2016/09/15 のログ
ご案内:「落第街大通り」にセシルさんが現れました。
セシル > 夏休み明けから、クローデットは落第街の警邏にも回されるようになっていた。
任務実績が評価されたためだ。
『夏休みに間に合えば色々楽だったんだけどね〜』
などと、事務方に言われたりもしたが。

無論、落第街は歓楽区と比べても危険な場所だ。
治安維持が重要な風紀委員は、基本的に複数人で巡回をする。
セシルは(前衛としては)華奢なため、サポート役担当者の保護が主役割だ。

セシル > (………しかし、随分と酷い…
表の街とは、随分と有様が違うな)

歓楽街も、セシルにとっては随分とけばけばしい街であったが…この落第街大通りは、立ち並ぶ建物の面構えの怪しさ、卑しさが桁違いだ。
これでも『落第街の中ではまだ危険度が低い方』なのだそうだから、暗い路地の裏はもっと酷いのだろう。
そして、近くには貧民窟(スラム)もあるらしかった。

セシル > 風紀委員の職務上、歓楽街と落第街は区別して扱っているが…表向き、財団が落第街の存在とその惨状を認めていないというのも、セシルを困惑させた。

(これでは、「救貧法」以下ではないか…?)

セシルの世界には、軍事上の必要性も絡んで生まれた「救貧法」と呼ばれるシステムがある。
家を持てるほどの労働が出来ていない大人を、労働が出来ていない理由に応じた収容施設に送り、労働をさせたり保護をしたり…子どもの場合には、働けない場合は保護施設へ、働く見込みがある場合には職業教育の受けられる孤児院に送るという仕組みだ。

学園に来てからの社会科の講義で、この世界の理念はその上をいくと学んだ矢先に見せられた「闇」。
セシルには、不可解に思えて仕方がなかった。

ご案内:「落第街大通り」に濱崎 忠信さんが現れました。
濱崎 忠信 >  
 風紀委員と一目で分かる身形をしているセシルに、自ら近寄るモノは余り此処には居ない。
 誰もが若干遠巻きに、「風紀委員」を眺めている。
 闇の底にいる彼等からすれば、強い光に属する学園風紀の存在は、単純に恐ろしいものでしかないのかもしれない。
 
 虚ろな目の学生の何人かがセシルを見ては、こそこそと何か言い合いながら他の通りへと消えていく。
 その気力もない程、心身衰弱している者達は、ただセシルを一瞥しては、すぐに目を逸らすばかりだ。
 まるで、「目を付けないでくれ」と懇願でもしているかのように。 
 
 しかし、一本入った路地裏は話が別なようであり。
 
「いや、だからさ、何も持ってないってマジで」 
 
 風紀委員が近所にいるにも拘らず白昼堂々と、まさに恐喝が行われようとしていた。
 囲んでいるのは落第街の不良たち。
 囲まれているのは、制服を着ている黒髪の生徒だ。

セシル > 『…ん?』

路地裏の異変をまず捉えたのは、感覚強化の魔術も修得している前衛の同僚だ。

『おい、あっちが何かきな臭いぞ』

「よし、行ってみよう」

三人で頷き合い…足音を殺しつつも、速足で前衛が捕捉した「異常」を確認しに向かう。
チーム体勢は崩さずに、前衛の同僚が先頭だ。

濱崎 忠信 >  
 大通りの住民たちは特に何もいわず。
 そして、路地裏での不良達は風紀委員たちには気付いていない。
 そも、感覚強化魔術を用いるような連中の存在に先に気付けるほど「優良」であるなら「不」「良」ではない。
 
 風紀委員達の存在になど微塵も気付かないまま、不良達は相も変わらず恐喝行為に勤しんでいる。
 
「ほんと、すっからかんなんだよ。勘弁してくれよ」
 
 そういって、両手を上げて、ひきつった笑いを浮かべているのは、不良に囲まれている男子生徒。
 不良達はそれに対してもまるで容赦するつもりがないらしく、お決まりのカツアゲの口上を述べている。
 その一部始終は一般的な日常からいえば、「異常」な事態といえることではあるが、それでも内容自体はあまりに分かりやすく、日常茶飯事的ともいえる異常であった。

