2015/10/04 のログ
ご案内:「破壊された祠」に石蒜さんが現れました。
石蒜 > 「はぁ。」もう何度目かわからないため息。
かつて鳴羅門火手怖という神が祀られていた祠で、石蒜は座り込んでいた。
家にはあまり帰る気がしないし、かといって遊ぶ場所は知らない、気付けば足がここに向いていた。

鳴羅門火手怖、それはかつての主人のことでもある。
邪仙鳴鳴、その混沌は石蒜にそう名乗った。それは混沌の顕現たる存在の無数の貌の1つに過ぎないのだが。

石蒜は鳴鳴に甘え、悪行を重ねた。鳴鳴は全てを受け入れてくれたが、それは間違った道だった。
今はもう、鳴鳴は居ない。石蒜も罪を償うつもりだ、償いきれないかもしれないが。

石蒜 > 「……鳴鳴様。」ポツリと、名前を呼ぶ。
助けて欲しい、それが今の石蒜の本心だった。親友であり、仲間であり、恋人である畝傍は、今は会えない。
千代田と人格を交代して戻れなくなってしまったらしい。

どうすればいいのだろうか。どうすれば、畝傍にまた会えるのだろう。わからない。
「……はぁ。」また、ため息が出た。

石蒜 > 家に居ると、千代田を見るたびにため息が出そうになる。同じ体だが、彼女は畝傍ではないのだ。
それはあまりにも失礼なので、家にはあまり寄り付かなくなった。家に帰るときはサヤと交代した時だ。

ここには何も無い。鳴羅門火手怖と刻まれた石も、祠の中に収められていた神像も無い。
あるのは思い出だけ。畝傍も鳴鳴も、今は会えず、思い出の中だけだ。

このまま、二度と畝傍に会えなくなったらどうしよう。そんな考えが頭をよぎる。

石蒜 > 「…畝傍、会いたいよ…。」もう畝傍が帰ってこなかったら、私はどうすればいいんだろう。
鳴鳴は消え、畝傍も会えない。前に畝傍が言っていた、自分は仲良くした相手を不幸にするのではないかと。
もしかしたら、それは私のほうなのかもしれない。私が愛した人は消える定めにあるのだろうか。

ご案内:「破壊された祠」に流布堂 乱子さんが現れました。
流布堂 乱子 > どこから入るのが正しいのか。
どこを歩けば正しいのか。

そんな道筋さえ定かで無い祠の裏手から、草を踏みしめて近づく音がした。
やがて祠の横にたどり着いた乱子は、目線の高さに合わせた懐中電灯で辺りを照らした。

「……どなたか、居らっしゃいますか。」
右に、左に、と明かりが振れる。
祠の辺りを確認し終えて、最後の最後、くるりと振り向いた乱子の目線が、
何もない祠のなかに代わりに収まっている少女を見つけ出す、だろうか。

石蒜 > 「……。」足音と光。誰かが近づいて来る。

通り過ぎて行ってくれればいい、今は誰とも会いたくない。
そう考えて、返事はしない。

だが、俯いたまま上目遣いにちらりと相手を見て、目が合ってしまっては無視を続けるわけにも行かなかった。
おまけに知り合いだ。

「何か、用ですか……。」孤独を邪魔され、恨めしげな声と目で、ここに来た理由を問う。

流布堂 乱子 > 恨みがましい目。非難がましい眼差し。
予想はついていたその仕草に、一度空を仰いで息を継いだ。
「この辺りで一人になろうとするのは、なかなか難しいと思います。
この辺りの住民も、お一人の方が多いですから。」
この異邦人街で、誰かが独りで居ようとするのを見つけられないものは少ない。
なぜならば、自分自身もかつては、あるいはいずれはそうすることを皆が知っているからだ。
「……女の子が、ふらふらと。誰も使ってないし今は何も残っていないはずの祠に向かって歩いていた、と。先ほどそう言われました。
たまたま通りがかっただけの風紀委員に押し付けて、その方は帰られましたけれど」

目線を落とす。再び視線が合う。
「……何も用がないなら、貴方も帰られたほうがよろしいと思います。
用があったところで、帰らせるようにも思いますけれど。」
言いながら、ただ祠の前に乱子は立っている。
車の下に潜り込んだ猫が出てくるのを待つような、相手の気に任せて、
その上で自分はここから退かないというような、そんな態度で。

石蒜 > 「……お節介なことですね。はぁ。」もう何度目か知れないため息。今日はとことん良くない日だ。

「家には…帰りたくないんです、少なくとも今は。」懐中電灯の光と、相手の目から逃れるように、下を向く。
「家に戻っても、居ないんです。私の……」言葉を探す。恋人であり、親友であり、仲間であり…そんな存在を現す言葉。
「私の、家族は。」

流布堂 乱子 > 「仕事のうち、ですから」
概ね割りと、自分は仕事中のような気もするけれど。
確か、この少女と初めて会った時もそうだった。
そうでない時に出会ったのは、もう一人の――
「それに、サヤさんのことも知らないわけではないですので。」
言いながら、懐中電灯をベルトに引っ掛けて。
祠の中ではなく、入り口を照らす位置に向きをセットした。
出てくればいいな、と思いながら。

「……家族、ですか」
舌の上で転がすように。その短い言葉を繰り返す。
「昔の話、ですけれど。
喧嘩して家を飛び出した覚えがあります。……常世島に来る前の話ですね」
つまり、龍になる前の話。魔法の無い世界の話。
「私の場合は、常世公園みたいな小さな公園の遊具に居ましたから。
すぐに警察の……風紀委員会のような仕事の人が来まして、
それはもう切々とお話されるものですから手を引かれて家に帰りました」
ほんの少しだけ目を閉じる。瞼の裏側で、早送りするように情景が流れていく。
「……家に着くなり、待っていた、と言われましたよ。
貴方の家は此処で、私は貴方の帰りを此処で待っていた、と」

再び開いた焦げ茶の眼差しは、特に抑揚もなく、照らされた祠の入り口を眺めている。
「……探しに来ないのか、とは思いましたけれどね。」

石蒜 > 「…コーヒー、美味しかったですね。サヤは駄目だったみたいですけど。」言われて、サヤと相手が会った時の記憶を思い出す。石蒜とサヤの味の好みは全く違う。石蒜としてはコーヒーを教えてくれて感謝したかったが、今は素直にお礼を言える気分ではなかった。

「私は…サヤもですけれど、血の繋がった人間なんか居ないんですよ。私は最近生まれた存在ですのでね……記憶は、サヤと共有してますが。」ポツリポツリと、身の上話を始める。その視線は照らされた祠の入り口の地面を見つめている。

「畝傍が、畝傍・クリスタ・ステンデル、彼女だけが私の家族なんです。でも、今は会えない。探しに来るはずもないんです、今畝傍の意識は眠ってるんです。別の人格が出てきていて、戻れなくなったみたいで。
家に帰っても、居るのは畝傍の体を入ってる別人なんです。それが余計に辛くて、でも……悪い人じゃないから、それを顔に出したら傷つけてしまうから……。今、サヤは眠ってるんです、起きたら交代して帰りますよ。それを待ってるんです。」家に帰っても畝傍はおらず、そしてその落胆を押し隠さなければならないのが、石蒜には辛かった。だから、今は帰れないのである。