2015/07/30 のログ
ご案内:「落第街大通り」に『室長補佐代理』さんが現れました。
『室長補佐代理』 > 歓楽街の一角。
通称では『落第街』と呼ばれるその大通りを、男は歩いていた。
公安委員会の腕章をつけたまま、堂々と。
住民から突き刺さる敵意と害意剥き出しの視線を気にすることもなく、ゆらりゆらりと夕闇を往く。

ご案内:「落第街大通り」に薄野ツヅラさんが現れました。
『室長補佐代理』 > 時折、往来を往く人影と肩がぶつかりそうになるが、向こうの方から避けていく。
公安委員会の腕章。その威力は折り紙つきだ。
誰もが避け、誰もが忌む権威の犬。
落第街において、それは関わり合いを避けるべきモノの証であり、誰もが目すら合わせようとしない。
それはここの『日常』であり、当たり前の何かでしかない。

薄野ツヅラ > ……──かつり。

不機嫌そうな表情を湛えて、落第街の喧騒で掻き消されるような細い杖の音を携えて。
夕闇に滲む男の影を追いながら、少女は今日も落第街を歩む。
公安委員の腕章をつける男とは対照的に、街の『背景』に溶け込むように。
敵意と害意を男に押し付けて、腕章をポシェットの中に仕舞ったままのんびりと後ろを歩く。

「ンッンー、相変わらず公安の腕章は凄まじいわぁ」

「アンタがしてるからかもしれないけど」、と付け足して笑い声を洩らす。

『室長補佐代理』 > 「遺憾ながら、此処の住民には昔から嫌われてるんでね」
 
振り返りもせずにそう嘯きながら、左肩だけを竦めて苦笑を漏らす。
左中指に嵌った銀の指輪が、紅い夕陽を受けて……鈍く光った。
落第街大通り。道行く人は、帰途を急ぐか家路を急ぐか。
普段なら、此処を通れば、その人混みには揉まれるばかりなのだが、今日ばかりは人混みの方から二人を避けてくれる。
その様、宛ら腫物が如し。
 
「薄野。今日の仕事は分かってるんだろうな?」

薄野ツヅラ > 「知ってるわぁ」

目を合わせることのない其の言葉の応酬。
きわめて普通に、いわめていつも通りに『日常』を描き出す。
紅い夕陽が赤いジャージに落ちる。男の指輪がちらちらと反射する陽に目を細める。
二級学生や少しのヤンチャな学生、──学生以外も見受けられる大通りはまるで参勤交代のように。
中央を歩く男に道を譲る。公安が、公正の象徴のような彼に、道を譲る。

「解ってるわァ、風紀の連中が根こそぎ引き上げた二級学生の適正審査。
 こういう切り捨てたりしなきゃいけないのが公安ってホント、
 風紀の連中はいい顔だけしてればいいから楽よねェ─……だから公安が嫌われるんじゃないかしらぁ」

気だるげに溜息を、ひとつ。

『室長補佐代理』 > 「現場は市井に愛されるべきだからな。これもまぁ適材適所だ。嫌われるのも俺達の仕事のうちってことだ」
 
溜笑声交じりの返事を溜息への返答にして、夕日に沈む落第街を往く。
まるで太古に語られる穢れの化物のように、人々から忌み、避けられながら、それでも往く。
時折、一瞥と共に舌打ちも飛んでくるが、気にする様子はない。
それらの日常は、気に留めるに値しない。
故に男は……嗤う。
 
「それより、道案内は頼んだぞ。このへんの地理には俺はあまり明るくないからな」

薄野ツヅラ > 「なんともそりゃご機嫌なモノで」

困ったように肩を竦める。遠くに見える時計塔は、もう既に夜を纏い始めていた。
嗤う男を不機嫌そうに見遣って。言外に不服だ、と言いたげな表情で。
住み慣れた其の街をゆっくりゆっくりと歩む。
ポシェットからチュッパチャップスを取り出して乱雑に包みを歯で破り、口に放る。
変わらない日常。変わらない癖。変わらない趣味嗜好。

「あ、えーと……
 確か其処を左に入ったところのビル。
 面接会場、って風紀が用意した会議室があるわぁ。で、一つ上の階で個別に面接」

『室長補佐代理』 > 「座って話を聞くだけの楽な仕事だな」
 
冗談めかしてそう嘯いて、少女の道案内に従って往来を左に曲がる。
すぐに表れた薄汚れた古いビルの正面玄関をくぐり、ロビーで管を撒いている面接待ちの二級学生たちを一瞥する。
当然ながら、誰も彼もが目を逸らす。
その様を見て、男はまた皮肉気な笑みを浮かべて、肩を竦めた。
それはもう、可笑しそうに。
 