セシル > 『おーい、君達、そこで何話してるのかなぁ?』

前衛役の男子風紀委員が不良と男子生徒の組み合わせの集団に軽薄そうな声をかける。
もっとも、軽薄そうなのは声だけで、セシルを差し置いて前衛を務める程度には彼は大柄だし、筋肉も男性的に発達しているのが制服をきっちり着た上でも見て取れるだろう。
…素養があれば、ではあるが。

『話を聞く限り、平和な分配の話じゃなさそうだよねぇ。
ちょっと俺達に聞かせてくれない?』

大柄な前衛の後ろには、サポート役を務める小柄な女子風紀委員と…その傍らに、彼女に攻撃が届かないよう不良達に鋭い視線を投げ掛けているセシルの姿が見えるだろう。

濱崎 忠信 >  
 いかつい風紀委員に話しかけられ、びくりと不良達が震える。
 彼らは不良である。しかし、落第街にいながら、カツアゲなんて手段で上澄みをほんの少し霞めようとしているだけの小物だ。
 他にも後衛が二人いることを確認した不良達は、五人もいるにも関わらず即座に後ずさり、そのまま逃走していった。

 追いかければ風紀委員が彼等を捕まえるのは容易いだろうし、それは彼等も十分承知なのだが、だからといって大人しく逃げずにいられるかと言えば話は別なのである。
 そして、何より。
 
「あ、えーと……す、すんません、どうも助かったっす」
 
 被害者の男子生徒はそのまま置き去りにしている。
 こうすれば、少なくとも風紀三人全員では追いかけてこないだろうという公算からの逃走でもあった。
 五人で逃げて追いかけてくるのが二人か一人であるならば、全員逮捕は免れられるかもしれないという単純な考えであった。

セシル > 不良達は、落第街の中ではかなりの小物であったらしい。前衛役の男子が話しかけただけで、震え上がって逃げ出してしまった。

「追うか?」

男子とも女子ともつかないセシルが、その見た目通りの中性的な胸声を発する。

『いや、良いよ。深追いは危険だし…
「どうせ逃げ切れないし」ね』

後段の言葉を発する際には、前衛役の彼は声を潜めた。
そして、セシルに護られるように立っている女子の左目が、怪しい緑色の光を発している。

「…それもそうだな。

…ところで、貴殿は大丈夫か?盗られたものはなさそうだが、怪我などはないか?」

セシルも、納得したように頷いて…それから、被害者の男子学生に向かって話しかけた。

「気」の質その他諸々は隠していないが、姿と声だけで判断するならば、どちらともつきづらい容姿である。

濱崎 忠信 > 「お陰様で被害にあう前に助けてもらいましたよ。
見ての通り五体満足です。実際、危なかったですよ」
 
 そういって、日本人には珍しくもない黒髪黒瞳の男子は、苦笑を漏らしながら、財布を取りだして広げて見せる。
 中身は小銭だけだ。
 
「もし、あのままカツアゲされてたら、腹いせに数発ぶん殴られてたでしょうからね」

セシル > 「そうか…無事なら何よりだ」

口では安心したような台詞を言い…口元は、一応笑ってはいる。
…しかし、その目はあまり笑っておらず…身体も、安心に緩んだようには見えなかった。

「…しかし、貴殿は何故ここに?」

大通りからそこまで離れていないとはいえ、よりによって落第街の路地裏。
…しかも、目の前の男子は、この島の「表」でさほど珍しくない外見的特徴を持ちながらも、街の雰囲気に呑まれずそこにあるように見えたのだ。

