佐代理』 > 「重要案件の監視生徒に『調査部』の人間が会いに来る。何の不思議もない事だろう?」
笑みの消えたその包帯面は本格的に亡霊のそれを思わせる。
廃墟に佇む破門の亡霊と、闇を纏う寓話の怪物。
男は左手の銀の指輪を輝かせて、じっとりと……嗤う。
「その様子なら、『察し』はついてるみたいだな。どの程度までもう、『わかって』いる?
いや、違うな。
どの程度まで……もう『自覚』している?」
■否支中 活路 > 「俺がどう考えるとかどう自覚するとか、それがテメェらに関係あるんか……?」
突き放すように言いながら、しかしその場からは動いていない。
お前たちと話すことなどないと、はねつけて去ろうとはしなかった。
学園は歪みの是正を進めた。
そのためにあれがありこれがある必要だったのだとしたら。
あるいはそれを広げる一役を担った過去がある限り、それが理由である限り、男は去ることができない。
しかしそれは傲慢だ。
死者に、過ぎ去ったものに対する傲慢の罪。
そしてそれをわかっていても、どうしようもない。
それを続けていくという道を開いた以上は。
それこそ自覚していてもなんの意味もないもの。
■『室長補佐代理』 > 「ないね」
嘲笑うように、男はそれを肯定する。
そう、意味などない。
公安委員会は、『上』は……『コマ』の意など、解するわけもない。
だが、それは『上』の話だ。
男は、目を細める。
伽藍洞の黒瞳を細めて……その緑の目を覗き込む。
「俺が聞きたいだけさ。
お前はどうだかしらないが、俺はお前の事は少なくとも『悪く』は思っていない。
答えなんて、それで十分だろう」
じっとりと、男は嗤う。
同じ『コマ』でしかなかった男を……嗤う。
「あの時、俺とお前は同じだった。
『役割』はともかくとして……どちらも己の意志に従い……いいや、従ったつもりであの場に現れた。
俺は『正義の味方』だからだ。俺には、それをする理由があった。
だが、お前は……なんだ? お前は、何者のつもりで、あの場に現れた?」
ただ、その目を覗き込み。
「答えろよ。『否支中 活路』」
自嘲するように、嗤う。
■否支中 活路 > 「“お前が”か?」
名前は呼ばず、視線を外した。
少し考えるように沈黙が降り、閉じた瞳の緑光も消えた。
やがて影の中に声が戻る。
「俺はどこまでいっても――――“ゲートクラッシャー”やろうな」
お前が、全ての敵の天敵(アークエネミー・フォー・オールエネミー)であるように。
人に呼ばれた名で己を示す。
招かれざる客。
居るべきではない者。
確かにあの時男は居るべきではなかったのであり、公安委員会はそれを欲した。
居るべきではない者が居たが故、という理由のために。
そうなってしまった。
黒い瞳が開いて、唐突な言葉が続いた。
「テメェが飲み込んだクロノス――――どうなったんや?」
■『室長補佐代理』 > 「死んだよ」
淀みなく、男は答える。
屹然と。泰然と。
何の躊躇もなく。
「俺が殺した。完膚無きまでに。欠片すら残さずに」
クロノスは、己の正義をもって公安委員会に挑み……死んだ。
ならば、その結末を覆す事は赦されない。
その結末を濁す事もまた……赦されない。
「正義の対面にある正義とは何か?
それだけの話だ。なら、結末もそれに相応しいものになる。
『アイツ』も納得しての、最期だ。
正義を一度でも『騙る』なら、その覚悟は持って然るべきだ。
そういう意味じゃあ……アイツは本当に優秀な部下だったよ」
■否支中 活路 > 「欠片すら残さずに、か」
そこだけを反芻して、瞳を閉じる。
「あれの道がそれなんやったらそうなんやろ。
俺はちょっと交差路の向こうを見ただけや。
……で、テメェの聞きたいことはそれで仕舞いなんか。
俺の『意思(つもり)』も『役割(はいち)』も、そんなこたぁ、テメェにゃわかりきっとることやろうが」
余計にいるものとしての意味は終わった。
用は済んだ。
なんの意味もなく存在し、なんの意味もなく残っている。
ならばお前は何故ここに来るのかと。
「だから何の用や、『室長補佐代理』いや――――ああ、今はもう学籍簿も書き換わっとるんかな?」
あるいは今それは、誰にとっての敵なのかと。