「顔見せに来たってのに、目を合わせても貰えないってのは寂しい限りだぜ。
なぁ薄野。此処の連中ってのはみんな対人恐怖症か何かなのか?」

薄野ツヅラ > 「ボクは生憎楽じゃないけどぉ」

かつりと杖を鳴らしながら溜息を漏らす。
本日何回目かも解らないような溜息。真面目に公安の仕事をするのは精神的にも疲弊すれば、楽しいものではない。
風紀委員が無条件に掬い上げ、手を差し伸べた二級学生は公安委員には如何やら何かアレルギーがあるのかもしれない。

彼らに──公安委員会直轄第二特別教室に振られた仕事は、其の掬い上げられた二級学生を篩に掛けることだった。
1年間の学費免除を謳い、学生寮に入れるといった好条件を聞き、正規学生への引き上げを風紀委員に望んだ人間の審査。
当然のように無条件に二級学生を引き上げることなどできやしない。
嘗て殺人を犯しているかもしれない。嘗て薬の売人をやっているかもしれない。嘗て────

そんな彼らの過去を『調査』する。
其れが公安委員会直轄第二特別教室─『調査部別室』に求められた仕事。

「アンタが悪いんじゃないかしらぁ、公権力の象徴が歩いてるんでしょう?
 そりゃあボクだって上司じゃなかったら明らかにイヤな顔するわぁ」

かつり、と二階に向かう階段を上る。
可笑しそうに笑う男とは対照的に、極めてけだるそうに。

ご案内:「落第街大通り」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 > 乗りかかった船、というか……
どうやら先日の仕事や自分の過去もあってか、二級学生の面倒を見させられる羽目になった。
あー、面倒くさいなー、と思いながらも監視をしていると二級学生とは思えない来客がくる。

「……おンや? おや、おや、おヤ。
 公安の人かネ。ドーモ、どーも。お仕事ゴクロー様ですヨ。」

見れば、公安の人間であることも分かる。
仕事は……まあ、篩かけだろう。
一応、挨拶をしておかないとかね、と思いながら挨拶する。

「ま、光やら公権力やら二反射的に敏感にナルのは、この辺の連中のクセなんだから……
 あんまリ、いじめナイでやってくれナイかネ?」

『室長補佐代理』 > 「そういえばあったばかりの頃の薄野はそんな顔してたな」
 
それほど昔でもないはずだが、既に諸事情で『穴あき』になっている過去のあれこれを想起しつつ、階段を上って会場へと向かう。
当然その間にもまた二級学生たちに胡乱気な視線を向けられるが、気にした様子もなくじわりと嗤う。
それに返される視線がないのは、残念ながら、とでもいうべきか。

会場に入り、面接官の札が下がった席に腰掛けながら、話しかけてきた警備の風紀委員に片手をあげて挨拶を返す。

「苛めるだなんてとんでもない。いつだって、俺達はただ仕事をしているだけさ」
 
そういって、曖昧に笑う。
実際、これはただの仕事であって、それ以上でもそれ以下でもない。
良くも悪くも、男はこの仕事に何の感慨も抱いていなかった。

薄野ツヅラ > 「今も方向性が合わなくなったらそんな顔するわぁ──……
 公権力だって嫌いなのは変わってない訳だしぃ」

男に胡乱気な視線を向ける二級学生ににこりと笑顔を浮かべる。実に手慣れた営業スマイル。
男の後に次いで会場に入れば、風紀委員の少女が目に入る。
彼女の出自も過去も知らない彼女にとっては公権力の下で働いている人間だ。
厭そうな表情を浮かべて小さくぺこりと礼をひとつ。
ぽす、と男の横に腰掛けて気だるげな表情に戻し乍ら、口に放ったままのキャンディを噛み砕いた。

「何もしてないわぁ、とんだ風評被害ねェ……」

表情を変えることもなく、ただただぼんやりと。
彼女にとっては同郷の人間に向き合う仕事は、男と違って気が重い。
公平な目で、自分を殺して人の想いを覗いて判断しなければいけないこの仕事は、ただただ重い。

園刃 華霧 > 「仕事……仕事、ネ。ま、そりゃそのトーリ。其の点についちゃ、アンタが全面的に正しいサ。
 世の中ニャ、その言葉ドーリ受け取れない連中が居るってダケのコトでネ。」

やれやれ、と肩をすくめてみせる。
なるほど、この男は如何にも公安たる、な人物らしい。
一緒にきた女の言い分じゃないが、イヤな顔をされるタイプだな。

「そーそー、申し遅れたケド。今回の警備担当、風紀の園刃華霧だヨ。
 今日は宜しく……あー……お願いしまス?」

敬語とかは未だに苦手だ。
というか、そんな文化、ここ二年でようやく触れたんだし。
不快にするかなー、とか思いながらもしょうがない、とも思う。
まあちょっと態度の悪い風紀だな、くらいに思われてオシマイ、かね。

