2015/10/07 のログ
■王百足 > 「__へェ!」
怪人の鎧に覆われた鋭い指を見て、声を張り上げる。
片手で持っていた大太刀を両手に構え__スリットの奥、燃え上がる金色を見据えた。
「リョーカイリョーカイ__お前強そォだしな、久しぶりに旨そうな奴と斬り合えるッてわけだな」
観客達の下品な歓声など耳には入っていない。
意識を全て目の前の怪人に集中させ__心底愉しそうに笑う。
軽く息を吐き__鋭い突きを怪人目掛けて放つ。
「ふうッ!」
軽やかではないものの、得物が手足よりも馴染んでいるかのように鮮やかな突き。
まずは小手調べの一発、相手の出方を探るつもりだ。
■『ラズル・ダズル』 > (地を踏み締める足に、跳ね飛ぶための力がぐ、と掛かる。
その太腿は、細身の体躯に在ってそこだけがいやに太い。まるで猟犬さながらに。
少年の息遣い。
今宵拳あるいは得物を交えたいかなる相手よりも鋭い、風を切る音。
黒紫の鎧の曲面が、安っぽい灯の光を照り返す。その残像を、長く引き伸ばすように――
いよいよ低い位置から、右足が地を蹴った)
「――――――、」
(疾駆。
その華奢な見た目に反して、怪人は搦め手を狙う真似はしなかった。
飛んでくる切っ先目掛けて、真っ直ぐに踏み込む)
(ぎいん、)
(弾けるような音がして、怪人の向かって右側――左頬のほんの表面が、大太刀の切っ先を弾く。
小手調べの一発とはいえ、怪人の顔が衝撃に揺れる)
(が、怪人は尚も踏み込む勢いを弱めはしなかった。
少年の突きが、小手調べの一発ならば――
怪人のこの『重量』もまた、手始めに切られたカードに他ならなかった)
(甲冑の奥の奥、目元の光がまあるく見開かれる)
(左腕の野太刀を、少年の右の横腹目掛けて、水平に一閃)
■王百足 > 切っ先からの確かな感触、刃こそ逸らされたものの、衝撃はしっかり叩きつけた。
並みの人間なら脳を揺らされ気絶する一撃だが、怪人は倒れない。
突きの動作で生まれた隙に、怪人が真っ直ぐ踏み込む。
細くも貧弱さを感じさせない横腹に__黒い野太刀が叩きつけられる!
「__ぎィィッ!」
ギン、と金属音が鳴る。
野太刀を横腹の色は肌色ではない、灯りを鋭く跳ね返す鋼へと変質している。
変質したのは皮だけではない、筋肉から内臓まで鋼へと変質していた。
衝撃で体が少し痺れるが、皮膚にも内臓にもダメージは無い。
内臓まで変えたせいで吐き気が酷いが、歯を食い縛り、怪人を見据えた。
「____だらァッ!」
手足を鮮やかに動かし、一瞬で得物を持ち替える。
刀身の面を怪人へ向け__思いっきり叩きつけんとする。
入れば人間の骨程度粉砕する一撃、致命傷こそ与えないが、重傷への遠慮は無い。
■『ラズル・ダズル』 > (ひときわ苛烈な音。
少年の横腹をしたたかに打ち付けた一撃は、しかしまともにこちらの腕へ跳ね返る。
踏み込む足の勢いが殺されて、後方へ一歩、辛うじて踏み留まった。
その手ごたえと、視界に入った色からして、自分の叩いたそこが並みの肉ではないことを察する。
鎧を仕込んでいたか、あるいは『そういう身体』をしているか。
怪人がそれを判じる暇はなく、少年の咆哮と共に、頭上から一撃が振る。
打ち下ろす動きに反して、こちらは下から掬うように切り上げる――
だがそれは、少年の刀を打ち返すためのものではない。
野太刀の重みを起点に、素早く後方へ身体を捻って少年の攻撃を躱す。
互いに重い攻撃を素早くやり合う闘いのこと、足先は刃先から紙一重のところで弧を描く。
着地した足裏が地を踏み締め、すかさず前進の動きに転じる。
少年が振り下ろした、大太刀の重み。
相手の身のこなしからして、隙と呼べるほどの間は生まれぬに違いない。
大股に踏み込み、少年の身体が刃に引かれるごく一瞬を狙った――袈裟斬りを放つ)
■王百足 > 野太刀が地面に打ち付けられ、怪人の体が飛ぶ。
放った打撃は空を切り、濃緑の瞳が黒刃の野太刀を見る。
(乱暴に使ったッてのに折れてねェな、一体どんな鋼を使えばそうなるのやら)
刹那の間、こちらへと伸ばされる野太刀を冷静に見据える。
軽やかながら確かな重みを乗せた袈裟斬りが__胸へと伸びる。
「ふうゥッ!」
再度、金属音。
胸に巻いた包帯が切れ、鋼に変質した皮が刃を止める。
