2015/09/11 のログ
ご案内:「落第街大通り」に『室長補佐代理』さんが現れました。
■『室長補佐代理』 > 「はぁ……」
深く溜息をついて、ザンバラ髪のその男はバリバリと乱暴に自らの蓬髪をかき乱す。
その町の名は歓楽街。しかしてその通称は落第街。
片隅の雑居ビルからいかにも億劫と行った様子で現れたその男は、淀んだ瞳を大儀そうに細めて、眉間の皺を左手で揉み解す
中指に嵌った銀の指輪が鈍く輝き、ネオンの光を照らし返した。
■『室長補佐代理』 > 公安委員会の腕章をつけたこの男がどうしてこのような公に存在しないとされている場所にいるのかと言われれば、理由は多岐に渡る。
今回はそんな多岐に渡る理由の一つである仕事であり、そのまた枝葉の中の一つである学生審査の為である。
俗称で言われるところの二級学生引上げ審査だ。
それも今しがた終えたところであり、今日のところの仕事はもう終わりである。
景勝地とはとても言い難いこんなところを逍遥する趣味は当然男にはないため、あとは帰るだけである。
「やはり誰かしら助手が居ないと面倒だなこの仕事は」
ぶつくさと独り言を漏らしながら、嘆息混じりに頭を振って、通りを抜けて帰路につこうとしたところ。
■『室長補佐代理』 >
『少女』> 「ま、待ってください公安委員さん!」
■『室長補佐代理』 > そういって、男の目前に躍り出てきたのは煤けた金髪の少女だった。
みすぼらしいという感想以外何も出てこないような恰好をしており、正しく着の身着のままでそこにいる。
少女は両手をひろげて、小さな体を少しでも大きく見せながら男の前に立ち塞がっている。
その少女は、男にとっても見覚えのある少女であった。
故にか、男は殊更深く嘆息を漏らして、伽藍洞を思わせる真っ黒な瞳を滲ませながら、肩を竦めた。
「何の用かな。俺は君には特に用はないんだがね」
その少女は、先ほどの引き上げ審査で叩き落とした二級学生であった。
■『室長補佐代理』 >
『少女』> 「お願いします、もう一度、もう一度審査をしてください、正規の学生になれないと私……私……!」
ご案内:「落第街大通り」に”望月満月”さんが現れました。
■『室長補佐代理』 > 肩を震わせながら男にそう懇願してくる少女に対して、男は「またか」といった顔で溜息を吐く。
非常によくいる手合いである。
故に男は至って事務的に返答した。
「再審査は次の学生審査まで一切行わないと言ったはずだ。来月の審査会まで待て」
そう、鬱陶しそうに目を細めながら告げる。
当然それで少女が納得するはずなかろうこともわかっていたが、男からしても仕事である。
それ以上をするつもりもない。
■”望月満月” > 『ま、待ってください公安委員さん!』
その声を耳にしたのは、大通りの直ぐそばの路地。
公安委員であるアトラ9と交戦した”望月満月”としては出会いたくはないが、”十六夜棗”としては”望月満月”と分離して認識させるには目撃はさせておきたい相手。
露骨に嫌そうな顔をして、考え込む。
その間に少女と公安委員のやり取りが進む。
はぁ、と溜息をついて……間を空けて大通りに出る。
もう少し離れている場所だと思ったのだが…通りに出た途端に訴えかけている少女の背がそこそこ近い。
「……審査会?」
小耳に挟んだ振りをして、問いかけにも、独り言にも聞こえる程度に視線を向け呟く。
■『室長補佐代理』 >
『少女』> 「来月まで落第街で生きていくなんて無理です、お願いします、なんでもしますから……!」
■『室長補佐代理』 > 望月については野次馬とでも判断したのか、公安の男は特に反応は示さなかった。
少女の方は少女の方で公安の男に縋りつくのに必死で気付いていない。
男は縋り付いてくる少女を見下ろしながら、ただ事務的に呟く。
「無理なものは無理だ。君程度に出来る事に特別性もなければ司法取引を行うだけの価値もない。
それはさっきの審査でわかったことだ。今更やったところで何の意味もない。
最初にいったように、学生になりたいのなら最低限学費を支払う能力や姿勢を示してくれ。
もしくは学費を免除してもいいと思える様な何かをな。生憎と今の君には両方ない。
おい、つれてけ」