「ま、風紀も公安も警戒されンのは同じなんだケドね。
 公安サンのほーが、怖がられ度は高いカモな?
 あー、別にアンタらが悪いってワケじゃナイよ?」

風評被害だとぼやく女に、苦笑していう。
昔の自分だってそうだったし、正直なところを言えば今だってあんまり気分は変わらない。
公安と相対するっていうのは実に面倒くさい気分になる。
だから、この場にいるのだって勘弁、なところはある。
その上、ここは……かつての自分みたいな連中がいて、それが裁き、捌かれる場でもある。
本当に、居心地が悪い。

『室長補佐代理』 > 「よろしく。こういう場だと結果如何によっては実力行使って輩も珍しくないんでね。
遺憾ながら警備としての仕事が必要になったときは期待させてもらうよ。
俺達調査部は荒事の類は苦手なんでね」
 
そう、名乗り返しもせずに、左肩だけを竦めて苦笑で返す。
左中指に嵌った不気味な銀の指輪が、鈍く輝いた。
右手はポケットに突っこんだままで、公安の男もまた決して態度が良いとは言えない。
しかし、そのせいなのかは知らないが、風紀警備の態度や言葉遣いに思うところはなさそうである。
 
部下と警備の心中とは裏腹に、男はいつものようにじわりと嗤う。
そして、一層深く椅子に腰かけてから、部下の少女に声をかけた。
 
「薄野、準備がよければ今日の連中を順番に通してくれ。手早く終わらせよう」

薄野ツヅラ > 「ヨロシクどーぞ」

上司が名乗ったのを見遣れば、自身も其れに続くように其れだけ、ひとつ。
大抵のことは上司が代弁してくれた。其れ以上自分が言うこともなければ仕事だ。
特に深入りする必要がないのならば、彼女は名乗ることはない。
此れは上司も部下も同じだった。

「ハイハイ、さくっと終わらせてさくっと帰って経費で美味いモン食べに行きたいし」

「どうぞー」、と先刻よりも幾らかトーンを上げて二級学生に声を掛ける。
入り口から入ってきたのは実に二級学生らしい、首に紫のバンダナを巻いた少年だった。
見てくれで解るのは落第街では其れなりに有名な旧時代のカラーギャング。
生きた情報を知らずに掬い上げたりするからこんなとこにこんなのが迷い込む訳でしょう、と内心笑いを洩らす。

「えーと、別に何をする訳でもないから楽にしててねェ」

にこり、笑顔を浮かべて上司に手元に準備されていたファイルを手渡す。
先日の一斉引き上げで学園側に自己申請した内容。

[名前:津々浦 傑] [犯罪歴(自己申告):なし]

書類の下部には面接を行った面接官の所見と其の是非を書き記す欄。
溜息交じりに、二級学生の面接は始まった。

園刃 華霧 > 「ま……底から這い上がローとして蹴落とさレたら、自棄を起こすのもおかしくナイんじゃナイ?
 アンタは諦めて落下するかネ? ……って、まー言われないデモわかってるとは思うけどサ。
 まあ、荒事の時はせーぜー頑張るサ。」

どうも余計なことを口走ってしまう。
空気が悪いのか、環境が悪いのか。
そんなことを一瞬思うが……まあ、いいか。忘れよう。
にしても、どっちも名乗らないとか……
公安の秘匿主義もあるんだろうけれど、まー、だから感じ悪く思われるんだろうに……などと思ってみた。
思ってみただけだけれど。

「ほいほイ、そんじゃ始めテおくレ。
 アタシもさっさと終わらせて、さっさト帰りたいしネ」

実に怠慢なことこの上ないが、正直なところを述べて様子見に入る。
なんとはなしに一人目を見れば……おいおい、いきなりカラーギャングかよ。

『室長補佐代理』 > 「申請却下。次」
 
申請書類をみてから二級学生の顔に一瞥だけくれて、即座にそれだけ告げる。
二級学生と言葉を交わしすらしない。
当然、二級学生は憤懣やるかたないといった様子で男に食って掛かろうとするが、男はじわりと微笑むのみ。
そして、くいっと顎で示せば、その先には風紀の警備が控えている。
それで、威圧には十分だ。
 
「つまみ出せ。薄野、そいつが終わったら次だ」
 
そう、風紀の警備にまた一瞥をくれて、嗤う。

薄野ツヅラ > 「あッは」

情も慈悲も何もなく下された公安の判決に、特徴的な笑い声が零れて落ちた。
本来、学生同士の生活が脅かすであろうな人物は二級学生の引き上げは行えない。
此れは学生の安全を守る為であり、彼女も間違ってはいないと思っている。

