2017/05/02 のログ
■竹村浩二 >
不良たちが驚いて振り返った。
気配が薄い、足音が大きい、その違和感も驚きに拍車をかけていた。
『うわぁ、な、なんだ!?』
『お、おい、見世物じゃねーぞ!』
『なんだこいつ……女…!?』
違和感の塊のような少女に、顔を歪めてリアクションを取る不良たち。
俺はそれをどこか遠くの出来事のように、倒れ伏した地面から見上げていた。
『こいつが喧嘩売ってきたんだぜ、お前には関係ねーだろ』
『殺すならって……物騒なお嬢さんだな』
■柊 真白 >
(不良達の言葉を無視するかのように歩を進める。
今度は普段通りの――無造作なように見えて、音がほとんど聞こえない歩き方。)
集団でそれだけ殴っておいて、殺すどころか骨の一本すら折れてない。
――よくそこまで無様な真似が出来るね。
感心すらする。
(そのまま彼らを素通りして、地面に倒れる男の近くへ。)
貴方も。
死にたいならこんな素人にケンカを売らない。
自分で自分を殺した方がもっと楽に死ねる。
(そうして、説教をするように男へと言葉をかけた。)
■竹村浩二 >
『お、おいてめぇ……』
無様とまで言われて頭に血が上る不良の一人に、他の不良がストップをかけた。
『まずいよ、こいつ刀を持ってる……』
『多分異能使いだ、戦ったら怪我じゃ済まないかも…』
ぼそぼそと作戦会議をする不良たちを尻目に、竹村浩二は深く息を吐いた。
「ご高説痛み入る。死にたかったが、どうにも現状無理らしい」
「っていうか……本当に死にたかったのか…?」
「女に逃げられたくらいで……情けねーな………」
ぶつぶつと呟く男の呼気は、酒臭い。
というか、目の前の少女が瞼が腫れあがっててよく見えない。
前にも、不良どもに袋叩きにあってる時に女の子に助けられたような。
■柊 真白 >
不利な相手には尻込みして、有利な相手にだけ牙を向く。
それを無様と言わずになんて言えば良いの。
――痛い目を見る前に、帰ったほうがいい。
(振り返り、不良達を見る。
挑発ではない。
相手にはなるが、相手にはならないと言う警告だ。)
死にたいなら、殺しても良い。
ただし、先払い。
死んだ相手から報酬は受け取れないから。
(酔っ払っているらしい男の呟きに言葉を返す。
無駄な殺しはまっぴらだが、仕事ならば問題ない。
顔を戻して仕事の売り込み。)
■竹村浩二 >
不良たちは息を呑む。
どう考えても危ない橋だ。
もし勝っても些細なプライドを守り目の前の女一人好きにできるかどうかに命を賭けることはできない。
そして、何より。
少女の瞳の冷たさ。
それに怖気を覚えた不良たちは。
『か、帰ります』
『そ、それじゃ……』
と言い残して走り去っていった。
「ふーん、あんた本当に死神かなんかなんだな」
異能で異空間から剃刀を取り出して瞼を切る。
溜まった血が流れて少しは見えるようになった。
「そいつぁいいや……じゃあ早速」
懐に手を入れて財布を探ると、中身は空に近かった。
「ワリ、酒飲む前にケチなギャンブルで手持ちを使ってたらしいわ」
くああと欠伸をして立ち上がろうとし、ふらついて近くの電柱に凭れかかる。
「死神さん、あんた名前は? 俺は竹村浩二……見ての通り人間の屑だ」
立ち上がれた。
本当にあの不良ども、骨の一本も折る気はなかったらしい。
それでも体の節々が痛み、去勢された直後の犬みたいにヒョコヒョコ歩いた。
■柊 真白 >
(去っていった不良達を見送る。
こちらとしても無駄な事に体力を使うつもりも無い。
追いもせずにあっさりと彼らの事を意識から投げ捨てた。)
死神じゃない。
――お金ないなら、お客さんじゃない。
(ならば殺してあげる義理も無い。
殺しは慈善事業ではないのだ。)
――貴方は名前を教えるほど信用出来ない。
名前を呼びたいなら好きに呼べば良い。
(名前を問われ、少し考えてそう答える。
同業者には見えない。
こちらの世界に少しは慣れているようだが、かと言って所謂正義に属する人間で無いという確証も無い。
下手に名乗って仮面を人前で外す愚行は犯せないのだ。)
■竹村浩二 >
「死神じゃないのに、名乗りはしないと」
近くの壁に背中を合わせるように体重を預けて、異空間からメンソールの煙草とライターを取り出した。
火をつけて紫煙を肺腑に送り込む。
