2018/07/07 のログ
■神代理央 > 通信端末からは、先程から補導、捕縛、増員の連絡がひっきりなしに通知されている。
流石に特別攻撃課等の戦闘部門は動員されていない様だが、学生街や異邦人街からは引き抜かれている様だ。
「戦闘部門もさることながら、単純に人員不足感が出ているな。というより、入ってくる人数より出ていく人数の方が多いと見るべきなのか…」
無論、『出ていく』人間の中には負傷、死亡者も含まれる。
近年増加する不法組織と、その抗争は激化する一方であり、事務方の人間はさぞ頭を抱えているだろうなとココアを飲みながら小さく苦笑いを浮かべた。
■神代理央 > 不意に、背後に控えていた異形が駆動する。
何事かと視線を動かすが、視界に映るのは暗がりに包まれた路地裏と、その奥で輝く大通りのネオンのみ。
とはいえ、何かしらの気配、動体を察知したからこそ異形が駆動した筈なのだが―
「……やれやれ。狙われる覚えが有りすぎて、どういう手合なのか逆に分からんな」
襲って来ないということは、監視しているか襲撃するチャンスを伺っているかのどちらかだろう。
或いは、単なる勘違いという事もあり得るのだが。
兎も角、空になった空き缶を満杯のゴミ箱に放り込み、腰の拳銃を引き抜いて周囲を見渡す。
大通りの喧騒が、やけに小さく聞こえた。
■神代理央 > こういう時、探知系の魔術でも覚えておくべきかと常々後悔する。
本来は後方で味方を支援する火力型の自分が、こういう立ち位置に居る時点で半分負けている様なものだし。
「…見よう見まねじゃ、流石に出来ないか」
試しに自身の魔力を練り上げ、同僚が行っていた様に魔力を薄く拡散させる。
同僚はこれで気配を察知出来るのだと豪語していたが―
「……遠くに大勢人がいるのはわかるんだが、そもそも大通りだしな。当然と言えば当然か…」
人数も方向もあやふや。大通りの人混みだけは察知出来るがそれだけである。
まあ、此処まで隙を見せても襲撃が無いということは、監視の類か野良猫か何かだったのだろう。
僅かに溜息を吐き出すと、懐から取り出した飴玉を口に含み、ころころと転がした。
溶け出した暴力的な甘さが、疲労した脳内に染み渡る。
■神代理央 > 飴玉が口内で溶け切る頃、再度端末に通信が入る。
公安委員会からも補導の応援が入り、取り敢えず現場は落ち着いたとの事。
「此方に人員を割きすぎる訳にもいかんしな。先ずは一段落といったところか」
現場が落ち着けば、他の地区から派遣されていた委員達も持ち場に戻る事になるだろう。
取り敢えず、補導程度で終わりそうで何よりだと安心した様に息を吐き出した。
ご案内:「落第街大通り」にΛ1icθさんが現れました。
■Λ1icθ >
重々しい異形の向ける銃口の先
暗闇に包まれた裏路地に音もなく人影が舞い降りた。
それは衝撃を殺すというにはいささか無機物めいた
何処か機械的な動きで埃一つ立てる事なくその場に伏せる。
「んふ」
そこはちょうど安っぽいネオン灯の下の暗闇。
唐突に空から降ったようなそれは
まるで闇から沸きだすかのようにゆっくりと立ち上がりながら
耳を擽る様な甘い声でくすくすと笑い声を響かせた。
「……みぃつけたぁ」
場違いな服装に幼い顔立ち
これで不安げな表情でも浮かべていれば
何も知らない相手は十中八九迷い込んだ幼子と思うだろう。
けれど彼女の顔に浮かんでいるのは何処か満足げで無邪気な笑み。
「一応、“はじめまして。”だね」
ゆっくりと立ち上がり、スカートの端をつまんで一礼。
周囲は不気味なほど静まり返っている。
暫くは呼んでも叫んでも誰も帰ってこないであろうタイミングを見計らったようにそれは現れた。
最も彼女自身は其処まで深くは考えているわけではなく、無意識に影響を受けた人物の思考をトレースしただけなのだけれど。
■神代理央 > 結果として、異形が砲塔を動かしたのはだったのかも知れない。
