2015/07/28 のログ
ご案内:「落第街大通り」に影山過負荷さんが現れました。
■影山過負荷 > 『どこへ行きたい』
<<知らない所へ…>>
今はいわゆる盛り場という場所にいた
落第街大通りには何度か公安の雑務で足を運んだことがある
公安と言っても僕は末端の協力員で、仕事といえば専ら帰りの遅い学生に声をかけたり
銃を持った生徒に所持許可証を求めたり等で
公安協力員である事を証明する腕章もこんな所で付けるのは逆に危なく
鞄の中にしまっているのだが
「夜になっても、この町は熱が篭るな……」
一人語散ながら目を細めた
この場所に足を運んだ理由…それが思い出せない
自分には時々こうして
ふと気付いたら知らない場所に足を運んでいたりする事がある
それは事故の前触れだったり、何かの転機だったりする
大抵はどうでもいい事しか起きないのだが…
照らされるネオンから熱気を感じながら
振り返り、小高い建物の屋上を見上げた
■影山過負荷 > そこには奴がいた
奴、歌う女だ
テレパスとか、精神感応系の能力者だけに見える
いわゆる都市伝説のような幻覚
彼女はいつも都市のどこかで歌っている
だがその歌声はどんなに近づいても聴く事ができない
近づく距離に比例して、蜃気楼のように離れていってしまうからだ
能力者達が集まるこの島で
あらゆる能力者達が使った力の余剰エネルギーが集まり、視覚化し、漂っている
ネットではそんな風に噂されているが、真相は誰にも知る事は出来ない
おぼろげな輪郭で顔は見えないが、口を開き、何かを訴えるように歌う彼女の姿を遠目で見ていると
自分も何か立ち入り禁止の場所に忘れ物をしてきてしまったような焦燥感を覚える
「今日はいつもよりちょっとハッキリ見えんなあ………」
夜に出られると幽霊みたいで驚くが、能力に目覚めてからはこう言ったオカルティックな光景に
何度も遭遇するうち、慣れてしまった、東京に居た頃見えない壁に向かって話しかける
電波なクラスメイトが居たが、俺も今彼等と同じ場所に居るのかもしれない
物思いにふけりながら、ずっと、その向かいの建物の屋上を見上げていた
■影山過負荷 > 「本当に幽霊かもしんないな」
きびすを返した、なんにしろ、今の自分には関わりのないものだ
落第の街だからって歩いていれば100%絡まれるという訳ではない
自分だけは大丈夫、交通事故で轢かれる前の人間めいて、根拠のない自信があった
ゆっくりとした歩調で、外に出る為、街を歩いている
梅雨明けを否定するように、しとしととゆるやかに振っている雨は柔らかく
路傍の瓦礫やゴミクズの輪郭をぼんやりと白く浮かび上がらせていた
「ここで前やってた屋台は…」
『店主が死んでよ、店じまいだ』
隣の段ボールハウスから顔を出した老人が教えた
「なんで?」
『知らない、ここでは誰かが死ぬなんて、茶飯事だもんな』
違いないな…日本だとは思えないやりとりに嘆息してから
また歩き出す、それにしても腹が減った…
商店街に戻ったら、暖かいハンバーガーでも食べるとしよう
ご案内:「落第街大通り」に『共作者』さんが現れました。
■『共作者』 > 此処は落第街。
何時、何処で、何が起きるか……それはわからない。
それでも?いや、だからこそ、自分は此処に足を運ぶ。
いつもの白杖はおやすみ。
ただ大事な本だけは抱えて、今日も街を『読み』に来る。
「……」
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ……………
靴のたてる音だけが響く。
■影山過負荷 > 向かいから人が歩いてきているような靴音が響く
だけど通行人なんて一々気にしない
余程ガラの悪そうな人間であれば、迂回するなどして気をつけるだろうが
ましてや女性だ
気にするでもなく、歩いている
手にしたスマートフォンの画面を覗きながら、こちらも淡々とした足取り
「……」
コツ、コツと、こちらも漫然と歩く
相手が前から来るというのなら、肩がぶつかったりするかもしれない程度には
スマホに視線を集中している
■『共作者』 > 「……」
『荒れた街並みを歩く。屋台は既に無い。
男は人差し指と中指を立て、こめかみをかすめるような敬礼を送る。
流星群の多くは地上に到達する前に燃え尽きていく。
魔王は首を傾げれば、手を握ったり開いたり。
男は溜息を吐きながら零す。
男が一人歩いてくる。
女はエアコンの効いたリビングでごろごろと読書に耽る。
獣人は穏やかに笑っている。』
淡々と頭のなかに流れる無数の情報を拾う、拾う、拾う、拾う、拾う……
過密な情報の流れ。今日はまた特に濃厚だ。
この島にたくさんの出来事が起きているのだろう……
やや思いを馳せれば、男と自分の距離を見誤る。
「……っ」
肩が、ぶつかり……思わずよろける。
■影山過負荷 > ぶつかる、肩にわずかに衝撃
相手は女性で、こちらはあまり動じる事はなかったが
「おっと……ごめ…」
キィン……
ガラスを引っかいたような音が走った
意図せず、不意に接触した事で脳が反応しサイコメトリーが勝手に発動した
彼女本体からではなく、性格には彼女の服の表面の記憶を読み取ったのだが
彼女の読んでいた本の内容が、僅かに頭に流れ込んできて、眩暈がする
何だ、この本は…
「…あ。悪い悪い…えっと、アンタ大丈夫か?
ごめんな、つい携帯に夢中んなっててさ、マナー悪いよな、ごめんな」
本の情報は断片的に読み取れたのか、ぼやけてよく見えなかったのか
曖昧な感覚だ
何かしらの対能力的な力が働けば、この時、何もわからなかったかもしれないが
とにかく今はそんな事より、非礼を詫びるように、後頭部を掻き
ぺこぺこと頭を下げて会釈する
■『共作者』 > 「……と」
とすん、と小さな音を立てて尻もちをつく。
ああ、今自分は男とぶつかったのか。
少し油断をしてしまったかな……と、思う。
それよりも……今、聞こえないはずのこの耳に音が聞こえたような……
しかし、彼女には分からない。
歪な能力者でしか無い彼女にはテレパスを防ぐ手段も、またそれを感知する能力もなかった。
『「…あ。悪い悪い…えっと、アンタ大丈夫か?
