2016/07/02 のログ
紫刃来十 > 感触を確かめるように、拳を握ったり開いたりを繰り返しながら
歓楽街を歩く。

「あの筋肉達磨…」

以前虞淵との交戦の際、片手を負傷した紫刃だが、その後しばらく治療に専念し
ようやく怪我も完全に治り、再び金を稼ぐ活動を再開したのだった。

紫刃来十 > 「しかし、稼がなきゃならん俺が金使ってたらなんの意味もねえな…」

今月分の病院の支払い、余裕はあるとはいったが
怪我でしばらく何の収入もなく、それどころか治療費で金を使ってしまったのは大分痛かった。

「…何とかして早いとこ稼がねえとな」

以前のような薄暗い仕事をこなす事も視野に入れながら、どうしたものかと思案に耽りながら
歓楽街をふらふらと歩いて回っていた。

ご案内:「歓楽街」にメルル博士さんが現れました。
紫刃来十 > 以前の押し入りの事を思い出す。
あの時潰した部活の部員達は部長含め全員行方不明
『商品』の女達も相当過酷な労働を強いられてるらしいと、風の噂で耳にした。

そして、あの時戦った3人組…うち2人の男は今も病院のベッドの上
残る一人の女も男達に比べればましとはいえ、相当ひどい怪我を負ったらしい

「…ま、俺には関係のない話だな」

誰ともなく、誤魔化すかのように呟く。
目的のない散策は、歓楽街のあちこち、時には普段人の立ち入らない場所にも
足を運んだりしながら、考え事をしている。

メルル博士 > 『稼がねえとな』
その言葉に、来十の傍らにメルル博士がひょっこりと現れる。

「そんなあなたに、良い収入源を用意しますよ。
 給料は高くでます」

無感情にそんな事を言うメルル博士。
あやしげな勧誘にも見えなくはない。

紫刃来十 > 声をかけられ、そちらに視線を向ければ。そこには白衣姿の少女。

「…誰だお前」

全く面識のない人物からの、しかも道端で突然の勧誘ともなれば
流石に金に困っているとはいえ警戒はする。

「一応話は聞くけどよ、内容次第じゃ断るぞ。」

とはいえ、金が要るのも事実、とりあえず話を聞くだけはすることにしたようだ。

メルル博士 > 「自己紹介が遅れてしまい、失礼しました。
 メルル博士と申します。科学者で、天才です」
高収入なあやしげともとれる勧誘、警戒されて普通だろう。

「ありがとうございます。
 簡潔に言いますと、仕事内容は実験体……あるいはあなたの異能データ採取です。
 実験体と言っても、危険な事は行いません。
 少し、お薬を飲んでもらうだけのものですよ」
無表情で淡々と述べていく。
異能データの採取というが、来十に異能がない事は初対面のメルル博士に知る由もない。
「実験体、異能データ採取。
 どちらか片方だけでも引き受けてくれれば報酬は弾みますが、両方受けてくれるならそれだけ給料は高くします」

紫刃来十 > 「お茶を飲むってだけなら…って言いたいとこだが…あー、悪いがそれじゃあ力にはなれねえな」
内容だけ聞けば魅力的だが、男にはその実験には付き合えない理由があった。

「俺、異能とかいう超能力?みたいなの持ってないんだわ。いわゆる無能力者って奴。
俺の力は完全に魔術だけだから多分あんたのご要望には添えないと思うぜ。」
男は異能というものを一切持たない、持っているのは己がひたすら鍛え続けた
魔術と格闘技を合わせた、魔道格闘技とも言える技術のみ。

「ってわけで、その実験は残念だが参加できねえんだわ、それだけが用事なら他当たった方がいいぜ」

メルル博士 > 「そうですか。
 それなら、丁度いいですね」
来十に異能がなかったのは知らなかった事だが、全く想定できなかったという事でもない。

「異能データの採取は出来そうにありませんが、実験体の方ならば問題ありません。
 飲むものはお茶ではなく、お薬という事になってしまいますが」
そう言いながら、メルル博士は契約書を取り出して彼に見せる。
もし飲んだ薬に被験者が何らかの不利益が生じた場合、メルル博士がその全責任を負うというもの。
風紀委員のサインもあるので、法的に認められているものであると言える。

紫刃来十 > 取り出された書類には、確かに風紀委員のサインがある。
勿論サインそのものが偽造されている可能性は考えられなくもないが
そこは疑い出したらきりがない。
何より、金は多いに越したことはない。