衝撃のままに後ろに跳び、軽く転がって受け身を取る。
身を屈め、鋭く怪人を睨む。
「ッふー……」
その手に得物は握られておらず__辺りにも大太刀は転がっていない。
忽然と消えた得物、得物を失っても尚、濃緑の瞳は闘志を失わない。
■『ラズル・ダズル』 > (野太刀の一撃は少年の皮一枚さえ切れず、弾かれて跳ね返る。
衝撃で欠けたかに見えた刃は――しかし次の瞬間には、再びなめらかな刀身を取り戻す。
今度こそ、切り裂いた包帯の下の『鋼』を見た。
少年と真逆、後方へ跳躍。距離を取って着地し、片膝を突く。
相手はいつの間にか、得物を手放していた。手放した得物は――さて)
「――……。ほう」
(くぐもった、低い男の声。
それは確かに、怪人の甲冑の下から一言だけ発せられたものだ。
その短い吐息の中には、笑みの気配が交じっていた。
跳ね、身を翻して捻り、地の上に立つ。舞うような身のこなし。
こちらもまた、その左手から野太刀の姿が消えていた。
相手と同じ芸当が出来ることを見せ付けるよう、長い両腕をぱっと広げる。
間を置かずして、その両腕が拳を握る。
再び足を開いて立ち、拳闘の構え。
武器という道具を手放した四肢は、より獣性を強めてしなやかに和らぐ。
一度だけぐわん、と頭を振る動きは、どことなく眩暈を振り払うようにも見えた)
(先ほどは、少年からの一撃を待った。
今度はこちらから――跳躍。
宙で横に倒した身を捻り、右足を振り上げる。
踵が妙にゆっくりと弧を描いて、頂点へ向かい――
振り下ろす動きに転じた瞬間、加速する。
その身体が、少年と似て非なる鉄塊から成ることの証左だ。
鉄槌めいた回し蹴りが、少年の肩口目掛けて振り下ろされる)
■王百足 > (____異能の刃か)
欠けた刃が修復され、野太刀が忽然と消える様を見てそう判断する。
あの刀からは魔性を欠片も感じなかった、ならば異能の技だろう。
なんにせよ、相手の異能の正体は分からない。
「はッ、フェアになったつもりかよ」
挑発するような物言いながらも、目は笑っていない。
こちらは斬撃を軽減する上に身軽になったのだ、隙が大きい野太刀では懐に潜られると間が悪くなる。
ならばあちらも武器を捨てて対応する、分かりやすい理論だ。
相手は体格も身体能力もこちらより高い、少し分が悪いか。
跳躍し捻られる体、力強く回され叩き込まんとする脚を見据え__息を吐く。
「__ふうッ!」
軽やかに上半身を反らし、鋭い蹴りを紙一重でかわす。
風圧に白髪を揺らし、両腕に体重を掛けながら脚を伸ばす。
後転のような動作から放たれる蹴りは、空振った相手の脚へと向けられている。
■『ラズル・ダズル』 > (斬れぬならば、打撃を叩き込むのみと。
物言わぬ怪人ではあるが、そう判断したと察するのは容易いだろう。
野太刀よりも速く、野生のままに放った蹴りが虚空を裂く。
身体が宙にあっては、着地するまでに僅かなブランクが生まれる。
鋭い蹴りが互いにぶつかり合い、剣戟さながらの音を立てた。
翻した身体の勢いが、少年の脚に弾かれて逸れる。
バランスを崩した身体が、その細身の外見よりもずっと重たげに、ずしん、と土埃を上げて着地する。
両足と、右手を突いた格好。
一歩だけたたらを踏んで凌ぎ、ほとんど地を這うような姿勢から飛び掛かる。
長い左腕が、鞭のように撓って少年を狙う。
ほとんど捨て身の様相で間合いを詰めて、相手の顔面を殴らんと――
――するように見えて、真に狙うはその首元。
ただ獣の脚力に任せて飛び込む、ネックブリーカーの動き。
己の身体能力が先んじるか、少年の闘争心が跳ね除けるか)
■王百足 > 脚に金属のような手応え、骨が丸々金属に置き換わってるのかとばかりに硬い。
魔術強化無しでも高い身体能力といい、怪人はヒトならざる者だろうか。
相手はこちらの目論み通りにバランスを崩し、地面へと落ちた。
伏せた姿勢から獣のように跳躍し、無理矢理距離を詰められる。
体勢を整えるでもなく、捨て身とばかりに突き出される拳。
相手の一撃は非常に重い、マトモに受ければ一発でアウトだ。
その上耐久力も高いのだろう、あの硬さだと殴っても反動が重そうだ。
物理的に崩せないのならば__こちらの魔性を叩きつける!
