2018/08/15 のログ
ご案内:「歓楽街」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 > 眠らない街、歓楽街。
夏休みを迎えた生徒達は、財布の中身を重くしてこの街を訪れ、軽くして立ち去って行く。
今の時間は尤も華やかなりし時間。酒を嗜める者達は2軒目の店を探して大通りを闊歩し、酒を飲めぬ生徒達は帰宅の途につく為に各々バスやタクシー等の交通機関に列を成す。
そんな歓楽街のとある大通り。
主に成人向けのバーや不健全な店が立ち並び、多くの人が行き交うその場所で、ぽっかりと空いたスポットがある。
蟻の行列が障害物を避けている様な有様。そのスポットの中心部には【私は不機嫌です】というオーラを周囲に放っている少年の姿があった。
多少厳しい軍服に似た制服を身に纏い風紀委員の腕章を身に着けてはいるものの、小柄で線の細い少年を此処まで避ける様な繊細な街では無い。
にも関わらず綺麗に人の波が避けているのは、その表情と雰囲気がこれでもかとばかりに刺々しいものだから―かもしれない。
「……命令しておいて『あれは流石にやり過ぎ』とはどういう了見だ。気乗りしない任務を押し付けた挙げ句、勝手に気分を害して任務変更とは良い度胸をしているじゃないか」
つまるところ、先日のアンデッド退治でドン引きされた挙げ句、こうやって夏休みの夜回り任務に回されてしまったのだ。
別に戦闘が好きな訳では無いが、浮かれて騒ぐ雑踏の中に放り込まれるのは苦痛以外の何物でも無い。
「………こんな事なら、帰省するとかなんとかで休みを貰うべきだったな。こんな非効率的な事に付き合わされるとは」
つまるところ、雑魚退治に有用な己を平和な任務に回した挙げ句、本来少数精鋭で一対一の任務に向く者達をアンデッド退治に派遣する効率の悪さに腹を立てているのだ。
先程から何個目になるか分からない飴玉を口内に放り込むと、ガリガリと音を立てて噛み砕いた。
■神代理央 > 元々補導や指導等を貰ってはたまらぬとばかりに風紀委員を忌避する傾向にある歓楽街ではあるが、少年が鎮座するこの通りでは特に皆大人しい。
普段は客引きに精を出すであろう黒服の男達は店から出てきたかと思えば回れ右して戻っていく始末。
「…今なら、多少の乱闘や悪質な軽犯罪でも構わんのだがな。取り敢えず、鬱憤を晴らしてくれれば何でも良い」
流石に腰に挿した拳銃まで使うことは無いだろうが、校則違反の学生程度なら遠慮無く【指導】してやる自信があった。
その決意を知ってか知らずか、相も変わらず人の波は少年を避けて粛々と進んでいく。
人の流れだけ切り取れば、とても歓楽街とは思えぬ整然とした動きが完成しているだろう。ビルの上からその様を写真に収める者達の姿も見えたが、流石に其処まで注意することは出来ない。
可能であれば、異形で吹き飛ばしてやっても良いのだが。
■神代理央 > 皮肉な事に、不機嫌そうな風紀委員の存在は此の通りの近辺において乱痴気騒ぎを起こす事を防いでいた。
評定を下げたくない生徒達は早々に帰宅し、分別ある大人達は節度を持って楽しんだ。
結果、何時までも微量なストレスを抱えたままの少年が取り残される事になる。
『お疲れ様。交代の時間だぞ……ですよ』
のんびりと現れた同学年の風紀委員。軽い調子で近づいてきた彼は、その不機嫌さに思わず可笑しな言葉遣いと共に少年から任務を引き継ぐ事になる。
「…了解。精々、浮かれている連中を懲らしめてやってくれ」
言葉短く引継ぎを済ませると、憮然とした表情でずかずかと通りから立ち去っていく。
そのまま手配していた迎えの車に乗り込めば、怪訝そうな表情を浮かべる運転手に言葉短く行き先を指示した。
「……まあ、どちらにせよまた荒事に引っ張り出される事にはなるだろう。その時、平和ボケした連中がどんな顔をして頭を下げに来るのか。今から楽しみにしておくとするか」
ゆっくりと走り出した車の中。窓から歓楽街の煌めくネオンをぼんやりと眺めながら、落第街やスラムの報告書に目を通す。
少年を乗せた黒塗りの高級車は、未だ人の途切れぬ歓楽街を走り抜けていった―
ご案内:「歓楽街」から神代理央さんが去りました。