濱崎 忠信 >  
「このへんに下宿があるんですよ。恥ずかしながら収入があまりないもんで、安い下宿を探していくと最終的にはこのへんになっちまうんです」
 
 常世財団は落第街の存在など認めておらず、あくまで歓楽街という体を取っている。
 故に、本当に安い物件をなりふり構わず探していくと、最終的には結局此処に行き着いてしまうのだ。
 治安の悪い場所は当然ながら地価が安い。地価が安ければ当然、賃貸の家賃も安い。
 安全を金で買えるほどの豊かさがないのなら、自然とそうなる。
 
「そういう風紀さんは何でまたこんなところに? いや、助けて貰ったんで有難い限りではあるんですけどね。
観光っすかね?」
 
 そう、セシルの剣を見ながら、男子生徒は尋ねた。
 

セシル > 「………なるほどな、合点はいった」
(非常に遺憾だが)

苦そうな表情のセシル。心の中の声も漠然となら表情から読み取るのは難しくはないだろう。

「…観光ならば、わざわざ委員会で固まって来るわけなかろう。職権濫用にもなりかねん」

観光?という質問には溜息を吐きながらそう返す。
わざわざ風紀委員にそういう質問を返す人間の悪意というか敵意というか…そういうものに鈍感なセシルでもない。
…だが、わざわざそれに突っかかったところで、この街の治安が回復するわけでもないのだ。
風紀委員たるセシルの務めは、彼も含めてこの島に住まうものの命、財産、そして尊厳を出来るだけ守ることにある。
セシルは、気を取り直した。

「念のため、学年と氏名を確認したい。
この地域に住まうからには、またどこで被害者として巻き込まれるかも分からんからな」

そう、堅苦しいまでの実直さで男子生徒に問う。

ご案内:「落第街大通り」にソルヴィスさんが現れました。
濱崎 忠信 >  
 表情から不愉快な思いをさせたのだろうという事は察したのか、男子生徒はへらへらと笑う。
 
「ああ、いやいや、別に嫌味とかでいったわけじゃないんですよ。
どうも、この世界に慣れてらっしゃらないようだったんで。
新人研修がてらと思えば、別に不自然でもねぇなぁと。
ほら、普段このへんパトロールとかもこないんで」

 財団に放置されているような区画であるため、治安維持活動は当然ながらおざなりだ。
 故にああいう小物の不良ですらのさばるという有様になっている。
 
「で、名前っすね、はいこれ」
 
 そういって、生徒手帳を見せてから自己紹介を始める。

「濱崎 忠信。一年っす」

ソルヴィス > 商店街から風紀員の一団を追う形で、落第街まで入り込む。

その直後に聞こえてくる、喧騒。
「これは面白い者が見れるかな…?」

だが、騒動の元へ足を向けてみれば、既にそれは終結していたようで。

「残念、いい見世物が見れるかと思ったんだけど…ん?」

代わりに、目に映ったのは一人の男と、自警団らしき少年少女達。

「ほう、彼ら…なかなかに美味しそうだね…特に…」

セシルと、濱崎へ視線をやる。

「いいね…量は少なめだけど、うっかりこの場で「食べて」しまいたくなる位には、いい味をしてそうじゃないか…」

本性の一端を見せた男は、舌なめずりをしつつ、事の成り行きを見守る。

セシル > 「いや、構わん。
「この世界」にしても、この島は随分特殊な場所だと聞いているがな」
(この辺りに住んでいるにしても…随分と「目」が良いな?)

『ホントはこの辺もちゃんと回ってあげたいんだけどね〜…不安な思いさせてごめんね?』

男子生徒の観察眼に若干の警戒心を持ちながらも、へらへらとした弁解を堅く受け止めるセシルと…いつの間にかその背後まで近づいてきており、ひょこっとその陰から頭を下げてパトロールのおざなりさを詫びる女子委員。
…で、何故彼女が近づいてきているか…といえば。

