2017/01/14 のログ
ご案内:「歓楽街」に谷蜂檻葉さんが現れました。
■谷蜂檻葉 > ―――歓楽街の夜は、昼よりも明るい。
どこか詩的な表現だが、ソレ以上に事実を指し示した言葉だ。
人工的な明かりに照らされた夜の歓楽街は人通りを影一つなく照らし、眩く彩りを添えている。
その光が濃い分だけ、そこから逸れた路地裏は深い闇に包まれるのだが、
そこに落ちるのは相当に不幸な人間か、類まれなる道楽者だ。
ギラギラとした古びたネオンの看板の下を潜って今また一人、道楽者が闇に足を踏み出した。
■谷蜂檻葉 > 鼻を突くような、人の生み出す匂いの渦から抜け出して檻葉は軽く手でコートを払う。
ぽん、ぽん。とホコリを払うような動作でコートを叩けば、
宙を漂う脂や、レトロな煙の香りに満ちた空間を抜けた事を感じさせない清涼な「匂い」を身にまとう。
そのまま スン と少し鼻を鳴らして洗浄が終わったことを確認すると、
僅かに出していただけの間にもかじかみそうなほど冷えた手の中に息をそっと吹き込んだ。
着込んだ服で空気がこもり、少しばかり眼鏡が白く曇ったが仕方がないと再び歩き出す。
■谷蜂檻葉 > 暗闇はいっそ幻想的なほどに物質を闇色に隠し、ただ薄明かりの中で見える汚れた床を浮き彫りにしていた。
「――――………」
カチ、とポケットに仕舞う前の手で携帯を取り出すと2,3操作する。
そこに映し出される硝子に反射する青白い俯瞰地図を眺めて暫く迷っていたようだが、やがて彼女は歩みを再開した。
■谷蜂檻葉 > やがて
「……ここだ。」
彼女は辿り着く。
闇に浮かぶ小路の果て、歓楽街から離れてしまった落第街の淵。
知る人ぞ知る。 その名は掲げて『極楽浄土』。 そう、それこそは――――
■谷蜂檻葉 > 『らっしゃい!』
「昇天ラーメン中一つお願いしまーす」
『ハァイ!昇天イチぃー! 水→オモチシマスノデ↑開いてる席→オネガイシマース↓!』
――――個人経営のラーメン屋である。
何故こんな所に構えているのか謎。
何故にそんな屋号にしたのかも謎。
店主のめっちゃ厳つい入れ墨も謎。
謎の多い、けれど美味しいラーメン屋である。
谷蜂檻葉はこう語る。
「冬のラーメンはね……言葉に尽くせない『幸福』に満ちているの。」
ともあれ、彼女はコアな人気のせいで人が中途半端に入っている店内カウンターの一角に腰を下ろした。
誰が来ても可笑しくはない相席の妙に、幾らかの恐怖と幾らかの期待を込めながら。
■谷蜂檻葉 > ……とはいえ、そう考えている内には来ないもの。
期待とは得てして不発であり、望外の喜びにこそ人は印象を覚え「奇跡は在る」と謡うのだ。
世には『当然』しか無いと言うのに。
閑話休題。
『ハァイ↑オ↑待ち→ドウ↓様デシタァー↑!昇天ラーメンでーす!』
彼女に元に濃密かつ濃厚な味の泉、白濁したスープとそこに浮かぶ絹のような麺。
それを彩る百花繚乱に咲き誇る、単体ですら完成した味わい深い数々の具が囲んでいる。
「……いただきます。」
まずはその湯気を鼻で吸い、口で食べ。
予感を味わい意気込み新たに食前の言葉を一つ。
蓮華を手に取り、早速スープを一啜り。
■谷蜂檻葉 > それから先は、あっと言う間だった。
味わっていたはずだった。
その都度、何かを感じていたはずだった。
しかしそれが幾度も重なっていけば膨張した思考がオーバーフロー -0に還る- するのもまた道理だ。
ただそこには、『美味しいラーメンを食べた』という結果だけが残っていた。
「――――ご馳走様でした。」
■谷蜂檻葉 > 『アリァトーッザイマシタァー!!』
景気のいい声をバックに、また暗がりの道を戻る。
期待で膨らませていた胸は萎み、ソレ以上に満足で膨らんだお腹を抱えて帰路へつく。
「……ああ、美味しかった……。」
言葉にしてみれば、たった一言。
満腹で鈍化した頭ではそれが精一杯で、最大級の賛辞だった。
ご案内:「歓楽街」から谷蜂檻葉さんが去りました。