無慈悲な判決を他所目に、次の二級学生へと声を掛け、ファイルを手に取る。
此処からは流れ作業だ。自分でも解るような法外の人間は上司が十分に裁く。
自分の異能を使うこともなさそうだ、と半ば安心したようにまたファイルを手渡す。

[名前:安良岡 紬] [犯罪歴:なし] [本人追記:一時期落第街の娼館で働いていた経験あり。
                     学費を稼ぐために半年ほど水商売をしていた]

「はい、じゃあ次」

ご案内:「落第街大通り」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 > 「……やー、容赦ないナー」

容赦なく津々浦くんの首を腕で抱きかかえるようにして、ご退場願いながらそう独りごちる。
思った以上に早く進みそうだナ……

『室長補佐代理』 > 無能力者同然な上にカラーギャングなんて問題外だ。
使えそうにない奴は話にならない。
慈善事業ではないのだ、学費を納めるアテも特別な能力もない輩を無作為にひきあげるわけもない。
カラーギャングの恨みがましい視線をうけながら、じわりと男は嗤い、次のファイルを受け取る。
 
「ふむ……まぁ、学費を稼ぐ意志はあるようだな。承認。次の審査に回せ」
 
当然ながらこんなものは一次審査のうちのそのまた一つに過ぎない。
一年間の学費免除なんて破格の待遇がつくのだ、審査が慎重になるのも当然といえる。

園刃 華霧 > 「娼館……そーいや、バーさんのやってる店があったっけカ……
 でも、ありゃたっかいのだったっケ……?」

なんとなく、思い出しながら呟く。
手っ取り早く稼ぎたかったらそれもありだ、みたいなことを言われたっけなあ昔……
行為云々より、そもそも見も知らぬ相手に奉仕するような活動を出来る気がしなかったからお断りしたけれど。

「はいはい、お嬢サンはコッチねー。いってらっしゃイ。」

次の審査に向かうものへと行き先を案内する。
安良岡ちゃん、よかったね。

「コッチはコッチで即決なのナ。まあでも、なんとなく大雑把な篩い分けは想像ついたかナ……」

薄野ツヅラ > 「じゃあ次──……」

まるでベルトコンベアに均等に荷物を並べていくように。淡々と、公平に審査は進む。
次に手に取った二級学生の異能とデータを見て顔を顰める。
直ぐに其れも取り繕いながら、ひょいと上司に差し出す。
喜び乍ら、「ありがとうございます」と礼をしながら去る女生徒には小さく手を振る。

「……なんというか」

[名前:卜部 章大] [犯罪歴:非合法薬物の販売] [本人追記:異能【空間転移】
                             50m間隔の細かな空間転移を可能とする]

使いどころがありそうだけれども。此れはどう判断されるやら──とまた、内心で一人ごちた。

『室長補佐代理』 > にやりと、男は嗤った。こういう輩も来るというのは、最早そう笑うほかない。
 
「特別承認。別室の審査室へつれてけ」
 
そういって、薄野に一瞥を返す。
特別承認といえば聞こえはいいが……これはようするに『確保』のことである。
そのまま荒事慣れした連中が待機した部屋に押し込まれて留置所に直行だ。
理由はどうあれ犯罪を犯しているのなら当然といえる。
そんな奴でも、こうやってのこのこ顔を出すあたり、風紀のやり口はある意味でいえば正しいのだろう。
悪意を感じさせない剥き出しの善意は、こういう輩に本来備わっていて然るべき危機感すら奪い去る。
その結果、間抜けはこうして自分から檻に入ってくれるのだ。
 
「次」

園刃 華霧 > 「あン……?」

呼び出しをする公安の女の方が、一瞬止まった。
よっぽど面倒なのが来たのか……?

「ァー……うワー……」

確か、薬物取引とかやってたヤツだろ、アレ。うっわ、マジか。
馬鹿なの?馬鹿なんじゃないの?
通した奴も馬鹿だけれど、ノコノコ来る方も相当の馬鹿だろコレ。

「へーへー、特別承認イッチョー。ご案内はコチラー。天国へヨーこそぉン?」

うん、予想通りの裁定だわな。
そんな妙なセリフをぶちかましながら地獄への扉を案内する。
さようなら、さようなら卜部くん。諸行無常。
もう二度とあわないかもしれないね。
彼を送り出してから、やれやれ、という視線を……いや、向けるのもどうかと思ったけれど公安二人に送る。
元はといえば、こっちの不始末みたいなもんだけど。