「らあァァッ!」
身を捻り、突き出される拳に腕を伸ばす。
そのまま掴みかかれたのなら、相手の腕を思いっきり引っ張り密着しようとする。
当然ただ捕まえるだけではない、抑えていた王百足の魔性__濃縮に濃縮を重ねた呪詛を解放し、至近距離で叩きつける!
■『ラズル・ダズル』 > (人の形をしていながら、人語が通じないかのように錯覚させる獣性。
その俊敏さが、反射が、柔らかな手足のしなりが、怪人が元からヒトではなかったと伝えるだろう。
目元から長く尾を引く焔の軌跡が、いよいよあかあかと燃え立つ)
「……――シッッ!!」
(肺腑から、鋭い吐息。
飛び掛りざま腰を捻り、がむしゃらな速さで以て放った左腕が――
その手首を、掬い取られる。
視界がぐるりと回転し、距離を詰める勢いのまま、長身が丸ごと少年へ突っ込んでゆく。
慣性に引かれるまま飛び込んでゆく鉄塊の重量が、少年を押し潰さんとする。
その代わり――正面から叩き付けられる呪詛もまた、その衝撃を増した)
「!!」
(ごわしゃん、とひどい音がして、顔面に魔力を叩き込まれた怪人の首が、まともに後方へ曲がる。
人間ならば即死も即死、スナッフフィルムの有様である。
その甲冑は外れることさえなく、しかし怪人の身体を見る間に吹き飛ばした。
細長い身体が激しく回転し、二度三度と地を叩く。
交通事故も斯くやとばかりの音が、地下空間いっぱいに響き渡る――)
(――やがて、土埃と大音響の余韻が静まる頃。
怪人はぼろ雑巾の如く、地に臥していた。
闘技場が、たちまち観衆の野次と歓声でわっと埋まる。
人びとは少年へ群がり、次々と粗野な賛辞を投げ付けるだろう。
少年へ駆け寄ってくる男たちの向こうに、怪人の姿は埋もれて見えなくなった)
■王百足 > 「ぐふッゥ……!」
ずん、と体に押し付けられる重み。
反射的に鋼へと変えた肋骨が軋み、へこんだ肺から空気が吐き出される。
__捕まえた。
呪詛を解放し、至近距離の相手へと叩きつける。
衝撃に怪人の首が曲がり__巨体が宙を舞う。
怪人の体は駅の構内を転がり、派手な粉塵が舞う。
騒音が止み、砂煙が晴れて、怪人は地に伏せていた。
「……あーッ! 邪魔だお前ら! 離れろ離れろ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら近寄ってくるギャラリーを払いのけ、立ち上がる。
すたすたと倒れた怪人に近寄り、声を掛ける。
「……おーィ、生きてるゥ?」
車で思いっきり撥ね飛ばされたようなものだ、人間なら致命傷どころか死亡だろう。
ここでは殺しはご法度なので、死にそうなら治療しないと色々とヤバい。
さすがに観客も死人は出したくないのか、魔術師らしき男が後ろで治癒魔術の準備をしている。
■『ラズル・ダズル』 > (――人波がさっと引いて、少年の前に再び怪人の姿。
四肢を大の字に投げ出して、うつ伏せに転がっている。
倒れたままの背中は、呼吸に肩を上下させている様子もなく――ぴくりとも動かない。
少年が、生きてるか、と声を投げた瞬間。
がらん、と妙に軽い音がして、怪人の肩を覆っていた金属が外れる。
腿が、頭が、腰が、脛が。その痩躯の外殻が次々と外れ、地を転がる。
がらん、がら。
がらがらがらん。――がらららん。
がらん……)
(花びらのような曲面を持つ鎧の板金が、すべて転がり終える。
その地面の上に、およそ人間らしい生きものが倒れている姿は、ない。
空っぽの、ばらばらに解けた甲冑だけが、方々に転がっている。
あの怪人は、すわ本物の怪異であったかと思わせたその瞬間――)
「――隙あり」
(若い男の、低い声。
言うが早いか、少年の後頭部に、ぽこん、と人差し指を弾いたでこぴんの軽い衝撃。
彼の背後には――今しがた崩れて姿を消したと思われた、怪人が甲冑そのままの姿で立っている。
誰しもが目の当たりにしたはずの、崩れ落ちた甲冑のパーツは――先ほどの野太刀と同じく、忽然と姿を消していた)
(……やがて誰かの、小さく噴き出す声。
それを皮切りに、誰しもがげらげらと笑い出した。
揶揄や、嘲りではなく。繰り広げられた娯楽に対する、称賛の歓声だ)
■王百足 > 「うわッ……」
独りでに崩れ、からからと乾いた音を立てて外れる鎧。
剥き出しになった中身には__何もない。
リビングアーマーか? けれど叩いた感触は空っぽではなかった。
ならば何処に?
