2015/07/03 のログ
『室長補佐代理』 > 「最初にいったろう」
 
闇が、細まる。
黒瞳の奥にある闇が、じわりと、滲むように。
 
「重要案件の監視生徒に『調査部』の人間が会いに来ただけだ。
それ以上でも、それ以下でもない。今のお前に会う理由なんて……その程度だ。
『その程度の訪問』に対する答えすら俺に求めるのは……お門違いだろう?
分かりきっていることが『分かっている』なら尚更な」
 
こんなものは、事後処理でしかない。
仕事は終わった。事件は片付いた。
だから、これは伏線でもなんでもない。
だから、これは始まりでもなんでもない。
終わりですら、ない。
ただの『通常業務』という名前の『日常』で……この話すら、そのついででしかない。
 
「だから、この話はこれで終わりだ。
演目は終わり、ここは楽屋裏という名前の蛇足で、カーテンコールも侭ならない。
俺もお前も、役割はもうこの話にはないし、次の演目は既に始まっている。
なら、もうこれはそれだけの話で、『敵』も『味方』も何処にもいない」
 
踵を返し、背中を見せる。
それが理由であると、告げるかのように。。
 
「『招かれざる客』を自称するなら……お前が誰の『敵』になるのか、誰の『味方』になるのか……選ぶのはお前だ。
俺の『正義』は、以前に示した通りで、変わりは無い」

それでも、背中越し、横顔だけを覗かせて、男は問う

「なぁ、『否支中 活路』、俺は俺の正義を振りかざすためにクロノスの前にたった。
だが、お前は結局……あの時、何故…クロノスの前にたった?」

否支中 活路 > 息をひとつ吐いた。
緑色の視線が地面へ落ちる。

「なら新しい演目までお互い黙っといたらええやろ。
一般生徒ビビらせに来るほど暇なんやったらええことやがなぁ。
別に逃げもせえへんし、消えもせえへん」

今のところは。

「すべて世は事も無し、そういうことなんやろ。
それでええんやろ。
テメェが選んだ正義がそれで、俺も別に間違っとるとは思わんよ。
せやけど、空にしろしめすもんは何やろうな。
俺はただ…………押し込めたもんがはちきれる時に、また神の門は開くと思うとるだけや」

同じく背中を向けた。
大敵が言う。敵はもう何処にもいないと。
しかし今は何処にもいない敵の、前にいつか立つだろう。

「だから、そうやな、なんのため言うんは……
道のため、その先で拓けるもんのため」

クロノスの道は目の前で終わりに出会ったではないか。
だから振り返りはしなかった。

「終わりにするのは俺の仕事やないからな。次走ってくるわ」

『室長補佐代理』 > 「なら、そうするといい」

その答えに、ただ男はそう答えて、如何様にも取れる笑声を漏らした。
走るのが仕事で、破るのが己の役割というのならば、最早互いに云う事はない。
それ以上はいくら言葉を尽くしても、行動の前には意味を持たない。
 
「『箱庭』には『箱庭』の意味があり、その秩序がある。
その意をどう汲むかは、お前の『選ぶ』ことだ。
いずれにせよ、今の舞台にその答えはない。
これ以上、その意を問う意味も……最早ない」

最早、振り返ることもなく、男は去っていく。
ひらひらと、左手だけで後ろ手を振って。

「お前は逃げないし、消えないといったが……俺はそれが俺の正義に適うなら逃げるだろうし消えるだろう。
きっとそれが俺とお前の決定的な違いなんだろうな」
 
歪に輝く、銀の光を残しながら。 

「じゃあな。それでは……良い幕を」

ご案内:「破壊された祠」から『室長補佐代理』さんが去りました。
ご案内:「破壊された祠」から否支中 活路さんが去りました。