2015/07/31 のログ
■薄野ツヅラ > ゆっくりと。かつりと音を鳴らして、杖を片手に立ち上がる。
現状、彼の云っていることは紛れもない正論であり、間違っていることはひとつも存在しない。
疑問は残る。彼の言葉を知りたい。
何を思って、何を考えてこの場で『裁かれに』来たのか。
「………、」
何も云わずに、黙って出口にゆったりと寄り掛かる。
この場に於いて自分自身の、『個人』の思想は必要ない。『公安』たる上司の思想だけで構わない。
自分を殺して、腰に下げたポシェットから鈍く光るリボルバーを取り出す。
最近見る機会もなく、平和に過ごしていただけに一瞬顔を顰めてしまう。
本来備わっていて然るべき危機感を失ったのは自分もじゃないか、と自嘲しながら。
甘くなったのは自分もじゃないか、と自嘲しながら。
■惨月白露 >
「『狼少年』ってのは別にそいつが狼だったわけじゃないだろ、
むしろ、そいつは『狼』に喰われた側だ。
―――本物じゃない悪人は、本物の悪人に喰われるってな。」
はっと笑って、足を組む。
「そんな心配しなくても『妙な素振り』なんてしねーよ。
狂獣を見るような目には見られなれてるけどな、
そこまで露骨にやられると俺も傷つくぜ。」
脅迫染みた男の言葉に苦笑いを浮かべると、
蒼みがかったグレーの瞳で、その瞳を見返す。
「ああ、当然、『処分』されるのは覚悟の上で来てるさ。
最悪それでもかまわないってくらいの気持ちでここに来た。
まぁ、一応、惰性で生きてたけど、ここらで誰かに止めて貰えねぇと、
いつまでもその犯罪歴の欄に書き込めるキャリアが増えていくばかりだからな。
そんな狼を拾って首輪をつけて飼いならすっていうなら、
もちろん、それはそれでかまわねぇよ。俺はお前らに裁かれに来たんだからな。」
■『室長補佐代理』 > 「根が臆病なんでね。『狼』の相手なんて慣れてねぇのさ。
まぁしかし、なんだ……要約すると、自首しにきたわけか?」
風紀の誰がいったのかはしらないが、ようはその誰かの薦めで自ら『断罪』をうけにきたわけだ。
この少年の事は全く持ってわからないが、言い分だけを『馬鹿正直』に受け取ればそういうことになる。
ようは、捨て鉢。もしくは、嘲弄。
いずれにしても、対応は同じだ。
「まぁ、そういうことならもう話し合う事もないな。『特別承認』だ。
続きの『話し合い』は向こうでしてくれ」
そういって、薄野と園刃にそれぞれ一瞥を向ける。
この少年の真意はともかくとして、対応は変わらない。
変える必要もない。
■園刃 華霧 > 「へーい、よろしクー」
何も言わず出口により掛かる薄野嬢に、とりあえずフランクに声をかける。
答えは期待していない。どうせスルーだろうなー。
にしても……リボルバーなんて物騒なモン持ってる割に、顔を顰めたりとか……
意外と平和慣れしてるのかね……?
