2015/06/16 のログ
ライガ・遠来・ゴルバドコール > 酒場が営業停止と聞くと、泣きそうな顔になる。

「そ、そんな!
ここが潰れたらどこで話を聞けばいいんだよ、余計な手間がかかるからスラムとかあの辺には行きたくないんだ!」

会話は不成立とみてよろしいですか。よろしいですね。
あきらめた様子で上げた両手を前方に構え、心の中で呪いを唱えながら、空気を軽く押し出す。

(ちっ、しょうがない。
──“西天に昇りし銀の王よ、我窮地に陥らん。ひとたび我を護りたまへ”──魔拳《風衝》)

見えない空気のカベを手で押し出し、反動で後ろにすっ飛ぶ。一瞬遅れてみぞおちに鋭い蹴りが入ったが、ダメージは軽減したようだ。よろよろと数歩下がり、間合いを再びとる。

「くっ、は……組み伏せたら、か。
本当かどうかいまいち信用できないが、どうせ逃がしてくれないだろうし。
わかった、相手になるさ。──魔拳、《烈風衝》ォっ!」

両腕のナックルダスターをゴツリ、ガツンと数回たたき合わせると、大きく一歩踏み込み、左腕の掌底を突き出す。大きさは1mくらいの掌型の拳圧が、軸足を狙って襲い掛かる……

カルマ > (酒場は潰しました。おもに物理力で。魔術、異能、の類は一切持ち合わせない代わりに肉体を極限まで利用して戦う。最初の一撃は命中した――ように思えたが、拳に伝わる手ごたえは暖簾を押したに等しいもの。命中と同時に後ろに跳んだか? 否。髪飾りはそれが術の作動であることを伝えてくる。インターバルがあるはず。させぬとばかりに蹴りの力を踏み込みへと変換。ズドン、と年季の入った路面を革靴で踏み抜く)

「よっしゃ! 酒場ないなら風紀委員入って情報調べてエンジョーイしよう!? うええっ!?」

(続く第二撃目。踏み込みからの身のあたりへ連続せんと重心移動中に足が勝手に跳ね上がった。たまらず転倒しかけるも、変則的な後方宙返りで転倒を防ぐ。よろめきが収まらず酒場を支える木製の柱にぶつかってとまった。再度、腰を落とし構える)

「兄さん………風遣いです? うらやましい。けど次はあたってあげない。おいで」

(挑発の意味を込めて人差し指で相手を招き入れる。右手を前に、左手を低く、両足を開き大地を踏みしめ、攻撃を待つ。)

ライガ・遠来・ゴルバドコール > よし、決定打にはならなかったけどよろめかせることに成功した。その間に息を整える。
なんかしれっとスカウトされてるんですけど、いいんですかねこれ。

(風遣いだってさ。じゃあ、それらしく振る舞わないとなあ?)
こころのなかで小さくガッツポーズ。下手に分析されるよりは幾分か楽だ。

「いやだね、僕は趣味のつもりでやってるんだ。
いい年して学校に縛られるなんてまっぴらさ。それにいいのかい、君ってば学生でもない人間をホイホイ組織に入れられるほど立場のある人間には見えないけどな。

……おいでと言われてホイホイ飛び込んでいく莫迦に見えるとは心外だな、そううまくいくかな!」

ガツンと両腕を打ち鳴らし、腰を落とす。
次の瞬間、地を蹴って高く跳び上がった。そのまま女性の斜め前方から左腕の掌底、《烈風衝》を放つ。威力は先程よりも劣るが、不意を打つにはうってつけだ。

カルマ > 「趣味ぃ~? 趣味で大乱闘はいただきませんね」

(ちらりと見遣るは地面をベッドにひれ伏す実働部隊の面々。趣味でやられてはたまらないと思いつつも口元は愉快そうに持ち上がっている。会話内容につられて一瞬両手を小さく万歳した)

「スカウトなんて権限ないでーす。嘘ついちゃった。でもね、次は無い、私言ったじゃないですか!」

(風は見えない。能力を持たない女にももちろん見えなかったが、拳を媒体に射出しているのは見当がついた。拳の斜線を見切り、もたれかかるようにして左肘と右掌底で風をあろうことか受け流す。メガネが吹っ飛ぶ。左回転。風紀委員の上着を相手へと目隠し代わりに投げつけると、跳躍、空中で電信柱を蹴っ飛ばしほぼ水平へ移行するや、流派も糞もない拳をたたき付けんと)