彼女の気配を感じ取った訳でも無ければ、それを予知していた訳でも無い。しかし結果的に、戦闘準備を終えていた異形は主を守るべくその砲塔を軋ませる。
だが、その砲塔が火を噴く事は無い。
異形の創造主である少年は、その鉄火を振るう事は無いだろう。
理由の一つは、単純に歓楽街での戦闘を避けるため。スラム街と違い、此処は学園に寄って正式に許可を受けた地区。そこで不要な戦闘を行うのはなるべく避けたかった。
そしてもう一つの理由。それは、眼前に現れたかつての『狂気』に対して、冷静さを取り戻す数瞬の時間が必要だった為。
小さく息を吐き出して内側の感情を吐き出すと、己の心を強く縛り付け、彼女に視線を向けるだろう。
「…誰かと思えば、迷子の類では無さそうだな。折角の金曜の夜に、随分と可愛げの無い客が現れたものだ」
先程まで聞こえていた喧騒が耳に入らない。
全くもって場違いな、絵本の中から現れた様な服装の少女に対して、迷うこと無く腰の拳銃を引き抜いて銃口を向ける。
彼女の目的は不明だが、友好的な相手だとは流石に思えない。
■Λ1icθ >
此方を見て一呼吸をおいた”彼”の表情を見て
ソレはまるで愛おしい物を見るかのように微笑みを深くする。
異形の軋む音には少し眉を寄せるがそれもすぐに関心を失い
”彼”の瞳をじっと見つめる。
緋色の瞳を覗き込む様な琥珀色の目には様々な色の光が混ざっていた。
「んっと、この前はお姉ちゃんと一緒だったから、“挨拶”してなかったでしょ?
だから、はじめまして」
カーテシーの姿勢のまま、僅かに首を傾げながら微笑む。
向けられた複数の銃口にも眉一つ動かさないのは豪胆もしくはそれを問題視していないか。
声は依然聴いたそれよりも更に幼く聞こえるかもしれないが
いずれにせよ少なくとも武器を向けられた人間のそれではない。
「ありすはかわいいよ?
だってそう造られてるから」
銃口を向けられるよりもそちらの方が気に障ったようで
幾分か目を細めぷくりとほほを膨らませる。
スカートから手を放すと左手を自らの胸に当て
「ありすは”特別”だもん。
この島は綺麗なもの、沢山だけど
それでもありすは”特別“なの」
右手を誘うように目の前の”彼”に向かって差し出す。
まるで気軽な自己紹介をしているかのよう。
■神代理央 > 此方を覗き込む琥珀色の瞳に、敵意を感じる事は出来ない。
いや、敵意と悪意は別物であるし、そもそも世俗に塗れた大人達と眼前の少女とは根本的に違うモノなのだから、己の観察眼も何処まで通用しているか分かったものでは無いのだが。
「フン、律儀な事だ。態々挨拶する為に、こんな路地裏まで私を探しに来たとでも言うつもりか?」
銃を向けたまま、警戒心も露わに少女に言葉を返す。
だが、次いで少女から投げかけられた言葉には、僅かに表情を変えて怪訝そうな色を浮かべる事となる。
尤も、直ぐにその表情は尊大なものに取って変わるのだが。
「…特別、か。随分と自分の容姿に自信がある様だな。自意識過剰なのは構わないが、特別と言い切る程とは豪胆な事だ」
銃を下ろし、腰のホルスターに戻す。
そもそも、少女に対して過剰な警戒心を抱く事が、先ず己の理性を揺らがせていると気づいたのだ。
普段どおり、尊大で傲慢で、眼前の現実をあるがままに受け入れればそれで良い。
そう思い直した後、少女が差し出した手を一瞥すると迷うこと無くその手を握ろうとするだろう。
まるで道端で再会した知人に握手を求める様に。
■Λ1icθ >
「おとうさまは言っていたもの。
挨拶は大事だよって。」
ソレは差し出された手を握り、ついっと胸元に寄せる。
その体が軽いのか、はたまた滑る様に近づいたからか
その動きは全く抵抗を感じさせないほど軽やかなもの。
必然的に彼我の距離は社交ダンスを踊る可のような距離。
息の触れる距離に互いが近づき、潤んだような眼差しで瞳を見上げる。
「みため、だけじゃないよ?
