2015/07/11 のログ
ご案内:「歓楽街」に亡坂 ハイヂさんが現れました。
■亡坂 ハイヂ > 早朝。低く雲が立ち込めていて、まだ昇り切らない朝焼けは目視できない。
夜の喧騒が嘘の様に静まり返っている。
辺り一体にはシャッターを落とした店、倒れて中身を散らしたゴミ箱、前夜遊び呆けた客の落としていった吐瀉物、群がる鳥、他。
「ねえイスク、ばかみたいに静かだ。…こんな時間じゃなきゃおちおち寛げもしないな。」
夏にふさわしくない厚めの服を着込んだ少年が独り言めいたつぶやきをこぼせば
その肩口の空間がゆらりとゆらめき、妖怪とも霊とも付かぬ"存在"が顔を出し、口をはさむ。
『何ダ…朝ハ我トテ眠ムリタイノダ』
時折、自転車で走り去る人を横目に、夜と違っていくらかくたびれたような、涼しく感じられるような
景観の隅に腰を下ろす。ちょうど、通り横手に位置する中華料理屋の軒先。店は閉まっている。
■亡坂 ハイヂ > 「君はやたらと眠たがりだな。睡眠が必要な肉体なんて持っていない癖に」
『種族ニ拠ル 深淵ハ眠ムリニ満チテオル我ハ深淵ヨリ沸キ出シ泡沫ナリ……』
「泡沫って、僕の何倍生きて言ってるのさ、それ。………こちとら昨日も眠れやしなかったんだ。」
脳が。脳が栄養を求めている。
息苦しい蒸した空気の中でぱくぱくと呼吸をし
背中の小さなリュックから買い溜めた羊羹を取り出して
某コンビニのシールがはられたまんま、包み紙をむいてぱくつく。
人気の無い通りは割りと広く、軽く膝を伸ばす。
その辺をマラソンしていったおじいちゃんに声をかけられてしまい、思わず下を向いた。そういう文化ないから。
■亡坂 ハイヂ > 少し場所を移動する。喉が渇き、自販機を探す。自販機があれば、緑茶のボタンを探す。
冷たい緑茶の350ml缶を拾い上げ、口を付け
「………これ、一台くらい盗んでもバチはあたらないかな。どうせ警察の目もザルだろうし。」
『其レハイカガナモノカト思ウガ。』
自販機の横手にずらーーっと並んだ自転車のはなし。
何台か、派手に倒れていて、そのままだ。
サドルが盗まれたものもある。
■亡坂 ハイヂ > 「…面倒ごとは起こしたくないが、過剰に秩序を守る気もない… 金がいるじゃないか、何をするにも、金が」
『ヒト在ルトコロ先立ツモノヨリ逃レラレヌ不便ナモノヨ』
「…異界渡りは良いが、毎回通貨が変わっていてはたまったものじゃないね」
(ぶつくさとどこか生活感のある会話を交わしつつ、つり銭をリュックのポケットに押し込む。
すすけた車止めから腰を上げ、自販機の陰に隠れるようにしながら、札入れを引っ張りぺらぺらと札束を数え)
「……こんなんじゃ足りないんだ。蠍の一撃にもならない。」
『フ… 人ノ心ヘ介入スル導入トシテ金魂ヲ用イル悪クナイナ』
ご案内:「歓楽街」に綿潟からめさんが現れました。
■綿潟からめ > 少女が一人、気温ではない部分に寒々しさのある朝の歓楽街を歩いてくる。
年のころは15、6。小柄な上にやせっぽちだが、中学か高校生だろう。
血色は悪く、くすんだ茶髪を雑に伸ばし、顔の両脇でリボンでくくっている。
無愛想な表情でざっくりとハーフパンツとパーカーを着た姿である。
彼女の名前は綿潟(めんがた)からめ、という。
淡々と彼女は歩いていたが、ふと道端の自販機に目が入った。
少しの逡巡ののち、ポケットに手を突っ込んで財布を取り出しながら自販機に近づいてきて――
「っ!」
その陰にいる少年の存在に気づき、表情と体を固めて半歩後ずさる。
■亡坂 ハイヂ > 「………動くな、ころすぞ」
低い声で。暗殺者よろしく確実な身のこなしで札束を懐に隠すと
