2016/11/08 のログ
ご案内:「歓楽街」に濡鼠さんが現れました。
濡鼠 >  
「そら君達。お話をしよう」
 
 歓楽街。皆が集まるその一角。
 僅か路地から突き出した、歓楽街のその片隅。
 路地裏口の片隅に、ぶかぶかのコートを纏った……いや、コートを被った一人のせむしが現れる。
 

濡鼠 >  
「今日は楽しい紙芝居。楽しい楽しい祭りの席に、あわせた噺がたんとある。
 さぁ、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。
 お代は見てのお帰りだよ」
 
 せむしは目深にフードを被り、その相貌は伺えない。
 その手は短く突き出され、手に手に持った拍子木で、カンカンカンと音を鳴らす。
 

濡鼠 >  
「集まる衆には感謝を込めて、この粉菓子を贈呈しよう。
 さぁさ、是非とも手に取ってくれ。全く自慢の舶来品だよ」
 
 せむしは気安く、袋を配る。
 洒落た花形粉菓子入りの、小さな小さな紙袋。
 集まる衆に、気安く配る。
 

濡鼠 >  
 しかし、配ったその先で、人並み押され、転んだ男子が呻きを上げる。
  
「おお、おお、これはいけない。よくないなぁ、それ君。具合は如何であろう?」
 
 それ見たせむしは手を差し伸べ、転んだ男子は謝辞述べる。
 しかし、せむしは、それよりも、強か打った男子の膝。
 視線を注ぐその先は、転んで擦り剥き、朱が滴る。
 
「いけない、いけない。全くよくない。
 この祭事の巷。痛みを抱えちゃ形無しだ。どれ、見せてごらん」
 
 屈んだせむしは傷を診て、小さく小さく息を吐く。
 

濡鼠 >  
「全くこれは、痛いだろうに。そら、塗薬と、コイツは絆創膏だ。
 ここに痛み止めもある。これを飲んだら、そこにお座り」
 
 転んだ男子は遠慮をするが、せむしは小さく笑って囁く。
 
「なぁに、親切だけじゃあない。客を一人確保したまで。
 これから始まるお噺を、どうか君も聞いておくれよ。
 そら、こっちの御菓子。当方自慢の舶来品も、是非とも一口食べておくれ」
 

濡鼠 >  
「それできっと……痛みも全く治まるだろうさ。それこそ、きっと忘れるほどに」
 
 せむしは笑って袋を渡し、拍子木片手に央に戻る。
  
「さぁ、ゆっくり噺を楽しんどくれ。今日の噺はほら、こちら――」
 
 せむしはゆったり手を仰ぎ、しかるに取りだす紙芝居。
 始まり、終わるその時に、再び振舞う舶来品。
 
 それを皆々手に取った時。既にその身は、何処にあるか。
 

ご案内:「歓楽街」から濡鼠さんが去りました。