そういって、いつの間にか背後に控えていた数人の黒服たちが少女の腕を乱暴につかむ。
■”望月満月” > こちらには反応は示さない様子、とりあえずは一安心なのかどうなのやら。
一月後まで待てない理由は、思い浮かばなくはないけれど、もしそうなら待てない理由があるからこそ能力が足りないと言える。
弱者に価値はなし。何度も見た社会と言う名の光景だ。
そこで振り払う程度なら、…それで済ませるつもりだった。
黒服に、訝しげな目を向ける。
が、黒服ではなくて、この場で権限を持つのは訴えられていた男の方だろう。
故に彼に、問う。
「……後学の為に、連れて行く場所を聞かせて貰っても構わないのかしら?」
それで黒服が止まるとは思えないが、自分が権限のあるだろう男に突っかかってくる可能性も考えれば止まる事は無くはない、と読んだ。
■『室長補佐代理』 > 話しかけてきた眼鏡越しの碧眼が特徴的なワンピースの少女……望月に男は一瞥をくれて、また溜息をついた。
野次馬がこういう時に話しかけてくるのもまた日常といえば日常である。
黒服は数人が身辺警護の為か、男の周囲に控えているが、他の黒服たちは気にせず少女を連行していた。
少女の悲鳴を背中にうけながらも、それらは一切無視して男は嘯く。
「答える必要はない。と、いいたいところだが、まぁ見ていればわかる」
そういって顎で黒服たちを示せば、黒服たちは少女を乱暴に路地に放り投げ、そのまま戻ってきた。
少女は地面に転がされて軽傷を負ったようではあるが、それだけである。
捨て置くほかに価値などないということだ。
■”望月満月” > 溜息、まぁ見下しているか、説明するのもかったるいとか、どうせそういう類なのだろう、と推測はできる。
黒服が他にもいる以上、逸って手出しをするには心もとないが、少女の悲鳴が痛々しく聞こえる。
何かと重なって見えなくもない。
「……そう。」
自分が話しかけたから、少女が地面に転がされるだけで済んだのか、もとからそのつもりだったのか、若干判断に迷う所ではある。
が、少女が暴力的な行為に出ていなければ、妥当、ではあるか。
大きく息を吐き。
「もう一つ、問わせてもらっても良いかしら?彼女が示せなかった特別性と価値。
彼女が無能力者で魔術も扱えなかったから。力が無いから、言う解釈で構わないかしら?」
少女にも解りやすく、口頭では駄目だと言う証拠と突きつける為と、自分と言う存在を一応公安委員に印象付ける為に、もう一つ、ザンバラ髪の隙間に視線を通し、淡々と問いかける。
二級生徒(の振りだが)と公安委員と言う立場の差を、態度では示そうとしない、と言った素振で。
■『室長補佐代理』 > 「分かりやすくいえばそういうことだ。
金もなく、力もなく、学もない。善良であるかもしれないが、まぁそれだけだ。
こちらも慈善事業じゃないんでな。難民同然の二級学生を理由もなく引き上げることはできない。
財源は限られている以上、篩から落ちた連中には諦めて貰う他ないということだ」
望月の言にそう答えて、じわりと汚らしく笑う。
好感よりも嫌悪が先に来る、泥沼を思わせる笑み。
伽藍洞のような漆黒の瞳を細めて、男は続ける。
「御嬢さんも分かったら、諦めて今日のところは帰ってくれると嬉しいんだがね」
泣きわめき続ける少女にただ冷徹にそういって、男はまた溜息をついた。
引き上げ審査の時にはこれも、よくあることでしかない。
■”望月満月” > 苛立つ、どうしようもなく苛立つが。
…私が――してやりたいのは、その上で権力を傘に切て甚振る奴だ。
それに、味方と敵、どちらが多いかで言えばこの場では黒服が多い。
冷静に、冷静に…。
「そしてそれが、貴方方のお仕事相手になる犯罪者を生む温床になったとしても、犯罪者になったら狩るだけ、と言う事ね。」
皮肉った。
これ位は言っても構わないだろう。
こういう場所で善良な力のない者が犯罪の犠牲になるか、犯罪に走る事が多いのは、そういう背景があるからだという事、位は解っていてそう言うのだろうから。
さて、少女の方に少し大回りして歩み寄ってみよう。公安が怖くてと言うのもあるだろうけれど、手を貸す誰かもいないのだから。
■『室長補佐代理』 > 「そっちのほうが安上がりで済むんでね。