一歩近づき姿勢を低くし、顔に似合わぬドスの聞いた声を浴びせる。それほど大きくない、どちらかといえば小さな
「…………生徒か。繁華街で子供がこんな早朝に朝帰りか。こんびにか。
今見たものは見ていませんと3回繰り返せば無かったことにしてあげるけど。」
自分もだいぶ子供であることを棚に置き
相手が人間、おそらく生徒、自分よりも年下であろう事を見留めると
詰めた距離は念のため解かず、声色をやや和らげる
■綿潟からめ > 「…………」
殺す、というあまりに直接的な脅し文句に、もともと不健康そうな顔は中性紙じみた顔色になる。
深く息を吸い――その胸の動きすら咎められるかもしれなかったが、反射的な肉体の反応は止められない――吐く。
他のからめの体は動かず、指先だって財布を開こうとする中途半端な形のままこわばっている。
そろそろと口を開いて、
「……いまみたものはみていません。いまみたものはみていません。いまみたものはみていません」
たどたどしく繰り返した。
それだけで息が詰まりそうで、また大きく呼吸する。
亡坂がからめと距離を詰めているなら、その吐息も届くかもしれない。
――からめが、己の分泌物を《麻酔薬》とする異能、《深爪》を発動し、ハイヂからからめへの敵意を麻痺させる効果を付与した吐息が。
――もっとも、人工呼吸なみの口移しではなく、まして屋外でからめの息は散るのだから、一部が届いていたとしても効果を発揮するのに3、4分は会話し続ける必要はあるはず。
■亡坂 ハイヂ > 「はい、三回。君が無力なら素直な事は命を救う。……武器でも隠していない限りは。隠していないだろうね、」
まさしくぺらっぺらの紙が張り付いたかのように引き攣った表情を、画鋲でよろしく眼鏡越しの冷たい視線でピン留めし。直後、背後でもやもやとおぼろげに歪んでいた空間から再び魔獣が顔を出し、人とも生物ともつかぬ嗄れた声を上げる。
『離レヨ ソノ者ハタダノ人間ダガ主ソノ娘ハ空気神経毒ヲ操ル毒蜥蜴ノ様フィジカル故我ニ内訳マデハ把握デキヌ直チニ離レヨ』
「…………うごくな!」
イスクから放たれた言葉を理解する前に意識で意味を解し、視線ははりつけたまま瞬時に3歩飛び下がる。
「能力者か……何をした?返答いかんによってはかわいそうだが後が無い」
先ほどよりも低く脅迫の念を込めた声色で言葉を発す。
だいぶ無実の少女はほんとうにかわいそうだったが亡坂は容赦が無かった。
『……タダノ人間ダ主ヨ早マルナ害ハ知レテイル』
見た目人間じゃない方がおびえる彼女を見かねて助け舟を出した有様。
亡坂は動きを止めたまま相手の出方を窺っている。
■綿潟からめ > 命を救う、との言葉に表情を緩めかける、が――亡坂の背後から現れたものに目を見開く。
そして、その異形の言葉に、ビクリと頬を痙攣させた。
「…………」
距離を取った亡坂から放たれる、鋭さと重さを増した警告。
言葉の切っ先を突きつけられたからめは、
「……動くなって、私はちゃんとさっきから動いてないじゃない」
ぼそぼそとした、しかし至極落ち着いた声を発する。
――今の一瞬で、自分の怯えや焦りは、唾液を呑んで《麻酔》した。
仕掛けてるということがバレてしまったなら、自分がパニックになるリスクを冒してまで怯えた様子を見せておく必要はない。
10cm強の身長差を上目遣いで見上げ、言葉を並べる。
「私の息には、相手の敵意を削ぐ毒を付与できる。
今それを使おうとしていた……けれど、十分効く前にあなたがそんなに離れちゃったからもう難しい。
後ろのその、えーと、よくわかんないけどぐにゃぐにゃしてる人、なに?
うしろの百太郎? おじいちゃん? なんでもいいけど私の心が読めるの?
