2016/11/05 のログ
■シング・ダングルベール > 「へー、タイタニックギア。アレだろ、ロボットに乗れるやつ。」
■フィリップ「知ってる知ってる! うちにもあるよ! 超つえーんだぜ、俺!」
タイタニックギア。世界的に人気のあるロボットアクションゲーム。
コクピット型の筐体に乗り込む臨場感と、自分好みのパーツで自分のユニットをカスタマイズすることができるのが特徴だ。
だがこの島では、"異能の有無で差が出にくい"というのも、人気の支える側面の一つ。
~5分後~
誰か見張りに立った方が良いと話していた二人の意見は、「一緒に遊ぶ!」と子供ならではの力技により粉砕された。
三人はそれぞれ、別の筐体で一緒に遊ぶことになった。
「coop……協力モードか。なるほど。」
シングの前に広がるモニターには、機体のシルエットが表示されたかと思えば様々なインジケータが目まぐるしく踊り、色とりどりの武器が羅列された。
流石にフリープレイ。ことこまかな選択はできないものの、ある程度の選択肢はあるようだ。
「うわあ、これ見てるだけでも楽しいな! どれ選んでもいいのか?
どうする大河パパ! バズーカ持って行ってもいい!?」
■フィリップ「シングは子供だなー。早くしなよー俺待ってるんだぜー!」
■大河 > 「次パパって言ったら手前のその顔ぶん殴るからな、異能で。」
別々の筐体に詰められるのは依頼の関係上大分まずいが
聞かなければそれはそれで面倒なので、しぶしぶ従う。
「どーすっかね…」
とりあえず、自身の戦闘スタイルに近い、両の手で戦うタイプの
無骨な格好の機体を選択する。
「さて、他の奴らはどんなの選んでるんだか」
さっさと決めたため、残りの者達が選ぶのを待っている。
■シング・ダングルベール > 「あいあい、お待たせしました! それじゃあ3、2、1……。」
コールにあわせて画面に流れるカウントダウン。
シート越しの振動が、両手に握られたレバーに伝わり全身を隈なく震わせる。
まるで酩酊。本番は、ここからであるが。
「いっけえええッッ!」
無骨な二脚の機体が廃墟に躍り出た。
さらに先、先導するのは身軽な軽量二脚。両腕は無手。しかしよく見れば、それぞれエネルギーブレード発生装置を装備している。
出迎えた浮遊ドローンがレンズ越しにこちらを見やるも、備え付けの機銃が機能を全うする前に、次々に両断されてゆく。
軽やかにビルの残骸を蹴り付け、宙に翻ると自由落下でまた一振り。
瞬く間に6体のドローンを斬り捨てた。
■フィリップ「ほらな! かっけーだろ!?」
「お、おお……!」
思わず10近くも年下の少年に、感嘆の声を漏らす。
そんなシングが放ったバズーカの命中結果はあまり芳しいものではなかった。
とはいえ、動きの鈍い大型砲台をひとつ粉砕。
スコアの加算が画面に映る。
「……お、大河! そっちに二機、なにかわかんないけど来るぞ!」
■大河 > 「ああ!?くっそ、どう動かせばいいのかまったくわかんねーぞこれ…」
華麗な動きを見せるフィリップと、ひとまずは動かせているシングとは違い
こちらはまるで立って歩く事を覚えたばかりの子供のように、ぎこちない動きを見せる。
そうこうしている間にも2体の敵が機体を囲み、攻撃を開始する。
「くっそが、ぜんっぜん動かし方が、掴め、ねえ!」
初心者が良くやる適当にボタンやレバーをガチャガチャ動かしての大暴れ。
ただ、武器が少なく、機動性もそこまでない分機体の性能が高いのか
適当なガチャ押しで暴れる腕に偶々ヒットした敵機体が、一撃でかなりのダメージを受けている。
「おい!これこっから出て直接ぶったおしたりできねえのか!?」
イラついた様子で、男が筐体の外に聞こえるぐらいの声で叫ぶ。
■シング・ダングルベール > 「いや無理だって! っていうかそれもうストリートファイトだろ?!