「「ハマザキ タダノブ」…1年生だな。
…失礼」

セシルは生徒手帳を確認すると、その生徒手帳の確認を後衛の女子に譲った。

『…そっかぁ、漢字はこう書くんだね…協力ありがとう。
この辺りの治安で不安なことがあったら、風紀に相談してくれていいからね』

生徒手帳を確認すると、また下がっていく後衛役。
………どうも、セシルは見た目通り、漢字を苦手としているらしかった。

濱崎 忠信 >  
「いやいや、俺に金がないのが悪いといえば悪いんで仕方ねぇっすよ。
それに助けてもらったうえで文句なんか言うつもりはありませんって。
相談についてもなんか困ったら顔出すんで、そん時は是非とも」

 女子委員にそう笑って返しつつ、確認の済んだ生徒手帳を懐に仕舞う。
 そして、セシルの言葉にまた苦笑で返す。
 
「御察しの通り、この島は異常とかはみ出し者の掃き溜めみたいな場所ではありますね。
しかし、それが分かった上でなお、そいつを持ち歩くってこたぁ相当な腕前みてぇっすね。
いや、異邦人の方は頼もしい」
 
 セシルの腰の剣……少なくとも現代の純粋な地球人が持ちそうにないそれを見ながらそう呟く。
 刀剣類は単純な武器として、落第街では自衛の為にも略奪の為にも常に需要がある。
 つまり、セシルのそれは常に腰に貨幣をぶら下げているようなもの。
 落第街にいるのは当然雑魚ばかりではない。
 それでも、それらも退けられる腕前であるからこそ、堂々と隠さずに帯剣しているといえる。

セシル > 『しょーがないといえばしょーがないんだけど、この辺に住んでる人達ってどーしても委員会の支援に疎いとこあるからね〜。
濱崎君は正規の学生なんだし、きちんと頼るんだよ?』

やっぱりセシルの背の影から顔を出して、念を押す女子。
壁にされたセシルは、その様子に特に不満を持つ様子もなく…

「………金がない、か。
貴殿の胆力ならば委員会も務まりそうだが…まあ、気が向かんなら仕方がないか」

ただ、忠信の境遇に「もったいない」といわんばかりの言葉を零した。

「この世界では、異能も魔術も、異種族も珍しいもの…いや、珍し「かった」もの、とは聞いている。
…表だけでも整っているだけ、まだ「マシ」なのかも知れんな」

などと、この島の現況に軽く嘆息してみせるが…帯剣を指摘され、おだてられれば

「…まだまだ精進中の身だ、おだてても何も出んぞ」

と、苦笑し。

結局、「気をつけて帰るように」と念押しして、セシル達風紀委員のチームは警邏の続きに向かった。

…ただ、一瞬だけ。
セシルが、忠信ではない「何者か」の気配に感づいて振り返るが…

それでも、同行者に呼び止められて追跡を断念し、その路地から歩き去っていった。

ご案内:「落第街大通り」からセシルさんが去りました。
濱崎 忠信 >  
「胆力だなんてそんな、俺はしがない臆病な学生でしかありませんって。
そんじゃ、今日はどうもでした。またどっかで」
 
 困ったら頼るんでまたお願いしますねぇー、などといって見送り、完全に風紀委員達が立ち去った後で。
 
「野次馬目的なんだったら、これ以上は何もないぜ」
 
 そう、呟く。
 どこにともなく。

ソルヴィス > 風紀が去るとすぐに人だかりが崩れていく。
そうして誰もいなくなり…否、ただ一人、その場に居残った者がいる。

「おや、心外だね…怪我をしている君が心配で、残ってあげたというのに」

そういって、にこやかに近づくこの場に似つかわしくない
白いスーツを着た男。
その肌は炎が燃えるように、或いは血を塗りたくった様に赤く、頭部には異種族の証である
二本の角が生えている。