「ヒャッホォォォォ!!!」

(一気呵成。奇声をあげて突っ込む。吉と出るか凶と出るか)

ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「だーから、趣味で酒場に聞き込みいったらお宅のお仲間さん達に絡まれたんだってばあ!
話通じてるのかな!」

駄目だこの推定戦闘民族。いやもう、確定戦闘民族でいいか。
拳圧の軌道を読まれた。そりゃあそうだ、どんなに頑張っても直線状にしか飛ばない、空気抵抗が若干発生するからだ。都合のいい時だけすり抜けることはできない。

「ん、まさか2回で見破られるとは驚きだね、なかなかやるじゃないk……おぷあっ!?」

ばふっと上着がもろにかぶさり、もたもたしているとそれごと拳で殴られる。ズムっ、と鈍い音がして確かな手ごたえを感じるだろう。しかし男はそのまま動かない。上着をかぶせらせたまま、空中で静止している。
よく見ると、いつのまにか右腕の掌底を身体の後ろに出して、見えないカベで支えているような態勢をとっているのが見えるだろう。左腕は一応ガードの態勢をとっていたものの、拳はややずれて腹部に刺さっている。

「けふっ おっぇ……
そう、来るとは、思わなかったよ …おかげで改善点が見えた」

口の端から体液をこぼしながらつぶやき、にやりと嗤った。

ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「だが、突っ込んできたのが君の運のつきだ!」

さきほどからずっと下がっていた鎖。動き回るのに邪魔に見えるほど長く伸びたそれは、いつの間にか2人を中心に六芒星の魔法陣を描いていた。

カルマ > 「ちっ」

(一撃で意識を刈り取る予定が防御されたらしい。重力と言う理にしたがって女の体が落ちていく。着地と同時に前転をして衝撃を殺す。空中で静止している相手を見て両手を腰に当てた)

「ん? 趣味で……聞き込み? ……ん? ん? ……ああーっ! わかった。なるほどね。けど戦えたからいいです」

合点したらしく拳を打つ。趣味で何か情報が必要だったので聞き込みしに酒場行ったら一味と思われ拘束されかけてやむをえず応戦してしまった。というのが状況らしいと悟る。戦い大好き人種の彼女にとって理由さえあればよかったので、数秒考えて記憶の彼方に追いやったが)

「空中なんて卑怯ですよ! って……うわー……なんなんです?」

(空に居られると攻撃が著しく制限される。降りてこいと頬を膨らませ、自分が罠にはまったことを悟る。魔方陣。鎖。嫌な予感しかしない。逃げるべきか。耐えるべきか。女は耐えることを選んだ。両腕で胸を守り前傾姿勢をとる。)

ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「よし…わかった…君は人の話を聞かないということがね。
まあ、なんとなくそんな気はしていたけど」

じゃらりと、鎖が広がって檻のように周囲を囲む。その真上にいた男は体を反転して逆さになり、上着を前面に当てて見えない壁を蹴った。

「じゃあ、いくぜ──魔拳、《山塊掌》ォ!!」

真上からまっすぐ下へ、押しつぶすように飛び立ち、両の掌を重ねて突きつける、“地属性”の魔拳──!!



……でも当たる直前に拳を解き、相手の両腕をつかもうとした。

カルマ > 「あははーよく言われますー」

(防御姿勢で受け答え。日常会話でも使えそうな平凡な言葉で。獲物を捕らえんと襲い掛かる虎のように、相手の姿が迫る。宿す力は強大でおよそ防御など意味を成さないことはわかった。腕の隙間に瞬間的に黄金色の瞳が迫り――圧力で大地に深いひび割れを作っただけで終わった。女は圧力を受けてしりもちをつき、両腕をがっちりホールドされている格好となる。深くため息を吐くと頭をさげる)

「降参。参りました。無礼を詫びます」

(一転。人の違ったようにまじめな顔と声の調子にて敗北を認めた)

ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「……まったく、一戦交えないとまともに話もできないのかな。
バトルジャンキーもほどほどにしないと、捕まえるものも捕まえられなくなるぞ」

