2015/10/23 のログ
ヨキ > 「言っておくが、魔術学などテキストの表紙に触れたことさえないぞ。
 話のタネ程度に終わってしまうのが嫌でないなら、見てみたくはある」

(技術面はからきしなくせ、『意欲』だけはあるらしい。
 煙草を指先に弄びながら、獅南の手元を見遣って頬杖を突く)

「それはそれは……、人間は不便であることだな。獣以上に、衰えがが天敵、か。
 ふふ。勝負などせずとも、こちらは勝手に飲んでしまうのだがね」

(話の間に、ビールやらつまみやら、注文の品がぽつぽつと運ばれてくる。
 その様子を横目に、学園祭の様子を思い出すように)

「ヨキこそ、君の講義の末席を汚す訳にもいかんからな。
 お互いさま、と言ったところだろう。適材適所というやつだ。

 見どころな。勿論だとも?
 既に美術展で賞を獲った者も居れば、自主的にコンペに出したいと相談してくる者も居る。
 学生というのは、全く貪欲でよろしい……。
 来月には、島の新美術館で『異能芸術』の企画展もあるのでな。
 実力のある手合いには、そちらへの出品を薦めている」

(獅南が注文したビールを一瞥して、乾杯のためにグラスを持ち上げる)

獅南蒼二 > 運ばれて来たビールを片手に、軽く持ち上げた。
僅かに触れたグラスが心地良い音を響かせる。

「適材適所か…確かにその通りだな。
 アンタのような造形どころか、私には絵心の欠片も無い。
 だがまぁ、御望みとあらば、ひとつ、異文化交流といこうか。」

指先の炎を右手の5本指全てに延焼させてヨキの眼前へ出し
そこに左手を翳して何事か呟いた。すると小指と薬指の炎が消え失せ、代わりに術式が可視光を伴って再生された。
魔力の放出と熱や光への変換、そして指向制御がそれぞれ一連の流れとして設定され、ループしている。
と、獅南の授業を熱心に聞いた生徒になら分かるのだろうが…
…一般人の目には、ヒエログリフと甲骨文字と楔形文字とルーン文字とアラビア文字とを足して5で割ってもなんか余ってしまっているような、
そんな、どう見ても意味不明な文字綺麗な光を放って空間を彩っているだけだろう。

「なるほど、アンタのところも豊作だということか。
 魔術学においても、学ぶ意欲をもった学生は、時に我々を脅かすような発想を生み出すこともある。
 芸術の世界ではどうなんだ?アンタが脅威を感じるような芸術家は出てこないのか?」

ヨキ > (乾杯を済ませると、既に飲んでいるはずの酒を一層旨そうな顔で口にする。
 グラスを置いて背を丸め、犬がヒトの動きにつられるようにしてしげしげと獅南の手さばきを見つめる。
 浮かび上がった文字を前に、金色の瞳がきらきらと輝く。
 前もって宣言したとおりに、魔術の理屈を何ひとつ理解していない顔だ。
 ただ綺麗なものを見せてもらって喜んでいるだけ、と化している)

「……ふッ、ははは。この通り。
 君に絵心がないらしいのと同じで、ヨキにもちんぷんかんぷんだ。
 ああ、何年か前の生徒は、こんな風に魔術で作品を仕上げていたのか……と、
 似たような雰囲気を察するのが関の山さ」

(悪いな、と謝りながらも、悪びれる様子はない。
 自分で注文した煮物やら素揚げやらが運ばれてくると、さっそく箸を取った。
 つやつやの里芋を、大きな口に頬張る)

「脅威ね。脅威ばかりさ。
 芸術においては何を日進月歩とするか定かでないが……
 生徒のアイディアは、いつでもヨキの思いもよらないことばかりだ。
 その発想に、新しい手わざがどんどんついてくる。いつだって驚かされているとも」

(目を伏せ、微笑んで首を振る。
 教え子を脅威と呼ぶ割に、そうして上達してゆくことが幸福であるかのように)

獅南蒼二 > 右手をくるりと回せば、炎も空中の文字も全てがふっと消え失せる。
僅かに空中に残った魔力が空間をぼんやりと光らせるが、それも数秒で失せるだろう。

「魔術学を芸術に応用するという考え方をしたことは無かったが…
 …必要性があるかどうかはさておき、応用することは可能だろう。
 尤も、先ほどのライターの例と同じで、先人たちによって齎された道具を使った方が楽な場合も多いが。」