ココロもカラダも特別だもの。」
その手を拒まぬのであれば
少女の胸に当てられた手に
鼓動と同時に小さな機械のような振動を感じるかもしれない。
同時にカチ、カチと時計のような小さな駆動音も耳に届くだろう。
細やかで小さい、けれど生を感じさせる鼓動とは対照的に
それは何処までも無機質な音を纏っている。
「だから、じしんかじょう、なんかじゃないよ?」
少し不服の欠片が混ざった、けれどそれをまた赦すような表情で
小さく首を傾げたそれは諭すようにゆっくりと言葉を口にした。
■神代理央 > 「…成る程。確かに、互いを知る最初の言葉はそこから始まるのだろうしな。その点に関しては、同意しておこう」
会話の内容自体は至極普遍的なもの。
『おとうさま』という単語が気にはなるが、そこを掘り下げる様な状況でも無い。
―と、思考を走らせていた頭脳は、此方に近づいてきた少女に俄に警鐘を鳴らす。
それはあの夜の得も知れぬ焦燥を理性が防ぐための防衛本能。
己の闘争心を、理性と力で相手を捩じ伏せる己の信念を、凶暴なまでの強欲さに変貌させたあの狂気に染まらぬ様にと。
「…造られた、というから色々と候補は考えていたが。まさか本当の人形宜しく、ぜんまい仕掛けで動いている訳ではあるまいな?」
少女の瞳を見下ろせば、俄に理性の鎖が歪む。その歪みは、少女の胸元に己の手が触れた事で一層大きくなるだろう。
それを抑え込む様に、掌から伝わる感触に意識を向ける。その駆動音と振動は、どうにか尊大な軽口を少女に投げかける程度には己の理性を取り戻す。
「それで?特注品のお人形さんは、一体何をしにこんな場所へ現れたんだ?目撃者を消しておくとか、記憶の改竄なんかが目的なら、精々抵抗させて貰う事になるが」
薄暗い路地裏で、互いの瞳に映る相手が見える程の距離にて相対する制服姿の少年と『アリス』
その様は、何も知らぬ者が見れば映画の撮影の様に見えたかも知れない。
だが、そうではない。眼前の少女に己の本性が汚染される様な漠然とした焦燥感を抱いたまま、唇を小さく歪めるだけの笑みを浮かべた。
■Λ1icθ >
「んっと、どいうこと?
ありすわかんない。
記憶が残ってたら、駄目なの?」
両手の指先を合わせ、困ったように首を傾げ試案に耽る。
数秒後はたと手を打つとやっと理解できたと喜ぶような表情で目を細め
無邪気に笑い声を響かせる。
「えっとね、ありすは気にしないよ?
お姉ちゃんがいっていたもの。
そんな事、必要ないんだって」
くすくすと笑いながら額を目前のカレの胸元へと当てる。
揺れる肩とさらさらと零れる金糸のような髪は
砂糖菓子の様に無意識に周囲に甘い香りをまき散らす。
「だって、誰が信じても、誰も信じなくても」
「――アリスには関係ないもの」
そうして見上げた表情は無邪気さと純粋な楽しみ
そして何処か艶やかさの入り混じった笑み。
「ねぇ、ここにいない誰か、なんて気にしないよ?