「言っておくが払わなかったらガキだろうと容赦しねえからな。
…あと、できればその薬を飲むとどうなるのか教えてくれるとありがたいんだが」

流石に赤の他人から渡された薬を、何も聞かないまま飲むほどの度胸は柴刃にはなかった。

メルル博士 > 「もちろん、実験内容も合わせて説明させていただきます。
 こちらには、薬が被験者にどのような効力を齎すか説明する義務があります」
表情を変えずに、淡々と説明を始める。

「これは、『例え異能が扱えない者でも、いかなる人間でも異能を発現する可能性が僅かながらでも残されているのか?』といった実験になります。
 今のところ、否定的な意見が有力でしょう。異能の発現が見込めない者は、異能を得る事ができない。
 しかし、もし誰もが異能を習得できるようになれば、それは魅力的な事だとメルル博士は考えています」
と、軽く実験内容を被験者となる来十に説明してから、契約書を彼に差し出す。

「そこであなたに飲んでもらう薬というのは、異能を持たざる者でもその力の開花を促進させるためのものです。
 異能が発現したとしても、この薬では一時的な習得で終えてしまい、すぐに忘れてしまうでしょう。
 ですが、その人が異能を開花させる可能性があるという事を説明できます。
 あるいは、飲む人によっては全く効力がないものとなるかもしれません。
 もし薬に何の効果がなくても、報酬自体はお支払しますのでご安心ください」
飲む人次第では、薬の効力が全く発現しない上にすぐ胃の中で消化されて無意味になってしまうかもしれない。
だが、だからこそ安全な薬と言える。
ここまで説明して、メルル博士はもう一度来十に問う。

「お引き受けしてくれますか?」

紫刃来十 > 「要は異能を持ってない奴に異能を持たせられるかの実験ってわけか。」

何の努力もせず他人から貰った力に意味やありがたみ等あるのかとは思うが
それはともかくとして、聞いた範囲では余程自身にとって不都合な異能でも引き当てない限り
自身には損はない、また、あったとしても一時的なら相当危険でない限りは許容範囲の内だ。

「まあ、賭けっちゃ賭けだが…薬飲むだけで金がもらえるなら安いもんだ。
いいぜ、引き受けてやるよ。」

多少の不安は拭えないが、金の誘惑には勝てなかったのか同意する。

メルル博士 > 来十が短く分かりやすく纏めてくれたので、メルル博士は首肯する。

「ありがとうございます。
 これはついで程度で構いませんが、もし薬を飲んだ時に何らかの異能が開花したのであれば、その後はすぐに忘れてしまいますが、
 その後に再びその異能の習得を希望するのであれば、よろしければでいいのでメルル博士に協力させてください」
そう言いながら、メルル博士は来十の手首を掴もうとする。

「それではこちらです」
人がいる往来でやる実験でもないので、ひとまず人気のない路地裏に移動しようとする。
そして、メルル博士は数錠のカプセル剤が入った袋をポケットから取り出す。
「これがあなたに飲んでもらう薬です」
袋から一錠取り出して、それを来十に差し出そうとする。

「もし異能が発現するとして、どのようなものなのかはあなた次第です。
 異能が発現すれば少し違和感を覚えるかもしれませんが、すぐ慣れるでしょう。
 何も起こらない場合は、本当に何も起こりません」
どのような結果になってしまうのか。
異能が発現する時間は長くて三分といったところだろう。

紫刃来十 > 子供に路地裏に引き込まれる様子ははっきり言って金で「買った」と言われても言い訳のできない
大分アレな絵面であった。

知り合いに見られていないのを祈りつつ場所を移動し、渡された薬をしげしげと見つめる。

「さて、どうなることやら…」

渡された薬を飲み、効果の発言を待つ。
正直異能というものについては、発言しなかった事もあり特に興味はなかった。
が、仮に自身にもそうしたものがあるというのなら、どのような力が自分の内にあるのか
興味はあった。…が

「…ん~、特に変わった様子はねえな。」

メルルの言っていた違和感も特になく、何かしら特殊な力が発現した感覚もない。
試しに魔力で微弱な電流を作り、操作してみるが魔力の方にもこれといった変化がない。

「どうやら、俺は外れだったみたいだな。」

若干残念な気持ちがないといえば噓になるが
さしてショックを受けた様子もなく、あっけらかんとした様子で答える。

メルル博士 > どちらかと言えば、メルル博士の方が金で「買った」と言える状況かもしれない。

薬を飲んだ来十に特に変わった変化はないようだ。
どうやら、異能の発現は起きなかったらしい。
無論、あの薬は魔力や魔術に関与するものではないので、魔力に変化があるはずもない。
「変化はありませんか。
 あなたにはこの薬の効力がないのか、あるいはやはり『異能を習得できない者はずっと異能を扱えない』とする説が正しいのかもしれません」
メルル博士は特にがっかりとした様子もなく、むしろ結果がどうであれ実験で真理に近く事が出たので喜ばしくすらあった。