ごめんな、つい携帯に夢中んなっててさ、マナー悪いよな、ごめんな」目の前の男はいう。』
「ぁあ……いぇ……気にしなくて、いいのよぉ……私も、すこぉし……ぼんやりしていた、みたいだしぃ……」
光のない瞳で、視線が合わないままに謝罪に返答する。
■影山過負荷 > キィン……
音がする
この音は耳ではなく、骨伝導スピーカーめいて直接脳に働きかけるように鳴らされる
ESPが発動した時、決まってこの音が鳴り響くのだ
今のは残響音のようなもの
「えっと…目、悪いのか?そりゃ全面的に俺が悪いよな
まあ…そうだな、気をつけるよ、それにしても、アンタのその本、変わってるな
取り留めのない事が書いてある…って言うか…観察記録みたいだ、何の本なんだ?」
ぶつかった時に見えた、とでも言い訳すればいいだろう
とにかく、ふとその本がなんだか気になって、指差し問いかける
ただの純粋な興味だ
■『共作者』 > 「ふふ、いいのよぉ……私も、不注意だった……わぁ……
……あらぁ……あなた、"わかる"…のぉ……?」
くすくす、くすくすくすくすくす……
けらけらけらけらけらけらけらけら……
彼女は、薄く、薄く、笑う、微笑う。
異界から来た奇書は、"普通"には分からない。
いい。構わない。面白い。
「観察、記録……ねぇ……ふふ……言い得て、妙……かも、しれない、わぁ……
いいわ……秘密、というほど……でも、ないしぃ……教えて、あげるぅ……」
"これ"に興味を持つ……とは、また面白い。
好奇心は猫を殺す、なんていうけれど……さて、鬼が出るか蛇が出るか。
俄然、声が蕩けて気だるいような、不思議な響きを帯びていく。
「これは、ねぇ……この世の、全てを……記録する、本……よぉ……?
全ての……事実、だけを……記録、しているのぉ……」
■影山過負荷 > 「わかる?っていうと…ええと…」
言葉に詰まる、もしかして外国語とかで書いてあったのだろうか
視覚情報ではなく、読み取った情報として認識しているので
言語が違っていても日本的表現にカリカチュアライズされてしまうからだ
その場合は言い訳は出来ない、能力で覗きました、なんてちょっと気味が悪いし、いい顔はされないだろう
そんな事を思っていると、ふと薄笑いを浮かべた相手
うわ、なんかよくわからないけど、ご機嫌なのか?
「え?ああ、なんか曰くでもあんのか?面白そうだな
オカルトは好きだぜ、ゲームの知識しかないけどさ、呪われている!とかか?」
興味といっても些細なものだ、だが勿体ぶられると興味がわいてしまう
蟲惑的な口調に期待を寄せながら耳を傾ける
「この世のすべてを…えーと…なんだ、そりゃ株価とか歴史とかが書かれた雑記…って事じゃなくて…その…
もっと雑然としたもの…か?わかんねえけど、凄いんだな、そういうのって…」
未来予知という超能力がある
自分には生憎備わっていないが、それを文字媒体で表す能力を見た事がある
そういう類のものだろうか、ざっくりとした知識、という枠を出ないが
■『共作者』 > 折角、この奇書に。
この落第の烙印を捺された書物に。
興味を持たれたのだ。
しかも、落第の象徴のような場所で、落第の象徴のような人間に聞いて。
それならば、相手の疑問に、一つ一つ、丁寧に答えるとしよう。
「ふふ……これは、ねぇ……異世界、から……流れて、きた……
一種の、魔導書……よぉ……?
"普通"に、読むのは……大変、ねぇ……それと。」
くすり、と微笑う。
『「え?ああ、なんか曰くでもあんのか?面白そうだな
オカルトは好きだぜ、ゲームの知識しかないけどさ、呪われている!とかか?」』
あながち、間違ってはいない。それにしても、ゲーム。ああ、この現実をゲーム、と言ってしまうのか。
なんて、愉快な。
「そぅ……あなたの、言ったとおり……取り留めもなく……書いてある、でしょぉ……?
無限に……世の中の、全てを……ずぅっと、いつも、新しく、描いてる……からぁ……
読めば、頭に……クる、のよぉ……これ。」
整合性などなく、合理性などなく、機械的に、無機質に。
ただ、ただ、記述が羅列される。
そこに意味などなく、意図など無い。
読めば読むほどに、苦痛が増してくる。
"これ"はそういうものだ。
「だからぁ……"普通"、には……読めない、わねぇ……トクベツ、な……読み方を、するか、ぁ……しない、とぉ……」
他の読み方は……あるとすれば、狂うか。
しかし、みなまでは言わない。
「そう、ねぇ……とても、凄い……でしょぉ……?
でも、ねぇ……これは、役立たず……って、捨てられたの、よぉ……
だって……使い物に、ならないの、ですもの……」
ただし、興味を持ってもらったけれど、これはそういう書物だ。
事実を無作為に並べ立てたところで誰も嬉しくはない。
未来でも書かれていればマシだったか……?
いや、それでも変わらないだろう。
さて、彼は……どう判断し、どう思う、のか……
あえて、少しだけ言葉足らずにしてみる。
■影山過負荷 > 「異世界?ああ、最近多いよなあ、
魔法とかなんとかさ、正直異能力とどう違うのかわかんねえけどさ
素質が要るのは変わらないんだろ?凄いモンだな」
相手が謎めいて思わせぶりな語調で語っても
自分には生憎魔術などの世界には縁がなかったせいか
返事もどこか曖昧だ、魔術なんて、それこそゲームの世界でしかまずお目にかからない
だから、知らない、その便利さも
その恐ろしさも。
「過去の出来事だけが書かれてるのか?よく、わかんねーけど…
そりゃ読んでて退屈しなさそうだなぁ、俺…いまいち、ピンと着てないんだけどさ」
そう説明する少女の姿は、なんだか楽しそう、という感じに移った
過去のすべてを観るという事はプライバシーの破壊だ
通商からセキュリティまで、あらゆるものが危険に晒されると言うこと
だけど、所詮高校生である自分には、そんな考えは思い至らない
ただ、すごいな、そう思う程度だ
ニュースなどで殺人犯のニュースが流れ、うわあ、酷い奴がいるなあ
例えるなら、そんなレベルの関心でしか、持つ事は出来ない
「そんな価値のありそうなものをか?
まあコツが要るって話なんだろうしな…でも、アンタは使えるんだろ?
過去しか移らなくたって、要はなんだって頭の使い方次第さ
スプーンを曲げるぐらいしかできないよりは、よっぽど良いと思うぜ
人生ってのは長い、長い道のりで暇を潰すのだって大事な事だ」
ささやかな事が大事なんだな、と頷く
能力というのは、日常を少しだけ支えてくれる便利なもの
という認識しか持っていない自分は、そう言って寒心するのみだ
【面白そう】であるという程度の認識
■『共作者』 > 「ふふ……あぁ……なるほど、そう、なのねぇ……」
この間の少女もそうだった。
今、目の前にいるこの少年も……普通の人間の代表。
まるで、この世の悲劇や喜劇を知らない。
良く言えば無垢、悪く言えば無知。
こんな人材が、この島にいるなんて……
あぁ……そういえば……この名前は……そう、鮮色屋が会っていた、人間。
そうか……だから、あなたは……なるほど。
「そう、ねぇ……貴方流に……言えば……ゲーム会社が、違えばぁ……
同じ種類の、ゲームでも……中身は、だぁいぶ、違うわよねぇ……?
そういう、風に……思えば、いいのでは……ない、かしらぁ……」
正常な領域に居るときも、別に嗜んではいなかったけれど。
けれど、ゲームのことは多少は分かっている。
こんな解説で、少しは通じるだろうか。
ふふ……わざわざ解説する、なんていうのも……面白い。
「でもぉ……あなたも、それを……読み取った……の、でしょぉ……?