いつでも教えてやるぞ?などと肩を竦めて笑う。
こちらはこちらでピクルスを齧ったり、ナッツを頬張ったりしているが…酒の進みは早くない。
のんびりとビールを1杯飲み干して、2杯目を注文した。

「芸術ほど価値基準の分からんものも珍しい。
 だが、確かに価値があるというのだろうという確信めいた感情も生じる…不思議なものだ。
 ハハハハ、やはりどこも同じようなものか。
 生憎私も魔術の才能には恵まれなかったようでな…誇れるものといえば書物の知識だけ。

 だが、私の志を継いでくれるような魔術師が1人でも育ってくれれば…
 …性にも合わんこの仕事をしている甲斐があるというものだ。」

楽しげに笑い、僅かに目を細めてヨキを見た。

魔術学という大きな力によるこの世界の秩序の再構築。
ヨキの理想とする融和や共存とは相容れぬ自らの理想。

互いの教え子たちはどう成長し、どう世界に関わり、どのような世界を作り上げていくのか。

ヨキ > (消えゆく光の文字に、音を出さず拍手するジェスチャ。
 いつでも教える、という言葉には、今のヨキのツラを見ていたろう、などと笑い返した)

「まあな。必要性を問われれば……そもそも芸術なるものからして、ヒトが生きる上には何ら必要のないものだ。
 芸術に関わることのない君が、こうして一端の大人をやっているようにな。
 ……魔術を用いた、さまざまな光を扱う金属のランプだった。
 発光ダイオードなどと比べてやるのは、野暮というものだな」

(笑って、相手に合わせたペースで酒を飲む。二杯目には、ハイボールを注文した。
 『もーらい』と向かいの小皿へ箸を伸ばしてナッツを拾い上げ、ぱくりと頬張る)

「生きる上で不要とされながら、それでいて生き残ってきたのが芸術だ。
 教師が『教える』などというのも……まったく傲慢な話さ。
 ヨキが教えているのは、単なる技術に過ぎない。芽吹かせるのは、みな生徒の役目よ」

(獅南の言葉を聞きながら、共感するように目を細める)

「知識を抱えて独りくたばるような――君がつまらぬ男でなくて安心している。

 …………。
 獅南、そうとまで君を駆り立てるものはいったい何だ。
 異能者を排し、魔術を究めんとするその切っ掛けは?」

獅南蒼二 > 「ほぉ、魔術そのものを表現に使ったか…確かに理論上はどんな色のどんな光でも生み出せる。
 効率はどうあれ、素材としては面白いかも知れんな。
 ……とは言え、絵の具であっても混ぜればありとあらゆる色を生み出せるのだろうが。」
目新しさ、というのも価値の一端ではあるのだろうが…と、苦笑する。
己のイメージする芸術やヨキの語る芸術と魔術学は、どうにも隔たりがあるように感じたのだろう。
言いつつ、等価交換とばかり、素揚げを一つ摘まんだ。

「アンタがそれを理解しているのなら、アンタは優秀な美術教師なのだろうさ。
 私の担当する退屈な魔術学の授業とは違う。
 ……尤も、魔術学は芸術と違って、あくまでも目的を達するための手段に過ぎない。
 そういう意味では、アンタは私より大きなものに関わっているとも言えるな。」

2杯目のビールを、今度は…半分ほど残っていたが…一気に飲み干した。
特に酔いが回った様子も無いが、次の頼んだのはウィスキーのロック。

「さて、何が切っ掛けだったか…
 …トラウマになるような事件があったような気もするし、別段大きな理由も無かったかも知れん。
 これを飲み干せば思い出すかも知れんが、私の過去を語るなら……」

もう一度、グラスを軽く掲げて

「……アンタの過去も、聞かせてもらいたいものだな?」

ヨキ > 「魔力を持たぬ者でも扱えるように……人の指紋をスイッチに使った、と。
 指紋で認証するコンピュータと同じで、この紋様にも式があるのだと言っていた。
 絵具の色など、確かに幾億ものグラデーションを織り成すものだが――いやはや。
 魔術師というものは、その色彩を随分とシステマチックに作り上げるものだと感心したよ」

(ヨキには到底遠い世界だ、と、眉を下げて笑う。
 互いの皿を摘まんだのを皮切りに、卓上の料理を満遍なく味わい始める)