両腕をホールドして圧力をかけ、態勢崩し。
ようやく謝罪の言葉を聞けば、呆れた口調で応じた。

「ま、そこまで戦えて、なんで徒手空拳なのかなって思うけどね。
割と基本に忠実とかじゃなくて、ストリートファイト慣れてるみたいだったし」

スーツからハンカチを取り出して口元をぬぐうと、その場に胡坐をかく。
この男、スーツ姿ではあるが、よく見ると両腕の裾が焼け焦げてぼろぼろになっている。

カルマ > 「捕まえるのは結果であって過程の戦いがメインですので」

(ようはバトルジャンキーであった。真顔で答える。男に負けじと髪は乱れまくり。ビジネススーツのボタンはいくつかはじけてお腹が顔を覗かせていたりする。大地に組み伏せられたならば、大の字で寝転がる。戦闘発生と風紀委員の捕り物と聞いて通行人はゼロに等しいため静寂が場を支配していた)

「むしろなぜ武器を使ってしまうのかと思うのです。能力とか魔術とかより肉体を極限まで鍛えるべきと思います。そういう思想なので」

(けだるげに上体を起こす。正座になると、胸元に手をあてる。ふざけた様子は微塵も無い)

「カルマと申します。状況が状況だったみたいですし今回は不問にします。とはいえ勘違いしたのは私です。申し訳ない。何かお礼をしたいのですが」

ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「誰か店内にいたみたいだけどいいのかい?

……他の武器は僕知らないけどね、拳甲だけはこれサポーターであって武器じゃないからね。元々」

それにしても見苦しいな、と頭を眺めながらつぶやくと。
スーツの別のポケットから、袋入りの使い捨て櫛を取り出し、使いなよ、とカルマに放った。

「ライガだ。一応名乗っておこうか。
身分は……異邦人ってやつだ。異能は使えないけどね。
お礼かあ…そっとしておいてくれるとうれしいんだけど。ああでも、情報はほしいかな」

カルマ > 「店内に居た方はもういませんよ。姿をくらました。妙なことにね」

(歯の間に異物が挟まったような言い方をして店内を一瞥。放られた櫛を受け取ると素直に髪の毛を梳かす。黙々と整えながら、地面でぺしゃんこになっているメガネを見つけてポケットにねじ込んでおく)

「そっとしておいて……ですか。承知しました。
 情報ですが風紀委員会のデータベースに由来するものは一切使えません。カルマ個人の調べた情報でしたら……ちなみにどんな情報です? 探し人とか」

 あくまで正座は崩さない。
 髪を整え終える。櫛を手の中でもてあそんでいたが、相手に返すため差し出して。

ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「姿を…ありゃりゃ、もしかしてお邪魔だったのかな?
もう少し早く、日の暮れる前にここに来ればよかったのかな」

別にそちらには興味はない。ここに人が少なければそれでいいのだ。

「そっか、じゃあ、良いんだ。
この話はもうおしまいにしよう。情報もいらないさ。
魔剣とか、魔術に関係する武器防具について調べたかったんだけど、風紀委員会とは関係なさそうだしね」

櫛は取っておきなよ、使い捨てだし、と受け取らない。

カルマ > (捨てるのも忍びなく櫛をポケットに入れておく。役に立てるような情報は持っていない。拳一本勝負を好む女が武具について個人的に調査することがあるのだろうか。いや、ない。風紀委員のデータベースならば魔剣のひとつや二つ載っているだろうがしゃべることはできない。残念そうにため息を吐いた)

「そうですか……お役に立てそうな情報はあまりないですね。図書館であれば――もしかしたら、お望みの情報があるかもしれませんが。噂ですよ、噂」

(指差すのは学園がある方角だった。図書館。頼りない響きのそこに男の目指す情報が有るかも知れず。噂と何度も念を押す。正座を解くとゆっくりと立ち上がる。あたりには気絶した部隊員。頭を抱える)

「ライガ。ライガさんですか。覚えました。アドバイスですが今度風紀委員に間違って捕まりかけたら気絶させたりしないよう」

ライガ・遠来・ゴルバドコール > 「気絶もダメなのか。
じゃああとは逃げるしかないだろう。話を聞いてくれるなら別だけど。
学園か……関係者ならよかったんだけど、学生証も教師免許証ももってないんだよね」