「ご協力感謝いたします。
 メルル博士にとっては、良き参考データを手に入れる事ができました」
無表情ながら、被験者となってくれた来十にお礼の言葉を述べる。

そして、メルル博士は白衣のポケットから封筒を取り出して来十に差し出す。
中身は、札束である。
「こちらが約束の報酬です。ご確認ください」
ちなみに、報酬はメルル博士の研究費から出ている。
というより、メルル博士は自身の給料を減らしてそれを研究費にあててるので、研究機関自体には予算がある程度あってもメルル博士自身はプライベートで使えるお金に乏しかったりはする。

「あなたは、どちらかと言えば魔術の方が得意とするのでしょうか?」
きょとんと首を傾げる。
魔術は専門外なのである程度しか分からないが、気になったので率直に問うてみる。
異能と魔術の関係というのも、結構興味深いものだ。

紫刃来十 > 「悪いな嬢ちゃん、どうやら俺にそっち方面の才能はないらしい。」

言いつつ、メルルの懐から取り出された封筒を手に取り、念のため中を確認する…
が、想像以上の報酬だったのか、喜ぶ反面、後でなにやらまずい副作用が出るのでは
という不安が同時に脳裏を横切る。

「…変な副作用とかねえよな、あれ。」

一人聞こえない位の小声で呟やく紫刃、とはいえひとまず目の前の少女を信用するしか
ないので、そのあたりは副作用がないことを祈るしかない。

「…ん?得意っつうか、見ての通り異能を持ってないんでね。俺にあるのはそれだけだ。
まあ魔術っつっても、魔術と格闘技を合わせた、普通の魔術師から見たら
大分邪道なもんだけど。」
特に隠す必要もないので、自身の学んだ魔術と格闘技の合わさった魔道格闘技とでもいうべき
それの事、神殺七式、鳴神流神殺式と呼ばれる自身の流派について簡単に説明する。

あっさりと語ったのは目の前の人物が異能の研究家であり、ばらした所で
不利益はないと判断したからというのもあった。

メルル博士 > 「お気になさらず。
 メルル博士とすれば、この実験で得られた参考データに大きな意味があります。
 お支払した報酬は、あなたがその参考データを売ったと考えてくれて構いません。
 ここは歓楽街ですので、カジノなどですぐ吸ってしまわぬようお気を付けください」
最後のは、余計な気づかいだろう。

来十が不安を小声で呟くその言葉は、メルル博士の耳には入らない。
ちなみに、薬には得に害のある副作用はない。
特に害があるわけではないこの薬を開発した時には『やはりメルル博士は天才ですね』と豪語しつつ、第一の被験者として自分で飲んだぐらいである。
その結果がどんなものであったかは、メルル博士のみが知る。

「つまりは、魔術も含めて戦闘に特化しているという事でしょうか。
 戦闘する事も考慮するならば格闘技と組み合わせる事は合理的とおも思えますが、どうして普通の魔術師からすれば邪道に見えるのでしょうか……。
 魔術師の矜持のようなものと解釈してもよろしいのでしょうか」
無論、メルル博士は魔術師ではなくて科学者なので、普通の魔術師の価値観はない。
戦闘するならば、魔術と格闘術を組み合わせるのは至極理にかなったものとしか思わない。

「なるほど……。雷の魔術と格闘術を組み合わせるのですね。
 雷速の戦技、それに雷の威力まで加われば鬼に金棒とも言えそうです。
 鳴神流神殺式……魔術の流派というのも興味深いですね」
そうは言ってもメルル博士の専門は異能で、魔術を研究する術はほぼ持たない。
 専門外とは言ってもさすがに無知という程ではないが。

紫刃来十 > 「ま、そんなとこだわな、俺もそのあたりはあんまり詳しいわけじゃないが
どこにでもいるだろ、これはこうじゃないといけないっていう、厄介なタイプの原理主義者っつうか。
そういう奴らから見ると、魔術と何かを混ぜるっていうのは魔術への冒涜とか何か
そんなんになるんだと。」

