2016/07/13 のログ
ご案内:「落第街大通り」に東方 仙子さんが現れました。
東方 仙子 > 「この街を訪れるのも、随分と久しい。」

眼鏡の奥の無感情な瞳を、無法の街の無法者たちへと向けながら淡々と女は歩く。
最後に訪れたのは5年、10年……いやもっと昔だったか、と僅かに目を細めて記憶を辿る。
過去最後にこの街を訪れたのは検体の調達の為だった事まで思い出して、女の口許が、僅かに綻んだ。

「そうか、あれきりか。」

此処も随分と様変わりした様な、そうでないような。
こちらへと向けられる様々な負の感情の入り混じる視線を受けながら、
それをさっぱり気にしていない風に、女は落第街を進んでいく。

東方 仙子 > 廃ビル群の谷間を抜けながら、以前来た時の記憶を鮮明にしていく。
様々な違法無法が跋扈するこの街で、女が欲したのは孤児だった。
それも極力生後間もない赤子が望ましかった。

「あの頃はもう少し活気があった気がしないでもなかったが。」

無造作に穴の穿たれた道路を迂回して、なお通りを進む。
到底真っ当な品を扱っているようには思えない露天商の主が胡乱な瞳でこちらを見つめている。

「あの時の店は……もう無いか。」

摘発を受けたか、事件に巻き込まれたか。
ほんの10年の間にもこの街では様々な事が起こっているようだ、と女は小さく息を吐いた。
忙しないのは性に合わない。自分とこの街は相容れないのだろうと思う。

東方 仙子 > 当時も早急に用件を済ませて研究所に帰ろうと思っていたことを俄かに思い出す。
元より良い話を聞かないどころか、公には存在しない事になっている街だ。
存在しないとは言っても、無法地帯としての存在が否定されているのであって歓楽街としては確かに存在している。
足を踏み入れるのは自己責任。うら若い女であれば尚更だ。

その結果、生じてしまう問題の内に望まれない子供を孕んでしまうなど当然、起こり得るだろう。
望まれない命を身籠った経験は無いので飽く迄予測でしかないが、
中絶という手段をとる事も出来ず泣き寝入りをする様に出産をする事もあっただろう。
想像するだけなら、容易だ。

「何せ無法無秩序、ついでに無情の街だからな。」

しかし、その恩恵を僅かばかりでも受けている身の上としては同じ穴の貉である。
女はその事を充分自覚していたし、故にこの街の存在を糾弾する気も無かった。

そも興味が無かった、と言ってしまえばそれまでなのだが。

東方 仙子 > 望まれなかった命の行きつく先。
この島には宗教施設も存在している。
嬰児を布で包み、教会の前にでも置いていくというテンプレートな行動に出る母親も居る事だろう。

しかし、あるいは
元々この街の所為で産まれた生命。
還す場所として選ぶ、という考えに至る事もあるだろうと女は推察する。
元より無法な街であるから、嬰児の遺棄くらい何をいまさら、と。
そうして還って来る子供たちの受け入れ先として存在する店のことを10数年前に女は突き止めたのだった。

「戸籍も無い、親も居ない、売買が行われても咎める者がないとあれば。」

利用しない手も無い。
倫理に従って事が万事順調に進むのであれば苦労なんて存在しない。

ご案内:「落第街大通り」に赤い髪の少女さんが現れました。
東方 仙子 > 当時、自分が“買った”のは──

すぅ、と女の目が細くなる。
厚い眼鏡のレンズの奥、懐かしさに感じ入るように静かに女は目を閉じた。

総勢7体。
身に着けたばかりの外科技術を使い、病院で医師として働き稼いだ金で買ったものとしては到底褒められたものでは無かったろう。
それでも、その7体──7つの生命のお陰で女は一つの成果を残している。それもまた事実であった。

その事だけは片時も忘れたことは無かった。

赤い髪の少女 > 今日も今日とて、「無名」の視点からの「裏」探索。
…と、明らかに、この街とは違う空気を纏った黒髪の女が歩いている。

(あの感じは…研究者、が一番近そうかしら?)

地味だが堅実な風貌。分厚い眼鏡。
その奥の瞳が宿す知性と…すれすれの「狂気」の気配。
いや、あの目の細め方は、すれすれどころではなく…

「おねーさん、あんまり「ここ」に似合わない人だね、何しに来てんの?」

はすっぱな口調を作って話しかけながら、相手が注意を向けていなかった物陰から姿を見せる。
声も、体型と年齢の変化で若干細く高くなっているが、耳に障りそうな声の張り方を更に足して、元の声から遠ざけた。
…元々この女とは面識がないが、万が一、「元」の姿で遭うことがあった時に面倒だからだ。

東方 仙子 > 「──ん。」

不意に声を掛けられ、現実──現在へと引き戻される。
振り返ればこの街の住人だろうか、赤髪の少女の姿があった。
興味本位で声を掛けることは間々あれど、声を掛けられることなど恫喝恐喝以外では珍しい、と場違いな感想を胸に抱きつつ。