なにか、トクベツな……素養……そう、ねぇ……異能が、あるんじゃぁ、ないの、かしらぁ……?」
折角なので、相手のことも突いてあげよう。
普通ではあるけれど、彼にも普通では無いところがある……
それを、思い起こしてもらわなければ。
自分の異常性はとっくなのだ。では、彼の異常性は……?
「ん……そう、ね……説明、は……難しい……かしらぁ……
例えばぁ……あなたが、今……鼻の頭を、掻いた……としてぇ……
そういうのも……此処に、書かれて……いくのよぉ……
それが、事実の……全部、っていうこと……ねぇ……」
これでもピンと来るか、は分からない。
まあ、どちらでもいいけれど……何しろ、ちょっと面白い子だ。
せいぜい、色々と話してみよう。
「ふふふ……そうねぇ……色ぉんな、ことが……書いてある、けれどぉ……
索引、もなく、て……ページも、バラバラの……辞書が、あった……として……
あなた、使う……かしらぁ……?
便利、と……不便……は、紙一重……なのよぉ……ふふふふ……」
常軌と異常の境目も、特にこの島では紙一重にすぎない。
そこで、ふと……悪戯心。
「ねぇ……貴方……すこぉし……読んで、みるぅ……?」
■影山過負荷 > 「"そう"?えっと…なんかわかんねえけど…なんだろう
リアクションが薄かったか?」
確かにちょっと反応としては淡白だったかもしれない
能力というものにそもそも触れる機会のない、この島の外に居た頃なら
テレビ伝導師のように飛び上がって驚いただろう
だが、今ではそんな不思議なファクターには慣れてしまった
センス・オブ・ワンダーが擦り切れているのだ
凄いと思ったのは事実だが、それだけ
「ふうーん、なんか扱いが難しい本なんだな…ただ普通に読むのと、仕様が違うっつー事か?、
俺、広辞苑開いても2分ぐらいで眠くなっちまうからな
マンガなら…でもそれはなんか有り難味がないよな」
マンガ形式の記録帳なら…
いや、ダメだな、荘厳さというか、少なくともそんな本に神秘性はない
それに機能的じゃないな…などと思いながら、言葉に頷く
「え?ああ…えっと…ハハ、バレちまったか、そうだよな、素質がないと読めないらしいもんな
実はそう、サイコメトリー、わかる?ぶつかった時にさ、少し入ってきたんだ」
己のこめかみをつん、と人差し指で指し示す、ここに流れてきたのだと
ちょっと気まずそうに笑った
本当なら気味悪がられるような事なので、種は明かしたくはないが
「思ったより細かいな…そんな微細な情報の中から自分の知りたい事を探すのは…大変かもしれないな」
何しろ自分は授業で指名された時に指定のページを割り出すのにすら苦労する
それなら寝こけなければ、とは思うが、それも仕方のない事だろう、勉強なんて得てしてそういうものだ
「まあ、面倒な本だ、ってのは、わかるよ…
生憎俺自身は辞書を開くのは苦手なんだけどな
え?いいのか?じゃ、じゃあ…ちょっと見せてもらえっか?」
大切そうな本なのに、いいのだろうか、などと思いながら、手を差し伸べた
見せてもらえるなら、ちょっと見てみたくはある、読めるかどうかは別として
■『共作者』 > 「ぃいえぇ……いいのよぉ……人、それぞれ……ふふ。
色々な、反応があって、それが……楽しい……そういう、ものでしょう……?」
くすくすくす、と。困惑する少年に笑いかける。
ある種、貴重で得難い人材であろう。
ここまでナチュラルに接する人間というのも。
「あは……あはははははは……面白ぉい、発想ねぇ……
そう、ねぇ……でも、この本の……機能じゃあ……コマが、バラバラに、なって……
それは、それで……読みづらぁく、なりそうだわぁ……」
さもなければ、一コマにギチギチに書き込みがなされてひたすらに読みづらくなるか……
どちらにしても、そう変わらないかもしれない。
だが、発想は面白い。想像の斜め上を行かれるのが、逆に心地よい。
「ぁあ……そう……そう、なのねぇ……サイコメトリー……
いい、じゃなぁい……読み取る、力……面白い、わよぉ……
ふふ……あら、それじゃあ……私も、なにか……『読んだ』……のかしらぁ……?
恥ずかしぃ……秘密、とかぁ……?」
くす、くすくす、と冗談めかせて微笑う。
特に不快に思っているようには見えないだろう。
事実、不快感は全く感じてはいない。
むしろ、もし彼が自分のことを『読んだ』としたら、一体なにを読んだのか……興味深くてたまらない。
「そう……だから、みぃんな……この本を、見捨てて、きたの……
あなたはぁ、使いものに……なりません。要りません……って、ねぇ……ふふふ。」
それは、あの時の自分と同じ……
だから、私は要らない物同士惹かれ引かれ曳かれるようになった。
彼にはこの感覚は分かるだろうか。
「ぇえ……読むのはぁ……いい、わよぉ……ただ、ごめんねぇ……
できれば……私が、持ってるまま……でぇ……読んで、貰えると……嬉しい、わぁ……」
面倒なら、渡すけれど……と付け加える。
もし仮に、持ち逃げなどされれば……自分は破滅に近い状態に陥るだろう。
だけれど、好奇心が、興味が、その恐怖を上回る。
彼はどんな風に之を読むのだろうか。
■影山過負荷 > 「だ、だよな?他に何かあるか?えーと…」
顎に手を添えて考える
確かに凄いが、過去しか見えないのだ
どんな能力にも微妙に制約がある
これは不文律だ
例えば自分が使う念力だって、やり過ぎればニューロンが焼ききれ
ダメージを負ってしまう
人間が人間以上の存在になりすぎないように
無意識のセーブが掛けられた能力の一つでしかない
これもそういうものなのだろうとは思う
やはり全知全能の万能ツールというものは存在しないのだと
「そっか…やっぱ文字のがいいか?
にしても、アンタ結構よく笑うんだな、美人で良いと思うぜ」
気だるそうな喋り方とは裏腹に
よく表情の変わる女性だ、正直、見ていて微笑ましいな
と、話が微妙にずれた事を思い、つい口にして
「接触感応って書いてサイコメトリーって言うんだ
結構フツーの…いやいや、読んだのはさ、服の記憶だから!