余り興味がないのか、そのあたりについてはあっさりとした説明で済ませる。

「まあ言っちまえば完全戦闘用だな、それも異能者や神だの悪魔だのに対抗するための
結構大層なモンらしいが、そのあたりは俺もよく覚えてねえ。
おいおい、随分ほめてくれるな。そう言って貰えるのは嬉しいけどよ。」
実際のところ相性や短所がないわけではないが、それは流石に伝えて口外されると
まずいので黙っておく。

「さて、そんじゃそろそろ俺は行くわ。ああ、その辺は心配しなくても
大丈夫だぜ、臨時収入あんがとよー。」

そうして背を向けたまま、片手をひらひらと振りながら男は去っていった。

ご案内:「歓楽街」から紫刃来十さんが去りました。
メルル博士 > 「原理主義者……いますね、科学や異能の世界でも──」
魔術師達が何かに拘る事自体は否定しない。メルル博士自身、魔術師の世界は分からないので彼等の感覚を理解する事も避難する事もない。
矜持からくるメリットもあるだろう。
だが、凝り固まった思考は柔軟さに欠けており、そういった意味では常に柔軟に物事を追求するメルル博士とは相反する。

「戦士として頼もしい存在ですね。
 そうなると──次にあなたを雇う事があるとすれば、危険区域を探索しなければいけない時の用心棒としてですね。
 いえ、メルル博士なりの評価です。
 魔術に関しては素人なので、正当な評価を下す事はできませんが──」
メルル博士からすれば褒めたつもりはなく、評価を下しただけなのである。

「はい。さようなら。
 こちらこそ、実験の協力ありがとうございました」
メルル博士は去っていく来十に軽く一礼した後、いつもの無表情で彼を見送り、その後帰路につくのであった。

ご案内:「歓楽街」からメルル博士さんが去りました。
ご案内:「歓楽街」に鎖ヶ原アストラさんが現れました。
ご案内:「歓楽街」に鬼灯 怜奈さんが現れました。
鎖ヶ原アストラ > 土曜日の昼下がり。放課後も放課後、学生の本分は遊ぶこと。
部員と連れ立って来るのはやっぱり

「ゲームセンター・アラウンドティーン」
「ここは、そんなにガチじゃないギアドライバーが集まると聞いたからね!きっとアーケード初心者のボクでもほら、勝てるかなって!でもまずは見に徹しようかな…!」
家庭用勢ならではの小心さを見せつけるのは鎖ヶ原アストラ。
TG部の部長である。

鬼灯 怜奈 > 「延々ソロだけやってた変態の方が、ふつーはおっかねーよ……。」

常世の夏定番アイテム、≪ゴリゴリ君スイカ味≫を齧りながら後ろをついていく。
少しいけばギャラリー用の大型モニターに、現在の試合状況が映し出されていた。
遠目からでも激しい爆破エフェクトが目立つ。
「……おー。」
「やってるやってる。」

鎖ヶ原アストラ > 「いやーでもやっぱり生は違った。生のギアドライバーはすごい…」
レイナは道中でコンビニに寄った時にめざとくアイスを買っていたのか。確かにこの熱気なら欲しくなる。
置いてある。なんか丸い棒状の自販機でアイスが。
「…ちいさくない、これ…」まんまとミルク・バーを買って、戻ってきてから言った。
早速「見」がどこかへいっていた。

ご案内:「歓楽街」にインフラブラックさんが現れました。
ご案内:「歓楽街」からインフラブラックさんが去りました。
ご案内:「歓楽街」にインフラブラックさんが現れました。
鬼灯 怜奈 > 「うわー、その手のアイス買う奴はじめて見た。」

自分はと言えばしゃくしゃくと食べ進め、残った棒をゴミ箱に放り込む。

「ンなことよりもう始まってんぞって。ほら。」

鎖ヶ原アストラ > 「この期に及んでさらに1/3くらいプラスチックの…棒…!」
誇らしげに筐体に2/3アイスクリームと書かれていたのはこれのことか。
外の世界は怖い。
早速カモられた。