「立てるかい?」
そういって手を差し伸ばす。

無論善意ではない、直に触って肉質を確かめるためである。

濱崎 忠信 >  
「勿論。さっきの風紀さん達のお陰で五体満足なんでね」
 
 そう言って、差しのべられた手を取って立ち上がる。
 別段、普通に。
 
「随分と上等な服着てるなアンタ。大手の違法部員かなんか?」
 
 その異貌をみて、忠信はそう尋ねる。
 異邦人も珍しくないこの落第街ではあるが、その異貌と偉容が合わさっているともなれば、最初に疑うのはそこだ。

ソルヴィス > 「いやいや、私はただのサラリーマンだよ、稼ぎがいいのは認めるけどね」

触ってみた感触としては、固すぎず柔らかすぎず、といったところであった。
まるで目の前の人物のように特徴のない、肉質。
だがそれは、逆に言えばどのような食べ方にでも合う、ある種最も理想的な肉質でもある。

「スーツが派手なのは、故郷だと白いスーツは別に珍しくなかったからね。
驚かせてしまったかな?」
無論それもあるが、羽振りのよさを見せ裏の世界のものとコンタクトを取りやすくする狙いもあった。
濱崎の問いに答えると、不意にハンカチを差し出す。

「何だったら家まで送るよ、ご両親も心配しているだろうし、もし友達に連絡を取りたいなら
携帯を貸すけど」
やたらに親切なのは、彼が「消えても誰かが困らない」人間かを確かめるため。
そして、久々に上質と思える「肉」とであった事により、執着心が沸いたため。

少し露骨過ぎる自覚はあったが、落第街の人間ならば平気だろうという侮りもないわけではなかったが。

濱崎 忠信 >  
「『ただ』の、しかも羽振りの良いサラリーマンが出入りするような街じゃねぇと思うんだけどな」
 
 社交辞令のような言葉であるとは自覚しつつも、そう返しておく。
 実際、異邦人が大資本を握っているという事は、異世界に進出して尚、ある程度の成功を手にしているという証だ。
 そんな奴がスラム同然の街を出入りするなんてのは、キナ臭い以外の何物でもない。
 
「親もいなけりゃ、友達も少ない身の上だよ。
家まで送ってくれるってんならお言葉に甘えようとは思うけどね。
つっても、すぐそこさ」
 
 そういって、歩き出す。
 少なくとも先ほどのような不良はこれで近寄ってこないだろうし、それはそれで忠信からすればありがたい事であった。
 不良の相手は面倒なのだ。
 

ソルヴィス > 「怖いもの見たさという奴さ、それに、こう見えても腕っ節には自信があるよ。」
そこは噓偽りのない本心であった。

怪我をした学生と白いスーツの鬼そのものな外見の二人組は、この落第街にあっても控えめにいって異常な光景であり

濱崎の思惑通り、近寄るどころか誰もがスーツの男を避けるように歩く。

「おや、若い身空で随分と苦労してるようだね…」

先程の濱崎に勝るとも劣らぬ白々しさで、そう言ってのける。
その後も特になんでもない世間話を振りつつ、わざとゆっくりと歩きながら
濱崎の家へ向かう。

警戒心を解き、あわよくば自身の家へ招くために。

濱崎 忠信 >  
「それこそ、此処じゃ珍しくもないさ。
いや、今となっちゃこの世界のどこでも、そこまで珍しい事でもないんじゃねぇかな」
 
 異能、魔術、そして異世界からの『異邦人』と、この世界は既に昔のような世界ではない。
 他者と己を区別し、迫害することが出来る理由が増えたのだから、その不和の煽りは大なり小なりどこにでもある。
 常識の裾野は今この時ですら加速度的に広がり続けている。
 
「腕っ節に自信もあって、稼業もあるアンタが好奇心だけで此処にきたのかい?
冗談だとすればそれなりには笑えるな」
 
 素直に思った事を口にする。
 
「仕事できたってんなら分かる話だけどな」

ソルヴィス > 「…先に謝っておくよ、どうやら私は君という人物を見くびりすぎたようだ」
家の目と鼻の先で、笑みを浮かべた男が突然立ち止まり
突然の謝罪を述べる。

「さっき言った事は半分は事実さ、もう半分は…今、君が言ったとおり。」

男が話を続ける。

「うちの企業は特殊な「食材」を扱っていてね、私はそれを仕入れるルートと卸すルートをこの世界で作るために派遣されてきたんだ。
この食材、他でもそうだがこの世界では殊更嫌われる食材でね、売るのも仕入れるのも苦労する代物なんだ。
この辺りへ来たのは…この辺りならその両方を満たすルートが或いは…と思ったんだが。」