「なんで悪いコトをしちゃいけないカ。そりゃ、ホントに悪いヤツの格好の餌食にナルからサ……ってカ」
惨月の言い分に呟く。まあ、そうだよな。
悪い奴の喰い合いなんて此処じゃ日常茶飯事だし、それこそ本物でも喰われるときは喰われる。
それにしても、こいつ冷静だな。下手すりゃ容赦なくこの世とオサラバ、な事態もあるってのに。
自暴自棄ってわけでもなさそう……だよな。
なんか気持ちを切り替える転機でもあったのかね。
「ふーン……クールなこっテ。まあ、そりゃそーカ。
それが"お仕事"だもんナー。」
冷徹にくだされた結論。
まあ確かに状況だけ考えりゃその通りなんだよな。
しかし、更生の可能性あるんじゃないのかねー、これって。
……だから、あえて。
惨月の反応があるまで、動かない。
■薄野ツヅラ > 彼が──『公安委員会』がそう云うならばそうなのだろう。
自分はヒラの調査員で室長補佐代理と云えど、彼の意見に異を唱える権利はない。
そして此の判断は紛れもなく『正しい』。
園刃の言葉に小さく頷いて杖に体重を掛けつつ、ゆっくりと出口の扉を開く。
「………、こっちよぉ」
別室に待つ、荒事に手慣れた人間の待つ「審査室」へと案内しようと。
何が出来る訳でもない。此処で口火を切れば自分の立場も危ないだろう。
ならば余計なことはしないに限る。
自分も便利に公安委員会を使える現状を、初めて出会った二級学生の為に手放すようなことはしない。
先刻の薬物の売人の彼ほど、頭に糖が回りきってはいなかった。
■惨月白露 > 自首か、と言われれば首を振る。
「それ以外の生き方を知らないから、
少しでも報酬のいい方に行こうとしてるだけだよ。
『俺は罪人です、でも、なんでもするから許して下さい』ってな。
『二級学生』のIDの為に娼館で働くのと、
『正規学生』のIDの為に公安やら風紀で働くの、
どっちも大差はねぇんだから、少しでも報酬がいい仕事を受けようとするのは当たり前だろ。
『地位』も『技術』も無い奴は死ぬだけだ。
『地位』は無いなら『技術』で買うしかない。
自分が持ってる『技術』を出来るだけ高く買ってくれる所で働く。
お前らだってそうだろ、俺が『二級学生』って地位を『技術』で買ってるのと一緒で、
『公安委員』って地位を『技術』で買ってんだ。
……やりたくもねぇ事でも『仕事だから』って私情を殺してやってな。」
自分を案内しようとする公安委員の少女の顔を、
その瞳の内に揺れる心を横目に見て、『はっ』と笑う。
「―――だからな、お前も正しいぜ、公安委員の女。
その扉の先に何が待ってるかは俺は知らねぇけど、
そこに案内したからって、罪悪感を感じる必要はねぇよ、
ここに居る奴らは、お前も、あいつらも、俺も、全員同類だ、
『地位』を守るためにどんな事でもする、クソ狼ばっかりだよ。」
そんな言葉を残しながら、奥の『審査室』へと入って行った。
ご案内:「落第街大通り」に湖城惣一さんが現れました。
■『室長補佐代理』 > 「そこまで分かっているのなら、尚更もういうことはない。
その『技術』を使って、『話し合い』を円滑に進めることだな。
そうすれば、『技術』で買える『地位』もあるだろうさ。
じゃあな、狼さん」
くつくつと嗤って、見送る。
そこまで分かっていて、そこまで承知していて、そこまで承服した上で『それ』を言うのなら。
それはもう、ただの『鞘当て』だ。
彼はその為にきた。なら、その目的は今果たした。
そして、次の目的の為に『話し合い』で『技術』を売りにいった。
やっていることは、確かに自分たちと大差はない。
「さて、二人とも御苦労だったな。園刃は楽にしてくれ。
薄野。お前は、こっちに戻ってこい。次だ。それとも、今日はもうこれで……ん? また来客か?」
■湖城惣一 > 外の警備を固めている委員たちがざわついている。
幾つかの静止する声。それに一人ずつ、端的に言葉を告げて進んでいく男が一人。
湖城惣一。"友人"がここへやって来たという話を聞いて、ここまで来たのであった。
その連絡が三人の元へ届くだろうか。そのまま扉のノックが響く。
「――嘱託委員。湖城惣一だ。今審査中だろう彼について、通達がある」
取り急ぎ、やってきた。懐に忍ばせているのはひとつの契約書である。
元々、彼に関しては"こちら"が先に引き受けるつもりであったから。
立場が悪くなろうが関係はない。強権を通す心構えだ。
■園刃 華霧 > 「ァー……」
此処が『審査』の場であるならば、『交渉』は別の場だろう。
其の理屈は分かる。
しかし、なんだか釈然としない。
イラっとするな……
「ァん……?」
色々と脳内を整理していたところで、騒ぎがする。
なんだ、乱入者か?ぶっ飛ばしていいやつか?
いいやつなら、今の之を全部ぶつけて……うん?
通達?