が、量が少ないとはいえアイスはアイス。甘さに立ち直る部長。
「落ち込んではいられない…そう、ボクは部長だから えっどれどれー」

インフラブラック > ゲームセンターに入ってくる、黒い衣に身を包んだ少年。
闇に歩を進めるかの如きゆったりとした足取りでタイタニックギアの筐体へと進んでいく。

「フッ……死と羽ば立つ闇…今日という日に、帳が落ちる前に…」

一人、そう呟く。
認証を済ませて、ゲームを始める。

画面に浮き上がる漆黒の機体。
少年の暗色の瞳がモニターの照り返しを受けて鈍く輝く。

鬼灯 怜奈 > 「もう終わったよ!」
「次の試合が始まるトコなんだけ……ど……。」

なんだアイツ? と不思議そうな顔で少年の背中を見送った。

「(あいつもギアドライバーなのか……?)」

ゲームスタートの合図を受けて、各機一斉にステージに躍り出した。
デザートフィールドの2on2。巻き上がる砂塵が、カメラの視界を荒に刻む。

鎖ヶ原アストラ > 「ふーん、1ゲームを短く切る設定もあるんだな…」
「なんだ怜奈君、男子を目で追ったりして 始まるぞ」
今度は気を取られた怜奈に言い返してやってどやっとした顔。

インフラブラック > ゲームが始まる前に機体の通信機を再現したマイクをONにする。
基本的にマナーさえ守っていれば何を言ってもいい場。
だが、彼は。

「新せり……墓標の輩(ともがら)よ、新たなる戦いの地平を前に君は何を成す」

これを言われた灰色の機体の友軍機、ディグミーノーグレイブのプレイヤーが声を上げる。

『は?』

そして出撃前のカウントが始まる。
10、9、8、

「我が名はインフラブラック、新たなる地平を前に、軍場の咆哮は途切り」
またしても不気味な低い声がゲームセンターに響く。

3、2、1……

弾かれるように前に出る少年の機体、画面に映し出される名前は『カレイドスコープ・シャドウ』。
梅雨時に詰襟を着ている彼同様、漆黒の軽量機。

戦場の中央まで、彼の機体だけがどんどん加速していく。

鎖ヶ原アストラ > そしてゲームの開幕。
真っ黒な機体が砂漠ステージにあまりにも目立つ。
だが。だがそんなことより。

「?」
何を言っているのだろう。全くわからない。外国語かな?
「インフラ…ブラック!」名前だけはわかる!わかるが!
部長はこんらんしている!

時間は止まらない。少年の対面の敵の片割れ、「修道源改」が突出したカレイドスコープシャドウにナパームショットガンを斉射。

インフラブラック > ナパームショットガンが破滅の暴風を放射状に放つ。
それをブーストを噴かせて回避、右腕の腕部装甲が展開して中から出てきたエネルギーランチャーを撃つ。
光状が伸びて修道源改に突き刺さる。

しかしライトボディの内臓武器、決して一撃で相手を撃破できる威力はない。

「砂原の地に災厄は待ち降りる。壊れた時……人…夢…」

バリトンの声がゲームセンターに鳴り響く。

そして着地の瞬間、ステージ中央にある数少ない障害物の巨岩の傍に降り立った。
敵の攻撃がしづらい位置を取る。

ようやく仲間であるディグミーノーグレイブが戦場となっているMAP中央にやってくる。

『援護します、あと先行しないでくださいね』

2on2である。唯一の仲間に冷静に窘められるが、インフラブラックを名乗る少年はこう返す。

「氷の心を前に闇に瞬く死神が……悔いる暇こそあれ」

重量級であるディグミーノーグレイブが、両肩のヘヴィーカノンを連射しながら仕方なく追従する。

鬼灯 怜奈 > 「あいつ劇団員か何かか……? 病気だぞ病気。きっと頭のだいぶ重いヤツだ。」

とは言うものの、動きに関しては目を見張るものがあった。
切り返しの挙動の巧さは、少なくともアストラや怜奈よりも上。
高速戦仕様のライトボディが、鮮やかに砂上を舞う。

「ごちゃごちゃ煩い。」
「壊れろ。」

フィールドが青光りに包まれたと思いきや、収束した粒子が一息に巨岩を消し炭にする。
シルバー基調のカラーリングに砲撃戦用のフルボディ。
修道源改の相棒、サラのアンドロメダが、背に負ったフォトンランチャーを撃ち出したのだ。
その威力凄まじく、画面の判定端までのオブジェクトが影響を受けたようだ。

「こちらアンドロメダ。リチャージまであと20秒。」

か細い女の声が静かに響く。
怜奈たちの傍にいたギャラリーもにわかに沸き立った。

「うわー……何あれ。あんな武器もあンの? ずるくない?」

大きく口を開けながら、怜奈はあっけにとられていた。

鎖ヶ原アストラ > 「…」修道源改のギアドライバー・道々修は寡黙な男。
フォトンランチャーの効果である「整地」技能が砲射線上の砂地をガラスのハーフパイプに変えたのだ。
即座にその足場を掴んで、ダッシュローラーを唸らせる。

「怜奈君、フフフあれはね、ver.4.87、5.66と二度の弱体化を受けてなおあれで…見た感じ、最新版でも同様のようだね」どうでも良い薀蓄が始まった!
「とにかくあの外国人?のひと? 結構ピンチじゃないか?」
機動力を上げた源改がナックルダスターでインフラブラックの間合いに入る!