「__おわッ!?」
ぴこん、と後頭部に軽い衝撃。
思わず振り向くと、そこには甲冑を身につけた怪人が立っている。
後ろを見る__鎧のパーツは何処にも転がっていない。
誰かが小さく笑って、それが段々と大きくなって、歓声が闘技場に響き渡る。
笑い声につられ、王百足も笑い出す。
「ははッ、あははははッ、なんだよ、お前どんだけ頑丈なんだよ
ははははッ、はは、か゛はッ」
__突如、声に濁点が混じる。
口から血が漏れ、唇を汚す、魔術師らしき男が大丈夫かと近寄った。
「う゛ェッ、ちょっとやり過ぎたなコレ……」
おそらく先程の呪詛の解放に身体が耐えきれなかったのだろう、ダメージが重なってたのもあって内臓を痛めたようだ。
「あ゛……オレの負けだな、強いなお前……
とりあえず死にはしねーから大丈夫だ観客共、敗者なんぞほっといて栄えある勝者を胴上げしとけ」
力なく笑い、そう告げると人混みをかき分けていく。
観客も大丈夫だと判断したのだろう、立ち去る姿を引き留めるものはいない。
「じャーな、次会ったときはまたやり合おうや」
振り向き、そう怪人に告げて王百足は去っていった。
ご案内:「地下闘技場」から王百足さんが去りました。
■『ラズル・ダズル』 > (怪人の立ち姿は、試合の前とは打って変わって、どことなく弛緩していた。
首を押さえながら、少年を見下ろしている。
表情こそ察することは出来ないが、鎧の奥からか細い呼吸の音が僅かに響いてくる)
「少ッ……しばかり、痛かったぞ……さっきのはァ」
(怪人が、人間の男の声でまともに喋った。
取り囲む者たちも、こいつ喋れたのかよ、という表情に充ちていた。
吹き零れる金色の焔に交じって、鎧の内側から鉄錆の匂いが漏れる)
「試合は――君の勝ちだ。だが勝負には、こちらとて……負けはせん」
(試合の前の、観衆を煽り立てる飄々とした所作に反して、その言葉遣いはいやに硬い。
少年の吐血を黙って見つめ、力ない賛辞に、は、と短く笑う)
「この重たい身が、胴上げなど……出来るものか。
それに……今揺さぶられては、本当に首がもげてしまいかねん。
……ふ。いつでも相手になろうではないか」
(踵を返す少年を、佇んで見送る。
宴もたけなわとばかりに、怪人がひらりと右手を掲げる。
去りゆく人びとの合間に紛れて――
怪人は落第街から姿を消した)
ご案内:「地下闘技場」から『ラズル・ダズル』さんが去りました。
ご案内:「地下闘技場」にダナエさんが現れました。
■ダナエ >
──ゴッ……ゴス…… ゴッ……ゴス……
ゴッ……ゴス…… ゴッ……ゴス……
地下闘技場へと続く階段から、重く異質な足音が響いてくる。
降りてきたのは、異形の重騎士。
「……ふむ……」
面甲を上げ、興味深げに辺りを見回す。
ここへ来るのは別に今日が初めてではない。
だが前回首締めで落とされて記憶が飛び、
気絶前の記憶がろくにないのだった。
そのため初心者丸出しの不慣れな様子で、対戦者を探す。
■ダナエ > \おい見ろよアレ/ \人か?/ \岩だろ/
■ダナエ > \フジツボ付いてる……/ \は?/ \マジで?/
ご案内:「地下闘技場」にリビドーさんが現れました。
■リビドー > 「\びっしりと付いてるぜ/」
観客に紛れ、軽い口を叩いて重騎士を眺める、年若き風貌の男性――
軽く乗った後、あの騎士は、確か。と思い起こし。
「あのお多福木刀仮面と戦ってた騎士、だったな……」
対戦相手を探しているのだろうか、と、視線を巡らせた。
■ダナエ > 鎧のフジツボに気付いたゾーンの観客から、
きめぇきめぇとの罵言の嵐。
怒りを抑え、鬼の形相で睨むに留める紳士的騎士的対応。
ふと、罵言ゾーンの観客に見覚えのある顔を見つける。
「確かあれは……」
数十秒の間の後で、
それが前回歪んだ大盾を拾ってくれた人物だと気付く。
「………………」
背中の大剣を引き出し、
大剣でゴリゴリゴリリと鎧のフジツボを削る奇行。
それは自虐行為ではなく、
大剣にフジツボの残骸を乗せたまま一振り!