そりゃ能力の調整が利かないときに直接やったらその…恥ずかしい…その
読んじまうかもしれないけど…今はほら、大丈夫だぜ!一瞬だからな!」
冗談めかせて笑おうがこれは訂正しておかなければいけない
わたわたと手振りを加えながら、大丈夫だから!と
覗き見れるなんて気味が悪い、そう言われた事だってある、良い事ばかりではない
「何も捨てる事ァねえのになあ、記念とか思い出とか、実用じゃなくたってなあ
俺も家にプラモがあってさ、もういい加減高校生なんだし、と思ってんだけど
なんか捨てられねえんだよなあ」
わかるわかる、と、多少ズレたような感想で頷く
ボロボロの本に感情移入してしまった少女の心とは、微妙に違うかもしれないが
「そっか、じゃあ…えっと、後ろに回った方がいいか
ちょっと、失礼するぜ?」
なるほどな…と思いながら、少女の隣に回り
後ろから覗き込むような形で、そっと手を指し伸ばす
ペラ…とページを捲った
そこに書かれているのは、日本語表記なのか、そうでないのか
日本語表記でないならば、つい先日風紀委員の少女二人が何者かと会話をして解散するという
何のことはない光景を残留思念から幻視したかもしれないし
あるいは読めるのならば、それを文字媒体で音読するだろう
■『共作者』 > 「ぁ、は……」
美人。まあ、実際美人なのだろう、自分は。
もはや見ることも叶わなくなったけれど、かつての記憶では満更ではなかった、はずだ。
しかし、それを面と向かって恥ずかしげもなく、こんな場でこんな風にこんなタイミング言うとは……悪くない。
思わず、またくすくすくす、と微笑う。
「ぁあ……そういえばぁ……服が触れた、の、だったかしらぁ……
あらぁ……別にぃ……読んで、くれてもぉ……いいのよぉ……?
ふふ、ふふふふ……」
『わたわたと手振りを加えながら、大丈夫だから!と』
そんな彼の様子が面白くて。
くすくすくす、と笑いながら挑発的に、蠱惑的に……誘ってみる。
本当に読まれても、本当に構わない。そんな気持ちで。
触っても、いいのよ、と。
「そう、ねぇ……期待ハズレ……だったから……じゃ、ないかしらぁ……?
これを、手にすればぁ……万能の、神に……なれる、と思ったのに……
どうにも、使いづらいだけ……で、全知、でもない……わけ、だし……
ふふ……でも、あなたなら……そう、出来の悪ぅい、期待はずれの、プラモデルでも……大事に、とっておきそう、ねぇ……」
そんな気がした。
短い間の付き合いだから、本当のところはどうだかわからないけれど。
そう。根本的に普通で小市民で、人のいい……そういう人間なのだろう。
「……」
黙って、するように任せる。
本来、異界の奇書であるこの本は異界の文字で記されるが……
今は、持ち主にしたがってこの世の言語で示される。
彼にあわせるなら……そう、日本語だろうか。
■影山過負荷 > 「いやいや、マズいだろ、そういうのは…
んな事言われたのは初めてっつーか、あんまり能力自体人に話さないんだけどさ」
気まずそうに鼻の頭を人差し指で擦りながらなんともやり辛そうに話す
確かにその仕草は色気があり、興味がないと言ったら嘘になる
だがサイコメトリーというのは、出力を間違えば
相手のトイレの回数すらわかってしまう、プライベートも糞もない力だ
あまり多用するのはよくないし、そもそも能力ってのは人に向けるものじゃない。
「ああ…まあ響きだけ聞けば、期待しちまうよな
そういうのをスカされた時って、癇癪起こしちまうもんだ
ゲーセンとかでさ、格ゲーやってる連中は負けると台をバンバン叩くんだよな
そういうカッとなる気持ちって大人になっても意外と変わんねえモンさ」
いちいち矮小な例えを持ってくるのは
自分の脳で整理し自分がわかり易いようにする為だ
能力だとか、全知だとか言った所で、根本的なものは同じだと思う
人の感情が左右する事なら尚更だ
「転移がどう、とかで締められてるな…
なんつーかやっぱ、覗き見してるみたいで、バツが悪ィな、ハハ…
俺も、能力の調整が上手くいかないと、透視能力なんかが勝手に出るんだけどさ
やっぱそういうので他人のプライベート除いちまうと、どうにも悪い事したなあ
って気分になるんだ、そもそも男子寮のカベが薄いのもどうかと思うぜ」
少し目を通して…やっぱりこの本は凄いものだ、自分ではない人間が見れば
何らかの警戒を働かせたのかもしれない、悪用したらどうなるか、そんな可能性を考えて。
でも、そういうのはやっぱり、人がする事だ
能力がいくら強くたって、結局怖いのは、それを振るう人間なのだから
「まあ、アンタはイイヤツだって思うしな…」
一人語散ながら少女を見る、この少女が悪人だとは思えない
だから、この本が凄いと思う、けど、感想がそれだけなのだ
なるほどな、と合点がいったように、自分の中の考えを纏めて頷いた
「唐突だけど、俺、影山過負荷ってんだ、よろしくな」
今更名乗った、そして、ニ、と笑いかける
■『共作者』 > 「ぁらあ……可愛い、のねぇ……あは、あはははは……
人にぃ……嫌われるのが、いや……? それともぉ、自制……?
ふふ……この場合、はぁ……自制、かしらぁ……
あなた、意外に……しっかり、してるのねぇ……」
欲に引かれれば、あっさり人は陥落する。
欲に陥落すれば、人はどこまでも醜悪になれる。
自分たちが描いてきた人の姿は、そういう醜悪な人間の姿だ。
正直に言えば、誘ったのはそうやって陥落する姿が見たかった、という面もある。
しかし彼は小市民ながら、一線を引いてきた。
これも嘘偽らざる、真実の人の姿であろうし……だからまた、面白い。
「ふふ……大人げない……なんて、いうけれどぉ……
カッと、なった時は……大人の方が、よほど……子供っぽい、かもしれない、わねぇ……?」
なるほど、彼は彼なりに理解しようとするわけだ。
……うん。つまり、説明が難しかったようで……これでは脚本(ほん)としては失格か。
しかし、そういうのは自分の仕事ではないからやむなしか……とかんがえる。
「ふふ……あなたは、そう思うの、ねぇ……
そ、う……あなたの……力は、不安定……なのねぇ……
だから……健全、なのかしら、ねぇ……?