読めるんだったら、私が保身を求めてるだけで、その子に対する敵意がないことは分かるでしょ?」
この発言はおおむね真実である。
からめの思考を正しく並べるこうだ。
・厄介事に巻き込まれてマジ困るんですけど。
・なんとか無事にこの場から逃げ出したい。
・必要がないなら相手をわざわざ殺したり傷つけたりしたくはないし、できる自信もない。
・《深爪》が吐息以外でも使えたり、肉体的な麻痺や自分の感情を麻痺させることも可能なのを伏せているのは、あのケモノが心を読めるならリスキーかもしれないが、奥の手は必要なはず。
・奥の手を隠しているのがバレるとしても、積極的攻撃に使う意図もないことも同時に伝わるだろうからまあ大丈夫だろう。
■亡坂 ハイヂ > 「動くのは何も肉体だけじゃない、目に見えないものは…いくらでもある。ここにはいくらでもあるんだ。」
ま、やくそくはやくそくだ、と。
なにもみなかったね?と。念押して、ちらりと自らの左肩に陣取る霊獣を見遣る。
『我イスクト名ヲ承リコノ者ト契約セシメシ者ナリ左様マインドリード我ガ能力ウシロノ百太郎トハ何カ奇怪ナアザナヨ
突如恐怖薄レタト見タリ能力依然詳細判ラヌ神経系 コノ娘ニ敵意感ジヌダガ人類トリワケ男ニ友好的デモナイオソラクサガノヨウ』
大きく裂けたワニの様な犬のような口をぱくぱくさせる。
それは同時にナキサカの警戒を解く合図でもあった。
敵意が無いことは少女が告げるのとほぼ同時に、証明されたということを意味する。
目の前の人間の言うことよりも守護霊の言う事を信用する程度の人間不信。
「………そんなものを吸ってしまったのか……幸い変化はないようだけど、自分の思考や感情を他人やら、医者やら、薬物やらで操作されるのはごめんだ…ろくなめにあったことがない。」
胸のうちがざわつくような不快感を覚えたのも数秒のこと。
はりつめていた空気がどろっと溶けると、いつのまにか路地の外では陽が上がって
明るくなっているのに気づき、あぁ、と昼間の暑さの想像から来る呻き声を上げ
先ほど突っ込んだつり銭を引っ張り、自販機に押し込んでからしれっとその前を空けて帽子を深めに被り
「…何を買いに来たか知らないけど、買うんでしょう。
……普通人に奢ったりしないよ…丁度小銭があったから。」
■綿潟からめ > 「…………」
亡坂とケモノ――イスクか――の会話を眺めている。
少年の警戒が溶けたらしいことを察知すると、からめも最低限残しておいた緊張を緩める。
だが、空けられた自販機の前には、移動せず、素っ気なく断った。
「いらない」
自分の財布をしまい、強張ってしまった指先や手首をぐるぐる回して解しながら、淡々と語る。
「『金銭的に奢ることに成功した相手を、対価として一定時間支配する能力』……を、あなたが持ってるかもしれない。
まあ違うだろうと思ってるけどさ。
あのね、あなたは、私に殺すって言ったんだよ。
あなた自身の警戒や敵意がそこそこ解けたからって、『殺し文句』を向けられた私の方まで心を開くだろっていうのはあまりに勝手じゃない?」
(私とセックスしたあと、『俺は気持ちよく射精したぞ、おまえもよかったろ』って決め付けるオッサンみたい)――とは、流石に口にしないが。
折角去りつつあるらしい危機をまた呼びもどすかもしれない暴言なので。
代わりに、もう少し付け加える。
「そもそも、開口一番殺すなんて言わなければ、私も能力を使ったりしなかった。
……これは愚痴だけど、忠告でもあるよ。
私がか弱い毒使いだからこうなってるけど、もっと凶暴な人だったら厄介だったはず。
あなたがどれくらい強いかは知らないけれど、三千世界で一番とは言い切れないでしょ」
■亡坂 ハイヂ > 「そう。僕も出したものは引っ込めない主義だから、好きにしたらいい。
金にはシビアだから…160円で、立ち話以上の人の時間を買えるなんて思わないよ。