ワタシ、はココにいるよ」
酷く優し気な声と共にゆっくりと彼の頬へと手を伸ばす。
■神代理央 > 「…必要ない、という事は無いとは思うが」
ころころと表情を変える少女。その姿は、誰が見ても『人形の様に可愛らしい少女」そのもの。
だからこそ、あの夜以上に警戒心を強くする。全く敵意も見せず、いっそ無防備ですらある少女は、己の理性だけでは無く、本能を犯し、溶かし、変質させる狂気を孕む。
「…そうか。そうだな。お前は此処にいて、俺は此処にいる。丁度、甘い物が欲しかったところだ。お前が、俺が満足するほど甘ければ良いんだがな」
――ならば、ギリギリまでその狂気を受け入れて、少女と相対するまで。
例えどんなに自身の闘争心が変質しようとも、最後の矜持だけが己の本質を歪めさせなければ良い。
そう割り切ってしまえば、頬へと伸ばされる少女の手を拒む事などしない。
寧ろ、その身体をより引き寄せようと少女の腰に腕を回そうとするだろう。
■Λ1icθ >
「ううん、ひつようない」
ゆっくりと、けれどきっぱりと首を振る。
宣言通りソレにとって他などどうでもいい。
ソレはただ、愛するように造られている。
故に、必要なモノはそう多くはない。
「うん、ありすは……あまぁぃよ?」
腰を引き寄せられるに合わせ、
こちらも抱き寄せるようにもう片方の手を首元へと回し
……少しだけ背伸びをする。
薄暗い裏路地の中、僅かな灯に照らされた二つの影が数秒の間一つになるように。
■神代理央 > はっきりと断言した少女の言葉を、一応脳内に留めておく。
余りに情報が少ない。取り留めのない会話からも、少女のこと。そして、あの夜相対したもう一人の少女――己の同僚を文字通り『消した』彼女を――知る手掛かりを得なければならないのだから。
だが、そんな冷静な、というよりも打算的な思考はジリジリと消失しつつある。
理解出来ない程、狂気に染まった本能が少女を求めるのだ。
それは所有欲、征服欲、肉欲、嗜虐心、あらゆる欲望を溶かして煮詰めて、己の奥底に注ぎ込む様な感覚。
それでも、その欲望こそ危険なのだと訴える理性があるうちは、まだ大丈夫だと己に言い聞かせていた、が。
「…確かに甘い。甘いが、足りんな。俺は甘党なんだ。シュガーポットの砂糖は、全て喰い付くさなければ気が済まない。だから、寄越せ。全部」
鼻孔を擽る甘い香りが強くなり、少女の顔が近づいてきたところまでは覚えている。
数秒後、香りが離れていった後、己の口をついた言葉を咀嚼するのに時間がかかった。
その事に気づいた時、少女を見下ろす瞳には己への苛立ちが透けて見えるのだろう。
今、自分は眼前の少女に何を言ったのだ?―と。
■Λ1icθ >
「……は」
再び影が二つに分かたれた後、少し目を伏せ
ソレは重なっていた間止めていた息を吐き出す。
首に手をまわしたままゆっくり、ゆっくりと
その吐息の存在をカレに知らしめるように。
「……良いよ?」
そうして一つ答えると
紅潮し、潤んだ瞳でカレの瞳を無言で見上げる。
そうしてまた唇を重ねようとして……ふとその動きを止めた。
そのまま片方の人差し指を自分の、もう片方の人差し指をカレの唇へとそっと当て
「ざぁんねん、じかんぎれ、だね
これ以上は……今はおあずけ」
するりと腕の中から抜け出ると距離を取り
妖艶で満足げな笑みを浮かべる。
遠くから聞こえる複数の足音。
もうしばらくすればこの場所へとたどり着くだろう。
それはきっと、目前のカレにとっても都合の良い判断。
同僚に悟られる前に、コレを隠してしまわなければ
……先日の証拠を一切残すことが出来なかったという疑惑を再度浮き彫りにしてしまう。
けれどそれは甘い甘い菓子を
口に含んだ直後に奪うよう。
どれだけ望もうと、また望んでいないとしても
”今これ以上は手に入らない”という事実を
残酷に唇に残したまま、それはゆっくりと身を放す。
「……ふふ、また、ね」
代わりの物で代用するか、引き換えにソレを貪るか……
そんな択を知ってなお、それはゆっくりと後ずさり、
くるりと無防備に背を向け、闇の中へと紛れていこうと歩き始める。
そのどちらでも、ソレにとっては気に留めるようなことではない。
■神代理央 > 少女が吐き出した吐息が、頬を擽る。