ふふふ、壁が……薄い、ねぇ……そう、いえばぁ……女の子を、連れ込んでた、子がいた、かしらぁ……?」
みなまで言わないけれど、何かを暗喩してからかい気味にいう。
そう言いながら、なるほど、と考える。不安定な自分の力と向き合う。
この少年の根源は案外その辺りにあるのかもしれない。
「ん……カフカ……くん、ねぇ……さしずめ、流刑地にて、といった、ところ……かしらぁ……
あは、あはははは………いい名前、だわぁ……ふふ……」
まるで出来過ぎた名前だ。やや外れ気味なのでまだいいが、これで劇作家などであればこの脚本家はやり直すべきだろう。
笑いながら、思う。
そして、思い返す。彼に、彼女は全てを伝えた。
ならば、私も彼に伝えてみよう。
きっと彼女のように空振りに終わるのだろうし、空振らなければ、それはそれで人生の一幕だ。
「私は……そう、シャンティ・シン。『共作者』……なぁんて、肩書も……ある、けれど……ふふ。」
裏方である以上、鮮色屋同様、さして知られていないかもしれない。
笑顔に、笑顔を返す。
普段の薄ら笑いではなく、普通の笑顔。
■影山過負荷 > 「か、可愛いって言われてもな…」
男は可愛いと言われても嬉しいと思うかは微妙な所だ
お姉さんって感じの女性だし、スルッと出たのかもしれないが
「まあ…な、カッターナイフと同じだよ、カッターは紙を切る為の物であって
人に向けるモノじゃないだろ、それと一緒さ
人にカッターを向けるってのは、よっぽどサイコな状況だぜ」
一本のカッターナイフを想起する
自分の力はコレだ、例え相手に害を成さない能力だったとしても
カッターナイフを人に向けているという事実は変わらない、大小の違いなどない。
それが、自分の理屈だ、後は理性の話になる
人によっては、つまらない理屈かもしれないが…
「そうなんだよな、困ったもんだぜ、力もある、金もあるからな
何すっかわかんねえしな」
相手の懸念も知らず、世間話みたいに話を続けた
「不安定っつーか…まあイライラした時とか、ちょっとうっかり出ちまう事があるな
困ってんだよな、そういうのさ、さっきだってビックリして本の中見ちまった訳だし」
これは体質なのかな…ううん、とうなりながら考えるようなしぐさ
「まあ、その時は風紀委員にでもチンコロするさ、落ち着かないもんな
悶々としちまうよ…どうした?」
どうも、何か自分を分析されているような…そんな感覚
好奇心の強い目が向けられていると思う
参ったな…俺、つまんない男なんだけども、と
ポケットから棒つき飴を取り出しては、落ちつかなげに包み紙を剥がす
「ああ、よく揶揄されるよ、俺はKの方が好きだな
つっても、俺は文学少年でもなく、偏差値は平均なんだけどさ」
ハハ、と曖昧な笑みを返す
まったく不恰好な名前だと思う、だけど、これが俺の名前だ、ずっと付き合っていく名前
相手の名前も教えてもらえるだろうか、棒付の飴をパク、と口に含んで、その目を見た
「シャンティ、シャンティか…そっちはちょっと洒落た呼び名だな、まあシャンティでいいよな
そうだ、夜の落第街は危ないぜ、女の子がウロついてんのは、よくねえよ」
笑いかけてから、あ、そうだ…と今更気付いたかのように、相手に注意する
夜歩きはだめだぞ、と、自分の事はさておいて
■『共作者』 > 「ぁら……ごめんなさぃ、ねぇ……別に、馬鹿にしたわけ、じゃないのよぉ……?
素敵、って……いいなおしておくわぁ……ふふふ」
そこは嘘偽らざるところだ。
もっとも、可愛いという感想も嘘ではない。
人としての良さと、だからこそ愛おしく、可愛いのだ。
「ぁあ……なるほど、ねぇ……カッター……ふふ、そう考える、のねぇ……
此処には、もぉっと……鋭い、刃物を振り回してる、人もいるのにぃ……あははは、モラルができてるわぁ……」
くすくすくすくす、と笑う。
実際、風紀公安、といった面々はそういう力を遺憾なく発揮している面々が多いはずだ。
暴力をかさに抑えつけられた自分たちが、それはよく知っている。
そうでなくても、異能が当たり前のこの島では、当たり前のように異能をふるう人間が多い。
それを思えば……彼の思想が逆に異質かもしれない。
ああ……なんて愛おしい。
「あはは……それは、心配よねぇ……ふふ……
別に、私なら……見てもいいから……今後も気にしなくて、いいわよぉ……
まあ、それで……悩みは、解消しないだろうけれどぉ……
ふふ……そのうち、いやでも……そういうの、見ちゃうかも……しれない、わねぇ……
結構、男子寮に……女の子、行ってる……みたいよぉ……?」
本当に困っているようで……なかなかに面白い。
だから、ちょっと最近目にしたモラル崩壊の現状を囁く。
あの現状は彼にとっては更なる面倒を増やすのではないだろうか。
なんとなくおかしくなる。
「そう、ねぇ……名前、とは……一生のお付き合い、だものねぇ……
不釣合い、でも……背負って……いかない、と、ねぇ……
ふふ……そう、洒落た……洒落てる、のかしら、ねぇ……?」
シャンティ、とは……"平穏"を意味する。
今の自分に重ねれば、まったくもって滑稽以外の何物でもない。
それでも、これは一生背負っていくものだ。
「ぁ、は……ふふふ……大分、遅ぉい、指摘……よねぇ……ふふふ。
まあ、でも……そうねぇ……あなたの、忠告通り……今日は、退散しようかしらぁ……ふふふ。
機会があったら……また、ねぇ……カフカ、くん……?」
くす、と笑って立ち去る準備をするだろう。
特に止め立てもされなければ……そのまま、ゆったりとした足取りでこの場を後にする。
■影山過負荷 > 「そうか、素敵か?へへ…なんか褒められっと痒くなんな…」
あまり慣れていないのか、素敵と言われるとむず痒そうにコロコロと飴を転がす
むしろ偉そうに能力の講釈なんか垂れてしまって…
痛い奴だとか、説教臭いとか思われてもおかしくはなかったかもしれない
後になってそう思い返し、恥ずかしくなるのだが
「いや…でも結構、フツー…だと思うんだけどなあ…フツーじゃない奴の絶対数が
残念ながら多すぎんのかな…まあ、人は人さ、俺だって目玉焼きの食い方を指図されたら、げえ…ってなるしな」
強制するつもりもないし、あくまで自分のルールだ
あまりこういう事は人に話した事がなかった
守れなかった時、格好悪いからだ
でも、彼女の楽しそうに聞く姿を見ていると、いつの間にか自分語りをしてしまっていた
まあ、良いだろう、どうせ自分は脇役みたいな人間だ
何が変わるわけでもない
「私なら、って言われてもな…あんまり自分を安売りするもんじゃねえよ
参っちまうなあ…まあそんな頻繁に起こる訳じゃないんだけどさ
フィギュア持ってニヤニヤしてる隣の部屋の奴の姿とか見ちゃうと…泣けるぜ?」
隣の部屋がそんなだから、まず出歯亀めいた場面に遭遇する事はないだろ
などとは思っているが、いつ部屋が変わるかわからない
この学園の寮はしょっちゅう顔が入れ替わったりする、はぁ、とため息をついた
「まあな…シャンティ…何か意味があるのか、わかんねえけど
でも、感じ、良い名前だと思うぜ」
笑いかけながら、前向きに考えるようにそう付けたし
そしてポケットの中にあった飴を一つ、シャンティへと放る