残念ながらこの一大スラムを一掃する方法は今のところない。あらゆる意味でな。
なら、そこから吹き出す澱は逐次排除する他ないだろう。
まぁその論調でいえば……犠牲になるならそれは御愁傷様。
犯罪に走り我々に威を示すのなら、その『威』を『価値』として売り込むことをおすすめしたいがね」
そう男は嗤う。
もしこの落第街を一掃し、救済することができるなら、そうしたほうが得になるなら、きっと行政はそれをしているだろう。
しかし、していないということは、しないだけの理由があるのだ。
ならば、この問題に対して向き合う時には『落第街というスラムがなくなることはない』ということを前提に話をしなければならない。
温床の駆除や完全管理が不可能であるのなら、あとは対症療法に頼る他ない。
そして、それで問題がないのなら、それ以上をすることもない。
これはそれだけの話だ。
暗部があるからこそ潤う財もあり、それと無関係ではないものも山ほどいるということなのだろう。
望月に手を貸してもらった少女は泣きじゃくるばかりで言葉を発することはない。
ただ、冷徹な事実に憔悴し、心身喪失している。
■”望月満月” > 「威なんてものは、身につける経験と環境がなければ身に付かない物よ。
だからここに吹き溜まる。」
社会として、力がないから底に置き。善良さを失わせて、悪に向かわせる。
悪に向かわせ、一握りの力を掴んだ者を拾い、更生させる方が更生の余地なく犯罪に染まった者を生み出すリスクより安いから。
こうして、出来上がった社会の循環を、話を聞いているだろう、少女や、耳ざとい誰か。
どう言う反響が広がるのかは少し興味深い。
犯罪者を潰し、スラムや落第街を難民キャンプへと変化させる、そんな手段でもなければどうにもならないだろうけれど。
「…………聞くわ。力が欲しい?金が欲しい?…今の話を聞いて、貴女は何が欲しいと願うのかしら?」
少女に手を差しのべ、そのままで問う。返事次第では…試してみたい事がある。彼女はリスクをも受け入れて、その手に縋るだろうか?まだ泣きじゃくり、手に気付かないだろうか?怪しんで、手を振り払うだろうか?
■『室長補佐代理』 > 「なら失せればいい。この島にいる必要がない。
日本国にでもなんでも行けばいいのさ。それも出来ずに此処にいるというなら理由をいえばいい。
その理由が正当なら……きっと救い上げてくれる誰かやお人よしはいると思うぜ?
でも、その理由が正当ではなく、誰に訴えることも出来ず、ただ漠然としているからこそ『こんな所』にいるんだろう?
勘違いしちゃいけないぜ。金も物も土地も……『場所』やスペースにも限りがある。
だってのに出てけといっても居座って義務も果たさなきゃ金も払わず物だけ欲しがり居場所までよこせとのたまうのが『そいつら』だ。
義務である学費を支払って正当にモノと場所を譲り受ける権利を得ている一般学生に対して、申し訳ないと思わないのか?
権利を得るためには義務を果たせ。人権だって同じことだ。
これはそういう話だぜ」
社会に悪があるとすれば、それは社会から権利だけを享受して義務を行おうとしないものたちであろう。
犯罪者だってようはそれでしかない。
義務である法の遵守をしないからこそ権利を剥奪され、裁かれる。
二級学生もそういう意味でいえば同列の社会悪である。
二級学生を救うために財源を浪費して本来学生を救うはずの通常業務に支障がでたら、それは本末転倒でしかない。
少女の方は望月の手を見てはいるが、取ることはなくただ泣きじゃくっている。
そして、少女は、小さな声でいった。
■『室長補佐代理』 >
『少女』> 「お金も、力も、いらない……ただ、当たり前の暮らしだけをしたい……人として、当たり前の……居場所が欲しい」
■『室長補佐代理』 > 少女のその呟きに、黒服たちは答えない。
ザンバラ髪の男もまた、溜息をつくのみ。
その『当たり前』は『安いもの』ではない。
それを知っているが故に。
■”望月満月” > 「そうね、出られる力や正当性があれば、この島から出る事の方が安全で。本来ならそうした方が、楽になる。
……だから私もここに居るのかもねぇ。……力だけ少しずつ蓄えて。
そして、…そうね。本来の居場所を失って、切り離された場所で漠然と過ごさざるを得ない者もいる。