苦笑して、こちらも立ち上がる。

「じゃあ、また都合のいい時にでも手合わせしようか、今度は風紀規則とかなしにしよう。
歓楽街の崑崙で偶に飲んでるから声をかけてくれ」

カルマ > 「酒は強くないのですがお相手しましょう。手合わせならばいつでもどこでも何時でも」

(胸高鳴らせながら一礼をする。うめき声を上げて半分覚醒しかかっている部隊員一人を気にしながら。風紀規則なし。オフのときにということだろうかと考える)

「じゃっ……そういうことで~」

(もし相手が去るならば手を振って見送る姿勢。なにせ事件もとい事故の始末をつけるため仕事をする必要があったから。まじめな雰囲気は消えて軽い調子が宿っていた)

カルマ > (そうして後処理にえらく手間取ったとか。報告すべき内容も山ほどあったし、重要参考人らしき影も見たのだから。女は負けてしまったということだけは誰にでもわかる簡単なお話)
ご案内:「落第街大通り」からカルマさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」からライガ・遠来・ゴルバドコールさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に天津芳野さんが現れました。
天津芳野 > 夕方。
おそらくは街を巡っているのであろう焼き鳥屋台のそばで、焼き鳥串を頬張っている少女がいる。

「……もぐもぐ。……普通ですね、こんなところに来るような焼き鳥屋台に期待するようなこともないでしょうが」

天津芳野 > 食べ終わった焼き鳥串を、近くのゴミ箱に捨てる。

(……しかし、最近は物騒ですねえ)

壁に背を預け、何やら思案しながら、片手に抱えている紙袋に入った焼き鳥串を引き抜いて、もう一本頬張る。

ご案内:「落第街大通り」に瀬田 瑞央さんが現れました。
天津芳野 > (近頃の島内の治安は、明らかに悪化傾向にあります)

勿論、平時と比較してという但し書きはつくが……
最近の島の治安は、明らかに普段より悪くなっている。
島内に蔓延る異能を駆使した犯罪者、復活する過去の違法な組織の構成員……。
まるで2年前、【あの組織】の全盛期のようだ。

天津芳野 > (……ま、私にゃもう関係はありませんが)

暴力反対。
できれば平穏に、静かに暮らしたいのが自分の願いだ。
そして誰にも邪魔されずに目的を達成したい。

息を吐いて、焼き鳥を頬張りながらぼーっとしている。

瀬田 瑞央 > 「……ハズレ、ですね。どうも収穫というものがありません。」

わずかに肩をすくめる。
やはり事件といえば、落第街の方が多い。研究の種もやはり此方に転がっているのではないか……と思ったが。

「運命、という作用にはどうにも勝ちようがない……ということですか。」

あてもなく、歩みを進めていく。
与えられたものを、与えられたまま、ただ研究をできていた頃が懐かしい。

天津芳野 > 「……うん?」

通りに向けられていた目が、ゆっくりと細められる。
今、通りの側を歩いている女に視線が釘付けになる。
……見知った顔だった。丁度2年前くらいに。

(噂をすればなんとやら、ってところですかね……)
……普段なら厄介事はごめん、と言うところだが、今日はいくらか好奇心が勝った。
焼き鳥串を放り捨てて、女の方へ歩き出す。

瀬田 瑞央 > 「とはいっても、このままでは埒が明かないのも確かですね。
 そろそろ、一度研究施設に戻って考え直しますか。」

吐息を漏らし、歩みを止める。
そして視線を巡らせれば……此方に近づいてくる娘の姿が見える。
見知らぬ顔、のはずだ。自分の記憶を探っても該当するものはない。
こんな場所である。物売りか、もしくは物盗りか……
あまり有益な結果にはならないかもしれないが、対策はある。