「なに。研鑽に大小も、貴賤もあるものか。
 ひとりの人間に、すべてを知り得ることなど出来ん。
 だからこうして――ヨキは異なる分野をよく知る者と語り合うのが好きだ。
 知らぬことを知るたび、視野が広がってゆくような気がしている」

(獅南が二杯目を飲み干すのを見ながら、ほお、と声を上げる。
 のんびりとハイボールを飲みながら、その話に耳を傾ける)

「……ふ。どうやら互いに、酔いが足りんようだな」

(ハイボールの数口を残したうちに、店員を呼びつける。
 彼と同じのを、と、ウィスキーを注文して)

「喜んで。……ヨキは嘘を吐かぬゆえ、安心して聞くがよい」

獅南蒼二 > 「魔術師と言っても様々だ…感覚的に、それこそ絵を描くように術式をくみ上げる者も居る。
 だが、どうやら、その生徒は魔術学的な理解が深いようだな。
 それでいて芸術的な感性も持ち合わせているとは、逸材かも知れん。」

足りなくなりそうだ。などと肩を竦めて笑いながら、
灰皿の上で殆ど灰になってしまった煙草の火を消した。

「奇遇だな、私も嘘は苦手だ。
 質問したのはアンタが先だったな…アンタの質問に答えよう。
 長い話だ…眠くなったら言ってくれ。」

ウィスキーを口に含み…香りを味わうように、ゆっくりと飲み下す。
それから、グラスをテーブルに置いて、

「私の両親は無尽蔵の魔力をもつ優秀な魔術師で、魔術学者。
 だから、不幸にも物心ついた頃から私の人生は魔術学一色だった。
 毎日のように研究所に連れ込まれ、読み書きと同時に魔術言語に触れさせられたものだ、拷問のようだろう?
 だが…私は両親の才能を受け継がなかった。
 私の両親はやがて私に期待するのをやめ、私の弟に期待をかけた。」
 
「私の弟も、無尽蔵の魔力を持っていた。“普通の人間”ではありえない事だ。
 やがて、両親も弟も、私の意見などには耳も貸さなくなった。
 私がどれほど努力しようと、どれほどの知識を蓄えようと、それは変わらなかった。」

「術式構成の欠陥から弟が魔力を暴走させ、両親共々私の目の前で消滅した、その日まで。」

そこまで語ってから、グラスのウィスキーを飲み干した。

「察しのとおり…私の両親も、弟も異能者だ。
 努力に拠らず異能によって得た魔力に慢心するあまり、私の弟と両親は死んだ。
 そして異能という、凡人にはどうすることもできない理不尽な力の前に、生半可な努力は無価値同然だと知らしめられた。」

「だが、それを止めることが出来なかったのは…私が無力だったからだ。
 嘗ての私が異能を羨むばかりで、魔術学を究めんとすることを怠っていたからだ。
 私は欠陥を見抜いていた…だが、それを再構成することも、発動を止めることも、当時の私にはできなかった。
 ……だが、今の私にはそれができる。
 如何なる“差”をも超越することができる。それこそが魔術学だ。」

「……私は異能者を憎んでいるわけではない。
 だが、凡人の前に立ちはだかる理不尽な力を、私は憎んでいる。
 それを打ち破るために、すべての凡人が努力によって力を得るために、私は先達を務めようと思う。」

そこまで語ってから…小さく息を吐いた。
「さて、獅南学概論は以上だ。次はヨキ史の授業を履修したいのだが?」

ヨキ > (『君を早くに知っていれば、引き合わせたかったが』。煙草を深く吸い、煙を呑む。
 『長い話』と称された語りの伴とするように、二本指に挟んだまま聞き入る)

「………………、」

(見も知らぬ獅南の家族。
 言葉の端にその面影を見出そうとするかのように、陰の落ちる相手の目元を真っ直ぐに見ている。

 望まずと得る異能と――避けられたはずの事故と。
 この多種多様の人間が集う学園にあって、とりわけ禁欲的なまでの姿勢を見せる獅南蒼二の、いわば根幹。
 唇を覆うように煙草を口へ運び、しばし目を伏せる。
 睫毛の陰で、金の瞳がテーブルを見る……灰を灰皿の中へ落とし、火を消す)

「……聞かせてくれて、有難う。それが――獅南、君の原動力なのだな。
 ヨキは君の考えに異を唱えることも、『説得』などと大それたことを言いだすつもりもない」

(渇いた喉に、ウィスキーを一口。酒気の熱が通り過ぎる)