っていうか不器用すぎだろ呪い人形みたいで気味悪いぞ!!」
こちらもわからないなりの操作であるが、ある程度は操って見せるだけの器用さはあった。
しかし実のところ、二人揃ってフィリップの手慣れた操作技術の前では稚児に等しいものである。
横合いから飛びつき一撃で斬り潰し、残すは最後の一体。
しかしここで異変が起きる。
急にフィリップ機の動きが止まった。
「……おい。 どうした?」
AIは攻撃を止めないが、フィリップ機は動かない。
「おい! 何があった!? 待ってろ、今行く!」
筐体をこじ開けて飛び出した。
フィリップがいたはずの筐体には誰もいない。
モニターは真っ黒。切断されたケーブルからは火花が散る。
明らかに狙い済ました手口。シングは、苛立たし気に拳を叩き付ける。
「やられた……ッッ!」
■大河 > シングの声が聞こえるや、さっきまで騒いでいた男が筐体を異能で蹴り開け、飛び出してくる。
「ったく、だから反対だったんだよ…!!
おい、止まったのが攫われた瞬間だったなら、まだそこまで遠くはいってねえだろ
追うぞ!
おら、へこんでる暇があったらとっととあのガキ捕まえた連中をぶっ飛ばすんだよ!!」
檄を飛ばしながら、攫った者達を探す、何人であれ、子供連れならば学生がメインの常世島
それも特に学生が多いこのような施設では、相当目立つはずだ。
■シング・ダングルベール > 大河の言うことはもっともだ。
その長身で見回せば、明らかに人の流れが澱んでいる一角があった。
床に伏している警備員。割れたゲーム筐体。
■男性客「今、男の子が二人組に……!」
「ありがとうッ!」
弾けた栗のように、店の外へと飛び出していく。
見上げれば月明りと、それを受けて地面に大きな影を落とす輸送ヘリ。
バリバリと唸りをあげて、ぐんぐんと夜空へ浮かび上がる。
遠方にかすかに見える、フィリップの表情はとても怯えたものだった。
声など聞こえるはずもない。しかし唇は確かに二人に伝えていた。
「たすけて」と。
■大河 > シングを追う様についていった男もまた、同じようにその場面に遭遇する。
「ち、用意のいい奴らだな…!!おい自称魔法使い!
何かあれ捕まえる魔法とかねえのかよ!ワープしたりとかよ!」
そうこう行っている間にも、彼我の距離の差はどんどん離れて。
気に入らない子供ではあったが、あのような表情を向けられたのを見捨てたとあっては
流石に寝覚めが悪い。
「くそ!!」
異能の装甲を両足に纏った男が、両足に力をこめる。
案がなければ即座にでも飛び出すだろう。
ご案内:「歓楽街」に大河さんが現れました。
■シング・ダングルベール > 「そんな便利なものがあるものかよ。
魔法っていうのは数学と同じだ。算式で表せない解なんて不条理だ。
……ああいや、OK。任せろ。ワープじゃないが、今思いついた……!
けどね、いいか泣くなよ。多分無茶苦茶怖いぞ!お化けの群れを3乗にするよりも、ずっとだッ!」
~輸送ヘリ内部~
内部は雑居ビルの会議室ほどに広く、資材コンテナなどが乱雑に転がっている。
そこに荒縄で捕縛したフィリップを転がして、どかりと座り込む男が二人。
裏社会に精通した人間ならば聞き馴染みもあるだろう。鬼島兄弟の名を。
暴力で落第街の一角を牛耳り、汚染されていない繁華街エリアにもその毒牙を伸ばそうとしていたことを。
しかし彼らはつい先日、非合法な薬物取引の容疑で取り押さえられ、拘留中のはずであった。
では何故この場にいるのか。何故フィリップを攫ったのか。
■豪気「おう兄者、こうも上手くゆくとはな! これならアッサリと島の外へと出れそうだ。」
■烈士「カカカカ! これでこの掃き溜めみてえな島とオサラバできる!