「……」

無言で、娘の観察を続ける。

天津芳野 > 観察するような視線に頓着することなく、女の目の前まで歩いていく。

「こんばんは、……えーと、瀬田瑞央さんでしたっけ」

そのまま、引きつった笑みで挨拶。――あるいは、その笑みで、誰かを連想するかもしれない。

瀬田 瑞央 > 「え……」

虚を突かれて、一瞬、間の抜けた声をあげる。
研究所の人間でもなければ自分の名前を知っているのは、ごく僅かなはず……
彼女はその僅かな心当たりには当てはまらな……

いや、自分は知っている。
この、引きつったような笑みを、覚えている。

「まさか……エリ、ファス……先生、ですか……?」

思わず、呆然とその名を口にしていた。

天津芳野 > 「……おや、名乗らなくてもわかってしまいますか?
だとすると、知り合いには注意しないといけませんね……」

ニヤリ、と。引きつった笑みが深まる。
肯定の仕草をしながら、芳野は……エリファスは話を続ける。

「そうですよ、"賢求者"(ノウレッジジャンキィ)エリファスです。
いや、今日は善き日ですね。昔の知己に会えるとは」

瀬田 瑞央 > 「連想するだけの要素があることは否定いたしません。あなたが、エリファス先生である以上、その人格を消せばエリファス先生ではなくなりますから、無理からぬことかと。」

自分なりの見解を述べる。
それにしても……顔だけ見るぶんには明らかに、別人だ。
名前を呼ばれたことと、表情からの連想がなければ気が付かなかっただろう。

「……亡くなった、と聞いていましたが……そのお姿からすると、転生、もしくは、記憶の転写……
 そういった技術を使用して復帰なされた……と、考えるべきでしょうか。
 お久しぶりです。まさか、再会できるとは思っておりませんでした。」

深々と頭を下げた。
外から見れば、明らかに年下の女に対して目上の礼を取る奇妙な光景に見えたかもしれない。

天津芳野 > 「ふう、ん……貴女らしい……と、言ってしまっていいものですかね……」

軽く、考えるような仕草。
あるいは、過去の記憶を引っ張り出そうとしているのかもしれない。

「……そこまでわかりますか。ええ、大方は当たっていますよ。
他人に話されると困るので、ほんとのところは喋りませんけどね」

頭を下げられるのを、満足気に見ている。
この狂人にも、虚栄心の類いはいくらか存在しているらしい。

「……ああ、壮健ですか?
風の噂では、今は常世の研究員と聞きましたが」

瀬田 瑞央 > 「……………」

相手の仕草を見て反射的に体をこわばらせる。
異能も魔術もない。研究だけしかなかった自分は、才ある者達の手足として使われてきた。
相手の機嫌を損ねることは、文字通り死を意味した時があったのだ。

「いえ……流石に、このような話を何処かで話すつもりはありません。
 技術として、興味が有ることは否定はいたしませんが……」

才がないからこそ、あらゆる技術に興味を見せ、ひたすらに研究をしてきた。
それ故の貪欲さは、変わらず。そこだけは遠慮がなかった。

「ええ。エリファス先生もお聞き及びでしたか……
 位置としてはエリファス先生の後釜……というわけでもないのですが、補充のような扱いです。」

それでも恐れ多いことです。そう付け足した。

「先生は……復帰なされた今は、このようなところで何を……?」

天津芳野 > 「…………ひひっ」

この女のニヤリとした引き攣った笑みは、常に消えない。
故に、感情を読むことは幾らか難しい……かもしれない。

「……ふうん……まあ、信用はしてますけどね……。
……ああ、私に会ったことも口外してはなりませんよ? そうすればどうなるか、貴女はわかっているでしょうからね」

言葉の調子から、笑みの気配が消える。
実際に、脅しを実行可能かはわからないが。

「ふうん……大変でしょうね。
あの財団、人使い荒いですし」

同情するような響きの言葉。

「……私ですか?
生前と大して変わりませんよ。賢を求する……故に賢求者、です」

瀬田 瑞央 > 「………っ。勿論、そちらの方も他言はいたしません。エリファス先生」

鉄面皮、というほどではないが、通常、さして表情の変わらない女がわずかな陰りを顔に表す。

「……いえ、もうこの名をお呼びするのも宜しくないでしょうか。
 おそらく、今は仮の名でお過ごしでしょう。」

陰りを一瞬で立て直すと、いかがお呼びすれば、と付け足す。

「そう……ですね。案件だけは山のように頂いております。もっぱら異能の向上や抑制がテーマですので、こうして学内に足を踏み入れて材料を探る有り様で……
 お陰で"門"からは遠ざかりがちですが、いずれまた再開したいと思っています。」

