2016/10/18 のログ
■東雲七生 > (それにしても……ここは相変わらずな)
落第街を訪れたのは初めてではない。
今まで何度か──何度も訪れた事はある。
その度にこの街の異様さを感じていたが、最近はだいぶ大人しくなったと聞いていた。
しかし、実際来てみて七生は思う。
無法は無法に変わりないが、それでも多少の変化はあったらしい。
それでも生理的に受け付けられる事の無い違和感は、どうしても拭えない。
「……はぁ~、ちゃっちゃと猫見つけて戻ろう。」
転がったゴミ箱を軽く跳び越え、七生は奥へ奥へと進んでいく。
■東雲七生 > 前以て聞いていた猫の特徴を思い出しながら通りを歩く。
必然的に辺りを見回す様になってしまい、どうにも不信感を募られやすいのは自覚があるのでなるべく足早に。
途中、見ちゃいけないような現場もちょこちょこ目にしたようなしなかった様な気もしつつ、
いよいよ街灯がつき始めたくらいで七生は一度足を止めた。
「……大通り歩いてるだけじゃ、やっぱ見つかんねえか。」
途中から薄々思ってはいたものの。
これ以上の捜索は自分の身にも危険が及びかねない、と夕闇が迫る空を見上げた。
■東雲七生 > ざわり、と風が吹く。
血と脂と硝煙に似た臭いの混じり合った、血腥い風が。
同時に路地裏の方で怒声が上がる。住人同士の喧嘩でも始まったのか、それとも──
「………行こう。もう少しだけ探して、日没までには帰る。」
肌に粟立ちを感じながら、七生は再び歩き出した。
怒声は遠く、近く、転々と街のあちらこちらから聞こえ始める。
まるで日が沈むのに合わせ、住民たちが目を覚ましたかのように。
島内で異質なこの落第街に於いて、夜は尚更異を極める。
■東雲七生 > ふと、ある路地の前で足が止まった。
止めたのではなく、止まった。七生の意に反して、である。
胸騒ぎがした、というほどでも無く、極々自然に足が止まったのだ。
「──?」
怪訝そうに周囲を見回し、遠くの喧騒が更に遠く聞こえ
殊更に異常を肌で感じながら、七生は路地を覗き込む。
──別段、変わったところはない。
他の路地と変わらない、薄暗く湿っぽい空気に満ちた、お世辞にも綺麗とは呼べないような狭い路地だ。
それを確認すると、再び七生の足は動き出した。
困惑とほんの僅かな懐かしさにも似た既視感を感じる事もないまま、七生は大通りを再び歩き出す。
──16年前、その路地にて上がった産声の主を知る事もまだ無い。
ご案内:「落第街大通り」から東雲七生さんが去りました。