薄野ツヅラ > 特別承認、と聞けば困ったように笑った。
事前に話はされていた。『もしかしたら』の可能性。
本来備わっていて然るべき危機感を失った『犯罪者』が来るかもしれない。
───現に、来た。
風紀委員会の一斉引き上げがある意味公安委員会の一斉検挙になるかもしれない、という話。
其れだけ現状の落第街は甘い話に飢えていて、悪事を働いていても人間らしい生活を望む人間がいる、という現実。
正直、顔を顰めざるを得なかった。
こんなアタマの回らない奴が薬の売人をやっていたのか、と思えば。

「甘いわァ」

思わず、口に出る。
上司の次、との声を聞けば、急いでファイルを手繰る。
風紀の彼女の視線には当然のように気付かないフリをする。

[名前:津田 薫] [犯罪歴:軽度の傷害事件1件] [異能:サイコメトリ 
                     触れた物質から前後に関わったものの記憶を読み取る]

自身と同じ精神系統の異能を持つ少年を前にして、笑顔が固まった。

『室長補佐代理』 > 「砂糖漬けにしてやれば、誰だって甘くなるのさ。微温湯と同じだ」

風紀のくれた飴をしこたま食った結果、そうなることもある。
体液にまで糖が回ればもはや手遅れ。見ての有様だ。
部下の懊悩をみつつも、風紀の警備に肩を竦めて一瞥を送る。
まぁ、こういう仕事は持ちつ持たれつだ。
結果が伴ったのなら、それ以上いうことはない。
 
だが、次の書類を受け取れば……体の強張った部下に目を細めてから、男は目前の少年に向き直る。
そして、男は恐らくはじめて、今回の申請者に対してまともに口を開いた。
 
「津田といったか。傷害事件について、少し詳しく聞かせてもらおうか」
 
部下に一瞥を送る。無論、津田の言葉の真贋を確かめるためだ。

園刃 華霧 > 「……」

どうしても、昔から物音や話し声には敏感にならざるを得なかった。
甘いわァ、という言葉を聞けば……まあ、全くその通りだな、と思う。
風紀の差し出す甘い蜜に、妙なのがたかりに来た……事実としてはそれだけの話だけれど。
身の程知らずが乗ろうとするっていうのは実に笑い話でしか無い。
しかしまあ、慈善事業が悪人の炙り出しに貢献するっていうのも大分皮肉っぽい笑い話だな。
……あの真面目できちんとした同僚がこの場にいなくてよかった、なんてつい思ってしまう。

「……ふン?」

こちらが送った視線に反応したのは意外にも男の方だった。
どちらもガン無視か。さもなきゃ女の方が反応するかと思ったんだが……
これは少し、認識を改める必要があるかな。
なるほど。この男、酷く事務的だけどだからこそ、良くも悪しくも平等なんだな。

その男が、わざわざ口を開いて質問をする――
ってことは、この少年、なんかあるっぽいってことか。

薄野ツヅラ > 「ええと、津田君だっけェ?」

たどたどしく、先刻までの余裕を見せることはなく、変に困惑したように。
上司の一瞥には小さく頷いて応える。

「ココから先は嘘偽りなく答えてほしいんだけれど──……」

幾つかの問答を挟む。
傷害事件の詳細。にこりと少年は愛想のいい笑顔を浮かべて、大げさに話し出す。

『はい、勿論しっかり話します。引き上げてもらえるなら嬉しいですし───
 何があったかは、ちょっとした過剰防衛です。
 いきなり喧嘩に巻き込まれたから、手元に持っていた小さいナイフで刺しちゃって。
 当たり所が悪かったみたいで───』

流暢に紡がれる不信感を隠そうともせずに、少年の顔をジイ、と睨む。
最後に残された『信じてくれますよね』、の声を聞きながら視線を手元に落とした。

『室長補佐代理』 > 一通り、津田の言い分を聞いて、男は頷く。
落第街に関わらず、この常世学園では武器の携帯はほぼ当たり前だ。
なにせ、ここは武器よりも危険な異能や魔術の暴徒が闊歩する箱庭の実験場なのだ。
ナイフ程度ではむしろあってもなくても大差がないとすらいえる。
だがまぁ……そこは今はどうでもいい。
 
「なるほど、災難だったな、津田くん」
 
気のない返事をそう返しながら、薄野の顔を見る。
無論、結果を知る為に。

園刃 華霧 > 「……なんダ?」

傷害なんて、まあこの辺りじゃ日常茶飯事なことではある。
とはいえ、それを聞かれて此処まで流暢に話せるっていうのは、それだけで胡散臭いっていうのはよく分かる。
……が。それを話しだす前から女の方の態度は妙な感じだった。
なんだ? 別に知り合いってわけでもないよな……?
それとも、何かに心当たりでもあるのか。