やや肩をすくめてみせる。
かつて目指した研究は遥か遠い……しかし、あの深淵を再び覗くためだ。

「そう、ですよね。あなたが成すのはそれだけ、ですよね。みな、あの時と変わりません。
 ロストサインのマスター格もそれぞれ、思い思いに動いているようですし……」

天津芳野 > 「……ああ、うん、そうですね。私としたことが、忘れていました。これは礼を失しましたね。
天津芳野、と呼んでください。今はそのIDで登録されています。
ご存じの通り、死んだので戸籍とかも使えないんですよね」

不便でいけません、と愚痴る。

「……私も生前はそうでした。ロストサインでの研究もありましたから、激務の連続でしたね……。
……おっと、私の昔話など聞かせても仕方ありませんか」

薄く笑う。

「ああ、すみませんね。幾らか抽象的……というか、答えになっていませんでした。
ここでやっていた事を言うならば、焼き鳥食べてただけです」

貴女も食べます? と紙袋から一本の焼き鳥を差し出す。
少し冷めているかもしれない。

「……ロストサイン、ですか。彼らにはもう、私は興味はないんですよ。
私にとって、彼らは研究のための地盤でしたからね。
崩壊した今では……いや、違法部活に頼るやり方そのものが、限界だと見てます」

だから、貴女のように財団を頼るのは、正しいと思いますよ、と。

瀬田 瑞央 > 「天津芳野……なるほど。では、天津さん、と。捏造戸籍となると二級学生扱いですか。
 助力したいところですが、一研究員では正式な学籍を入手できるかは難しいですね……」

愚痴られて、少し考える。
無理を押し通すには、協力者として仕立て上げる、などが考えられるが……
しかし、今更財団に力を貸そうと考えるかというと、この人物のことだ。拒否する可能性も高い。

「あの頃は、随分と忙しいご様子でしたね。よく研究の下請けをさせていただいたのを覚えています。」

やや懐かしむ様子。研究にまつわる思い出だけはよく覚えている。
他には興味がなかった、とも言えるが。

「……新手の冗談、というわけでもありませんよね。いただきましょう。」

差し出された焼き鳥を受け取りながら、考える。
気さく、というのも変だが……昔のこの人物は此処までゆるかっただろうか……
肉体を移る際の障害か何かが出ているのだろうか。

「私も天津さんに同意見です、が……しかし、あの"門"。アレだけは得難いものだと思います。アレの有る無しで、全てが大きく変わってしまいました。」

そう、あの異世界につながる門。あの深淵には様々なものが詰まっていた。
あの深淵ヲ覗いタ時、私は……

天津芳野 > 「別にまあ、不便ではありますがこれはこれで便利な事もありますよ。
足が付くケースも減りましたし」

正規の資格がないならば、ないなりのやりようもある。
何より、正規の学生になるために検査を受ければ素性がバレかねない。そんなのは御免だった。

「ええ。貴女は使い勝手のいい助手でした」

忠実な助手は、それだけで研究者にとっては財産だ。
それ故に、今となっては惜しいが……まあ仕方がない。
財団の研究員を無理矢理浚うほど馬鹿ではない。

「不味くはないですよ。特筆するほど美味しくもないですが」

同じく焼き鳥を頬張る。
……肉体が幼いせいか、印象としては2年前よりも大分緩く見える。

「……そうですね。あれだけは惜しかった」

"門"。そう、エリファスの研究の到達点。
あの向こうの知識を、もっと知りたい。それだけが目的だった。
……なくなってしまったものは、仕方がないが。

瀬田 瑞央 > 「なるほど……万一素性が割れた際には、厄介どころではありませんか。
 そうですね。ですが、こうして再会出来ましたのも何かの縁です。出来る助力は惜しみません。」

言われてみれば……ということはある。なにしろ、ロストサインの残党すら生き残れる環境が、この落第街なのだ。
ここならばこそ出来ることも多いだろう。

「お褒めいただき光栄です。」

褒められているのか……たんに道具として見られているのか……
そんなことは関係ない。自分は、自分の研究は、誰かの役になっていればそれでいいのだ。
"非才者"に出来ることは、それだけなのだから。