インフラブラック > フォトンランチャーを寸前で回避する。
接地している時間は最小限に、という軽量機のセオリー通りでもあり、黒き獣の本能による回避でもある。

「忌むべき光子の奔流、だが漆黒たる私のカレイドスコープ・シャドウを塗り潰すには遠い」

その声に騒然となる店内。
なんだあれは。という意味合いを多分に含んで。

ディグミーノーグレイブが実弾砲撃を雨霰のようにアンドロメダに向けて射出するも、有効打は与えられずにいた。

『二機の攻撃がそちらに集中していますが、どうしますか?』
「フッ………祈りの奇があるままに」
『………はぁ…?』

困惑するディグミーノーグレイブのプレイヤーを置き去りにして、フォトンランチャーの射線状に着地する。
そして襲い掛かる修道源改に、折り畳み式のプラズマスピアを展開して迎撃にかかる。

整地された場所をダッシュローラーで走る修道源改と、同等の速度を見せるカレイドスコープ・シャドウ。
まともに斬りあいをすれば2合で撃墜される。
だから。

「……舞え、連ね鏡が抱く影よ」

相手の攻撃を完全に読んだヒット&アウェイ。
修道源改の攻撃を寸前で回避して、自分の攻撃だけ当てる影舞。
プラズマスピアが連続で相手を切り刻む。

『………!』

修道源改が撃破され、その場に蹲りながら小規模な爆発を繰り返す。

「砂原を舞い、影を踊り、闇を食み、光は潰える」

エネルギーランチャーを連射しながらアンドロメダを牽制、追い込まれた彼女の機体はディグミーノーグレイブの火砲にさらされて大破した。

ゲーム終了。
涼やかな顔で厚着の少年は筐体を降りる。

「フッ………月影よ、私の身を焦がせ…」

鬼灯 怜奈 > 「はー。アッサリ勝っちまいやがった。」
「部長、勧誘行け勧誘。変な奴相手には変な奴だよ。」

言外に「アタシはパス」と固辞してアストラの背中を押す。

鎖ヶ原アストラ > 「ええー?でもボク外国語は…」
だが、確かに凄いバトルであった。
勝手に突っ込んだとはいえ、ほぼ1VS2の状況からひっくり返す操縦技術。
抜群の反射神経。
ええい、やってみなければわからない。こないだはそれで負けてしまったけれど…などとぐるぐる考える内に、少年の前へ。

「に、にーはお ボクはTG部の部長、鎖ヶ原アストラ。キミ、良い身体…腕…をしているね、TG部には、はいらない?うぉんとゆー?」
といったことをボディランゲージを交えて。デカい。圧倒的にデカい部長が。

インフラブラック > 身振り手振りを交えたアストラの言葉。

「フッ………」

漆黒の髪をかきあげて、少年は笑う。

「いつかの声が遠く聞こえるかのようだ……私の名はインフラブラック」
「災禍の客人(まれびと)として、その誘いに応じよう」
「フッ……全ては夢にたゆたうままに」

黒衣の少年は梅雨時の雲の下へ、ゲームセンターから戻っていく。
後日、提出された入部手続きにはこう書いてあった。

常世学園2年 金田洋平……と。

ご案内:「歓楽街」からインフラブラックさんが去りました。
鎖ヶ原アストラ > (通じた!という確信を持って、浮かれ顔で怜奈のもとにもどっていったという。後日めっちゃ喜んだ。)
鬼灯 怜奈 > 「えっ……会話判定成功した……?」

一連の流れに引きながら、とりあえず部員が増えたことは喜ばしい。

入部後の初邂逅は戦々恐々だったものの、自分のひとつ下ということに気付いてからは、それはもう大きい顔で接するようになったという。

つづく。

ご案内:「歓楽街」から鬼灯 怜奈さんが去りました。
ご案内:「歓楽街」から鎖ヶ原アストラさんが去りました。