「……」

しかしまあ、この会話でなにを見ようとしているのやら……
ま、口出しするのは仕事じゃないし放っておこう。
ただ……ちょっと壁だけは張っておくことにする。
意味は無いかもしれないけれど。

薄野ツヅラ > 信じたいのはやまやまだった。
自分がいなければ彼は屹度当たり前のように審査を抜けられていたかもしれない。
自分が真相に手を伸ばさなければ彼は楽しく学生生活を送ることになっていたのかもしれない。
其れでもあくまで"仕事"だ。疑わしきは罰せず。其れが常識である。
其の疑いを晴らすことが出来るのも、罪悪を証明出来るのも、今は自分しかない。

「………、精神掌握。区分009──情報強奪/該当人物の持っている『情報』を引き出す」

ゆらりと頭を上げて、口に含んでいたキャンディの棒を引き抜く。
幾らか噛まれて痕の付いたキャンディスティックを、まるで指揮者のように振るう。
同時に、膨大な彼の抱える『情報』が頭に直接叩き込まれる。
彼の人生が、彼の愛する人物が。彼の──犯した罪が。

「特別承認、よぉ」

小さく、溢す。
再生された其の情報は、彼が紛れもない『犯罪者』であることを証明していた。
自身にしか解らない、何の根拠もない其れ。『そう云う異能である』という其れだけの根拠。
彼が、幾人もを手に掛け。幾人の女性を買って、売って。
───この場では。自分しか裁けない罪を、裁く。

『室長補佐代理』 > 部下のその言葉を受けて、男は深く溜息をつく。
薄野ツヅラがそういった。異能を用いた上で、そういった。
彼女は落第街の人間だ。故に、『擁護』の可能性はあるが、その逆の可能性は低い。
絶対ということはない。推測の域は出ない。
だが、それでも、異能を用いた上で『そう』いったのならば、それは状況として肯定できる。
個人的な信頼とも合わせれば、状況証拠としては十分だ。
男は、そう判断して静かに頷く、
 
「特別承認だ。別室に連れて行ってくれ」
 
風紀の警備にも一瞥をくれて、そう指示を出す。
部下には、あえて目を向けずに……ただ一言、告げる。
 
「御苦労。いい仕事だ」
 
ただ、そう、一言だけ。

園刃 華霧 > 「……」

あの男が、部下らしき女に判断を委ねた。
はなっから疑わしくはあったけれど……ソイツを断定するってことは……
アイツには"そういう"能力があるってことだな。
ま、詮索は無しだ。
してもしょうがないし。
それよりも……

「んジャ、特別承認のお部屋へご案内ーか、ネ。」

その復唱の前、男はため息を付いた。
どんな心理かしらないが……この、事務精神の塊みたいなヤツも思うところがあるんだな。
感じ悪いってのは少しだけ取り消しておこう。

「へい、ボーヤ。こっちナ。」

しかし、特別承認ね。無害そうな顔して、裏じゃどんなことやってんだか。
……ま、そんなのは此処でも向こうでもやる奴はやるってモンだけどさ。
そんなことを思いながら、地獄への扉をまたしても案内する。
容赦してもしょうがない。そういうモンだし。
相手は同胞?気分が重くなる?
上等だ。だったら、ヘラヘラと、笑っていこうじゃないか。
ソイツは大得意だ。

薄野ツヅラ > 「そりゃドーモ」

重く、ただ深く溜息と共に少年をちらりと見遣る。
『特別承認』の意味を知らない彼の嬉しそうなしたり顔を見ながら頭を垂らす。
残ったファイルをまた乱雑に手繰り寄せながら上司に手渡した。
正直ひどい吐き気がした。自分の言葉一つで、是にも非にもなる。
そんな決断を只管している、自分の横に座った男と自分はまた別種の生き物なのではないかと、思ってしまった。
相手が落第街の人間であっても、学生街の人間であっても自分の異能は変わることはない。
仲良くなりたくても其の思考の奥底が見えてしまう。知ってしまう。

「えーと、次は──」

取り繕うように言葉を並べる。きわめて明るく、努めて明るく。
またひとり、ひとりと判断を上司に委ねていく。

ご案内:「落第街大通り」に惨月白露さんが現れました。
惨月白露 > [名前:惨月 白露]

[犯罪歴:殺人、薬物売買、売春、恐喝、性別詐称による女子寮への不法侵入……他]

[異能:アクセルタイム 自分自身の時間を加速させる。]