あとはこのガキを引き渡せば……。
……っ!? なんだあっ!?」
大きな衝撃の後、急激に姿勢を維持できなくなる輸送ヘリ。まるで巨大なシェイカーと化す。
中身はカクテルでなく、人間が乗っているのだが。
■ヘリパイロット「ダメだこのままじゃ落ちる! くそっ!」
慌てふためくその姿をあざ笑うように、輸送ヘリの上部はバターのように裂かれ空が覗く。
まるで鋭利な刃で両断されたかのように。
飛び込んでくる異形の影。強靭な装甲に包まれた男の姿が2つ。
「叶えにきたよ、その願い。『たすけて』ってのをッ!」
■フィリップ「シング……か!?」
無言で頷いて握る長剣を振れば、フィリップを拘束していた荒縄は両断された。
■烈士「てめえ……! 返せ、クソッ!
畜生……! こっちはヘリだぞ! 空でも飛んできたってのかあ!!」
「ああ。岩に乗り、氷でレールを作って……突風を背にな。
震えたよ……でも正直、この子が受けた恐怖よりも遥かにマシだ。」
上空300m以上の高高度、一つ間違えばそのままひき肉と化してもおかしくない。
しかし彼らはやって来た。各々の理由を胸に秘めて。
「そっちは任せた。恐らくどっちも相当な手練れだろうが、大丈夫。大丈夫だ。
心配なんかしちゃいない。」
一触即発の気配。鬼島兄弟も、それぞれ異形の姿へと変貌した。
対し長剣を翻す。背中越しの気配は、強かに熱を帯びている。
■大河 > 「あいよぉ!」
シングの背後には、既に己が異能で四肢を装甲で鎧った男が、二人の異形の片割れと対峙している。
「こちとら慣れない子守だのクソゲーだの、ガキ狙った人攫いだのでいい加減ぶち切れてんだ…」
その顔が、凶悪に歪む。
「俺等に喧嘩売った覚悟はできてんだろうなあ…?」
豪気「黙れやこの雑魚共が!ただの強化能力者が俺に勝てるとでも、思ってんのかよ!!」
異形の片割れが負けじと叫ぶと同時に、サイズの肥大化した異形の腕で、全力のストレートを放つ。
だが、男もまた、それに合わせる様に装甲を纏った拳を放つ!
サイズの上では圧倒的に負けているはずのそれは、しかし
ぶつかり合った瞬間、異形の腕に亀裂を走らせ、原形を留めないほど破壊し、弾き返す。
豪気「そ、んな、バカな…」
うろたえる異形、痛みより先に警戒心から身構えるも、時既に遅く
「いいから黙って」
四肢を黄金の装甲で鎧った男が、再び拳を握り
「くたばりやがれぇぇええええええ!!!!!」
その拳を身構えた異形に遠慮なく振り抜く!