「そうそう、変なのが取り分け多いんだ、ここは…ホントは送ってやりてえけど
俺も今日はレポートがマズくてさ…気をつけて帰れよ!」
自分もシャンティのほうを向いたまま何歩か後ろへと下がる
手を上げ、別れを惜しむように振り、挨拶してから
やがて背を向け、歩き出した
「変な奴だったな…美人だったけどさ」
ご案内:「落第街大通り」から『共作者』さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から影山過負荷さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に惨月白露さんが現れました。
■惨月白露 > 路地裏から、乱れた着衣を正しながら大通りに出てくる。
口を鞄から取り出したペットボトルに入った水でゆすぎ、
路肩にぺっと吐き出した。
「ったく、この手の仕事は久々だったからか疲れたな。」
『はぁ』とため息をつきながら、
落第街の大通りを学生街のほうに歩いて行く。
「………面倒事に巻き込まれる前にさっさと帰ろ。」
大通りとはいえ、ここは落第街だ。
学生街に比べれば随分と治安が悪い。
ご案内:「落第街大通り」に五代 基一郎さんが現れました。
■五代 基一郎 > 人々がアスファルトにその足跡を刻むような暑さの夏
ようやく涼しくなってきた、まだその熱も残る夜の落第街大通り。
その大通りの一角にある屋台で久方ぶりにうどんを啜っていた。
その青さが盛られたうどんの丼を突きつつ、屋台の主と最近の世間話が進む。
「最近は俺だけじゃなく他の連中も忙しかったからさ。まぁ久しぶりになるけど
一昨日やってたらしいじゃない。風紀の二級学生のさ、保護の件。
いいことだよ。目に見えて起きてるわけだし。影響はあるよ。」
だといいんだけどさ、という店主を余所にその海老とも何ともつかない
異世界の何からしいものの天ぷらを齧りつつ答える。
「こういうのはやってるっていうのを見せて、存在するということを見せるのが大事なんだよ。
それが行われるっていう影響は結構にあると思うよ。
別にこの落第街にいる人全部や悪い人間ってわけじゃないし。
その事情持つ人々それぞれに違った影響があるわけ。」
■惨月白露 >
落第街には様々な『屋台』という名の無認可店舗が立ち並んでいる。
しっかりと店舗を構えているところもあれば、
ビニールシートを広げてそこに茣蓙を引いて、
商品を並べているだけという怪しい店もある。
当然詐欺紛いの店もあり、ここで買い物をするなら、
それなりの『賢しさ』が必要になる。
そこから漂う声や、匂いは、
落第街の大通りに広がり、溶け、消えていく。
「動いたらはらへったな。」
そんな漂う匂いにスンと鼻を鳴らし、
『安い屋台でも見繕うか、帰ってから食べるか、どっちにすっかな。』
―――と考えながら、ゆっくり、ゆっくりと大通りを歩いて行く。
■五代 基一郎 > 夏場の暑い時期といえば何が求められるか。
それは食欲を掻きたてる匂いと味である。
であるが故にこの変わり者のうどん屋台では今出されているのが
トムヤムウドンだった。
トムヤムクーン風のスープに盛られたパクチーとエビもどきを乗せたジャンクうどん。
トムヤムクーンの酸味、レモングラスを使っているのかはさておきレモンの香り
そして魚介らしき出汁がとられたスープの香り。
屋台の外からでもわかり、入ればすぐ「それをくれ」と頼んだもので
今箸でつっついているのがそれだ。うまみ。からみ。さんみ。
うどんののっぺりした味がまた合うものでこの暑い中、食欲を刺激する。
「そもそも落第街にいる人間だから、二級学生だから暴行していいとか
どうこうしていい、いないものなら何してもいいってのは間違ってるんだよ。
いや風紀も公安だけどさ。そう対処しないといけない凶悪なのがいるからって話で
特に風紀は本来保護とか、虐げられる人を助けるためにいるんだからさ。
問答無用で処刑だなんてしないんだよ。そんなB級映画じゃあるまいいしさ。」
昨日の深夜にある映画放送みた?と店主に問うが見ていなかったようで
その話を続けてる。混迷した近未来のアメリカの都市で毎日一万件犯罪が起きるもんだから
警察官と裁判官と処刑人の権利を合体させたのがいて、そいつの台詞が
”オレが法律だ”つって犯罪者即時に処刑するようなのがあったと。
「娯楽映画じゃあるまいしさ。ここに居を構えてどうこうするには
そりゃ人手や何やら足りないし、やるなら軍警のような強権がそれこそ必要になるし
できないことの方が多いよ。それでも何とかしようとしてるし、動いてくれてるんだから
いいことだよ。俺?俺がここにいるのもそういうのの延長線上だけど」
■惨月白露 > 落第街の大通り、流れる人をすり抜けるように歩きながら、
財布を後ろポケットに入れている男性を横目に見る。
こんな所でそんな事をすればスリの恰好の餌食になるだろう、
―――が、男からすれば、むしろそれが狙いだ。
案の定スリを働いた少女が腕を掴まれているのを見て、『やっぱりな』と瞳を伏せる。
『スリを理由に脅迫するつもりか。』
不幸な少女の未来を憂う事も無く、闇のうごめく街を歩く。
そんな街で光る屋台の明かりは、まるで誘蛾灯のようだ。
『二級学生ってのは、いつまでこうなんだろうな。』
最近、風紀委員が二級学生を数十人一般学生として取り上げた、という話を風の噂に聞いた。
だが、希望を垂らされれば、それに群がり、他人を蹴落とす。それが『落第街』だ。
犯罪行為を働かせ、それをバラされたくなければ、という脅迫手段は、
その噂が流れはじめてから広がり始めていた。
『二級学生』という立場からは、皆、脱出したいと思っている。
だからこそ、それが脅迫される隙になる。
とはいえ、犯罪は減少傾向にあり、治安は確実に良くなっていた。
屋台から漂う香りと声の中を、彼はゆっくりと歩く。
『んー、夏らしいもんが食べたいな。
限定メニューとかないかな。……ないか。』
鼻を鳴らしながら、耳をピクピクと動かしながら。丁度いい店を探す。
■五代 基一郎 > 「犯罪歴がある、ないというのは確かにあるけどさ」
店主の、それでも全員が全員というわけでもなく。
この落第街にいる人間が清くなれる人間ではないという言葉に対して
いやそれは違うと遮り話を続けて行く。
「先に言ったように犯罪者だから出来ないってことじゃないんだよ。
罪ってのは償うもんだ。償えるかどうかはさておきさ。
犯罪を犯していたのなら、罪を受け入れて社会の中で活きて生きて行こうとすることを
薦めるこができるんだ。そら申請と、組織犯罪時に保護した子らじゃ
犯罪歴等あるかないか程度も違うよ。
でもだからと野放しにはしないよ風紀は。見捨てもしないしさ」
だからといってそれが落第街全てに伝わっているとは言えない。
そのものとは裏腹にその事実を、情報を利用するものはいる。
だがその中でも道理に背き続ければ必ず歪みが出る。
歪みが出れば、あとは自然と表に出るようにその歪みが亀裂を産ませ
公的な、光の……表の世界の介入を招くことになる。
「イタチごっこだろうが、決して無くならないもんだろうが
続けれいれば小さくなるさ。少なくすることはできる。」
いかに人の欲望が渦巻く、邪智が常である落第街であっても