流石に「後君に親切だったのは君が美味しそうな肉質だったから」とは言わずにおいた。

「さて、君の鼻のよさを見るに、耳の方も期待できそうなので聞いてみるが…そういった「ルート」に何か宛はあるかな?」

それは相手が、ニュアンスだけでソルヴィスの属する会社が「何を」扱っているかを看破しているだろうと
読んだ上での問いかけだった。

濱崎 忠信 >  
 僅かに目を細めて、忠信は呟く。
 
「『食材』ねぇ」
 
 男の遠まわしな言い方から、大方予想はつく。
 それは、この後におよんでハッキリと『何であるのか口に出来ない食材』である。
 しかも、こんな非合法の巣窟である落第街にあって、しかも一応は腹を割って喋ろうというポーズを見せておきながら、それでも言葉を濁す他ない代物ということだ。
 
 人間にとってそれが食材と呼べるかどうかという問いを置くにしても、どちらにしろ、どう少なく見積もっても、非合法な物であることは確実であろう。
 物流に関してはあらゆる意味で外のそれと比べれば比較的寛大なこの常世島にあって、それでもなお非合法なものなのだ。

 予想の域は出ずとも、男が求めるものがどこにあるかは、忠信にもわからないでもない。

「この辺で探すなら諦めなよ。
此処はさっきみたいな安いカツアゲをしている連中でも日銭が稼げる程度の場所だ。
少なくとも『さっき助けてくれた人達』みたいなのに見つかるとマズい代物が欲しいなら、間違ってもああいう人達が来ないような深層にまで行くのが手っ取り早いよ」
 
 そう、即ち。
  
 違反部活の部室犇めく、スラム最下層。
 

ソルヴィス > 「予想はしていたが…まあ、そうなるだろうね」
こちらも、先程の喧騒でここがそうした場には向いていない事を察知していたようだ。

「何せ扱いがデリケートでね、ばれれば最悪この島を叩き出されてしまう。
異邦人街の深いところでようやく流通できるかどうかというものだが…
ふふ、君が賢い子で本当に助かるよ。」

男が珍しく、(少なくとも外見は)人間である濱崎に礼と賞賛を述べる。

「君達という種族に対する認識を、少し改めさせてもらうよ。
色々とアドバイスありがとう。礼といっては何だが、何か困ったときは訪ねてきてくれたまえ。
できる範囲でなら力になるよ。
それと…」

手に、何かを握らせる。それはマネークリップで雑に留められた、札束。

「足長おじさんから、恵まれない学生へのプレゼントだよ。勿論口止め料も込みでね。
今日は色々とありがとう、君は人間だが…また会える日を楽しみにしてるよ。」

最後に、自身の携帯の番号を書いたメモを渡すと、上機嫌でその場を去っていった。

濱崎 忠信 >  
「こいつはありがたい。暫く金欠しないで済みそうだ」
 
 口元だけで笑みを浮かべて、受け取っておく。
 忠信が今金を持っていない事は確かなのだ。
 現金は有難い。
 
「自分が賢いだなんて思った事はないから、困ったら遠慮なく頼らせてもらうよ。
またな。サラリーマンのおっさん」
 
 そういって見送り、メモをポケットに突っこんでおく。
 忠信にとっても『客』になるかもしれない手合いだ。

 そして、男の背が見えなくなってから、一言呟く。
 
「どこの世界もこういう仕事はビジネスライクに……ってことかな」
 
 それこそ、誰にともなく

ご案内:「落第街大通り」からソルヴィスさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から濱崎 忠信さんが去りました。