「ふむ……なるほど。確かに、ごく普通ですね。この辺りの環境を考慮すれば上々、といえるかもしれませんが。」

言われて口にする焼き鳥は、本当になんということもないただの焼き鳥であった。
しかし、環境を考えればこれなら悪くはない。

「今更、どうにもなりませんが……いずれ"門"を開けるに至れれば……そればかりを考えています。
 今は財団の要請に応えていますが、そのうちの異能の強化研究などはいずれ、何かのキッカケになるかもしれません。」

天津芳野 > 「ふむ……」

軽く考え込む。
彼女の人格、そしてこの場での受け答えからして、容易く裏切りはすまい。
ならば伝を作っておくだけならば問題はない、と判断。
なにをさせるかは、後々考えてもいい。

「ならば善し。端末の類いは持っていますか?
連絡先くらいは交換しても構いませんが」

こちらの携帯端末を見せる。
元より故買品である、裏切られて足がつきそうなら捨てればいい。

「……私としても、ね。いずれ"門"を開きたい、というのは同じです。
私は、貴女を高く買っていますよ」

――だから、貴女は私の役に立ってくださいね。
言外に、そう言っているに等しい。
反応がどうかは、わからないが。

瀬田 瑞央 > 「? ああ、そうですね。では……少々お待ちください。」

生真面目に白衣を探る。
どうやら、色々と装置の類を持ち込んでいるようだ。
研究者の眼で見るなら、異能に対抗するための様々な道具と見て取れるかもしれない。
ようやく端末を引っ張りだす。

「これですね……では、よろしくお願いします。」

ごく生真面目に答える。
少なくとも、未だ自分はこの人物に必要とされているらしい。
それならば、それに答えるのが私の仕事だ。

「……はい。お役に立てるよう、努力いたします。」

その言葉は、かつて何度口にしただろうか。
ひょっとすれば、聞いた記憶もあるかも知れない。

天津芳野 > 「よろしい」

連絡先を交換しながら。
垣間見えた装置の数々に、視線を巡らせる。
記憶の限り、この研究員に異能や魔術の類いの能力はない。
ならばおかしなことでもない、と判断。

(……才の無い者は大変ですねえ)

皮肉ではなしに、何となく、そんなことを思う。
異能を失っている身である以上、自分にも言えた話だが。

「……ひひっ」

その言葉は、確かに聞いた記憶があった。
ある時は自分に、ある時は他の研究員に、彼女はその言葉を言っていた記憶がある。
故に、引き攣った笑みが深まる。

「では、この程度にしておきましょう。
私も他に用事がありますし、それはおそらく貴女もでしょうから。
今日はこの幸運な出会いに、感謝するとしましょうか」

言葉と同時に、背を向けようとする。

瀬田 瑞央 > 「はい、これで……完了、ですね。」

端末を仕舞う。
目の前の相手が異能を失っているなど夢にも思わない。
否、全てを失っていようとも彼女には関係ないだろう。
求めるのは研究、出された成果は自分以外の誰かに。
充足は、そこにしかないのだから。ソレ以外に拘る意味は無い。

「ん……そうですね。お時間をとらせてしまいました。いずれまた、何かがありましたら連絡いたします。
 ……ひょっとすれば、此方で実験を執り行う可能性もありますし。」

去ろうとする相手を、素直に見送る。
その背中に掛ける言葉は、やや不穏な……いや、彼女らならいつものことだろうか。

天津芳野 > 「……面白そうな成果が出たら、知らせてください。
異能関連についても、またお話を聞きたいですね」

不穏な言葉を、当然と聞き流し。
空になった紙袋を、丸めてゴミ箱に投げ捨てる。

「用があったら連絡しますよ。それでは」

そのまま路地を曲がって、青髪の少女の姿は落第街の喧騒へと消えていった。

ご案内:「落第街大通り」から天津芳野さんが去りました。
瀬田 瑞央 > 「……今日の最大の成果はこれ、ですか……」

去りゆく背中を眺めて、一息つく。

「……つくづく、人は怖い。やはり、人付き合いは不向きですね……」

そう呟いて……別の方へと足を向ける。

ご案内:「落第街大通り」から瀬田 瑞央さんが去りました。