「何しに──そうだ、過去を懐かしみに来たのではなかったな。
 とはいっても単なる散策なんだ、面白くも何ともない。」

硬質な、機械的だがよく響く声が女の口から発せられる。
日頃他者と会話らしい会話などしない所為か、どこか不自然っぽく感じられるだろうか。

赤い髪の少女 > ゆるめのタンクトップに、ショートパンツとカラータイツのストリートファッション。
いかにも軽薄そうに装う「少女」ではあるが、その腕や指、首元には、どこかアンティーク調のアクセサリーがいくつもつけられている。
魔術の素養があれば、それらが強力な魔具であることが分かるのだが…目の前の女は、どうだろうか。

「へー、過去?
おねーさんみたいな人がこんなとこに縁があるなんて、いっがいー!」

キャハハハ、と、品のない高い笑い声をあけすけに響かせる。
その裏では、

(人間らしい表情を作る能力すら省略…これは「筋金入り」ですわね。
一周回って、この街に用事が存在しうるタイプの研究者かしら?)

と、怜悧な観察を続けているのだが。

品のない表情の作り方の中にある瞳に、時折知性がきらめくのを感じるためには、それなりの人間観察力が必要だろう。

東方 仙子 > 「もうかれこれ10年以上も前の話だけど。
 ここも大分様変わりしてしまったようだ」

小さく肩を竦めながら、改めて周囲の建物や住人たちを見回す。
そして少女を頭からつま先まで一度眺めてから、興味を失ったのか再び近くの廃屋へと目を向けた。

「出来れば縁など無い方が良いと思っていたし、
 昔も二度と訪れることは無いだろうと思って居たんだが。」

何の因果かまた来てしまったな、と頭を振る。

赤い髪の少女 > 「10年!?そりゃ変わるよー、「表」だってあれだけ変わったのに、裏が影響受けないわけないもん。おねーさんの時間の感覚マジウケる!」

相手の言葉を聞いて、しばらく品なく笑っていたが…
この街を嫌う言葉が相手の女性から漏れれば、落ち着いたようで。

「ふーん、「こーゆーとこ」に縁がない方がいいと思うくらいには「ふつー」なんだね、おねーさん。意外」

少し鼻で笑うようなニュアンスを声に帯びさせながら、そう言って首を傾げた。
首の傾げ方は女性らしさを思わせなくもないが…仰ぎ見る視線の入れ方、そして目つきにはあまり品がない。
育ちの悪さを思うか、仕草のちぐはぐさを認識するかは、見る者の観察力によるところだろう。

東方 仙子 > 「そういうものか。
 10年かけてやっと変化が、という世界に生きているとその辺り疎いな」

周囲の変化になど特に興味を持たない性根ゆえか。
さほど後悔なども覚えていない風に呟くと改めて少女へと目を向ける。

「それはそうだろう。
 この街に居て面倒に巻き込まれれば研究もままならない。
 それは困る。実に。」

淡々と理由を口にしながら、温度の無い視線を少女へと向ける。
無表情に思われがちな瞳の奥には、人を人とも思っていないような冷徹さが覗えるだろう。
しかしそれは再び女が目を逸らすまでのわずかな時間だが。

赤い髪の少女 > 「おねーさんの住んでる「世界」だってさ、自分のとこ以外だったら、近く見てるだけでもけっこー変わるもんなんじゃないの?詳しくないけどさ」

そう言って、面白がっているような表情を浮かべる少女。
「詳しくないけど」の言葉は、今の問いかけからすると幾分嘘くさいが…相手の女性は、そこまで考えるだろうか。

…そして、淡々と理由を口にされれば…

「そっち!?そっちなんだ、おねーさん!
やっぱりっていうか何ていうか…ほんっと「そーゆーこと」しか考えてないんだね!」

再び、キャハハハと甲高い笑い声を上げ、大げさに笑い始めるのだった。
女の視線の質については…気にしていないのか、「そういうものだ」と割り切ってしまったのか。まるで動じた風がない。

東方 仙子 > 「はて、どうなんだろうな。
 そういうのは、そういうのが好きな奴に観させておけばいいと思ってたからな。」

ゆっくりと首を振ってから大して興味も無さげに目を眇める。
そして少しの間考える様に沈黙してから、再び口を開き

「それで、君の様な子が面白半分でも興味を持つような人間ではないと、自分でも思うのだが。」

笑っている少女を見据え、やはり機械的に。
要件があるのなら聞こう、と簡潔に付け加えて口を閉ざす。

赤い髪の少女 > 「えー、自分がやってるのに近そーな研究はフツーチェックするんじゃない?
研究内容ダブって先越されたら今までの苦労とか無駄になりかねないしさー」

どこか不満そうに声を上げる。やっぱり「詳しくないけど」は嘘だった可能性が高い。
そして、機械的に尋ねられれば。

「…「この街」で「おねーさんみたいな人」って珍しいから気になった、じゃダメ?」

そう言って、やや意地悪く、唇から舌の先を覗かせ、おどけてみせた後。
舌を引っ込めて、

「…ま、アタシもおねーさんと似たよーなもんでさ。
今うろついてんのは単なる「お散歩」なんだよね」

と、何でもない表情で手をひらひらさせる。
「正体」を明かすつもりのない今は、「公安委員」としての職権を利用するつもりもない。

東方 仙子 > 「ふむ……いや、とんと興味が沸かなかったな。
 近しい研究と言っても、この島にはそれこそ山の様に同種の研究施設はある。
 むしろ大半が同種と言っても過言では無い。