ぺらぺらと捲っていく資料に、そんな1枚が入っている。
呼べば、その書類の人物はその部屋に入ってくるだろう。

今までの二級学生と同じように。

『室長補佐代理』 > サイコメトリなんて強力かつ『公安』向きの異能を持っている以上、あの少年はいずれにせよ長く獄中にはいないだろう。
確実に司法取引が行われ、どこぞの部署に取り込まれる
無論、二級上がりの暗部として。
そこからは働き次第ではあるが……いずれにせよ、学生らしい未来が望めるとは思えない。
それでも、男は特にそれ自体には気にした様子もなく、ただ部下を一瞥するにとどめる。
それくらいは、どうでもいい。日常だ。
だが、部下がそれによって精神的動揺を被り、使い物にならなくなるのはあらゆる意味で困る。
部下の心情を知ってか知らずか、その明るい声にただいつも通りに頷いて、また椅子に座りなおす。
風紀の警備にもまた目礼を返して、声を欠けた。
 
「次」 

園刃 華霧 > 「……」

女の浮き沈みが激しいな。
素性は知らないけれど、ただの公安ってワケでもないのかね。
だから、名前くらい教えろっての、もう……
いや、だからこそ教えないのかねえ。
そんなことを思いながら様子をうかがう

薄野ツヅラ > 「えーと、惨月さんどうぞー」

ぱしん、と自らの頬を張って、またひとつ名前を呼ぶ。
"仕事"と"個人の感情"は別物だ。切り離さなければいけない上に何処かの誰かがやらなければいけないことだ。
故に、自分の感情は押し殺さなければいけない。出来るようにならなければいけない。
其れが今、自分がこの快適な地位に居座る為の条件であり、やるべきことだ。

ファイルをぼんやりと眺めながら、また上司に手渡す。
今までの二級学生にしてきたことと全く同じように。

惨月白露 >  
室内に入ると、審査の席につく。

「惨月白露、犯罪歴、異能は申請書類に書いた通り。」

そう名乗ると、目の前の3人をしっかりと見据えた。

『室長補佐代理』 > 白磁を思わせる肌。蒼穹のような瞳。
そして、黒のメッシュの入った白髪と……異形の耳。
 
「異邦人か」
 
入室したその少年を一瞥して、男は目を細め、部下から受け取ったファイルに目を通す。
罪状は、まさしく数え役満。
殺人と薬物売買だけでもおつりがくる。
特別承認は免れないが……それを鑑みても、異能を見れば、即決即断というわけにもいかない。
異邦人という立場も、無論関係してくる。
 
「随分と賑やかな来歴だな、惨月君」
 
そう、苦笑交じりに口を開く。

園刃 華霧 > 「へぇ……?」

男が苦笑交じりに口を開いたこともさることながら、この堂々とした態度。
この惨月っていうのは、ただのふてぶてしいヤツってだけじゃなさそうだ。
……まあ、かつての自分もこんな態度だったような気がしないでもないから、アテにはならないかもしれないが。
にしてもどんな罪状なんだ、ちょっと気になってくるぞ。

まあとりあえず、精々会話をじっくり聞かせてもらおう、と思った。

惨月白露 > 「つけ耳つけて審査に来るような
 愉快なヤツの書類には見えないだろ。それ。」

「異邦人か」という言葉には肯定の言葉を返す。

「職歴は無いよりも多いほうが信用できるだろ?
 必要なら、『…他』の部分もお話するけどな。」

そう、ただ肩を竦める。
『全部事実だ』と肯定するように。

薄野ツヅラ > 「随分とご機嫌ねェ」

堂々と、且つ凛とした表情で、真っ直ぐと此方を見遣る少年を、ただ見返す。
書類に関しては問題はなくこの調子なら『特別承認』だ。
異能も強力。この状態で公安委員の実働部隊が入ってきてもおかしくはないだろう。
──されど。

「………、理由はあったのかしらァ?」

砂糖塗れの、ガムシロップ塗れのアイスティのように。
先刻は隠した甘さが。──上司の危惧していた『擁護』が、ちらりと顔を出した。

惨月白露 > 理由を問われれば、苛立たしげに眉を顰める。

「理由なんて二級学生だから、意外には無いだろ。
 二級学生ってのは、大抵そういう風に誰かに使われるもんだ。
 
 ―――公安委員会の奴らは、
 そんな事も知らないで二級学生にインタビューしてるのか?」

やれやれ、と首を振る。

「俺は、そういう罪状があるのはそもそもと前提として、
 そいつが有益なやつかどうかを判断して、
 『二級学生』を落第街の奴らと同じように使うために、
 わざわざ『二級学生』を集めて話を聞いてるんだと思ってたんだけどな。」

両手をあげると、ははっと笑う。

「少なくとも、俺に申請を出すように薦めて来た
 風紀のヤツはそう言ってたぜ。」

『室長補佐代理』 > 「機会あればそっちも『あとで』是非聞かせてもらおう」

惨月の物言いを受けて、即座に風紀の警備に一瞥を送る。
『分かって』きている手合いだ。
ならば、『手荒な真似』を辞さない可能性もある。
先ほどの件で動揺したのか、途端に日和だした部下にも一瞥を送ってから、惨月の目を改めて見る。
 