戻る場所への不安、戻った所で尚地獄。だからと言って訴えても、権力と言う力なんかでもみ消されてたり金の力で正当性を消されている、まぁ、ここにはきっとごまんといるわ。
結局は生まれ出た場所から連なる運命からの脱却ができなかった。
力や暮らしを得る為の手がかりすらつかめなかった。
そう言う事よね。」
まぁ、言い分は解る、でも。
法の隙間を縫われ、別の力で押しつぶされれば、それは正当な理由として訴える事もできやしない。
悪と闇は社会の中にだって潜んでいると言う事。
まぁ、自分が自分として”彼ら”に主張したいのはそんな所だ。
「それなら、その間、お金でも、鍛えてでも、知識を広げるでも、何でもいいわ。何かを蓄えなさいな。
蓄えたものを使って、手に入れなさい。」
自分だって、魔術をこの島に来る前に執念で習得していなければ、この少女の様になっていただろうから。
実際は、一度事件を起こしてはいるから”望月満月”をやめて”十六夜棗”でいても爆弾持ちだけれど。
気まぐれなのか、自分と重なって不憫に見えたからか、理由は自分でもよく解らない。
それでも、少女に自分が出来る助言をして、ゆっくりと離れる。力が要らない、と言ったのだから……その上で試してみたい事は試さない方がいいだろう。
黒服達の目もあるのだから。
■『室長補佐代理』 > 望月の言葉に、男は隠しもせずに大きく溜息をついて、首を左右に振った。
本当に、あらゆる意味で目前にいる眼鏡の碧瞳の少女は何処にでもいる手合いだった。
「全然違う。そんなお涙頂戴物語は大多数の他者にとっては『どうでもいい』ってことだ。
権利を得るためには義務を果たせ。それが出来ないなら失せろ。
社会は最初からそれしか言ってない。俺がいう事も同じことだ。
ましてそれが社会が受け入れたわけでもなく、家主への断りもなく勝手に住み着いてる不法居住者であるならなおのことだ。
盗人猛々しいっつってんだよ。学生扱いされたいなら学生と同じだけの義務を果たせってな。
それが出来る奴は逐次ひきあげてんだぜ? 出来ないってんならそりゃ諦めてもらうしかないだろう」
当たり前のことをそう当たり前にだけいって、男は肩を竦める。
二人の少女をみても、その目に宿る光は諦観のそれだ。
それどころか侮蔑すら見える。
「まぁ、その『お涙頂戴物語』を聞いて涙ぐんで守ってくれるお人よしはきっといるだろうさ。
年頃の女ってんならなおのことだ。
そういう好事家を探したほうがワケは早いだろうな」
その言葉を受け入れたのか、それともただ憔悴しているのか。
男の言葉を受けても、望月の言葉を受けても、少女はただ泣きじゃくるのみだった。
■”望月満月” > 「いいえ、義務を果たそうが、正当性も居場所もそして最悪力も、大きな力で奪われ、社会はそれを見過ごす。
それこそ、『どうでもいい』『あれに逆らう位なら見捨てる』ってね。
社会はそうして時折力の横暴を許し、社会から義務を果たしている者もつまはじきにする。
這い上がる事を出来なくして、困難にするだけでもいい。そうしてからこういう場所に叩き込めば、手を汚さずに済むから。権力や力のある者の裏の処理場。
社会はそれを認めている。」
表向きの当たり前の事だけじゃなくて裏も見ろ。
そう言っているにしか過ぎない。
まぁ、平行線だろう。
公安と言う治安維持組織が裏から目を逸らしていると言う事実を再確認しただけで、自分にとっては十分だ。
やはり、公安もそして恐らく風紀も、信用はできない。それだけだ。
少女にも、男達にも、肩を竦めて。
「じゃあ、そろそろ私は失礼させて貰うわ。
これ以上の問答も、平行線でしょうしね。」
そうして、最初の路地へと戻ろうと歩き出す。
■『室長補佐代理』 > 「義務を果たす限りは平気さ。
何を勘違いしているかしらないが……体制に……力に逆らわないことは立派な義務だぜ?
爪弾きにされた奴は義務を結局果たしてないのさ。
そういう奴は……『いないこと』にされても仕方ないんだぜ。どこの社会でもな?
これは別にこの島に限らない。人類が生きる場所どこに行っても全く同じだ。
それも気に入らない、『汚い現実』が認められない、自分は社会を『認めない』ってんなら……社会になぜお前はいる?