常世島という社会にある一つの場所であることは変わらない。
介入を続けれ行けば、介入していると見せつけることは
影響も効果も与えることになる。
そこに光がないのならば外から光を当てて影を少なくすることだってできるのだ。
「まぁ最近は俺らも忙しかったし。しばらくは大きな件もって感じだから
まだ続くでしょ。そういうのが続けること、られることこそ意味あることだと思うよ」
あぁ、それも頼むと冷やしトムヤムうどんも頼む。
冷やすことで何が味が変わるのかと。
騒がしいな、なんやねんと暖簾から頭を出して大通りを見やり
■惨月白露 > 道に漂う雑多な香りの中でも妙に際立つ、
レモンの香りに、魚介の香りに、彼は視線を流す。
瞳を細めると、その屋台はどうやら、うどん屋のようだ。
『うーわ、うさんくせぇ。』
そう考えつつも、その香りはこの暑い夏には魅力的だ。
『売れてます、冷やしトムヤムウドン』
というダンボールに手書きされたポップを一瞥すると、
『まぁ、ここでいいか。』と考えながら屋台の簾を揺らす。
「「冷やしトムヤムウドン頼む。」」
不意に、意図せず被った声に、
屋台の席に着いた黒髪の男に視線をうつした。
『―――本当にうれてんだな、これ。』
そう考えつつ、ふぅ、と息をついて席につき、
念のためもう一度店主に注文した。
「おにーさん、注文の声が被るなんて、運命だと思いません?」
注文を終えると、にっこりと笑って彼にそう声をかける。
……あわよくば奢らせてやろうという心算で。
■五代 基一郎 > 新たな来客か、暖簾から出した頭がその姿を見つつも
入れ違いのように暖簾を隔てる。
重なったのは同じものを注文する声のみ。
「かもね。あと一人前追加で。」
かもね、といいつつ追加の注文をして
その声を聞きながら顔を見もせずに外に出た。
外に出れば体格の良い如何にも落第街にいる男と
やや少女らしくない格好の、少女がもめていた。
喧噪のような怒号、そこを中心にややずれていつものことだろうと
流れるように人ごみが進んでいくが
腕を掴んで捻りあげる男の後ろから、声を掛けた。
「どうしたのさ、往来で」
と聞けば関係ないだの、財布に手を出したわけだから
こいつにそれなりに償ってもらうんだよと少女を力づくで拘束したまま
得意げに語る。それが常なのか、まさしく罠にかかったのだろうか
こいつもなんなんだという顔で少女は男の顔を見ている。
「なら被害届書かないとまずいんじゃないの。手伝おうか書くの。
うちは”警備”だけど風紀には変わりないしさ」
その言葉が出れば、少女を掴んで得意げだった男の目が
声を掛けてきた背後の男へ急ぐように向けられた。
てめぇ風紀か、と。しかも刑事じゃない。その部署が何をしているのか
野にいる狂人でもなければ察するには簡単だ。
「出さないの届け。じゃあ起きなかったことになるけどいいの?
あぁそう……いいの。じゃぁそういうことでさ。
まぁ、ほら何か自分の身を切ったわけじゃないんだから。」
被害届を出すということは楽だ。だが出すまでがまずい。
名前を知られ、かつ手続きを通すということがどういうことに繋がるか。
そういうわけでこの目の前にいる彼が諦めて少女を離せば、舌打ちして
帰る姿をまぁこんなことせずに生きればいいものをと見送り
だがそれとは反対に礼を言い、一応礼は言ったからと
雑踏に消えようとする少女の首根っこを掴んで引きずっていく。
屋台まで。
新たな客を、先の客の隣において自分はその隣。
中心にその少女を置いて食事を勧める。
冷やしトムヤムウドンだが、先に注文した一人前だ。
「所謂二級学生でしょ、君。申請すりゃ正規のが出るのにさ。
スリやってようがちゃんと法が適用され裁かれれば正規になれるよ。
だからそんな……辛いのだめ?別の頼める?」
冷やしトムヤムウドン、うまいなぁと思いつつ話をしていれば
誰もが誰も辛いのが食えるわけじゃないことを今思い出した。
■惨月白露 > 「あ、ちょっ―――。」
席を立つ男の背を見送る。
その後、目の前でいともたやすく行われる、
まるでアニメか何かのような行いに『チッ』と舌打ちする。
『風紀のヤツはこれだからいけすかねぇんだよな。
自分は『正義の味方』ですって自信に満ち溢れてる。
まるで、不可能なんて無いと思ってるみてぇな。』
自分の相棒になっている風紀委員、
とは、いっても嘱託ではあるのだが……彼もまた、そういう男だった。
連れてこられた少女は、
『ありがとうございます、あ、いえ、
助けていただいた上にそんなお手数をおかけするわけには。』
―――と、控えめに男に一礼する。
どうやら、手をつけるかつけないかすら決めかねているらしい。
そんな様子を見て、彼の顔がますます歪む。
『考えなしに明らかに罠の財布に飛びつくくらいだ、
こっちも、こんな場所では生きてはいけないようなお人好しなんだろう。
ま、こういう奴が、『運良く』二級学生から拾い上げられるんだろうな。』
そう考えながら、心底不機嫌そうな顔でうどんをすする。
『クソ、クソ……。』
白く垂れ下がるそれは、先ほど飲み下したソレのようで、
心の底まで汚れた自分を自覚して、内心で悪態をつきながら、
一心不乱にそのうどんをすすり続けた。
「―――クソ、うまいじゃねーか。」
ぼそっと、小さくそう呟いた。
どうみてもジャンクフードだが、夏に食べるには丁度いい。
食欲をそそる味と香りが、箸をどんどん進ませる。
ご案内:「落第街大通り」にルフス・ドラコさんが現れました。
■五代 基一郎 > 「んー……なんで、という感じかな。
こんな場所で、こんなことしていたのにって。
まぁ話を聞いてよ。俺もそういうことのためにここにいるわけだし。」
普通のうどんを追加で頼みながら自分の方のうどんも啜りつつ話を始めた。
「二級だのなんだの言われてようが、ここにいるのは所謂学生という括りでさ。
まぁ大なり小なり何かしていきているわけじゃない。
ただそれが、学園社会で外れていた世界で”普通”とされるものがさ
学園社会では”普通”じゃないことを認識してもらったり
そのしてたことがダメなんだって理解してもらってからじゃないと学園社会に迎えるわけにはいかないわけでさ。
だから法で裁かれる、っていうことになるんだよね。
そんな死ぬ死なないって大げさなもんじゃなくて罪とされるものを認識して
社会で生きて行くっていうのかな。学園社会って世界でさ。
君だってこの落第街で生きて行く、落第街で死ぬまで不本意なことをしていくために生まれたわけじゃあるまいよ」
親とかじゃなく、この世に生まれた者ならだらしもって話しだよ。
と話を続けて新しく出されたふつーの出汁のかけうどんを薦め
「そういう人らが、少しでもその人が望むというか……なんていうかな
学生らしく生きたりできるように助けるのが風紀でさ。
俺だって全部が全部助けられるわけじゃないけど、手の届く範囲は
手を届かせようってこうしているもんで 水もらっていい?有料だったねそういえば……
うまいでしょ、冷やし。夏のおすすめなんだけど中々薦めにくいんだよねこれ」
うまい、と味の感想を吐き出すように呟く新たな客に声を掛けつつ自分の分のが終わり
追加で頼んでしまった分も箸をつける。