「『意欲のある者には』、教えてやるさ。いくらでもな。
 ……くれぐれも、突飛と笑ってくれるな」

(小さく笑う。石を削り出したような、白い牙の並ぶ口)

「ヨキは……元々、犬であった。『ヨキ』という名前すらなかった。
 芸術はおろか、言葉も、ヒトの手足も持たぬ、文字通りの犬だ。

 ……ある時代にはカミと呼ばれ、ある時代には忘れられた。
 精霊。魔物。犬神。妖怪。お化け。……今にして思えば、さまざまに呼ばれたものであったよ」

(その話は、まるで御伽噺めく。それでいてひどく真面目な顔をして、言葉を続ける)

「ヨキの棲む山に祈れば、田が富むとも、恨みを人に代わって晴らすとも言われた。
 その実――人里の営みに関わったことなど、一度もなかったが。
 ヨキは本当に……文字通りの意味で、その山に暮らしていた『だけ』だった」

(思い出すように、獅南の肩越しに何もない壁を見る)

「……ある時代になって、とつぜん山に人が入ってきた。
 その頃――ヨキは『邪霊』と呼ばれていたらしい。『里に旱魃を齎す邪霊』を、調伏すべしと。
 ……もっと早くに気づいていればよかった。山の木々が、早々に枯れてゆくことに」

(そこで一度、言葉を切る。半眼での、視線だけで獅南を見遣る)

「ヨキの話は、君の知識欲を充たすに足るか?」

獅南蒼二 > 「だろうな…アンタと私はどうにも相容れんだろうが、信頼はしているよ。
 そうでなければ、こんな笑えもしない話など聞かせはしない。」
ククク、と楽しげに笑って、2本目の煙草に火をつけた。
元より、ヨキが人外の存在であることは明白であり、今更何をか言わんやである。
獅南は表情一つ変えずにヨキの過去を聞き……そしてそれを、自分でも驚くほど素直に受け入れていた。

ヨキが視線をこちらから外せば、小さく頷いて紫煙を燻らせる。
果てしない時間を生きてきたのか…いや、生き物と呼べるかどうかも分からない、生きてきたという言葉を使うのは語弊がある。
その過去に、様々な社会の在り様の中に居たのだろう相手の歴史を思い…かつてヨキの言葉の中に“人の歴史”を語る言葉があったことを思い出していた。

「概ね満たされた…ただ、1つだけ聞きたい。」

瞳を閉じて…煙草を灰皿に押し付ける。
空になったグラスを弄び、解けた氷の、僅かにウィスキーの香りを残す冷水を飲み干して……その視線を、見つめ返し

「その“邪霊”は如何にして“人間”の姿形を得たのだ?」

ヨキ > 「ふ。信頼か。切った張ったを匂わせながらに……つくづく妙な間柄だ、我々は」

(煙草を放した四本指の手のひらへ視線を落とす。
 はじめからその形に生まれついた、異形の手。
 獅南の魔法を一心に見つめていた眼差しの輝きは今やなく、店の控えめな灯りが作る陰の中で、仄かに光っている。
 相手から向けられた問いに、んん、と、頷くような、呻くような、曖昧な声)

「…………。ヨキを討たんとする人びとを導いていたのは、ひとりの男だった。
 その扇動が正しかったかどうか、今となっては知る術もないが。

 ヨキは――追い詰められたのだ。その男に。
 どれほどの時間をやり合ったかは判らない。

 ……ヨキの身体は、腹から裂かれた。
 引き換えに、ヨキはその男を――頭から呑んだ」

(瞬く。目を上げる。獅南の目を見返す。
 若い青年の顔。年寄りじみた男の語り口)

「……理屈などない。
 気付いたときには……その男と、犬の交じり合った姿に成り果てていた」

(人の頭。犬の瞳。犬の牙。人の鼻、人の輪郭、人の手足。犬の耳。犬の瞬き……
 ヨキの姿を前にして不自然さを催すパーツは、いくらでもあった)

「『ヨキ』とは――斧のことだ。
 犬の営みには、決して関わることのない器物。
 その名を与えられたことによって……ヨキは呪われた。
 ものを言葉によって考え、言葉を発さざるを得ないヒトの姿に」

獅南蒼二 > 「理屈など無い…か。
 まったく、これだから異能者だの人外だのは嫌いなんだ。」

ヨキの言葉に同情することも無く、しかし、それを嫌悪することもない。
その言葉はただただ、素直な感想として、苦笑交じりで語られた。
だが、少なくとも、ヨキというこの不可解な存在を、一部ではあるが理解するに至ったのも事実だった。
…獣人として見ていたヨキの、犬を起源とするのだろう部分が、より際立って見えるような気がする。