大いなる矛盾だ。
社会の機構を存分に利用し、社会に生き、社会に阿って、社会に頼っている時点で……君もまた社会のそれを認めているのさ。
認めていないのなら、社会のそれが気に入らないのなら、最初から誰とも関わらずに一人で暮らすべきだな。
社会のそれを否定するなら……別に社会にいる必要はないだろう?」
すべては裏も表も含めた話でしかない。
裏も含めているからこそ、『綺麗事』など話さない。
世界は別に善意やら情で回っているわけじゃない。
少なくとも、有史以来の人類社会は全て兵力という名の『暴力』に立脚して存在している。
大きな力に奪われる事はこの世界では有史以来あまりに『当たり前』のことだ。
力に奪われることが怖いからこそ力に身を寄せるというなら……身を寄せた先の力の示す法には従うべきで。
従わないのなら、それは力でもって排除されても何の文句も言えない。
「この場の存在が認められる理由がもしわかるのなら……俺の言っていることはわかってくれるはずだがね?
まぁ、好きに解釈するといい」
■”望月満月” > つまり彼は、表向きの法は、体制や力に逆らわない義務を優先するなら破っても構わない。
簡単な例で言えば、集団による万引きの示唆。断っても、どこかに訴えても、もみ消しからいじめのつまはじきコース。
そして深く嵌れば身代わりにされるとしても、逆らわない方がいい。
…そう言っているのだろう。
結局、そんな2択を突きつけられれば、どちらにしても早かれ遅かれ、つまはじきに合うというだけで。
まぁ、解釈が違っていたとしても…同じ事。
社会から外れた方が身の為。
自分だけじゃなくてそんな人間はこの場所には多く存在しているだろう。
それが嫌なら、力を、威を身につける必要が、例え、あの執着がなくてもやっぱりある。
まぁ、最後に、問いかけにだけは答えておこう。
「威を身につけられる場所が、裏でも表でも、社会にしかないからよ」
手を振って、路地へと去る。
これが、私なりの解釈の答えを示す、と伝わるかどうか。
まぁ、どちらでも構わない。
ご案内:「落第街大通り」から”望月満月”さんが去りました。
■『室長補佐代理』 > 「なら、理由はどうあれ社会に居座るのなら……郷に入らば郷に従えと返しておこう。
常世島は『こういう場所』を『何故か』放置する行政がある社会だ。
その意味を考えてくれると嬉しいね」
社会を利用しておきながら、自分は社会に対して何かを還元するつもりはない。
そういうどこにでもいるアウトローの思考なのだろうか。
残念ながら、答え合わせをするものはいない。
体制によって集団による悪徳がもし是正されるのならば、それは『悪徳』ではなくなるだろう。
ありえない話ではあるが、仮に殺しが是とされる社会があれば殺しは悪徳ではなくなる。
正義も悪も、それを判断する主観でしか判別されない。
この世の全ては結局、力に阿ることで回っている。
人であるかぎり、いや、限りある命であるかぎり、それに抗う事は出来ないのだろう。
限りあるその命の生殺与奪を決めるものが、力であるのだから。
■『室長補佐代理』 >
『少女』> 「なんでよぉ!」
■『室長補佐代理』 > 男が頭を振り、踵を返そうとしたところで、突如その少女は吼えた。
軽傷を負い、掠り傷から血を流しながら、金髪を振り乱して、少女は吼えた。
泣きはらした瞳からなおも涙を流し、口から嗚咽を漏らしながらも、少女は吼えた。
■『室長補佐代理』 >
『少女』> 「私……何も悪いことしてないよ!?
この島にだって似たような異世界から飛ばされてきただけよ!
何も盗んでない! 誰も傷つけてない! 誰も殺してない!
言葉だって通じるよ、ダメな事もわかるよ! 同じ、同じ人じゃない……なのになんで……!
なんで、なんで私じゃダメなの?! なんで私はダメなの!?
どうして、当たり前の暮らしすらさせてくれないの!」
■『室長補佐代理』 > 爆発した感情の赴くまま、金切り声をあげて少女は叫ぶ。
怨嗟の念が籠った慟哭は落第街の路地に響き渡り、その嘆きは黄昏に染まり始めた落第街の闇を貫く。
だが、この場の誰もがそれに関心を払う事はない。
ここではそれもまた、日常に過ぎない。
男は部下達を静止して、歩き出す。
少女の前まで一歩ずつ歩いていく。
そうすれば、少女は男に向かって小石を投げつけて、なおも喚いた。
■『室長補佐代理』 >
『少女』> 「公安委員会って……市民の味方なんでしょ! 平和を守ってるんでしょ! 正義の味方なんでしょ!