■ルフス・ドラコ > 大通りに入る道の幾つかのうち、
下水の蓋が壊れて直されぬまま、朽ちた看板が重なりあって縛り付けられている壁からビニールテープ越しにもたれかかってくるような、
そんな薄暗い通りから、少女が歩いてくる。
先ほどの少女と男の騒ぎ、その男が歩き去っていく方向でも有り。
二回りは体格が違うその少女を、男は大きく離れて歩くことで避けた。
「……そんなに変な表情してたでしょうか」
靴裏の赤い染みを、路上にこすりつけて薄めながら、先の少女が連れて行かれた屋台に向けて歩いて行く。
「すみません、こちらにさっきの女の子は――ああ、居た。移動するなら、連絡しておいて欲しかったのですけれども。」
「それはさておき。この間依頼した写真ですが、上手く撮れましたか?」
ルフスは平坦な表情のまま店主と客に無礼を詫びてから、
少女に話を切り出した。
依頼していたものを回収しにやって来たところで、
少女が裏路地から移動していた、と。そういう話。
別に少女に盗癖が有るとか、撮影するだけで危険なたぐいの相手だとか、そういうことは関係ないと、そういう表情で。
■惨月白露 > ドン、と啜っていたどんぶりを置くと、
追加でもう1杯注文する。
「―――おい、店主、おかわり。」
少女は、ただ彼の言葉を聞いて、泣きながらかけうどんを口に運ぶ。
ピクピクと惨月の頬が震えるが、届けられた次のうどんに手を付け、それを誤魔化した。
『はい、はい。そうなんです。
でも、そういう機会なんてなくて、
前科があったら捕まるだけなんじゃないかって、それが怖くて―――。』
と、うどんと鼻をすすりながら喋る少女を横目に、
フン、と鼻を鳴らして自分は二杯目のトムヤムウドンに手をつけながら、
隣の男にかけられた声に、返事を返す。
「ああ、確かになかなかいけるな、これ。
こっちも水―――は?有料?水ぐらいタダで出せよ。」
彼の言葉を聞いて店主に悪態をつきつつも、机にコインを一枚置く。
■惨月白露 > 声をかけられたスリの少女は、ビクッと後ろを振り向く。
『え、ええと、それは―――。』
少女は、彼女の言葉に目を逸らす。
それは、彼女から頼まれた事の失敗を示す。
『―――ご、ごめんなさい。』と、やがて小さく謝った。
■五代 基一郎 > >惨月白露
「逆に言えば、捕まるということは学園社会の法でどうにかってことなんだけど」
まぁ、ここも苦しいからなぁとやむ負えず二人分の水代も払って
水を飲みんで辛さを過ごし話を続ける。
「そこで学園社会の法で守られる学生にもなるってことだよ。
まぁもしお友達いればその人らと委員会街に来てくれてもいいし。
いないならこれから行ってもいいしさ。
前科あっても、償って学生になってくれれば言う事ないよ俺らも」
そうやって償って、学園社会の一員になって人らしく、不自由なく
学生らしく生きてくれればと言いつつPDAを出してさてまだ起きてる非番はいるか、と委員会街の風紀本部に連絡を取り始める。
「他はカレーうどんとかあるけど今このカレー、マッサマンカレーうどんとかでさぁ
それもまたうまいんだけど。グリーンカレー系が…って流石に3杯はいかんか」
>ルフス・ドラコ
そこで新たな来客が現れればちらと目をやる。
目をやるが、また少女とうどんに目を戻し。
だが新たな来客が何を求めていたかを、また何をさせていたかはわからない。
注意はしつつも連絡を続けた。
■ルフス・ドラコ > 「……そうですか。」
声音が変わることはない。言葉の調子が狂うこともない。
少女を見下ろす左目の視線が少しだけ赤くなった後、ルフスはすぐに目を閉じた。
「すみません、お邪魔をいたしました。用事が終わりましたので、私はこれで。
これは食事中につまらない話をしたお詫びです」
再び開いた眼差しは、暗く沈んだ焦げ茶色。
制服の内ポケットからマネークリップを取り出して一枚抜き取ると、屋台の店主に向けて差し出した。
「そうだ、良かったら水以外のものでも注文なさってください。店主さん、一つお願いします」
白露に向けて、愛想の一つもこもっていない言葉を上から投げかけて。
踵を返して、ルフスは屋台から離れていく。
「ああ、そうだ。」
去る途中で足を止めた。
路上に赤く、少女がいるはずだった裏路地でつい先程まで踏んでいたものの跡を残しながら、半円を描いて向き直る。
「失敗したとはいえ、ご無事で何よりです。
……ご無事なら、規定に従って違約金のお支払いを頂けそうですから。
貴方のお働きで、ですけれど。」
先ほど閉じた時よりも紅い眼差しが少女を見つめていた。
その額がどれほどなのかは、少女も知るところだろう。
■惨月白露 > 「まったく、阿漕な商売しやがる。」
辛いものを食べれば、水が欲しくなるのは当然の事だ。
商品の値段がやけに安いのが気になっていたが、
どうやら、この店は水で採算を取ってるらしい。
「―――ああ、こりゃどうも。ご苦労さん。
それじゃ、カレーうどんも食べてみようかな。」
五代と少女が話す会話内容で出てきたカレーうどんに興味が沸いたのか、
折角のおごりなら食べてみよう、と
顎を伝う汗を拭い、店主に向けて注文する。
■惨月白露 >
少女は、連絡する五代に向けて、
『ありがとうございます』と繰り返しぺこぺことお辞儀をしながら、
キッっと、ルフス・ドラコのほうを睨みつける。
『いいえ、もう、貴女には従いません。
私は、二級学生じゃなくて、正規の学生になるんです。』
『これ以上は罪を重ねないと、この人と約束しました。
そんなインチキ染みた違約金も払いません。』
―――そう、きっぱりと言い切った。
■五代 基一郎 > 「あぁ、そう。うん分かった。それじゃお願いね。」
と連絡が終わればPDAを仕舞いつつ少女に伝える。
「近所に丁度巡回してた風紀がいるから、彼らの所まで送るよ。
いや飯終わってからでいいよね。折角だし、お高い水飲みつつさ
うん」
新たな来客者を伺いつつ、万が一の事態を考えて巡回のに任せてだのとはしない。
目の見える所でそれを少女に伝えることでその情報がどういうことか
何を守るか理解できないものはいないだろう。
「あぁ水もう一杯、あとテンプラ追加で」
■ルフス・ドラコ > 睨む眼差しを受けても、紅い瞳は揺れない。
ただ、口角が少しだけ上がって、牙を剥くような、微かな笑いが漏れた。
「それはよかったですね。おめでとうございます。
こんな風にすぐ次に乗り換えられるような存在ではなくなるわけですね。」
「ですが……なにか勘違いされてるようですけれど。」
「二級学生であればそのように仰ることも構わないでしょう。
私だって訴えたところで応じる義務のない人をどうこうする気はありませんし」
「……ですけれども。
お互い正規の学生が、法に"触れない"範囲でなされた契約の違約金を支払えないというのは、都合がつきませんので。」
「これ以上は、また今度。学園でお話しましょうか。」
そうして再び得た学生証を手放した人間のことも、知らないわけではない。
「では。長々とお邪魔致しました」
今度こそ、深々とお辞儀をして、ルフスは去っていく。
大通りから繋がる道のうち、一番薄暗い路地裏へと。
ご案内:「落第街大通り」からルフス・ドラコさんが去りました。