その吐息を受け、己は息を荒げる事も吐き出す事もなく、静かに息を潜めている。
さながら、獲物を前にした獣の様に。息を殺し、身を伏せ、次の瞬間喰らい尽くそうと―
「…ああ、全く以て残念だよ。無粋な連中が来なければ、お前を全部喰らってやろうと思っていたのに」
自身と、少女の声だけが響いていた空間に、別の音が割り込んで来る。それはさながら、この空間を破壊する侵入者の様な足音。
だが、その音が自身に理性を呼び起こしてくれる。彼女の指が己の唇から離れれば、辛うじて言葉を吐き出す事は出来る。
だが、殆ど無意識に離れる少女に手を伸ばそうとして―腕を動かす寸前で、鋼の理性を以てその衝動を抑え込む。
獣に成り果てようとした己の本性に、苦々しげな表情を浮かべる事になるだろう。
「……次は、もう少し明るい場所で再会したいものだな。こんな場所では、落ち着いて話も出来ないだろう?」
暗がりに溶ける様に立ち去る彼女に投げかけた後、己の不甲斐なさに深い溜息を零す。
今この瞬間も、同僚に銃弾の雨を浴びせた後、再び彼女を捕らえてしまおうと訴える己の一部分もあるのだ。
そんなドロドロと煮詰まった感情を抱えたまま、少年は踵を返して少女に背を向け、若干ふらつく足取りで大通りへの歩みを進めるのだろう。
■Λ1icθ >
「……」
ソレは影の中に戻り、黒の中でゆらゆらと揺られながら眠っていた。
此処は暖かいけれどとても寒い。
この海のような場所で微睡みながらも思うのはカレの事。
彼は受け入れるだろうか。拒むだろうか。
そのいずれであれ、ソレにとっては些細な事。
一時的に解消こそ可能であれ、代用品など、あるはずはない。
だからこそ彼女らは求められ作り上げられた。
「んふ、ふふ」
それはただ造られたように振舞う。
造られた欲求を満たし、ただ感情の赴くままただ”愛し続ける。”
ソレは甘いお菓子として造られた。
貪る事をやめられないほど、
あるいは口に含むことを拒絶してしまうほど。
「あは、あはははは、あははははははは」
カレはいずれ気が付くだろう。
それを許容する事は、貪る事は闘争を否定する行為であると。
与えられた物に身も心も委ねてしまう自己否定であると。
けれど同時にそれに抗う事は、否定する事は、
人が”ヒトであること”を否定する行為だという事も。
それを失えば、逸脱すればどうなるかという事も。
それは多くの人のユメ。ただ愛されたいという根源たる欲求。
――ヒトの求めた、愛という病理はもう彼を蝕み始めている。
もうずっと前から彼に逃げ場など無かったのだ。
それこそ、彼が生まれるずっと前から。
何故なら”ソレ”は
「ワタシはアイなのでしょう?お父様」
デザインされた、”愛(欲望そのもの)”の形なのだから。
■神代理央 > ―どうやら、自分は随分と酷い顔をしていたらしい。
合流した風紀委員からその事を指摘され、促されるままに家まで車で送られる事になった。
「……アレは、一体何だ?」
ぼんやりと窓の外で流れる夜景を眺めながら、少女の事を思い出す。
所謂、肉欲めいた感情で彼女を求めているなら、まだ己の自制心の無さと精神の弱さを自己糾弾する事が出来る。
だが、そうでは無い。そんな即物的なモノでは無く、もっと根源めいた本能が彼女を奪い、犯し、貪り、そして手放したくないと訴えていた…様な気がする。
「精神汚染…魔術……いや、それにしては違和感が…」
皮肉な事に、少年は純粋な愛情を知らず育った。
決して愛されていなかった訳では無い。だが、周囲から与えられる愛情は、父親への媚と己の才能とに与えられたもの。
だからこそ、闘争する事そのものが少年にとって唯一信頼出来る感情であり、行為であった。闘争の末に自分が相手より上位であるならば、それは絶対の法則と自信となって敗北者を従える根拠になる。
だからこそ、少年は気が付かない。
ただ愛し、愛されるということがどれほど危険なものなのかを。己の拠り所である闘争心が、歪み、汚され、そして狂気と共に変質した時、己がどうなってしまうのかも。
理解し得ない病の正体に苦悶した少年を乗せた自動車は、ネオンの輝きを切り裂いて夜の歓楽街から消えさった。
ご案内:「落第街大通り」からΛ1icθさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。