だったら、だったら私も守ってよ! 私も助けてよ!
私も……そっちにいかせてよぉ……!」
■『室長補佐代理』 > 小石の礫をうけながら、それでも男は歩いていく。
一発掠ってそれが右頬に浅く傷跡を残すが、それでも気にせず歩いていく。
そして、少女の目の前にたって、男は少女を見下ろした。
真っ黒な柱のように。フォークロアの怪物のように。
ただ、逆光を受けて立ち塞がる。
それだけで、少女は小さく悲鳴を漏らして、黙りこんだ。
がたがたを肩を震わせて、黙り込んだ。
それをみて、男は目を細め……嘆息した。
■『室長補佐代理』 >
「ああ、公安委員会は市民の味方だとも。平和を守っているとも。正義の味方だとも。
だけどな。君は市民じゃないし悪い事をしているし正義でもない。
だから、君のことは助けられないし、守れない」
■『室長補佐代理』 >
『少女』> 「してないよ! 私、盗みも殺しも、だから、私、何も悪いことなんて……!」
■『室長補佐代理』 >
「いいや、している」
■『室長補佐代理』 > 断固とした口調で、男はいった。
硬い声色のままで、少女を見下ろし、少女の目を見て、男はいった。
伽藍洞の瞳が少女の煤けた瞳を見返して、細まる。
それだけで、少女はまた黙った。
ただただ黙って、震えた。
男は、続ける。
■『室長補佐代理』 >
「理由はどうあれ君は不法入島者だ。似たような世界にいたならしってるだろう?
不法侵入って奴は、悪い事だよ。だから、君はいってみりゃ『この島で生きてるだけ』で『悪い』んだ。
君に哀しい事情があることはわかった。君の言い分もわかった。
でも事実を確認する術はないし、君の作り話じゃないなんて保障はどこにもない。
仮に君の言っていることがすべて真実で君が本当に可哀想な異世界転移被害者だったとしたところで……君を守る理由はない。
君は義務が果たせないからだ。
この島で学生として生きるための義務が、果たせないってことが……さっきの審査でわかった。
その上、例外とするだけの付加価値もないときた。
なら、例外に出来ない以上……君はただの二級学生で、難民で、ただの不法入島者……犯罪者だ。
故に君は……悪だ。正義の味方じゃ君を守ることは出来ない」
■『室長補佐代理』 > 淡々と、男は告げる。
事実だけを、事務的に。ただいつも通りに。
強いて言うなら、本来なら無視してもいい相手にこうして説明することが慈悲ともいえる。
だが、それは同時に傲慢な利己感情ということもできた。
故にか、珍しく男の顔に笑みはなかった。
ただ、冷淡な黒瞳の眼差しと、能面のような無表情だけがあった。
■『室長補佐代理』 >
「少なくとも組織ってのは社会の味方だ。
社会はその社会に属する人間の味方だ。
人間とは人権あるもののことだ。
人権を認めるのは社会だ。
そして、君は社会に認められなかった。
君は市民じゃない。だから公安は君を守らない。
君は人間じゃない。だから社会は君を守らない。
君は正義じゃない。だから……正義の味方は君を守らない。
次の審査までに……まぁ、せいぜい頑張ってくれ」
■『室長補佐代理』 > それだけを告げて、今度こそ男は踵を返す。
その背には、いつまでも少女の慟哭と、嗚咽と、罵詈雑言が投げ続けられた。
それでも、男が振り返る事はない。
そんなことは日常だからだ。
こんな仕事をしていれば……こんなことは『当たり前』で『いつも通り』のことでしかない。
だからこそだろうか、男はただ嘆息した。
ただただ、深く溜息をついた。
それきり、男は護衛の黒服たちをつれて、表通りへと消えていく。
路地裏の物陰で泣き続ける、一人の少女を残して。
正義の味方は、ただ『いつも通り』に、その街を……表向き存在しない事にされている街を後にした。
ご案内:「落第街大通り」から『室長補佐代理』さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」にメアさんが現れました。
■メア > フラフラと揺れながら1人、通りを歩く小さな少女
何も捉えていない様な瞳でただ前を見つめながら
「なんで……なんで……」
風紀委員の公式発表
教員洲崎の指名手配…自分の信頼する数少ない男の名が載っていた
■メア > 「どうして……」
この島に自分を呼んだ人
生活面や金銭面で色々と工面してくれた人
グータラでよく分からない変な人
でも自分に優しくしてくれる良い人
そんな風に信頼していた男が誘拐に殺人に施設の襲撃?