「さて、惨月君。開き直るということは腹の探り合いに来たわけでもないんだろう?
何が目的できたのかな?」
 
砂糖漬けの手合いとも思えない。
いや、これだけの罪状が並んでいれば、頭に茶菓子がつまってても『黒』だなんてわかりきっているはずだ。
となれば、此処に来た理由は自然としぼれてくる。
 
「『話し合い』かな? それとも、『保護』かな?」
 
司法取引か。
何者かに追われていて、わざと獄中に逃げ込みたいのか。
そう、遠まわしに聞いてみる。
風紀の薦めなどといっているが、実情を確認できない以上、それはどうでもいいことだ。

園刃 華霧 > 「……あー……」

ちょっと真面目にやらないといけないワケね。
OKOK、了解したよ公安の旦那。
と、そんな感じが……伝わるわきゃないよなーと思いながら、ちょっとだけ首を動かす。
久しぶりに真面目に資料を見れば……ワォ、マジならすげー異能だな。
立ち位置は……まあ、この距離なら"壁"も張れる……か。
ちと疲れるけれど予防線は少しだけ用意しておくかね。
少しだけ、気合を入れる。

惨月白露 >  
「『何しに来た?』って、
 俺は申請を出したら審査をするから来いって言われたから来ただけだぜ。

 『保護』するにしても『話し合いする』にしても、
 それが必要かどうかを判断するのはそもそもそっちだろ。公安委員。」

はぁ、とため息をつき。

「俺は罪人で、お前らは法の番人だ。立場を考えれば分かるだろ。
 ―――俺はただ単純に裁かれに来ただけだぜ。
 
 その裁いた結果として、『保護』が必要だと思ったらすればいいし、
 『話し合い』が必要だと判断したならそうすればいいだろ。」

薄野ツヅラ > 上司の一瞥に気付けば、また数えきれないほど吐いた溜息をひとつ。
現状、自己分析すれば自分の精神状況が正常でない、というのは理解できる。
故に、押し黙る。自分の出る幕ではない。

「任せるわぁ」

小さく横の上司に対して言葉を落とす。
堂々と罪状を並べて、堂々とこの場所に足を運ぶなら何かしら理由があるだろうという先入観。
先刻の嘘を吐いた少年と比べて、どうしても甘くなってしまう。
そんな先入観に囚われた人間は現場には必要ない。
頭が冷えるのを待とう、と。また新しくキャンディを口に放った。

───オオカミ少年ではありませんように、と。

『室長補佐代理』 > 「なぁるほど。思った以上に『正直』な手合いってことか。狼少年というにはシャレが効き過ぎだな」
 
なら、腹の探り合いをしても本当にしょうがない。
大上段から振り下ろしてきているそんな手合いに『建前』を言っても無意味だ。
 
「薄野。園刃と並んで出口を固めろ。そいつが妙な素振りを見せたら『処分』していい。
どうせ戸籍の無い相手だ。『居なくなった』ところでなんでもない」
 
故に、じわりと笑ってそう告げて……伽藍洞の瞳を細めて、惨月の目を見た。
汚泥を思わせる滴る笑声が、その輪郭を舐める。
  
「さて、それじゃあまずは話し合おうか、惨月君。
単刀直入にいおう。君は真っ黒だ。生憎と審査結果は豚箱ですらない。
戸籍の無い君に裁判はない。その場で『処分』だ。わかりきっているはずだな?
しかし、同時にもう一つ君は分かりきっている故にここにきた。
君の恐らくの予想通り、君の異能は優秀なものだ。取引材料として差し出すならまぁ、『善処』はしよう。
そういう答えを期待してきたと、考えてもいいかな?」

園刃 華霧 > ――はっはっはっはっはっ、裁かれにキタとか面白レーな。
――しっかりしてくれヨ、ここは裁判所じゃないンだゾ?
……とまあ、思わず口をついて出そうになったが、色々怒られそうな気がしたので自重した。
凄い、自重できた。アタシすげー。

……が、まあ。
自覚した上でこんな話を持ってきたってのは……コイツ、試しに来たのか?
自分を。公安を。勿論風紀も。
ひょっとすれば、コイツに提案したっていう風紀委員個人も試してるのかもしれんね。

「へーへー、固めルのネ。固めルしんぷるー」

へらへらと、公安の男の指示に変な受け答えをして少しだけ立ち位置を変える。
ついでに、あの女は薄野っていうのね。
しかしまあ……すっげーストレートに殴りにいったなコイツ。
さて、そいつが悪手かどうか……