攻撃動作を取りかけたまま、一応ストップを掛けた。
■薄野ツヅラ > 各々の思考、思案渦巻く其の会場を引き裂くように──切り裂くようにして聞こえた声は、男のもの。
ノックが響けば、小さく「どうぞ」と。
開き、其の人物が不審な行動をとればいつでも撃ち抜けるように左脚に体重を掛けて、
両手で淀んだ銀色のリボルバーを両手で構える。
「出来れば不審な行動はしないようにねェ」
撃つのは久方ぶりだから何処に当たっても知らないわよぉ、と。
■『室長補佐代理』 > ゆっくりと入ってくるその男……嘱託委員、湖城惣一の姿をみて、男は薄笑いを浮かべた。
そして、左肩だけを竦めながら、じわりとその目を見る。
「誰かとおもえば、湖城か。久しぶりだな。
久闊を叙したいのは山々なんだが、生憎と今は仕事中だ。私用なら後にしてくれ」
ひらひらと手を振って、そう嘯く。
■湖城惣一 > 扉を開ける。現れたのは和装ベースのジャケット。
勘違いをしたようなサムライファッション。
腹を丸出しのままに街を練り歩く不審者。
風紀・公安委員会、二つに所属するレアケース。
常世財団から直接委託を受け学園へやってきたという経歴を持つ男。
その男が、ゆっくりと中にいる面々を眺め見た。
"友人"は居ない。ただ居るのは三人だけ。その中でも見知った顔は一人しかいない。
"正の字"と呼ぶことにした男。公安委員会で己の信念に殉じる男。
その瞳を正面に捉えながらも、表情も、姿勢も。崩すことはない。
「不審な行動か。するつもりはないが今から礼状を取り出すが撃たずに居てくれると助かるな」
武器は抱えたままだが、わざわざ暴れるつもりはない。
撃たれようが対処できるからこその"嘱託委員"とも言えるが。
竹刀袋を横に立てかけて、懐に手を入れる。
「さて。『室長補佐代理』。……悪いが彼は財団預かりとなる。正確にはその予定だ」
紙を二枚取り出した。一枚は常世財団からくだされる令状だ。
「俺の推薦していた二級学生を引き上げるというもの。
悪いが正式なものではない。"事情"は分かるだろう。
通信記録は今日の午前十時。調べるなら好きにしろ」
そういって、近場に居る警備担当。園刃にでも差し出すだろう。
殺人行為を重ねた二級学生の一級学生への引き上げ。シンプルなそれは司法取引を超えて越権行為とも言える。
常世財閥は表向き、正式な書面として犯罪に関わるわけにはいかない。
■園刃 華霧 > 「は、ン……」
やってきたのは時代錯誤も甚だしい……というより、もう時代が錯綜しすぎて、
おまえなんだ、みたいな格好の奇っ怪侍と来たもんだ。
しかも、なんだその腹出しルック。よく見れば傷跡らしいものまであるし。
なんだ?セップクか、セップクなのか?
ハラキリーか?なら、あの異邦人はゲイシャーなのか?
コジョー……コジョーね。どっかで聞いた気もするけれど、思い出せない。
どうやら、室長補佐代理……あー、あの男の方か。の知り合いらしいけれど。
「フーん……一応、マジモンっぽいケド?どーすンの、室長代理補佐サン」
コジョーから紙を差し出されれば……まあ、受け取らざるをえないだろう。
受け取って、矯めつ眇めつ眺めてみてから公安の男に判断を投げる。
まあ、自分が判断するワケにもいかないし。
■『室長補佐代理』 > 「そういうなら俺達と関係がない話だ。好きにしろとしかいえんな」
そういって、肩を竦める。
気軽に気安く最上位権限を振るわれては、これ以上いうことなどあろうはずもない。
■薄野ツヅラ > 「随分とご機嫌なご様子で」
男の言葉にゆっくりとリボルバーを降ろす。
自分は詳細を知ることはないが、此の常世学園の創立団体であり──ある意味、『箱庭』の主。
そんな団体が如何こう、と云うのであれば公安委員会側に通達が下りるのではないか、と。
其れとも目の前の湖城惣一と名乗った男は──
「どうぞ、ボクらは一介の公安委員だし何も意見は出来ないわぁ」
思考の螺旋階段を飛び降りる。
考える必要もない。財団の名前が出れば一介の学生が出来ることはない。
■園刃 華霧 > 公安二人の反応は実に分かりやすい。
結局のところ、公権力も公権力に弱いってことだ。