「………」
分からない、なぜこんなことをするのか
誰かにぶつかるのも気にせず、少女は通りを歩く
■メア > 偶然ガラの悪そうな男にぶつかる
だが反応することもなく通り過ぎれば男が苛立ちを抑える事なく声をかける
「お嬢ちゃん、人様にぶつかっといて挨拶もなしか?
随分いいご身分じゃねぇかおい!!」
男の怒号はメアの耳には届かず結果無視されたと感じた男が激怒しメアにつかみかかる
子供相手にも容赦のない乱暴さ、周りの者は全員我関せず
この島らしいいつもの光景
■メア > 「…離して……」
いきなり掴まれ引き留められた
グルグルと頭の中が整理できないメアはいまだ相手が誰なのかもよく分からず呟く
恐がることもなく謝罪もなく、まるで自分を虫程度に見るメアに男の怒りは更に高まる
「てめぇみたいなガキは…ちゃんと教育してやらねぇとなぁ!!」
拳を握り、振るう
躊躇なくメアの顔面、正面から一撃をくらわそうと
■メア > 「……死ね…」
小さな呟き
そして悲鳴
振るわれた男の腕は肘の部分まで食いちぎられたように先が消える
「………」
蜘蛛の子を散らす様に駆ける周りの人々と
腕を抑え苦悶に顔を歪ませ膝をつく男
その全部を無視して、自分の口元に手を当てる
自分の口から出た一言。その言葉が信じられずに
■メア > 周りのざわめきから逃げる様に少女は走る
訳も分からずこの場から離れようと
転移も使わずただただ走っていく
ご案内:「落第街大通り」からメアさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に流布堂 乱子さんが現れました。
■流布堂 乱子 > 大通りをひたひたと帰る。
ざわめいた通りの雰囲気にかすかに眉をひそめて、しかし立ち止まりもせずに。
紅い制服でも着ているなら別なのだけれども、今晩は"仕事"があった。
この街で風紀委員が仕事をするには手順が要る。下手な言い訳で無駄に時間を使いたくはなかった。
「……もしもし。ロッソですけれど。仲介された依頼の通りに港を確認しました」
落第街は、海に面している。
この大通りを行けば突き当たるはずのそこへは、恐らくその道順では一生たどり着かない。
工房街と高天町、二つも違法拡張都市を間に置けば真っ当に地図が引けるはずもないのだけれど。
■流布堂 乱子 > "くらうみ"と呼ばれる港(本来は言葉通りその沿岸部の海だけを指す言葉なのだけれど)へ向かうには、宝町か工房外のどちらかを経由する必要がある。
宝町は現在、地域を支配していた勢力"梁山泊"の首魁が無期限帰国したために混迷の極みに有る。
元々何かしらの破壊衝動を抱えた連中を"それも全ては死皇帝が悪い"という強引な陰謀論でもって押さえつけ、
その力を一つの方向に向かわせていたカリスマの不在は、近寄れば無差別に人を傷つける衝動的で破壊的な街区の形成を促していた。
風紀委員の制服など着ていれば、翌日にはどんな姿で街頭に掲げられているかわからない。
反対に、工房街は目立った危険こそないものの、ただ通り抜けるだけで寿命を縮めることになる。
ドーム状に一帯を覆った擬似世界から世界樹が地面に向かって生え、
それに果実のように異世界の工房が連なるさまは、これが財閥がこの街を自由にする理由かと納得させるだけの衝撃を持つのだけれども。
世界樹から流れ込む清水は全て工房を通して汚水と汚泥と排気に変換され、
世界樹の頂上の先、即ち地表部分はこの身の毒龍さえそう簡単には吐けぬほどの瘴気で溢れかえっている。
"この街で一番安全な領域"という異名は伊達ではない。
結局、仮面の男…洲崎の改造異邦人の手がかりを求めて工房街で聞きこみを行った乱子だったが、あいにくと成果はなかった。
結構な額を握らせたはず…と言いたいところだが、
以前誂えてもらった紅の義足でさえ、天井に連なる工房から言えば最下層に位置する代物。
上層に向かえば取引される額は国家予算に匹敵するとかどうとか。
礼状に首を縦に振るような連中でもない以上、偶然に期待するしか無く、その目論見は外れた。
■流布堂 乱子 > 生体改造技術が専攻として登録されてない以上は、