──フジツボの残骸は、罵言ゾーンの観客へ一直線。
これが宣戦布告、らしい。
■リビドー > \うぼぁ!/ \あべし!?/ \たらばがにっ!?/
……やたらと大袈裟なリアクションを取る罵倒ゾーンの三人衆をよそに、
頬にぶつかったフジツボの残骸を落ちる前に掴み鳥、、意図を汲み取ろうと思案する。
(……手袋の代わり、か?)
「おお、怖い怖い……っと、やぁ、この前の騎士さん。
元気そうで何よりだけど――このフジツボはそう云う事で好いのかい?」
小首を傾げながらも察し終えれば、やや確証が持てないと言ったそぶりでリングへと上がり込み、
地面から土石の槍を生やして掴み、構えてみせた。
■ダナエ > 一人すごく余裕があるんだか食いしん坊なんだかな
観客がいたことには気づかず。
「もらって嬉しいプレゼントを贈ったつもりは、ないぞ」
と、大剣の切っ先を床に下ろし投げつけたフジツボの残骸を指差す。
わかりにくいが、そういうことです、の意。
少年(という認識)が槍を構えるのを見れば、満足そうに頷き。
「大人に喧嘩を売るとどうなるか、体で思い知れ」
相手が年下と勘違いして、ニヤリと先輩面。
闘技場の中央に相変わらずの速度で移動しながら、
相手が観客席から移動してくるのを待つだろう。
■リビドー > 「ははっ。子どもならば生意気が仕事かな――ッ!」
観客席へと移動しきれば、早速作った土石の槍で仕掛ける。
大剣目掛けて横合いに薙ぎ叩き、様子を伺うだろうか。
……急造の土石槍である為か、硬度は其処まででもない。数度打ち合えば崩れ、気合を入れて叩っ斬ればそれも罷り通る。
とは言え、その生成には詠唱や魔力の移動などがは見受けられない、かもしれない。元素は動いたが――
■ダナエ > 「石灰の盾ではないぞ、石灰の下は金属だ!」
土の槍には負けない!と、相手の振るった槍は
歪んで非常に使い勝手の悪くなった大盾で受ける。
曲がった大盾では身を隠しきれていないのが悲しい。
ガードしたまま少し後ろに押されながら、槍の感覚に、
「魔力──ではない?」
てっきり魔力で造り出した槍だと思っていたが、
どうも違うようだ。
残念ながら詳しいことはわからない、
魔法の知識も頭の回転も足りないからだ。
「ふっ!」
大剣を身体の横、つま先より少し前の床へ差し、力を入れる。
──ダプッ、ドププププ……
割れたタイルの隙間から、溢れる暗い水。
濃度を増して漂う磯の香りで、その水が海水だということが分かる。
「フン!」
勢いよく大剣を振り上げると、水流が龍のようにうねり相手へと向かっていく──
この騎士には珍しい、大雑把ながら追尾機能有りの魔法剣。
水量がまだ足りないので、
まともに当たってもダメージは弱~中程度かもしれない。
■リビドー > 「む――流石に固い。」
異なる理論体系の魔を見せるもの、大盾に受けられば罅が入る。
後一合は使えるか、と、構え直した所で――磯の匂い。
醤油の一つでも欲しくなりそうな思惑を抑え――た所に迫る水の魔法剣。
ダメージは大した事はない、と見れば甘んじて受けた。
軽いよろめきを見せてから魔法剣の一部――海水を掴んで千切ろうと手を伸ばす。
「っ、と。水の魔術か。お陰で服が濡れてしまったよ。
……ふむ。元素の要素は含むが、根本的には魔力のそれとは別体系かもしれないな、と!」
そう出来たのならば、今度は水を土に替え、土石の短剣を作ってみせ――
濡れた地を蹴って飛び込んで見せれば、懐に潜り込み鎧の間隙に土石の短剣を突き立てまいと奮った!