「やれやれ、一介の学生ハ辛いトコだネー。
更に、シタッパーなアタシはなンも言えねーって感じだヨ。
まー、でもアタシだけの確認とかヤだし、いちおー目を通してナ。ほイ。」
ぞんざいに紙を放れば……しかし、それは明確に室長補佐代理の手元に飛んで行く。
■『室長補佐代理』 > 園刃から書類を受け取ると、一瞥もしないでテーブルの隅に置く。
別に仕事をしているだけでそれ以上の感慨もそれ以下の感慨もないので、それで終わりである。
嘘でも本当でも責任は湖城惣一の一身に集まっている。なら、もう後はどうでもいいことだ。
■湖城惣一 > 公安委員会に対してこの札を正面から切るのは愚策に過ぎる。
湖城惣一という男は、それだけの権限を有していると喧伝するようなものだ。
白露という少年との関わりも明らかになるし、今後の湖城の立場も変わる可能性がある。
だが、それでも。
「悪い、とは言わないが。……杓子定規に扱われるには少し惜しいのでな」
白露がこの先どうなるか。司法取引でどれだけの"枷"を嵌められるのかは分からない。
しかしそれでも彼には、表舞台で一般生徒として生活を歩んでもらいたい、と。そう思っていた。
嘱託委員。公安委員。そこにどれほどの差があるのかは彼にも分からない。
もう一枚は名前が空欄の推薦状。ID以外、本名すら知らない彼の名前はまだ記入していない。
恣意的な運用であると突っぱねることも可能だろうが――。
■薄野ツヅラ > 突っぱねる資格は、此の場の公安委員2人にはありもしない。
一介の調査部別室二人が常世財団からの令状に背くことは──ない。
「だから勝手にすればぁ?
ボクらは其れを否定する資格も権利も立場も地位もない。
だから勝手にやってもらえないかしらぁ、ボクらは生憎忙しくってねェ─……」
どうでもよさげにひらり、手を返す。
「こんだけまだ面接しないといけない二級学生が残っててねェ──……
彼らも彼と同じ"二級学生"よぉ?
さっきの彼が財団預かりになるなら知ったことじゃあない。
ボクらもボクらで公安委員の仕事をしなきゃいけないのよねェ、組織に所属する人間なら解るんじゃあないかしらぁ?」
言葉を落とすことのない上司の代わり、と云わんばかりに懇切丁寧に、わざとらしく説明する。
一人の二級学生に焦点を当て続ける訳にはいかない。
上位組織が出張ってきたなら其れはもう『管轄外』であり、公安委員の『越権行為』に違いないからだ。
■惨月白露 > 奥の部屋の戸が開くと、
屈強な男に突き飛ばされるように外に出される。
そのまま地面に倒れると、
ぶつけたのか、後頭部を手でさする。
「ってーな、何事だよ、折角上手い事行ったってのにさ……。」
そう言いながら体を起こし、場に出そろった人間の顔を順番に眺める。
最後に騒動の中心と思われる『不審者』にしか見えない彼に視線を移す。
「どいつもこいつも苦虫かみつぶしたみたいな顔してんなって思ったらアンタか。
………常世財団がどうこうとか言ってたもんな。」
『まったく、心底お節介なやつだな』とため息をつく。
■園刃 華霧 > 「……ヤー、連中が乱暴したネ。ごめんしてナ。」
体を起こした惨月に手を差し出す。
まあ、無用な心配だとは思うが、気持ち気持ち。
こちらさんも困惑しているところだろうし、一応ケア位はしておかないとだ。
■湖城惣一 > 「む」
現れたのは新たな顔。いや、見知った顔だ。
いつもの風貌であるか、そうでないかは分からないが、流石に分かる。
だからこそ、参った、と。自分はまた選択を失敗してしまった可能性が見えてくる。
腹芸の類はそれほど得意な男ではない。己のできることをやるだけだ、と。
しかし、踏み込んでしまったからには仕方もない。
大きく息を吐いて、もう一枚の推薦状を差し出した。
「こちらは空欄だ。あとは……好きにしてくれ」
多少の迷い。一度白露に視線を移しながらも、そのまま視線を戻す。
■『室長補佐代理』 > ひらひらと手を振って、あとは一瞥もせずに椅子に座りなおす。
「次」
■惨月白露 > 「こっちも連れが面倒かけたみたいだしな、御相子だよ、気にすんな。」
手を握って立ち上がると、パンパンと服を叩く。
推薦状を受け取ると、一読して、それを畳んで仕舞い込む。