「女に逃げられても煙草は吸いたくなる、っと」
自嘲気味に笑って少女に視線を向けた。
何とも、非現実的な美しさだ。
彼女が死神でないとしたら、何なのだろう。
「じゃあシロコちゃん、助かったよ、一応礼言っとくわ」
「………あの不良も家に帰れば親が飯作って待ってんのかねぇ…」
どうでもいい話をした。
心底どうでもいい。それこそ、相手がこちらに名乗るのを拒絶したのと同じだ。
踏み込みたくないのだ。
誰の何も知りたくないのだ。
少女に名前を聞いておきながら、名前を知りたくなかったとも言える。
■柊 真白 >
一応、名前を知られたらまずい立場だから。
(人を殺して金を貰う仕事をしているのだ。
早々に名前など口には出来ない。)
――お金が無いなら殺してはあげられないけど。
話を聞くぐらいならしてあげられる。
(生粋の暗殺者ではあるが、どちらかと言えばお節介焼きな性格だ。
男に何かあったのは明らかで。話して楽になれるような事なら聞き役に回るぐらいはしてもいいと思う。)
――お腹空いてるなら、何か作ってあげても良い。
(家に帰れば食事がある、と言うのは確かに魅力的ではあるが。
多分男が言いたいのはそう言うことじゃない。)
■竹村浩二 >
「あ、そ。シロコちゃんにも色々あるんだな」
自分程度の人間にだって色々あるのだ。
目の前の少女にも、さっき逃げていった不良たちにも。
物語があり、事情があり、あるいはそれなりの悩みがあるのだろう。
「ああ、いや、あー………」
ガリガリと首の辺りを掻いた。
血が固まってかさぶたになっていて気持ち悪い。
「悪い、気を使わせたな。だが飯を……人に、作ってもらう気にはなれねーんだ」
家に帰るとメイジーが温かな食事を作って待っていた。
そのことにどれほど心が安らいでいたのだろう。
思い返せば、思い返すほど、死にたくなった。
「……あのさ、女に逃げられたんだよ、一緒に住んでた女だ」
「傷つけたんだと思う、俺も傷つけられたけど、それは大した問題じゃあない」
「問題は俺がテレビを消したおばあちゃん家みたいに静かな家に帰りたくなくて…」
「いや、違う……あいつに…傷つけた女に謝りたくて……」
むしゃくしゃする。どうしても上手く言葉にできない。
ご主人様とメイドの関係を話すのが恥ずかしくて、男と女の話題に置き換えているのも腹が立つ。
「あ、例え話下手くそでしたァ?」
とりあえず、へらへら笑った。
■柊 真白 >
そう、色々ある。
(自分にもあるし、さっきの不良にも、それこそ世界中の全ての人たちは色々あるのだ。
当然、目の前の男にも。)
――。
(そうして男の話を黙って聞く。
一緒に暮らしていた女に逃げられたと言う話を。
詳しいことは分からない。
詳しいことを聞こうとは思わないけれど、それでも男は自分の事を話してくれた。
名前も名乗らない面を被った相手に、正直に。)
――謝りたいなら、どうしてケンカなんかしてたの。
(だから、そんな言葉を口にした。)
謝りたいんでしょ。
無駄な博打でお金使って、お酒なんか飲んで、挙句こんなところでしなくても良いケンカして、痛い目見て。
そんな事してないで、さっさと謝りに行けば良い。
――行けば良い、じゃなくて、行くべき。
■竹村浩二 >
「………――――っ!」
喉が渇いた。血を流したからではない。
目の前の、恐らく自分より一回り年下の少女に。
ぐうの音も出ない正論を言われたから喉が渇いているのだろう。
「お……大人には色々事情があるんだよ…」
ダメ人間。クソ野郎。クズのチンピラ、正義崩れ。
心の中の、いつも押さえつけていた青臭い俺があらん限りの声で俺を詰ってきた。
だが、こうして大人であることを盾に相手の言葉を逸らそうとしているのだ。
言われても仕方がない。
「あ、謝れたらそうしてるよ……」
「でも、相手は、どこにいるかわかんなくて……」
「い……いいタイミングだったんじゃないか?」
「あっちも俺みてーな野郎と縁が切れてさ!」
――――よくも言い訳ばかり思いつくもんだ。
そう言い返した、『青臭い俺』は、直視してみればちょうど常世で学生をやっていた頃の俺の姿をしていた。
「オ………俺には自信がねぇんだよ!! また傷つけるのが怖ぇんだよ!!」
みっともねぇ、最悪だ。
■柊 真白 >
大人?