極大の衝撃と轟音と共に異形の片割れは、ヘリの壁をぶち抜き
島の半分を飛行し、ついには常世島の外の海まで吹き飛ぶと
そのまま落下し、派手な音を立てて海へとダイブする。
烈士「お、弟よぉぉお!!?」
慌てる異形が外を覗けば、そこには海月のように海を漂う異形の姿。
烈士「お、おのれぇ!!よくも弟を…!!」
怒りに燃える異形が、シングとフィリップの方へ走り寄る。
だが、今男が開けた風穴のせいで、機体は完全にコントロールを失っている。
このような状態で構えてる方と駆け寄るほう、どちらが有利か等、言うまでもないだろう。
■シング・ダングルベール > 「肉親への想いがあるんだ、それを他者にも広げれば、こんなことせず済んだだろ!」
■烈士「俺の想いは俺だけのモンだ。てめえが勝手に語ることかっ!」
幅広の湾曲した蛮刀を振り被り、肥大した外骨格のまま烈士は襲い掛かる。
痛烈な一撃は乗用車程度なら容易く砕いたはずだろう。
堅牢なシングの外骨格だって例外じゃあない。
もし、その刃が届いていたら。
「語らなきゃ、間違いだって正せやしないだろッ! それをわかれッ!!」
蛮刀は根から両断され、刃は墓標めいて外壁に突き立った。
烈士に続く二の撃を防ぐ手立てはなく、首筋にぴたりと剣が這う。
■烈士「そうか……剣(つるぎ)の魔法使いってのか。てめえが。
それがわかってりゃよ……クソッタレ。化け物二匹もいりゃあ、こんな仕事受けねえよっ!
……があっ!!?」
剣身から迸る電流が、烈士の意識を瞬時に奪い去った。
膝から崩れ落ち、意識を失うと同時に人としての姿も取り戻す。
残り立つは二人の男。シングと大河。
「……。
……化け物ね。」
■大河 > 「何しょぼくれてんだよ、異能もねえ奴からすりゃ俺等みんな化け物だ。
今更気にする事でもねえだろ…それより」
コントロールを失った機体は、そうしている間にもどんどん地上へと落下していく。
機体の構造上垂直に落下しないのは幸運だが、このままでは
ヘリの落下とその後の爆発に直で巻き込まれる事になる。
無論、その落下先にいる者達も。
「…ちっ、あんまりやりたくねえんだけど、な!」
男の異能が、装甲が全身を纏う、それは彼の異能の全力形態
「おい、ちょっとそいつ等ふっとばねえように支えてろ!」
言うが早いか、自身は光の軌跡を残し、宙を慣性を無視したありえない起動で移動、ヘリの側面に。
「そぉ、らぁ!!」
そしてヘリの側面を蹴り飛ばすと同時に再度光の軌跡を残す超高速移動。
人気のない、森の開けた場所へめがけ蹴り飛ばしたヘリを
一足先に着地した己自身でキャッチし、地面へと乱暴に降ろす。
荒業だが、あの状態から見事に一人の支社も怪我人も出さずに着地させる事に成功したのは
偏にこの男の異能の力故だろう。だが…
「…ぐ、はぁっ!!はぁ、はぁ…」
全てが終わり、異能を解いた瞬間、滝のような汗を流し、その場に蹲る。
その力の代償が、どれほど体力の消費させるかは、男の状態を見れば明らかだ。
とはいえ、トラブル自体は無事解決したといって過言はないだろう。
ご案内:「歓楽街」から大河さんが去りました。
■シング・ダングルベール > ~後日~
拘束された鬼島兄弟は、再び風紀委員の管理下に置かれることになった。
脱走経路については不明。何者かの関与が強く疑われているようだけど、それが誰かはわからない。
本来どっちも変身能力なんて持ってなかったって聞くし、終わってみれば謎だらけ。
まだ何も終わっちゃいないとも言えるけど、その考えは少しばかり悲しすぎる。
それに、嬉しいこともあった。
危うく外交問題にまで発展しかけた今回の事件も、フィリップの口添えでなんとか大事にならなかったんだ。
それどころか「また来るね!」なんて言い残して親父さんに連れられていったけど、大河の心労を考えると返す笑みも複雑になった。
今回はなんとか完遂できたけど、次はどんな案件がやってくるのだろうか。
部長曰く「気が狂いそうになるほどスタックしてる。」と嘆いていた。
人員の増強が急務なのか? スカウトなんてしたことはないが?
それはまた次回のお話だ!
ご案内:「歓楽街」からシング・ダングルベールさんが去りました。