共犯あるいは協力者、指導者が居ると考えたのだが結果は梨の礫。
世界樹の根の近く、つまり工房上層部へは辿り着くことさえ出来ずに、
地表の汚泥と瘴気を踏みながら、工房街を横切った。
暫く歩けばその先には、終日ただひとつの明かりさえ許されない"くらうみ"という港街が有る。
窓の一切は釘で打ち付けられ、街灯は存在しないのではなくむしろ朽ち折れた無残な姿で照明の禁止を明示するために残されている。
市もなく、船乗りたちを癒やす酒場もなく、旅人を迎える宿もなく、
倉庫が街のほとんどを占め、ほんの少しだけ、ここに済むことを選んだ住民が光差さぬように封鎖された家に引きこもっている。
ここまでが、昼の"くらうみ"。
暗闇に閉ざされ、一切の視界の効かない夜の"くらうみ"にだけ、その港は現れる。
横に広く、朽ち果てた軟体生物の遺体を利用した港湾施設の中には、
使用者にしか見えない幽霊灯が厳重に包まれたうえで窓から離れて設置され、
港湾管理者が暗闇の中、帳簿に異常な速度で書きつけている音だけが響いている。
乱子は、ふたつ目の用事を済ませるためにこの街を、この港を、この港湾管理局を訪れていた。
……ギルドからの依頼。正確には、ギルドによって仲介された、日本政府からの依頼。
■流布堂 乱子 > これが何本目のダミールートなのかを乱子は知らない。
ただ、自分の追っている事件の調査費に当てる必要があった。
この頃はまだ新人で、金が必要だった。
そもそも、人質でも連れているならまだしも。
……内乱罪なんてものについては公安の領分だ。
それを、どんな顔で風紀委員が指名手配を掛けたのか――
そんなことを考えながら。
夜にしか存在しない港を出て。
一つの灯も灯さずに運行することを求められる船舶たちの内の一つに、
決して常世財団及び当局の知り得ない積み荷を一つ載せられるよう約束を取り付けて、
乱子は珍しく、携帯端末さえ取り出さずに足早に"くらうみ"を歩き去った。
"くらうみ"の水面を捉えた視界の端に。
水中に揺れ水平線を覆う、黒い髪のようなものを見た気がして、怖気がした。
熱源視覚のなかに、そんなものは映るはずがないのに。
"くらうみ"の由来、"くろかみ"は光を嫌う。
正しく言えば、『光のもとで自らの顔を見られることを嫌う』
為に、この街には一つとて海に向けられた明かりは存在しない。
海に背を向けて歩く背中に、かさかさと笑う声が聞こえた気がした。
■流布堂 乱子 > 「……ええ。風紀委員があの街に向けて出動する機会は一度たりとてきてほしくないですね」
大通りを、ひたひたと。
乱子は常世学園という世界へ向けて歩いて帰る。
この後は、ようやく大手を振って入れるようになった風紀委員会本部ヘ向かい、
研究区の監視カメラの映像を確認しながら洲崎の拠点の手がかりを探る……
という用事を誰かに押し付けたい。
■流布堂 乱子 > 「ええ。報酬はいつもの口座に。それでは失礼します。」
通話を切ると、端末を胸ポケットに仕舞いこんだ。
確認した時刻は想定より二時間も遅い。
せめて時間を稼ごうと飛んだところで、
座標のズレのせいで着くのは"歌ヒ藁"の桟橋の方だ。
あいにく投げ込みたい相手は居ない……おそらくは、居ない。
……地味な作業は、押し付けたい。
そもそも直属の先輩が暇そうにしていたら、
『ビデオを見る簡単な仕事ですよ』と渡そうと思っていたのに。
昨日も一昨日も風紀委員の職責を果たして居たとなると、
もう自分がやるしかないのかなと諦めに似た境地に達するよりほかはない。
少なくとも、こうしてこの街を歩く間に二度ほど物を燃やす機会には恵まれている。
代わり映えのない作業に耐え切れずに、着任一日目から建物全焼とともに辞表を叩きつけずに済むとは思うものの、
こんな勤務体制が長続きしてほしくない不安は有る。
ひたひたと歩く足取りは、相変わらず。
歓楽街の駅に着くまでの間を歩き続けて、その間に一度だけ。
ほんの小さな声で、ポツリと
「……後輩とか、出来無いでしょうか」
そう呟いて。街を後にした。
ご案内:「落第街大通り」から流布堂 乱子さんが去りました。