……でも僕が君の心を開くつもりでそうしたと思ってるなら…
今までよっぽどろくな奴に出会わなかったのかな……」
ふ、と息を吐く。淡々とした会話が続く。
自分なりの、迷惑と手間を取らせたことへ対する一抹の気持ちが
受け取られても、受け取られなくても、帽子のつばをまぶかに被る行為は
その結果から目をそらすという意味合いに使われていた。
「忠告は受け取っておくけど……
一番だろうとなかろうと、絶対に生き延びなければならないから。
っていうか、もう少し強そうに見えてたら、ああいうやり方をとったりはしないよ」
しれっっと見た目でなめてかかったことを告げる。
もっとも、瞬間の判断には、培った勘と見た目で判断するしかないのだが。
霊獣がぼそり、と何かつぶやく。顔を見れば判る、僕が突っ込むようなことじゃない、と返す。
おそらく、彼女の身なりや身の上のこと。
見られてはいけないっぽいものを仕舞い込んだ厚い上着の内留めを確認しなおし
気づかれないように反対の手で帽子のつばから手を離し、自分の身体を払う。
「見てない、んだよね。ならいいんだ。僕はまだ死ねないから…」
■綿潟からめ > 「あ、そう。じゃあ次にここを通る人はただでジュース買えてラッキーね」
細い肩をすくめた。
呆れと疲れの混じった溜息ののち、左手の親指の爪をカリカリと噛んだ。
「あーはいはい、みてないみてない」
からめからすると精々財布を見てたっぽいと感じるくらいで、隠すべきものがあるのかもよく分からない。
それを見ていないよな執拗に確認され、ややうんざりした声音で返す。
それから、亡坂のここまでの全体的な態度にも、冷めた表情をちょっとだけしかめた。
「何がしたくて何を隠してるんだか知らないけど、直結で死ぬだの殺すだの、やたら思いつめて自己完結してない?
あなたが別の世界の人だとしたら、世界と世界を渡る方法は知ってるんだろうけどさ。
世渡りの方も身に付けた方がいいよ」
シャレめいた説教をして、
「じゃあね、私もう行く。
後ろから噛まないでね」
スッスッと指を振ると――挨拶のようでも、邪気払いのようでも、特に意味のない動作のようでもあり、からめ自身にもよく分からなかった――背を向けて、立ち去ろうとする。
■亡坂 ハイヂ > 「そうだね。その前に自販機が待ちくたびれて吐き出すだろうけど。」
ぐっと踵を踏み込むと、その場で回れ右をする。
表通りはぽつぽつと店が開き始めて、もう人が増えてきている。
やや眉根を寄せた怪訝そうな表情で、その雑踏を見つめ
『ナニモノガ居ルゾ知レヌ一旦戻レ』
「…わかってるよ」
午後に向かわなければならない場所はここよりもう少し危ない場所。
うんざりした表情を見せるのは、同じ学生であるにも関わらず
生きている場所と温度差と、重ねた苦労の種類の違いを感じさせる会話の内容。
予定より少し長めに取れたブレイクタイムを心のどこかで惜しみ
猫背を丸めながらのろのろと動き出す。
「…子供のくせに大人みたいな口をきくね。
僕ももう行かなきゃ。…あ。」
「…ナキサカ。僕のことだけど……
……学生なんだろ?名前見ることあったらその場離れなよ。
出会いたくないだろうから。」
一息おいて、ふと思いついたことをしゃべって――もう聞いているかは判らないが――
じゃあね、と一言残し、増え始めた人の中に早足で消えていった。
ご案内:「歓楽街」から亡坂 ハイヂさんが去りました。
■綿潟からめ > 陰気な少年が何か言っていた気がしたけれど、振り向くことはなく離れていく。
ナキサカ、という名前がかろうじて耳に引っかかるも、少なくともそれが綿潟からめのアドレス帳に登録されることはない。
カラカラの喉を《深爪》の《麻酔》で誤魔化し、足早に歓楽街を去る。
渇きを安心して癒せるには、もう少しの時間と距離が必要のようだった。
ご案内:「歓楽街」から綿潟からめさんが去りました。