手をひらひらと振る彼を確認してから、ゆっくりと部屋を出るために歩き出す。
「帰るぞ、惣一、
法外な金額を出して俺を買うっていう買い主が現れたんだ、
―――もうここに用はないだろ。」
■薄野ツヅラ > はあ、と溜息をひとつついて男の横の椅子に座り込む。
杖は乱雑に放られた。
次、と声が掛かれば此の場を切り替えるように大きくトントンとクリアファイルを揃える。
「えーと、次は──」
二級学生の名前を呼ぶ。何も変わらぬ先刻までの風景。
乱入者のことなど気にも留めずにまた審査を進めていく。
「この記載に嘘はありますか」「ありません」。
淡々と繰り返され、淡々と、仕分けは進む。
■湖城惣一 > 大きく息を吐く。己を通す、ということはひどく難しい。
世間の人々は、これをずっと続けているというだけでも驚嘆する。
「迷惑をかけた」
男には珍しく、目礼ではなく頭を下げた。
竹刀袋を拾い直し、ひとまず、
「そう、だな」
白露に対しても。この場の全てに対しても。
湖城惣一は強く禍根を残したかもしれない。
それを思いながら、ゆっくりと退室していく。
ご案内:「落第街大通り」から惨月白露さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から湖城惣一さんが去りました。
■園刃 華霧 > 「お帰りはソチラでござイ……」
去りゆく二人に声をかけ……立ち去れば定位置に戻るだろう。
「アー……なんか慣れッコって感じだナ。
素直に感心するワ」
淡々と仕事を進めていく二人に、ぽつり、と感想を述べる。
■『室長補佐代理』 > 「ま、公安は風紀に比べりゃ嫌われ者なんでな。いつもの仕事をいつものようにしているだけだよ」
園刃にそう肩を竦めながら答えて、一通り書類が片付いたことを確認してから軽く伸びをする。
そして、薄野に向き直る。
「薄野、申請を却下した連中の個人情報や身元は粗方抑えたな?」
■薄野ツヅラ > 「その分ボクだって見返りは貰ってる訳だしその分はやるわァ」
園刃の言葉には不愛想にひとつ返答をして。
伸びをする上司を他所目に退屈そうに欠伸を洩らす。
正義の味方は自分の仕事ではない。正義に燃える連中なんて仕事でも仕事じゃなくても苦手だ。
「勿論、全部バカ正直に書いてくれた学生が多くてねェ──……
仕事が減って万々歳よぉ」
手元の書類をぺらぺらと振る。自分が足で調査をしなくてよくなったのだ。
喜ばしいことこの上ない。
■園刃 華霧 > 「室長……代理補佐……あー、違っタ、補佐代理……だっけカ?
なんか、いかにも"中間管理職です!"って肩書だもんナー。
なんダ、アンタ結構苦労してるタイプかネ」
けらけらけら、と男の言葉に無遠慮に笑う。
こうしてみると意外に人間味を感じるというのは、なかなかに面白いものだ。
「あっはっはっ、真面目なお答えありがとうサン。まあ確かに、貰ってる分くらいは働かないト、だネ。
……って、なーんダ。ちゃっかりソッチの利益も出てンのネ。
ま、ボランティアでこんなコトするわけないカ。」
薄野の返答にも笑う。サボり魔が何をいうか、ではあるが。
しかしまあ……元は取って行っている辺り、しっかりしてるなこいつら。
■『室長補佐代理』 > 「御苦労。じゃあ、これで今回の『調査』は成功だな」
そう、こちらが本命である。
有能そうな学生の拾い上げや、問題のある学生の確保はあくまで副次的なものだ。
主目的は、どちらでもないグレー、もしくは強制送還や処理にコストがかかり過ぎる生徒の身辺調査である。
無論、他の何かの理由などで『泳がせる』必要がある生徒なども含まれている。
そういった二級学生という名前の難民の実態を知ろうとすると、当然ながら普通の地道な調査では手間がかかり過ぎる。
故に、大々的な『引き上げ申請』だなんて見え見えの飴に引っかかる様な『優しい』連中から、まずはざっと情報を集めるのだ。
これが、今回の調査部別室の真意である。
無論、これらの情報を元に実働員が何かすることもあるかもしれないが……まぁ、それは管轄外の案件だ。
今回、男や薄野が気にする事ではない。