■ダナエ > 「私との戦いの後は、風邪との戦いが待っているぞ」
服が濡れたと言う相手に不敵に笑い、軽口。
だが『水』が『土』に変わるという目の前の現象には、
「!?」
と思わず目を見開く。
自分の世界では有り得ない現象、余程高位の魔術師なら力業で可能かもしれないが──
そんなレベルの現象だ。
思わず凝視したのが悪かった、大盾を引き上げる手が遅れた──
そもそも曲がったことでただでさえ幾らか低いのに──
大盾を上げるが、短剣へのガードは間に合わない。
土石の短剣はその二の腕と肩部のつなぎ目に滑り込む。
「くッ!」
肩にダメージを追いながら大盾をさらに上げ、
短剣に続いて飛び込んできたであろう相手の身体を
盾で乱暴に打ち払わんと振るう。
そのまま大盾を着地させ、相手と距離を空けるために盾でえぐられた床から広範囲の攻撃魔法。
床のタイルの破片と土塊が鋭く周囲に飛び散る。
短剣は肩に刺さったままだろうか、
それとも使い手とともに肩から離れるだろうか。
■リビドー > 「生憎ながらボクには友人が少なくてね。こりゃ、次は休講かな――っと」
肩に突き立てればそのまま棄てる。そも、鋭さは其処にない。
尖った鈍器を叩きつけたようなものだ。刺されば鈍ら故の深手になるが、致命的な入り方をしなければそうはなっていないだろう。
元素・特に四大元素の理解があるのならば、
何か異なる理論体系の下、元素そのものを組み替えている様に見えた……かもしれない。
流れる様に腕を引いて上げ、大盾の薙ぎを腕の側面で受けて流れる。
力には逆らわず、きっちりと受け身を取って転がった。
転がる事で礫を避ける心算もあるのだろう。
「つぅ……。」
起き上がってはいない。
体勢故に軽い隙がある様にも見えるが、視線はダナエを向いている――無防備と言う訳では、なさそうだ。
■ダナエ > 「休講?
生徒が授業を休むのに休講とは、
いささか大袈裟すぎる表現ではないか」
まさか教師とは思っていないので、
ふつうに『授業休む』でいいだろうに、と思っている。
肩から短剣を引き抜く。
装甲が異様に厚いおかげで、短剣はそこまで深くは届かなかった。
が、十分に傷は傷、ダメージはダメージ。
「まったく有り難い。
敵の攻撃に見とれても死なずに済むのだからな。
戦場ではあり得ないことだ」
最も、見とれるほどの意外性もしくは美しさのある攻撃、
というものがそもそも己の世界の戦場にあったかと
言われれば、微妙なところだが。
ここでの戦いは、兵学校での練習試合に似ているなと思う。
起き上がらない相手の動きをじっと見、
間があると見たならば抜いた短剣にちらりと目を落とし。
元素魔法には親しんでいる。むしろ無属性の魔法は使えない。
感じ取れるのは土──自分にとって最も馴染み深い元素。
元々は水から造られたはずの短剣だが、
「水の波動が──」
ない、のだろう。不思議そうに短剣の裏を見る。
魔術師ではないので、
元素を組み替えたところまでは気づけない。
戦闘中でなければもう少し見たいところだが、
「面白い手品だ。
ではこれは──水になるのか?」
言うが速いが、短剣を天井へ投げつける。
──ガシャンッ!
頭上の照明が割れ、周囲の光量が一瞬で変わる、
割れた照明の破片が兜や鎧に降り注ぐ。
これは攻撃ではなく、隙を作ろうとする動作。
大剣の切っ先は再び床へ刺さり、ひびが稲妻のように相手へと伸び──
ぱっくりと大きく口を開け、かわさなければ隙間に落下するほどの地割れとなる。
そして数秒後、地響きとともにそこから吹き上げる土と石。
──この少年、水を土の短剣へと変化させた。
では逆に、土を水の何かに変化させられるのだろうか。
騎士はそんな疑問を抱いている。