2016/05/14 のログ
ご案内:「酒場「崑崙」」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > よい研究は常に解決した問題より多くの問題提示を行うものである。
過去の研究者の中で、そう言ったのはどこの誰だっただろうか。
この魔術学教師の研究もまた、その誰かの言葉を借りるのなら、
間違いなく「よい研究」であることだろう。
異能を超越し排斥すべく進めた研究は、ついに実用段階の手前まで漕ぎ付けた。
魔力を生成し、万人が扱えるエネルギーへと転じさせようという壮大な研究である。
だが、その研究の中で、最も効率よく大量の魔力を生成することに成功した実験は、
まさにその排斥すべき異能者である女生徒の協力を得て行った実験に他ならなかった。
つまり、異能を否定しながらも、異能によって最も大きな恩恵を受けてしまったのである。
世界というものは殊に、皮肉なものだ。
■獅南蒼二 > 結果的に獅南は一時的にその研究を凍結した。
とは言え、ある一定の成果を上げたのも事実であったから、一概にそれが失敗であるとは言いきれない。
ただ、異能者と協力する以上に“低コストで効率よく魔力を生成する”ことはできそうになかった。
少なくとも、獅南1人だけの頭脳では、これが一つの終着点であった。
それ故に、昨今の彼は徒に術式の構成力を昇華し、生成・貯蔵された大容量魔力を出力する術式構成の研究に傾倒しつつあった。
そしてそれと時を同じくして、この酒場に足を運ぶ機会も増えていった。
■獅南蒼二 > ボトルキープしたウィスキーと、ナッツ。
それからスモークチーズの小さな盛り合わせ。
たったそれだけだが、こうして酒を傾ける時間は決して悪くないものだった。
「……こういうのを、堕落というのだろうな。」
人間としてはむしろ本来的な姿を回復したに過ぎないのだが、
本人はそれを前向きに受け止められるほど達観してはいないようだった。
■獅南蒼二 > 酒が思考を加速させ、同時に鈍らせる。
その中で研究のアイディアが浮かぶことは非常にまれである。
コンディションの良い状態で浮かばぬアイディアが、鈍った頭に湧くはずもない。
常に走り続け、休むということさえ知らなかったこの男が、こうして静かに時間を過ごしている。
今の彼は、多くの生徒に信頼され、同時に彼らの先達として情熱を注いだ1人の中年教師でしかない。
酒の助けを借りずともそうあれたのなら、いっそ幸福だったのだろうか。
■獅南蒼二 > 魔術学を極限まで昇華することにより,異能を排斥する。
その目論見が間違っていたとは思いたくない。
事実、かつて科学が民間の信仰や伝承を排斥していったように、
同様の変革を魔術学によって引き起こすことは可能だっただろう。
だが、魔術学と異能学が融合することによって人類が更なる高みへと至るとすれば、
異能を排斥する目論見は崩れ、魔術学と異能学は互いにかけがえのない両翼となる。
それは歓迎すべきことではない。
■獅南蒼二 > 世界の発展のために、と言われれば、この研究はまさに躍進を齎すものだ。
だが、それはこの男の望むところではない。
「…………………。」
異能との融和を推し進めた偉大な魔術学者として名を残すか。
自らの信念に殉じて異能と戦い、歴史を逆行させた大罪人となるか。
二つの選択肢があり、世界にとって善と悪が明確であったとしても、
誰もが前者を選択できるわけではないのだ。
■獅南蒼二 > ウィスキーを飲み干し、無意味な思考もそのまま飲み下した。
貨幣をカウンターの上に置いて、静かに立ち上がる。
ご案内:「酒場「崑崙」」から獅南蒼二さんが去りました。