「ともかく、おつかれさんだ。帰りに飯でもくってくか」
■薄野ツヅラ > 「オツカレサマでした、と」
全員が全員を救いあげ、審査に掛けることなど出来る筈がない。
元広報部の『室長補佐代理』の彼女に云われたように、全員を救うことは出来ない。
故にこうして救済がメインではなく情報収集、がメインになる。
風紀委員は落第街の人間にいい顔をすることが出来、その後処理を兼ねて公安委員が仕事をする。
此れもある種立派な風紀公安の合同捜査だ。──其の意図が風紀委員が知っているかは定かではないが。
救済と云うのは何時だって気まぐれなものだ。
蜘蛛の糸に縋ったカンダタと数多の罪人たち。其れらは釈迦の手で掬い上げられることはなかった。
其処に意図があったにせよ、なかったにせよ糸は切れてしまった。
其れに比べれば今回の審査は幾らか優しいものだったろう。
「そうねェ──……すき焼きとか食べたいかもしれないわァ」
トントン、とクリアファイルを纏めながら楽しげに。
誰かの金で食う飯は美味い、と云うのは紛れもない事実なのである。
■園刃 華霧 > 「なーんカ、気ィつかったアタシがちょっと馬鹿見た気分だナ……
ま、いいカ。お仕事オシマイ、撤収撤収、ってカ。」
やれやれ、と肩をすくめる。
風紀は『引き上げ申請』で、信頼と実績を。
公安はデータを揃えて今後の参考にする。
本当によく出来ているシステムなわけだな。
汚くて綺麗なお話ですこと。
「なになニ、飯?アタシも行っていいノ?」
まあいいや、と気分を切り替え。
だから、図々しいことこの上ないことをいう。
別に断られたっていい。言うだけならタダだ。
■『室長補佐代理』 > 実際のコストや手間を考えれば出来る事には限界があり、その中での最良が最善になるわけではない。
これはたったそれだけの話で、それ以上にもそれ以下にもならない。
ただ、事実として有能なごく一部の生徒は拾い上げられ、前科者は確保され、どちらでもないものは現状維持となった。
なら、今はその結果のみに目を向ける他なく、過程や『もしも』などを論じる余地はない。
そこまでの時間は、残念ながらどこにもない。
「まぁそうだな。今日は一日付き合ってくれたからな。
面倒事にも対処してくれたし、園刃も奢ってやる。
メニューは薄野の推しってことですき焼きだ。経費で落としてやるから高いのでいいぞ」
そういって、書類を片付け、荷物を部下こと薄野に押し付けて笑う。
「なにせ、園刃が付き合うなら風紀との接待費用扱いで落とせるからな? 大分融通きくぞ」
■薄野ツヅラ > 「んじゃ、行きましょうかあ」
荷物を押し付けられれば、全く逡巡することもなく舌打ちをひとつ。
すき焼きのためなら、としぶしぶ受け取って空いた左手で抱える。
「落第街の隠れた名店ってヤツよぉ!」
上機嫌にかつりと音を鳴らして。今日もまた、明日も日常は繰り返される。
■園刃 華霧 > 「うっひょウ、やったネ!ニーサン、話せるジャン!
おっけーおっけー。薄野チャンや、なんなら荷物くらい持ってもいいヨ!」
奢ってもらえると聞けば上機嫌になる。
ちょっとくらいボランティア精神を働かせてもいいだろう。
ま、中身が中身だからご遠慮願われるかもしれないなー、と思ったりもする。
まあ、素直に渡されれば荷物運びをしただろうし、渡されなければただただついていくだろう。
旨いものは正義だ
■『室長補佐代理』 > 「期待してるぜ、薄野。このへんの地理は俺は疎いんでな」
そう、薄笑いを浮かべて、部屋から出ていく。
これもまた、日常の一部に過ぎない。
いつもの調査で、いつもの仕事で、いつもの営みだ。
今日の労いばかりは、いつもと違うものになりそうではあるが。
改めて、左手を仰ぎ、ぐるりと一度肩を回してから、歩き出す。
ごきりと、疲労を示すかのように肩間接あたりから音がした。
ご案内:「落第街大通り」から『室長補佐代理』さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から薄野ツヅラさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から園刃 華霧さんが去りました。