「で、アンタは“斧”を使わない日々に戻りたいのか?
 それとも、私と同じように…“斧”の使い方を究めるつもりなのか?」

問いかけつつ、テーブルの上に、2人分の代金を置いて、静かに立ち上がった。
いや、それでも少し余るかも知れない。
それだけ、ヨキの話が興味深いものであり、楽しい時間だったということか。

「前者なら、この学園祭が終わり次第私が手を下してやろう。
 後者なのだとしたら…アンタが“斧”から解放されるか、私が“魔術学”から解放されるか、どちらか片方しか実現できんだろうな。」

ヨキ > (際立って人外性を示す犬の耳が、ゆらりと揺れる。
 テーブルへ置かれた金には何も言わず、獅南からの問いにただ笑う)

「何を今更。言葉も、手わざも、今やヨキにとって心の臓に等しいものだ。

 退路は断たれた。
 この姿で目覚めて、『空が暗い』と言葉で感じ取ったときに――
 とうに喪われているのだ。真に獣であった頃のヨキは」

(相手を見上げて、小さく首を振る)

「言えんよ。今のヨキは――獣とも、ヒトとも。『そのどちらでもある』、としかな。
 だから……この在りようが、所詮はヒトの紛い物に過ぎんことも、よく知っている。
 討てばいい。君がヨキを『邪霊』だと感じた、そのときに」

(別れの言葉を告げようとして、言葉を切った)

「……だが獅南、ひとつだけ教えてくれるか。
 命を乞うつもりも、君を絆すつもりもない。ただ知りたい。

 ヒトと共に在らんと、この手が創り出す芸術を知りたいと――
 そう思ってきたこのヨキは、君にとって尚『慢心する異能者』に過ぎんか?」

(薄らと笑んで、手のひらをぱたりとテーブルの上に落とす。
 若い顔に似つかず乾いて荒れた肌――異能に依らず、手ずから道具を握ってきた手)

獅南蒼二 > 「さて、アンタは元より慢心する異能者ではないかも知れん。
 私にとってアンタは憎むべき敵ではなく…信頼すべき友かも知れん。」

ククク、と楽しそうに笑う。
“ヨキ”はもはや“ヨキ”でしかなく、邪霊でも、邪霊に呑まれた哀れな人間でもない。
それを理解してなお、獅南は…

「だが…我々は相容れないだろう、アンタの理想が変わらん限り、私の理想が変わらん限り。」

…己の言葉を変えることは無かった。
だが、あくまでもそれは“理想”が相容れぬというだけの話。

ヨキという人物を憎むことはなく…好意的に受け止めている自分さえいることに気付いた。
少なくとも、今この瞬間、自分の知る“ヨキ”は“邪霊”であるようには思えない。

「また会おう…気が向いたら今度は、私から誘わせてもらうよ。
 次は…そうだな、アンタを討つ口実になりそうな話でも聞ければ、うれしいんだがな?」

冗談じみた言葉と共に軽く手を振って、男は酒場を出て行った。
言葉の何処にも嘘は無い……つくづく、妙な間柄だと、思う。

ご案内:「酒場「崑崙」」から獅南蒼二さんが去りました。
ヨキ > (獅南の答えを、じっと聞く。
 今や彼の背後にあるのは、茫洋とした暗がりばかりではない。
 理想が相容れぬという関係のかたちが、確かな輪郭で以って根付いたような感覚さえある。
 揺らぐことのない答えに――不敵に笑い返す)

「…………、そうか。有難う。ヨキがこの道を進むべきほかにないのと同じように……
 我々の信念が揺らぐことのない限りは、この間柄も変わらんということだな」

(その言葉と笑みには、安堵さえ含まれているように見えた。
 手を振り返す。その背を見送る)

「ああ。次は……ヨキが君に馳走する番だ。
 どれだけ話を聞き出したとて、『口実』に使えるかは判らんが……

 精々気を付けるがいい。『信頼すべき友』の言葉に――酔い潰されんように」

(先の獅南の言葉を借りて嘯く。
 独りテーブルに残ったのち、しばし目を伏せて物思いに耽ったのち――
 席を立つ。獅南が出した金を支払って、自分もまた店を出てゆく)

ご案内:「酒場「崑崙」」からヨキさんが去りました。