 だが、近しく見えても全く同じとは言い切れないからな。
 気にする者も居るだろうが、生憎と研究の邪魔になる思考は持たない事にしている。」

要するに、興味が無い。
堅苦しく言葉を並べながらも、行きつくのは興味の有無、ただそれだけだ。

「別にそちらの理由はこちらに害が無ければ何でもいい。
 今聞いたのは単にそれを確認したかっただけだからな。」

少女の正体が何であれ、肩書が如何あれ、
今この時に後ろめたい事は何一つしていない自信がある女は淡々と言葉を並べる。

赤い髪の少女 > 「へー、「この島ではたくさんある」研究かー…じゃあ、異能か魔術…それか異世界かな?

…でもそっか、先越されても気にしないんだ…
その心の広さはスゴイと思うけど、ヒトの時間は「フツー」有限だから、研究は程よく散った方が色々効率いいと思うなー」
(どこまでも筋金入りですわね…ある種の「妄念」を感じますわ)

どこまでも「自分」を棚に上げながら、「少女」は何の気もない風に肩をすくめてみせた。
もはや、「詳しくないけど」の嘘を糊塗する必要性すら感じていなかった。

「あー、害?うん、ないんじゃないかな、多分」

無論、今この場での活動を根拠にしてどうこうする気は「自分」にはないが、今この場で覚えた「顔」を「表」の姿での活動で封じる道理もないわけで。
だから、気のない調子で、適当に答える風を装った。

東方 仙子 > 「ああ、そうだな。
 肝に銘じておくとしよう。どうも忘れがちだからな。」

自分の研究内容の名言は伏せた上で、大仰に頷く。
「フツー」であればの考えも、「フツー」などとうの昔に乗り越えてしまった身としては如何とも言えない。
そんな心の内を表情には一切出さずに、少女の言に耳を傾けて。

「無いなら構わない。
 研究の邪魔だけは何人たりと許さない性格でね。」

そう告げる口ぶりに冗談の気配はなかった。

赤い髪の少女 > 「忘れちゃダメだよ、おねーさん」
(「忘れた」結果引き起こす事柄に鈍感であれるほど…「あたくしたち」も、優しくはありませんのでね?)

心の声はしっかり心の中に封をした上で、表向きけらけらと軽く笑ってみせる。
…心を読む能力を持っていれば、軽く不穏さくらいは漏れているかもしれない。
…が。

「…うわっ、おねーさん見た目に似合わず怖いなー。気をつけとこっ」

その辺はおくびにも出さず、肩をすくめてみせたのだった。

東方 仙子 > 「まだ痴呆の気が出るには年老いていないつもりではいるさ。」

魔術にも人の心の機微にも興味の無い女は、淡々と答えてくるりと体の向きを変える。
結局のところ、10年以上前に一度利用したきりの“店”は店主もろとも悪い夢の様に消え失せていた。
その確認が出来ただけでも、この街に来た収穫には充分だったし、
その確認が出来た以上、この街に長居をする理由も無くなったのだ。

「気を付けるならもっと違うところに気を付けるべきだろう。
 ここは無法の街、獣同然の所業が容易く蔓延っているのだからな。」

それだけ言うと別れの言葉も無しに歩き出す。
結局一度たりと、眉一つ動かさないままだった。

赤い髪の少女 > 「ボケなくたって「ヒト」は忘れるじゃん。
どーでもいいこととか、キョーミないこととか」

そう、けろっとした表情で言い切る。
…その実、「彼女」にとっては…いや、「彼女」が大事に思う人物にとっては、「ヒト」が「忘れる」ものであることこそが、許せないでいるのだが。

「あはは、それもそーだね。
でも、おねーさんも気をつけて帰ってね〜」

「気をつけるべき箇所」を指摘されれば、納得はしつつも何でもないかのように笑って。
頭の中身の軽そうな声で、別れの言葉もなしに立ち去ろうとする相手を見送るのだった。

東方 仙子 > ──数歩進んで思い出したように、片手を振り。
そのまま振り返らずに女は落第街の通りを消えて行った。

ご案内:「落第街大通り」から東方 仙子さんが去りました。
赤い髪の少女 > 落第街から、女が姿を消すのを見計らい…「少女」…いや、「少女」の姿をしたその人物も、その身を翻す。
その表情からは、先ほどまでの軽薄さが随分となりを潜めているが…

「………考え事の邪魔、しないでくれる?」

まさに、相手の女が心配していた「獣」が、「少女」の前に立ちふさがっている。
しかし、少女の表情に浮かんでいたのは、嗜虐の楽しみを隠さない、暗い微笑だった。

…「獣」の行く末は、誰も知らない。その、「少女」を除いては。

ご案内:「落第街大通り」から赤い髪の少女さんが去りました。