自分のするべき事から目を逸らしてぐだぐだどうでも良い言い訳を繰り返してる人が、大人?
(彼の言い訳も意に介さず、ひたすらに正論をぶつけていく。
正論を言っても仕方の無い事はある。
だが、今は正論に言い訳してもどうにもならない場面だ。)
どこにいるか分からないなら探せ。
手段が無いなら私が手伝う。
死ぬ気で足掻いてみっともなく島中駆け回りながら探せ。
(いつの間にか抜いていた――人外離れした動体視力が無いと捉える事の出来ない抜刀速度で――刀の切っ先を喉元に突きつけ、強い口調で言い放つ。
こちとら数百年を生きた大先輩だ。
人生経験の豊富さは、そこらへんの偉そうなおっさんの何倍もある。)
違う。
あんたは傷付けるのが怖いんじゃない。
自分が傷付きたくないだけだ。
臆病者、それでも男か。
■竹村浩二 >
向けられた刀の切っ先よりも、怖かった。
さっきまであれだけ殴られたのよりも、痛かった。
それだけの言葉を、目の前の少女から向けられていた。
「ああ、そうだな……」
向こう側から助走をつけて殴りかかってくる。
へっぴり腰、変なフォーム、無駄に暑苦しい表情。
それは、青臭い……学生の頃の俺。
「その通りだよ!」
その幻覚が自分に殴りかかってくるのに合わせて、思い切り自分の顔を殴りつけた。
鼻血が出たが、いやに笑えた。
俺を殴りつけた学生の頃の俺は、してやったり顔だ。
……この野郎、これで満足かよ。
「……手前ぇの心を傷つけたくなかったら、バカのフリをするしかない」
「でもそれじゃあ、かっこ悪いよなぁ……!!」
「ちっとも正しかねぇよなぁ……!!」
喉もとの切っ先を見もせずに横を向き、壁際から離れ、しっかりした足取りで歩き出す。
「ありがとよ、シロコちゃん! あんた本当は天使だろ!!」
手を振って走り出す。
どこまでも、どこまでも。
今度は、彼女をちゃんと見つけ出すまで。
俺を殴ったままのポーズで俺を見ていた学生時代の俺の幻影は。
振り返ると影も形もなかった。
■柊 真白 >
(自分で自分を殴りつける刀を突きつけられた男。
行動だけを見れば、恐怖で頭がおかしくなったとしか思えない。
しかし、そんな風には思わない。)
まさか。
――「貴方」を殺したのは、サービスにしておく。
(天使でも無いし悪魔でも無い。
ここにいるのはただの暗殺者だ。
うじうじと悩んでいる男を殺した、ただの暗殺者。
彼が歩き出せば、ぱちりと言う音と共に刀を鞘へ。)
見付かると良いね、その女の人。
(彼の後姿に声を掛けて。
彼が振り返る頃には、彼の幻影と一緒に自身も姿を消していた。)
ご案内:「落第街大通り」から柊 真白さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から竹村浩二さんが去りました。